報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「BOWホテル」

2021-05-31 20:35:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日15:45.天候:雷雨 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園]

 心なしか雨足が強くなってきたような気がする。
 そして、外からはホラー演出の為か、都合の良いタイミングで雷鳴と雷光が轟いた。

 高橋:「誰だ!?」
 女将:「女将でございます。御挨拶の方、よろしいでしょうか?」

 リサが第1形態に戻ってまで警戒した相手は、このホテルの女将を名乗っているようだ。
 高橋の言によれば、確かに着物姿の楚々とした女性の姿があるという。

 愛原:「開けてくれ」
 高橋:「は、はい」
 愛原:「リサは人間の姿に戻って。多分、大丈夫だ」
 リサ:「あ……うん」

 リサは大きく息を吸い込むと、第0形態に戻った。
 現段階でこれが逆に『化けている』状態なので、1の1つ前である0に分類されている。

 女将:「失礼致します。本日はお足元が悪い中、当館をご利用頂き、ありがとうございます。従業員一同、心より歓迎申し上げます」

 女将を名乗る人物は私より多少年上と思しき、着物がよく似合う楚々とした女性であった。
 とても、リサ・トレヴァーには見えない。
 もっとも、第0形態のリサだって、知らない人が見れば正体に気づかれることはない。

 女将:「どうぞお掛けになってください。今、お茶お入れしますね」
 愛原:「あ、ああ。どうも……」

 私は座椅子に座った。
 私がそうすると、他の3人もそれに倣う。
 リサと高橋はまだ険しい表情のままだ。

 女将:「どうぞ。それでは当館の御案内をさせて頂きます」

 朝食と夕食は部屋食ではなく、最上階のレストランだそうだ。
 それと大浴場。
 天然温泉で、露天風呂もあるそうなのだが……。
 この天候が回復してくれないと、なかなか外に出られないか?

 女将:「何か御質問等はございますか?」
 愛原:「ああ……うん。ちょっと聞きたいんだが……」
 女将:「はい。何でしょう?」
 愛原:「あなたは何番だ?」
 女将:「何番?何の事でございましょう?」
 高橋:「おい、トボける……!」
 愛原:「まあまあ。例えばこのコの左腋の下には、『2』という番号が入れ墨されている。あなたの左腋の下には、何の番号が入っているのかと思ったんだ」
 女将:「そういうことですか……。私は『369』です」
 愛原:「こりゃまた凄い番号だね」
 女将:「まさか、私と同じ実験体の方が来られるとは思いませんでした。しかも、トップナンバークラスは『とても危険な存在』と伺ったのですが……」
 愛原:「確かに。『とても危険な存在』でしたよ。特に『1番』は。今はもう、この『2番』以外はこの世にいませんから」
 女将:「お客様方は『2番』の方に連れて来られたのですか?」
 愛原:「えっ?」
 リサ:「……!!」

 すると、リサが尚、女将を睨み付けた。
 この時、リサの瞳が赤くボウッと光る。

 女将:「申し訳ございません。とんだ失言を。お許しください」
 愛原:「引率者は私だが……」
 女将:「さようでございますね。失礼致しました」
 愛原:「正体が分かったところで、もう1つ聞きたい。あなたは上手く人間に化けているようだが……人間を襲って食べたことはあるのか?」
 リサ:「……!」
 女将:「……申し訳ございませんが、回答しかねます」
 高橋:「否定しないということは、食ったことがあるということか」
 愛原:「ここのホテルの従業員全員がそうなのか?」
 女将:「そういう者もいますし、今は人間に戻れた者もいます。例えば、愛原様と応対させて頂いたフロント係は後者でございます」

 人間に戻れた者もいた!?
 まるで善場主任だ。

 愛原:「あなたは人間に戻らないのか?」
 女将:「厳しい選択でございます。それでは、ごゆっくりどうぞ。失礼致します」

 女将はそう言って、部屋を出て行った。

 高橋:「先生、ヤバいんじゃないですか、このホテル?バックレるのなら今のうちでは?」
 愛原:「この雷雨ん中か?それに、そんなことしたら契約不履行で訴えられるぞ?」
 高橋:「で、ですが……」
 愛原:「まあ、そこは絵恋さんに決めてもらおう。どうだ?」
 絵恋:「わ、私は……リサさんと一緒にいられるのなら別にいいです」
 愛原:「そういうことだ。じゃあ、早速風呂に入ってこよう。BOWがスタッフを務めるホテル。なかなか面白そうじゃないか」
 高橋:「リサでさえ『人間を食ったことがないから』という理由で、辛うじて見逃されているくらいですよ?なのに、『人間を食った』ことのある女将がBSAAにブッ殺されてないっておかしいじゃないっスか!」
 愛原:「おいおい。人の話はちゃんと聞けよ。女将さんは食人行為を認めてないぞ」
 高橋:「否定もしてないじゃないスか。リサはちゃんと聞けば、『してない』ってガン否定しますよ」
 リサ:「うん。私は一切人を食べてない」
 愛原:「それでリサ、あの女将さんからは人を食べた臭いはしたか?」
 リサ:「したと言えばしたし、しないと言えばしない……」
 愛原:「何だそりゃ」
 リサ:「BOWそのものの臭いはしたけどね。それは私と同じ」

