報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「明かなる真相」

2014-03-31 23:59:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[18:00.マリアの屋敷・ダイニングルーム 威吹、マリア、イリーナ]

「いつまで怖い顔してるの?お昼から何も食べてないんでしょう?別に何も仕掛けてないから、遠慮しないでどんどん食べて。おかわりならいっぱいあるから。……あいにくと、日本酒とか焼酎とかは置いてないんだけど……」
「ふざけるなっ!!」
 威吹は激昂して、思い切りテーブルを強く叩いた。
 テーブルの上には豪華な料理が並んでいたが、その衝撃で、赤ワインの入ったグラスが床に落ちた。
 幸いカーペット敷きになっているので、グラスの破損は免れた。
 それでも、メイド服を着たフランス人形が慌てて片づけ始める。

 テーブルを挟んで向かい側には、死んだはずのマリアとイリーナが何食わぬ顔で座っていた。
 玄関のドアを開けて屋敷からの脱出を図ったユタ達の前に現れたのが、この2人だった。
 最初、真のラスボスのようなものがいて、自分達に幻術を掛けたのかと思った。
 しかし、実は本物で、ものの見事に女魔道師達の魔術に引っかかっただけだと分かった時、ユタは泡吹いて倒れてしまい、今もまだ客室で寝かされている。
 その辺まだ冷静だった威吹が、代わりに魔道師達に詰問していた。
「お前達はユタの心を傷つけたんだ!ちゃんと説明しろ!!」
「だーかーらぁ、さっきから説明してるじゃない。ね?」
 イリーナはおどけて、ミク人形を抱き上げた。
 ミク人形は照れ笑いを浮かべながら、『ドッキリ』と書かれたプラカードを持っている。
 狂ったように笑い、ユタ達を襲って来たミク人形もまた偽者だったのだ。
「稲生君の内なる霊力を確認するためだって。あなたも見たでしょう?稲生君の異能を……」
「……師匠、ギャグはいいですから」
 マリアがポツリと、魔術の師に突っ込んだ。
「ギャクじゃないのよ。あの霊力は恐ろし過ぎる。早いとこ制御法を確立させないと、いずれ暴走して威吹君だけでなく、己自身を滅ぼすことにも繋がる。あなたもそれは避けたいでしょう?」
「ユタは信仰者だ。仏への信仰を辞めさせ、原点回帰たる稲荷信仰に戻せば良かろう」
「いいえ。実は今の日蓮仏法の方が、1番抑え込まれてはいる。もしこれが顕正会仏法だったら、とっくに稲生君自身が黒コゲの焼死体になっていたでしょう」
「確かに寺に出入りするようになってから、霊力が弱まっているようだが……。それならそれで良いのではないか?
「でも、ここ最近ダメみたいね」
「ダメだと?」
「稲生君の霊力の増すスピードの方が速くなってる。もはや仏法だけでは、どうしようも無くなるわね」
「ユタのヤツ、そんな……」
「稲生君、もしかしたら、アイツに似てるから……」
「アイツ?誰だ?」
「その生まれ変わりなのかもしれない……」
 その時、

 ガチャッ

 と、ダイニングルームのドアが開く音がした。

「マリアさん!」
 それはユタだった。意識を取り戻したらしい。
「やっぱり夢じゃない!本当に生きてたんだ!」
「そうよ。ごめんね。荒いことしちゃって。でも、これにはちゃんとした理由が……あ、マリアが……」
 イリーナの言葉が終わらぬうちに、ユタはマリアの所に駆け寄り、その手を強く握った。
「良かったぁ!良かったよぅ……!」
 かぁっと顔を赤らめ、俯くマリア。ユタの手を振りほどこうとはしない。
(ちっ、マズい酒だ)
 威吹はワインを口に運んで、顔をしかめた。
「ああ、そうそう。稲生君の愛の告白は、ちゃんと聞いたから。別に、私的には何もダメ出しする気は無いから。あとは、そっちの人の許可取って」
 イリーナはにこやかに、向かいの椅子に座る銀髪の妖狐を見た。
「い、威吹……?」
 ユタは恐る恐る威吹を見た。
「あー!オレは何にも見てない!聞いて無い!おい、そこの人形!飯のお代りだ!大盛な!」
 威吹はユタ達の方を全く見ずに、メイド人形にライスが盛られていた皿を突き出した。
「おい!そこの人形、うぉっか持ってこい!」
 今度は別の人形に命令する。
「ワインは飲めないのに、ウォッカは飲めるのね」
 イリーナは呆れた顔をした。
 マリアがユタに、そっと耳打ちする。
「公認は断じてできないが、黙認はするということだろう」
「威吹……ありがとう……」
「ふん……」
 威吹はメイド人形が持ってきたウォッカを一気飲みした。
「うっ!くっ……」
「威吹!大丈夫!?」
「ウォッカ一気飲みなんてムチャやるわ……」
「どうしても、現実が受け入れられないのでしょう」

