[1月3日07:30.天候:晴 東京都大田区羽田空港 東急エクセルホテル羽田]
稲生:「うーん……」
稲生は朝起きて身支度を整えていた。
稲生:(丑寅勤行をした後また寝ちゃったけど、別にいいんだよね?登山中じゃ、そうしてるし……)
大石寺における丑寅勤行は僧侶にとっての朝勤行であることから、正にこの時から1日の仏道修行が始まるのだろうが、俗世間における信徒にとってはそういうわけではないことから、二度寝は別に謗法ではないのだろう。
そもそも、顕正会員をしてそれがあることを知る者がいるかどうかだ。
作者は大石寺の信徒になるまで、それを知らなかった。
顕正会員時代には、妙信講からの会員も結構いたにも関わらずだ。
稲生:「さーて、マリアさん起こしてこよう」
稲生は室内の電話機を取った。
稲生:「んんっ?」
だが、何故か話し中になっていた。
稲生:「どういうこっちゃ?」
もう1度掛けてみると、今度は繋がった。
で、すぐにマリアが出る。
マリア:「Hello.」
稲生:「マリアさん、おはようございます」
マリア:「ああ、ユウタか。この通り、もう起きてるよ。師匠の部屋に電話したら、朝食はルームサービスだってさ」
稲生:「さすがは先生方ですね」
マリア:「ああ。弟子達との食事は、昨夜で十分らしい」
稲生:「しょうがないですよ。僕達は僕達で、食べに行きましょうか。昨夜のレストランみたいですから」
マリア:「うん、行こう」
稲生とマリアは部屋の外で待ち合わせて、それからレストランに向かった。
稲生:「よく眠れましたか?」
マリア:「おかげさまでね。ありがとう」
マリアの見せる笑顔にドキッとした稲生だった。
エレベーターでレストランのある2階へと下りる。
稲生:「あの……鈴木君は顕正会から来た者で、その……顕正会で色々あったみたいで、そのせいで精神的に参った所があったようで……」
マリア:「ユウタの言いたいことは、あの変態野郎のせいでユウタの宗派のイメージを落とさないでくれ、だろ?」
稲生:「はあ……」
マリア:「別に私はイメージダウンはさせてないよ」
稲生:「マリアさん……」
マリア:「ユウタがいる所だし、藤谷さんみたいな面白い人もいる。魔女狩り教団から守ってくれたのも、ユウタの宗派だったから」
稲生:「うちには『邪教撲滅!世を正せ!』みたいな人がいるのも事実ですから……」
稲生は苦笑した。
別に魔道師を助けたくて行動したわけではなく、その魔道師達を火あぶりにせんとした邪教破折を目的としたものだったからだ。
目的と手段を口では正しく言っていても、行動に際しては首を傾げる者も存在する。
稲生:「このレストランですね」
同じレストランであるが、ディナータイムの時とは雰囲気が変わっている。
このホテルの朝食会場もまた御多聞に漏れず、バイキング形式であった。
稲生:「僕は和食中心にしようかな……」
マリア:「その方がいい。今夜のディナーから、また私や師匠の好みに合わせた食事になる」
稲生:「はい」
といっても、全て和食にしたわけではない。
調理師が目の前で作るオムレツやベーコン、ソーセージなんかもおかずとして取っていた。
マリア:「出発は、何時だって?」
稲生:「10時ちょうど。このホテルのチェックアウトの時間ですよ。大師匠様の飛行機が、その時間帯でも十分に間に合う便なので」
マリア:「そうか」
稲生:「僕達は大師匠様のお見送りの後、羽田空港発の高速バスで帰るわけです」
マリア:「師匠は不精だから、あまり歩きたがらないんだ」
稲生:「ですよね」
マリア:「屋敷の階段、エスカレーターにしようかなんて言ってる」
稲生:「既に地下室から3階まで、エレベーター1基仕掛けたのにねぇ……」
屋敷の主人はマリアということになっているが、実はそれは表向きで、実際のオーナーはイリーナだったりする。
マリアは住み込みの管理人といった感じ。
[同日同時刻 同ホテル7F客室]
稲生とマリアがシングルルームにそれぞれ泊まったのに対し、イリーナとダンテはスイートルームに宿泊していた。
確かに他の部屋と比べて間取りは広く、ベッドもダブルベッド並みの大きさのものが2つ用意されている。
ソファなどの応接セットもあるのだが、観光地のホテルにあるような『貴賓室』的なギンギラギンな感じではなく、落ち着いた内装になっている。
ダンテ:「おーい、イリーナ。朝食が来たよ。早く食べようじゃないか」
イリーナ:「待ってください、先生」
イリーナがバスルームから出て来た時、ワインレッドのセクシーランジェリー姿だった。
すぐにその上から、いつもの紫色のワンピースを着る。
ダンテ:「昨夜、孫弟子達に危険が迫っていたような予知があったが、大丈夫だったみたいだね?」