 脂汗をかくと独特の臭いを放つあれか。

 愛原:「仮にあの女将さんに悪意があるとしても、リサがいる限りは襲って来れないだろう。うちのリサはラスボスクラスだからな」
 高橋:「はあ……」
 愛原:「じゃあ、ちょっと着替えようかな」

 私はクローゼットを開けた。
 中には浴衣が入っている。

 愛原:「ほら、リサも」
 リサ:「うん」
 絵恋:「リサさん、あっちで着替えよ!」

 リサがその場でベストを脱いだのを見た絵恋さんが、慌ててリサを隣の六畳間に引っ張った。
 ベストを脱いだリサを見て分かったのだが、リサもスカートの腰の部分を負って、裾を短くしているようだ。

 高橋:「先生、何なんスかね?このホテル……」
 愛原:「最初は宗教法人天長会が経営しているホテルだと思っていたが、それだけでは無いようだな」

 私達は浴衣に着替えると、タオルを持って大浴場に向かった。

 愛原:「リサ、あの女将さん、オマエの能力に気づいたみたいだな?」
 リサ:「あの人も使えるのかな?」
 愛原:「分からん」
 絵恋:「リサさんの汗、いい匂い!お風呂に入っちゃダメ!」
 リサ:「ダメだ。私はお風呂に入ってサッパリしたい」
 絵恋:「え~?」

 もうすっかりリサの『奴隷』と化している絵恋さん。
 リサの能力は、正にこれだ。
 『1番』もこの能力を使って私を取り込もうとしたらしいが、失敗している。
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“私立探偵 愛原学” 「ホテル天長園」

2021-05-31 16:14:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日15:25.天候:雨 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園]

 降りしきる雨の中、私達を乗せた路線バスは県道を走行していた。
 温泉地に入っても何も起こらないし、そもそも車内放送がちゃんと流れている時点で、埼玉の時みたいな偽バスに乗り合わせたということは無さそうだ。

 運転手:「お待たせしました。ホテル天長園前です」

 バスはホテルの入口前で止まった。
 市郊外に行くとフリー乗降制となり、バス停でなくても乗り降りできる。
 さすがにホテルの敷地内に入ってくれるということは無かった。

 愛原:「どうもありがとう。大人4名で」
 運転手:「はい」

 連れて行くのは私なので、交通費などの費用は私が立て替えておく。

 運転手:「お帰りの時も手を挙げてくれましたら、そこで止まりますから」
 愛原:「了解です。ありがとうございます」

 私達はバスを降りた。
 雨が降っていたので、小走りでエントランスに向かう。
 エントランス前は車寄せになっていて屋根があったので、そこまで移動した。

 高橋:「先生。歓迎プレートに『愛原様』ってありませんよ?」
 愛原:「『斉藤様』ってあるだろ?それでいいんだよ」
 高橋:「あっ、そうすか……」
 愛原:「何しろ、ここを予約したのは斉藤社長なんだからな」
 高橋:「なるほど……」

 ホテルの外観は特におかしい所は無い。
 グレーの建物である部分が、リサのフラッシュバックの中にあった物と一致するかどうかだが、こういう外観ではないという。

 リサ:「もっと地味な建物。外からだと何の建物なのか分からないみたいな……」
 愛原:「そうなのか」

 このホテルの外観も、どちらかというと地味な方だが、立地的なこともあり、宿泊施設であろうことは何となく分かる。

 従業員:「いらっしゃいませー」

 自動ドアを2つくぐると、そこはロビーとフロントがあった。
 その内装も、特に変な所は無い。
 ベタな温泉ホテルの法則通りだ。

 リサ:「この臭い……!」
 愛原:「じゃあ、ちょっとフロント行ってくるから待ってて」
 高橋:「分かりました」
 リサ:「……!?」

 リサは辺りをキョロキョロと見回している。
 何か気になることでもあるのだろうか?

