[12月1日13:00.岩手県宮古市郊外沿岸部 アリス・シキシマ&シンディ(後期型)]
「見えたわ。あれが、ホテル“クイーン・ラケル”跡」
アリスは車を走らせていた。
「あっちゃあ……。思いっ切り廃墟だけど、大丈夫?」
助手席に座るシンディは、真ん中分けした髪の左側に手をやりながら言った。
「行くしか無いわ」
「ほとんど、座礁してそのまま沈没したって感じだねぃ……」
そこはフェンスで仕切られ、立ち入り禁止の表示がしてあったが、その管理元が公的機関だというのが何とも……。
経営母体が責任を持つものだろうが、それが無いということは、もはや経営母体は潰れているということだ。
車の中でウェットスーツに着替えたアリス。
ホテル跡は恐らく浸水箇所が相当あるだろうとの判断からだ。
今まで2つのホテルでは、ロボットが襲ってきた。
2度あることは3度あるではないが、万が一に備え、シンディを連れて来た。
この情報は、入院中の敷島からもたらされたものである。
シンディにあっては足の裏のジェットエンジンを取り外し、スクリューを取り付けた。
今まで訪れた2つの豪華客船を模したホテルも荒れ果てていたが、最後の女王たる“クイーン・ラケル”はそれ以上だった。
それまでは何とか非常予備電源が生きていたが、こちらは完全に死んでいる。
『船底』部分はもちろんのこと、客室フロアの殆どが大津波をまともに受けたのか、無くなっていた。
「こんな所に、本当に情報が転がってるのかしら?」
「! ドクター、気をつけて!」
シンディのスキャンが作動する。
浸水して海の一部と化した所から、魚が数匹近づいて来た。
「な、なに!?」
それは黒ずんだ銀色の姿をした、ピラニア……をマグロ並みの大きさにしたもの……と言えばいいのだろうか。
アリス達の姿を見つけて、飛び掛かってきた!
「ドクター、あれ、見覚えない?」
「え……と?」
その巨大なピラニア、水の中から出てきても、這いずってアリス達に襲い掛かろうとする。
シンディは右手をショットガンに変形させて、その魚を撃った。
するとその魚は火花を発してバラバラに壊れた。
「バトル・フィッシュ!じー様が昔開発したバトル・フィッシュだわ!」
「まあ、ハンドガン数発で倒せるほどの弱さだけどね。だけど、丸腰の人間相手なら噛み殺す力は持ってるわ」
海域におけるテロリズム用として、ウィリーが開発した。
モデルは確かにピラニアだが、それだと小さいので、マグロ並みの大きさにしたという。
太陽光発電による充電池を電源とすると聞いた。
しかし、ここは……。
日の光が当たらない場所だ。よく稼働していたものだ。
マグロサイズのピラニアは怪し過ぎるので、普段は本当のカジキマグロ辺りに化けさせ、目標に近づいた所で本来の姿に変形するというゲリラ的な要素も持たせるつもりだったとアリスは、ぼんやり覚えている。
しかし強度は弱く、それこそシンディの言うようにハンドガン数発で壊れてしまう。
マルチタイプはハンドガンは装備しておらず、1番弱い武器でもショットガンなので、1〜2発で壊れてしまう弱さだった。
「水中に適応したタイプが他にも潜んでいると見た方が良さそうよ。水の中は危険かもね」
と、シンディ。
「さすがに水中は、銃火器が使用できないからね」
「まあ、そんなこともあろうかと、電撃グレネードやパルス・グレネードは持って来てるわ。これなら水中で使用できるはずよ」
シンディは目を丸くして、
「私達の実弾もそうだけど、よくそんなの用意できますね」
と、驚いた。
「先へ行きましょう」
[同日14:00.ホテル“クイーン・ラケル”跡 アリス&シンディ]
小一時間の探索の後、海中に沈んだ廊下を発見した。
もしかしたら、この中を潜って、ホールまで行けるかもしれない。
アリス達は一旦車に戻り、酸素ボンベなどの準備をした。
(潜って行く気満々だ……)
シンディが代わりに調査しに行くと申し出たのだが、アリスは頑として自分が直接調査すると聞かなかった。
「恐らく、バトル・フィッシュなどの水中に適応したロボットがまだ稼働している恐れがあります。私から離れないでください」
「分かったわ。どころで、グレネードはどのくらい持って行く?」
いかにも磯釣りに来たかのような、釣った魚を保管するクーラーボックスが積まれていたが、開けてみると弾薬が満載されていた。
「こんなものまで持って来て……」
「HAHAHAHA!アタシって天才!」
「ああ、そうそう。今思い出しましたけど、ドクターのビデオレター、どうやらキールが持ち出した可能性が高いです」
