報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「埼玉へ到着」

2019-07-31 21:13:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月20日09:44.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私と高橋、そしてリサを乗せた埼京線電車が北与野駅に到着した。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 さいたまスーパーアリーナが近いが、そこは本当の最寄り駅であるさいたま新都心駅に譲り、埼京線でも屈指の閑静な駅であり続ける。

 リサ:「駅に着いた。早速サイトーにLINEするー」
 愛原:「仲がいいね」
 高橋:「でも先生、こいつらの仲は【お察しください】」
 愛原:「まあまあ。現在のところ、丸く収まってるんだからいいじゃないか」
 高橋:「はあ……」

 階段を下りて、1つしか無い改札口を出ると、そこに斉藤絵恋さんがいた。

 斉藤絵恋:「さいたまへようこそようこそ、リサさーん……と、リサさんの叔父さんと、リサさんのお兄さん」
 愛原:「ああ、こんにちは。あれ?家で待ってるんじゃなかったの?」
 絵恋:「えへっw、待ち切れなくて来ちゃいました」
 愛原:「おやおや」
 高橋:「けっ……」
 愛原:「それにしても、新宿駅から乗る電車までは教えていなかったのに、よくこのタイミングだって分かったね?」
 絵恋:「リサさんの行動範囲は全部GPSで把握済みですから
 高橋:「おい、犯罪者!」
 絵恋:「何ですか、元受刑者さん?」
 高橋:「このクソガキ……!」
 愛原:「まあまあ。それより早く、斉藤さんの家にお邪魔しよう。絵恋さんのお父さんをお待たせしているだろう?」
 絵恋:「それもそうですね。では、どうぞこちらへ」

 絵恋さんは白を基調としたワンピースを着ている。
 駅の外に出ると、バッと日傘を差した。
 なるほど。
 これだけ見れば、どこかの富豪の御令嬢にはちゃんと見える。

 絵恋:「リサさーん、もしよろしかったらどうぞ入ってー
 リサ:「ん!」

 リサは素直に絵恋さんの隣に入った。

 高橋:「日傘で相合傘かよ、女同士で。気持ち悪ィレズビアンだなー、あぁ?」
 愛原:「高橋君。もし俺が日傘を持っていて、それを差していたらキミはどう思う?」
 高橋:「是非とも!地獄の底まで相合傘させて頂きます!」
 愛原:「つまり、オマエのセリフは大ブーメランってことだ。少し黙っとけ」
 高橋:「ははっ!でも、やっぱりレズって気持ち悪いですよね?」
 愛原:「だからそのセリフをゲイのお前が言うからおかしいと言ってるんだ!」

 LGBTがLGBTを笑うLGBT。

 絵恋:「リサさんは何で来たの?」
 リサ:「都営新宿線と埼京線」
 絵恋:「ごめんなさいね。本当は新庄に迎えに行かせたかったのに、御祖父様がお出かけに車を使っているものだから……」
 愛原:「絵恋さん、お祖父さんが御健在なんだ?」
 絵恋:「ええ。全日本製薬の名誉会長なんです」

 創価学会の池田大作氏みたいな肩書きだな。

[同日10:00.天候:晴 同地区 斉藤家]

 絵恋:「我が家へようこそようこそー!」

 北与野駅から北西方向に歩いて10分ほど。
 閑静な住宅街の中に斉藤家はある。
 周辺の家もそこそこ規模の大きい一軒家が建ち並んでいることから、さいたま市内でも高級住宅街に分類される地区なのだろうと思われる。
 実際、駅前には何軒かタワマンも建っているくらいだし。

 愛原:「地上3階建ての屋上付きか。立派な御宅だねぇ……」
 リサ:「地下にプールもある」
 絵恋:「リサさーん、良かったらプール一緒に入らなーい?」
 リサ:「いきなりで水着持って来てない」
 愛原:「梅雨寒とかもあるのに、学校ではプール開きしたのかい?」
 リサ:「学校のプール、生ぬるいから」
 愛原:「?」
 絵恋:「うちの学校のプール、温水なんです。だから、肌寒い日も入れます」
 愛原:「さすがは私立校。愚問だったかな」
 高橋:「先生のご質問に、愚問などありません」

 高橋は私にヨイショしてきた。
 ……今のはヨイショだったのか?