 愛原:「大日本製薬の斉藤で予約を取っている者ですが……」
 フロント係:「はい。斉藤様ですね。本日、4名様のご利用でお間違い無いでしょうか?」
 愛原:「はい。4名です」
 フロント係:「こちらに御記入をお願い致します」
 愛原:「はい」

 私は宿泊者カードにペンを走らせた。

 フロント係:「ありがとうございます。本日のお部屋ですが、和室二間のお部屋を御用意させて頂きました。襖で仕切れるお部屋ですので、それで男女別にできるかと思いますが……」
 愛原:「なるほど。その方がいいかもしれないな。じゃあ、それで」
 フロント係:「ありがとうございます。それではお部屋は、7階の721号室でございます。カードキーは……何枚要りますか?」
 愛原:「2枚とかでもいいんだ?」
 フロント係:「はい。グループや団体のお客様の場合、カードキーを複数枚所望される方もいらっしゃるので……」
 愛原:「なるほど。それじゃ、2枚ください」
 フロント係:「かしこまりました」

 私が1枚、リサが1枚持てばいいだろう。

 フロント係:「こちら、カードキー2枚でございます」
 愛原:「ありがと……ん!?」
 フロント係:「どうかなさいましたか?」

 そのカードキーを見て私は驚いた。
 白いプラスチックカードに、ホテルの名前が書かれている。
 だが、問題はロゴマークだ。
 リサが持っていたゴールドカードにそっくりなのである。
 ホテルの名前がプリントされていること、色が白であることを除けば、リサのゴールドカードにそっくりであった。

 愛原:「このカード……見たことある」
 フロント係:「以前にも当ホテルをご利用頂いたことがございますか」
 愛原:「いや、私達は初めてだ。……ちょっと、いいですか?」
 フロント係:「は?」

 私はカードケースの中から、リサがくれたゴールドカードを出した。

 愛原:「このカードに見覚えはありますか?」
 フロント係:「……天長会のロゴマークに似ていますね」
 愛原:「天長会?アンブレラじゃなくて?」

 リサのゴールドカードにはアンブレラのロゴマークが入っている。
 カードの色がゴールドのせいで、紅白の傘の赤い部分が臙脂色のようになっていた。
 このホテルのカードキーのロゴマークは、元々臙脂色だったが……。

 フロント係:「天長会の教えに『天の嘆きは雨なり』というものがあります。天の嘆きに当たると不幸になるという考えですので、それを避ける為に傘を差します。それで、傘は天長会にとても重要な物なので、ロゴマークも開いた傘を上から見た図になったわけです」

 やはりこのホテルは宗教法人天長会の直営か。
 でなければ、このホテルマンも詳しく説明はできまい。

 愛原:「では、かつて世界的な製薬会社として存在していたアンブレラとは……」
 フロント係:「関係無いです。そもそも、アンブレラ社のロゴマークが傘だというのも、正式ではないそうですよ」
 愛原:「正式じゃない!?」
 フロント係:「私はそのように伺っております」
 愛原:「このホテル、宗教法人天長会の経営なんだね?」
 フロント係:「さようでございます。天長会の福利厚生部が運営しております」

 福利厚生部って、会社や役所じゃないんだから……。

 愛原:「俺達、信者じゃないけど、泊まっていいの?」
 フロント係:「もちろん、一般のお客様も大歓迎です。ごゆっくり、お寛ぎくださいませ」
 愛原:「ああ。よろしく」

 私はカードキー2枚を手に、ロビーにいた3人を手招きした。

 愛原:「部屋のドアはカードキー式だ。1枚は俺が持つけど、もう1枚はリサが持って」
 リサ:「分かった」
 絵恋:「同じ部屋なんですか?」
 愛原:「そうなんだけど、中は二間になっていて、襖で仕切れるようになっているらしい。だから、布団は別々に敷いて襖を閉めればいいよ」
 リサ:「私は別に一緒にでもいいんだけど……」

 私達はエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーターも、何の変哲も無い。
 ただ、ロビーには天長会に関するパンフレットとかが置いてあったので、それがこのホテルが天長会の経営であることを主張していた。
 7階に到着する。
 シックで落ち着いた雰囲気の廊下だが、やはりこの辺も、他のホテルとあまり変わらない。

 愛原:「えーと……ここだな」

 私はドアノブの上にあるカードキーの読取機にカードを当てた。
 中に入ると、確かに和室が二間あった。
 1つは八畳間で、もう1つは六畳間であった。

 愛原:「どっちにする?どっちでもいいよ」

 私は絵恋さんに聞いた。

 絵恋:「私は……こっちがいいですぅ!」

 絵恋さんは、あえて狭い六畳間を選んだ。

 絵恋:(狭い部屋でリサさんと密着……!萌えへへへへ……!)
 リサ:「サイトー、また変な事考えてる」
 絵恋:「ご、ごめんなさい!」
 リサ:「いいよ。私はこっちで先生達と寝る」
 絵恋:「えぇえ!?」
 愛原:「おい!」
 リサ:「冗談。分かった。サイトーと同じ部屋にする」
 絵恋:「リサさーん、よろしくねー」

 部屋の中を見渡すと、ライティングデスクがあった。
 その上には本が数冊置かれていて、どれもが天長会に関する書籍であった。
 よくホテルには聖書とか仏教典などが置いてあったりするが、ここは天長会の書籍のようだ。

