報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「さいたま滞在」 2

2016-09-30 21:50:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月7日15:15.天候:晴 イオンモール与野→タクシー車内]

 稲生:「最近は中国人の爆買いも、だいぶ収束したと聞きますが……。僕達も結構、爆買いする方なんですかね?」
 マリア:「こういう機会でも無いと、なかなかショッピングなんてできないしな」
 稲生:「まあ、そうですね」

 稲生とマリアは、両手に持つほどのペーパーバッグを抱えていた。

 稲生:「持って帰るのが大変ですね」
 マリア:「まあ、しょうがないと言えばしょうがないけど……」
 稲生:「これはキャリーバッグ入るかな……」

 稲生はこのことを想定して、大きめのキャリーバッグを持って来ていた。

 マリア:「どう?」
 稲生:「何とか……詰まりそうです」
 マリア:「良かった」
 稲生:「さすがにこのまま次へ行くわけにはいかないので、これは駅のコインロッカーにでも持って行きましょう」
 マリア:「そう」

 稲生はゴロゴロとキャリーバッグを引きずって、モールの外に出た。
 が、タクシー乗り場に行こうとすると、タクシーがいなかった。

 マリア:「どうする?」
 稲生:「しょうがないので、呼びましょう」

 稲生は再びモール内に戻ると、エレベーターの横にある公衆電話コーナーに向かった。
 そこにはタクシー会社直通の無料電話機があり、そこでタクシーを呼ぶことができる。

 稲生:「イオンモール与野のタクシー乗り場に1台お願いします。……はい。稲生です。……はい。それじゃ、よろしくお願いします」

 稲生は受話器を置いた。

 稲生:「じゃ、行きましょう」

 そして、再び外に出る。

 マリア:「ゴメン。私の方が買い過ぎた」
 稲生:「いや、いいですよ。先生へのお土産も入ってるんだし……」
 マリア:「はっきり言って、師匠にアンチエイジングは無駄な抵抗だと思われるんだが……」
 稲生:「後で怒られるから、それ以上は言わない方が……」

 しばらく待っていると、『迎車』の表示を出したタクシーがやってきた。

 運転手:「稲生様ですか?」
 稲生:「はい、そうです。すいません、トランク開けてもらっていいですか?」
 運転手:「ハイ」

 稲生はトランクを開けてもらい、そこにキャリーバッグを入れた。

 稲生:「大宮駅までお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 タクシーが走り出す。

 マリア:「勇太は何を買った?」
 稲生:「まあ、僕も服とか靴とかですけど、他にも……」
 マリア:「新しいスマホとかか?」
 稲生:「いずれは買い換えようとは思ってたんで……。まあ、いい機会だったのかなと。ケータイ・ショップ自体、なかなか行く機会無いですからね」
 マリア:「だろうねぇ……」

[同日16:00.天候:晴 JR大宮駅西口]

 稲生:「……はい。こちらは順調です。夜行バスの出発まで、まだ少し時間があるので、もう少しゆっくりしようかと……」

 稲生達は大宮駅西口の、そごうの向かいにいた。
 そこにはパチンコ店があるが、もちろんそこに用があるのではない。
 日帰り温泉への送迎バスが発着しており、それに乗る為だった。
 既にマリアは乗り込んでいるが、今度は稲生がイリーナとの連絡係になった為、新しいスマホで連絡していた。

 イリーナ:「いいよ。アナスタシア組と戦って勝ったんだから、勝者の権利ってヤツで、ゆっくりしてきな」
 稲生:「ありがとうございます。先生へのお土産もありますので、どうかお楽しみに」
 イリーナ:「おお、そうかい。じゃあ、楽しみにしているよ」
 稲生:「多くはマリアさんが購入していましたが……」
 イリーナ:「ああ。マリアには、お使いを頼んでおいたからね。何か、余計なことは言っていたかい?」
 稲生:「……いえ、特には言ってなかったかと……(-_-;)」
 イリーナ:「ふーん……。まあ、いいわ。多分、もう他の魔女からのちょっかいは無いと思うけど、一応気をつけておいてね」
 稲生:「分かりました」
 イリーナ:「アンナが見逃したってことで、稲生君はだいぶ認められたことにはなったかもね」
 稲生:「そうなんですか?」
 イリーナ:「アンナが目を付けた男の、10人に9人は死んでるからね」
 稲生:「えー……?」

