報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「成田を過ごす」

2017-12-31 13:13:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月28日16:10.天候:晴 千葉県成田市 新東京国際空港(成田空港)第1ターミナル]

 稲生達を乗せたバスが成田空港に到着した。
 鉄道の場合は空港第二ビル、成田空港の順だが、バスの場合は第二ターミナル、第一ターミナル、第三ターミナルの順だからややこしい。

 稲生:「えーと、ここですね。先生、もうそろそろ降りますよ」
 イリーナ:「おー、そうかね。よく寝たわ……」
 稲生:「それはそれは……」

 マリアはローブを着込んだ。

 マリア:「ここも寒そうだな」
 稲生:「そうですね。まあ、冬だから霧は出ないと思いますけど……」
 マリア:「霧?」
 稲生:「成田空港は“霧の空港”と呼ばれるほど、霧の影響を受けやすいんだそうですよ」
 マリア:「魔界のアルカディアシティが“霧の都”と呼ばれるみたいだな」
 稲生:「濃霧の影響で航空ダイヤが乱れるとか、よくあるみたいです」
 マリア:「なるほど」

 バスが停車し、大きなエアーの音がする。
 ここで降りる乗客達がドアの方に向かう。
 稲生達もそれに続いた。
 羽田空港もそうだが、成田空港でもバスターミナルには係員がいて、乗客の荷物の降ろしを行っている。

 稲生:「これがマリアさんので、これが僕のですね」
 マリア:「うん」

 ゴロゴロとケースを引っ張る。
 ローブを着込んでいなければ、とても魔道師には見えない。

 稲生:「着陸は濃霧では難しいわけですが、離陸は意外と行けるらしいですよ」
 マリア:「ほお……」
 稲生:「霧は成田周辺だけで、それが海外にまで続いているわけじゃありませんから」
 マリア:「どちらかというと、商売の方が絡んでる?」
 稲生:「商魂もあるでしょうね」
 マリア:「だろうな。……師匠、大師匠様のお着きになる便はどれですか?」
 イリーナ:「えーと……ANA……」
 稲生:「ANAですね。この第一ターミナルで大丈夫です」
 イリーナ:「ANA5便、16時25分着だわ」
 稲生:「なるほど。それでは、もうすぐですね。急ぎましょう」

 稲生達、到着ロビーへ向かう。

 稲生:「アメリカのロサンゼルスからの航空便のようですが、大師匠様、どうしてそこへ?」
 イリーナ:「ダンテ先生の動きは、直弟子の私にもねぇ……」

 イリーナは首を傾げた。

 マリア:「ま、気持ちは分かります」

 マリアもまた、直属の師匠たるイリーナの動きを把握し切れない時が多々あるからだ。

 到着ロビーで待っていると、どうやら5便が到着したらしい。
 そこからぞろぞろと乗客達がやってくる。

 稲生:「……因みに、ダンテ先生はどのような御姿で?」
 イリーナ:「パイロットの恰好してたりして」
 稲生:「はあ?」
 マリア:「またまた……」

 と、そこへ……。

 ダンテ:「やあ、出迎えご苦労さん」

 グレーのダブルのスーツ上下に黒いハットを被った黒人男性がやってきた。
 ローブの隙間から覗く肌が浅黒いものだから、稲生はダンテが黒人ではないかと予想していた。
 今回の場合、ダンテはローブを羽織っていない。
 まるで、アメリカのロサンゼルスからやってきた黒人マフィアのボスといった感じだ。

 イリーナ:「まるで、暗黒街のボスのような出で立ちですわね?」
 ダンテ:「飛行機の中では、いかにも魔法使いみたいな恰好はできんよ」

 葉巻を咥えればよく似合う見てくれだが、これが本当の姿なのかどうかは分からない。
 これさえ、世を忍ぶ仮の姿かもしれないのだ。
 そんなダンテが稲生とマリアを見て、ニッコリ微笑んだ。

 ダンテ:「キミ達のことは聞いている。常に進歩しているようだね?」
 稲生:「あ、ありがとうございます!」

 そしてマリアにあっては、ダンテは軽々とヒョイと持ち上げる。

 ダンテ:「よくぞ前に進んだ!はっはっは!」
 マリア:「きゃっ!」
 イリーナ:「先生。長旅でお疲れでしょう?ホテルを取ってありますので、まずはそちらで一泊……」
 ダンテ:「おお、そうかね」
 稲生:「ご、ご案内します。こちらです」