[23:00.マリアの屋敷・リビングルーム ユタ、イリーナ]

「本当にいいんですか?僕なんかがマリアさんと……」
「いいのいいの。あのコはまだ基本的な修行が終わったばかりで、まだ人間だった頃の名残……恋愛感情とかね、それがまだ残ってる。これから本格的に私の後継者となるべく、応用的な修行を積んで行くと、もうそれが無くなっちゃうから。その前に人間だった頃にできなかったことを体験させてあげたいの」
「はあ……」
「ここだけの話、あのコは人間だった頃、楽しい思い出なんて殆ど無かったからね」
「イリーナさん、優しいですね」
「ありがと」
 因みに威吹は酔い潰れて、客室のベッドで爆睡している。
 マリアは風呂に入っていた。
「まあ、私も魔道師になりたての頃は色々あったから。詳しく話すと、あなたの春休みが終わっちゃうから、省略させてもらうけど」
「はは……」
「で、本題。あなた、偽ミカエラと偽メアリーを倒した時、記憶はある?」
「いえ、それが……」
 ユタは首を横に振った。
「何か頭が熱くなって、まあ、キレるっていうんですか……。気が付いたら、ミク人形や赤鬼が死んでたんです」
「なるほど。キレて、霊力が爆発したのね。それで、敵を瞬殺したってわけ」
「僕が!?」
「そう。言わば、超能力みたいなものね」
「ぼ、僕、そんな瞬間移動なんてできませんよ……」
「まあ、それだけが超能力ってわけじゃないんだけどね。とにかく、このままだといずれ暴走して、威吹君を黒コゲにしてしまうかもしれないし、あなた自身が黒コゲになるかもしれない。それだけは確実よ」
「僕にそんな力が……。物体移動もできませんよ?」
 ユタは試しに、誰もいないドアの方に向かって右手を出した。
「師匠、お風呂どうぞ」
 そこへ風呂上がりのマリアが入って来た。
 ノースリーブのワンピースのような寝巻を着ている。
「きゃっ!」
 その時、マリアが仰向けに転倒した。
「ええっ!?」
 幸い、室内に控えていたフランス人形がクッション代わりに身を呈したため、ケガは全く無かった。
「!」
 しかし膝小僧くらいの所にある裾が捲れて、中の下着が見えた。
 慌てて裾を押さえるマリア。
「ぼ、僕、何もしてませんよ!?」
「う、うん……多分ね……」
 イリーナでも判定が難しかったらしい。
「え、えーとね……」
 イリーナは軽く咳払いをした。
「つまり私が言いたいのはね、霊力の暴走を阻止する為にもね、稲生君も魔道師にならないかってこと」
「ええっ!?」
                   もう少し続く。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師たちの企み」

2014-03-30 21:01:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
「ダメです!そっちは行けません!」
「はあ?」
 南側の廊下を通ろうとしたユタと威吹。
 しかし、メアリーが断固拒否してきた。
「玄関に行くには、こちら側の方が近いだろう?」
「ダメなんです。私、明るい所が……」
「ふうん……。じゃあ、鍵を寄越してもらうしかないな?」
 威吹は面倒臭そうに言った。
「まあまあ、威吹。少し遠回りになるけど、北側の廊下を通ろう。確か、そこからでも玄関には行ける」
「ユタがそう言うのなら……」
「ごめんねぇ。威吹、時々気が短くなる時があるんだ」
 ユタは済まなそうに言った。
「いえ……」

