報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「クイーン・ラケル」

2014-11-30 19:56:23 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月1日13:00.岩手県宮古市郊外沿岸部 アリス・シキシマ&シンディ(後期型)]

「見えたわ。あれが、ホテル“クイーン・ラケル”跡」
 アリスは車を走らせていた。
「あっちゃあ……。思いっ切り廃墟だけど、大丈夫?」
 助手席に座るシンディは、真ん中分けした髪の左側に手をやりながら言った。
「行くしか無いわ」
「ほとんど、座礁してそのまま沈没したって感じだねぃ……」
 そこはフェンスで仕切られ、立ち入り禁止の表示がしてあったが、その管理元が公的機関だというのが何とも……。
 経営母体が責任を持つものだろうが、それが無いということは、もはや経営母体は潰れているということだ。
 車の中でウェットスーツに着替えたアリス。
 ホテル跡は恐らく浸水箇所が相当あるだろうとの判断からだ。
 今まで2つのホテルでは、ロボットが襲ってきた。
 2度あることは3度あるではないが、万が一に備え、シンディを連れて来た。
 この情報は、入院中の敷島からもたらされたものである。
 シンディにあっては足の裏のジェットエンジンを取り外し、スクリューを取り付けた。

 今まで訪れた2つの豪華客船を模したホテルも荒れ果てていたが、最後の女王たる“クイーン・ラケル”はそれ以上だった。
 それまでは何とか非常予備電源が生きていたが、こちらは完全に死んでいる。
 『船底』部分はもちろんのこと、客室フロアの殆どが大津波をまともに受けたのか、無くなっていた。
「こんな所に、本当に情報が転がってるのかしら?」
「! ドクター、気をつけて!」
 シンディのスキャンが作動する。
 浸水して海の一部と化した所から、魚が数匹近づいて来た。
「な、なに!?」
 それは黒ずんだ銀色の姿をした、ピラニア……をマグロ並みの大きさにしたもの……と言えばいいのだろうか。
 アリス達の姿を見つけて、飛び掛かってきた!
「ドクター、あれ、見覚えない?」
「え……と?」
 その巨大なピラニア、水の中から出てきても、這いずってアリス達に襲い掛かろうとする。
 シンディは右手をショットガンに変形させて、その魚を撃った。
 するとその魚は火花を発してバラバラに壊れた。
「バトル・フィッシュ!じー様が昔開発したバトル・フィッシュだわ!」
「まあ、ハンドガン数発で倒せるほどの弱さだけどね。だけど、丸腰の人間相手なら噛み殺す力は持ってるわ」
 海域におけるテロリズム用として、ウィリーが開発した。
 モデルは確かにピラニアだが、それだと小さいので、マグロ並みの大きさにしたという。
 太陽光発電による充電池を電源とすると聞いた。
 しかし、ここは……。
 日の光が当たらない場所だ。よく稼働していたものだ。
 マグロサイズのピラニアは怪し過ぎるので、普段は本当のカジキマグロ辺りに化けさせ、目標に近づいた所で本来の姿に変形するというゲリラ的な要素も持たせるつもりだったとアリスは、ぼんやり覚えている。
 しかし強度は弱く、それこそシンディの言うようにハンドガン数発で壊れてしまう。
 マルチタイプはハンドガンは装備しておらず、1番弱い武器でもショットガンなので、1〜2発で壊れてしまう弱さだった。
「水中に適応したタイプが他にも潜んでいると見た方が良さそうよ。水の中は危険かもね」
 と、シンディ。
「さすがに水中は、銃火器が使用できないからね」
「まあ、そんなこともあろうかと、電撃グレネードやパルス・グレネードは持って来てるわ。これなら水中で使用できるはずよ」
 シンディは目を丸くして、
「私達の実弾もそうだけど、よくそんなの用意できますね」
 と、驚いた。
「先へ行きましょう」

[同日14:00.ホテル“クイーン・ラケル”跡 アリス&シンディ]