 愛原:「なあ、リサ」
 リサ:「なに?」
 愛原:「さっき何か臭いを気にしてたみたいだが、何だったんだ?」
 高橋:「死体の臭いでもしたか?」
 リサ:「あー、あれ。あれは……」

 すると、リサがブルッと震えた。

 リサ:「何か来る……!」
 愛原:「なに?」
 リサ:「こ、この部屋に……何か……BOWみたいなのが来る……!」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「何の冗談だ!?」
 リサ:「冗談じゃない!本当に何か……BOWの臭いが近づいてくるの!」
 愛原:「BOWの何の臭いだ?ハンターか?」
 リサ:「違う!これは……私と似た臭い?」
 愛原:「リサ・トレヴァーか!」
 リサ:「こっちに近づいてくる……!」

 その時、室内にインターホンの音が響いた。
 確かにドアの外側横に、インターホンのボタンがあった。
 それが押されたのだろう。

 愛原:「BOWか?」
 リサ:「うん……!」
 絵恋:「なに?何なの?」

 もう1回、インターホンが押された。

 高橋:「先生、俺が見て来ます。ピンポイントでこっちに来たってことは、俺達がここにいると確信して来たってことでしょうから」
 愛原:「そ、そうだな」

 つまり、居留守を使っても無駄だということだ。
 高橋はバッグの中から、愛用のマグナムを取り出した。
 そして、それをリロードする。

 リサ:「ウゥウ……!」

 リサは第1形態に戻り、ドアを睨み付けながら牙と長く鋭い爪を立てた。

 愛原:「リサは絵恋さんを守ってくれ」
 リサ:「分かった」

 高橋はマグナムを構えながら、ドアに近づいた。
 いきなり開けるのではなく、まずはドアの覗き窓から外を見るようだ。

 高橋:「あっ!」

 高橋は何を見たのだろうか?

 1:ハンター
 2:タイラント
 3:ネメシス
 4:女将
 5:誰もいない
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“私立探偵 愛原学” 「雨の那須塩原」

2021-05-31 11:51:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日14:23.天候:雨 栃木県那須塩原市 JR那須塩原駅→関東自動車バス車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、那須塩原です。東北本線、黒磯方面はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。那須塩原の次は、新白河に止まります〕

 愛原:「おい!おぉーい!雨だで!?雨!」
 高橋:「トンモナイ話ですねぇ……。フザけてます」

 私達が想定外の雨に右往左往する中、リサは……。

 リサ:「雨あめあーめ♪雨あーめ♪」
 絵恋:「リサさん、雨好きなの?」

〔「……2番線到着、お出口は左側です。那須塩原駅では、3分停車致します。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 列車が下り副線ホームに入り、減速する。
 1番線は那須塩原止まり、那須塩原駅始発のホームである。
 本線は通過線になっており、この列車は当駅でも通過待ちをするようだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。那須塩原、那須塩原です。お忘れ物の無いよう、お降りください」〕

 ドアが開くと、私達はホームに降り立った。

 

 愛原:「忘れ物は無いか?」
 リサ:「OK!」
 絵恋:「大丈夫です」
 愛原:「よし、それじゃ高橋の一服が終わった後、出発しよう」
 高橋:「あざっス!」

 高橋はホーム上の喫煙所に向かった。
 尚、要所要所で写真撮影することを忘れない。
 斉藤社長に提出する報告書に添付するのと、リサ達に渡す用だ。
 この時だけはスマホではなく、デジカメを使う。
 スマホだとデータ流出の恐れがあるからだ。
 デジカメの場合、これをPCに起こして、それからリサや絵恋さんに送信すれば良い。
 幸いここでは3分停車するので、例えば列車の前でポーズを取る2人の少女の写真撮影なんかができるわけだな。
 で、それから移動を開始する。

 愛原:「キップは2枚重ねて入れてくれ」

 新幹線改札口を出る。
 乗り換え改札ではないので、これでもうラチ外コンコースに出たことになる。

 高橋:「先生、バスの時間は……?」
 愛原:「ちゃんと考えてる。西口から出ることになっている」

 

 駅の外に出る。

 愛原:「なあ、リサ。この辺り、何か記憶に残っている所とか無いか?」
 リサ:「無い。全然風景が違う」
 愛原:「だよなぁ……」

 リサがフラッシュバックしたのは、那須塩原駅が、まだ東那須野駅と呼ばれていた頃だ。
 当然まだ新幹線は開通していなかったので、駅の構造なんか全く違っただろう。
 で、駅の構造が変われば、ついでに駅前も整備されるわけで、その光景も全く変わっているわけである。
 何しろ、東那須野駅時代は在来線の特急はもちろん、急行列車すら停車しない駅だったって話だからな。
 それが今や、各駅停車タイプのみとはいえ、新幹線が止まる駅になった。

