報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの体調悪化」 2

2022-06-30 20:23:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月13日14:00.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 私は高橋の運転する車で、東京中央学園上野高校に向かった。
 車はシルバーのバネットNV200である。
 レンタカーショップとリース契約している車だが、場合によってはADバンになることもある。
 いずれにせよ商用バンであるが、これを契約しているのは、何も安いからだけではない。
 商用車はどこにでもいる為、どんな場所に止まっていても不自然さが無い。
 その為、探偵として隠密行動をする際のカムフラージュに打ってつけなのだ。
 探偵事務所によっては、タクシーを貸し切ることもあるのだという。
 タクシーも確かに、どこにいても不自然ではない。
 また、レンタカーと違ってナンバーでそれとバレることは無い為、タクシーを活用するのだそうだ。

 愛原:「ここだな……」

 私達は学校に到着すると、来訪者用の駐車場に車を止めた。

 愛原:「高橋はここで待っててくれ」
 高橋:「分かりました」

 車を降りて、通用口へ向かう。
 中に入って最初の入口に事務室があり、そこで用件を伝える。
 そこで事務員が職員室に取り次いでくれ、私が本当に呼ばれて来たのだと判明される。

 事務員:「それでは保健室に向かってください。保健室は、この廊下を真っ直ぐ行って……」
 愛原:「分かりました」

 午後の授業中の為か、校内は静かだった。
 校庭では体育の授業が行われているのか、そこから元気な声が聞こえる。

 愛原:「ここだな……」

 保健室の前に到着すると、私はドアをノックした。

 愛原:「失礼します。愛原リサの保護者、愛原学です」
 養護教諭:「これはどうもお疲れ様です。どうぞ、中へ」

 保健室の中に入ると、リサはベッドに座っていた。

 リサ:「先生、ゴメン……」

 リサの顔色は悪く、頭を右手で抱えていた。

 愛原:「どこか痛いのか?」
 リサ:「痛いってわけじゃないんだけど……」
 養護教諭:「1時間目の授業の時から、調子が悪かったらしいです。2時間目は体育だったんですが、思うように体が動かせなかったとか……」
 愛原:「ええっ?」
 養護教諭:「極めつけは、昼食の時ですね。食べた後、戻してしまったらしくて……。それで、ここに運ばれて来たんです」
 愛原:「大丈夫なのか!?」
 リサ:「吐いたら少し……」

 食中毒ではないのかとも思ったが、リサ以外にそんな体調不良を訴えている生徒はいないので、食中毒ではない。

 愛原:「何を食べたんだ?」
 リサ:「A定食……」

 A定食といったら、肉系を中心とした定食である。

 愛原:「最近はB定食だっただろ?」
 リサ:「今日は食べれるかなって思ったんだど……ダメだった」

 A定食のメニューは生姜焼き定食だという。
 つまり、豚肉だな。
 やはり今のリサは、肉を受け付けないのか?

 養護教諭:「今日のところは、早退して様子を看てあげてください。場合によっては、病院の受診を……」
 愛原:「分かりました」

 私は制服姿のリサを立たせ、保健室から連れ出した。

 高橋:「あっ、先生」

 高橋は車の外で待っていた。

 愛原:「リサを乗せてやってくれ」
 高橋:「はい」

 高橋は助手席後ろのスライドドアを開けた。
 リサを乗り込ませる。
 私も隣に座って、スマホを取り出した。

 愛原:「善場主任、お疲れ様です」

 それで善場主任に掛け、リサの状態を説明する。
 すると善場主任は……。

 善場主任:「分かりました。それでは、医療機関を受診してもらいますので、これから指定する医療機関に向かってください」
 愛原:「は、はい」

 その医療機関とは……。

[同日15:00.天候:曇 東京都中央区日本橋某 某複合ビル]