 メイド:「お帰りなさいませ、御嬢様。いらっしゃいませ、愛原様」
 愛原:「こんにちは。愛原です。10時の御約束で、斉藤社長と商談に伺いました」
 高橋:「先生、ここ、オフィスビルの受付じゃないですが?」
 愛原:「うるせーな、いいんだよ」
 高橋:「は、申し訳ありません」
 メイド:「お待ちしておりました。応接室へご案内させて頂きますので、どうぞこちらへ」
 絵恋:「リサさんは私の部屋で遊びましょ!愛原さん、いいでしょ?」
 愛原:「ああ、いいよ」

 元より、リサは絵恋さんの遊び相手として連れて来たものだ。
 斉藤社長も、それをお望みだ。

 高橋:「先生、あれは性根が腐っています。俺が1度叩き直して……」
 愛原:「その台詞、全国のレズビアンを敵に回すからな?」
 高橋:「大丈夫です。こっちには全国100万人ものゲイが味方に付いていますから」
 愛原:「100万人もいるのか……」

 私は正直げんなりした。
 応接室に通され、よく冷えたウーロン茶が出された。
 そして、そこへ私服姿の斉藤社長がやってきた。

 斉藤秀樹:「やあ、どうも。愛原さん。わざわざお越し頂きまして、ありがとうございます」
 愛原:「斉藤社長、お久しぶりです」
 秀樹:「業界で伺いましたよ?またもや、バイオハザードを解決に導いたそうですね?」
 愛原:「いえいえ。結局最後にはBSAAが介入したので、私達はただ単に探検しただけのようなものですよ」
 秀樹:「BSAAに対して道標を付けてあげたという功績は大きいものです」
 愛原:「そうですかね?」
 秀樹:「凡人にはできないことですよ」
 高橋:「それは俺も同感です。先生は凡人なんかじゃない」
 愛原:「おい、高橋。やめろよ」
 秀樹:「いや。なかなかお目が高いお弟子さんだ。ちゃんと弟子入りするべき師匠を見当てている」
 高橋:「ダテにネンショー(少年院)やショーケイ(少年刑務所)に出入りはしていませんよ」
 秀樹:「札付きの極悪少年を更生させた愛原さんの功績は、もっと称えられるべきです」
 高橋:「札付きの極悪少年……!」

 だが、高橋は言い返すことができなかった。
 正しくその通りだったからだろう。
 最後には自嘲気味に笑うしかなかった。

 愛原:「社長。早速ですが、商談の方を……」
 秀樹:「おお、そうでした。愛原さん方にお願いするお仕事はただ1つ。うちの娘に、夏の思い出を作ってあげてください」

 斉藤社長の仕事の依頼内容は、だいたい想像した通りであった。
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“私立探偵 愛原学” 「埼玉へ向かう」

2019-07-30 19:04:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月20日08:31.天候:曇 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事の依頼を受けに、斉藤社長の家に向かうこととなった。
 場所は埼玉県さいたま市。
 取りあえず最寄りの地下鉄駅から電車に乗り、JRの駅に向かうところだ。

〔まもなく1番線に、各駅停車、京王多摩センター行き電車が10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください。この電車は途中、岩本町で急行の通過待ちを致します〕

 高橋:「迎えを寄越さないとは、先生をナメてますね?」
 愛原:「そんなことは無いと思うけど。こちらは仕事を受けに行く方なんだから」
 リサ:「きっと、サイトーが話を付けてくれたんだと思う」
 愛原:「もしそうなら、尚更こちらから出向かなきゃあ」
 高橋:「はあ……」

 トンネルの向こうから強風と轟音を立てて、交通局の車両がやってきた。
 リサの黒いボブヘアとスカートがそれに靡く。

〔1番線の電車は、各駅停車、京王多摩センター行きです。きくかわ〜、菊川〜〕

 車両のドアだけでなく、ホームドアも開いて私達は電車に乗り込んだ。
 昨日のこの時間帯よりは空いているが、ドアの横に立つことになる。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 各駅停車しか停車しないこの駅はすぐに発車する。
 急行の通過待ちはしても、乗り換えの接続は無い。
 その為、この電車の乗客が急行に乗り換えたい場合は、急行電車の停車駅で降りることになる。
 この電車の場合、馬喰横山駅ということになる。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita(S11).Please change here for the Oedo line.〕