 北側の廊下は確かに日が差しにくいせいか、薄暗い。
「この通路から玄関に行けますわ」
 メアリーはニコリと笑った。
「ふん……」
 威吹は妖刀を持って、峰の部分を左肩にトントンと当てていた。
「ユタ。玄関に行く前に、ちょっと寄りたい所がある」
「トイレ?」
「違う。こっちだ」
 威吹が向かった先は、先ほどの殺風景な部屋。
「メアリーとやら。この部屋には入れるか?」
「ここは……ジルコニアの部屋?」
「人形のくせに個室を与えられているとは、贅沢な人形だな」
 威吹は鼻を鳴らした。
「威吹、一対何を……?確かこの部屋は……」
「シッ!」
 ユタが何か喋ろうとするのを、威吹は遮った。
「お前の仲間がこの部屋で待ってるぞ?」
「ジルコニアが?」
「ああ。先に入ってみろ」
「……?」
 メアリーはジルコニアの部屋のドアを開けた。
「!!!」
 本来なら薄暗い部屋だった。
 だが、天井が抜け、真上の2階の部屋の床も抜けてしまっていた。
 なので、今は2階の天窓からの日光が直接この部屋を照らしていた。
 人間のユタでさえ、その眩しさに思わず目を細めるほど。
「とっとと入れ!」
 威吹はメアリーの背中を蹴り押した。
「ぅきゃああああっ!!眩しいぃいいいぃぃぃぃっ!!!」
 メアリーは両手で顔を押さえ、床をのたうち回った。
「い、威吹?」
「どうもおかしいとは思っていたが、あの人形……」
「うっ!?」
 メアリーの姿形が変わって行く。
 見る見るうちに、身長2メートルくらいの大男……というか、まるで赤鬼のようだった。
「鬼族の者か!?」
 威吹は妖刀を構えた。
「何故だ?何故、正体が分かった?」
「あのミク人形ともまた違う、本当の妖怪の臭いがしたからだ。お前、人形ではなかったな?」
「死ねぇえい!!」
 赤鬼は威吹の質問にまともに答えようとはせず、威吹に向かって空中から出した金棒を手に襲ってきた。
「どうやらキノの仲間でも無さそうだから、地獄界に送っても恨まれまい」
 威吹は赤鬼の攻撃を何回か交わした。
「臭いが全然違う。地獄界の獄卒にすら成り得なかったヤツだろう。ユタは下がってて」
 威吹は妖刀を構え直し、更に向かってきた赤鬼の攻撃を素早く交わす。
 力自慢の赤鬼だから、トゲ付きの金棒とまともにやり合うのは危険だ。
 しかし、ミク人形とは違い、赤鬼は金属バットの何倍もの大きさのある金棒を軽々と振るった。
「差し詰め、ミク人形が『中堅』、お前が『大将』といったところか」
 分かりやすく言えば、ミク人形が中ボスで、この赤鬼がこのダンジョン(?)のボスということだ。
「だが、弱い」
 赤鬼が威吹の頭に金棒を振り落した。
「えっ!?」
 威吹は何故か避けず、金棒の直撃を受けた。
「ええーっ!?」
 ユタは驚いた。が、
「くっ……!」
 赤鬼は威吹を倒したというより、むしろ、やられたという顔をした。
 赤鬼が倒したはずの威吹は残像。本体は、
「でやあーっ!!」
 その背後に回っていて、赤鬼の首を刎ね飛ばした。
「やった!……けど、スプラッター!」
 威吹は妖刀に付いた血のりを拭いたが、
「ユタ。まだ油断してはいけない」
「えっ?でも……」
「首と胴体が離れても、ある程度動けるのが鬼というヤツだ。そこは妖狐と違う」
 そう言った後で、
「玄関の鍵だけ頂いて行くぞ」
「そんなものは……無い」
「うわっ!」
 ゴロッと赤鬼の頭部が動き、それが喋った。
「なに!?どういうことだ!?」
 威吹は赤鬼を睨みつけた。
「このオレを完全に倒さねば、あの玄関のドアは開かぬ……」
「げっ!?」
 すると、赤鬼の頭部が浮かび上がった。
 このまま離れた胴体と再びくっつくのかと思ったが、そうではなく、胴体は起き上がって……また新たな頭部が生えた。
「何だ、これ!?」
 ユタが飛び上がらんばかりに驚く。
「ほお……」
 威吹は侮蔑を込めた意味で、目を細めた。
 浮かんでいる頭部の口からは、炎を吐いてきた。
「最近の鬼族の中には、炎を吐くヤツがいるのか」
「感心してる場合じゃないよ、威吹!」
「まあまあ、ユタ。炎の攻撃ってのは、こうやって使うんだよ!」
 威吹は浮かんでいる頭部に向かって、左手を突き出した。
「狐火(強)!」
 左手から青白い炎が火炎放射器のように発射され、赤鬼の頭部をその炎で包み込んだ。
 赤鬼が鬼火のような赤い炎を吐き出したのとは、随分と対照的だ。
 久しぶりに見る、威吹の妖術だった。
 頭部は黒焦げになって、床に転げ落ちた。
「狐火(強)!」
「!!!」
 威吹はもう1発、赤鬼本体に向かって狐火を放った。
 赤鬼は金棒で受け止めたが金棒が灼熱化し、とても持っていられない温度まで上がり、赤鬼は金棒を手放さざるを得なかった。
「お前を地獄に送る前に、ユタが何か話がありそうだ。少しだけ寿命を延ばしてやろう」
「な、何だ?」
「マリアさんとイリーナさんを殺したのは誰!?」
 ユタが赤鬼に聞いた。
「ああ、それは……オレだ」
 赤鬼は、しれっと答えた。
「!!!」
「オレが妖力を放って、まずはミカエラ(ミク人形)を操った。マリアンナは完全にミカエラを信用しきっていたから、殺すのは簡単だった。イリーナを殺したのは知らん。誰かが便乗して殺したのでは?」
 威吹は鼻で笑った。
「喰えぬ女達だったから、お前如きにできるとは思えんな。ユタ、これはやはりあの……ユタ!?」
「くっ……くく……!!」
 ユタの変貌ぶりに、威吹は絶句した。
(怒髪衝天!?)
 その熟語が頭に浮かんだ。そして、急に訪れる恐怖。ユタの怒りの矛先が赤鬼に向いているのは間違いない。
 だが、威吹は自分にもそれが向けられているのではないかと錯覚して、体が震えた。足がガクガク震え、失禁を何とか堪える代わり、持っていた妖刀を落とすほどだった。