 稲生が先頭に立った。
 その横にマリアが着く。

 稲生:「大丈夫でしたか、マリアさん?」
 マリア:「う、うん」

 ダンテの方が体格も大きく、見た目にはまるで親と子ほどの差がある。

[同日17:00.天候:晴 成田空港第一ターミナル、ホテルバス乗り場→両総グランドサービス車内]

 イリーナ:「……ユウタ君、世界を股に掛ける総師範のダンテ先生にはハイヤーでお願い」
 稲生:「え?ダメですか?」
 ダンテ:「いや、いいからいいから」
 マリア:(きっと、ハイヤーの注文の仕方が分からないんだろうなぁ……)

 やってきたバスは路線バスタイプではなく、観光バスタイプ。
 地元のバス会社に運行を委託している。
 ホテルのステッカーを貼っている。
 確かにこのタイプなら荷物室があるので、そこに荷物は置けるだろう。
 車内は至って普通の4列シート。
 当然、トイレなどはない。

 稲生:「もうすっかり暗くなりましたね」
 マリア:「そうだな」

 2人席に座る。
 師匠2人は弟子達の前。

 イリーナ:「先生も、よく寝てらしていらっしゃいますのね」
 ダンテ:「最近のファーストクラスは寝心地がいいからね。でも、キミほどは寝てないつもりだが?」
 イリーナ:「あら、いやですわ、もう……」

 バスはホテルに向かって出発した。

[同日17:15.天候:晴 成田エクセルホテル東急]

 バスが到着した。

 稲生:「それでは今夜、こちらに御一泊を」
 ダンテ:「うむ。立派なホテルだ。一泊だけなのが勿体無い」
 稲生:(僕達だけだったら、東横インでも良かったんだけど……。ホテルバスだけで文句言われるくらいだから、ビジネスホテルにしちゃったら、しばらく謹慎処分食らうんだろうなぁ……)

 ダンテはそんなこと気にしないタイプのようだが、イリーナの顔に泥を塗る形となり、イリーナから処分を食らうものと思われる。

 稲生:「ちょっと受付して来ますので、少々お待ちください」
 ダンテ:「うむ」
 マリア:「(ハイヤーの用意の仕方は分からないのに、ホテルの取り方とチェックインはちゃんと知ってるんだな)ユウタ、私も行く。師匠のカード、忘れてる」
 稲生:「おっと!」

 部屋のカードキーをもらい、エレベーターで客室フロアに向かう。

 稲生:「本当によろしいのですか?確かにスイートは取れませんでしたが……」
 ダンテ:「いいよいいよ。私はイリーナと同じ部屋で寝る。キミ達も、別に一緒の部屋でも良かったんだよ?『仲良き事は美しき哉』だ」
 マリア:「なっ……?いや、その……」

 エレベーターが宿泊する部屋のフロアに到着する。

 稲生:「あ、こちらですよ」

 稲生とマリアは別々にシングルを取っており、イリーナとダンテはツインである。

 ダンテ:「少し落ち着いたら、晩餐を共にしよう。このホテルの中のレストランでいいかね?」
 イリーナ:「もちろんですわ。ご相伴に預かります」
 ダンテ:「キミ達も一緒に来なさい」
 稲生:「は、はい!」
 マリア:「ありがとうございます!」

 師匠2人はツインルームに入って行った。
 マリアはそれで思い出した。
 朝の出発前、イリーナがガーターベルトの付いたセクシーランジェリーを着けていたことを。

 マリア:(そういうことか)
 稲生:「マリアさん、夕食はいつくらいにした方がいいでしょうか?」
 マリア:「いつもと同じでいいんじゃない?19時くらい」
 稲生:「分かりました。いや、予約を入れて行った方がいいのかと思いまして」
 マリア:「そうだな。その方がいいだろう」
 稲生:「了解です。じゃ、また後で」
 マリア:「うん」

 稲生とマリアは隣同士であった。
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“戦う社長の物語” 「四季グループの仕事納め」 2

2017-12-30 22:47:58 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月29日21:00.天候:晴 東京都豊島区池袋 ホテルメトロポリタン池袋]

 四季グループの本社における仕事納めの打ち上げは、近隣の高級ホテルで行われる。

 司会:「それでは皆様、宴もたけなわではございますが、終了のお時間となったようでございます。それでは最後に会長より、本年最後の挨拶を賜りたいと存じます。会長、お願いします」
 敷島俊介:「いよっ!」
 敷島峰雄:「えー、せっかくの盛り上がりのところ、非常に残念ではありますが、時間が来てしまったということで……。中には役員のくせに子供っぽく、別の役員のカツラを釣り竿で釣り上げようとした不届き者もいたわけですが……」
 敷島孝夫:「えっ?いや、あっしはただ、大草専務と釣りの話をしてただけっスよ!?」

