報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「卯酉東海道」

2019-09-30 21:04:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月28日13:38.天候:晴 静岡県三島市 JR三島駅]

〔「まもなく三島、三島です。1番線に入ります。お出口は、右側です。この電車は伊豆箱根鉄道駿豆線直通、特急“踊り子”115号、修善寺行きです。三島を出ますと、三島田町、大場、伊豆長岡、大仁、終点修善寺の順に止まります。東海道新幹線、東海道本線はお乗り換えです。……」〕

 稲生達を乗せた特急は東京駅を出る時は15両の長大編成だったが、熱海駅で基本編成の10両が切り離されてしまった。
 熱海から先は、たったの5両編成で向かったわけだ。
 熱海から先はJRも変わり、東日本から東海へと変わる。
 その為、乗務員の制服も違うものになっている。
 JR東海の乗務員の乗務区間は熱海〜三島と、とても短い。
 そこから先は伊豆箱根鉄道という別の鉄道会社に変わるからだ。
 この辺りまで来ると、もう眼前に富士山の姿が見え始めている。

 稲生:「何とか晴れたな」
 エレーナ:「富士山、久しぶりに見たぜ」
 鈴木:「ホウキで飛んでるから、いつも見てるのかと思ったよ」
 エレーナ:「遠くへ行く時は、ルゥ・ラ使うからそれどころじゃない」
 鈴木:「は?」
 マリア:「やっぱりな……」

 とはいえ、ホウキで飛びながら瞬間移動魔法まで使えるのだから、エレーナの魔法技術は高いと言える。
 マリアと本気でケンカしていた頃は、東京の通勤快速電車並みの速度しか出せず、しかも新幹線の風圧に負けて失速するくらい弱かった。

 稲生:「そろそろ降りるよー」
 エレーナ:「ういっス」

 プシューという古めかしいエアの音がしてドアが開いた。

〔「ご乗車ありがとうございました。三島、三島です。新幹線、東海道線はお乗り換えです。1番線の電車は13時40分発、特急“踊り子”115号、修善寺行きです」〕

 エレーナ:「……え?なに?作者は前の話のタイトルを『Dancer Express 115』にしようとした?」
 稲生:「そうらしいんだ」
 エレーナ:「何でも横文字にすればいいってもんじゃないぜ」
 稲生:「そこは上手く踏み留まったみたい」
 鈴木:「……?あ、“踊り子”でDancerね!俺なら、『Dancing Girl Train 115』にしますけど?」
 稲生:「こっちの方が英文としては合ってる?」
 エレーナ:「私は“伊豆の踊子”は読んだことないからねぇ……。マリアンナは?」
 マリア:┐(´∀`)┌

 雲羽:「川端先生、ごめんなさい」
 多摩:「オマエも読んでないんかい!」

 エレーナ:「それで、次に乗り換える電車は?まさか、この期に及んで新幹線に乗るわけじゃないだろ?」
 稲生:「もちろん違うよ。普通電車に乗り換えるさ。あんまり進んで乗りたくは無いんだけど、しょうがないね」
 エレーナ:「ん?」

[同日13:46.天候:晴 同駅・東海道本線ホーム→東海道本線439M電車]

 青春18きっぷのユーザーなら、静岡県内の東海道本線区間は忍耐区間である。
 何故なら……。

〔「2番線、ご注意ください。13時47分発、普通列車の島田行き、3両編成で到着です。黄色い線まで、お下がりください」〕

 特急よりも更に短い3両編成というのは置いといて、全車両がロングシートだからである。
 新型車両らしく、窓は大きくて採光性は高いのだが。
 特に混んでいるというわけでもなく、青を基調としたバケットシートに座ることができた。

 鈴木:「先輩、確か以前、三島駅から在来線に乗り換えたことありましたよね?」
 稲生:「ある。確かあの時は、ルーシーと一緒だった。三島止まりの最終“こだま”号に乗って、それから沼津まで在来線に乗り換えたんだ」

 その時もこの313系が連結されていたはずだが、何故か稲生は旧型の211系に乗り込んだ。
 もっとも、その旧型電車も乗り納めの時期だから、今考えればそれで良かったのかもしれない。

