[8月23日15:15.天候:曇 宮城県大崎市鳴子温泉 鳴子中央ホテル(架空のホテル)]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
鳴子温泉駅に到着した私達は駅前の足湯を堪能した後、宿泊先のホテルへ向かった。
ホテルは温泉街を抜けた所に位置しているが、駅から歩ける所でもある。
山の斜面に沿うようにして建っており、階層的にはそんなに高くないホテルであるが、客室からの眺めは期待できそうだ。
しかし、その為にはキッツイ坂を登らなくてはならない。
これ、冬だと雪が積もったら車で登るのは大変そうだ。
JC達はスイスイと坂を登って行く。
高野:「ほら、先生。頑張って下さいな」
高野君が私を年寄り扱いしてきやがるが、しかしマジでキツい。
高橋:「先生、頑張ってください」
高橋が私の背中を本当に押す。
だが、おかげで楽に登れた。
歳は取りたくないものだな。
え?私の歳?まあ、アラフォーとだけ答えておく。
従業員:「いらっしゃいませ。御予約の方ですか?」
エントランスの車寄せまで行くと、黒スーツ姿のホテルマンが出迎えてくれた。
愛原:「は、はひ……!と、と、東京から来た……あ、愛原と申し……ひぃ、ひぃ……!」
高野:「先生、無理なさらないで」
高野君は私を制すると、ホテルマンに向き直った。
高野:「株式会社大日本製薬代表取締役社長、斉藤秀樹様の御紹介で参りました愛原学探偵事務所の者です」
従業員:「愛原様でございますね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
ホテルマンが恭しく私達をロビーへ通す。
従業員:「急坂の登攀、お疲れ様でございます」
愛原:「な、何のそのこれしき……!はははは……はーあ……!」
高野:「先生、お疲れのところ申し訳ありませんが、先生が代表者なのですから、チェックインの手続きをお願いします」
愛原:「わ、分かってるとも!キミ達はここで待っていてくれ!」
高橋:「は、はい」
斉藤:「きれいなホテルねー」
リサ:「うん。研究所では絶対に無い光景」
斉藤:「け、研究所?ま、まあ、お父さんの会社の研究所には無いねぇ……」
当たり前である。
私はフロントに行くと、斉藤社長がくれた紹介状を提出した。
そのおかげで私の財布からお金が出て行くことは無かった。
フロント係:「それではお部屋が最上階の7階の701号室と702号室をお取りしてございます。あちらのエレベーターで、7階へどうぞ」
愛原:「よろしく」
最上階か。
こういうホテルの最上階にはスイートルームなんかあったりするものだ。
大抵大きなホテルにはそういった部屋がいくつかあるものだが、このホテルは鳴子温泉の中でも中規模程度のもの。
恐らくそれは一部屋しか無いだろう。
二部屋用意されているということは、恐らくそれよりは下位クラスの部屋だと思われる。
〔上に参ります〕
私達はルームキーを手にエレベーターに乗り込んだ。
その中には館内の案内図が掲示されている。
屋上は展望台になっているらしい。
大浴場は下階にあるようだが、元々が高台に位置しているホテルなので、あえて最上階に大浴場を設ける必要は無かったのだろう。
〔7階です。ドアが開きます〕
エレベーターを降りると、部屋番号的には角部屋になるので、そこまで向かった。
愛原:「俺と高橋は701号室に入るから、高野君達は702号室に入ってくれ」
高野:「分かりました」
リサ:「同じ部屋じゃないの?」
愛原:「あいにく男女別にしないといけないんだ」
リサ:「後で遊びに行ってもいい?」
愛原:「いいよ」
高橋:「ええっ!?」
愛原:「別にいいだろ。どうせさっさと着替えて、温泉に入りに行くんだから」
高橋:「まあ、それもそうですけど……」
部屋に入ると、中は思ったほど高級感があるわけではなかった。
ただ、和洋室ということもあって、2人で使うには広い部屋だ。
セミダブルベッドが2つ置いてあり、和室も10畳くらいの広さがあった。
洋室部分もまた同じくらいあるので、全部で20畳といったところか。
8人くらいは泊まれそうな部屋だな。
