報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ペンションの地下」

2025-01-30 20:20:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日22時00分 天候:曇 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』3階プレイルーム&バー]

 リサがスロットマシーンに興じている。
 オーナーが戻ってくる様子は無いし、窓から外を見ていても、まだパトカーが止まっている状態だ。
 どうする?
 こちらから出向いて、警察と合流しようか?
 そう考えていると……。

 リサ「やった!クイーン・ゼノビア全部揃った!」
 愛原「な、なに?」

 マティーニを飲み終わった私がスロットマシーンに近づくと、船の絵柄が揃っていた。
 他にも浮き輪や錨、舵輪の絵が描かれている。
 もしかして、本当に地中海でバイオハザードを起こした豪華客船“クイーン・ゼノビア”号のカジノにあった物だったのだろうか?
 メダルがジャラジャラと出てくる。
 そこで気づいたのだが、カジノバーでもある以上、VIPルームがあるのではないかと思った。
 壁際には、他にも暖炉がある。
 本当に燃やすのではなく、ただのオブジェであろう。
 私がそちらに注目したのは、ジャラっと鎖が動く音がしたからだ。

 愛原「ここに何かあるのか?」

 私が暖炉の中を覗いてみた。
 ただの飾りの為に、あまり奥行きは無い。
 だが、入って上を見ると、取っ手がぶら下がっているのが分かった。
 鉄製の三角形の吊り革のような形をしている。

 愛原「何だこれ?」

 私が引っ張るとガコンという音がした。

 愛原「ガコン?」

 しかし、目に見える範囲では何も起きていない。

 愛原「何か、変な音がしたが、何かあったか?」
 リサ「ううん」

 リサは首を横に振った。
 一旦暖炉から出たが、特にプレイルーム内でも何か起きたようでもなかった。
 どこか別の所で音がしたらしい。
 だが、この部屋から出るわけにはいかなかったので、探索を続けることにした。

 愛原「どうやら、そのスロットマシーンで勝つと、ギミックを操作できる仕掛けらしい」

 ここが元々、日本アンブレラの施設であったことを思い出した。
 ペンションとしてリニューアルされてからも、ギミックが完全に封印されたわけではないのだろう。
 あのエレベーターが普段停止されているのも、通常の昇降以外に、何か仕掛けが施されているからかもしれない。

 リサ「こっちのトランプゲームは?」
 愛原「よし、やってみよう」

 トランプ台にあるものとは別。
 最近のカジノにもあるそうだが、画面でコンピューター相手にゲームをするというもの。

 ルーカス・ベイカー「今日のお相手は、コイツだぁーっ!」
 愛原「ビックリした!」

 画面一杯に、白人の若い男が目一杯に映し出される。
 その狂気じみた笑顔が、カメラから離れる。
 カメラが動くと、そこには麻袋を被った者が座っていた。
 目の所と鼻の所だけ穴が開いている。

 ルーカス「赤コーナー、ホフマーン!」
 愛原「プロレスか!」
 リサ「これ、何のゲーム?」
 愛原「ブラックジャックらしい」
 リサ「ブラックジャック?」

 リサは目を丸くした。

 リサ「できるの?」
 愛原「何とかな」

 そして……。

 ルーカス「このゲームに勝ったのはァ~?……ミスタぁ~、アイハラぁ~ッ!!」
 愛原「何でコイツはノリがプロレスの司会みたいなんだ?」
 リサ「BSAAに殺された人だよね?」
 愛原「違う。“青いアンブレラ”だ。最後は体に注入した特異菌が暴走してな、“青いアンブレラ”の特別顧問をしていたBSAAのクリス・レッドフィールド氏に倒されたんだ」

 もちろん、画面の中のルーカスは変化前の人間の姿をしているが。

 ルーカス「負けたホフマンはァ~?……残虐切り裂きの刑だぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ホフマン「ぎゃああああああああっ!!」
 愛原「おい、これ造ったのどこのメーカーだ!?」