 鈴木:「これで、どこまで?」
 稲生:「富士だよ、富士」
 鈴木:「あ、なるほど」

 たった1分の停車時間では、話しているうちにすぐに発車する。
 ピンポーンピンポーンと2回ドアチャイムが鳴って閉まるが、丸ノ内線のそれではなく、京王電車のそれと同じ甲高いものであった。
 新型車両らしく、先ほどの特急列車と違ってインバータの音を響かせ、滑らかに発車する。
 インバータの音もJR東日本で聞けるタイプではなく、JR西日本で聞けるタイプである。
 静かに乗っていると、眠くなりそうな音だ。

〔「ご乗車ありがとうございます。東海道線下り、普通列車の島田行きです。終点、島田まで各駅に停車致します。電車は3両編成での運転です。【中略】次は沼津、沼津です。御殿場線は、お乗り換えです」〕

 ロングシートなので、景色を見ようとすると、身をよじらなければならない。
 旅心など無い為、それで青春18きっぷユーザーには忍耐区間なのである。
 因みに作者はこの区間をJRバスで突破したよ。はっはっはー!
 まだ、高速バスの方が旅心があると言えよう。

 鈴木:「この辺は寝てていい区間でしょうね」
 稲生:「まあ、そうだろうね」
 鈴木:「俺にとってのメインは、身延線なんで」
 稲生:「鈴木君も興味があるの?」
 鈴木:「ええ。創価学会が去った後、ペンペン草が生えたのは大石寺ではなく、富士駅と富士宮駅であることを突き止めますよ」
 稲生:「厳密に言えば富士宮駅の操車場ね」

 要は学会専用列車の跡地のことである。
 それにしても、大石寺の南、参道を通って行く途中にバスの営業所らしき跡が存在するのだが、これはもしかして……?

 鈴木:「新幹線や高速バスでは、なかなか見られませんから」
 稲生:「そうだろうね。僕も身延線に乗ること自体は初めてなんだ」

 開業当初は富士身延鉄道という私鉄であった。
 それが国有化された際に身延線という名前になったが、頭に付いていた富士が取れてしまった経緯については不明である。

 鈴木:「まさか在来線だけで登山するとは、誰も思うまいと……」
 稲生:「いや、昔は皆そうだったらしいけどね」

 鉄道から見る日蓮正宗の歴史。
 東海道新幹線新富士駅開業の経緯、富士駅の構内配線大変化の背景、富士宮駅の構造、全てその背景には創価学会が関わっている。
 顕正会はそんなこと語らないし、法華講内でもあまり語られない。
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“大魔道師の弟子” 「踊り子115号」

2019-09-29 21:06:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月28日12:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東海道本線ホーム→東海道本線4035M電車15号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。9番線に停車中の列車は、12時ちょうど発、特急“踊り子”115号、伊豆急下田・修善寺行きです。……〕

 東京駅でマリアとエレーナの2人と合流した稲生と鈴木は、途中のコンコースで昼食の駅弁を購入した。
 それを手に、東海道本線のホームに上がる。

 エレーナ:「あえて新幹線で行かないとは、さすが稲生氏だぜ」
 稲生:「ゴメン。新幹線は高いんで、予算が……」
 鈴木:「先輩、俺に相談してくれれば、新幹線代くらいカンパしましたよ?」
 稲生:「ありがとう。だけど、ずっとキミの世話になるわけにはいかない」
 鈴木:「水くさいですよ。困った時はお互い様じゃないですか」
 稲生:「そうだね」

 今時珍しい幕式の方向幕を使用した電車に乗り込む。
 その行き先には『修善寺』と書かれていた。
 グリーン車の連結されていない附属の5両編成側の電車である。
 幕式のヘッドマークには、“伊豆の踊子”に登場する踊り子の絵が描かれている。
 絵入りのヘッドマークは外国には珍しいのか、それを撮影する外国人観光客もいた。
 エレーナもそうしているが、マリアはそうしない。

 鈴木:「向かい合わせにしますか?」
 稲生:「エレーナとの二人旅を楽しみたいのなら、それはしなくていいんじゃない?」
 鈴木:「それもそうですね」

 古い電車ということもあって普通車はシートピッチが狭く、向かい合わせにすると狭く感じるのと、テーブルが無くなるからである。
 稲生は前に座る鈴木の席から、背面テーブルを出して、そこに駅弁を置いた。

〔「ご案内致します。この電車は12時ちょうど発、東海道本線下り、特急“踊り子”115号、伊豆急下田行きと修善寺行きです。前10両、1号車から10号車が伊豆急下田行き、後ろ5両、11号車から15号車が修善寺行きです。お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。まもなく発車致します」〕