ベッドに2人寝て、和室部分に布団が6つは敷けそうだからだ。
愛原:「何か広過ぎて落ち着かないな」
高橋:「泊まり掛けの時はいつも東横インのツインの部屋だから、尚更そうですね」
愛原:「悪かったな、狭い部屋しか泊まれなくて」
高橋:「さ、サーセン!」
その時、ピンポーン♪とインターホンが鳴った。
愛原:「はーい」
私が出ると、着物姿の女将がいた。
女将:「失礼致します。御挨拶の方、よろしいでしょうか?」
愛原:「あ、はい。どうぞどうぞ」
私がドアを開けると、女将が楚々と入って来た。
女将:「本日は当、鳴子中央ホテルをご利用頂きまして、ありがとうございます。従業員一同、心より歓迎させて頂きます」
愛原:「あ、こりゃどうも」
女将:「あ、どうぞ。お掛けになってください。今、お茶お入れしますね」
愛原:「ほんと」
私と高橋は和室にある座椅子に向かい合わせに座った。
女将:「いかがですか、お部屋の方は?」
愛原:「いや、思ったより広いね。2人で使うのが勿体無いくらいだよ」
女将:「いいえ。どうぞ、お寛ぎになってください。窓からの眺めも凄くいいんですよ?」
愛原:「あ、やっぱりそうなんだ!ちょっと見てみようかな」
私は席を立つと、窓のカーテンを開けた。
女将:「裏山が一望できるんです」
愛原:「いや、確かに大自然を堪能って感じだけど、逆に山しか見えないじゃん!?温泉街とか見えないの?」
女将:「あ、街は反対側の方になってしまうんですね」
愛原:「マジかよ……」
高橋:「クソみてーな部屋だな……」
女将:「今日はどちらからお見えになられたんですか?」
愛原:「うん、東京!」
女将:「東京ですか。こんな田舎の宿にお越し頂いて、本当にありがとうございます」
愛原:「いやいや」
女将:「こちらは何かでお調べになったんですか?」
愛原:「いや、ちょっと仕事関係のね、依頼人さんの紹介でね、泊まらせてもらうことになったの」
女将:「そうなんですか。どうぞ、粗茶でございますが……」
愛原:「あ、いやいや、どうも。この辺さ、温泉ってどんな感じなの?」
女将:「あ、結構色々な種類がございますよ?」
愛原:「へえ!」
女将:「当館のお風呂は白く濁ってるんですよ」
愛原:「ああ!濁り湯ってヤツか!」
女将:「そうですね。で、もうとっくにお気づきだと思いますが、硫黄の臭いがしますね」
高橋:「異様な臭い!?」
愛原:「硫黄の臭いっつってんだろ!」
女将:「お肌もツルツルになるということで、よく若い女性の方なんかも多くお泊りになって頂いて……」
愛原:「ああ、隣の部屋?俺の連れなんだけどね、そういう話を聞いたら喜んで入るかもね」
女将:「ところで、御夕食の方は如何致しましょうか?」
愛原:「ああ、夕飯?夕飯、何時から?」
女将:「一応、夕方6時からとなっておりますが……」
愛原:「ああ、ベタな法則だな」
女将:「大人数のお客様ですと宴会場を御用意させて頂くんですけども、少人数のお客様には当館内のレストランのお席を御用意させて頂く場合が多いんですよ」
愛原:「これまたベタな法則だな。いいよ、レストランで」
女将:「かしこまりました。それでは1階の奥に和食レストランがございますので、そちらで御用意させて頂きますね」
愛原:「ああ、そういえばロビーの向こうに看板出てたな……」
高橋:「オバちゃん、大浴場はどこだ?」
女将:「2階にございますよ」
高橋:「先生、2階ですって」
愛原:「そうか。じゃあ、早速浴衣に着替えようかな」
女将:「どうぞどうぞ。そちらのクロゼットに浴衣が入ってございますので……」
愛原:「あ、ここね。やっぱこういう所来たらさ、着替えてナンボだよな」
女将:「そうですね。どうぞ、お寛ぎになってください。あ、それでは私はお隣の部屋へ御挨拶に行かせて頂きますので、何かありましたらそちらの内線電話でフロントにお掛けください」
愛原:「あ、その電話ね。了解」
女将:「それでは、失礼致します」
私達は女将が退室した後、浴衣に着替えた。
愛原:「まあ、普通なホテルって感じだな。観光地化した温泉街にあるホテルって感じ」
高橋:「そうですね」
