[18:00.マリアの屋敷・ダイニングルーム 威吹、マリア、イリーナ]
「いつまで怖い顔してるの?お昼から何も食べてないんでしょう?別に何も仕掛けてないから、遠慮しないでどんどん食べて。おかわりならいっぱいあるから。……あいにくと、日本酒とか焼酎とかは置いてないんだけど……」
「ふざけるなっ!!」
威吹は激昂して、思い切りテーブルを強く叩いた。
テーブルの上には豪華な料理が並んでいたが、その衝撃で、赤ワインの入ったグラスが床に落ちた。
幸いカーペット敷きになっているので、グラスの破損は免れた。
それでも、メイド服を着たフランス人形が慌てて片づけ始める。
テーブルを挟んで向かい側には、死んだはずのマリアとイリーナが何食わぬ顔で座っていた。
玄関のドアを開けて屋敷からの脱出を図ったユタ達の前に現れたのが、この2人だった。
最初、真のラスボスのようなものがいて、自分達に幻術を掛けたのかと思った。
しかし、実は本物で、ものの見事に女魔道師達の魔術に引っかかっただけだと分かった時、ユタは泡吹いて倒れてしまい、今もまだ客室で寝かされている。
その辺まだ冷静だった威吹が、代わりに魔道師達に詰問していた。
「お前達はユタの心を傷つけたんだ!ちゃんと説明しろ!!」
「だーかーらぁ、さっきから説明してるじゃない。ね?」
イリーナはおどけて、ミク人形を抱き上げた。
ミク人形は照れ笑いを浮かべながら、『ドッキリ』と書かれたプラカードを持っている。
狂ったように笑い、ユタ達を襲って来たミク人形もまた偽者だったのだ。
「稲生君の内なる霊力を確認するためだって。あなたも見たでしょう?稲生君の異能を……」
「……師匠、ギャグはいいですから」
マリアがポツリと、魔術の師に突っ込んだ。
「ギャクじゃないのよ。あの霊力は恐ろし過ぎる。早いとこ制御法を確立させないと、いずれ暴走して威吹君だけでなく、己自身を滅ぼすことにも繋がる。あなたもそれは避けたいでしょう?」
「ユタは信仰者だ。仏への信仰を辞めさせ、原点回帰たる稲荷信仰に戻せば良かろう」
「いいえ。実は今の日蓮仏法の方が、1番抑え込まれてはいる。もしこれが顕正会仏法だったら、とっくに稲生君自身が黒コゲの焼死体になっていたでしょう」
「確かに寺に出入りするようになってから、霊力が弱まっているようだが……。それならそれで良いのではないか?
「でも、ここ最近ダメみたいね」
「ダメだと?」
「稲生君の霊力の増すスピードの方が速くなってる。もはや仏法だけでは、どうしようも無くなるわね」
「ユタのヤツ、そんな……」
「稲生君、もしかしたら、アイツに似てるから……」
「アイツ?誰だ?」
「その生まれ変わりなのかもしれない……」
その時、
ガチャッ
と、ダイニングルームのドアが開く音がした。
「マリアさん!」
それはユタだった。意識を取り戻したらしい。
「やっぱり夢じゃない!本当に生きてたんだ!」
「そうよ。ごめんね。荒いことしちゃって。でも、これにはちゃんとした理由が……あ、マリアが……」
イリーナの言葉が終わらぬうちに、ユタはマリアの所に駆け寄り、その手を強く握った。
「良かったぁ!良かったよぅ……!」
かぁっと顔を赤らめ、俯くマリア。ユタの手を振りほどこうとはしない。
(ちっ、マズい酒だ)
威吹はワインを口に運んで、顔をしかめた。
「ああ、そうそう。稲生君の愛の告白は、ちゃんと聞いたから。別に、私的には何もダメ出しする気は無いから。あとは、そっちの人の許可取って」
イリーナはにこやかに、向かいの椅子に座る銀髪の妖狐を見た。
「い、威吹……?」
ユタは恐る恐る威吹を見た。
「あー!オレは何にも見てない!聞いて無い!おい、そこの人形!飯のお代りだ!大盛な!」
威吹はユタ達の方を全く見ずに、メイド人形にライスが盛られていた皿を突き出した。
「おい!そこの人形、うぉっか持ってこい!」
今度は別の人形に命令する。
「ワインは飲めないのに、ウォッカは飲めるのね」
イリーナは呆れた顔をした。
マリアがユタに、そっと耳打ちする。
「公認は断じてできないが、黙認はするということだろう」
「威吹……ありがとう……」
「ふん……」
威吹はメイド人形が持ってきたウォッカを一気飲みした。
「うっ!くっ……」
「威吹!大丈夫!?」
「ウォッカ一気飲みなんてムチャやるわ……」
「どうしても、現実が受け入れられないのでしょう」
[23:00.マリアの屋敷・リビングルーム ユタ、イリーナ]
「本当にいいんですか?僕なんかがマリアさんと……」