 エレーナ:「おい、マリアンナ。オマエは撮影してルーシーに送ってやらないのか?」

 ルーシーとはもちろん、魔界の女王ルーシーではなく、ベイカー組のルーシーのことである。
 ベイカー組にはルーシーを含めて3人の弟子がいたが、2人は異国の地たるこの日本で“魔の者”の眷属に銃撃され、落命している。

 マリア:「ルーシーが好きなのは新幹線だから。新幹線の写真なら撮って送ってあげるさ」

 但し、東海道新幹線なら“こだま”で乗車体験済みである。
 ホームの外からシンプルな発車メロディが聞こえたかと思うと、ドアの閉まるエアーの音がした。
 そして発車する際、ガクンと電車が揺れた。
 今のデジタル制御された新型車両ならこんな揺れ方しないが、未だにモーターにインバータが使用されていない旧型電車はアナログな揺れ方をする。
 これを懐かしいと思うか不快に感じるかは人それぞれだ。
 作者は最近、これを不快に感じるようになってきた。歳を取ったのと、趣味が鉄道からバスに移ったからかもしれない。

〔♪♪(車内チャイム。“鉄道唱歌”)♪♪。「本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は東海道本線下り、特急“踊り子”115号、伊豆急下田行きと修善寺行きです。電車は1番前が1号車、1番後ろが15号車です。1号車から10号車が伊豆急下田行き。11号車から15号車が修善寺行きです。途中の熱海で切り離しを致しますので、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください。尚、10号車と11号車の間は運転台がある為、車内の通り抜けできませんので、ご了承ください。【中略】次は品川、品川です」〕

 因みに放送では車内販売が無いことも告げていた。

 稲生:「車内販売も下火になったなぁ……」
 マリア:「日本の鉄道も合流主義かな?」
 稲生:「そういうことになりますかね」
 マリア:「ユーロスターには車内販売も食堂車もあるよ」
 稲生:「それは羨ましい。マリアさん、乗ったことあるんですか?」
 マリア:「いや、ルーシーがこの前、写真送ってくれた。ベイカー先生と一緒に乗ったらしい」
 稲生:「ということは、1等車ですか。尚更羨ましい」

 パスポートについては、大魔道師ともなればどうにでもなるのだろう。
 ルーシーは素直にイギリスのパスポートを持っているだろうが、齢3000年くらいのベイカーはどうしたのやら……。
 同じ1期生ながら、イリーナの先輩でもある。
 もっとも、1期生の中では年長者の部類に入る為、ベイカー以外にごろごろと年上がいるわけでもないようだ。

 マリア:「ルーシーと確実に違う所があるけどな」

 マリアは自分のパスポートを取り出した。
 そこには『永住者』のシールが貼られている。
 イリーナが政治的な力を使ったのは明らかだった。
 一応、稲生もいつでも海外に行けるよう、パスポートは取っている。
 だがそれをエレーナが欲した。

 エレーナ:「私も持ってるぜ」

 エレーナは後ろを振り向いて、自分のウクライナのパスポートを取り出す。
 そこにも『永住者』のシールが貼られていた。

 エレーナ:「日本のパスポートは高く売れるから、譲渡早よ」
 マリア:「何さらっと勇太を犯罪に巻き込もうとしてるんだ」
 鈴木:「お、俺ので良ければ……」
 稲生:「鈴木君、間に受けなくていいよ」
 エレーナ:「ちっ……。中国人と北朝鮮人に高く売れるのに……」
 マリア:「東アジア魔道団の入国の手助けになるからやめろという通達が出ただろ」
 エレーナ:「今はやってないよ、今はな」

 ダンテ一門とシェア争いで対立している別の門流がある。
 ダンテ一門がヨーロッパ人が多いのに対し、東アジア魔道団はアジア人が多い。
 日本人もそれなりに含まれていると聞く。
 稲生も勧誘の対象だったが、先にイリーナに勧誘されたことで人材を横取りされたと認識し、それが却って対立を深めている。

 稲生:「それより、お弁当食べましょう」
 マリア:「それもそうだな。品揃えは新幹線ホームと大して変わらないみたいだけど……」
 稲生:「まあ、そうでしょうね。ただ、NREとJRCPではやっぱり違いますよ」