「やっぱりね!」
「エミリーはやっぱり甘いですよ。あいつ、見ていたんですから。それなのに、オトコに絆されて黙ってたんですから」
「そこがエミリーのいい所でもあるけどね。まあ、メンド臭いけど。前期型のあんたがドクター南里を連れ去ろうとしていたのに、エミリーは黙ってたって言うからね」
「ああ、あれ!あれは私がパルス・グレネード使って、フリーズさせただけです」
「今さら暴露かよ!てか、アンタも悪いヤツね!」
「前期型の私は、ドクター・ウィリアムの為なら、とことん悪堕ちする覚悟でしたから」
「まあ、そうでしょう。今は悪堕ちするんじゃないよ?今のオーナーは私なんだからね」
「分かっております」
「じゃ、行きましょう」
再びホテルの中に戻る。
因みに浸水していない部分には、錆びついたり、原型無く壊れたバージョン・シリーズの残骸があって、そこから未使用の弾薬が回収できた。
水の中に潜ると、日の当たらない部分は真っ暗なので、そこはシンディが左目のライトを光らせた。
そして案の定、バトル・フィッシュが襲い掛かってきた。
このバトル・フィッシュ、人工知能は備えているのだが、まだ実験段階だった為、簡単な命令しか聞けない欠点があった。
多くは遠隔操作を主とする想定だった為だ。
その為、接近した者が例えウィリーの身内であったとしても、この魚型のロボットはそれと判断できず、敵と認識してしまうのである。
どうやら群れて連携を取るプログラムが組み込まれているらしく、最低でも2体以上で襲ってきた。
その度にシンディが電撃グレネードやパルス・グレネードで迎撃する。
電撃グレネードはそれだけでダメージを与えることができるため、ダメージを受けたバトル・フィッシュはバラバラに壊れた。
パルス・グレネードは一定時間フリーズさせるだけなので、その後はシンディが直接破壊した。
「あそこ!」
錆びついた鉄の扉を見つけた。
「あそこからホールにアクセスできるはずよ」
「了解」
人間の力なら完全に錆びついて開けることはできなかっただろう。
「ふんっ!」
しかしマルチタイプの馬力……というか、腕力は鉄腕アトムほどではないが、相当なものである。
鈍い音が聞こえたかと思うと、シンディはこじ開けるのに成功した。
「行きますよ」
「OK!」
どうやらこのドアは非常階段のドアだったらしい。
入ると、階段があった。
取りあえず、上の方に泳いで行くと、
「ぷはっ!」
水の上に出た。
踊り場に上がる。
「まだ空気があるわ」
「もしこの辺りが無事なフロアなのであれば、この先を進むとホールに行けるはずです」
「分かったわ」
取りあえずここで酸素ボンベなどを取り外し、ウェットスーツは着たままで、奥へ進むことにした。
2人を待ち受けるものとは一体何か?
「見えたわ。あれが、ホテル“クイーン・ラケル”跡」
アリスは車を走らせていた。
「あっちゃあ……。思いっ切り廃墟だけど、大丈夫?」
助手席に座るシンディは、真ん中分けした髪の左側に手をやりながら言った。
「行くしか無いわ」
「ほとんど、座礁してそのまま沈没したって感じだねぃ……」
そこはフェンスで仕切られ、立ち入り禁止の表示がしてあったが、その管理元が公的機関だというのが何とも……。
経営母体が責任を持つものだろうが、それが無いということは、もはや経営母体は潰れているということだ。
車の中でウェットスーツに着替えたアリス。
ホテル跡は恐らく浸水箇所が相当あるだろうとの判断からだ。
今まで2つのホテルでは、ロボットが襲ってきた。
2度あることは3度あるではないが、万が一に備え、シンディを連れて来た。
この情報は、入院中の敷島からもたらされたものである。
シンディにあっては足の裏のジェットエンジンを取り外し、スクリューを取り付けた。
今まで訪れた2つの豪華客船を模したホテルも荒れ果てていたが、最後の女王たる“クイーン・ラケル”はそれ以上だった。
それまでは何とか非常予備電源が生きていたが、こちらは完全に死んでいる。
『船底』部分はもちろんのこと、客室フロアの殆どが大津波をまともに受けたのか、無くなっていた。
「こんな所に、本当に情報が転がってるのかしら?」
「! ドクター、気をつけて!」
シンディのスキャンが作動する。
浸水して海の一部と化した所から、魚が数匹近づいて来た。
「な、なに!?」
それは黒ずんだ銀色の姿をした、ピラニア……をマグロ並みの大きさにしたもの……と言えばいいのだろうか。
アリス達の姿を見つけて、飛び掛かってきた!