 愛原:「リサ、いたずらはやめなさい」
 リサ:「はーい」

 リサはドアの窓に向かって、力の解放と抑止を繰り返してみた。
 ドアの窓に、瞳の色が赤くボウッと光るリサの姿が映った。
 今は完全に抑止の状態で、瞳の色も元の黒いものである。
 もちろん、姿形も人間そのものだ。

 高橋:「今度フザけたマネしやがったら、マグナム撃ち込む」
 愛原:「オマエは関係無いだろ」

 どうしても関係したい男、高橋。

[同日08:55.天候:晴 東京都新宿区西新宿 京王(新線)新宿駅→JR新宿駅]

〔「まもなく新宿、新宿です。京王線新線ホーム4番線に到着致します。お出口は、右側です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、よくお確かめください。この電車は京王線直通、区間急行、京王多摩センター行きです。各駅停車で参りましたが、京王線内は区間急行となります。引き続き京王線ご利用のお客様は、停車駅にご注意ください。本日も都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 乗換駅は新宿にした。
 これだと多少遠回りにはなるが、乗り換えは1回で済む。
 待ち合わせ時間が少し遅ければ、都営バスで楽して東京駅から乗ることもできたのだが、今回は致し方無い。
 今は座席に座っている。
 さすがに都心に入ってから、乗客が一瞬少なくなった。
 そしてまた新宿に向かう乗客で賑わっている。

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。4番線の電車は8時57分発、区間急行、京王多摩センター行きです。停車駅は笹塚までの各駅と……」〕

 ここで降りる乗客は多い。
 私達も一緒に降りた。

 高橋:「ここでバイオハザードが起きたりしたら大変でしょうね」
 愛原:「そうだな」

 他人事ではない。
 日本では霧生市で起こり、アメリカではラクーン市やトールオークス市で起きた。
 後者はさすがアメリカと言うべきで、滅菌作戦と称して核ミサイルを撃ち込んで強制的に収束させたという。
 収束というか、終息というか……。
 これらはほんの人口10万人前後の地方都市であったが、5年くらい前には中国の大都市でもバイオハザードが発生した。
 テレビで見る限り、香港によく似た町だったのだが……。

 愛原:「抑止力として、リサみたいなコを配置したいんだろう」

 核の抑止力として核を。
 バイオテロの抑止力として、BOWか。
 日本は内外の圧力で核兵器を持てないので、代わりにBOWを持ちたいのかもしれない。
 リサのように普段は人間として生活し、イザとなったら持てる力を解放して……って感じか。
 ……何だか“AKIRA”みたいだな。

 高橋:「BSAAじゃダメなんですかね?」
 愛原:「あいにくとBSAAはバイオテロが起こった際の鎮圧部隊で、抑止力としての存在ではないから」
 高橋:「それで俺達よりも行動が遅いんですね?」
 愛原:「いや、俺達が早過ぎるだけだと思う」

 私達は地上に上がると、JR新宿駅に移動した。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の電車は、9時7分発、各駅停車、大宮行きです。次は、池袋に止まります〕

 愛原:「埼京線は後ろの車両の方が空いてる」
 高橋:「さすが先生です」

 だから平日は女性専用車両になったりするのだろうな。

〔まもなく4番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色いブロックまでお下がりください。次は、池袋に止まります〕

 私達が乗る電車は当駅始発ではない。
 新木場からやってくる電車だ。
 それでも車両はモスグリーンが目を引くJRの車両だった。

〔しんじゅく〜、新宿〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、池袋に止まります〕

 車内は賑わっていたが、この駅でゾロゾロと降りて来る。
 さすがは都内でも屈指のターミナル駅だ。
 私達は最後尾の車両に乗り込み、モスグリーンのモケットが目を引く座席に腰掛けた。

〔この電車は埼京線、各駅停車、大宮行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Omiya.〕
〔「9時7分発、埼京線各駅停車の大宮行きです。途中駅での快速の待ち合わせはございません。発車まで2分ほどお待ちください」〕