 前者は日本レストランエンタープライズの略で、後者はJR東海パッセンジャーズのこと。

 稲生:「車内販売が下火になっても、駅弁文化はまだまだ栄えてますから」
 マリア:「確かに。駅であれだけ品数揃えてるランチボックスは、イギリスにも無いな」

 特急“踊り子”115号は、旧式の抵抗制御のモーター音を響かせて東海道本線を下って行く。
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“大魔道師の弟子” 「旅の始まりは東京駅」

2019-09-29 16:23:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月28日11:04.天候:晴 東京都豊島区南池袋 東京メトロ池袋駅・丸ノ内線ホーム→丸ノ内線1103電車最後尾]

 所属寺院で朝の勤行を終えた稲生と鈴木は、その足で池袋駅へと向かった。
 鈴木の車は家族の者が取りに来た。
 どうやら鈴木家では、息子の日蓮正宗信仰をどちらかというと歓迎しているらしい。
 顕正会時代よりも見違えったことを認めているようだ。
 但し、日本の政治に関わっている家系ということもあり、それは大っぴらにはできない。
 ましてや、公明党の支持母体と対立している宗派などと……。
 それでも顕正会時代よりは明るくなり、無職のニートから専門学校生になったのは快挙であると認めざるを得ないようだ。
 そこは稲生家とは違う。

〔「11時4分発、後楽園、御茶ノ水、大手町、東京、銀座、赤坂見附方面、荻窪行きです。まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 02系と呼ばれる、東京メトロの中でも年季の入った電車に2人の法華講員は乗り込んでいる。
 丸ノ内線がワンマン運転を行うようになって久しいが、この車両がデビューした時、まさか丸ノ内線がワンマン運転を行うとは誰も思わなかっただろう。
 ホームから発車メロディが流れて来る。
 1番線に停車しており、そこから流れて来る曲は“フランソワ”という名前らしい。
 車両のドアだけでなく、ワンマン運転が認められた条件の1つ、ホームドアが閉まってから電車が走り出す。

〔東京メトロ丸ノ内線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は後楽園、大手町、赤坂見附方面、荻窪行きです。次は新大塚、新大塚です。……〕

 鈴木:「このまま終点まで乗って行けば、妙観講の本部まで行けますよ」
 稲生:「そういえば鈴木君、顕正会時代は妙観講本部に爆弾投げ込むつもりだったらしいね?」
 鈴木:「俺のブログにさんざん放火しやがった連中ですからね、だったら本当に火ィ点けてやろうかと思いましたよ」
 稲生:「怖い怖い。しかしまあ、『顕正会員のブログを見つたら潰せ!』という空気が蔓延していたのは事実だよ。“あっつぁブログ”でもそうだっただろう?」
 鈴木:「今でもそうでしょ?」
 稲生:「さすがに、パラパラ茜みたいなヤツは潰されてもしょうがないとは思うけどね。僕はそれを正しいとは思わない」
 鈴木:「と、言いますと?」
 稲生:「『一切は現証に如かず』、顕正会員のブログを潰し回っていた人達が今どうしているか、それを見れば明らかさ」
 鈴木:「! 少なくともネット界からは消えてますね」
 稲生:「そういうこと。正法への道を示さずに、ただ潰して回ることを快感に覚えて行動した結果さ」
 鈴木:「本人達は『正法への道は示してやった』と思っているでしょうがね」
 稲生:「現証を見れば、それが間違った方法であると分かりそうなものだけど、ガチ勢には分からないのだろうね」
 鈴木:「いや、ガチ勢に対しても失礼な、洗脳集団ですよ」
 稲生:「……だな」

[同日11:21.東京都千代田区丸の内 東京メトロ東京駅→JR東京駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。お出口は変わりまして、右側です」〕

 稲生と鈴木を乗せた丸ノ内線電車は、JR山手線の内側をひたすら走行した。
 池袋駅から東京駅に向かう時、山手線という円の内側を走る丸ノ内線の方が早いということは、図形が理解できる者ならすぐに分かる。

 稲生:「着いた。ここでマリアさん達と待ち合わせだ」
 鈴木:「エレーナとケンカしてないといいですけどね」
 稲生:「あの2人、ケンカするほど仲がいいタイプだとは思うけど……」

 ピンポーンピンポーンとドアチャイムが鳴って、ドアが開く。
 稲生達と同様、JRに乗り換える乗客がぞろぞろと降りて行った。
 もちろん2人もそれに続く。
 短い発車メロディが鳴り響くが、それぞれにちゃんと曲名が付いている。
 東京駅1番線のメロディは、“らくらく乗降”というらしい。

