“ボーカロイドマスター”より。まだ続き。
南里の葬儀が終わり、そろそろ1ヶ月が経とうとしていた。つまり、まだ四十九日は明けていないということだ。
それでも敷島達は南里の遺品整理を行わなくてはならなかった。
この1ヶ月、色々とあった。
それを一筆するのは難しいが、まずはエミリーが遺言の“一部”を話した。それは南里の遺産相続のことで、案の定というか、唯一の弟子で在り続けた平賀に譲るというものだった。ロボット研究分野で名を馳せた南里に師事したがる若い研究者は多かった。しかし南里の性質上、最後までついて来られたのは平賀ただ1人とされる。赤月は大学で研究室が同じだったというだけで、特に師事しているというつもりは無かった。
「つまりはこの研究所、平賀先生のものということになりますよ?」
「そうですねぇ……。でも自分は既に大学に研究室がありますし、家でも十分研究はできますから。ここは財団か大学に譲ろうかと」
「大日本電機でも、さすがに要らなさそうですね」
「本当に大丈夫なんですか、敷島さん?」
悪は栄えずというか、大日本電機が外国企業からM&Aを受ける可能性が俄に出てきた。もしそうなれば、エミリーの量産化どころではなくなるだろう。ヘタすると七海やボーカロイドの量産化プロジェクトそのものが無かったことにされる恐れがある。
「まだ私若いですから、リストラされた場合の再就職先もすぐに見つかりますよ、きっと」
「何でしたら、財団関係で何か仕事が無いか探してみますよ?」
「いや、ありがたい話ですが……」
「でも、せっかくボーカロイド・プロデューサーとして、脂が乗ってきたところなのに……」
「赤月先生の方が実力は上ですよ」
「ナツはそもそも研究者ですから。専門のプロデューサーにはなれません」
「ねぇ、ちょっと!これ、どういうこと!?」
MEIKOが新聞紙を持ってくる。そこにも、大日本電機がM&Aを受ける可能性が高いという記事が掲載されていた。
「プロデューサーが所属されている部門が整理される恐れがあるそうですよ?」
KAITOも深刻な顔をしていた。
「もう南里ロボット研究所も無くなるのに、兄ちゃんいなくなっちゃ嫌!」
「あのなぁ、お前ら」
平賀が呆れる。
「敷島さんには敷島さんの人生があるんだ。お前達だって財団直轄管理になったことだし、今後のことについても何も心配ないから」
「そういうことじゃないYo!」
「そうですよ。プロデューサーあってのボク達だったのに!」
「俺自身、どうなるか分からないんだ。大日本電機自体が無くなれば、俺もそこでの職を失うことになるわけだし、最悪お前達とはお別れになるかもしれない」
「ミクが1番悲しみます」
ルカは俯き加減に言った。
「そのミクだって、大日本電機が無かったら会うこともなかったんだ。しょうがないよ」
「とにかくだ。敷島さんだって大変なんだ。あまり未来のことは話さないようにしよう。何かあったら敷島さんの方から話してくれるから。この話は取りあえずこれで終わり。分かったな?」
「……はい」
その頃、のぞみヶ丘中央公園では……。
「……足元は暗いけど♪ただひたすら信じて進もう♪例えこの先♪絶望が待ってても♪希望が待ってても♪……」
ミクが1人歌っていた。歌い終わると、たまたまそこにいた近所の住民達が拍手をしてくれた。
「さすがボーカロイド!」
ミクは住民達に向かって、何度かお辞儀をした。
そんなミクを見つめる者が1人いた。
ミクが公園から出ると、
「ちょっと、そこのあなた」
長い金髪を向かって左側にサイドテールにした女性は、ミクに話し掛けた。
「はい、何ですか?」
「あなた、ボーカロイドでしょ?この近くに南里ロボット研究所があると思うんだけど……」
「あ、はい。わたし、そこの所属……でした」
ミクは女性が自分と同じ機械の体であると見抜いた。しかし、ボーカロイドのデータには入っていない。その他のメイドロボットやマルチタイプはデータに無いので、そちらかもしれない。
「私、シンディっていうの。訳あって財団には所属してないんだけどね」
ミクはシンディという名のガイノイドを研究所まで案内した。
「南里博士のお墓参りをしてきたんですか?」
「そう。そしてその後、ドクター南里の関係者に御挨拶していこうと思ってね」
「そうなんですか」
そういった会話をしながら、ミクはまるで知っている誰かと話している気分になった。ここにいるシンディはもちろん初対面だ。しかし、誰かに似ている。
その時、研究所の中から険しい顔をしたエミリーが飛び出してきた。
「初音ミク!そいつから離れて!!」
エミリーは既に右手をマシンガンに変形させていた。
「えっ!?」
その時、気づいた。エミリーに似ていると。
「別に、戦いを挑みに来たわけじゃないのよ。エミリー姉さん」
「何だ何だ?!」
「どうした、エミリー!?」
その時、平賀が気づいた。
「あっ、お前……?!」
「お久しぶりね、太一坊ちゃん」
「シンディ!お前……稼動してたのか!」
「平賀先生、誰です?」
「彼女の名はシンディ。敷島さんの言葉を借りれば、“ドクター・ウィリー版ターミネーチャン”です!」