 リサ:「サイトーにLine送ったらすぐ来る」
 愛原:「おー、そうか。それは良かったな」
 リサ:「菊川駅と新宿、北与野駅でLineすることになってる」
 愛原:「定時連絡か。リサもしっかり者だなぁ……」
 リサ:「サイトーがそうしろって」
 高橋:「プッw」
 愛原:「……親父さんの影響かな?」

 恐らく斉藤さんとしては、常にリサとLineしたいのだろう。
 だが、それが正に中高生が今問題になっているスマホ依存症の1つの原因となっている為、保護者の対策が求められている。
 斉藤さんにあっては、父親から『定時連絡のみ』と厳命されたのかもしれない。
 リサの方はまだ受動側のせいか、そこまでスマホをイジっているわけではない。
 ぶっちゃけこれ、政府エージェント側からリサへの監視ツールの1つであったりもする。
 ただのスマホではない、ということだ。
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“私立探偵 愛原学” 「埼玉へ向かう前日」

2019-07-30 15:11:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月19日17:30.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は私の体に関する検査結果を聞きに、都心まで行って来た。
 私がゾンビウィルスは元より、最新のカビを利用した特異菌にすら感染しないことに驚いた善場氏達が是非とも本格的な検査をしたいということだった。
 で、今は帰りのタクシーに乗っている。
 もちろん、料金は向こう持ち。
 渡されたタクシーチケットを手にしている。
 向こうさんからの協力依頼なので、ここまでしてくれたようだ。
 都心の事務所だと、向こうさんの車で送迎してくれるのだが、それ以外だとタクシーになるようだ。

 愛原:「あ、すいません。そこのビルの前で止めてください」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーが私の事務所が入居しているビルの前で止まる。
 外は雨。
 ワイパーが規則正しい動きで、フロントガラスの雨粒を拭き取っている。

 愛原:「タクシーチケットで払います」

 タクシーチケットへの記入は乗客本人が行うのが基本。
 これは後で運転手が料金を誤魔化したりしないようにする為なんだそうだ。
 結局、これも料金が後払いの為に起こる問題である。

 運転手:「ありがとうございます。こちら、領収証です」
 愛原:「はい、どうも」

 メーターを確認して料金を書き込んだ後は、それを運転手に渡し、代わりに領収証を受け取る。
 そうすることで、互いの不正を防止するのである。
 私はかつて会社勤めをしていたことがあるが、その当時、バブル時代を体験していた上司から聞いた話だ。
 何でもタクシーチケットは使いたい放題で、よく冗談交じりで運転手に、『チップとしてゼロ1個書き足しておこうか?』なんて言っていたそうである。
 さすがに、実際その話に乗った運転手は皆無だったらしいが。
 でもやろうと思えばできたことだから、もしかしたら当時は問題になったのかもしれないな。
 今はメーターの性能も良くなっているし、車内監視カメラもあるから、尚更そういう不正もしにくくなったことだろう。
 私はそんなことを思い出しながら、高橋と一緒にタクシーを降りた。

 高橋:「先生、濡れてしまいます!早くビルの中に!」
 愛原:「おーう!」

 私達はタクシーを降りると、急いでビルの中に入った。

 愛原:「まさかこんなに降るなんてな!」
 高橋:「梅雨はいつになったら明けるんでしょうね?」
 愛原:「まさか、このまま明けなかったりしてな?」
 高橋:「ええっ!?」

〔上に参ります〕

 下りて来たエレベーターに乗り込む。

〔ドアが閉まります〕

 高橋:「それにしても、こんなに時間が掛かるなんて……」
 愛原:「まあ、しょうがない。終業時間までに帰れて良かったよ」

 事務所に到着すると、高野君が1人で留守番をしていた。

 高野:「先生、お帰りなさい」
 愛原:「ああ、ただいま。何かあった?」
 高野:「いえ。今日も依頼は無しです」
 愛原:「……だろうな」
 高野:「あ、でも私田(ワタシダ)さんから電話がありましたよ。もしかしたら、私田さんから仕事の紹介があるかもですね」
 愛原:「なるほど」