 稲生は電話を切って、送迎のマイクロバスに戻った。
 2人席の窓側に座っているマリアの隣に座る。

 運転手:「はい、出発しまーす!」

 ピー!というアラーム音と共に、スライドドアが閉まる。
 マイクロバスはエアーを使っていない為、中型・大型バスのようなエアーの排気音は聞こえない。
 バスは出発すると、方向転換の為、バスプールの中を通って行った。

 マリア:「師匠は何か言ってた?」
 稲生:「えーっと……」
 マリア:「正直に言って。私も魔女だから、あなたが嘘を付いてもすぐに分かるから」
 稲生:「はあ……。マリアさんが何か余計なこと言ってなかったかって」
 マリア:「それで……勇太は何て?」
 稲生:「何も言ってませんと答えておきました」
 マリア:「……お気遣い、ありがとう」

 多分、イリーナにはバレているのだろう。
 口は災いの元、である。

[同日16:15.天候:晴 湯快爽快大宮店]

 バスは西に進むと国道17号線新大宮バイパスの下り線を北上する。
 だいたい15分くらい走ると、目的地の店舗に到着する。

 稲生:「少しでも、マリアさんの体の傷痕を癒してもらいたいんです。気休めかもしれませんけど」
 マリア:「ありがとう」

 魔道師の体は極端に成長または老化が遅いということは先述した。
 その理由についても、明確ではないものの、しかし考察としては適切と思われるものも先述した。
 しかし、それは裏を返して言えば、傷の治りも遅いということでもある。
 悪魔と契約し、その力を最大限に引き出せば強いのだが、しかしちゃんとデメリットも存在しているところが、さすがは悪魔の力と言える。
 人間時代に受けた暴行の傷痕が、未だに消えないマリア。
 もちろん、ケガ自体は既に治っている。
 どうして魔法の中に、回復魔法が存在するのかというと、それが大きな理由のようである。
 また、ジャンルとして魔法薬を研究・開発するものがある理由というのもそれだろう。

 稲生:「じゃあ、これがマリアさんの分です」
 マリア:「ありがとう」

 マリアは稲生から、入浴券やらレンタル用のタオルやら館内着のレンタル券などをもらった。

 稲生:「それじゃまた、ここで」
 マリア:「分かった」

 2人は男湯と女湯の入口の所で、一旦別れた。
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“大魔道師の弟子” 「さいたま滞在」

2016-09-29 22:34:27 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月7日11:40.天候:晴 さいたま新都心・コクーン(ムービックス)]

〔「……ただ、これだけは覚えておいて。あなたが罪を犯したとき、その責任を取るのが、あなただとは限らないということ。思いがけないことで、あなたの犯した罪を償わされることもあるのよ。それは、その時に悔やんでも遅いから」〕(バンプレスト社製ゲームソフト“学校であった怖い話”より、仮面の少女のセリフ)

 稲生とマリアは1番最初に映画を観に行った。
 そこで観たのは、ミステリーホラーというジャンルのもの。
 英語での副題は、“School Horror Stories.”とあった。
 学校で怪談話を聞く集会をやったら、主人公が本当に遭遇してしまった怖い話とでもいうべき内容だった。
 エンドロールまで流れた後で、場内が明るくなる。

 稲生:「終わりましたね……」
 マリア:「うん……」

 稲生は食べ終わったポップコーンと飲み物のトレイを持って、マリアと一緒に外に出る。

 稲生:「どうでした、マリアさん?」

 稲生はトレイを片付けながら聞いた。

 マリア:「面白かった。まるで、魔女の復讐のようだった。ネタとしては悪くない。私も何か復讐する機会があったら、ああいう仮面を被って現れてみようかな……」
 稲生:「マリアさんだけは絶対に怒らせない方がいいってことですね」
 マリア:「はは……」
 稲生:「他には何かありましたか?」
 マリア:「1番最初に出て来た女子高生。ほら、逆ギレしてカッターで主人公を襲おうとしたヤツ」
 稲生:「はいはい。イジメられて自殺した男子高校生の姉で、主人公がその主犯格だと誤解した人。主人公は思いっ切り否定していたのに……」
 マリア:「どことなく、アンナに似てる」
 稲生:「あー!」

 稲生はポンッと手を叩いた。

 マリア:「もっとも、雰囲気が似ているというだけであって、もし本当にあいつが復讐で動こうとしたなら、刃物なんて使わないけどね」
 稲生:「魔法による呪いですか。怖いですねぇ……」
 マリア:「魔女なんて、そんなもんだよ。私だって、獄卒をそれで呪い殺そうとしたことがある」
 稲生:「キノね……」