「な、何ですって!?」
南里の葬儀が終わり、そろそろ1ヶ月が経とうとしていた。つまり、まだ四十九日は明けていないということだ。
それでも敷島達は南里の遺品整理を行わなくてはならなかった。
この1ヶ月、色々とあった。
それを一筆するのは難しいが、まずはエミリーが遺言の“一部”を話した。それは南里の遺産相続のことで、案の定というか、唯一の弟子で在り続けた平賀に譲るというものだった。ロボット研究分野で名を馳せた南里に師事したがる若い研究者は多かった。しかし南里の性質上、最後までついて来られたのは平賀ただ1人とされる。赤月は大学で研究室が同じだったというだけで、特に師事しているというつもりは無かった。
「つまりはこの研究所、平賀先生のものということになりますよ?」
「そうですねぇ……。でも自分は既に大学に研究室がありますし、家でも十分研究はできますから。ここは財団か大学に譲ろうかと」
「大日本電機でも、さすがに要らなさそうですね」
「本当に大丈夫なんですか、敷島さん?」
悪は栄えずというか、大日本電機が外国企業からM&Aを受ける可能性が俄に出てきた。もしそうなれば、エミリーの量産化どころではなくなるだろう。ヘタすると七海やボーカロイドの量産化プロジェクトそのものが無かったことにされる恐れがある。
「まだ私若いですから、リストラされた場合の再就職先もすぐに見つかりますよ、きっと」
「何でしたら、財団関係で何か仕事が無いか探してみますよ?」
「いや、ありがたい話ですが……」
「でも、せっかくボーカロイド・プロデューサーとして、脂が乗ってきたところなのに……」
「赤月先生の方が実力は上ですよ」
「ナツはそもそも研究者ですから。専門のプロデューサーにはなれません」
「ねぇ、ちょっと!これ、どういうこと!?」
MEIKOが新聞紙を持ってくる。そこにも、大日本電機がM&Aを受ける可能性が高いという記事が掲載されていた。
「プロデューサーが所属されている部門が整理される恐れがあるそうですよ?」
KAITOも深刻な顔をしていた。
「もう南里ロボット研究所も無くなるのに、兄ちゃんいなくなっちゃ嫌!」
「あのなぁ、お前ら」
平賀が呆れる。
「敷島さんには敷島さんの人生があるんだ。お前達だって財団直轄管理になったことだし、今後のことについても何も心配ないから」
「そういうことじゃないYo!」
「そうですよ。プロデューサーあってのボク達だったのに!」
「俺自身、どうなるか分からないんだ。大日本電機自体が無くなれば、俺もそこでの職を失うことになるわけだし、最悪お前達とはお別れになるかもしれない」
「ミクが1番悲しみます」
ルカは俯き加減に言った。
「そのミクだって、大日本電機が無かったら会うこともなかったんだ。しょうがないよ」
「とにかくだ。敷島さんだって大変なんだ。あまり未来のことは話さないようにしよう。何かあったら敷島さんの方から話してくれるから。この話は取りあえずこれで終わり。分かったな?」
「……はい」
その頃、のぞみヶ丘中央公園では……。
「……足元は暗いけど♪ただひたすら信じて進もう♪例えこの先♪絶望が待ってても♪希望が待ってても♪……」
ミクが1人歌っていた。歌い終わると、たまたまそこにいた近所の住民達が拍手をしてくれた。
「さすがボーカロイド!」
ミクは住民達に向かって、何度かお辞儀をした。
そんなミクを見つめる者が1人いた。
ミクが公園から出ると、
「ちょっと、そこのあなた」
長い金髪を向かって左側にサイドテールにした女性は、ミクに話し掛けた。
「はい、何ですか?」
「あなた、ボーカロイドでしょ?この近くに南里ロボット研究所があると思うんだけど……」
「あ、はい。わたし、そこの所属……でした」
ミクは女性が自分と同じ機械の体であると見抜いた。しかし、ボーカロイドのデータには入っていない。その他のメイドロボットやマルチタイプはデータに無いので、そちらかもしれない。
「私、シンディっていうの。訳あって財団には所属してないんだけどね」
ミクはシンディという名のガイノイドを研究所まで案内した。
「南里博士のお墓参りをしてきたんですか?」
「そう。そしてその後、ドクター南里の関係者に御挨拶していこうと思ってね」
「そうなんですか」
そういった会話をしながら、ミクはまるで知っている誰かと話している気分になった。ここにいるシンディはもちろん初対面だ。しかし、誰かに似ている。
その時、研究所の中から険しい顔をしたエミリーが飛び出してきた。
「初音ミク!そいつから離れて!!」
エミリーは既に右手をマシンガンに変形させていた。
「えっ!?」
その時、気づいた。エミリーに似ていると。
「別に、戦いを挑みに来たわけじゃないのよ。エミリー姉さん」
「何だ何だ?!」
「どうした、エミリー!?」
その時、平賀が気づいた。
「あっ、お前……?!」
「お久しぶりね、太一坊ちゃん」
「シンディ!お前……稼動してたのか!」
「平賀先生、誰です?」
「彼女の名はシンディ。敷島さんの言葉を借りれば、“ドクター・ウィリー版ターミネーチャン”です!」
「な、何ですって!?」