 高野君が言伝を聞いていないのは、恐らくボスが高野君にイジられるのを拒否したからだろう。

 高野:「検査の結果はどうでした?何か、とんでもない抗体が見つかったとか?」
 愛原:「だとしたら、俺は記者会見でもしなきゃいけないだろうな。それが見つからなかったんだよ」
 高野:「ええっ?!」
 愛原:「Tウィルスの抗体は見つかった。ただ、あれはそんなに珍しいことじゃない」

 人間を生きたままゾンビ化させるTウィルスはとても恐ろしいウィルスのように見える。
 しかしとても不完全なもので、元々は筋ジストロフィー症の特効薬として開発されていたものの失敗作なんだそうだ。
 一言で言えば代謝機能が暴走するということだな。
 で、これの抗体を持つ人間は10人に1人いるという。
 つまり、なんてことはない。
 霧生市でゾンビに噛まれても感染しなかったのは、私も高橋も高野君も、たまたま10人に1人の人間だったというわけだ。
 大山寺で高橋が一時ダウンしたのも、あれはウィルスに感染したわけではなかったことが後に判明した。

 高野:「それ以外は?」
 愛原:「だから見つからなかったんだよ。高橋は色々と感染していたから、今の新しい特異菌とやらに抗体があるのも頷けるけどさ。俺は無いんだよ」
 高野:「感染はしたんですよね?でも先生は発症しなかった。だから、抗体を最初からお持ちなんじゃないかという検査だったわけですよね?」
 愛原:「そう。だけど無いってさ」
 高野:「本当はお持ちなんですけど、『ある』ということがバレると面倒臭い組織がある為に、あえて『ない』ということにしたんですかね?」
 愛原:「あ、なるほど。そういうことも考えられるな」

 未だにバイオテロで飯を食おうとする組織は存在する。
 でなければ、今頃BSAAは解散しているだろうし、『過去の罪の清算』を目的に今では民間軍事会社として再開したアンブレラも存在しないだろう。
 と、そこへ電話が掛かって来た。

 愛原:「きっとボスからだな。俺が出る」

 私は電話に出た。

 愛原:「はい、愛原学探偵事務所です」
 ボス:「私だ」
 愛原:「あ、やっぱりボスでしたか」
 ボス:「愛原君、仕事の紹介だ。クライアントは全日本製薬(株)代表取締役社長の斉藤秀樹氏だ」
 愛原:「斉藤社長ですか。了解しました。お引き受けしましょう」
 ボス:「それではこれから依頼書をFAXするので、よく確認するように」
 愛原:「ボス」
 ボス:「何かね?」
 愛原:「絶対、探偵業ってこんな仕事の依頼の受け方しないですよね?」
 ボス:「その話は前にもしたはずだが?フィクションだからいいのだ

 私は電話を切った。
 程なくしてFAXが受信される。
 依頼人はやはり斉藤絵恋さんの父親の斉藤秀樹社長。
 明日の10時に埼玉の家まで来て欲しいという。
 特記事項にリサも来ていいみたいなことが書いてあるから、明らかに娘さんの遊び相手もキボンって感じだな。
 斉藤社長も金払いの良い方だから、当然ながら私は受けることにした。
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“私立探偵 愛原学” 「夏休みの計画」

2019-07-27 20:58:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月16日17:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨日は徹夜での仕事であったが、何とか寝落ちせずに済んだ。

 愛原:「おうちの人が心配してるといけないから、そろそろ帰りなさい」
 斉藤:「はーい」

 私は事務所に遊びに来ていたリサの親友、斉藤絵恋さんに声を掛けた。
 苦手な数学の宿題をリサとやりに来ていた。

 愛原:「冬だともう真っ暗な時間だよ」
 高野:「そうだね。それに、もうすぐ雨が降りそうだから、雨が降る前に帰った方がいいよ」
 斉藤:「分かりました」

 斉藤さんはテーブルの上に広げたノートやら教科書やらを片付け始めた。

 斉藤:「ここは静かで勉強するには最適な環境ですね」
 愛原:「そりゃ事務所だからな。ゲーセン並みに賑やかなわけないだろう」
 高野:「斉藤さんのおうちは静かじゃないの?」
 斉藤:「お目付け役がうるさくて……」
 愛原:「ああ、そういうことか」