 マリアが使ったのはイリーナから固く使用を禁じられた魔法だった。
 マリアはこっそり使ったつもりだったが、当然そんなの誤魔化し切れるはずもなく、すぐイリーナにバレた。
 普段は目を細くしているイリーナも、この時ばかりはカッと両目を開き(稲生からは『御開眼』と呼ばれている)、マリアに往復ビンタを食らわせた後で、マスターの資格を剥奪した。
 今では“魔の者”との戦いに、魔女達の中で1番優勢に働いた功績が表彰され、大師匠直々にマスターの資格を再度与えられている。

 稲生:「じゃあ、次は買い物に行きますか。またイオンにします?」
 マリア:「そうだね」

[同日12:10.天候:晴 さいたま新都心駅西口→国際興業バス車内]

 バス停に移動した2人。
 まだ残暑は厳しく、バスを待つまでの間は暑い。
 こんな時、あえて魔道師のローブを羽織ると涼しくなる。
 防寒着にもなるし、その逆の効用もある。
 だが、傍目から見ると暑そうな恰好に見えるだろう。
 着ている本人達には涼しいのだが。
 待っているうちに、バスがやってくる。
 ごく普通のノンステップバスだ。
 『イオン与野SC』と書かれている。
 乗り込んで、2人席に座る。
 アイドリングストップの為、発車直前にならないとエンジンが掛からない。
 つまり、エアコンが入らないということだ。
 マリアはローブの中から、シネコンで買ったパンフレットを取り出した。
 魔道師は予言者でもあるせいか、ネタバレは全然OKなのだが、まだ見習の稲生はそれは解せないらしい。
 さすがに終わった後で、パンフレットを買っていたが。
 前に一緒に映画を観に行った時、ネタバレの宝庫であるパンフレットをマリアが気にせず先に購入していたことが稲生には驚きだった。

 マリア:「悪魔も登場するような話があると聞いていたんだけど、結局は悪霊ばっかりだったな」
 稲生:「そうですね。原作のゲームなんかじゃ、他にもバッドエンド直行の選択肢とかあるみたいですよ」
 マリア:「そうなんだ」

 1:バスから降りる。
 2:そのままバスに乗り続ける。
 3:そんなことよりプロテインだ!

 マリア:「……何だ、今のフザけた選択肢は?」
 稲生:「こっちの選択肢は、あまり重要そうじゃないですねぇ……。例のゲームなんかでも、どれを選んでも結局同じってのがありますからね」
 マリア:「なるほど」

 そんなことを話している間に、バスのエンジンが掛かる。
 頭上のクーラー吹き出しスポットからは、それまでの熱い空気を吹き飛ばすかのように、強風が吹いてきた。
 窓側に座るマリアの頭にまともに掛かり、肩の所まで伸ばした金髪がゆらゆら揺れる。

〔「お待たせ致しました。白鍬電建住宅経由、北浦和駅行き、発車致します」〕
〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 旧式のブザーが鳴り響いて、引き戸が閉まる。
 すぐにバスが走り出した。

〔毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスはイオンモール与野、白鍬電建住宅経由、北浦和駅西口行きです。次は北与野駅入口、北与野駅入口。……〕

 マリア:「私はスクールメイトを全員復讐の対象とした。私に直接危害を加えた者はもちろんのこと、それを見てるだけのヤツらも含めてね」
 稲生:「はい」
 マリア:「この『花子さん』とやらは、きちんと実行犯の……だけど、その息子や娘達に手を下すというやり方をしたんだな」
 稲生:「そうですね。多分、僕は主人公のように生き残れなかった気がします」
 マリア:「そう?」
 稲生:「マリアさんはどう思いますか?」
 マリア:「私は……復讐者の方だが、甘いなと思った。私がやり過ぎだったのか?私なら、間接的に関わった者や傍観者も全員道連れだけど……」
 稲生:「じゃなくて、本当に無関係の主人公に対してですよ」
 マリア:「……?」
 稲生:「あの『花子さん』が出してきた質問には、ミスリードも含まれていました。それに僕はまんまとハメられたでしょう。それに対して、マリアさんは何も違和感はありませんでしたか?」
 マリア:「……無い。あんな回りくどい復讐なんてしないで、直接やればいいのにって思ってた。……勇太は、あれか?この復讐者は無関係な人間をも道連れにしようと思っていたということか?」
 稲生:「そうです。それは……却って、罪を深めるだけだなと思いました」
 マリア:「魔女達にも聞かせてやりなよ。私もきっとそうだ。勇太に言われるまで気が付かなかった。……私は多分もう無いだろうけど、もし私が誰かに復讐しようとする時、勇太も立ち会ってほしい。私がやり過ぎないように、セーブしてほしい。わがままだと思うけど、いいかな?」
 稲生:「いいですよ。無いことを祈りまけど」
 マリア:「ああ。多分無いと思うけどね」