 しかしどこにもラベルが貼られていない。

 ルーカス「このゲームに勝ったミスターアイハラには、次なるゲームにチャレンジしてもらうぜ。今、音がした所をよーく調べてみな。そんじゃ、チャオ!」

 ブツッと画面が消える。
 するとまた暖炉の方から、鎖がジャラジャラと音を立てるのが聞こえて来た。

 愛原「今度は何だ?」

 再び暖炉の中に入る。
 すると、また同じ取っ手が別の所から伸びていた。

 愛原「よし、引っ張ってみるぞ」

 私はそれを引っ張った。
 すると、ゴロゴロと目の前で何か引きずる音がした。
 暖炉の向こうの壁は引き戸になっていて、それが開いたのだ。
 開くと同時に、向こう側の照明がパッと点灯する。

 愛原「よし、行ってみよう」
 リサ「うん」

 そこへ屈みながら入ると、エレベーターになっているのが分かった。
 反対側にも扉がある。
 しかし、先ほど乗ったエレベーターと違い、格子状の扉になっているわけではない。
 普通の鉄扉であった。
 ボタンを見ると、今いる3階と地下3階しかボタンが無い。

 愛原「地下3階があるのか?」

 私はそのボタンを押した。
 すると、今入ってきた小さな扉が閉まり、エレベーターが動き出す。

 愛原「一体、どこへ連れていかれるんだろう?」
 リサ「多分、研究施設だろうね。ハンターとかいたりして?」
 愛原「いやいや。ここもBSAAが訪れているはずだぞ?地下の研究施設だって、捜査されているはずさ」
 リサ「それもそうか」

 オーナーはTウィルスを研究していたというから、まあ、いるとしたらハンターかタイラントか。
 あいにくと武器は持って来てはいないが、ハンターくらいならリサが簡単に勝つし、日本製のタイラントは日本版リサ・トレヴァーの命令で動くことを前提として製造された為、リサの命令なら何でも聞くから危険は無い……はずだ。

 愛原「着いた」

 ガコンと古いエレベーターならではの振動付きで停止した。
 そして、チーンというベルと共に、反対側のドアが開く。

 愛原「これは……」

 エレベーターの明かりに照らされた先は真っ暗だったが、少なくとも研究施設ではないことが分かった。
 本棚がズラリと並んでいることから、書庫、資料室のようである。

 愛原「電気は点くかな?」
 リサ「このスイッチ?」
 愛原「それだ」

 古めかしい上下に操作するタイプのレバーを、リサは下にガチャンと動かした。
 すると、この空間の照明がパッパッと点灯する。
 エレベーターの照明も含めて、ここの照明も蛍光灯だった。
 停電したり、断線しているわけではないことから、今も使用されているのだろうか?
 私達はこの書庫を探索することにした。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「警察の到着」

2025-01-30 16:15:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日21時30分 天候:雨 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』3階プレイルーム&バー]

 ジュークボックスからは、相変わらずジャズが流れて来る。
 あの中に入っているのはピアノソロだけではなく、色々と入っているようだ。
 カジノで流れていそうな、アップテンポな曲が流れている。
 日本アンブレラの元社長で、今はペンションのオーナーである五十嵐皓貴氏との会話は進む。

 愛原「ところで、今日の夕食はとても美味しかったです」
 五十嵐「ありがとうございます。お気に召して頂けたようで良かったです」
 愛原「食べていて気付いたのですが、フランス料理のフルコースでありながら、コンセプトは沖縄のようでした。どうして沖縄なんですか?」
 五十嵐「元々あの料理は、サトウ様(斉藤秀樹の偽名)の御注文でした。サトウ様より、『私の次の旅行先、沖縄をモチーフにした料理にしてほしい』という御注文を受けまして……」
 愛原「『次の旅行先』!?」
 五十嵐「はい」