 藤野にまで行かされるのかと思ったが、そんなことはなかった。
 しかも、行き先は中央区内。
 東京中央学園から車で15分くらいで到着できる場所だ。
 ビルに駐車場は無いので、取りあえず私とリサはビルの前で降り、高橋にはどこか近くのコインパーキングにでも車を止めてもらって、後で来てもらう形にした。
 ビルそのものは、どこにでもある普通のオフィスビル。
 高層ビルというわけではないが、菊川周辺にある数階建ての小規模なビルというわけでもなかった。
 広いエントランスには警備員が立哨しており、エレベーターも低層階用と高層階用とで分かれていた。
 ビルによっては、ここで何かしらの入館手続きをしないとエレベーターに乗れない場合もあるが、このビルではそれは必要無いようだ。
 こんなオフィスビルに学校制服を着たJKがいるのは不自然だが、特に警備員に話し掛けられることもなかった。
 善場主任に言われた通り、低層階用のエレベーターホールに向かう。
 そこのフロア案内には、とある階に診療所があると明記されていた。
 つまり、特に秘密の診療所ではないということである。
 エレベーターも、オフィスビルにあるということでシンプルなデザインではあったが、特に変な所は無かった。
 メーカーも東芝製と、ごくごく普通である。
 そのエレベーターで、低層階の上の方のフロアに上がって行く。
 それでも途中階は飛ばして行く、急行エレベーターだった。
 エレベーターを降りると、すぐに診療所というわけではなかった。
 エレベーターホールに近接してはいたが、共用部まるっと診療所というわけではないらしい。
 入ると、他にも患者がいる普通の診療所だった。
 受付で、

 愛原:「すいません。デイライト東京事務所から、急患で連絡が入っていると思うのですが……」

 私が言われた通り、デイライトの名前を出すと、受付係の女性は……。

 受付係:「はい。お名前は?」
 愛原:「愛原です」

 私の名前でいいのか、リサの名前でいいのか分からなかったので、取りあえず名字だけ名乗ってみた。
 すると受付係の女性は……。

 受付係:「かしこまりました。それでは、こちらの問診表をお書きになって、またこちらにお持ちください」

 と、まるで初診受付のような対応をされた。
 違うのは、そこで保険証の提示を求められなかったこと。
 恐らく、デイライトが今回の医療費の全てを負うことになっているので、私に保険証の提示を求めなかったのだろう。
 急患扱いといっても、今のリサは取りあえず歩くことはできる。

 愛原:「リサ、書けるか?」
 リサ:「うん。大丈夫」

 私は問診票が挟まれたバインダーと、ボールペンをリサに渡した。

 愛原:「どうやら、受診している女子学生はリサだけじゃないみたいだぞ?」
 リサ:「……チッ」

 リサが舌打ちしたのは、そのJCだかJKがセーラー服を着ていたからだ。
 リサにとってはアンブレラの研究所でコスプレさせられ、そのまま性的実験を受けさせられた苦い思い出があるからだ。
 もしも東京中央学園の制服がブレザーでなかったら、入学を拒否していたかもしれないという。
 この診療所、どうやら婦人科もあるらしいな。
 それでか。

 リサ:「書いた……よ」
 愛原:「よし」

 私はリサからバインダーとボールペンを受け取ると、それを受付に渡した。

 受付係:「ありがとうございました。それでは、こちらをお持ちになりまして、あちらのレントゲン受付でお待ちください」
 愛原:「は?レントゲン?」

 何でレントゲンを受ける必要があるのだろう?
 まあ、リサの体調不良の原因が分からないので、様々な角度から検査をしようということなのだろうか。
 とにかく、渡された書類を持って、まずはレントゲン室に向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの体調悪化」

2022-06-30 16:04:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月9日18:15.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 ここから徒歩5分圏内の雑居ビルに、事務所を構えている。
 18時で事務所を閉め、それからマンションに帰って来た。

 愛原:「ただいまァ」
 高橋:「あっ、先生。お帰りなさいっス」
 愛原:「おーう」
 高橋:「すぐ、夕飯にするんで、もう少しお待ちください」
 愛原:「ああ、分かった。リサは?」
 高橋:「部屋にいますよ」
 愛原:「そうか」

 今日はリサは学校帰り、事務所には寄らなかった。
 リサが唯一の単独行動を許されているのが、登下校である。
 かつては斉藤絵恋さんが登下校で一緒だったが、沖縄に転校してしまったので、今はリサが1人で登下校している。
 リサの学校に友達はいるが、全員が住む方向がバラバラなので、学校を出たり、上野駅で別れてしまうのだ。