 会場内に笑いが起きる。

 峰雄:「本年最後の宴会も盛り上がったこと、心より嬉しく思います。皆さんもとっくにご存知の通り、芸能界は常に目まぐるしく変化を遂げており、業界の雄たる四季グループとしては、何としてでもその時流に乗り遅れてはいけないのであります。従いまして……」
 孝夫:「シンディ、この釣り竿、どこかに隠しておいてくれ」
 シンディ:「隔せって、どこからお持ちになったんですか?」
 孝夫:「バックヤードだよ」
 シンディ:「分かりました」
 峰雄:「……また、政治的な問題も色々とあるところではありますが……」
 孝夫:「バカ、シンディ!そっちじゃない。向こう!」
 シンディ:「自分で片付けて来てくださいよ、もう!」
 孝夫:「分かったから、貸せ!」

 孝夫、シンディより乱暴に釣り竿を引っ手繰る。
 釣り糸と釣り針が大きく振れて、何かに引っ掛かる。

 孝夫:「恐らく、矢沢専務の釣り竿だ。幸いあの人、かなり酔っ払ってて、まだ釣り竿に気づいていない」
 エミリー:「勝手に持ち出ししたりしたら、ダメじゃないですか」
 孝夫:「バレないうちに戻しておくぞ。……あれ?何か引っ掛かってる?うりゃっ!」
 エミリー:「社長、何に引っ掛かったのか確認しませんと!」
 孝夫:「んなこと知らねーし!早いとこ戻さないとバレる」

 孝夫、リールをグルグル巻く。
 そして!

 峰雄:「……来年には社員だけでなく、役員もまた一丸となって……」

 スポッ!

 孝夫:「よし、取れた!急ぐぞ!」
 エミリー:「!!!」
 シンディ:「!!!」

 何故か会場内が凍り付く。

 孝夫:「あ、何だこれ?……あ、ヅラ!?……うそっ!?あれ?だって、大草専務はあっちに……。ん?リーゼントじゃないな。誰の?」
 俊介:「あ、あの、会長。どうか穏便に……」
 峰雄:「
 エミリー:「会長の……のようです」
 シンディ:「あ、あたし、知らない!」
 孝夫:「こ、こりゃとんだ大物を……!いや、何かここ最近、会長の頭がフサフサしてるなぁとは思ったんですが……。そ、それでは皆様、良いお年を!!」

 ダッシュで逃げる孝夫だった。

 エミリー:「社長、待ってください!」
 シンディ:「社長!」

 だが、後で追おうとしたシンディ、峰雄に腕を掴まれる。

 峰雄:「孝夫に伝えておけ。新年の挨拶、楽しみにしているからと……!」
 シンディ:「か、かしこまりました……」

 孝夫、ホテルのタクシー乗り場からタクシーに飛び乗る。

 エミリー:「社長、待ってください」
 シンディ:「社長!」
 孝夫:「早くしろ、早く!」
 運転手:「ど、どちらまでですか?」
 孝夫:「埼玉の大宮まで!高速代はもちろん払うから、それ経由でよろしく!」
 運転手:「か、かしこまりました」