 斉藤さんの実家は、さいたま市でも屈指の高級住宅街にある。
 そこから東京中央学園に通う為、この近くのマンションを借り、親元を離れて住んでいる。
 とはいえ、そこは中学生。
 1人暮らしをしているわけではなく、斉藤家に雇用されているメイドさんが1人、世話役として派遣されているらしい。
 それが斉藤さんには、お目付け役のように口うるさいメイドが送られたかのように思っているようだ。
 ま、メイドさんを雇えるような金持ちの家で、尚且つ子供の教育に熱心な所はそうだろう。
 “アルプスの少女ハイジ”のクララだって、口うるさいハウスキーパー(原作ではそれよりも更に地位の高いバトラー)に辟易していただろう。
 あんな感じを私はイメージした。
 ここでは斉藤さんがクララで、リサがハイジなのか。
 いや、別に斉藤さんは足が不自由どころか空手の有段者だし、リサは【お察しください】。

 斉藤:「愛原先生、8月の予定はどうなっていますか?」
 愛原:「8月?いや、別に決めてないよ。特に、仕事の予定が入っているわけでもないし」
 斉藤:「前みたいに、またリサさんと一緒に旅行に行ってもいいですか?」
 高野:「ああ、さっきそういう話をしていたのね」
 愛原:「銚子に行った時みたいにか。あれは突然、バイオハザード絡みの仕事が……」
 高野:「先生、シッ!」
 愛原:「おっと!」

 いっけね!
 斉藤社長には内緒にしなくてもいいが、ここにいる娘さんには内緒にしておかなくちゃいけないんだったっけ。
 だから、リサの正体も彼女にバレてはいけない。
 だから今、リサは完全に人間の姿に化けている。
 いや、悪のアンブレラに体を改造される前はこれが正体だったのだが……。

 斉藤:「何ですか?」
 愛原:「いや、何でも無いんだ。分かった。行っといで。いつがいいかはリサの希望でいいから」
 リサ:「愛原先生、そうじゃないの」
 愛原:「ん?」
 斉藤:「うちは両親が忙しくて、旅行に行くお金はあっても時間が取れないんです。だから……」

 ああ、そういうことか。
 つまり、銚子の時みたいに、また私達に連れて行ってもらいたいということか。
 しかし、逆にこちらは旅行に行く時間はあっても、お金が【お察しください】。

 愛原:「そうは言っても、この貧乏事務所じゃ予算が……」
 斉藤:「それなら大丈夫です!父に頼んで出してもらいますから!」
 愛原:「いや、そりゃ悪いよ。何だか俺達が斉藤社長にタカってるみたいだ」
 斉藤:「大丈夫です!私に任せてください!」
 高野:「何かいい方法でもあるの?」
 斉藤:「はい!」

 と、そこへ、黒いスーツに身を包んだ初老の男がやってきた。
 斉藤家お抱え運転手の新庄氏だ。

 新庄:「御嬢様、そろそろ御自宅へお帰りになる時間です」
 斉藤:「ああ、分かったわ」

 そうか。
 斉藤さんは単身赴任のサラリーマンのように、金帰月来の生活をしている。
 つまり金曜日に学校が終わったら実家へ帰り、月曜日の朝にそこから登校するというものだ。
 もっとも、最近はそういう法則も崩れて来ているという。
 実際、今日は訳あって東京のマンションではなく、埼玉の実家へ帰らなくてはならないという。

 新庄:「今日は大奥様の誕生日でございます。お早くお帰りを」
 斉藤:「分かってるって。それじゃ、あとは私に任せてください」
 愛原:「あ、うん……」

 確か斉藤さんにはお祖母さんがいるが、介護施設に入所しているとのことだった。
 老い先短い老婆の、もしかしたら最後になるかもしれない誕生日を家族水入らずで過ごすのは当然だ。