 愛原:「あのバスだ」

 駅前ロータリーのバス停の中から、板室温泉方面行きのバスを探す。

 高橋:「先生、気を付けてください。また偽バスだったりしたら……」
 愛原:「そ、そうだな」

 私は行き先表示を確認した。
 オレンジ色のLED式で、『板室温泉経由那須ハイランドパーク』と書かれている。
 ちゃんと経由地も書いてあるところは、あの偽バスと違う。
 また、ラッピングはされていなかった。
 あの時はラッピングのせいでバス会社名が分からなくなっていたのだ。

 愛原:「関東自動車。間違いないな」

 尚、この辺りはかつて東武バス系列の東野(とうや)交通というバス会社が運行していたが撤退し、みちのりホールディングスの関東自動車というバス会社がそれを引き継いで運行している。
 地元では関東バスと呼ばれているそうだが、都内のバス会社や埼玉のバス会社とは全く関係は無いそうだ。
 また、中扉はあるが、ICカードが導入される前まではそこは締め切り扱いにして、前扉のみで乗降させていたとのこと。
 今はICカードがあるので、中扉から乗って前扉から降りる方式となっている。
 大型バスに乗り込むと、7~8人ほどの乗客が発車を待っていた。
 私達は一旦、空いている1番後ろの座席に座ると、私は運転席に向かった。
 客層は老若男女様々だ。
 あの偽バスのように、20代から50歳までの男が数人乗っているということはない。
 これは本物と見て良いか。

 愛原:「すいません。このバスでこのホテルに行くには、どこで降りたらいいですか?」

 最寄りのバス停自体は私も知っている。
 だが、私はあえて聞き出した。

 運転手:「ホテル天長園さんですか。それなら……これで行くとその前を通りますので、その前で停車します。近くなったら、また仰ってください」
 愛原:「?」

 私が首を傾げていると、このバスは途中の区間からフリー乗降制となるという。
 確かこの前、やまなみ温泉に行った時も、途中からフリー乗降制になっていた。

 愛原:「なるほど……」

 私は後ろの席に戻った。

 高橋:「どうでした、先生?」
 愛原:「まあ多分、大丈夫だろう」
 高橋:「そうですか」

 私が席に戻ると、バスにエンジンが掛かった。

〔「お待たせ致しました。板室温泉経由、那須ハイランドパーク行き、発車します」〕

 ふりしきる雨の中、バスは那須塩原駅西口を発車した。
 フロントガラスの上を、大きなワイパーが左右に動いている。

 愛原:「取りあえずこのバスは大丈夫だと思うが、問題は宿泊先だ」
 高橋:「何ですか?」
 愛原:「このホテルの名前、聞いたことないか?」
 高橋:「ホテル天長園ですか。都内じゃ……聞いたことないですね」
 愛原:「リサが人間だった頃過ごした、あの児童養護施設を運営していた宗教団体の名前は?」
 高橋:「確か天長会……あっ!」
 愛原:「斉藤社長、絶対何か狙ってるだろ」

 斉藤社長がただ単に娘のお守りを私達にさせるわけがない。
 社長が怪しいと思った所に私達を行かせて、ついでに調査してこいということなのだ。
 どうしてそんな回りくどいことをするのかは分からないが、報告書についでに載せてあげると、何故か報酬が追加アップされるのだから、つまりそういうことなんだろう。
 とんだおもしろホテルに泊まれそうだ。
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“私立探偵 愛原学” 「珍道中!東北新幹線“なすの”号の旅!」

2021-05-30 21:01:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日13:36.天候:曇 埼玉県さいたま市大宮区 JR東北新幹線259B列車8号車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、埼京線、川越線、京浜東北線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、小山に止まります〕

 東京~大宮間は徐行運転区間である。
 これは東北新幹線建設時、埼京線沿線の住民達が騒音問題に繋がるとして反対運動を起こした為だ。
 政府や旧国鉄はこの区間を徐行運転すること、開業に協力してくれることへの見返りに通勤新線(埼京線)を開業させることを約束した。
 パヨクざまぁw
 ところが、旧国鉄もタダでは済ませなかった。
 明らかに『反対しやがってこの野郎』という仕返しだろう。
 埼京線開通当時には既にデビューしていた新型の205系はあえて投入せずに、旧型の103系電車を投入した。
 この2つの電車に乗ったことのある方なら、もうお分かりだろう。
 開通反対していた東北新幹線を走行する200系電車の方が静かで、見返り開通の103系の方がうるさかったのである。
 因みに205系も205系で、それなりにうるさかったとは思うが。
 何せ……静かな電車の209系が首都圏内に出回っても、いつまでも埼京線には投入されず、ようやく静かなE233系が投入された時には、既に東日本大震災の後であった。
 旧国鉄の恨みはJRになってからも続いたのである。
 ……という歴史を、今の戸田市民や旧・浦和市民は知っているのだろうか。
 で、そのせいで時速110キロ以下での走行を余儀無くされていた東北新幹線だが、3月13日のダイヤ改正でもって、最高速度が時速130キロに引き上げられた。
 これはJR在来線の最高速度である。
 200系と比べても、今のシンカリオンE5系などは音が静かだからだ。