 小一時間の探索の後、海中に沈んだ廊下を発見した。
 もしかしたら、この中を潜って、ホールまで行けるかもしれない。
 アリス達は一旦車に戻り、酸素ボンベなどの準備をした。
(潜って行く気満々だ……)
 シンディが代わりに調査しに行くと申し出たのだが、アリスは頑として自分が直接調査すると聞かなかった。
「恐らく、バトル・フィッシュなどの水中に適応したロボットがまだ稼働している恐れがあります。私から離れないでください」
「分かったわ。どころで、グレネードはどのくらい持って行く?」
 いかにも磯釣りに来たかのような、釣った魚を保管するクーラーボックスが積まれていたが、開けてみると弾薬が満載されていた。
「こんなものまで持って来て……」
「HAHAHAHA!アタシって天才!」
「ああ、そうそう。今思い出しましたけど、ドクターのビデオレター、どうやらキールが持ち出した可能性が高いです」
「やっぱりね!」
「エミリーはやっぱり甘いですよ。あいつ、見ていたんですから。それなのに、オトコに絆されて黙ってたんですから」
「そこがエミリーのいい所でもあるけどね。まあ、メンド臭いけど。前期型のあんたがドクター南里を連れ去ろうとしていたのに、エミリーは黙ってたって言うからね」
「ああ、あれ!あれは私がパルス・グレネード使って、フリーズさせただけです」
「今さら暴露かよ!てか、アンタも悪いヤツね!」
「前期型の私は、ドクター・ウィリアムの為なら、とことん悪堕ちする覚悟でしたから」
「まあ、そうでしょう。今は悪堕ちするんじゃないよ?今のオーナーは私なんだからね」
「分かっております」
「じゃ、行きましょう」

 再びホテルの中に戻る。
 因みに浸水していない部分には、錆びついたり、原型無く壊れたバージョン・シリーズの残骸があって、そこから未使用の弾薬が回収できた。
 水の中に潜ると、日の当たらない部分は真っ暗なので、そこはシンディが左目のライトを光らせた。
 そして案の定、バトル・フィッシュが襲い掛かってきた。
 このバトル・フィッシュ、人工知能は備えているのだが、まだ実験段階だった為、簡単な命令しか聞けない欠点があった。
 多くは遠隔操作を主とする想定だった為だ。
 その為、接近した者が例えウィリーの身内であったとしても、この魚型のロボットはそれと判断できず、敵と認識してしまうのである。
 どうやら群れて連携を取るプログラムが組み込まれているらしく、最低でも2体以上で襲ってきた。
 その度にシンディが電撃グレネードやパルス・グレネードで迎撃する。
 電撃グレネードはそれだけでダメージを与えることができるため、ダメージを受けたバトル・フィッシュはバラバラに壊れた。
 パルス・グレネードは一定時間フリーズさせるだけなので、その後はシンディが直接破壊した。
「あそこ!」
 錆びついた鉄の扉を見つけた。
「あそこからホールにアクセスできるはずよ」
「了解」
 人間の力なら完全に錆びついて開けることはできなかっただろう。
「ふんっ!」
 しかしマルチタイプの馬力……というか、腕力は鉄腕アトムほどではないが、相当なものである。
 鈍い音が聞こえたかと思うと、シンディはこじ開けるのに成功した。
「行きますよ」
「OK!」
 どうやらこのドアは非常階段のドアだったらしい。
 入ると、階段があった。
 取りあえず、上の方に泳いで行くと、
「ぷはっ!」
 水の上に出た。
 踊り場に上がる。
「まだ空気があるわ」
「もしこの辺りが無事なフロアなのであれば、この先を進むとホールに行けるはずです」
「分かったわ」
 取りあえずここで酸素ボンベなどを取り外し、ウェットスーツは着たままで、奥へ進むことにした。

 2人を待ち受けるものとは一体何か?
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“アンドロイドマスター” 「東京決戦の真相」

2014-11-29 19:40:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月29日17:00.宮城県仙台市太白区 平賀太一&七海]