 タクシーは急いで発進した。
 ホテルを出てから酔客の行き交う池袋の町に出る。
 助手席に座っているシンディがリアシートの方を振り向いた。

 シンディ:「会長、お怒りでしたよ」
 孝夫:「参ったなぁ……。まさか、大草専務だけでなく、会長までヅラだったとは……。ヅラならヅラと言えってんだ、全く」

 と、孝夫がムチャクチャなことを言う。
 反省の気持ち、ほとんどゼロである。

 エミリー:「どうなさいます?」
 孝夫:「新年の挨拶ぅ?こちとら、平賀先生の所に挨拶に行く予定なんだよ。予定は変えん」
 シンディ:「い、いいんですか?」
 孝夫:「元々役員やりたくてなったわけじゃないから。財団が崩壊して、ミク達に行き場が無くなって、それが可哀想だったから、しょうがなく起業しただけなんだ。それが伯父さん達の会社の子会社にされただけだから。役員クビでも何でもしろって。その代わり、ミク達の行き場は確保してほしいと」
 シンディ:「社長、あのね……」
 エミリー:「社長。申し訳ありませんが、そのお考えには賛同しかねます」
 孝夫:「エミリー」
 エミリー:「いかに敷島エージェンシーが四季グループ有力企業になっているとはいえ、あくまでも評価は敷島エージェンシーという法人なのです。初音ミクやMEIKOなどの個人ではありません。社長が敷島エージェンシーの代表である以上、社長のグループ内における評価の下落はイコール、ミク達の首を絞め上げてしまうようなものです。社長が役員の地位を追われるだけで済む話ではないと思われます」
 シンディ:「私もそう思う。確かにボーカロイド達のマスターはあなただけど、そのあなたの首を掴んでいるのは俊介社長と峰雄会長だということは忘れない方がいいと思う……思います」
 孝夫:「……分かったよ。ほんと、同族企業ってのは面倒だな」

 敷島は自分のスマホを取った。

 孝夫:「あ、会長の秘書さんですか?敷島エージェンシーの敷島孝夫です。……どうも」

 孝夫の秘書達はここにいるガイノイド達であるが、他の役員の秘書達はちゃんとした人間である。

 孝夫:「……ええ。ですので新年と言わず、今からでもお詫びに……ダメ?いえ、そこを何とか……」

 エミリーとシンディ、顔を見合わせて微笑んだ。

 孝夫:「……すいません。それじゃ、明日……はい」

 敷島は電話を切った。

 孝夫:「明日、お詫びに行く。菓子折り、見繕っておいてくれ」
 シンディ:「はい!」
 エミリー:「かしこまりました」

 敷島が電話を終えた頃、既にタクシーは首都高速5号線を北上していた。
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“大魔道師の弟子” 「見習魔道師の帰省旅行」

2017-12-29 20:37:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月28日10:00.天候:雪 長野県白馬村 白馬八方バスターミナル]

 村のバスターミナルの前に、1台の高級車が止まる。
 その中から降りてきたのは、稲生とマリアとイリーナ。
 トランクを開けてもらい、イリーナの操る幻魔獣が化けた寡黙な運転手が荷物を降ろした。

 稲生:「吹雪じゃないけど、凄い雪だ。早く中に入りましょう」

 スキーで有名な村なだけに、冬季の積雪は凄いものだ。
 3人は急いでターミナルの中に入った。

 稲生:「10時15分発、成田空港行きです。まだ少し時間がありますね」
 イリーナ:「そうね。ゴメンね、付き合わせちゃって……」
 稲生:「いえ……」

 ダンテ一門の創始者であり、総師範でもあるダンテ・アリギエーリがアメリカから来日することが分かった。
 その為、日本を拠点としているイリーナ組が出迎えることになったのである。
 日本を拠点としている組はポーリン組もあるが、実際はエレーナが単身で修行しているだけであり、当の師匠たるポーリンは魔界王国アルカディアの宮廷魔導師を務めており、リリアンヌもまた魔王城で修行していることもあってか、実際の拠点は魔界ということになる。
 また、アナスタシア組にあっては、あくまでも日本にも中継点を設けているというだけであり、実際の拠点はロシアである。
 その為、名実共に拠点になっているイリーナ組に白羽の矢が立つのは当然だった。

 稲生:「この時期は成田空港や羽田空港にもバスが出ているので助かりますよ」

 稲生はバスの乗車券を見た。
 10時15分に出発して、16時10分に成田空港第1ターミナルに到着することになっている。
 そして今日は成田空港近辺のホテルに一泊し、翌日に稲生とマリアは大宮へ、イリーナとダンテは東京へと移動する。

 稲生:「でも、いいんですか?僕達まで同じホテルに泊まった上、明日は別行動でいいって……」
 イリーナ:「本来は私達、ダンテ先生の直弟子だけが集まる会合があるの。だから、あなた達は先に行っていいわ」
 稲生:「分かりました」

 そんなことを話しているうちに、成田空港行きのバスがやってきた。

 稲生:「スーパーハイデッカーだな……」

 通常の観光バスや高速バスよりも、客席の高さが更に一段高いタイプを言う。
 高速バスにも使用されることはあるが、あまり無いパターンだろう。
 眺望には優れているが、スピード感はその分落ちる。
 大きな荷物はトランクに預け、車内に入ると……。

 稲生:「3列シートだ……」

 但し、夜行バスでお馴染みの独立3列シートではない。
 進行方向右側に1人席が、左側に2人席が並んでいるタイプであった。
 そして、どこにもトイレは見当たらない。
 座席自体は広く、長距離向けである。