 リサ:「見て、サイトー。この辺り、サイトーんち」
 絵恋:「そうねぇ。何だか帰って来た気がするわ」
 リサ:「サイトーだけ降りる?」
 絵恋:「降りないよ!私はリサさんと一緒に降りる!」
 リサ:「じゃあ、私が降りる」
 絵恋:「えぇえ!?」
 リサ:「冗談」
 愛原:「仲いいね」
 高橋:「うるさいだけっス」

 列車は見覚えのある風景を走行すると、大宮駅のホームに滑り込む。

 愛原:「どうだ?修学旅行気分になれるか?」
 リサ:「ん!こんな感じなんだ」
 絵恋:「本当の修学旅行は関西地方に行ったり、飛行機で海外に行ったりするのよ」
 リサ:「そうかぁ……」
 絵恋:「どうしたの?リサさんなら、『是非行きたい!』とか言うと思ったのに……」
 リサ:「いや、作者が取材に行けるかどうかでそれ決まると思うから……」

 雲羽:「ブバッ!」
 多摩:「ザッツ・ライト!」

 絵恋:「い、いきなり何を言ってるの?」

 リサが何か言ってる。
 大宮駅での停車時間は1分。
 大宮駅で唯一の発車ベルを鳴らし、列車はすぐに発車した。
 そして、今までの徐行運転がウソのようにグングンと速度を上げる。
 如何に東北新幹線では各駅停車の鈍行であっても、駅間距離が長い所では最高時速275キロで走行する。

 愛原:「ちょっと、トイレ行って来る。ついでに空き缶とか捨てて来るよ」
 高橋:「あ、俺が行ってきますよ」
 愛原:「いいよいいよ。トイレのついでだから」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「だから、いいって」
 リサ:「私も行く!」
 絵恋:「リサさんが行くなら私も!」
 高橋:「先生の弟子は俺だけですよ!?」
 愛原:「あー、もうっ!うるせっ!まずは俺とリサで行く!お前らは俺らが戻って来るまで待ってろ!」
 高橋:「ええ~っ!?」
 絵恋:「そんなぁ~!」
 愛原:「さ、リサ、行こう」
 リサ:「うん」

 私はリサを連れ出した。

 リサ:「サイトーがベタベタしてくるから、なかなかトイレに行けなくて……」
 愛原:「そうだよな。また変にトイレを我慢して、変な変異体を排出されても困る」
 リサ:「うん、そうだね」

 私はビール飲用後による小用。
 なので、私は男子用の個室に入れば良い。
 一方、リサは洋式便器のある個室へ。
 E5系には女性用トイレがある。
 リサはそこへ入った。

 愛原:「ふう……」

 ところで、男性読者の中で、新幹線の男性用トイレを使用したことのある人は多いと思う。
 見た目には普通の便器なのだが、これ、陶器製じゃないって知ってた?
 コンコンと叩いてみると分かるのだが、まるでプラスチックのそれを叩いているかのような音と感触がある。
 ということは恐らく、洋式便器や洗面所のシンクも見た目には陶器製だが、実は違うのかもしれない。
 どうして違うのかは不明だが、鉄道車両ならではの制約があるのだろうな。

 愛原:「やはり、俺の方が早いか」

 因みに、どうして男性用個室だけ鍵が付いていないのかは今もって不明である。
 私は未だに女性用個室が使用中であるのを確認して、自分の席に戻った。

 愛原:「お待たせ。高橋、行っていいぞ」
 高橋:「うス」
 愛原:「絵恋さんも。リサはまだ使用中だが、男女共用の個室なら空いてるぞ?」
 リサ:「そんな、汚いオッサンが使ったかもしれないトイレを使いたいとは思いません」
 愛原:「リサが出てくるまで待つのか?」

 すると絵恋さん、自分の通学鞄の中から何かを取り出した。
 それはキーピック。
 “バイオハザードシリーズ”では、なかなか重宝するアイテムの1つ……って!