「暗くなるの、すっかり早くなったなぁ……」
 平賀は敷島への見舞いと聞き取り調査を終え、車を走らせていた。
 高台の住宅街に居を構える平賀。
 道路もアップダウンのある場所だ。
「奈津子博士が美味しい御夕食を用意して、お待ちですよ」
 助手席に座る七海は、にこやかな顔で言った。
「ハハ、だといいがな……」
 車が造成中の住宅地の中に入る。
 一瞬、周囲が寂しくなる場所だ。
 それに伴う道路工事も行われているのか、車線減少区間が発生し、その手前には誘導棒を振るう誘導ロボットがいた。
 七海のナビゲーションシステムには、工事区間は無いことになっている。
 そして何より、スキャンしてみると……。
「スキャン不能!?」
 七海が驚いた声を上げるのと、スキャン不能となったロボットが誘導棒を放り投げ、『工事中』の看板の中からライフルを出したのは同時だった。

 そして……!

[同日21:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫]

(あー、ヒマだ。松葉杖になったら、リハビリしなきゃな……)
 そろそろ消灯の時間である。
 敷島のいる病室は、一番最後に消灯されるおかげか、少しテレビを見ることができた。

〔「今日午後5時頃、宮城県仙台市太白区の市道で、東北大学教授が帰宅途中、何者かにライフルで狙撃されるという事件がありました」〕

「東北大学……教授???」

〔「狙撃されたのは東北大学工学部電子工学科教授の平賀太一さんで、車で帰宅途中、何者かにライフルで車ごと狙撃され……」〕

「敷島さん、消灯の時間ですよ」
 照明を消しに来た看護師に注意される。
「ちょ、ちょっと待ってください!今、ニュースが……!」

〔「平賀太一さんは病院に運ばれましたが、意識不明の重体です」〕

「な、何だって……!?」
「お知り合いですか?」
「昼間、私のお見舞いに来てくれた人ですよ!」
 敷島は今夜、殆ど眠れなかったという。

[11月30日10:00.同病院 談話コーナー 敷島孝夫]

 敷島は手持ちのスマホを持ち出し、アリスのケータイに掛けていた。
「あ、アリスか。今、どこだ?」
{「ドクター平賀のところ。一体、何が起きてるのよ?」}
「さすがに、笑い事じゃなくなってきてるな。アリスも気をつけた方がいい。平賀先生に護衛は付いているか?」
{「エミリーが付いてるわ。七海は損傷が激しいので、奈津子さんが修理に当たってる」}
「修理可能な損傷では済んでるわけか」
{「だけど、ご丁寧にメモリーは破壊されてるのよ。おかげで、事件の真相は闇のままね」}
「平賀先生の車は?あれ、確かドライブレコーダーが付いてるはずだ」
{「車ごと燃やされたから、それもアウト」}
「マジかよ。だったら、かなりの確信犯じゃないか」
{「まあ、そういうことね」}
「アリス、あと動けるのはお前しかいない」
{「何が?」}
「東京決戦の謎を追ってくれ」
{「アンタが1番知ってるんじゃない」}
「表、だけな。平賀先生はそれに隠された裏を調査していた。つまり、それを調査されるとマズいヤツがいて、そいつがやった可能性が高い。多分、アリスのビデオレターが1個無くなってるのもそれが原因だ」
{「分かったわ。調査してみる」}
「気をつけろよ」
{「タカオも気をつけて」}
「俺はまあ……この通り、入院中で動けないからな。調査しようにもできないから、これ以上は大丈夫だと思うよ」
{「相変わらず楽観的ね」}
「そういう性格なんで」
 敷島は電話を切った。
(東京決戦の舞台裏か……。考えもしなかったな……)

[同日11:00.アリスの研究所 アリス・シキシマ]

「こんなこともあろうと、実はビデオレターは原本とは別に、コピーして別の媒体に記録してるのよねー」
 アリスは平賀の病院から戻ってきた後で、自分の研究室に入り、持っていたメモリーからダウンロードした。