 リサ:「サイトー、また明日」
 斉藤:「リサさんも、今度は私の家に遊びに来てね」
 リサ:「分かった。今度お邪魔する」

 リサはギュッと斉藤さんの両手を握った。

 斉藤:「も、萌えぇぇぇぇええぇぇえっ!」
 新庄:「御嬢様、悶えておられるヒマはございません。お急ぎを」

 見た目は運転手だけでなく、執事も勤まりそうな新庄氏は如何なる時も冷静。
 斉藤さんは事務所のビル裏手の駐車場に止められていたロールスロイス……に、よく似た光岡自動車のガリューに乗り込んで行った。

 愛原:「一体、斉藤さんはどうするつもりだろう?」
 リサ:「多分、サイトーのお父さんに依頼してもらうんだと思う。サイトーのお父さんが愛原先生に、『娘を代わりに旅行に連れて行ってくれ』って頼むように……」
 愛原:「そっちか!」
 高野:「それ、探偵の仕事ですか?」
 愛原:「しかし、うちの事務所は弱小だから受けられる仕事は何でも受けないと……」
 高野:「8月までまだ日がありますから、マサとも相談した方がいいですね」
 愛原:「高野君はどう思う?」
 高野:「私は先生にお任せしますわ」
 愛原:「ちぇっ……」

 因みに高橋は夕飯の支度の為に先に帰っている。

 リサ:「愛原先生、高橋兄ちゃんからメッセージ。『夕食が出来ました』だって」
 愛原:「ああ、そうか。まあ、終業時間になったから帰るから、それまで待てって返信しといて」
 リサ:「承知」

 旅行に連れて行くのはいいんだけど、また銚子の時みたいに変な仕事やらされたりしてなぁ……?
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“私立探偵 愛原学” 「夏休み前」

2019-07-26 19:40:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月16日15:30.天候:雨 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 しかし、こう連日雨続きで気分も憂鬱になりそうだ。

 愛原:「善場さん達、やっと帰ったな」
 高橋:「役人共はしつこいですねぇ……」
 愛原:「バイオハザード絡みとなると、しょうがないさ。ましてや俺達は手下のモールデッド達は倒しても、肝心のボスを逃がしてしまったんだからさ」
 高橋:「そんなのBSAAの仕事でしょう?」
 愛原:「か、もしくは新生アンブレラかな?」
 高橋:「霧生市のバイオハザードを引き起こしたのも新生アンブレラですよ?何だか信じられませんねぇ……」
 愛原:「おいおい、別の『新生』だぞ?霧生市にバイオハザードを起こしたのは、『アンブレラ・コーポレーション・ジャパン』だ。それに対してBSAAに協力しているのは、『民間軍事会社アンブレラ』なんだよ」

 前者はバイオハザードの懲りない面々が運営していたが、後者は懺悔団体である。
 つまり、悪の製薬会社アンブレラの悪事を反省し、自らばら撒いた種を回収するのが目的で設立されたという。
 もちろん、いくら口では反省懺悔したと言っているとはいえ、そこはアンブレラのOB達。
 BSAAの中には、懐疑的な者もいるという。
 いくら口では「正義に目覚めた」からと言って、安易に宗門に入れるとトンデモない事態を招き起こす“あっつぁブログ”の面々みたいだよ。

 高橋:「ですけどねぇ……」
 愛原:「まあ、気持ちは分かる。しかし今後、俺達はまたバイオハザード絡みの仕事を受ける日が来るだろう。それはしょうがない」
 高橋:「それはいいですけど、あのアンブレラに協力するのは嫌ですねぇ」
 愛原:「だからそれはBSAAの仕事であって、俺達の仕事じゃないさ」

 何しろ霧生市のバイオハザードを生き抜き、それも上手く避難したのではなく、ゾンビなどのクリーチャーを倒しつつ、更にリサ・トレヴァーという名のBOW(バイオ・オーガニック・ウェポン)を手懐けた探偵なんて世界中探しても私だけということから、バイオハザード絡みの仕事を引き受けることが多くなってしまった。

 高橋:「俺は先生に付いて行きます。地獄までも」
 愛原:「勝手に俺を地獄界行きに認定するな」

 え?正法帰伏?何それ?美味しいの?