「は……はは……ははははは……」
 威吹は半狂乱というか、その場に座り込んで、乾いた笑いを繰り返すしかできなかった。
「はぁ……はぁ……」
 同じ部屋には肩で息をするユタ。
 そしてもう1つは、消し炭と化した赤鬼だったものがいた。
「……威吹」
「はっ!……な、何でござる?」
 思わず侍言葉が出てしまった。
「これで、玄関のドアは開いたんだよね?」
「そ、そのはずでござ……そのはずだ……そのはず……」
「大丈夫かい?妖力、使い過ぎた?」
 ユタは腰が抜けて立てなくなっている威吹に手を貸した。
「そ、そうかもね……」
 威吹はユタの手を借りて、やっと立ち上がった。

(オレは、とんでもない人間を“獲物”にしてしまったのかもしれない……)
 威吹はそんなことを考えていた。
(いや!それでいいんだ!こういう人間は滅多にいないぞ!)
 威吹は不安を振り払った。
 そうしているうちに、玄関に着いた。
「じゃあ、開けてみるよ」
「あ、いや、ここは某(それがし)……もとい、ボクが開けよう。いきなり、外から極悪妖怪が飛び込んで来たら危険だ」
「そう?」
 威吹はドアノブを回した。

 ガチャ……。

「開いた!」
「やった!これで外に出られるよ!」
 ギィィィと威吹はドアを開けた。
「!?」
「うあっ!?」
 だが、外で待ち構えていた者がいた。それは……。
                                        続く
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“ユタと愉快な仲間たち” 「メアリー・ブラインド」

2014-03-29 19:38:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
2050年、全国の6割が人口半分…2割はゼロ(読売新聞) - goo ニュース

 これで広宣流布がしやすくなると思ったが、よくよく考えれば折伏の人材もいなくなるのだから、結局意味が無い人口減少だと最近気づいた。
 過去世で多くの人が成仏できたため、罰ゲームの今生に転生してこないのか、或いは地獄界から期間満了で這い上がれる数がたまたま少ないだけなのか……。
 さしもの日蓮正宗信徒も、地獄界に堕ちている亡者までは折伏できないからねぇ……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 前回の続き。