 バスはさいたま新都心駅から離れ、残暑の厳しい日差しの下、西に向かって進んだ。
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“大魔道師の弟子” 「大宮滞在」

2016-09-28 21:15:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月6日18:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生はアンナと別れ、自分の家に向かって歩いた。

 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「勇太!どうした?先に家に着いているものと思ってたけど……?」
 稲生:「あー……。ちょっと、色々ありまして……」
 マリア:「?」
 稲生:「取りあえず、中に入りましょう。後でお話しします」

 アンナの言う通り、家は元の状態に戻っていた。
 家の中に入ると、普通に母親が待っていた。
 思ったよりも到着時間が遅かったことを指摘されたが、

 稲生:「あー、ゴメン。ちょっと色々あって……」
 マリア:「オ世話ニナリマス」

 マリアはあえて自動翻訳魔法を使わず、自力で覚えた日本語で挨拶した。

[同日20:00.天候:晴 稲生家2F 勇太の自室]

 稲生:「実はあの時、アナスタシア組のアンナって人と会ったんだです」
 マリア:「アンナと会ったの!?」

 やはりマリアは知っていたようで、とても驚いた顔をしていた。

 マリア:「ちっ……!あの時、ただの裏方として来てただけかと思っていたけども、しっかり勇太をチェックしていたか……」

 ワンスターホテルでの戦いの時は、会場設営・撤収要員として来てたアンナだった。

 稲生:「マリアさんとは仲が悪いんですか?」
 マリア:「いや、別にいいとも悪いとも言えない。そもそも、そんなに面識があるわけじゃないから。ただ、あいつの噂は聞いてる」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「まあ……私も含めて、魔女とされる魔道師の女全員にほぼ言えることなんだけども、敵と見なした者……特に男に対しては、かなりエグい殺し方をする。それは勇太も見てただろう?」
 稲生:「ええ……」
 マリア:「例外無く、アンナもそうだってことさ」
 稲生:「そうですか。アンナも人間時代は……」
 マリア:「どんな目に遭ったのかは知らないけども、あいつのする話からして、多分、彼氏と思っていた男にヤり捨てられたんじゃないかと見ている」
 稲生:「なるほど……。それはそれで辛いですねぇ……」
 マリア:「まあ、よくある話だし、私の経験と比べれば軽い。多分、他にもあるんじゃないかと思うけども、そこはあまり詮索しないのが魔女同士の暗黙のルールだから」
 稲生:「へえ……」

 稲生は意外に思った。
 そこは女同士、色々と根掘り葉掘り聞くようなイメージがあったからだ。

 稲生:「で、僕は運良く助かったんですね?」
 マリア:「ここに無事でいるってことは、そういうことになるな。他の魔女に気を使うようなヤツじゃないって話だから、私に気を使ったとも思えない。だから、純粋に勇太が助かったんだと思う」
 稲生:「もしあの時、僕の運が悪かったら、どうなっていたんですか?」
 マリア:「もちろん、死んでたさ。思いっ切り、苦しむやり方をされてね」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「あいつは勇太にどんな話をした?」

 稲生はその時の話の内容を話した。

 マリア:「勇太に対しては、そんな話をしたわけか……。なるほど」
 稲生:「何で僕にあんな話をしたんでしょう?」
 マリア:「それがあいつの魔法だからだよ」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「あいつは殺すかもしれない対象に、又聞きという形で怖い話を聞かせる。聞く方は、臨場感を持たせたアンナの話に聞き入るヤツがほとんどだ。勇太もそうだったでしょ?」
 稲生:「あ、はい。まるで目の前の出来事のようでした」
 マリア:「勇太が聞いた話の結末は、危うく乱暴され掛けた女が男に対して必死の抵抗の末、殺してしまったという内容だ」
 稲生:「はい、そうです」
 マリア:「もし対象者を殺すとなったら、女は男のどこを刺したかを具体的に言う。例えば、『左の目を突き刺した』と言えば、対象者の左目に激痛が走る。そして最後には、まるでその刺された男と同じ場所をメッタ刺しにされたかのような傷を負って死ぬというわけだ」
 稲生:「えー……」
 マリア:「実は私、勇太が来る前にあいつの魔法に立ち会ったことがある。もっとも、その時は別の話をしていたけどね」
 稲生:「別の話?」
 マリア:「年下の男に振られてしまった女の話だよ。年上の女は嫌いと言い張っていた男を、その話から侵蝕させて殺していたね」
 稲生:「……!("゚д゚)」
 マリア:「勇太にその話をしなかったのは、既に私がいたからだと思う。ほら、私はあなたより年上だから。どうあっても、『年上の女は嫌い』なんて言えないでしょ?」
 稲生:「な、なるほど……」