 なるほど!
 斉藤元社長は、次の逃亡先の暗示の為にあの料理を出させたのか。
 だったら最初から沖縄料理をオーナーに作らせて……というのもあるが、あからさま過ぎるし、何よりオリジナルの食材を集めないといけないからというのもあるか。
 しかし、今から沖縄に行くのか?
 無理だろう。
 どこかで夜明かしをして、それから沖縄に行くものと思われる。
 こうしてはいられない!
 私は席を立った。

 愛原「失礼!大至急、今の情報を私のクライアントさんに伝えなければなりません!電話を掛けてきます!」
 五十嵐「電話なら、そこのを使ってください」
 愛原「えっ?」

 厨房の入口の所に、壁掛けタイプの固定電話があった。
 1階フロントや301号室にあったようなアンティーク型ではなく、普通のプッシュボタン式である。

 五十嵐「他に、白井伝三郎の事とか、聞きたくないですか?」
 愛原「今は斉藤早苗という少女の体を使っているようですね」
 五十嵐「なに?もうそこまで行ったのか。……結局、ヤツの野望は成功したことになりますな」
 愛原「沖縄で私達の前に現れた後、また行方不明になったんです。クライアントさんによれば、沖縄本島から出ればすぐに分かるということなんですが、全く音沙汰無くて……」
 五十嵐「これでサトウ様の次の旅行先、そして旅行目的が分かりましたな」
 愛原「あっ……!」

 斉藤元社長は白井伝三郎(斉藤早苗)の居場所を知っているのだ。
 そして、これから会いに行こうとしているのだろう。
 多分、斉藤元社長の事だから、彼……いや、彼女というか……まあ、それを殺す算段が付いているのかもしれない。
 どうする?
 そこまで報告するか?
 ……まあ、契約だから、した方がいいか。

 愛原「ちょっとお電話お借りします!」
 五十嵐「どうぞ。なるべく早く御連絡をした方が良さそうですな」
 愛原「どういうことです?」
 五十嵐「ようやくゲリラ豪雨が収まって来たようです」

 確かに窓の外を見ると雨は弱くなり、雷の音も小さくなっていた。
 そしてその代わり、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえて来た。

 愛原「パトカーが!?」
 五十嵐「恐らく目的地はここ。用件は……サトウ様の事に関してでしょうな。愛原様方はこちらでお過ごしになっててください。……こちら、お代わりのお飲み物と軽食です」
 リサ「おおっ!今度はスモークタンと生ハムの盛り合わせ!」

 オーナーは私用にマティーニ、リサ用にノンアルコールカクテルのシャーリー・テンプルを出してくれた。
 おつまみとして、私用にはバターピーナッツも。
 オーナーはその後、この部屋を出ていった。
 サイレンを鳴らしたパトカーは、確かにこのペンションの前に着いた。
 私は電話を借り、それで善場係長に電話を掛けた。
 そして、五十嵐オーナーから聞いた話をそのまま伝える。

 善場「お疲れ様です。実は斉藤早苗こと、白井伝三郎の行方は未だに分かっていないのです。もしも斉藤容疑者がそれを知っているのなら、泳がせる必要がありますね」
 愛原「はい。あと、どうやらこのペンションに警察が到着したようです」
 善場「警察が?」
 愛原「はい。善場係長の方で、警察には捜査の手配をされたんですよね?」
 善場「そうです。では捜査の一環で、ペンションに来たのですね」
 愛原「今のところ、従業員とオーナーが対応に当たっているようですが、どうも今夜の宿泊客は、逃亡した斉藤さんを除いて、私とリサだけのようなので、私達も事情聴取をされそうです。その場合はどうしたら?」
 善場「そうですね……。斉藤容疑者とは会食してしまったので、当然ながらその関係を警察は疑うでしょうね」
 愛原「最悪、共犯だと疑われるわけですか……」
 善場「すぐに警察に通報しなかったところとかは疑われるでしょうね」
 愛原「しかし、私は係長にはすぐに連絡しましたが?」
 善場「はい。ですので、警察には私の電話番号を教えて頂いて結構です。少なくとも、こちらとしては愛原所長の報告を受けて、こちらから警視庁には連絡しましたから」
 愛原「分かりました」
 善場「何も無ければ明日、帰京ですね。月曜日には今回の件について、詳しく教えてください」
 愛原「かしこまりました。明日には報告書を作成しますから」
 善場「ありがとうございます。また何かありましたら、すぐに御連絡ください」
 愛原「承知致しました」