イリーナ:「ええ。あのコ達は、よくやってくれますわ」
ダンテ:「私達の魔法をどこまで公表するべきか、時代によって熟慮しないといけないから大変だね」
イリーナ:「少なくとも『協力者』には公表すべきかと考えております。でないと、信じてもらえませんもの」
ダンテ:「それは私も同意見だ。自称『まもなく中堅ゼネコン入り確定の赤ランプ点灯』の土建会社の倅も、その1人とカウントしているわけかい?」
イリーナ:「そのつもりです。私もお世話になったことですしね」
ダンテ:「ふむ。まあ、キミがそう思うのなら良かろう。それで……今後、来たるべくキミの弟子に強制的に訪れる試練とやらの対策はどうなっているのかね?」
イリーナ:「生贄が必要だと判明しています。そしてその有力候補を挙げているのですが、今回の旅行でそれをほぼ確定させました。あとはその生贄を有効に活用する為のプランを今現在立てている最中です」
ダンテ:「なるほど。この辺に関しては、少し私としては不安だな」
イリーナ:「先生?」
ダンテ:「有効なプランを立てる。あいにくとだが、私の直弟子達の中において、キミが1番その成績が悪い」
イリーナ:「っ……!それは……!もう、昔の私とは違います。ですから……」
ダンテ:「ただ単に、私のテストを受けなかっただけだと思うが?……まあいい。そこまで言うのなら、やってみなさい。但し、最良の結果は求めない」
イリーナ:「先生?」
ダンテ:「但し、最悪の結果は絶対にもたらさないように。あいにくとだが、プラン立てについて常に落第だった弟子を師匠として信用するわけにはいかん。とはいえ、その自主性を潰すには惜しい。分かるかね?もしこれがアナスタシア辺りだったら、私はハードルを最高にまで引き上げていただろう。しかしキミの場合は、ハードルを下げる。いいかね?下げた以上、そのハードルを倒してはならない。不服なら、キミの案は却下する」
イリーナ:「……分かりました。私なりの微力を尽くします」
ダンテ:「いいだろう。キミの弟子達の信頼を損ねる。これが最悪の結果だ。これさえ無ければ、キミに赤点を付けることはしない」
よほど師匠に信用されていないことをイリーナはやろうとしている。
ポジティブに考えれば、他の大魔道師仲間並みの結果を出せば、師匠であるダンテを見返してやれるということにはなるが……。
稲生:「うーん……」
稲生は朝起きて身支度を整えていた。
稲生:(丑寅勤行をした後また寝ちゃったけど、別にいいんだよね?登山中じゃ、そうしてるし……)
大石寺における丑寅勤行は僧侶にとっての朝勤行であることから、正にこの時から1日の仏道修行が始まるのだろうが、俗世間における信徒にとってはそういうわけではないことから、二度寝は別に謗法ではないのだろう。
そもそも、顕正会員をしてそれがあることを知る者がいるかどうかだ。
作者は大石寺の信徒になるまで、それを知らなかった。
顕正会員時代には、妙信講からの会員も結構いたにも関わらずだ。
稲生:「さーて、マリアさん起こしてこよう」
稲生は室内の電話機を取った。
稲生:「んんっ?」
だが、何故か話し中になっていた。
稲生:「どういうこっちゃ?」
もう1度掛けてみると、今度は繋がった。
で、すぐにマリアが出る。
マリア:「Hello.」
稲生:「マリアさん、おはようございます」
マリア:「ああ、ユウタか。この通り、もう起きてるよ。師匠の部屋に電話したら、朝食はルームサービスだってさ」
稲生:「さすがは先生方ですね」
マリア:「ああ。弟子達との食事は、昨夜で十分らしい」
稲生:「しょうがないですよ。僕達は僕達で、食べに行きましょうか。昨夜のレストランみたいですから」
マリア:「うん、行こう」
稲生とマリアは部屋の外で待ち合わせて、それからレストランに向かった。
稲生:「よく眠れましたか?」
マリア:「おかげさまでね。ありがとう」
マリアの見せる笑顔にドキッとした稲生だった。
エレベーターでレストランのある2階へと下りる。
稲生:「あの……鈴木君は顕正会から来た者で、その……顕正会で色々あったみたいで、そのせいで精神的に参った所があったようで……」
マリア:「ユウタの言いたいことは、あの変態野郎のせいでユウタの宗派のイメージを落とさないでくれ、だろ?」
稲生:「はあ……」
マリア:「別に私はイメージダウンはさせてないよ」
稲生:「マリアさん……」
マリア:「ユウタがいる所だし、藤谷さんみたいな面白い人もいる。魔女狩り教団から守ってくれたのも、ユウタの宗派だったから」
稲生:「うちには『邪教撲滅!世を正せ!』みたいな人がいるのも事実ですから……」
稲生は苦笑した。