 稲生は今更ながら、背筋が寒くなる思いだった。

 マリア:「私も魔女だから偉そうなことは言えないけど、とにかく、ダンテ一門の魔女ってそういうヤツが多いんだ。だから、勇太も気をつけてほしい。多分もうアンナは、あなたを襲うことは無いと思うけど……」
 稲生:(マリアさんを泣かしたり傷つけたり、乱暴しようとしたら、どこからともなく現れて、殺されるんだろうなぁ……)

 稲生はマリアの言葉に頷きながらそう考えた。

[9月7日08:00.天候:晴 稲生家1Fダイニング]

 今度は夜中に起こされることも無く、稲生は朝まで眠ることができた。
 実家の自分の部屋だから、安心して深く眠れたのかもしれない。

 マリア:「おはよう」
 稲生:「おはようございます。もう起きてたんですね?」
 マリア:「ついさっき。お母様はさっき出掛けられたよ」
 稲生:「母も仕事してますからね」
 マリア:「今日はどうする?」
 稲生:「オーソドックスですが、映画でも観て、買い物して、それから前行った所の温泉でゆっくりしますか?今日の夜行便で出発しますからね」

 稲生はそう言って、夜行バスのチケットを取り出した。
 本当は電車で帰りたかった稲生だったが、今は白馬までの便利な列車があまり無い。
 どうしても便利に行こうとすると、高速バスになってしまうのだ。
 この辺りにも、鉄道の衰退化が垣間見えるのである。

 稲生:「じゃ、取りあえず食べてから行きましょうね」
 マリア:「ゆっくり食べてていいよ。私は師匠と定時連絡を取ってくるから」

 マリアは縁の赤い眼鏡を掛けて、水晶球と魔道書を手に、奥の客間に向かって行った。
 定時連絡には、昨日、稲生とアンナがやり取りしたことも報告するのだろう。
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“大魔道師の弟子” 「アンナの魔法」

2016-09-27 19:28:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月6日17:30.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区某所 とあるカフェ]

 どんよりと曇った空のせいなのか、それとも日が短くなってきたからなのか、外が暗くなってきた。
 アンナに連れられて入ったカフェには、稲生の他に客はいない。
 一体、アナスタシア組のアンナは稲生に何の話をするつもりだろうか。

 稲生:「あの……」
 アンナ:「私があなたにする話は1つ。だけど、用意している話はいくつかあるの。どんな話が聞きたい?」
 稲生:「聞く?アンナが僕に何か話をするんですか?」
 アンナ:「そうよ」

 そう言うと、アンナはテーブルの上にトランプを並べた。
 何か、占いでも始めるつもりだろうか。

 アンナ:「次の中から選んで」

 1:男女の痴情のもつれ
 2:とあるカップルに介入してきた悪魔
 3:無限ループに入った男の話
 4:絵が好きな少女に訪れた悲劇

 稲生:「えーと……ん?」

 するとアンナはテーブルの上に並べたカードを4枚にした。

 アンナ:「この中から選んで」
 稲生:「え?えーっと……」

 1:1番左
 2:左から2番目
 3:右から2番目
 4:1番右

 稲生:「じゃあ、これで」

 稲生が右から2番目のカードを取ると、ハートのエースが出て来た。

 アンナ:「なるほど。男女の痴情のもつれの話だね」

 アンナはニヤッと笑った。

 稲生:「あの……この話はどういう趣旨が?」
 アンナ:「話をしていく間に、色々と質問させてもらうから、ちゃんとそれに答えてね。ウソをついても分かるから。分かったね?」
 稲生:「あ、はい」
 アンナ:「では、話を始めるよ。これはあなたが卒業した高校で起きた話だよ」
 稲生:「ホントですか!?」
 アンナ:「何でそれを私が知っているのかは、想像にお任せするわ」