 私は電話を切った。
 しばらくオーナーを待っていたが、事情聴取が長引いているのか、なかなか戻ってこない。
 リサはさっさとおかわりのシャーリー・テンプルを飲み終わり、おつまみも食べ終わてしまった。
 そして、待っているのに飽きたのか、壁際に置いてあるスロットマシーンやピンボールゲームで遊び始めた。

 リサ「先生も一緒にやろうよ!」
 愛原「そうだな」

 トランプ台にはトランプもあるので、それでトランプでもして時間を潰すという事もあり得るだろう。
 私はマティーニやピーナッツを口に運んだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「五十嵐元社長との接見」

2025-01-28 20:39:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日20時45分 天候:雨 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』3階プレイルーム&バー]

 私達を乗せた古めかしいエレベーターが3階に着く。
 しかし、鉄格子状の扉が開くと、目の前には鉄扉が閉じられていた。
 この鉄扉は……防火扉だ。
 防火扉には鍵が掛かっておらず、執事はそれを手で開けた。
 なるほど。
 3階に行った時、エレベーターの存在に気付かなかったのは、防火扉で仕切られていたからか。
 防火扉の向こうは、見覚えのある廊下があった。

 執事「こちらでございます」

 相変わらず、窓の外からは大雨と雷の音が響いている。
 明日、本当に帰れるのだろうか?
 吾妻線は大雨に弱いイメージだから、もしかすると今は運転見合わせになっていたりするのかも。

 愛原「オーナーズルームがあるんですか?」
 執事「いいえ。確かに御主人様の御部屋はあるのですが、御主人様はそこではなく、プレイルームへ御案内するようにとのことです」
 愛原「プレイルーム?」
 リサ「ど、どんなプレイするの?」(;゚∀゚)=3ハァハァ
 愛原「エロい話じゃないぞ?プレイルームってのは、小さな小さなラウンドワンみたいな部屋のことだ」
 リサ「ラウンドワンかぁ……」

 そうして執事に案内された部屋には、確かに『プレイルーム』と、ドアに書かれていた。

 執事「失礼致します」

 執事はドアをノックして開けた。

 執事「愛原様方を御案内してございます」
 五十嵐皓貴「御苦労……」

 プレイルームの中は、カジノバーとしての色が濃い感じになっていた。
 まず、小さなバーカウンターがあり、そのカウンターの丸椅子に、1人の男が座っている。
 部屋の中央にはビリヤード台やルーレット台があり、壁際にはスロットマシーンの他、ブラックジャックやポーカーをやる為のトランプ台もある。
 ピンボールゲームやダーツもあった。
 これは恐らく、アンブレラ時代からある設備だろう。
 ジュークボックスからは、ピアノソロのジャズが流れていた。

 https://www.youtube.com/watch?v=PyJFlvqrdiQ

 五十嵐皓貴「……何か、前にも会ったことがあるような気がしますが、取りあえず、このペンションのオーナーとしては、『初めまして』って事で宜しいですか?」

 元社長……いや、オーナーは立ち上がると、私ににこやかな笑顔を見せた。
 年齢は60代前半といったところか。
 そこの執事より10歳若いと言った感じ。
 それでも白髪が目立ち、それをオールバックにしている。
 ペンションではシェフも務めているということだが、今は調理士の服は着替え、黒いベストとネクタイを着けている。

 愛原「そうですね。『宿泊客』として、お世話になっております、『オーナー』」
 五十嵐「色々と私に聞きたいことがあるようですね。結構ですよ。立ち話も何ですから、どうぞ、お掛けください。何か飲まれますか?サービスに致しますよ」
 愛原「えらくサービスがいいですね。それとも、その料金も斉藤さんが払ってくれたんですか?」
 五十嵐「サイトウ?いいえ。本日はそのような名前のお客様はお泊まりになっておりませんが?」
 愛原「は!?」
 五十嵐「サトウ様でしたら、お泊まりになっておられましたけどね、何やら急にこの悪天候の中を出て行かれたようですが……」

 も、もしかして、斉藤元社長、ここでも偽名で宿泊していたのか!?