 鈴木:「法華講あるある話、あの2人の前ではしない方がいいですよね?」
 稲生:「それは空気を読んでからだな。もしあの2人が『魔女あるある話』に華を咲かせたら、僕達は『法華講あるある話』をすればいい」
 鈴木:「なるほど……」

 法華講員2人は天井の低いホームに降りると、改札口に向かった。
 横須賀線・総武快速線に乗り換えるには便利な駅だが、それ以外のJR線となると少し歩く。
 それでも稲生達が山手線を使わず、丸ノ内線にしたのは、彼女達が改札口の内側か外側か、どちらで待っているか決めていなかったからだ。
 恐らく外側だろうと予測した。
 何故なら、これから乗る電車のキップは稲生がまとめて持っているからである。
 そして待ち合わせの東京駅丸の内中央口に来た時、その予測は正しかったのである。

 エレーナ:「よぉ、稲生氏。ご苦労さん」

 エレーナは自動通訳魔法は使わず、流暢な日本語で話しかけて来た。
 マルチリンガルな彼女は、外国人観光客の訪れるワンスターホテルでは重宝されている。

 稲生:「やあ、エレーナ」

 エレーナはとんがり帽子は被っておらず、代わりに黒い中折れ帽子を被っていた。
 そうしたのはもちろん目立つからである。
 日本ではキリスト教会の力は強くなく、魔女狩りが公然と行われることは無いが、しかし裏ではこっそりと行われていることがある。
 また、魔女狩りを行うのはキリスト教だけでなく、イスラム教でもある。
 幸いどちらも日本国内では力が強くない為、さしたる脅威ではないのだが、ハロウィンでもないのにあえて目立つ格好をする必要は無いだろう。
 マリアが高校の制服のような服を着ているのも、稲生の好みに合わせたというのもあるが、やはり目立たぬようにする為である。

 エレーナ:「さすが日本人は時間にきっちりだな」
 マリア:「エレーナが時間にルーズなだけよ」
 エレーナ:「2度寝してうちのオーナーに起こされたバカおつ」
 マリア:「あぁ!?」
 稲生:「よほどお疲れでした?」
 マリア:「ちょっと、油断しただけだ」
 鈴木:「先輩、それより電車のキップを」
 稲生:「ああ、そうだった」

 稲生は手持ちのキップを全員に配った。
 それでも稲生達より先に来て、仲良く並んで待っていたのだから、けしてこの魔女2人の仲は悪くない……はずだ。
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“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテル到着」

2019-09-29 10:17:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月27日23:01.天候:雨 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅→ワンスターホテル]

 江東区北端にある森下地区の地下鉄駅。
 そこに到着する下り電車は、京王線から乗り入れて来た10両編成。
 金曜日の夜ということもあってか、こんな深夜帯になってもまだ賑わっている。

〔2番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです。森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです〕

 ここでは都営新宿線と都営大江戸線が十字型に交差している。
 その為か急行電車の停車駅でもあり、乗降客もそれなりに多い。
 到着した京王電車の先頭車から、稲生とマリアが降りて来た。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 途中駅ということもあって、電車はすぐに発車して行く。
 今この駅にもホームドアが設置され、それが閉まってからであるが。

 マリア:「今、外は雨が降り出してきたかもよ」
 稲生:「本当ですか。ホテル到着までは間に合わなかったか……」

 稲生は残念そうな顔をすると、ホームのベンチの前で立ち止まり、そこから自分も魔道士のローブを羽織った。
 スーツ姿にローブは合わないので、基本的にはマリアと違って着て歩くことはない。
 ましてや今回は日蓮正宗の信徒として動いている為、尚更である。

 稲生:「あー、でも、まだパラパラだ……」

 地上に上がって駅の外に出ると、雨はまだそんなに強くなかった。
 ただ、雨粒が意外と大きく、これが小さければ傘を差さなくても何とかなる精神で何とかなりそうなものだが、さすがに今回は無理がありそうだ。
 魔道士のローブはこんな時、完全に雨を防いでくれるので便利である。
 フードまで被れば、確かに魔道士という雰囲気がよく出る。
 駅から徒歩数分の、元はドヤ街だった場所にワンスターホテルはある。
 だからこの周辺には小さなビジネスホテルや、カプセルホテルなどが散在している。
 元は簡易宿所(ドヤ)だった頃の名残で。
 ドヤ街だった頃は日雇い労働者の定宿だっただろうが、今は外国人のバックパッカーが好んで宿泊するようになり、形態も様変わりした。