 愛原:「何に使うつもりかな?というか、どうしてJKがそんな犯罪臭のするアイテムを持っているのかなぁ?」
 リサ:「愛の為なら、多少の犯罪も許されるのです」
 愛原:「されないされない!」
 絵恋:「でも私達、少年法が守ってくれるんでしょう?」
 高橋:「ヤるんだったら、クソユルユルの少年法が守ってくれる今のうちだぞ?」
 絵恋:「そーよね!」
 愛原:「高橋君?いたいけな少女を悪の道に引っ張らないように!絵恋さんも、事実は事実だが、犯罪はしない方がいいんだよ!」
 絵恋:「うちには優秀な弁護士が付いてますけど?」
 愛原:「そういう問題じゃない!」
 リサ:「何してんの、みんな?」

 そうこうしているうちにリサが戻って来た。

 絵恋:「リサさん!?リサさんの排泄臭が残っている今のうちに、私が次使わせて頂くわッ!」

 絵恋さんは新幹線並みの超特急で7号車にトイレに向かった。

 高橋:「俺が勧誘しなくても、あいつは何らかの犯罪を無意識に起こしそうな気がしますが?」
 愛原:「う、うむ……。この旅行から帰ったら、斉藤社長に言っておくことにしよう」
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“愛原リサの日常” 「リサとゴールデンウィーク」

2021-05-29 22:56:36 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日12:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・教育資料館(旧校舎)前]

 トイレの花子さん:「そうか。これから旅行に……」
 リサ:「そう」
 花子さん:「私も行きたいが、私は所詮地縛霊。この学校に括りつけられておる……」
 リサ:「何かお土産買ってきましょうか?」
 花子さん:「気持ちは嬉しいが、私は所詮地縛霊。何も口にすることができぬ……」
 リサ:(そんなに昔の人でもないだろうに、いちいち喋り方が古風だよねぇ……)
 花子さん:「帰ったら土産話を頼む。写真付きでな」
 リサ:「うん、分かった!」
 花子さん:「頼んだぞ」
 リサ:「花子さんは今までゴールデンウィーク中とかはどうしてたの?」
 花子さん:「ずっとトイレで寝ていたが、今は良い暇潰しができた。感謝する」
 リサ:「テレビの映り具合、どう?」
 花子さん:「バッチリだ。今のテレビは私が生きていた頃よりも、ずっと映りが良いな!」
 リサ:「そう」
 花子さん:「リモコンとやらで簡単にチャンネルを変えられるのが良い。私が生きていた頃は、つまみを回していたものだが……」
 リサ:「つまみ?」

 リサはよく愛原や高橋がビール片手に食べている物を思い出した。

 リサ:「回す……?」
 花子さん:「これでやっと年末は紅白が観れるな!」
 リサ:「うん、そうだね……」

 本当にこの幽霊は成仏する気があるのだろうかと、本気で気になり出したリサだった。

 リサ:「そういえばこの学校……」
 花子さん:「?」
 リサ:「怖い話が夏しか無いのはどうして?」
 花子さん:「どういうことだ?」
 リサ:「いや、この学校に伝わる怪談話の季節、殆ど夏だからさ……」
 花子さん:「あー……そう言えばそうだな。いや、スマン。言われてみればと、私も今気づいた。何せ私も元人間だ。生きていた頃、私もいくつか怪談話は聞いたことがあるが、そこまでは気にしなかったな」
 リサ:「BOWは冬でも活動するのに……。花子さんは、冬は人を襲わないの?」
 花子さん:「そんなことは無いのだが、幽霊も冬は寒くてな。あ、今度はコタツにミカンの差し入れを頼む!」
 リサ:「さっさと成仏してください」
 花子さん:「ケチな鬼よの」
 リサ:「だから鬼じゃないです」

 と、その時……。

 花子さん:「む?どうやら、オマエの子分が来たようだぞ。獲物でもない人間に姿は見られたくないので、また」
 リサ:「うん、また」

 息せき切ってやってくる絵恋の姿があった。

 斉藤絵恋:「リサさん、お待たせ!」
 リサ:「大丈夫。暇潰ししてたから」
 絵恋:「暇潰し?」
 リサ:「じゃあ、行こう。先生達、もう東京駅に着いてる」
 絵恋:「あん、待って!私達は上野駅からでいいんでしょ?」
 リサ:「キップは上野駅からになってるからそう」

 リサと絵恋は、急ぎ足で学校を出て行った。

 坂上:「いいコ達じゃないですか」

 そこへ、校舎の陰から坂上がやってきた。
 彼はこの学校の体育教師で、リサ達のクラスの副担任でもある。

 花子さん:「オマエか……」
 坂上:「テレビの映り具合はどうですか?」
 花子さん:「おかげで良い暇潰しができた。感謝する」
 坂上:「……やはり、最後の1人に復讐しないと成仏できませんか」
 花子さん:「白井伝三郎。こいつだけだ……!1人だけ許すことはできぬ……!!」
 坂上:「噂ではあの愛原の保護者の方が探偵で、その白井を追っていると聞きます。その結果を待つしか無さそうですね」
 花子さん:「オマエも白井とは因縁があるそうだな?」
 坂上:「ええ。危うく俺も、あいつの実験台にさせられるところでしたからねぇ……。科学が進歩するのは素晴らしいことですが、人の命を食い物にしてはいけませんね」

[同日12:45.天候:晴 同地区内 JR上野駅]