別に魔道師を助けたくて行動したわけではなく、その魔道師達を火あぶりにせんとした邪教破折を目的としたものだったからだ。
目的と手段を口では正しく言っていても、行動に際しては首を傾げる者も存在する。
稲生:「このレストランですね」
同じレストランであるが、ディナータイムの時とは雰囲気が変わっている。
このホテルの朝食会場もまた御多聞に漏れず、バイキング形式であった。
稲生:「僕は和食中心にしようかな……」
マリア:「その方がいい。今夜のディナーから、また私や師匠の好みに合わせた食事になる」
稲生:「はい」
といっても、全て和食にしたわけではない。
調理師が目の前で作るオムレツやベーコン、ソーセージなんかもおかずとして取っていた。
マリア:「出発は、何時だって?」
稲生:「10時ちょうど。このホテルのチェックアウトの時間ですよ。大師匠様の飛行機が、その時間帯でも十分に間に合う便なので」
マリア:「そうか」
稲生:「僕達は大師匠様のお見送りの後、羽田空港発の高速バスで帰るわけです」
マリア:「師匠は不精だから、あまり歩きたがらないんだ」
稲生:「ですよね」
マリア:「屋敷の階段、エスカレーターにしようかなんて言ってる」
稲生:「既に地下室から3階まで、エレベーター1基仕掛けたのにねぇ……」
屋敷の主人はマリアということになっているが、実はそれは表向きで、実際のオーナーはイリーナだったりする。
マリアは住み込みの管理人といった感じ。
[同日同時刻 同ホテル7F客室]
稲生とマリアがシングルルームにそれぞれ泊まったのに対し、イリーナとダンテはスイートルームに宿泊していた。
確かに他の部屋と比べて間取りは広く、ベッドもダブルベッド並みの大きさのものが2つ用意されている。
ソファなどの応接セットもあるのだが、観光地のホテルにあるような『貴賓室』的なギンギラギンな感じではなく、落ち着いた内装になっている。
ダンテ:「おーい、イリーナ。朝食が来たよ。早く食べようじゃないか」
イリーナ:「待ってください、先生」
イリーナがバスルームから出て来た時、ワインレッドのセクシーランジェリー姿だった。
すぐにその上から、いつもの紫色のワンピースを着る。
ダンテ:「昨夜、孫弟子達に危険が迫っていたような予知があったが、大丈夫だったみたいだね?」
イリーナ:「ええ。あのコ達は、よくやってくれますわ」
ダンテ:「私達の魔法をどこまで公表するべきか、時代によって熟慮しないといけないから大変だね」
イリーナ:「少なくとも『協力者』には公表すべきかと考えております。でないと、信じてもらえませんもの」
ダンテ:「それは私も同意見だ。自称『まもなく中堅ゼネコン入り確定の赤ランプ点灯』の土建会社の倅も、その1人とカウントしているわけかい?」
イリーナ:「そのつもりです。私もお世話になったことですしね」
ダンテ:「ふむ。まあ、キミがそう思うのなら良かろう。それで……今後、来たるべくキミの弟子に強制的に訪れる試練とやらの対策はどうなっているのかね?」
イリーナ:「生贄が必要だと判明しています。そしてその有力候補を挙げているのですが、今回の旅行でそれをほぼ確定させました。あとはその生贄を有効に活用する為のプランを今現在立てている最中です」
ダンテ:「なるほど。この辺に関しては、少し私としては不安だな」
イリーナ:「先生?」
ダンテ:「有効なプランを立てる。あいにくとだが、私の直弟子達の中において、キミが1番その成績が悪い」
イリーナ:「っ……!それは……!もう、昔の私とは違います。ですから……」
ダンテ:「ただ単に、私のテストを受けなかっただけだと思うが?……まあいい。そこまで言うのなら、やってみなさい。但し、最良の結果は求めない」
イリーナ:「先生?」
ダンテ:「但し、最悪の結果は絶対にもたらさないように。あいにくとだが、プラン立てについて常に落第だった弟子を師匠として信用するわけにはいかん。とはいえ、その自主性を潰すには惜しい。分かるかね?もしこれがアナスタシア辺りだったら、私はハードルを最高にまで引き上げていただろう。しかしキミの場合は、ハードルを下げる。いいかね?下げた以上、そのハードルを倒してはならない。不服なら、キミの案は却下する」
イリーナ:「……分かりました。私なりの微力を尽くします」
ダンテ:「いいだろう。キミの弟子達の信頼を損ねる。これが最悪の結果だ。これさえ無ければ、キミに赤点を付けることはしない」
よほど師匠に信用されていないことをイリーナはやろうとしている。
ポジティブに考えれば、他の大魔道師仲間並みの結果を出せば、師匠であるダンテを見返してやれるということにはなるが……。