 稲生:「やっと着いた」

 ドアを開けて小さなロビーに入る。

 オーナー:「いらっしゃいませ」
 稲生:「どうも。イリーナ組の2名です」
 オーナー:「はい、稲生様とスカーレット様ですね。では、こちらにご記入を……」

 オーナーは普通の人間であるが、ダンテ一門の『協力者』でもある。
 世界各地は元より、この日本国内においても『協力者』は一定数存在する。
 その経緯は個人によって様々だし、あまりそれは明らかにされていない。
 このオーナーも、如何にして『協力者』になったのか、全く不明だ。

 オーナー:「因みに確認ですが、シングル2部屋でよろしいんですよね?」
 稲生:「あ、はい。それが何か?」
 オーナー:「エレーナが予約票を『ダブル1部屋』に変更していたので注意しておきましたが……」
 マリア:「あのヤローw」

 客の予約を勝手に変更するエレーナ。

 オーナー:「それではお1人様5000円でお願いします」
 稲生:「はい」

 随分安いのはダンテ一門特別価格だからだろう。
 また、深夜帯に到着したこともあり、『レイト・チェックイン価格』が適用されたと思われる。
 恐らく、消費税分サービスされたのではないだろうか。

 オーナー:「ありがとうございます。領収証はお帰りの際に、鍵と引き換えにお渡し致します。お部屋は4階の414号室と415号室になります」
 稲生:「よろしくお願いします」
 オーナー:「ごゆっくりどうぞ」

 2人は鍵を受け取ると、ロビー内にあるエレベーターで4階に向かった。

 マリア:「エレーナのヤツ……」
 稲生:「油断も隙も無いですねぇ……。てか、フロントにいたのオーナーだったなぁ……」
 マリア:「夜勤明けか何かなんだろう。今頃、地下室で寝てると思うよ」
 稲生:「ああ……」

 その様子を地下に作った居室で観ているエレーナ。
 ホテル内に設置されている防犯カメラの映像を、水晶球に映している。

 エレーナ:「オーナーも頭固いんだから……」
 リリアンヌ:「エレーナ先輩……」
 エレーナ:「いいから、あんたはもう寝な。明日は魔界に戻るんだから」
 リリアンヌ:「ふぁい……」

[9月28日09:00.天候:晴 ワンスターホテル]

 昨夜はゲリラ豪雨が降ったようだ。
 稲生は雷の音で目が覚めたくらいだ。
 次に目が覚めた時、朝になっていたが、昨日の悪天が嘘みたいによく晴れていた。

 稲生:「マリアさんは……まだ寝てるのかな?」

 稲生はスーツに着替えると、内線電話を取った。

 オーナー:「はい、フロントです」
 稲生:「あ、すいません。414号室の稲生ですけど……」
 オーナー:「稲生様、おはようございます」
 稲生:「おはようございます。あの、415号室のマリアさんはチェックアウトしましたか?」
 オーナー:「いえ、まだでございます」
 稲生:「あ、そうですか。ありがとうございます」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「疲れてるから、まだ寝てるのかな……。まあ、いいや。どうせチェックアウトまで、あと1時間しか無いし」

 稲生は今度はマリアに電話を掛けた。

 マリア:「……なに?」
 稲生:「(あ、やっぱり寝てた!)おはようございます。僕、これから正証寺に行って来ますので」
 マリア:「あ、そう。今日の昼頃、東京駅に行けばいいんでしょ?」
 稲生:「そうです。それまでに僕も行きますから」
 マリア:「分かった。行っといで。……って、こら!私が許可してるんだから、脱走じゃないって!」

 どうやらマリアの使役人形が、稲生が脱走を企てているようだと勘違いしているらしい。
 誤解されない為にも、わざわざ電話したのである。

 稲生:「大騒ぎになる前にとっとと出よ」

 稲生は荷物と鍵を手に部屋をさっさと出た。

 稲生:「お世話になりました」
 オーナー:「ありがとうございます。スカーレット様はまだお部屋に?」
 稲生:「ええ。チェックアウト時間ギリギリに出ると思います」
 オーナー:「かしこまりました。それでは、こちらが領収証です。本日は真にありがとうございました」
 稲生:「お世話さまでした」