 稲生:「おっ、Wi-Fi入る」
 マリア:「良かったな」

 マリアの人形、ミク人形とハク人形は荷棚という定位置はお約束。
 イリーナは1人席に腰掛けると、すぐ寝入る体勢を取った。
 尚、毛布付きである。

 イリーナ:「雪なんて、日本に来なきゃ体験できないよ」

 イリーナはバスに乗り込む僅かな隙についた雪を払い落した。

 稲生:「御冗談でしょう?ロシアじゃ……」
 イリーナ:「あの、クソ寒い所だから必ず雪が降るってわけじゃないからね?」
 マリア:「ロシアでも雪が沢山降る所と、そうでない所があるんだ。師匠の場合は、降らない地域の生まれってこと」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「因みにアナスタシア師は、雪が沢山降る地域出身」
 稲生:「なるほど……」

 バスは9割程の乗客を乗せて、10時15分に出発した。
 尚、乗り込む際にチラッと座席表を見ると満席っぽかったから、途中の白馬駅前や白馬五竜バス停からも乗客が乗り込んでくるのだろう。
 大型バスならではの大きなワイパーブレードが、規則正しく動いて雪をこそげ取っているのがフロントガラスを見れば分かる。
 成田空港行きならではの外国人乗客もそれなりに多かったが、白人客はどうもイリーナとマリアだけのようだった。
 あとは中韓からの旅行客辺りか。
 それっぽい言語が、車内のあちこちから聞こえてくる。

 マリア:「夕方ぐらいに着くみたいだけど、これはランチタイムとかあるの?アメリカのグレイハウンドみたいに」
 稲生:「いや、無いっぽいですね。途中休憩地で買い込むしか無いみたいです」
 マリア:「そうか……」

 マリアはローブを脱いだ。
 その下の緑色のブレザーが稲生の目に飛び込んでくる。

 稲生:「因みにこの寒い中、アイスクリームは……」
 ミク人形:「食べる!」
 ハク人形:「食べる!」

 既にアイスの棒を持って主張するマリアの手作り人形が2体。
 尚、かつてはフランス人形のようなドレス、その次はメイド服を着ていたのだが、今は着物に変わっている。
 すっかり気に入って、今では普段から着るようになってしまった。
 但し、人間形態になった場合はその限りではなく、メイド服に戻っている。

 稲生:「やっぱり……」
 マリア:「最初の休憩地は?新宿行きと同じ所か?」
 稲生:「いや……東部湯の丸パーキングエリア?という所みたいですね。その次が三芳……ん?埼玉県?あれ?もしかして、新宿行きと経路が違う?」

 そう。
 バスタ新宿行きは中央高速を通るのに対し、成田空港行きは上信越道と関越道を通るというルートである。

 稲生:「ふーん……?どうしてだろ?」
 マリア:「何かヤバいのか?」
 稲生:「いえ、そんなことはないと……思いますけど。ま、僕は初めて通るルートですね」
 マリア:「いや、私もだって。師匠は……」
 イリーナ:「クカー……」
 マリア:「論外……だな」
 稲生:「は、はあ……」

 バスは途中の白馬駅前、白馬五竜バス停で乗客を乗せると、ついに満席となった。
 但し、圧迫感があまり無いのは、独立ではないとはいえ3列シートであり、シートピッチもそれなりに広く取られているからであろう。
 トイレが無いのがやや不安だが、予言者の能力も持つイリーナが暢気に寝ているので、まあ大丈夫なのだろう。
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“戦う社長の物語” 「四季グループの仕事納め」

2017-12-28 19:30:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[12月28日18:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 エミリー:「社長、準備ができました」
 敷島:「よし、行こう」

 敷島は社長室の外に出ると、会議室に向かった。
 そこでは椅子と机が片付けられ、代わりにケータリングで注文した料理と飲み物が乗っていた。

 井辺:「社長、全員揃っております」
 敷島:「ありがとう。えー、それでは……」

 敷島は社員達の前に立った。
 今では各ボーカロイド達に1人の専属マネージャーが付くまでになっている。
 総合プロデューサーの井辺以下、各マネージャー達は人間である。

 敷島:「今年1年、皆さんのおかげで無事に乗り切ることができました。あいにくとNHK紅白には出れませんでしたが、年末特番やお正月特番の仕事はありますし、その収録も無事に終わっています。来年はもっと新しいことにチェレンジして行きたいと思いますので、皆さんの協力をお願いします。それでは……無礼講とは敢えて言いません。自分もこれで本社に行ったら、『無礼講という名の気づかい』をさせられるんでw」