 愛原「あっ!」

 それで分かったことがある。
 どうして善場係長が、今の五十嵐元社長には何の罪も無いと仰ったのか。
 もしも逃走中の容疑者だということが分かっているのであれば、即座に通報しないと、犯人隠匿の罪に問われる恐れがある。
 それが無いということは……。

 愛原「オーナーは、『斉藤容疑者が宿泊していたことを知らない』テイで行っているわけですね!?」
 五十嵐「……はて?何の話ですかね?」

 今の今まで姿を現さなかった理由も分かった。
 斉藤元社長がいる間は姿を隠すことで、『斉藤容疑者は偽名を使っていたし、フロント業務は事情を知らない執事がやっていたし、自分はシェフとして厨房にずっといたから、斉藤容疑者の事は一切知らない。だから、犯人隠匿の罪に問われる筋合いは無い』ということにするつもりなのだ!

 五十嵐「それより、私に何か聞きたいことがあるのでは?その前に、お飲み物は何か?おつまみも御提供しますよ?」
 リサ「……カシスオレンジ」
 五十嵐「カシスオレンジ風ノンアルコールカクテルですね。他には?」
 リサ「サラミとソーセージの盛り合わせ」
 愛原「肉か……」
 五十嵐「愛原様は何になさいますか?」
 愛原「ジン・トニック。あと、おつまみは『山盛りポテト』で」
 五十嵐「かしこまりました」

 作っている間、私はオーナーに話し掛けた。

 愛原「ここは、日本アンブレラの研究施設だったんですか?」
 五十嵐「そうです。表向きは保養施設だったんですけど、研究施設もありました。もっとも、日本版リサ・トレヴァーは、あくまで霧生市の開発センターが専門で、こちらは専らTウィルス関係の研究だけでしたがね」
 愛原「ウィルスが漏れたということは無さそうですね」
 五十嵐「アメリカの管理が杜撰だっただけです。もっとも、あれは幹部養成所のマーカス所長の造反だったというのが真相ですが。こちらでは、そんなことはありませんでしたよ」
 愛原「今しれっと日本版リサ・トレヴァーの話が出ましたが、やっぱり社長として知っていたんですね?」
 五十嵐「私は息子や白井から、『難病の治療の為』だと聞いていました。要は、『難病の治療薬開発の為の施設として、霧生市の開発センターを運営していく』と、聞いていました。その為、私は息子の副社長を、その統括担当に任命したわけです。……まあ、実態は愛原様も御存知だと思いますが」
 愛原「すると、任命責任はあるわけですね」
 五十嵐「それで私は、裁判所から懲役5年の実刑判決を受けました。息子の責任は更に重く、高裁から懲役12年を言い渡されましたが、御遺族方からの反発は強く、今は最高裁で争っている所ですね」

 もし高裁で懲役12年が確定しても、それまで拘置所などに未決囚として収監されていた時期は差し引かれるから、実際に服役する期間は10年を下回るだろう。
 果たして最高裁は、この12年よりもっと重い刑罰を元副社長に言い渡すことができるのだろうか。

 五十嵐「どうぞ」

 私がしばらく考え込んでいると、オーナーは注文したカクテルと軽食をカウンターの上に置いた。

 愛原「いただきます」

 私は斉藤元社長との関係について聞いてみたが、これには答えたくないようで、『元同業の経営者』とか、『互いに現役時代、業界内で会ったことがあるだけ』としか話さなかった。
 また、“青いアンブレラ”のことについても、『存在自体は知っているが、私は何もタッチしていない』とのことだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「五十嵐皓貴元社長」