「ドクター、あれ、見覚えない?」
「え……と?」
その巨大なピラニア、水の中から出てきても、這いずってアリス達に襲い掛かろうとする。
シンディは右手をショットガンに変形させて、その魚を撃った。
するとその魚は火花を発してバラバラに壊れた。
「バトル・フィッシュ!じー様が昔開発したバトル・フィッシュだわ!」
「まあ、ハンドガン数発で倒せるほどの弱さだけどね。だけど、丸腰の人間相手なら噛み殺す力は持ってるわ」
海域におけるテロリズム用として、ウィリーが開発した。
モデルは確かにピラニアだが、それだと小さいので、マグロ並みの大きさにしたという。
太陽光発電による充電池を電源とすると聞いた。
しかし、ここは……。
日の光が当たらない場所だ。よく稼働していたものだ。
マグロサイズのピラニアは怪し過ぎるので、普段は本当のカジキマグロ辺りに化けさせ、目標に近づいた所で本来の姿に変形するというゲリラ的な要素も持たせるつもりだったとアリスは、ぼんやり覚えている。
しかし強度は弱く、それこそシンディの言うようにハンドガン数発で壊れてしまう。
マルチタイプはハンドガンは装備しておらず、1番弱い武器でもショットガンなので、1〜2発で壊れてしまう弱さだった。
「水中に適応したタイプが他にも潜んでいると見た方が良さそうよ。水の中は危険かもね」
と、シンディ。
「さすがに水中は、銃火器が使用できないからね」
「まあ、そんなこともあろうかと、電撃グレネードやパルス・グレネードは持って来てるわ。これなら水中で使用できるはずよ」
シンディは目を丸くして、
「私達の実弾もそうだけど、よくそんなの用意できますね」
と、驚いた。
「先へ行きましょう」
[同日14:00.ホテル“クイーン・ラケル”跡 アリス&シンディ]
小一時間の探索の後、海中に沈んだ廊下を発見した。
もしかしたら、この中を潜って、ホールまで行けるかもしれない。
アリス達は一旦車に戻り、酸素ボンベなどの準備をした。
(潜って行く気満々だ……)
シンディが代わりに調査しに行くと申し出たのだが、アリスは頑として自分が直接調査すると聞かなかった。
「恐らく、バトル・フィッシュなどの水中に適応したロボットがまだ稼働している恐れがあります。私から離れないでください」
「分かったわ。どころで、グレネードはどのくらい持って行く?」
いかにも磯釣りに来たかのような、釣った魚を保管するクーラーボックスが積まれていたが、開けてみると弾薬が満載されていた。
「こんなものまで持って来て……」
「HAHAHAHA!アタシって天才!」
「ああ、そうそう。今思い出しましたけど、ドクターのビデオレター、どうやらキールが持ち出した可能性が高いです」
「やっぱりね!」
「エミリーはやっぱり甘いですよ。あいつ、見ていたんですから。それなのに、オトコに絆されて黙ってたんですから」
「そこがエミリーのいい所でもあるけどね。まあ、メンド臭いけど。前期型のあんたがドクター南里を連れ去ろうとしていたのに、エミリーは黙ってたって言うからね」
「ああ、あれ!あれは私がパルス・グレネード使って、フリーズさせただけです」
「今さら暴露かよ!てか、アンタも悪いヤツね!」
「前期型の私は、ドクター・ウィリアムの為なら、とことん悪堕ちする覚悟でしたから」
「まあ、そうでしょう。今は悪堕ちするんじゃないよ?今のオーナーは私なんだからね」
「分かっております」
「じゃ、行きましょう」
再びホテルの中に戻る。
因みに浸水していない部分には、錆びついたり、原型無く壊れたバージョン・シリーズの残骸があって、そこから未使用の弾薬が回収できた。
水の中に潜ると、日の当たらない部分は真っ暗なので、そこはシンディが左目のライトを光らせた。
そして案の定、バトル・フィッシュが襲い掛かってきた。
このバトル・フィッシュ、人工知能は備えているのだが、まだ実験段階だった為、簡単な命令しか聞けない欠点があった。
多くは遠隔操作を主とする想定だった為だ。
その為、接近した者が例えウィリーの身内であったとしても、この魚型のロボットはそれと判断できず、敵と認識してしまうのである。
どうやら群れて連携を取るプログラムが組み込まれているらしく、最低でも2体以上で襲ってきた。
その度にシンディが電撃グレネードやパルス・グレネードで迎撃する。
電撃グレネードはそれだけでダメージを与えることができるため、ダメージを受けたバトル・フィッシュはバラバラに壊れた。
パルス・グレネードは一定時間フリーズさせるだけなので、その後はシンディが直接破壊した。
「あそこ!」
錆びついた鉄の扉を見つけた。
「あそこからホールにアクセスできるはずよ」
「了解」
人間の力なら完全に錆びついて開けることはできなかっただろう。
「ふんっ!」
しかしマルチタイプの馬力……というか、腕力は鉄腕アトムほどではないが、相当なものである。
鈍い音が聞こえたかと思うと、シンディはこじ開けるのに成功した。
「行きますよ」
「OK!」
どうやらこのドアは非常階段のドアだったらしい。
入ると、階段があった。
取りあえず、上の方に泳いで行くと、
「ぷはっ!」
水の上に出た。
踊り場に上がる。
「まだ空気があるわ」
「もしこの辺りが無事なフロアなのであれば、この先を進むとホールに行けるはずです」
「分かったわ」
取りあえずここで酸素ボンベなどを取り外し、ウェットスーツは着たままで、奥へ進むことにした。
2人を待ち受けるものとは一体何か?