 社員達が笑いが漏れる。

 敷島:「それでは、まずは乾杯しましょう。かんぱーい!」

 因みにボカロ達が飲むのは機械オイルだったり、或いは人間でも飲めるエチルアルコールだったり……。

 篠里:「社長、何かあったんですか?最後のコメント」

 初音ミクのマネージャーが眼鏡をキラッと光らせてやってきた。

 敷島:「いや、何でも無いよ、うん。何でも」
 鏡音リン:「今年の本社の新年会、無礼講だってんで、酔っ払った勢いで大草専務のヅラを取っちゃったんだよね〜」
 敷島:「コラコラコラ!」
 KAITO:「社長、そんなことやっちゃったんですか?」
 MEIKO:「それでしばらくの間、役員会を出入り禁止になったんですって」
 敷島:「だから俺は役員なんてツラじゃないって、何度も社長や会長に言ったんだけどねぇ!」
 井辺:「しかし、いくら当社が子会社だからといっても、今やグループの有力企業になりました。そこの社長が本社の役員になっていないというのは、対外的にも問題があると判断されたのでしょう」
 敷島:「よく、役員一覧紹介ってのが会社の公式サイトや社内報に出て来たりするだろ?うちもそうなんだけど、それがピラミッド形式で紹介されるわけだ。今のトップは敷島峰雄会長と俊介社長だ。その更に上に、敷島孝之亟最高顧問がいたわけだが……」

 孝之亟はシンディの膝の上で、眠るように臨終した。

 敷島:「俺は最下層の執行役員だよ」
 エミリ―:「最下層でも役員は役員です」
 敷島:「その最下層の執行役員が、社長達の下の雛壇にいる専務のヅラを取っちゃったってんじゃ……な?」
 緒方:「よく、無事でしたね」

 と、巡音ルカのマネージャーの緒方。

 敷島:「幸い、敷島HAHAHAプロダクションの代表さんがツッコミ入れてくれたから良かったけどさ……」

 四季グループに所属しているお笑い事務所である。
 お笑い芸人専門プロダクションということもあって、そこの代表役員もボケとツッコミに長けた人物であったようだ。

 敷島:「とにかく、役員であっても『無礼講という名の気づかい』は付いて回るということだ。だから、俺は皆にそう名言するつもりはないよ」
 リン:「だってさ。じゃあ、レン外して」
 レン:「うん」

 リン、右手に装着したマシンガンの取り外しに掛かる。

 敷島:「何をするつもりだったのかな?」
 井辺:「社長の御英断のおかげで、騒ぎにはならずに済みそうです」
 敷島:「これでも、こいつらとは長い付き合いだからさ」

 敷島は苦笑してクイッとビールを煽った。

[同日19:30.天候:晴 敷島エージェンシー→タクシー車内]

 最後に一本締めをした後、敷島とエミリーは事務所をあとにした。

 エミリー:「『良いお年を』という挨拶、これで何度目でしょうか?」
 敷島:「カウントしてたら、キリが無いよ」

 エレベーターに乗り込んで、車寄せと地下駐車場のある地下階へ向かう。
 他の企業も入居しているビルである為、車寄せにはそこの役員車やハイヤーなどが待機していることも多々ある。
 そんな中、黒塗りタクシーが1台止まっていた。

 敷島:「あれかな?」
 エミリー:「そうです」

 専用の役員車を与えられていない敷島。
 他のそういった役員はハイヤーを定期契約しているのだが、敷島は「成金みたいだから嫌だ」と頑なに拒否している。
 因みに役員で、専用の役員車を割り当てられている場合、その役員車を運転するのはタクシー会社から派遣されているドライバーであることが多い。
 もちろん、ドライバー専門の派遣会社なるものも存在する。
 四季グループでは、一括して運転手の派遣からハイヤーからタクシーまで、1つの会社で済むことができる大手タクシー会社と契約していたりする。

 運転手:「敷島様ですか?」
 敷島:「そうです。お願いします」
 運転手:「どうぞ」

 タクシーに乗り込む敷島とエミリー。

 エミリー:「東京駅までお願いします」
 運転手:「東京駅ですね。東京駅はどちらに着けましょう?」
 エミリー:「八重洲口でお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 丸の内口だと反対側になる。
 日本橋口だと東海道新幹線に乗る分には便利だが、JR東日本やJRバスに乗ろうとすると不便である。
 タクシーが走り出す。