 今は亡き養親の映像。
 人は忌まわしきマッドサイエンティストと呼び、孫娘をして最低の科学者だと思っていたが、しかし祖父としては素晴らしかったと思っている。

〔「アリスや。私は一世一代の大バクチに出ることにしたぞ。今度は日本じゃ!日本を舞台に、このウィリアム・フォレストここにありを見せつけてやろうと思う。今度からは日本がステージとなるぞ。お前も早く日本へ来い。……あ、多くの日本人は英語が理解できんみたいじゃから、日本語を習得するのを忘れずにな。なぁに、私が見込んだ天才のお前じゃ。期待しておるぞ。さて、ここだけの話、大きな声では言えんがの、実は今度のプロジェクトは、何と!JARAの協力者がバックにおるのじゃ。今後とも私の前に立ちはだかる者を蹴散らすために、大きな舞台を用意してくれておる。ようやっと、私の活動に理解を示してくれる者が現れたというわけじゃ」〕

「な、何ですって……!?JARAの中に裏切り者がいたってこと!?」
 アリスは目を丸くした。

〔「……じゃがのう、あくまでこれはバクチじゃ。いくらド本命とはいえ、万が一のこともある。もしその事態が起きたとしたらアリスや、例の場所に全ての真相を封じておる。それを手に入れて、世間に公表してやるのじゃ。それで恐らく、全てが終わる。もっとも、99パーセント成功するド本命じゃがな」〕

「……残りの1パーセントで大負けしちゃったじゃないの、グランパ……。本当に科学者としては最低ね」
 で、例の場所とは?
「……例の場所って、どこだっけ?」
 アリスは眉間に皺を寄せた。
 孫娘に遺言がちゃんと伝わっていない。
 詰んでしまったか?

[同日12:00.東京都墨田区菊川 賃貸マンション 十条伝助]

「……聞こえているし、理解もしている。キミは引き続き、“クイーン・ラケル”で永遠の宴を楽しみたまえ」
 十条は誰かと電話していた。
{「貴様〜っ!あの東京決戦なる戦いも、全て貴様の卓の上だったということか!とんだ道化を演じさせられたものよな!」}
「だけではない。キミの任務はまだまだ続くさ。『世界中の人々にロボット・テロの恐怖を植え付けさせてしまったことに対する贖罪』だ」
{「お前は旧ソ連時代から変わらん!私を見くびっては困る!お前は人情派の南里以上に油断ならぬことは、若い頃から知っている!貴様との取り引きは全て映像に記録している!公開すれば貴様も破滅だ!」}
「好きにすればいい。どうせ誰も、キミの居場所など分からんじゃろう」
 ニヤリと笑う十条。
 その顔からは、普段敷島達に見せる天然ユーモアさは微塵も無かった。

[同日13:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫]

 だが、真相の鍵は意外な所から見つかるものだ。
「えっ、マジですか!?」
「ええ、そうですよ」
 敷島は大部屋に入院しているのだが、隣の空きベッドに新たな入院患者がやってきた。
 60代の男性で、階段から落ちて両手足にケガを負ったのだという。
 聞けばかつて、ホテル・シークルーズで働いていたことがあるとのこと。
 その患者が言うには、
「東北には店舗が3つありました。1つは青森県で、秋田県の県境付近にあった“クイーン・シンシア”、1つは福島県の“クイーン・エミリア”、そしてもう1つは“クイーン・ラケル”です。トランプのダイヤのクイーンがラケルという名前なので、そこから取ったそうです」
「そ、それはどこに!?」
「あいにくですが、太平洋沿岸部にあったので、東日本大震災の津波で崩壊したと思いますよ」
「え!?」
 ヒドいオチが待っていた!?
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“アンドロイドマスター” 「暴かれる過去」 2

2014-11-29 10:40:51 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月29日13:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫、平賀太一、七海]

「すいませんね。外までお連れして……」
「つっても、普通に談話コーナーですけどね」
 車椅子に座る敷島。
「来週には車椅子から松葉杖に変わります」
「良かったですね。敷島さんが退院するまでには、全て解決してみせますよ」
「何がですか?」
「今日お伺いしたのは、そのことなんですよ。東京決戦について」
「都バスでバージョン・シリーズに特攻したのは、もう時効にしてくださいよ。いきなりのあれですから、警察も右往左往していた」
「いや、そのことじゃないんですけど……。ウィリーが死んだ直後のことです」
「死んだ直後?」
「あの時、何がありましたか?」
「それは既にお話ししたと思いますが……」
「もう1度詳しく教えて頂きたいんです」
「コーヒーをお持ちしました」
 と、七海。
「アペックス辺りの自動販売機で買ってきた紙コップのヤツな」
 敷島は苦笑い。
「えーと、ですねぇ……」