 稲生は領収証を受け取ると、ホテルの外に出た。

 鈴木:「稲生先輩、おはようございます」
 稲生:「おっ、鈴木君」

 ホテルの外では鈴木が待っていた。
 その前にはベンツのVクラスが止まっている。

 鈴木:「車回して来ましたから、これで行きましょう」
 稲生:「ありがとう。てか、これで大石寺まで行けないの?」
 鈴木:「あいにくと昼から実家で使うらしくて、けんもほろろに断られましたよ」
 稲生:「ま、もう電車のキップは買っちゃったしね」
 鈴木:「鉄ヲタの先輩に任せると安心ですから。あ、お金今払いますね。まずは車に……」
 稲生:「うん」

 稲生は助手席に乗り込んだ。
 藤谷のGクラスや、前に乗っていたEクラスと違い、こっちのVクラスは右ハンドルである。
 つまり、ちゃんと日本仕様として輸入されたものを正規ディーラーで購入したということ。
 もちろん、この方が購入費用が高い。
 藤谷のは中古車らしいので。
 但し、別にこの車は鈴木本人が買ったものではなく、実家の車を拝借してきただけのようだ。

 稲生:「ねぇ、本当にエレーナも来るのかい?」
 鈴木:「先輩はマリアンナさんを連れて来るんでしょ?」
 稲生:「僕の場合は、ただ単に『監視』されてるだけで……」
 鈴木:「またまたぁ……。俺はエレーナを連れ出すことに成功したわけです」
 稲生:「そうかい。(絶対カネが絡んでるな)」
 鈴木:「じゃ、これが電車代。お釣りはいいんで。手数料として」
 稲生:「あ、そう。ありがとう」

 稲生は鈴木からもらった金を財布にしまいこんだ。
 そして、鈴木は車のエンジンを掛ける。

 鈴木:「それじゃ、正証寺へ向かいます」
 稲生:「うん」

 鈴木は自分達の所属寺院へとハンドルを切った。
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“大魔道師の弟子” 「まずは上京する」

2019-09-28 20:28:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月27日17:15.天候:雨 長野県北安曇郡白馬村 白馬八方バスターミナル→京王バス東“中央高速バス”車内]

 今日はイリーナが午後イチで講義を終了してくれたので、稲生とマリアは白馬村を東京へ向かう最終の高速バスに乗ることができた。

 運転手:「稲生様ですね。6のAです」
 稲生:「はい」
 運転手:「スカーレット様ですね。6のBです」
 マリア:「Yes.」

 係員に大きな荷物を荷物室に入れてもらうと、稲生達は運転手に乗車券を渡し、車中の人となった。

 稲生:「ここですね」
 マリア:「いつものバスと違うな」

 マリアは荷棚に魔道師のローブを置いた。
 ポケットからメイド人形のミカエラとクラリスが顔を出す。
 屋敷で働く時の人間形態とは違い、今は人形形態となっていた。
 人間形態の時は真面目に楚々と働くメイドだが、人形形態になるとコミカルな動きを見せてくれる。
 また、ここぞという時は美声で歌を披露することもある。

 稲生:「バス会社がアルピコ交通から、京王バスになったんですね。最終便は京王バスなんだ」

 といっても、車内の設備は共同運行便ということもあってか、もう1つのバス会社とあまり大差無い。
 長距離バスに相応しく、4列シートながらシートピッチは広めになっているし、テーブルも付いている。
 また、トイレやWi-Fiも導入されていた。

 係員:「17時15分発、中央高速バス、バスタ新宿行き、発車致します!本日の最終便です。お乗り遅れの無いよう、お願い致しまーす!」

 係員がバスターミナルの待合室にいる人々に声を掛ける。
 長野行きなどの特急バスと違い、こちらは全席指定なので、その乗客達が乗れば大丈夫だと思うが、最終便ならではの飛び込み客を意識しているのである。
 そういった客もいないようで、バスはワイパーを動かしながら、バスターミナルを出発した。

 稲生:「まさか出発の日が雨とは……」
 マリア:「Typhoonは来ないみたいだけど、ちょくちょく雨は降るみたい」
 稲生:「マジですか。富士山見たかったけどなぁ……」
 マリア:「1日中雨ってことは無さそうだから、運が良ければ見れるかもな」
 稲生:「ですよねぇ……」