 愛原:「うーむ……」

 女の子らしく、部屋のドアには『リサのへや』と書かれた木札がぶら下がっているのだが、そこに描かれているイラストが、明らかにアメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーである。
 このオリジナルと日本版のリサは、血統的には何の繋がりもない。
 ただ、リサ・トレヴァーの体内で作られたGウィルスが、こちらのリサ達に受け継がれたというだけの話だ。
 アメリカのアンブレラ本社では、研究者のウィリアム・バーキン博士が自らに投与してBOW化するも暴走。
 ネメシスにも投与されたが、やはり実用化されなかったようだ(されても困るが)。
 その為、アメリカではGウィルスの研究は完全に廃止。
 日本法人だけがその研究を引き継ぎ、天長会信者の白井伝三郎が、教義で語られている『最も危険な12人の巫女たち』を具現化するべく、Gウィルスを悪用。
 天長会で経営していた児童養護施設の子供達(特に少女)や、施設周辺の栃木県内で少女達を誘拐して人体実験を行った。
 『12人』の中で、今生き残っているのは『2番』こと、うちのリサのみ。
 最も成功したG生物とも言われる。

 愛原:「リサ……」

 部屋に入る前に、リサの部屋のドアに聞き耳を立てた。
 微かに電マの音がする。
 食欲は落ちても、性欲は旺盛のままのようだ。
 私は放っておいて、自分の部屋に行って着替えることにした。

[同日18:30.天候:晴 愛原のマンション]

 夕食には湯豆腐と寿司が出た。
 これだけだと足りないと思ったのか、高橋は他にも焼き鳥の盛り合わせや天ぷらの盛り合わせも買って来ていた。

 愛原:「ビールが進みそうだねぇ」
 高橋:「ありがとうございます」

 私は缶ビールの蓋を開けた。
 湯豆腐といっても、土鍋の中に入っているのは豆腐だけではなく、大根も入っている。
 あまり具材を入れると、おでんになってしまうので、具材はこれだけだ。
 因みに豆腐、私は絹ごし派。

 リサ:「んー、お寿司美味しい~!」

 Tシャツに黒い短パン姿のリサは、寿司を頬張った。

 愛原:「いいのか?今日は焼き鳥以外、肉無しだけど?」
 リサ:「ここ最近、魚とか、サッパリ系の気分なの」
 愛原:「そうなのか」

 今まで重い肉ばかりを食べて来たので、その反動でも来たのだろうか?
 因みに、アメリカのオリジナル版リサ・トレヴァーが食事をする描写は全く無い。

 愛原:「肉でも、さっぱりしているヤツとかはあるぞ」
 リサ:「このチキンとかでしょ?」
 愛原:「それもあるけど、例えば桜肉とかな」
 リサ:「桜肉……桜のお肉……?」
 愛原:「違う違う。馬の肉さ」
 リサ:「馬の肉!?」
 愛原:「あとはジンギスカンだ」
 高橋:「ジンギスカン……。そんなにサッパリしてますかね?」
 愛原:「牛や豚よりはサッパリしてるんじゃないの?」
 高橋:「まあ……そうかもですね」

 この時は、特に何も無かった。
 リサは出された物を全部食べていたし、私が途中コンビニに立ち寄って買って来たケーキなどのスイーツもリサは食べた。

[5月13日13:00.天候:曇 同区内 愛原学探偵事務所]

 リサに異変が起き始めたのは、それから数日後の事である。
 この時も、特に学校に行くまでは何とも無かった。
 肉食はあまり好まず、魚食や採食を好んでいた。

 ピッ!(スマホのアラームが一瞬だけ鳴る音)

 愛原:「ん?まただな」

 それはデイライトから提供された、とあるアプリ。
 BSAAで開発された、BOW探知アプリとでも言うのか。
 要はBOWの気配を察知すると、アラームで教えてくれるというものだ。
 感度などは自由に設定でき、私はリサが第3形態以上になるとアラームが鳴るという設定にしていた。
 第3形態に変化すると、BSAAが出動することになっているからだ。
 異変というのは、アラームが鳴ってすぐに止まるという現象が午前中から何度も繰り返されているというものだ。
 普通、こういうアラームというのは、鳴動した後、画面をタップしないと止まらないようになっている。
 但し、例外もあって、例えばリサが第3形態に変化して、また第2形態以下に戻るとアラームも自動で止まる。
 そういうことが午前中から繰り返されているので、私はアプリの不具合だと思った。

 ピピピピピ!