[2008年10月下旬23:00.東京都千代田区大手町 とある高層ビルの最上階 敷島&エミリー]

「可哀想な・シンディ……」
「……っ!それより、グロ過ぎるぜ、これ……!」
 敷島は惨殺死体と化したウィリーを直視できなかった。
「敷島さん」
「ああ、退散だな。あとは警察隊に任せよう」
「シンディは・どうしますか?」
「そうだな……。もう壊れて動かなくなってるんだよな?」
「念の為・バッテリー・パックを・抜いて・おきます」
「よし。じゃあ、そうしてくれ。その後、退散……」
 その時、敷島のケータイが鳴った。
「はい、もしもし?」
{「あー、ワシだ」}
「十条理事!?……あ、はい。何のご用でしょうか?」
{「現在の状況を教えてくれんか?」}
「ドクター・ウィリーに辿り着いたのはいいんですが、話を聞いているうちに、暴走したシンディに殺されました」
{「そうか……。だが、油断はできん。そのビルにはまだ多くのテロ・ロボットが徘徊しておる。一掃する為にも、そのビルは爆破することにした」}
「はあ!?」
{「心配いらん。ビルのオーナーや地権者達とは、もう話がついとる。今から10分後に館内に仕掛けられた自爆装置を遠隔操作するから、それまでに脱出よろしくぢゃ。『我が門に入らんとする汝、一切の希望を捨てよ』それではチャオ!」}
「じ、10分スか!?」
 敷島は電話を切った。
「あ、相変わらず、ブラック・ジョークの好きな博士だな……。ハハ、ハハハハハハ……」
 が、しかし、

〔警告。自爆装置のプログラム起動を確認。今から10分後に、爆発します。速やかなる待避を勧告します。この自爆プログラムを停止させることはできません。繰り返します。……〕

 エミリーより流暢な言葉を喋る女性の声が館内に響いた。
「マジかよ!脱出最優先だ!」
「敷島・さん!シンディは!?」
「バカ!ほっとけ!俺達が爆破される!」
 敷島達はウィリーの部屋を飛び出した。
 しかし、エレベーターは全て止まっていた。
「でーっ!?超高層ビルの最上階から下まで、階段で10分以内に逃げろって!?」
 しかも、途中でバージョン・シリーズが銃を構えてる。
「お前ら、どけ!爆発するぞ!!」
「道を・開けなさい!」
 エミリーの言葉に反応するかと思ったが、バージョン達は言う事を聞かない。
「自爆プログラムの・起動で・外からの・命令を・受け付けなくなった・ようです」
「なにーっ!?」
 すぐさま、エミリーは右手をマシンガンに変形してバージョン達を一掃する。
「急げ!急げ!時間が無いぞ!」

[2014年11月29日 福島赤十字病院 敷島&平賀]

「敷島さんが中にいるにも関わらず、爆破しようとしたんですか?」
「いや、もう、相変わらずブッ飛んだ博士だ。ハハハハハハ」
「いや、笑い事じゃないです」
 平賀は楽観的な敷島に眉を潜めながらコーヒーを啜った。
(敷島さんがウィリーから真相を聞いてしまったと判断して、彼ごと滅却しようとしたのか。自爆プログラムの誤作動ということにして)
「あの後、シンディが復活しやがって、大変でしたよ」
「えっ!?」
「あのビルの4階でしたかねぇ……。爆発まで残り2〜3分といったところで、シンディが復活して追い掛けてきたんです」

[2008年10月下旬 ビル4階光庭前 敷島&エミリー]