2025-01-28 15:12:41 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日20時15分 天候:雨 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』1階ロビー]

 

 斉藤元社長が立ち去った後、私はロビーの公衆電話で善場係長に電話を掛けた。

 愛原「もしもし、善場係長ですか!?」

 私は斉藤元社長に先ほどまで会ったことを話した。
 そして、今はタクシーで逃走した事を話した。

 善場「かしこまりました!通報ありがとうございます!至急、手配を行います!斉藤容疑者との会話内容は覚えてますでしょうか?」
 愛原「一応、ボイスレコーダーを仕掛けておきました。後で、録音状況を確認したいと思います」
 善場「ありがとうございます。因みに斉藤元社長は、どちら方面に逃げたか分かりますか?」
 愛原「そうですねぇ……。ペンションの前は国道から入って、基本的には一本道なんです。まあ、未舗装の林道に入る道もあったりはしますが、舗装された道という意味では……。で、斉藤さんは普通のタクシーで逃走しましたから、それがこんな大雨の中、未舗装の林道に入るとは思えません。ここは素直に、国道方面に向かって逃げたものと思われます」
 善場「国道というのは145号線ですね?」
 愛原「そうです!」
 善場「かしこまりました。幸い所長方のいらっしゃる○×地区には、駐在所もありますから、警察への通報はこちらからしておきます」

 公安調査庁の職員には、直接的な逮捕権は無い。
 こういう場合は、ライバルの警察に任せるようだ。
 まあ、委託業者たる私が有力な情報を捕まえたというだけでも、善場係長達の手柄になるのだろう。

 愛原「BSAAには通報しないのですか?」
 善場「今、そちらの天候はどんな感じですか?大雨、暴風警報が出ているようですが?あとは洪水注意報と雷注意報も出てますね」
 愛原「あ、はい。今、かなり大雨が降っていて、雷もドッカンドッカン鳴っている状態です。今、外に出るのは危険ですね。斉藤さん、よくこんな中、逃げたもんだ」
 善場「天候が悪いと追跡も難しいですから。そんな状態では、ヘリコプターなんか飛ばせませんね?」
 愛原「あー、そうか」
 善場「最後に、元社長が乗ったタクシー会社やナンバーとかは覚えてますか?」
 愛原「あ、はい」

 私はここの地元のタクシー会社であることと、車のナンバーを伝えた。

 善場「ありがとうございます!所長、これからの御予定は?」
 愛原「五十嵐元社長と会う予定です。デイライトさん的に、五十嵐元社長は、あまり警戒していないんですよね?」
 善場「法的には今のところ何の問題もありません。五十嵐も社長は懲役5年の実刑判決を受けましたが、それまで警察の留置施設や拘置所に収容されていた期間を差し引きまして、2年ほどで出所してますね。それ以降、特に法的問題を起こしているわけではないので、そこは斉藤容疑者よりも問題はありません。ただ、彼は全てを話したという感じは全くしませんので、できればそこの辺り、情報を引き出して頂ければと思います」
 愛原「分かりました。頑張ってみます。では、失礼します」

 私は電話を切った。
 すぐに通報するということだったが、案外長電話してしまった感はある。
 恐らく、善場係長はデイライトの事務所辺りにいて、電話もスピーカーホンにしていたと思われる。
 で、すぐ近くにいる同僚や部下に私の通話内容を聞いてもらって、代わりに警察機関に通報したのだろう。
 しかし、どうして斉藤元社長は、まだ逃走を続けようとするのだろう?
 各製薬会社に入り込んだという“コネクション”のスパイは、全員炙り出しに成功し、それをもって司法取引を計るということだが、逃走してしまっては意味が無いのではないか?
 私がそんなことを考えていると……。