 愛原:「ん!?」

 因みにアラーム音は、JRの防護無線のアラームにそっくりである(電車に乗っていて、『電車を止める信号を受信した為、緊急停車した』とか言うと、それのこと)。
 高橋は、『炊飯器で米が炊き上がった時の音』とか言っていたが。

 愛原:「あれ?」

 私が手を伸ばしてアラームを止めようとすると、また勝手に止まる。

 高橋:「先生、ウザいんで、通知オフにしませんか?」

 高橋のスマホにもそのアプリは落とし込んでいるが、高橋は既に通知オフにしている。

 愛原:「うーん……そうだなぁ……」

 リサがそんな高頻度で変化を繰り返すわけがないし、もしそうなら、今頃とっくに大騒ぎであろう。
 第1形態までなら何とか誤魔化せるかもしれないが、第2形態以降は明らかに化け物の姿をしているのだから。

 愛原:「ちょっと善場主任に相談してみるわ」

 私は事務所の電話を取り、善場主任に連絡してみることにした。
 が、その前に着信があった。
 モニタを見ると、善場主任の番号だった。

 愛原:「はい、もしもし。お疲れ様です」
 善場:「善場です。愛原所長、お疲れ様です」

 用件はやっぱり、今のアプリのことだった。
 どうやら、善場主任のスマホなどでも、同じ現象が起きているらしい。
 ということは、やっぱりアプリの不具合なのだろうか。

 善場:「BSAAが調査をしておりますが、どうやらアプリの不具合ではないようです」
 愛原:「アプリのせいじゃないということは、リサ自身の問題ですか?」
 善場:「そうかもしれません。今、リサは学校ですね?」
 愛原:「はい、そうです。時間帯的に、昼休みが……あっ」

 すると、私のスマホに着信があった。
 画面を見ると、何と東京中央学園からだった。

 愛原:「あっ、ちょっ、ちょっと……!」

 私が一瞬テンパりかけると、高橋が私のスマホを取った。

 高橋:「はい、もしもーし!……はい、そうッス!今、愛原先生は別件対応中なんで、弟子の自分……高橋と言いますけど、代わりに出ました」

 と、機転を利かせてくれた。

 高橋:「は?……はあ……。えっ、マジっすか!?……んじゃあ、どうしますかね?……あー、分かりました。そんじゃ、後で愛原先生に聞いてみますんで……はい。その時、また電話するってことで。……了解っス!それじゃ、また」

 私は固定電話の方を保留にして、高橋に聞いた。

 愛原:「何だって?」
 高橋:「リサの担任のセンコー……もとい、教師からなんスけど、リサが具合悪くしちゃって、今、保健室で寝てるんらしいんスよ」
 愛原:「ええーっ!?」
 高橋:「何だったら今日は早退させるみたいなんスけど、どうもかなり具合悪いんで、迎えに来れるかどうかってことらしいっス」
 愛原:「わ、分かった。ちょっと待ってろ」

 私は保留を解除すると、今の電話の内容を善場主任に伝えた。

 善場:「そうですか。それなら、すぐに迎えに行ってあげてください。そして、状況をすぐこちらに報告してください」
 愛原:「分かりました」

 私は電話を切ると、高橋に車の用意をするよう命じた。
 幸い高橋の免停は、先月末で解除されているので助かった。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの体質変化」

2022-06-28 20:29:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月9日13:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は午前中に報告書を纏め、午後になってそれをデイライトに持って行った。
 因みにデイライトとは『日光』のことであり、『日光が照らすほど晴れていれば、アンブレラ(雨傘)は要らないよね』という、悪の製薬企業アンブレラに対する嫌味が含まれている。
 もしも白井本人がいたら、『愚か者。ゲリラ豪雨を知らんのか?そうやってタカをくくって傘を持たぬ者が、ゲリラ豪雨に遭って泣くのだよ』と、反論しそうだがな。
 まあ、屁理屈の応酬である。

 愛原:「晴れていて、尚且つ風が強いかどうかを確認すれば大丈夫だよ」
 高橋:「えっ、何がです?」
 愛原:「ゲリラ豪雨の予想」
 高橋:「今日、降るんですか?」
 愛原:「今日は……そんなに風が強くないから大丈夫だろう」
 高橋:「天気まで予想されるとは、さすが名探偵です!」