「敷島さん・このフロアから・光庭を・通って・地上に・脱出・できます」
「よっしゃ!……って、4階から飛び降りて大丈夫か!?」
「私が・抱えます」
「わ、分かった!」
 だが!
 動かなくなったエレベーターのドアを突き破って、現れた者がいた。
「逃がさなイ……!ドクターの仇……!」
「シンディ!?」
 眼光鋭く、もはやかつての陽気な雰囲気は微塵も無い。
「殺す……!絶対殺すぅぅぅぅっ!!」
「シンディ、いい加減にしろ!」
 シンディは右手の銃を構えたが、弾切れなのか、カチッカチッという音しかしない。
 ずんぐりむっくりで動きも遅いバージョン・シリーズに対し、壊れかかっているとはいえ、シンディはまだ人間が走るくらいの素早さがあった。
 エミリーと組み付く。
 既に損傷が激しいのか、時々、体の関節部分などから火花を散らした。

〔自爆プログラム、最終カウントダウンに入ります。……〕

「エミリー!早くシンディを何とかしろ!爆発するぞ!」
 エミリーはシンディを、光庭前のロビーに設置されているテレビモニターに頭から突っ込ませた。
 モニタに頭から突っ込んだせいで、感電するシンディ。

〔まもなく、爆発します〕

「急げ急げ!」
 エミリーは窓ガラスを破壊し、光庭に出た。
 そして、敷島を抱えて、ビルの外に脱出した。

 直後に起こる大爆発。

[2014年11月29日 福島赤十字病院 敷島&平賀]

「いやあ……ハリウッドの映画スターもびっくりのアクションでしたねぇ……」
「それをしみじみと語れる敷島さんも凄いですよ」
 もはや呆れる平賀だった。
「……で、その話でいくつか矛盾点があるんですよ」
「私、ウソなんか話してませんよ?」
「いえ、敷島さんの話ではありません。まず、1つ。プログラム異常で暴走したシンディですが、取りあえず、エミリーが助けてくれたんですね?」
「そうです」
「エミリーの方の映像記録を見ましたが、実はシンディはそんなに損傷していません。一時的に電源が切れる程度の損傷だけだったようで」
「それで復活したんですか。エミリーも甘いなぁ……」
「最低限の損傷しか食らってなかったのに、どうして再び敷島さん達の前に現れた時には壊れかかるほどの損傷をしていたのでしょう?」
「あれ?そういえば……。あ、いや、大爆発の前の小爆発はあっちゃこっちゃで起きてたんですよ。まあ、おかげさまでその爆発に巻き込まれたのか、既にバージョン達の一部はそれで鉄塊と化していましたがね」
「それくらいで壊れるマルチタイプじゃないですよ」
「うーむ……」
「とにかく、これでほぼ確信しました。敷島さんは、安心して養生なさってください」
 平賀は立ち上がった。
「病室に戻りましょう」
「ええ」
「快気祝い、何かやりたいですね」
「いや、別にそんな……」
「いいんですよ。敷島さんは東京決戦で英雄ですから」
「ハハハハ。当時も今も、ケータイはdocomoですよ」
「いや、そのauじゃないです」
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“アンドロイドマスター” 「暴かれる過去」

2014-11-28 19:40:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月28日16:00.宮城県仙台市泉区 アリスの研究所 アリス・シキシマ&シンディ]

「おかしいわ。じー様の最後のビデオレターが無い……」
 アリスは自分の部屋のライブラリを探し回った。
 ビデオレターがいくつも保管されているのだが、その中の1つ、ドクター・ウィリーが暴走した前期型のシンディに惨殺された日に撮影されたものと思われるビデオレターだけが無くなっていた。
「ビデオレターは全て、1度財団に押収されたのではなかったでしたっけ」
 シンディが言った。
「だけど一通り調べられた後、全部返却されたはずよ。それは私も一緒に確認してる」
「あいにくとですが、前のボディの時のメモリーは大半が消去されておりまして……」
「分かってるわ。じー様が死んだ時のメモリーも無いでしょ?」
「ええ」
「誰かが持ち出したのでしょうか?」
「誰よ!?」
「それは分かりませんが……」
「探して!命令よ!」
「か、かしこまりました」

[2008年10月下旬 東京都新宿区西新宿 JARA本部 十条伝助&平賀太一]