 敷島:「この分なら、東京駅始発の上野東京ラインに間に合うな」
 エミリー:「社長、そろそろハイヤー契約をなさった方が……」
 敷島:「何言ってるんだ。俺なんか都営バスでも十分なくらいだよ。このタクシーでも贅沢なくらいだ」

 知らない人は本当に知らないみたいなので解説しておくが、都内で走る黒塗りタクシーはそれ以外の塗装のタクシーと料金は同じである。

 エミリー:「それに、新幹線定期は使わないのですか?」
 敷島:「ただでさえ学生は冬休みで新幹線は混んでるんだ。ましてや、世間様は俺達と同じで今日が仕事納め。中にはそれが終わってから、すぐに新幹線に乗る客もいるだろう。混雑を避ける為、むしろ今日は在来線の方がいいくらいだ」
 エミリー:(ハイヤー契約すれば、そんなこと考えなくてもいいのに……)

 ドア・ツー・ドアで、会社から自宅まで直行である。
 まあ、渋滞の心配をしなくてはならなくなるが。

 敷島:「明日は本社の仕事納めに顔を出さなくちゃな……」
 エミリー:「本社は一日遅いのですね」
 敷島:「本社は何だかんだ言って忙しいんだよ。明日はシンディにも出てもらう」
 エミリー:「コンパニオン代わりですね」
 敷島:「役員のオッサン達、俺の秘書を何だと思ってるんだ。また大草専務のヅラでも取ってやるかな」
 エミリー:「その大草専務の御指名なんですよね、シンディは?」
 敷島:「シンディの放つ祝砲の風圧で、ヅラを飛ばしてやるってのはどうだろう?」
 エミリー:「どう計算しても絶望的なシミュレーションしかできませんので、賛同しかねます」
 敷島:「ちっ……」

 タクシーは夜の東京を疾走した。
 尚、四季エンタープライズの仕事納めは無事に終わったことだけは報告しておく。
 敷島個人のことについては、【お察しください】。
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“私立探偵 愛原学” 「探偵達のクリスマス」

2017-12-28 10:16:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月22日15:00.天候:晴 東京都北区王子 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 ボス:「ほお……?他の者達は自分の家や事務所でクリスマスパーティーをやっているというのに、キミ達は店を使うとは……。なかなかやるねぇ……」
 愛原:「この前のペンション“ドッグ・アイ”の事件解決で高い報酬も頂きましたし、高橋君や高野君にも何か労いをと思いまして……」
 ボス:「まあ、良かろう。25日は休業か」
 愛原:「いや、ちゃんと営業しますよ。パーティーはその後」
 ボス:「そこはしっかりしているか。まあ、良かろう。最近のキミ達の働きぶりには、私も一目置かせてもらっている」
 愛原:「ありがとうございます」
 ボス:「キミ達のことは信用している」
 愛原:「ははっ、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
 ボス:「まあ……キミ達の年末年始は洋上になるし、今のうちに楽しんでおきたまえ」
 愛原:「は、はい。……それでは、失礼致します。……はい」

 私は電話を切った。

 愛原:「よし!ボスからのお許しが出たぞ!」
 高橋:「おおっ!」

 いつもはクールなイケメンを振る舞う高橋君、テンションが上がると年齢相応に見える。
 書類上は20代前半なのだが、未成年に見えることもあるし、30歳過ぎに見えることもある。

 高野:「ていうかクリスマスの計画は立てたのに、ボスに連絡忘れたって、どういう天然ですか」
 愛原:「いやあ、ボスからの電話で忘れてた」

 私が頭をかいていると、インターホンが鳴った。

 高野:「はい、どちら様でしょう?」

 高野君がインターホンに応対する。

 配達員:「こんにちはー!宅急便です!」
 高野:「はい、どうぞ」

 高野君は今やうちの事務所の事務員として、しっかりやってくれている。

 配達員:「ありがとうございましたー!」
 高野:「お疲れ様です」

 高野君が持って来たのは、明らかに書類が入っているであろう物。

 高野:「先生宛てです」
 愛原:「誰からだい?」
 高野:「全世界探偵協会日本支部」
 愛原:「もしかして、年末年始絡みかなぁ……?」

 私は厚紙のパックを開けた。
 すると、やはりそうだった。

 愛原:「全世界探偵協会日本支部主催の船旅だ。年末年始は豪華客船を貸し切って船旅だとよ」
 高野:「凄い……!」
 高橋:「どういう経緯でこんなことを?」
 愛原:「知らん。えーと……船の名前が……。大日本汽船“顕正”号」
 高橋:「ちょっと調べてみます」