「えーと……確か、ここがダイニングルームだ」
 ユタが観音開きのドアを開けた。
 中は暗かったが、入ると同時に、まるで人感センサーが感知したかのように、テーブルの上のランプが点灯した。
「びっくりした……!」
「面白い演出しやがって。で、ピアノはどこだ?」
「あれだ、あれ」
 大きなテーブルにはちゃんと純白のクロスが掛けられていて、ご丁寧にナイフやフォークが置いてあり、その間には白い皿まであった。
 そのテーブルの奥には、グランドピアノが置いてあった。
 今は演奏者がいない為、音楽を奏でることはない。
 その為、鍵盤の蓋が閉じられていた。
 開けてみると、普通にピアノの鍵盤があった。
 しかし楽譜が隠されており、それを開くと、
「鍵がある」
「玄関の鍵か?」
「分かんないけど……」
 ユタは首を傾げた。
 楽譜を開いてみると、聞いたことの無い曲名ばかりが書いてあった。
「ん?これは……?」
 最後のページは白紙になっているが、そこに何か書き込まれていた。
「『この子の名前はメアリー。暗い所が好き。明るい所がキライなの。……』?何かの歌の歌詞かな?」
 ユタは読み上げて、そう思った。
「『……皆の為にピアノを弾くのが好きなお人形。でも、暗くならないと弾かないの。本当は部屋の明かりも苦手。明るいと……だ………け………』で終わってる?」
「歌の歌詞か」
 しかし肝心の歌を歌う人形は狂暴化し、ユタが破壊してしまった。
「ユタ、この鍵、戸棚の鍵みたいだ」
「なーんだ……」
 威吹が戸棚の鍵を開けて、扉を開いた。
「!!!」
 その時、戸棚の中に包丁を持ったフランス人形がいたようで、それが飛び出して来て襲ってきた。
「はーっ!」
 威吹は持っていた妖刀で、フランス人形を串刺しにした。
「さすがだ、威吹……」
「ふっ……」
 すると、床に落ちたフランス人形は口をパクパクさせた。
「何だ?」
「屋敷の……東奥……メアリーが……いる……」
 それだけ言って、人形は動かなくなった。
「めありーって何だ?」
「まあ、外国人女性の名前だね。多分、人形の名前だと思うけど……。まあ、行ってみよう」

 どうやらここの人形達には、それぞれ名前が付いているらしい。
「玄関の鍵を持っているブラインドとやらを探しているのだが、どこにいるか教えてくれないか?」
「威吹……」
「そ、それは……」
「なるべく早い方がいいのだが?」
「ガバゴボゲバベバ……!」
 ちなみにここはトイレ。
 ユタが小用に立ち寄った際、掃除用具入れに潜んでいて襲ってきたフランス人形がいた。
 ユタが用を足している間、威吹は水責めの拷問を用いて尋問していた。
「プハッ!」
「1分40秒。今度は3分にチャレンジするか?ん?」
「威吹、何か怖い……」
「ワタシ見ました!すいません!」
 ついに人形は落ちた。
メアリー・ブラインドは屋敷1階の東奥の部屋にいますっ!」
「ああ。メアリーとブラインドって、同一人物だったんだ」
「その話、本当だな?もし嘘だったら……」
「本当です!」
 顔色の悪いフランス人形は何度も頷いた。
「よし。じゃあ、お前がその場所に案内するんだ」
「ええっ!?」
「どうした?お前が1番知ってるんだろう?……嘘だったのか?」
 威吹は金色の瞳をボウッと赤く光らせて人形を睨みつけた。
「い、いえっ、本当です。ご……ご案内致しますです、ハイ……」
 フランス人形、ジルコニアは体を震わせて頷いた。

 東奥に向かう途中、
「あっ、ちょっとこっちの部屋へ……」
「何だよ?」
 前に入った殺風景な部屋だ。
 確か天井が抜けかけているとか……。
「実は、ここで死んでもらうのでしたーっ!!」
 ジルコニアは両目をギラッと光らせると、床に隠されていた回転式拳銃を……。
「あれ?えーと……確か、この辺に……?」
「お前が探しているのはこれかい?」
 威吹は懐から拳銃を取り出した。
「あ、それです。どうも、スイマセン」
「そこに落ちてたぞ」
「へへ……」
「なワケねーだろ!!」
「ですよねーっ!」
 威吹はジルコニアを天井に高く蹴り上げた。
 頭から天井にめり込むジルコニア。
 で、
「うわっ!?」
 早速、天井が崩れ落ちた。
 2階の床ごと抜けたらしく、2階の明かりが落ちてきて、一気に明かるくなった。
「威吹も派手だね」
「いやいや、何の何の」
 ジルコニアは崩れた1階の天井と2階の床の建材の下敷きになり、完全にその稼働を停止した。