 今から20年前のことである。
 稲生の高校、東京中央学園上野高校に1人の男子生徒がいた。
 この男子生徒、今の言葉で言うイケメンで、まるで本当の男性アイドルではないかという程であったという。

 アンナ:「稲生君、あなたは自分のことをカッコいいと思ってる?」
 稲生:「えっ!?いや、まさか、そんな……。僕はこの通りオタク顔だし、身長もアンナより低いし……カッコ良くないですよ」

 稲生の身長は165cm。
 それでも作者より2センチほど高い。

 アンナ:「ハハハ……。ありがとう。じゃあ、話の続きをするね」

 そのイケメンなのだが、では芸能界からのスカウトはあったのかというと、あったらしい。
 中学生の時には既に事務所に入っていたのだが、すぐに退所した。
 性格が悪い為、事務所の他の仲間とケンカしたという。
 事務所としては、ユニットを組ませてデビューさせたかったらしいのだが……。
 異性にはモテモテでよりどりみどりだったが、同性の友達はほとんどいない。
 そんなヤツだったという。
 この話のもう1人の主人公は、そんなイケメンに惚れてしまった1人の女子生徒。

 アンナ:「何股も掛けている奴が、そのコを大事にすると思う?」
 稲生:「何か、無さそうですね」
 アンナ:「そう。そのコも結局、1週間で捨てられた」
 稲生:「うーむ……」
 アンナ:「それでも彼のことが諦め切れなくてね、遠くから見守ることにしたの」
 稲生:「なるほど……」
 アンナ:「ねえ、そんな彼女のこと、どう思う?」

 1:かわいそうだと思う。
 2:変だと思う。
 3:普通だと思う。
 4:怖いと思う。

 稲生:「かわいそうだと思います」
 アンナ:「なるほどね。それは見た目に惑わされて、不幸になってかわいそうという意味?」
 稲生:「別に、『御愁傷様(笑)』とは思ってませんよ?ただ、恋は盲目とはいえ、もう少し疑って掛かるべきでしたね。そこまでの余裕が持てなかったというのは、実はかわいそうなコだったかなと……」
 アンナ:「大人になれば、そこまで考えつくんだけどねぇ……。ま、人間の中にはいい歳になっても、考えられない馬鹿も結構いるみたいだけど……」
 稲生:「ええ……」

 しかしイケメンとしては捨てたというより、ただの手駒の1つという認識であったらしい。
 雨の日に傘を持っておらず、恨めしそうに空を眺めていたイケメン。
 そして、その女子生徒は傘を持っていた。 

 アンナ:「傘だけ渡して1人で帰ろうと思ったみたい。だけど、その男は半ば強制的に一緒に帰ろうとしたらしいね」
 稲生:「なるほど……」

 男は女子生徒を振ったわけではないと弁解し、距離を取った理由し言い訳がましくも、ペラペラとまくしたてるように言った。
 そして、無理やりキスしようとしてきたらしい。

 稲生:「あれ!?もしかして、それって……!」

 稲生は在校中に聞いたことがあった。
 傘でメッタ刺しにされた男子生徒がいたという話。
 それで東京中央学園では、先端の尖った傘の使用禁止という変な校則ができたのだと……。

 アンナ:「お察しの通りだよ。でもね、不思議だと思わない?」
 稲生:「何がですか?」
 アンナ:「いくら必死の抵抗とはいえ、非力な女の子だよ?相手はヒョロッとしてはいるけど、それでも力は女の子よりあるはず。実際、その男はいっそのこと乱暴するような勢いで来たというし……。しかも、凶器になった傘は、最初から先端が尖ったものでは無かったそうよ」
 稲生:「は?……えっと……それは、どういうことなんでしょう?」
 アンナ:「魔法を使ったんだよ」
 稲生:「魔法?その女子生徒は魔道師だったんですか?」
 アンナ:「違う。でも、その素質を強く持っていただけ。それが、あんなことされて、思わず隠された魔力が解放されたってことなんだろうね」
 稲生:「なるほど……。そういうこともあるんですねぇ……。でも、それだけの素質があるんだったら、誰かが弟子候補にスカウトしてそうなものですが……」
 アンナ:「そこで最初のあなたの疑問。何で私がこの話を知っているか」
 稲生:「あっ……!」
 アンナ:「私が最初にそのコに目を付けていたの。もっとも、その時はまだ私もインターン(見習い)だったから、アナスタシア先生に良い候補者がいると報告するだけだったけど……」
 稲生:「なるほど……。で、今そのコはアナスタシア組にいるんですか?」
 アンナ:「……死んじゃった」
 稲生:「えっ?」
 アンナ:「あの後で自宅に帰ったみたいなんだけど、当然殺人事件だから、警察が動くわけでしょ?すぐに彼女にアシがついて、家に警察が乗り込んで来たの。だけど、飛び降りて死んじゃった。そのコの家、マンションの高層階だったから」
 稲生:「……マリアさんもまた飛び降り自殺を図ろうとしましたが、地面に激突する瞬間にイリーナ先生に助けられたそうです」
 アンナ:「あれはイリーナ先生なりの、弟子入りの儀式だったんだと思うよ。イリーナ先生が介入しなければ、マリアンナは死んでた。つまり、ああすることで、『人間としての人生を終え、これからは魔道師として生きる』という意味を持たせたんだろうね」
 稲生:「そうですか……」