 執事「愛原様」

 後ろから執事に声を掛けられた。

 執事「御主人様がお会いになるとのことです。御案内させて頂きますが、準備の方は宜しいでしょうか?」
 愛原「あ、はい」
 リサ「その前に、トイレに行きたい」
 執事「かしこまりました。御案内致しましょう」

 ついでに私も行ってこようかな。

 愛原「じゃあ、俺も行こう」

 私も執事の後ろをついて行った。
 階段を回り込んで、1階の奥に行くと、共用トイレがあった。
 どうもこの辺りは薄暗い。
 シックな雰囲気を出す為に、わざと薄暗い照明を使っているというわけではなく、本当に暗いのである。
 トイレ前の廊下、更に奥に続いていて、そこなんか真っ暗である。
 だが、よく目を凝らしてみると……。

 愛原「エレベーターだ」

 エレベーターらしき物が見えた。
 それも、扉が鉄格子になっているタイプ。
 静岡県富士宮市郊外の、斉藤元社長の隠し別荘にあった物と似たタイプであった。
 だが、稼働していないようだ。

 執事「エレベーターでございます。……そうですね。御主人様は3階にいらっしゃいますし、あのエレベーターで参りましょうか」
 愛原「動くんだ!?」
 執事「はい。今は電源を落としているだけでございます。電源を入れて参りますので、先にお手洗いの方を……」
 愛原「あ、ああ」

 さすがにトイレは男女別になっている。
 トイレの中は、もう少し明るかったが、それでも……。
 
 

 何か古くて、やっぱり陰気臭いトイレなのだった。
 トイレはリニューアルしていないようだ。
 そんなことを考えながら、未だに水洗が押しボタン式の小便器の前に立って用を足していると……。

 リサ「ぎゃあああああっ!!」

 リサの悲鳴が聞こえた。

 愛原「な、何だ!?」

 私は急いで用を足し終わると男子トイレを飛び出し、女子トイレのドアをノックした。

 愛原「リサ!リサ!何があった!?」
 リサ「先生!入っちゃダメーっ!!」
 愛原「な、何だって!?何があったんだ!?」
 リサ「わたしがいいって言うまで入って来ないで!!」
 愛原「んん!?」

 私が首を傾げていると、女子トイレから水を流す音が聞こえた。
 その音からして、こっちの女子トイレもリサの嫌いな和式らしい。
 しばらくして、忌々しさの表情を浮かべたリサがトイレかに出て来た。

 愛原「リサ、いくら和式だからって、そんな叫ばなくても……」
 リサ「違うの!これ見てよ!」

 リサが私を誰もいない女子トイレに招き入れる。
 やはりこっちの女子トイレも昭和時代のままの古いトイレだったが、個室の1つがガラス張りになっていた。

 

 しかも、便器も一段高くなっており、これで外から排泄している状況が丸見えだ。
 ん!?これって……。

 リサ「アンブレラの研究所にあったヤツと同じ!」

 そ、そうだ。
 リサ達は実験と称して、『日本版リサ・トレヴァーの排泄観察』と銘打った、羞恥プレイをさせられていたのだ。
 まだ年端も行かぬ少女達をガラス張りの和式トイレで排泄させ、それを多くの研究員(もちろん男)が観察するという実験。
 この時既にBOW化していたリサですら、恥ずかしさのあまり、死にたいと思ったらしい。
 そのトラウマが今でも残っているのだ。

 リサ「用を足していたら、いきなりガラス張りになったの!」
 愛原「ええっ!?」

 やはりここは、日本アンブレラの施設だったのだと改めて思い知らされる。
 すると、エレベーター前の照明を点灯させた執事が申し訳なさそうにやってきた。

 執事「実は電源を復旧する作業をしていたのですが、その際に誤ってトイレの操作盤に触れてしまいまして……」

 どうやらリサに起きた現象は、執事のミスらしい。
 リサは鬼化すると、瞳を赤く鈍く光らせた。
 そして、牙を剥いて……。

 リサ「殺してやろうか……!?」
 愛原「リサ、やめなさい」
 リサ「だって……」
 愛原「執事さんだってワザとじゃなかったんだから」
 執事「誠に、申し訳ございません」
 愛原「ほら、謝ってるんだしさ」
 リサ「むー……!」
 執事「エレベーターのご用意ができました。これで3階まで参りましょう」