 もう秋に入り、天気が悪いせいか、外は薄暗い。
 マリアは緑を基調とした膝丈上のプリーツスカートに長袖の白いブラウス、紺色のニットのベストを着ていた。
 その上から魔道士のローブを羽織っているのだが、今は脱いで荷棚に置いている。
 ほとんどJKの制服のようだが、唯一違うのは首に着けている物。
 リボンかネクタイではなく、黄銅色のペンダントを着けていた。
 これは魔法具で、魔界で手に入れたものである。
 マリアも一人前扱いされている以上、自分で金を稼がなくてはならない。
 手っ取り早いのは魔界に行って、冒険者と共にダンジョン探索などで稼ぐこと。
 戦士などの傭兵達には到底解けない謎解きや、魔法の封印などがある場所において、魔道士は重宝されるからだ。
 マリアも時々は魔界に行って、戦士達の仲間になり、ダンジョン探索を行うことがあった。
 これはその際に手に入れた魔法具である。
 装備すると魔力が高まる為、強い魔法を使ってもMPの消費量を抑えることができるという。
 一応マリアの場合、男戦士と組むことはまず無く、女戦士などの女性パーティーに加わることが殆どだ。
 稲生も女戦士サーシャと重戦士エリックの夫婦から誘いがあるのだが、本来見習はそういった冒険が認められていない為、断っている。

 マリア:「夕食はどうする?まだ早いから取ってきてないけど……」
 稲生:「このバスは途中休憩が2回あります。最初の休憩で見繕えばいいかと。この通り、小さいけどテーブルもありますので」
 マリア:「そうか。着いた後、家には行かないの?」
 稲生:「そうです。夜遅く着くので、家族に迷惑掛けちゃいけないと思って……」
 マリア:「ふーん……」
 稲生:「実家に帰るのは年に2回くらいでいいですよ」
 マリア:「作者みたいだな」

 年末年始かゴールデンウィークか、お盆かシルバーウィークか。
 そのうちの2回で良い。
 年末年始は、間違い無く稲生は帰省が許可されている。
 イリーナの方針で、年末年始はしっかり休むからだ。
 この時、帰省が許可されている組は多い。
 しかし、多くの若い見習は帰省しないことが大半だ。
 色々と家庭事情にワケありの者が多く、帰省したくてもできなかったり、そもそも帰省できる家が無いことも多々あるからだ。

 マリア:「帰りの時くらい、顔を出したら?」
 稲生:「ま、そうさせてもらいます」
 マリア:「師匠のことだから、多分月曜日朝の授業はゆっくりしてくれるだろう。但し、ちゃんとお土産を買って行く必要がある」
 稲生:「富士山饅頭だったら、大石寺の売店でも売ってるはずなんで」
 マリア:「それにプラス、もう1品何か付けると完璧だな」
 稲生:「何がいいでしょう?」
 マリア:「多分、ワインとか……酒関係がいいかもね」
 稲生:「大石寺にさすがにそれは……」
 マリア:「いや、もちろんそういう所で買う必要は無いさ。もっとも、教会関係は勘弁ね?」
 稲生:「もちろんですとも」

[同日22:28.天候:曇 東京都渋谷区千駄ヶ谷5丁目 バスタ新宿→都営地下鉄(京王新線)新宿駅]

 バスが東進する度に天候は回復した。
 しかし、雨が止んだというだけで、湿っぽさは変わらない。
 むしろ関東の方が大気の状態が不安定で、ゲリラ豪雨の恐れがあるという。
 それはマリアの占いによるもので、その精度はイリーナに及ばないが、それでも稲生は何となくそれが当たりそうな予感に思えてしょうがなかった。

 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「お世話さまでした」
 マリア:「Thank you.」

 到着エリアに到着したバスを降り、係員が荷物室から降ろした荷物を受け取る。
 バスタ新宿とて首を傾げる混雑ぶりではあるが、少なくとも東京駅日本橋口の狭すぎるターミナルよりはマシに思えた。
 あそこはタクシーや一般車も入り混じって発着する為に、カオスぶりが半端無い。
 バス同士の接触事故まで起こる有り様だ。

 稲生:「それじゃ、行きましょうか」
 マリア:「宿泊先は……ワンスターホテルか……」
 稲生:「相互扶助の精神で、同門の士にあっては格安で泊めてくれるホテルですから」
 マリア:「カネの無い弟子身分には、相応しいランクのホテルだな」

 マリアは自嘲気味に笑うと、新宿駅の喧騒な人混みの中に、稲生の手を掴んで進んで行った。
コメント (1)
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