 私と高橋は、応接会議室へ通されている。

 善場:「お待たせしました」

 そこへ、善場主任が入って来た。

 愛原:「善場主任、お疲れさまです。こちら、昨日までの旅行に関する報告書です。写真も添付してあります」
 善場:「ありがとうございます。多くは、リサの体調変化の事が過半数でしょうか?」
 愛原:「そういうことになります」
 善場:「リサの体調はどうですか?GPSによると、学校に行っているようですが……」
 愛原:「ええ。学校を休むほど体調は悪化していないので、学校には行かせました。で、今のところ体調不良の連絡は来ていないので、今は大丈夫かと」
 善場:「なるほど」
 愛原:「まさか酒を飲んだ私の血を吸ったリサが、酔っ払うとは思いもしませんでした」
 善場:「一部のメディアでは、それを描写した物があったりするのですが、所長は御存知無かったようですね」
 愛原:「はあ……どうも……」
 高橋:「おい、姉ちゃん、そりゃあ無ェだろ。いちいちラノベの設定なんて覚えてられっかよ」
 善場:「ラノベ?何の話ですか?」
 愛原:「連れの上野凛さんが、吸血鬼が登場するライトノベル作品に、酔っ払った人間の血を吸った吸血鬼が酔っ払うといった描写があったそうです」
 善場:「ああ、そうなんですね。それが現実に起こり得てしまったということなので、次は気をつけてください」
 愛原:「申し訳ありません」
 善場:「今後、所長方に注意して頂きたいのは、リサの変化です。大量のアルコールを一気に摂取したことにより、彼女の体質に影響が及んだ可能性があります。幸いにして今のところ暴走に繋がってはいないようですが、少しでもいつもより違う点を見つけたら報告して頂きたいのです」
 愛原:「分かりました」
 善場:「直近ですと……食欲不振のようですね」
 愛原:「普通の人並みの食欲はあるんですよ。ただ、今までの大食と比べれば、明らかに食事量は減りましたね」
 善場:「今朝の食事は……和食だったのですね」
 高橋:「それでもリサには、何らかの肉系を用意しないとうるさかったんだがよ、今日は何も言ってなかったな」
 善場:「そうですか。昼食は何を食べたか聞きましたか?」
 愛原:「あ、はい」

 私は自分のスマホを取り出した。
 LINEを開いて、そこでリサとのやり取りを主任に見せる。

 愛原:「B定食だそうです。まあ、定食をまるっと食べられる食欲はあるようですね。で、B定食というのは、主に魚系です。A定食が肉系で」
 善場:「ではリサは、昼食も肉を食べなかったと?」
 愛原:「そういうことになります」

 今まで肉を食べ過ぎている感はあったので、それが魚にシフトしただけなのならまだ良いのだが。

 愛原:「それでですね……ん?」

 その時、またリサからLINEが来た。

 愛原:「リサからのLINEです。えーと……『夕食はサッパリしたものがいい』ですって!?」
 善場:「どうやら食事の嗜好が変わったようですね。それが一過性のものなのかといったところですが……」
 愛原:「ということは、また魚系とかになるのかな……」
 高橋:「夕食のメニュー、考えておきます」
 愛原:「頼むぞ」
 善場:「もう一度、リサの検査がしたいところですね」
 愛原:「ドクターカーとか検診車が来ますか?それとも、もう一度、藤野に行きますか?」
 善場:「いえ。今すぐは大変なので、また次回に。栃木で行った緊急検査の結果も、まだ全ては出ていませんので」
 愛原:「そうですか」

[同日14:03.天候:晴 同地区内 新橋バス停→都営バス業10系統車内]

 帰りは都営バスに乗ることにした。
 これなら乗り換え無しで、菊川に帰ることができる。
 行きは基本的には乗らない。
 もしも渋滞にハマって遅れたりしたら大変だからだ。
 オーソドックスなノンステップバスに乗り込み、後ろの席に高橋と隣同士で座る。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは満席状態で、新橋バス停を出発した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りください。次は、銀座西六丁目でございます〕

 高橋:「先生。菊川に着いたら、夕食の買い出しに行ってきていいっスか?」
 愛原:「いいよ。それで、リサの言うサッパリした料理で思い付いたんだけど……」
 高橋:「何スか?」
 愛原:「湯豆腐と寿司が食いたいなと思って」
 高橋:「湯豆腐っスか!?」
 愛原:「いや、真冬でもないのに何だか変な話なんだけど、何かそういう気分になっちゃってさ」
 高橋:「分かりました。先生がそう仰るのなら、そうします」
 愛原:「悪いな。作れるか?」
 高橋:「ええ、まあ、一応ムショで作ったことあるんで、大丈夫です」
 愛原:「そうか」
 高橋:「でも、さすがに寿司は握れないっスよ?」
 愛原:「分かってる。スーパーに買い出しに行くんだろ?そこで売ってるパック詰めのヤツでいいからさ」
 高橋:「分かりました」