「いいのいいの。あのコはまだ基本的な修行が終わったばかりで、まだ人間だった頃の名残……恋愛感情とかね、それがまだ残ってる。これから本格的に私の後継者となるべく、応用的な修行を積んで行くと、もうそれが無くなっちゃうから。その前に人間だった頃にできなかったことを体験させてあげたいの」
「はあ……」
「ここだけの話、あのコは人間だった頃、楽しい思い出なんて殆ど無かったからね」
「イリーナさん、優しいですね」
「ありがと」
因みに威吹は酔い潰れて、客室のベッドで爆睡している。
マリアは風呂に入っていた。
「まあ、私も魔道師になりたての頃は色々あったから。詳しく話すと、あなたの春休みが終わっちゃうから、省略させてもらうけど」
「はは……」
「で、本題。あなた、偽ミカエラと偽メアリーを倒した時、記憶はある?」
「いえ、それが……」
ユタは首を横に振った。
「何か頭が熱くなって、まあ、キレるっていうんですか……。気が付いたら、ミク人形や赤鬼が死んでたんです」
「なるほど。キレて、霊力が爆発したのね。それで、敵を瞬殺したってわけ」
「僕が!?」
「そう。言わば、超能力みたいなものね」
「ぼ、僕、そんな瞬間移動なんてできませんよ……」
「まあ、それだけが超能力ってわけじゃないんだけどね。とにかく、このままだといずれ暴走して、威吹君を黒コゲにしてしまうかもしれないし、あなた自身が黒コゲになるかもしれない。それだけは確実よ」
「僕にそんな力が……。物体移動もできませんよ?」
ユタは試しに、誰もいないドアの方に向かって右手を出した。
「師匠、お風呂どうぞ」
そこへ風呂上がりのマリアが入って来た。
ノースリーブのワンピースのような寝巻を着ている。
「きゃっ!」
その時、マリアが仰向けに転倒した。
「ええっ!?」
幸い、室内に控えていたフランス人形がクッション代わりに身を呈したため、ケガは全く無かった。
「!」
しかし膝小僧くらいの所にある裾が捲れて、中の下着が見えた。
慌てて裾を押さえるマリア。
「ぼ、僕、何もしてませんよ!?」
「う、うん……多分ね……」
イリーナでも判定が難しかったらしい。
「え、えーとね……」
イリーナは軽く咳払いをした。
「つまり私が言いたいのはね、霊力の暴走を阻止する為にもね、稲生君も魔道師にならないかってこと」
「ええっ!?」
もう少し続く。
「いつまで怖い顔してるの?お昼から何も食べてないんでしょう?別に何も仕掛けてないから、遠慮しないでどんどん食べて。おかわりならいっぱいあるから。……あいにくと、日本酒とか焼酎とかは置いてないんだけど……」
「ふざけるなっ!!」
威吹は激昂して、思い切りテーブルを強く叩いた。
テーブルの上には豪華な料理が並んでいたが、その衝撃で、赤ワインの入ったグラスが床に落ちた。
幸いカーペット敷きになっているので、グラスの破損は免れた。
それでも、メイド服を着たフランス人形が慌てて片づけ始める。
テーブルを挟んで向かい側には、死んだはずのマリアとイリーナが何食わぬ顔で座っていた。
玄関のドアを開けて屋敷からの脱出を図ったユタ達の前に現れたのが、この2人だった。
最初、真のラスボスのようなものがいて、自分達に幻術を掛けたのかと思った。
しかし、実は本物で、ものの見事に女魔道師達の魔術に引っかかっただけだと分かった時、ユタは泡吹いて倒れてしまい、今もまだ客室で寝かされている。
その辺まだ冷静だった威吹が、代わりに魔道師達に詰問していた。
「お前達はユタの心を傷つけたんだ!ちゃんと説明しろ!!」
「だーかーらぁ、さっきから説明してるじゃない。ね?」
イリーナはおどけて、ミク人形を抱き上げた。
ミク人形は照れ笑いを浮かべながら、『ドッキリ』と書かれたプラカードを持っている。
狂ったように笑い、ユタ達を襲って来たミク人形もまた偽者だったのだ。
「稲生君の内なる霊力を確認するためだって。あなたも見たでしょう?稲生君の異能を……」
「……師匠、ギャグはいいですから」
マリアがポツリと、魔術の師に突っ込んだ。
「ギャクじゃないのよ。あの霊力は恐ろし過ぎる。早いとこ制御法を確立させないと、いずれ暴走して威吹君だけでなく、己自身を滅ぼすことにも繋がる。あなたもそれは避けたいでしょう?」
「ユタは信仰者だ。仏への信仰を辞めさせ、原点回帰たる稲荷信仰に戻せば良かろう」
「いいえ。実は今の日蓮仏法の方が、1番抑え込まれてはいる。もしこれが顕正会仏法だったら、とっくに稲生君自身が黒コゲの焼死体になっていたでしょう」
「確かに寺に出入りするようになってから、霊力が弱まっているようだが……。それならそれで良いのではないか?