私達は浴衣に着替えると、同じくクロゼットの中にあったフェイスタオルを手に大浴場へ向かった。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
鳴子温泉駅に到着した私達は駅前の足湯を堪能した後、宿泊先のホテルへ向かった。
ホテルは温泉街を抜けた所に位置しているが、駅から歩ける所でもある。
山の斜面に沿うようにして建っており、階層的にはそんなに高くないホテルであるが、客室からの眺めは期待できそうだ。
しかし、その為にはキッツイ坂を登らなくてはならない。
これ、冬だと雪が積もったら車で登るのは大変そうだ。
JC達はスイスイと坂を登って行く。
高野:「ほら、先生。頑張って下さいな」
高野君が私を年寄り扱いしてきやがるが、しかしマジでキツい。
高橋:「先生、頑張ってください」
高橋が私の背中を本当に押す。
だが、おかげで楽に登れた。
歳は取りたくないものだな。
え?私の歳?まあ、アラフォーとだけ答えておく。
従業員:「いらっしゃいませ。御予約の方ですか?」
エントランスの車寄せまで行くと、黒スーツ姿のホテルマンが出迎えてくれた。
愛原:「は、はひ……!と、と、東京から来た……あ、愛原と申し……ひぃ、ひぃ……!」
高野:「先生、無理なさらないで」
高野君は私を制すると、ホテルマンに向き直った。
高野:「株式会社大日本製薬代表取締役社長、斉藤秀樹様の御紹介で参りました愛原学探偵事務所の者です」
従業員:「愛原様でございますね。お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
ホテルマンが恭しく私達をロビーへ通す。
従業員:「急坂の登攀、お疲れ様でございます」
愛原:「な、何のそのこれしき……!はははは……はーあ……!」
高野:「先生、お疲れのところ申し訳ありませんが、先生が代表者なのですから、チェックインの手続きをお願いします」
愛原:「わ、分かってるとも!キミ達はここで待っていてくれ!」
高橋:「は、はい」
斉藤:「きれいなホテルねー」
リサ:「うん。研究所では絶対に無い光景」
斉藤:「け、研究所?ま、まあ、お父さんの会社の研究所には無いねぇ……」
当たり前である。
私はフロントに行くと、斉藤社長がくれた紹介状を提出した。
そのおかげで私の財布からお金が出て行くことは無かった。
フロント係:「それではお部屋が最上階の7階の701号室と702号室をお取りしてございます。あちらのエレベーターで、7階へどうぞ」
愛原:「よろしく」
最上階か。
こういうホテルの最上階にはスイートルームなんかあったりするものだ。
大抵大きなホテルにはそういった部屋がいくつかあるものだが、このホテルは鳴子温泉の中でも中規模程度のもの。
恐らくそれは一部屋しか無いだろう。
二部屋用意されているということは、恐らくそれよりは下位クラスの部屋だと思われる。
〔上に参ります〕
私達はルームキーを手にエレベーターに乗り込んだ。
その中には館内の案内図が掲示されている。
屋上は展望台になっているらしい。
大浴場は下階にあるようだが、元々が高台に位置しているホテルなので、あえて最上階に大浴場を設ける必要は無かったのだろう。
〔7階です。ドアが開きます〕
エレベーターを降りると、部屋番号的には角部屋になるので、そこまで向かった。
愛原:「俺と高橋は701号室に入るから、高野君達は702号室に入ってくれ」
高野:「分かりました」
リサ:「同じ部屋じゃないの?」
愛原:「あいにく男女別にしないといけないんだ」
リサ:「後で遊びに行ってもいい?」
愛原:「いいよ」
高橋:「ええっ!?」
愛原:「別にいいだろ。どうせさっさと着替えて、温泉に入りに行くんだから」
高橋:「まあ、それもそうですけど……」
部屋に入ると、中は思ったほど高級感があるわけではなかった。
ただ、和洋室ということもあって、2人で使うには広い部屋だ。
セミダブルベッドが2つ置いてあり、和室も10畳くらいの広さがあった。
洋室部分もまた同じくらいあるので、全部で20畳といったところか。
8人くらいは泊まれそうな部屋だな。
ベッドに2人寝て、和室部分に布団が6つは敷けそうだからだ。