 尚、湯豆腐といったら冬の食べ物というイメージが一般的だと思うが、もっと後の季節に食べる鍋とする向きもある。
 例えば、かの有名な文豪、池波正太郎先生は作品の登場人物に、『梅雨寒の時に食べる鍋』とさせており、“梅雨の湯豆腐”という短編作品もある。
 もうすぐ梅雨ということで、それを思い出した次第だ。
 寿司と湯豆腐、どちらもサッパリした料理だから、リサの口に合うだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「夜の帰京」

2022-06-28 14:53:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月8日19:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 JR那須塩原駅→東北新幹線282B列車1号車内]

 新幹線ホームに行くと、始発ホームには10両編成の列車が発車を待っていた。
 往路と違い、秋田新幹線の車両は連結されていない。
 ホームの喫煙所にタバコを吸いに行った高橋を残し、先に列車に乗り込む。
 号数と時刻表を見るに、この列車は徐行区間外を運転する為か、暫定ダイヤ実施期間中であっても、数少ない通常ダイヤで運転される列車のようだ。
 BSAAとの取り決めに従い、先頭車に乗り込む。
 ここは自由席であり、車内は空いていた。
 3人席と2人席、横並びで座るのは往路と一緒。

〔「ご案内致します。この電車は19時3分発、東北新幹線“なすの”282号、東京行きです。終点の東京まで、各駅に停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、自由席は1号車から6号車です。尚、この列車では車内販売の営業はございません。予め、ご了承ください。……」〕

 座席に座ると、私達はテーブルを出して、NEWDAYSで買った弁当を広げた。

 高橋:「ただいま、戻りました」
 愛原:「おう。ちゃんと肺の中の煙も出してきたか?」
 高橋:「もちろんです」
 愛原:「よし」

 腹が減ったリサは、弁当を凄い勢いでガツガツと食べ……るわけではなかった。
 それでも常人よりは速いペースで食べているのだろうが、しかし、いつもの空腹時のリサと比べてはペースが遅かった。
 腹が減ったとは言いつつ、あまり食欲が無い状態なのだろうか。

〔「お待たせ致しました。19時3分発、東北新幹線“なすの”282号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 ホームからは発車ベルの音が聞こえてくる。
 在来線ホームは発車メロディだそうだが、新幹線ホームでは電子ベルだ。

〔1番線から、“なすの”282号、東京行きが発車致します。次は、宇都宮に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 発車ベルが鳴り終わると、甲高い客終合図のブザーが聞こえてくる。
 立ち番の駅員が車掌に対し、ドアを閉めても良いという合図だ。
 在来線ホームでも、ターミナル駅ではこういう形式を取っているが、昨今の省人化でそれも少なくなりつつある。
 列車はドアを閉めると、定刻通りに発車した。
 副線ホームから上り本線に出る為、何回かポイントを通過する。
 その際、一瞬だけ下り本線を支障する形となるので、本数の多い東海道新幹線ではこういう形は取られない(車両基地のある三島駅においては、ホームとそれに接する副線を上下本線で挟み込む形にすることにより、上り始発列車が下り線を支障することのないような配置になっている)。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“なすの”号、東京行きです。次は、宇都宮に止まります。……〕

 凛:「御馳走さま」
 理子:「まだ、足りないね」
 凛:「食べ過ぎはダメだよ。でも……食後のデザート、あるから」
 理子:「それ!」

 2人席に座る上野姉妹は、もう弁当を食べ終わったようだ。

〔「……上野には20時14分、終点東京には20時20分の到着です。……」〕

 対してリサは、まだ食べ終わっていない。

 愛原:「どうした、リサ?あんまり食欲無いか?」
 リサ:「何だろう?お腹は空いてるんだけど、いつもの調子で肉入りの弁当を買ってみたら、実は今日は肉の気分じゃなかったって感じ」

 それもそれで珍しいことだ。
 人間なら、まあ、たまにあることではあるが……。
 一応それでもリサは、何とか弁当を食べ切った。
 その後、デザートと称して一緒に買ったスイーツを口にしていたが……。

 リサ:「……ゴメン、ちょっとトイレ」
 愛原:「ああ。行ってこい」

 リサはお腹を抱えて、トイレに向かった。
 私の前を通り過ぎる時、ゴロゴロと腹が鳴っていたほどだ。
 肉の気分ではないのに、肉を無理に食べたことで、体が受け付けなかったのだろうか。