 屋敷1階の東奥と言えば……。
「リビングルームだ」
「その付近の部屋という意味だろう」
 リビングルームを覗いてみた。
 そこには威吹の言う通り、血だまりは残っていたが、マリアの遺体が無くなっていた。
「本当だ……」
「だから、どうもおかしいんだ。ひょっとして、今頃イリーナの死体も無くなってるんじゃないか?」
「ええっ!?」
 その時だった。
 隣の部屋のドアが、中から叩かれた。
「助けてください!閉じ込められてるんです!ここから出してください!」
「威吹」
「ふむ……」
 威吹はそのドアのドアノブをガチャガチャ回した。
「確かに鍵が掛かってるな。よし」
 威吹は長い銀髪を1本抜くと、妖力を吹き込んで針金にした。
 それを鍵穴に差し込んで、錠前を引っ掻き回す。すると、カチッと鍵が開く音がした。
「威吹、鍵屋さんになれるね」
「ふっ……」
 そして、ドアを開ける。
「ありがとうございます!」
「キミがメアリー・ブラインド?」
「はい!助けてくれて、ありがとうございました!」
「礼には及ばぬ。それより、玄関の鍵を持っていると聞いたが、本当か?」
「は、はい!」
 メアリー・ブラインドはミク人形と同じくらいのサイズだった。
 しかし最低限それくらいの大きさが無いと、ピアノは弾けないだろう。
「これです」
「よし。それをくれ!」
「いえ。あいにくですが、玄関の鍵はいかなる場合も他人に渡してはいけないと、ご主人様の命令でして……」
「その主がもう既に死んでるのは知らぬか?」
「ええっ!?」
「マリアさんだけじゃない。イリーナさんまで……」
 ユタは悲しそうな顔をした。
「非常事態だ。もうお前に命令を与える主人はいない。だからその鍵をオレ達に渡しても、誰も咎めぬ」
「……では、玄関までご案内致します」
「……まあ、それでもいいか」
「とにかく、1度外に出る必要があるからね」
 先に立つメアリー・ブラインド。長い金髪を向かって左側にサイドテールにしている。

 チラッとユタと威吹を見たその目は、心なしか冷たいように見えた。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「人形の笑い声」

2014-03-29 16:52:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 ユタが狂ったミク人形から逃れてきた場所は、地下実験場の入口だった。
 ここはマリアがこの屋敷に迷い込み、かつ危害を加えようとした人間を連れ込んで魔術の実験をする部屋である。
 ドアを開けると、地下に通じる石段が現れる。
 何故か導かれるように、そこに下りていった。
「うっ……!!」
 そこでユタが見たのは……。
「イリーナさん!?」
 『鉄の処女』と呼ばれる拷問器具によって体中に穴を開けられ、苦悶の表情を浮かべて息絶えたイリーナの姿だった。
「うわああああああっ!!!」
 ユタが再び絶叫を上げると、頭上からドアの開く音がして、
「きゃははははは!死ね死ね死ね死ね!!」
 狂った笑いを上げて飛び降りてくるミク人形がいた。
 手には死神の大鎌から、サーベルに変えている。
 そのサーベルの刃は赤く染まっていた。
「お前、イリーナさんまで……!!」
 ミク人形はギラッと両目を光らせると、サーベルを振り上げて突進してきた。

「くそっ!あのでく人形が……!」
 意識を取り戻した威吹は妖刀を片手に、ユタの行方を探していた。
「と、とにかく、ユタと合流しないと……!」
 威吹は妖狐の鋭い嗅覚を駆使して、ユタのいるであろう場所に向かった。

 ドカーン!