「正に、灯台下暗しとはよく言ったものじゃな。まさかこんな都内の一等地にアジトを構えておったとは……」
 十条は自虐的な笑みを浮かべ、肩を竦めて言った。
 平賀は不快そうな顔をした。
「それなのに公安当局はちもろん、財団の情報網に何1つ引っ掛からないなんておかし過ぎますよ」
 若博士の疑問に、老博士が飄々とした態度で答える。
「ま、それだけウィリーは我々の1つも2つも上手を行っていたということになるのかな。口惜しきことなれど」
「私も行きます。敷島さんだけに任せておけない」
「いいのか?恐らく向こうは決戦場になるじゃろう。生きて帰れるかどうかも分からぬのじゃぞ?」
「敷島さんが先陣を切るんです。南里先生の為に。それなら、自分も南里先生の弟子だった者として、同行するのは当然です」
「まあ、南里も草葉の陰で喜ぶ言葉じゃろうなぁ……。じゃが、気をつけられよ」
「は?」
「最終的にはビルごと爆破解体する」
「は!?」
「さっきも言ったじゃろう?テロ・ロボットが山のように現れることは必至。更にそこに、あのシンディが立ちはだかるのじゃ。普通のドンパチで対応できるものではない」
「何て事を……」
「それに関しては、政府から正式に承認される見通しじゃ。忌むべき世界的なマッド・サイエンティストにして、世界的な科学テロリストはもはや野放しにできんということじゃな。勇敢に戦うことは素晴らしいが、犬死だけは何としても避けられよ」
「それは……政治的な解決ということですか?」
「いかんかね?」
「政治的な思考で事態を解決しようとするから、ウィリーみたいなヤツが現れる!」
「ああ。でなければ、困る。平賀君、それはワシらのような人間が抱える永遠のジレンマだよ」

 モニタには地獄絵図と化す大手町の姿が映し出された。
 敷島が乗り捨てられた都バスに乗り込んで、バージョン・シリーズの包囲網に突撃しようしている。
「行きたまえ、平賀君。政治的以外の手法で解決するのじゃろ?どうやら、敷島君が奴らの包囲網を突破するみたいじゃ」
「言われるまでもない……!」

[2014年11月28日22:00.仙台市太白区 平賀家 平賀太一&平賀奈津子]

 平賀は自身の傑作、メイドロボット七海に搭載されたカメラで撮影された記録映像を見ていた。
「何見てるの?」
 子供を寝かしつけた奈津子が後ろから声を掛ける。
「東京決戦の映像さ。子供達には見せられないね」
「まあ、そうね」
 最後にはシンディの一撃を食らって、映像はそこで終わる。
「あなた、今のシンディは……」
「分かってるさ。だけど、今はそれを言ってる場合じゃない。シンディを隠れ蓑に、本当の悪が隠れているような気がしてならないんだ」
「本当の悪?」
「なあ、ナツ。何で、ウィリーは死んだと思う?」
「そりゃあ、暴走したシンディに殺されて……」
「何であのタイミングだったんだろう?」
「え?」
「まるで狙ったかのようなタイミングだ。1番いいのは、あのビルから引きずり出して、警察に逮捕してもらうことだったんだろうけど……」
「多分、シンディやバージョン達が警察署や拘置所を襲撃して、ウィリーを救出しようとするでしょう。ウィリーは、外国で何度かそれをやってきたからね」
 外国で治安当局に捕縛されたことがあるウィリー。
 だが、悉く後でシンディに警察署ごと爆破されたりして救出されている。
「十条先生は、『ウィリーは救いようの無い男じゃ。もはや、司法当局の手に終える者ではない。ビンラディンやカダフィー大佐のように、軍人に射殺されるべき男じゃよ』と言っていた」
 つまり、警察に逮捕させるのではなく、その場での射殺が正当であると、東京決戦の後に十条が言っていたことになる。
「軍人って、確か東京決戦の時も、自衛隊は出動しなかったんじゃ?」
「だからさ。『あいにくと、日本国内には憲法上、“軍隊”も“軍人”も存在しない。ならば、同じ研究者の手で始末するべきである』」
「見た目とは裏腹に随分過激な発言をするのね」
「本当はエミリーがウィリー射殺の任を背負っていたはずだ」
「ええっ!?」
「これについても自分は、十条先生とケンカしたよ。『マルチタイプの銃は、今や故意の射殺で使用するべきではない』って言ったんだけど、『ならば過失的暴発なら良いのか。じゃが、心配ない。神は必ずや、地獄よりの使者を野放しにはしない。天使の身と化したマルチタイプを、再び血に染めるようなことはせんじゃろう』」
「確かに実際、そうなったわね。確か十条先生、その後でビルを爆破したんでしたっけ」
「ああ。ウィリーも死んだのに何やってんだ、この人はって思ったよ」
「まあ、あのビルには多くのテロ・ロボットが残ってたからね。それを一掃するという理由ではあったみたいだけど……」
「とにかく、自分は絶対に真相を暴く。2度とウィリーみたいなヤツを出してはいけないんだ」