 愛原:「大丈夫かな?」
 高橋:「さあ……どうすっかねぇ……」

 リサがトイレから戻って来た時には、宇都宮駅を出発していた。

 リサ:「お腹の虫、一杯出ちゃった……」
 高橋:「おい、大丈夫なのか!?」

 リサの体内で実質的に『飼育』されている寄生虫。
 リサのウィルスに感染した寄生虫は、リサの体内で飼育されているような状態となり、故意に体の外に出して、相手に寄生されることができる。
 リサの意思で自由に活動できる寄生虫は、相手の体内に入ると……リサの意思決定如何では、腹を食い破って殺すくらいのことはできるのだそうだ。
 過去にも外国で、寄生虫を利用したBOW(プラーガという)は存在しており、リサもそれと似たことができるのだと判明した。

 リサ:「大丈夫。殆ど死んでたし、弱ってたから……」

 尚、リサの寄生虫は下水処理場などで使用される消毒薬で普通に死滅する為、トイレで排泄して下水道に流しても大丈夫だとされる。
 列車のトイレは一度床下のタンクに溜める形になっているが、そこでも消毒薬は使われているので、使用しても大丈夫だろう(但し、今はもう存在していないだろうが、旧型客車などにあった垂れ流し式のトイレは無理だろう)。
 もちろん、高速バスのトイレもだ。

[同日20:20.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 上野姉妹は1つ手前の上野駅で降りて行った。
 寮の最寄り駅は地下鉄銀座線の稲荷町駅だが、一駅しか無いので、恐らく彼女らは歩いて帰るだろう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、総武快速線、横須賀線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「東京駅到着ホームは22番線、お出口は同じく左側です。……」〕

 尚、リサはトイレには1度だけしか行かなかった。
 一応、トイレで全部出し切れたらしい。
 それでも、スイーツ以外の物を食べようとはしなかった。

 愛原:「明日から学校だけど、具合は大丈夫か?」
 リサ:「うん。それは大丈夫……だと思う」

 少し歯切れの悪い回答である。

 愛原:「本当に大丈夫か?」
 リサ:「うん。大丈夫……」

 一応、翌日まで様子を見たが、リサの具合が悪くなることはなかったが、かといっていつものテンションを取り戻すということもなかった。
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“私立探偵 愛原学” 「帰京へ」

2022-06-26 20:24:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月8日18:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園]

 最終的なリサの検査も終わり、ようやく私達は帰れる見込みとなった。
 しかし、ドクターカーにもヘリにも乗せてもらえなかった。

 高橋:「何だよ、姉ちゃん!?来るだけ来やがってよ!」

 尚、善場主任はヘリで帰って行った。
 憤慨する高橋を宥める。
 しょうがない。
 因みに路線バスは、もう既に運行を終了している。
 さすがは田舎のバス。
 しょうがないので、大枚はたいてタクシーを呼ぶか。
 そう思った時だった。

 上野凛:「送迎車を出してもらうようお願いしましたので、それで行けると思います」

 と、凛が言った。
 因みに彼女は仲居の制服である着物から、私服に着替えている。

 愛原:「本当!?ありがとう!助かる!」

 本来は運行される時間ではない。

 愛原:「取りあえず、お賽銭入れとくね」

 私は天長会展示コーナーにある賽銭箱に、野口先生1人分入れておいた。
 恐らく、タクシーで行ったら5~6人分必要になると思うので、安いものだ。
 そうしているうちに、正面玄関前にシルバーのキャラバンが1台止まった。
 横には『ホテル天長園』と書かれているので、あれが送迎車だ。