 高橋君はすぐにネットで調べてみた。
 大日本汽船と言えば、有名な船会社ではあるが……。

 高橋:「! 先生、何かおかしいですよ!?」
 愛原:「何が?」
 高橋:「大日本汽船は当然今でも存在していますが、顕正号なる船は在籍していません!」
 愛原:「どういうことなんだ?」
 高野:「大日本汽船は大きな船会社だから、その関連企業がいくつも存在するよ。その関連企業なんじゃないの?よくあるじゃん。親会社の名前を使うっての」
 愛原:「なるほど」
 高橋:「……いや、そんなことはない……です。……これ、見てください。顕正号の写真です」
 愛原:「おおっ、立派な船じゃないか。“飛鳥”くらいの大きさかな?それより一回りは小さいか?」
 高橋:「それは問題じゃないです。これを見てください」

 高橋が更に画面を下にスクロールさせる。
 すると……。

 愛原:「『2012年3月31日を以って、弊社の籍より離脱。同年4月1日より、アメリカの船会社スターオーシャン・カンパニーに引き取られる。2017年4月1日より再度弊社に買い取られ、現役就航中』……変な経歴」
 高野:「大日本汽船は東日本大震災の影響で、一時期経営が傾いたそうです。それで所有していた船をいくつか手放さないといけなくなったって、当時のニュースで言ってましたね」
 愛原:「それで今は経営が安定している?」
 高野:「インバウンド事業が今は盛んなので、それに上手く乗れたようです。それで、あの時手放した船を買い戻したんだと思いますね」
 愛原:「なるほどなぁ……」
 高橋:「それでですね、先生。ちょっとヤバそうな話があるようでして……」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「この船を数年所有していたスターオーシャン・カンパニーなんですが、アンブレラの後を継いだネオ・アンブレラの関連会社らしいんですよ」
 愛原:「な、何だってー!?何で製薬会社が船会社なんてやってるんだ?」
 高橋:「そ、それは分かりません」
 愛原:「何だか嫌な予感しかしないな。ロクでもない年末年始になりそうだ」
 高橋:「どうします?バックレますか?」
 愛原:「家で炬燵にみかん食いながら、紅白観てる方が楽しそうだなぁ……」

 私は考え込んだ。
 もちろん、考え過ぎと言えば考え過ぎだ。
 今はちゃんとした日本の船会社が所有して、今でも鋭意運行中なのだから。
 それに、豪華客船なんて一生に一度乗れるかどうかだからなぁ……。

 愛原:「ま、いいや。とにかく、クリスマスパーティーやるのが先だ。それから決めよう」
 高野:「は、はい」

 もちろんドタキャンなんてしようものなら、ボスからもそっぽを向かれて、2度と仕事を斡旋してもらえなくはなるだろうな。

[12月25日19:00.天候:晴 東京都北区王子 某飲食店]

 私の行き着けの小料理屋に行く。

 愛原:「女将さん、今日はよろしくー!」
 女将:「どうぞどうぞ。もう準備できてますよ」

 私はホールのケーキを買ってきた。

 高橋:「クリスマスパーティー……。少年院以来です」
 愛原:「少年院でもやるんだ」
 高橋:「ヤクのいいのでキメたり……いや、何でもないです」
 愛原:「聞かなかったことにする。女将さん、取りあえずビール!」
 女将:「はい。もうピッチャーに入れてありますよ」
 高橋:「先生、どうぞ」

 高橋が私のグラスにビールを注ぐ。

 愛原:「それでは始めよう!メリークリスマース!」
 高野:「因みにこれ、忘年会だったりします?」
 愛原:「どうかな?顕正号がちゃんとした船旅であるのなら、あっちがむしろ忘年会兼新年会になるだろう」
 高野:「ですよね」
 愛原:「ま、ま。とにかく今年一年間、お疲れさん。高橋君も高野君も、よく頑張ってくれた」
 高橋:「俺こそ、先生から色々教わりました。ありがとうございます」
 高野:「私は言われたことをやってるだけなんて、大したことないです」

 私の事務所としての忘年会は、実質これだったと思う。
 結局のところ、私達は協会主催のツアー、顕正号への乗船を決めたのである。
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