 高野:「あら?リサちゃんが帰って来たみたいですよ?」
 高橋:「あいつはまた家に帰らないで、事務所を何だと思ってるんだ!」
 愛原:「俺の個人事務所なんだから、似たようなものだよ」

 しかもリサ1人だけではなかった。

 リサ:「ただいま」
 斉藤絵恋:「お邪魔しまーす」

 リサの唯一の親友、斉藤絵恋さんも一緒である。
 リサにとっては『いずれ食べる獲物』認定であり、斉藤さんにとっては『(色々な意味で)食べられちゃいたい人』なんだそうである。
 まあ、その、何だ。
 そろそろこの2人、危ない関係になりつつあるということだ。

 高野:「いらっしゃい。ちょうど応接室が空いたところよ」
 斉藤:「はい!ありがとうございます!」
 高橋:「アネゴ、さらっとクライアントでもねぇこいつらを応接室に通すなよ」
 高野:「いいじゃない。その方が埃が溜まらなくて済むわ」
 愛原:「ほんと、すいません!」
 高野:「給湯室の冷蔵庫にジュースがあるからね」
 リサ:「うん」
 斉藤:「ありがとうございます!一緒に宿題やらせてもらいまーす!」
 愛原:「ああ、頑張って。因みに、因みにだよ?テストとかは無いの?」
 リサ:「期末テストならもう終わった。私が学年3位。サイトーは30位」
 斉藤:「うう……ごめんなさい。次はもっと頑張りまーす……」(´;ω;`)
 愛原:「いや、ちょっと待て。東京中央学園墨田中学校は、一学年数百人はいるだろ?その中で30位って凄いと思うのに、リサは3位だ!?」
 高橋:「テメ、コラ!カンニングしただろ!?先生!ここは1つ、探偵としてリサのカンニング暴きを!!」
 愛原:「高橋。ちょっと厳しいこと言わせてもらうが、いいか?」
 高橋:「な、何でしょう?」
 愛原:「カンニングすらできずに10代の大半を少年院と少年刑務所で過ごしたヤツが、ちゃんと学校生活送れてるコのカンニングを非難する権利は無いからな?」
 高橋:「!!! も、申し訳ありませんでしたーっ!!」orz
 高野:「2人とも、なにリサちゃんがカンニングした前提で話を進めてるのよ?」
 リサ:「かんにんぐ?」
 高野:「何でも無いのよ。リサちゃん、頭いいものね」
 斉藤:「そうなんですよ!私なんか学習塾に通ってても、30位を超えられないんです」
 高野:「一学年数百人もいる中で30位って凄いと思うけどね。苦手な教科があって、それが足を引っ張っちゃってるのかな?」
 斉藤:「うう……実はそうなんですぅ……。ちょっと数学が……」
 高野:「あー、分かる分かる」
 斉藤:「今回も数学の宿題が多く出て、リサさんに教えてもらおうと思いましてぇ……」
 高野:「いいよ。そこの応接室使って。あ、それともそっちの談話コーナーの方がいいかな?」
 リサ:「応接室だとテーブルが低いから、ちょっと前屈みになって勉強しにくいかも……」
 高野:「それもそうね。それじゃ、そっちの給湯室の方の談話コーナーを使うといいよ」
 リサ:「ありがとう。サイトー、行こ」
 斉藤:「うん」

 リサと斉藤さんは給湯室に隣接する談話コーナーに向かった。
 そこにはダイニングセットを利用したテーブルと椅子がある。
 で、私の方は……。

 愛原:「いいか?俺が1番腹が立つのは、『昔、ちょいワルでした〜』とか言ってるヤツだ。つまり、それを武勇伝にしてるヤツだな。武勇伝にするのは勝手だと思うだろうが、その武勇伝の被害者達にちゃんと謝罪してから言ってるのかと言いたい。特に、『小っちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれた』ヤツが武勇伝を語ることについては……おい、聞いてるのか!」
 高橋:「はい、サーセン……あ、いや、すいません」

 私の高橋に対する説教は小一時間ほど続いた。

 愛原:「不良どものせいで真面目に学校生活を送っているのが迷惑してるんだ!ちゃんと謝罪するべきだ!武勇伝を自慢するんだったら、先に謝罪しろ!」
 高橋:「は、はい。前向きに善処します。はい。可及的速やかに対応します。はい」
コメント (4)
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