 運転手:「お待たせしました。どうぞ、お乗りください」
 愛原:「どうも、すいません。よろしくお願いします」

 私達は開いたスライドドアから車内に入った。
 運転手はハッチを開けて、私達の荷物を乗せている。

 愛原:「キミ達、俺達より荷物多いね?」
 凛:「ええ。家から持って行く物とかありますので」
 愛原:「そうなのか」

 私達は1番後ろの3人席に座った。
 上野姉妹はその前の2人席に座る。

 運転手:「それでは出発します」

 運転手はパワースライドドアを閉めて言った。

 愛原:「お願いします」

 冬なら真っ暗時間であるが、今の時期はまだ明るい。
 しかも、昨夜とは打って変わって晴れているから、尚更明るかった。

 愛原:「今から帰ると夜になるけど、キミ達、寮の門限大丈夫?」
 凛:「はい。今日まで外泊許可を取ってるので大丈夫です」
 愛原:「そうか」

 車はホテルを出て県道に入る。
 晴れてはいるが、それでも大気は不安定なのか、何だか風が強い。
 まあ、車が飛ばされたり、新幹線が止まるほどではないが。

 リサ:「…………」
 愛原:「リサ、大丈夫か?」

 リサは口数少なく、私に寄り掛かるように座っている。
 普通には歩けるので、昏睡していた時よりはだいぶ体調はマシになったと思うのだが……。

 リサ:「お腹空いた」
 愛原:「そうだなぁ……。駅に着いたら、何か買って行こう。NEWDAYSがあったはずだ」

 駅弁を売っていたという記憶は無いが……。
 あるのか?

[同日18:25.天候:晴 同市内 JR那須塩原駅西口→駅構内]

 車は無事に那須塩原駅のロータリーに到着した。

 運転手:「はい、到着しましたー」
 愛原:「どうも、ありがとうございます」

 私達は礼を言って、車を降りた。
 ハッチを開けてもらい、そこから荷物を降ろす。

 運転手:「それじゃ御嬢様方、どうかお気をつけて」
 凛:「ありがとう。小野澤さん」

 那須塩原市の市街地に来ても、風は強かった。
 まあ、新幹線は大丈夫だと思うが。

 愛原:「リサ、スカート!」
 リサ:「……え?」

 駅の入口に差し掛かった時、風がビュウッと吹いてきた。
 リサは膝小僧が見えるほどの短いスカートを穿いているのだが、それが捲れても気が付かないほどボーッとしていた。
 リサとは違って膝小僧が隠れる長さのスカートを穿いている上野理子は、それでもスカートの裾を押さえているほどだというのに。

 凛:「先輩、スパッツくらい穿いた方がいいですよ?」
 リサ:「学校ではそうしてる」
 凛:「まあ、学校は……校則ですから」

 本当はもう少し可愛い下着に着替えたかったそうなのだが、泥酔による昏睡とその後遺症でそれどころではなかったそうだ。
 その為、昨夜寝る時の下着のままだった。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」

 駅構内に入ると、私達はキップを渡した。

 凛:「あれ?これ、指定席ですか?」
 愛原:「そうなんだけど、今日中なら自由席も乗れるから」

 そうなのだ。
 実は、帰りは指定席を取っていた。
 本当なら昼くらいに帰り着いて解散とするはずだったのだが、リサのダウンにより、指定した列車に乗ることはできなかった。

 リサ:「ゴメン。わたしのせいで……」
 愛原:「いや、いいんだよ。幸い、自由席には乗れるから」

 もちろん、指定席料金分はパーになったわけだがな。
 JRの規則では、指定列車に乗り遅れても、その後の列車の自由席になら、キップを買い直さなくても良いことになっている。
 その通り、そのキップを自動改札機に突っ込んでも弾かれることはなく、ちゃんとゲートは開いた。
 当然、その横に立っている駅員も何も言ってこない。

 愛原:「じゃあ、夕食でも買い込んでいくか」

 案の定、駅弁は売って無さそうだ。
 また、“なすの”では車内販売も無い。
 幸いNEWDAYSは営業していたので、そこで夕食を買って行くことにした。
 弁当も売ってはいたが、駅弁ではなく、コンビニ弁当のそれである。
 お土産などは売っているのだが……。

 リサ:「じゃあ、これ」

 やはりというか、リサは肉関係の弁当を所望した。
 だが、いつもならそういう弁当を2~3個くらい買う所を、今回は1個だけだ。

 愛原:「これだけでいいのか?」
 リサ:「うん、これだけでいい。あとは……ちょっとお菓子とか……」

 腹が減ったとは言ったが、それほどガッツリ食べたいわけではないようだ。

 高橋:「先生、電子レンジ使えますよ?」
 愛原:「おー、そうか」

 NEWDAYSはコンビニだが、電子レンジは客がセルフサービスで使うシステムだ(JR東海のベルマートも同じ)。

 愛原:「それじゃ、行こうか」

 食料を確保した私達は、新幹線ホームに向かった。
 幸い今度乗る列車は当駅始発なので、自由席でも並んでいれば余裕で座れるだろう。
コメント
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