「ど、ドカン?」
 近くから爆発音が聞こえた。
 威吹が爆発音がした方へ走ると、重厚な木製のドアから焦げ臭い臭いがした。
「ここか!?」
 威吹がドア開けると、灰色の煙がもくもくと出て来た。
「火薬でも爆発したのか???」
 威吹は懐から扇子を取り出した。
「えいっ!」
 その扇子を部屋に向かって何回か仰ぐと、煙が部屋の外へと誘導されるように出て行った。
「火事だったら、とっとと離脱しなきゃいけないけど……」
 煙が無くなったので、火事にはなっていないようだ。
「ユタの匂いが……!」
 威吹は石段を駆け降りた。
(な、何たるちゃあ……)
「ユタぁ、そこにいるのか!?」
 威吹は地下室に降りた。
「はぁ……はぁ……」
「うっ!?イリーナ……!……ああっ!?」
 威吹はまずイリーナの死体を見つけ、その後で大きく肩で息をしているユタと、バラバラ且つ黒こげとなったミク人形の姿を発見した。
「ユタがやったのか!?」
「何でなんだ……!何でこんなことに……!」
「こんなでく人形が、イリーナまでも殺せるとは思えんが……」
 威吹は眉を潜めた。
(う……鋭い)
「威吹……イリーナさんを連れ出して」
(ええ〜?)
「どうして?」
「せめて、埋葬してあげなきゃ……。マリアさんも……」
「そのマリアなんだが、ボクが目が覚めた時、既にいなくなってたぞ」
「ええっ!?」
(しまった!)
「魔道師だから、死体も残さずに消えちゃったのか……」
「西洋妖怪のことはボクは知らないけど、確かに妖怪の中には、死んだら死体すら残さず消えるのもいるけど……」
(西洋妖怪じゃなーい!)
「とにかくユタ、どうもおかしい。取り急ぎ、この屋敷から出よう」
「でも、玄関のドアは開かなかったよ?」
「他に出口があるかもしれない。とにかく、ユタがでく人形を倒したんだから、もう大丈夫のはずだ」
「う、うん……」
 地上に上がる階段を登りつつ、威吹は背筋が寒くなった。
「本当にユタが倒したの?あれ……」
「何か……いつの間にかああなってた」
「そうか……。(ユタの霊力が上がってる。霊力を爆発させたアレだ。さくらも破魔矢に霊力を乗せて、似たようなことをしていたからな……)」

「ここは1つ、行ったことの無い場所に行ってみよう」
 威吹はそう言った。
 試しに玄関の方へ行ってみたが、やはり玄関ドアが開くことはなかった。
「それにしても薄暗い屋敷だ」
「廊下はそうだよね」
 と、ユタ。
 それでも場所によっては廊下であっても、窓から春の日差しが差し込んでいる所もあって明るい所もある。
「何か……夜じゃなくて良かったかも……」
 ユタがポツリと言った。
「あっ、ごめん!マリアさんが死んで、イリーナさんも死んで悲しいはずなのに、何か……こんな気持ちになることがあって……」
「いや……それでいいと思うよ。ボクも、夜の西洋屋敷を歩き回るのは不気味だから御免だ」
「威吹が?妖怪なのに?」
 すると、威吹はフッと笑みを浮かべた。
「妖怪だって自分と相性の合わない所は御免だし、魑魅魍魎が心地良いわけでもないんだよ」
 夜の日本屋敷ならいいのだろう。
「でも、あの大量の人形達はどこに行ったんだろう?どこかに隠れてるんだろうか……?」
「あのでく人形が何かしたのかもね」
「それにしたって、跡形も無いよ?」
「まあね」
 威吹は適当にドアを開けてみた。
「中から敵が襲ってきたらどうしよう……」
 威吹がドアを開ける度、ユタは少し下がっているのだった。
「その方が謎解きに繋がるから、ボクはいいんだけど、そういう時に限って何も出て来やしない……」
 実際そうだった。
「この部屋、窓も無いし暗いよ」
「ああ」
 威吹は夜目がよく利く。
 それで部屋の隅々まて見てみたが、
「何も無さそうだ」
 と、肩を竦めた。
「ただ、古い屋敷だよね。この部屋、ヘタすると天井が抜けるかもしれない」
「ええっ!?」
 ユタは天井に目を凝らしたが、暗い天井が抜けるようには見えなかった。
「まあいいや。次行ってみよう」
「う、うん」
 因みに1階の窓を破って脱出するという案もあったが、玄関ドア同様、威吹の力を持ってしても破れることはなかった。