 つまり、いつもいつも弟子候補の自殺行為を止めているわけではないということだ。

 アンナ:「……これで私の話は終わり。ありがとう。付き合ってくれて。あなたは……うん、実はまだ何とも言えないところがあるけれど、だからこそ、マリアンナも興味を持ったんだろうね」
 稲生:「え?何がですか?」
 アンナ:「あなたの家は元に戻っているよ。で、あなたが家に着く頃にはマリアンナも来てる。さあ、早く行ってあげなさい」
 稲生:「はあ……」

 稲生は首を傾げながら、カフェを出た。
 もう外はすっかり暗くなっていた。
 とはいえ、この辺の地理を全く知らないわけではないし、そもそも入り組んだ道を来たわけでもない。
 来た道をそのまま戻れる自信はあった。

 稲生:(一体、結局何だったんだろう?……まあ、いいや。アンナは別にこのことを黙ってろとは言ってなかったし、むしろマリアさんに言ってもいいと言ってた。マリアさんに話してみて、何だったのか教えてもらおう)
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“大魔道師の弟子” 「魔女とは一体……?」

2016-09-27 15:47:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月6日08:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 最近のビジネスホテルでは朝食をサービスする所も多く出て来たが、安ホテルのワンスターホテルではそういったサービスは無い。
 稲生とマリアは近所の飲食店で朝食を済ませてから、再びホテルに戻って来た。

 エレーナ:「あら?そのままどこかに出かけるんじゃないの?」
 稲生:「いや、取りあえず、朝だけ食べてきたところだよ。それより、リリィの具合は?」
 エレーナ:「取りあえず体の傷はハイポーションを使っておいたけど、心の治療は魔界に行かないとダメだね」
 稲生:「そうか……。それにしても、何でリリィは1人であんな所にいたんだ?」
 エレーナ:「私がホテルの仕事があったから、代わりに顧客の所に薬の配達に行ってたんだってさ」

 その帰りに、ロリ狙いの性犯罪者集団に捕まったらしい。

 マリア:「これでリリィも魔女化か……」

 マリアは眉を潜めて言った。

 エレーナ:「いや、リリィは元から魔女だよ」
 マリア:「なにっ?」
 エレーナ:「6歳くらいの時から性虐待受けてたんだってさ。処女を失うくらいにね」
 マリア:「そう、か……」
 稲生:「あのー、さっきから魔女とかそうじゃないとかって……」
 マリア:「ああ、それなんだけど……」
 稲生:「エレーナは魔女じゃなくて、リリィが魔女って、もしかして……」
 エレーナ:「その定義からすると、マリアンナも魔女だよ。魔女になる前、人間時代に無理やり処女を奪われた女で、且つダンテ一門に入った魔道師がそう呼ばれるようになったの。いつの頃から、誰がそう呼んだかは知らないけどね」
 稲生:「何だか複雑だなぁ……」
 マリア:「勇太は気にしなくていいから。いつもの通りのことをやっていればいい」
 稲生:「はあ……」

 ダンテ一門は他の魔法使いの門流と比べ、男女比率が大きく偏っていることで批判を受けているとのこと。
 それを是正する為の一環で、稲生も勧誘を受けたことになる。

 マリア:「さて、今日はどうする?」
 稲生:「それじゃ、都内をあちこち回ってみましょう」
 マリア:「分かった」

[同日17:00.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 ホテルを引き払った後は、稲生の実家に何日か滞在するつもりだった。
 電車で埼玉入りし、大宮駅で降りた時、また水晶球から緊急信号が届いた。
 またもや、どこかで性犯罪者私刑祭りが行われるらしい。
 マリアは稲生の同行を断り、先に実家に行っているように言った。
 魔女達の祭りに、男の魔道師がいるのはそぐわないというのは表向きで、実際は稲生にマリアの魔女ぶりを見られるのを嫌がったのかもしれない。
 稲生はそんなことを考えながら、実家への道を歩いた。
 中央区内、旧・与野市内にある実家。
 住宅街にあるので、別に寂しい所ではない。
 ところが、だ。