 リサ達はJR上野駅に到着した。
 今まで荷物は通学鞄1つだけであったが、登校する時に大きなバッグはコインロッカーに入れていた。
 それを今、回収する。

 リサ:「高野さんが愛原先生に渡した高速バスのチケット、やっぱり無駄になったな」
 絵恋:「あの、秋田方面行きの高速バスのこと?」
 リサ:「高野さんの言う通り、緊急事態宣言のせいで運休になっちゃった」
 絵恋:「その場合、バス会社の都合で運休になったわけだから、手数料無しで払い戻しができるはずよ?」
 リサ:「そのチケット、善場さんが持ってる。捜査資料として押収だって」
 絵恋:「あらら……」

 コインロッカーから荷物を回収した後、乗車券のみでまずは在来線コンコースに入る。

 リサ:「駅弁買って行こう!お腹空いた」
 絵恋:「そうね、そうしましょう」

 リサは大きめのリュックだが、絵恋はピンク色のキャリーバッグである。

 絵恋:「リサさんは何が食べたい?」
 リサ:「肉!肉の多いやつ!サイトーは?」
 絵恋:「わ、私はリサさんの食べ残しで……きゃはっ

 するとリサ、スッと笑顔が無くなり、絵恋を睨み付けるように見据えた。

 リサ:「あぁ?サイトー、まさか私が食事を食べ残すとでも思ってんの?
 絵恋:「ち、ちちち、違います!い、いい、今のは、じょじょじょ……冗談で……!」
 リサ:「次、ヘタな冗談を言ったら……!」
 絵恋:「き、気を付けます!」

 リサの凄みに、失禁しそうになった絵恋だった。

 リサ:「私はやっぱり牛肉弁当かな……」
 絵恋:「本当にお肉たっぷりね」
 リサ:「サイトーは?」
 絵恋:「私は幕の内弁当かな……」
 リサ:「お、定番」
 絵恋:「ま、まあね」

 駅弁を購入した後は、新幹線ホームに向かう。

 リサ:「う……。確か、上野駅の新幹線ホームって地下だったっけ?」
 絵恋:「そう。確かね、全国でもここだけなんだって。地下にホームのある新幹線の駅って」
 リサ:「そ、そうなのか……」

 

 新幹線ホームは地下4階にある。
 そこまではエレベーターまたはエスカレーターで行ける。

 リサ:「この地下深いのに、何か高い天井とか……研究所を思い出すなぁ……」

 リサは顔をしかめていた。

 絵恋:「もう少しだから、頑張って」

 

 下りホームは19番線と20番線である。
 このうち、傾向として20番線を東北新幹線下り列車が使用することが多い。

〔20番線に、13時18分発、“なすの”259号、郡山行きが10両編成で参ります。この電車は、終点まで各駅に止まります。……グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。まもなく20番線に、“なすの”259号、郡山行きが参ります。黄色い点字ブロックまでお下がりください〕

 ホームに降りて、キップを片手に8号車の来る位置で列車を待つ。
 今日から衣替えということもあって、リサ達はブレザーは着ていなかった。
 クリーム色のベストを着ている。

〔「20番線、ご注意ください。東北新幹線“なすの”259号、郡山行きが到着致します。黄色い点字ブロックまで、お下がりください」〕

 地下トンネルの中である為か、列車が接近してくると強い風が吹いて来た。

 リサ:「おー!愛原先生達乗ってる!」

 8号車の中を覗くと、愛原がリサ達を見つけて手を振った。
 ドアが開くと、リサ達は急いで列車に乗り込んだ。
 空いている車内に入ると……。

 愛原:「おー、2人とも。こっちだー」

 缶ビール片手に、愛原が手を大きく挙げた。

 リサ:「愛原先生」
 絵恋:「もう飲まれてますの?」
 愛原:「一杯だけだよ」
 リサ:「じゃあ、座席を向かい合わせに……」
 愛原:「あー、それはしない方がいい」
 リサ:「えっ?」
 愛原:「コロナ対策で、それはやめてくれってさ」
 絵恋:「あー、確か駅の放送で流れてましたね」
 リサ:「私達は大丈夫なのに……」
 愛原:「まあ、いいからいいから。絵恋さんも、その方がリサと2人旅気分になれていいだろ?」
 絵恋:「それもそうですね」
 愛原:「高橋、絵恋さんのバッグ、荷棚に上げてやれ」
 高橋:「ハイ」
 リサ:「さすがお兄ちゃん、力持ち」
 高橋:「オメーに言われたくねーよ」

 リサも同じく大きな自分のリュックを、ヒョイと荷棚の上に放り投げるようにして置いた。

 リサ:「私達はお昼まだだから」
 愛原:「そうか。美味そうな駅弁、ゲットできたみたいだな。まあ、着くまで1時間ちょっとあるから、寛いでていいよ」
 リサ:「分かった」

 そうしているうちに列車は走り出し、暗い地下トンネル内を走行していた。
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