[同日同時刻 東京都墨田区菊川 十条伝助&キール・ブルー]

「あー、キールや」
「はっ、ここに」
 十条は寝る前の晩酌をやっていた。
「どうやらこのわしの身に、危険が迫っているようじゃ」
「危険、ですか?」
「うむ。危険じゃ。危険の芽は、成長する前に摘み取るべきじゃと思うが、どうかね?」
「はっ、仰せのままに……」
「その情報は既に得ておる。行って、その危険の芽を摘み取ってくれ。頼んだぞ」
「かしこまりました。ドクター」
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ボーナスと御供養

2014-11-28 16:48:17 | 日記
 このブログの常連の方ならとっくにご存知であろうが、私の職業は警備員である。
 まあ、はっきり言ってどうしようも無い底辺だ。
 求人票の給与欄だけなら、タクシー運転手にも劣っている。
 業界全体がブラッキーな中、業界内を調査してみると、ボーナスの出る会社の少ないこと少ないこと。
 弊社は一応、正社員(プロパー、中途不問)には年2回のボーナスが出ることは出るが、元々が少ない基本給に掛ける【あまりにも恥ずかしいのでカット致します】。
 この業界の平均年収は300万程度。
 幸いにして私は業界の平均額は大幅に超えてはいるが、どうしても同世代他業種の平均額には全く足りていない。
 ヘタすりゃ無職もそこそこ多かった顕正会では大して気にもせず、むしろ高給取り扱いであったが(だから、顕正会の方が充実していたなんて言えるんだな)、法華講に来てみたら、青年部の平均年収を見事に下げてしまったようだ。申し訳無い。
 一応私の罪障消滅の1つが、法華講内での信心によるジリ貧化が挙げられる。
 アンチ顕正会は顕正会でのカネ搾取を批判しているが、私は顕正会の方がカネは使わなかったよ。
 多分、本部会館がチャリで行けるほど近いのと(それでも私は路線バスを利用していた)、大きく使う金額が顕正新聞代と年末の広布御供養くらいしか無かったからだろう。
 逆に法華講は、総本山が遠いおかげで、そこまでの交通費が掛かってしょうがない。
 新幹線使えば、私の顕正会活動費1年分がすっ飛ぶくらいだ。
 顕正会は低所得者が多かったので、顕正会もある程度考えていた部分もあった(が、その分のしわ寄せは役職クラスに来ていたことは言うまでもない)。
 法華講員はどちらかというと平均年収以上の人が多いので、低所得者には金銭感覚の狂いが生じ、あたかもジリ貧に陥る感覚になるのだろう。
 幸い私の紹介者もそんなに高級取りではない(と言ったら失礼だが)ようなので、そこは助かっている。
 また、高級官僚の講頭さんがポーンと高額の御供養を寺院に出してくれてるおかげで、こちらはあまり出さなくていいというメリットもある。

「あれ?何か法華講に来てから、随分とカネ使うようになっちゃったぞ?」

 と思ったら、一呼吸置いて周りを見渡してほしい。
 自分より高給取りが固まっていないか?
 もしそうであれば、低所得者のグループに移られることをお勧めする。
 私もあと数年で壮年部に移行する年齢だが、今から壮年部のどこのグループに入るか模索しているよ。

 イヤらしい金の話になってしまったが、あいにくと、ある程度の持ち合わせが無いと人並みの信心ができない宗派でありましてね。
 下世話な話で、申し訳無いです。
コメント (7)
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