 2階に上がってみる。
 2階は1階よりも明るい所が多かった。
「2階に人形がいるのかなと思ったけど、そうでもないんだな……」
 とはいえ、とある部屋を開けてみると、フランス人形が何体が落ちていた。
 そのうちの1体は起き上がった。
「!」
 威吹は妖刀を構えた。
「あ、あの……私、何もしませんから……!」
 そのフランス人形は喋ることができた。
 警戒する威吹の姿を見て、慌てて両手を上げた。
「キミは誰?マリアさんとイリーナさんのことは知ってる?」
 威吹の後ろにいたユタはひょいと顔を出し、フランス人形に問うた。
「分からない……。私達はいつの間にか、この部屋に閉じ込められて……。でも、大きなことがあったのは確か」
「お前の主とその師匠は死んだようだ。何か心当たりは無いか?」
 威吹は険しい顔と刀の構えを崩さずに聞いた。
「ブラインドが……ブラインドがいない……」
「ブラインド?誰だそれは?」
「いつもピアノを弾いていたコ。それに合わせてミカエラ(初音ミク)が歌ってたの」
「ああ!」
 ユタは思い出した。
 狂気化する前のミクが、ピアノの音色に合わせて歌っていたのを……。
 そのピアノを弾いていた個体が行方不明なのだと、そのフランス人形は訴えた。
「そいつだけでなく、その他大勢の姿も見当たらんけどな。それより、オレ達は玄関以外の出口を探してんだよ。それ、教えてくれよ?」
「玄関ドアが開かないんだ。何か知ってるかい?」
「ブラインドが鍵を持ってるはずよ」
「えっ!?」
「今日の鍵当番はブラインドなの」
「そう来たか……」
「取りあえず、ピアノのある場所へ行ってみよう。確か、ダイニングだ」
「ああ」
 2人はダイニングルームへ向かった。
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小説の途中ですが、ここで普通の日記をお送りします。

2014-03-29 10:16:02 | 日記
 ユタ達が大糸線に乗るシーンがあるので、そちらの資料を集めてみたのだが、高崎線を追われた211系が房総地区へ転属したのは知っていたが、そこからいつの間にか更に長野地区に転属したそうだ。
 つまり、大糸線にも211系がいるということだな。3000番台というから、オール・ロングシートの車両だろう。
 701系の直流版E127系も似たような構造だから、ますます味気無いと思うのだが、どうやら新潟地区のヤツと違い、長野地区のE127系にはクロスシートが装備されていると聞いた。
 しかし、ユタ達が今後乗るであろう電車は211系になりそうだ。
 挿絵家で鉄ヲタの仲間が、よくユタ達が電車を利用しているシーンを描いてくれるのだが、その為に形式を確認してくることが多いので。
「んじゃ、115系で」
 と、誤魔化してみたら、
「大糸線にもう115系は無いよ〜」
 と、見事にたしなめられてしまった。

 因みにこの知り合い、ユタ達が登山しているシーンも描いてくれている。
 但し、あくまで私同様、趣味で描いているだけだとのことで、非公開である。
 私としては、是非ともこのブログにと打診しているところではあるのだが……。
 大石寺の場面では、その写真集は便利だ。
 ユタ達の末寺のモデルは作者の所属寺院ではなく、【検閲により削除】である。
 いや、あまり規模が大き過ぎてもネタにならないんだ、これが(笑)
 埼玉布教区、【検閲により削除】の【検閲により削除】さん、私は学会のスパイではありません。あくまで、小説のネタのための取材です。
 危うく怪しまれて、連行されるところだった。
 にこやかに、
「まあまあ。お茶でも飲んでいきなさい」
 と言われたが、裏を返して言えば、
「学会員のお兄ちゃん、法論して負けたら御受誡しなさい」
 って、ことだろ?これ?
 いや、もう既に法論に負けて御受誡……どころか、勧誡もしてるんですけど……。
 てか、学会畑は歩いたことが無いのだが、いかにそこのお寺では元・顕正会員より元・学会員の方が多いかがこれだけで分かるというね。
 素直にお茶を頂いて、帰り際に御供養出して行けば良かったかな。

 法華講員の中には、私のような変人もいましてですなぁ……。

 変人でも大手振って信仰できるのが日蓮正宗という所でありましてね、キリスト教なら異端者として追放されているかもしれない。

 因みに今連載しているホラーチックな内容のものだが、これは昔ハマったPS1の“クロックタワー2(セカンド)”や“クロックタワー・ゴーストヘッド”、更には“エコー・ナイト”“エコー・ナイト2”をモデルにしていたりする。

 ホラーにチャレンジしてみようかと思ったのだが、あんまり感覚が掴めないんだよなぁ……。
 挿絵家さんは見事に、イッちゃった目をして狂った笑いを浮かべるミク人形を描いてくれたが……。

 さて、末寺に行って添書登山の申し込みとアキバでアニメBD購入してくるか!
コメント (2)
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