 稲生:「こ、これは……!?」

 そこにあったのは……確かに稲生の家だった。
 だが、まるで廃屋になってから何年も経ったかのような佇まいになっていた。

 1:中に入る。
 2:中に入らない。
 3:しばらく様子を見る。

 だが、さすがに変だと思った。
 もしも稲生がまだ魔道師(見習い)になる前だったり、なって間もない頃であれば、驚いて中に飛び込んだことだろう。
 だが、さすがにそろそろ見習いとしての日々にも慣れてきて、これは魔法による罠だと思った。

 稲生:「いや、これはおかしいよ。……そうだ。水晶球……」

 稲生は手持ちのバッグに入れてある水晶球を取った。

 稲生:「パペ、サタン、ハペ、サタン、アレッペ!魔法による幻覚を解き払え!ムァ・ホ・トーン!」

 だが、何も起こらない。

 稲生:「……う、やはり僕の力じゃ、まだ無理か?」
 ???:「そうかもね。ちょっと手伝ってあげるね」
 稲生:「えっ!?」

 背後から若い女性の声がして振り向くと、そこには青いローブを羽織り、フードを深く被った魔道師がいた。

 稲生:「あなたは……!?」
 ???:「私はアナスタシア組のアンナって言うの。マリアンナと同じ日にマスターになったんだけどね」
 稲生:「アンナ……アーニャ!」

 稲生がロシア語での愛称を言うと、アンナは眉を潜めた。

 アンナ:「初対面で、いきなりそう呼ばないでくれる?もっとも、初対面ではないけれども……」

 アンナがフードを取ると、アナスタシアと同じ黒髪で緑色の瞳が現れた。

 稲生:「会場設営や撤収をしていた人!」
 アンナ:「まあ、そうだけどね……。あれはきっと、他の魔女達の嫌がらせだよ」
 稲生:「ええっ!?何でそんなことを!?」
 アンナ:「門内にオトコがいるなんて許せないってヤツがいるのよ。一応、あなたも門内の仲間なんだし、あのマリアンナが心を開いているんだから、もう少し信用してあげたらいいのにね」

 アンナはそう言って、ローブの中から聖水の入った瓶を取り出した。

 アンナ:「……うん。あの魔力なら、このくらいってところか」

 そう呟いて、瓶の中の水を家の敷地内に向かって思いっ切り振り撒いた。
 すると、今にも朽ち果てそうなほどに廃屋化していた実家は……逆に消えて更地になった。

 稲生:「あ、アンナ!?これは一体……!」
 アンナ:「慌てないで。魔法を解くには段階があるの。しばらくしたら、元に戻るから」
 稲生:「ほ、本当か……」
 アンナ:「ええ。それより、それまでの間、ちょっと話でもしない?」
 稲生:「僕はアナスタシア組に行くつもりは無いよ」
 アンナ:「分かってる。そういう話じゃないから」
 稲生:「……?」
 アンナ:「後でマリアンナに、私と会ったことと、その話の内容を詳しく報告してもいいから」
 稲生:「そ、そう?」
 アンナ:「こっちに来て」

 稲生はアンナに連れられて、実家から離れた。
 実家から西の方に10分ほど歩いた所に、小さなカフェがあり、そこに連れられた。

 稲生:「マリアさんは……」
 アンナ:「魔女として、“狼”退治に行ってる。そこに座って」

 カフェの店内には誰もいなかった。
 稲生が座ると、テーブルを挟んで向かいにアンナが座る。

 アンナ:「何でも好きなもの頼んで。連れて来たのは私だから」
 稲生:「は、はあ……。それで、お話というのは……?」
 アンナ:「そう焦らないで。基本、“狼”退治というのは、そんなに手短に終わるものではないから。先に飲み物から注文して」
 稲生:「……アイスコーヒーで」
 アンナ:「分かったわ」

 アンナは奥にいるマスターらしき男に、飲み物を注文した。
 一体、このアンナという魔道師は稲生に何の話があるのだろうか?
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