愛原:「何か広過ぎて落ち着かないな」
高橋:「泊まり掛けの時はいつも東横インのツインの部屋だから、尚更そうですね」
愛原:「悪かったな、狭い部屋しか泊まれなくて」
高橋:「さ、サーセン!」
その時、ピンポーン♪とインターホンが鳴った。
愛原:「はーい」
私が出ると、着物姿の女将がいた。
女将:「失礼致します。御挨拶の方、よろしいでしょうか?」
愛原:「あ、はい。どうぞどうぞ」
私がドアを開けると、女将が楚々と入って来た。
女将:「本日は当、鳴子中央ホテルをご利用頂きまして、ありがとうございます。従業員一同、心より歓迎させて頂きます」
愛原:「あ、こりゃどうも」
女将:「あ、どうぞ。お掛けになってください。今、お茶お入れしますね」
愛原:「ほんと」
私と高橋は和室にある座椅子に向かい合わせに座った。
女将:「いかがですか、お部屋の方は?」
愛原:「いや、思ったより広いね。2人で使うのが勿体無いくらいだよ」
女将:「いいえ。どうぞ、お寛ぎになってください。窓からの眺めも凄くいいんですよ?」
愛原:「あ、やっぱりそうなんだ!ちょっと見てみようかな」
私は席を立つと、窓のカーテンを開けた。
女将:「裏山が一望できるんです」
愛原:「いや、確かに大自然を堪能って感じだけど、逆に山しか見えないじゃん!?温泉街とか見えないの?」
女将:「あ、街は反対側の方になってしまうんですね」
愛原:「マジかよ……」
高橋:「クソみてーな部屋だな……」
女将:「今日はどちらからお見えになられたんですか?」
愛原:「うん、東京!」
女将:「東京ですか。こんな田舎の宿にお越し頂いて、本当にありがとうございます」
愛原:「いやいや」
女将:「こちらは何かでお調べになったんですか?」
愛原:「いや、ちょっと仕事関係のね、依頼人さんの紹介でね、泊まらせてもらうことになったの」
女将:「そうなんですか。どうぞ、粗茶でございますが……」
愛原:「あ、いやいや、どうも。この辺さ、温泉ってどんな感じなの?」
女将:「あ、結構色々な種類がございますよ?」
愛原:「へえ!」
女将:「当館のお風呂は白く濁ってるんですよ」
愛原:「ああ!濁り湯ってヤツか!」
女将:「そうですね。で、もうとっくにお気づきだと思いますが、硫黄の臭いがしますね」
高橋:「異様な臭い!?」
愛原:「硫黄の臭いっつってんだろ!」
女将:「お肌もツルツルになるということで、よく若い女性の方なんかも多くお泊りになって頂いて……」
愛原:「ああ、隣の部屋?俺の連れなんだけどね、そういう話を聞いたら喜んで入るかもね」
女将:「ところで、御夕食の方は如何致しましょうか?」
愛原:「ああ、夕飯?夕飯、何時から?」
女将:「一応、夕方6時からとなっておりますが……」
愛原:「ああ、ベタな法則だな」
女将:「大人数のお客様ですと宴会場を御用意させて頂くんですけども、少人数のお客様には当館内のレストランのお席を御用意させて頂く場合が多いんですよ」
愛原:「これまたベタな法則だな。いいよ、レストランで」
女将:「かしこまりました。それでは1階の奥に和食レストランがございますので、そちらで御用意させて頂きますね」
愛原:「ああ、そういえばロビーの向こうに看板出てたな……」
高橋:「オバちゃん、大浴場はどこだ?」
女将:「2階にございますよ」
高橋:「先生、2階ですって」
愛原:「そうか。じゃあ、早速浴衣に着替えようかな」
女将:「どうぞどうぞ。そちらのクロゼットに浴衣が入ってございますので……」
愛原:「あ、ここね。やっぱこういう所来たらさ、着替えてナンボだよな」
女将:「そうですね。どうぞ、お寛ぎになってください。あ、それでは私はお隣の部屋へ御挨拶に行かせて頂きますので、何かありましたらそちらの内線電話でフロントにお掛けください」
愛原:「あ、その電話ね。了解」
女将:「それでは、失礼致します」
私達は女将が退室した後、浴衣に着替えた。
愛原:「まあ、普通なホテルって感じだな。観光地化した温泉街にあるホテルって感じ」
高橋:「そうですね」
私達は浴衣に着替えると、同じくクロゼットの中にあったフェイスタオルを手に大浴場へ向かった。