「でも、ここ最近ダメみたいね」
「ダメだと?」
「稲生君の霊力の増すスピードの方が速くなってる。もはや仏法だけでは、どうしようも無くなるわね」
「ユタのヤツ、そんな……」
「稲生君、もしかしたら、アイツに似てるから……」
「アイツ?誰だ?」
「その生まれ変わりなのかもしれない……」
その時、
ガチャッ
と、ダイニングルームのドアが開く音がした。
「マリアさん!」
それはユタだった。意識を取り戻したらしい。
「やっぱり夢じゃない!本当に生きてたんだ!」
「そうよ。ごめんね。荒いことしちゃって。でも、これにはちゃんとした理由が……あ、マリアが……」
イリーナの言葉が終わらぬうちに、ユタはマリアの所に駆け寄り、その手を強く握った。
「良かったぁ!良かったよぅ……!」
かぁっと顔を赤らめ、俯くマリア。ユタの手を振りほどこうとはしない。
(ちっ、マズい酒だ)
威吹はワインを口に運んで、顔をしかめた。
「ああ、そうそう。稲生君の愛の告白は、ちゃんと聞いたから。別に、私的には何もダメ出しする気は無いから。あとは、そっちの人の許可取って」
イリーナはにこやかに、向かいの椅子に座る銀髪の妖狐を見た。
「い、威吹……?」
ユタは恐る恐る威吹を見た。
「あー!オレは何にも見てない!聞いて無い!おい、そこの人形!飯のお代りだ!大盛な!」
威吹はユタ達の方を全く見ずに、メイド人形にライスが盛られていた皿を突き出した。
「おい!そこの人形、うぉっか持ってこい!」
今度は別の人形に命令する。
「ワインは飲めないのに、ウォッカは飲めるのね」
イリーナは呆れた顔をした。
マリアがユタに、そっと耳打ちする。
「公認は断じてできないが、黙認はするということだろう」
「威吹……ありがとう……」
「ふん……」
威吹はメイド人形が持ってきたウォッカを一気飲みした。
「うっ!くっ……」
「威吹!大丈夫!?」
「ウォッカ一気飲みなんてムチャやるわ……」
「どうしても、現実が受け入れられないのでしょう」
[23:00.マリアの屋敷・リビングルーム ユタ、イリーナ]
「本当にいいんですか?僕なんかがマリアさんと……」
「いいのいいの。あのコはまだ基本的な修行が終わったばかりで、まだ人間だった頃の名残……恋愛感情とかね、それがまだ残ってる。これから本格的に私の後継者となるべく、応用的な修行を積んで行くと、もうそれが無くなっちゃうから。その前に人間だった頃にできなかったことを体験させてあげたいの」
「はあ……」
「ここだけの話、あのコは人間だった頃、楽しい思い出なんて殆ど無かったからね」
「イリーナさん、優しいですね」
「ありがと」
因みに威吹は酔い潰れて、客室のベッドで爆睡している。
マリアは風呂に入っていた。
「まあ、私も魔道師になりたての頃は色々あったから。詳しく話すと、あなたの春休みが終わっちゃうから、省略させてもらうけど」
「はは……」
「で、本題。あなた、偽ミカエラと偽メアリーを倒した時、記憶はある?」
「いえ、それが……」
ユタは首を横に振った。
「何か頭が熱くなって、まあ、キレるっていうんですか……。気が付いたら、ミク人形や赤鬼が死んでたんです」
「なるほど。キレて、霊力が爆発したのね。それで、敵を瞬殺したってわけ」
「僕が!?」
「そう。言わば、超能力みたいなものね」
「ぼ、僕、そんな瞬間移動なんてできませんよ……」
「まあ、それだけが超能力ってわけじゃないんだけどね。とにかく、このままだといずれ暴走して、威吹君を黒コゲにしてしまうかもしれないし、あなた自身が黒コゲになるかもしれない。それだけは確実よ」
「僕にそんな力が……。物体移動もできませんよ?」
ユタは試しに、誰もいないドアの方に向かって右手を出した。
「師匠、お風呂どうぞ」
そこへ風呂上がりのマリアが入って来た。
ノースリーブのワンピースのような寝巻を着ている。
「きゃっ!」
その時、マリアが仰向けに転倒した。
「ええっ!?」
幸い、室内に控えていたフランス人形がクッション代わりに身を呈したため、ケガは全く無かった。
「!」
しかし膝小僧くらいの所にある裾が捲れて、中の下着が見えた。
慌てて裾を押さえるマリア。
「ぼ、僕、何もしてませんよ!?」
「う、うん……多分ね……」
イリーナでも判定が難しかったらしい。
「え、えーとね……」
イリーナは軽く咳払いをした。
「つまり私が言いたいのはね、霊力の暴走を阻止する為にもね、稲生君も魔道師にならないかってこと」
「ええっ!?」
もう少し続く。