 執事はそう言うと、上のボタンを押して、鉄格子状の扉を開けた。
 乗り込んでみると、富士宮の別荘のそれよりも広く、扉は自動で開閉した。
 エレベーターの中は明るい。

 執事「それでは3階へ参ります」

 執事はエレベーターボーイの如く、扉を閉めた。
 そして、レバーを操作する。
 扉は自動開閉でも、昇降機の捜査は手動のようだ。

 愛原「まるで、日本橋高島屋のエレベーターみたいだな……」

 私はそう呟いた。
 ただ、高島屋のエレベーターはもう少し動きが速いのに対し、こちらは少し遅い。
 駆動方式が違うのだろうか。
 そして、先ほどまで夕食会が行われていた3階に到着した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「斉藤秀樹の逃走」

2025-01-26 20:26:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日20時00分 天候:雨 群馬県吾妻郡東吾妻町某所 ペンション『いたち草』3階301号室→1階エントランス]

 斉藤元社長との話が進むうち、時間も刻々と過ぎていった。
 因みにメインディッシュの肉料理は、『厚切り牛ロース肉のフランドル風オリオンビールのソース グリオット添え』であるという。

 

 美しく飾られた料理であるが、『質より量』派のリサは……。

 リサ「少なっ!」

 と、不満そうだった。
 味は絶品だったのだが。
 そして、最後のデザートは……。

 執事「こちら、デザートの『紫芋のスイートポテト ジーマミーのメレンゲ カシスソース』でございます」

 執事がデザートを運んで来た。

 

 愛原「あのー……何だか、さっきから料理の名前が沖縄風のような名前なんですが、何か関係があるんですか?」
 斉藤「愛原さんは探偵として、何か推理することはありますか?」
 愛原「五十嵐元社長、実は沖縄料理に凝っているとか?」
 斉藤「だったら何も、フランス料理ではなく、沖縄料理を出せば良いでしょう?」
 愛原「それもそうですな」
 斉藤「沖縄風フランス料理が出て来た理由……。今は分からなくても、愛原さんなら後できっと分かります」
 愛原「むむ……」
 執事「食後のお飲み物は何になさいましょう?」
 斉藤「ああ、紅茶で頼む」
 執事「かしこまりました」
 愛原「コーヒーをお願いします」
 リサ「私も」
 執事「かしこまりました」

 執事は斉藤元社長には紅茶を、私とリサにはコーヒーを淹れてくれた。

 愛原「どうしてロシアに逃走していたんですか?」
 斉藤「BSAAの欧州本部に最も近い所にあるのがロシアだからです。私は何も、ただ単に逃走・潜伏していたわけではありません。BSAAとて信頼に足る組織ではないことを確認する為の調査をしていました」
 愛原「その結果が『瓦解する』と?」
 斉藤「BSAAは国連の公的組織となった今でも、世界製薬企業連盟から批判逃れと宣伝目的で多額の出資を受けている為、国連本部よりも、連盟の方が大きな権限を持っているのです。これは危険です。私が大日本製薬を潰す方向に持って行ったのも、それの巻き添えになることを避ける為です。連盟も、倒産した企業には見向きもしませんからね」
 リサ「エレンは?さっき、『ちゃんと話す』と言ったよね?」
 斉藤「娘は死んでいないよ。それどころか、沖縄にも行っていない」
 愛原「は?」
 リサ「はぁ!?」
 愛原「で、でも斉藤さん!現に私達は那覇市内で……」
 斉藤「あれは偽者です」
 リサ「偽者!?でも、匂いとか……」
 斉藤「うん。上級BOWを騙せたのだから、実験は成功だ」
 リサ「実験!?」
 斉藤「愛原さんは御存知ですよね?愛原公一農学博士が発明した、『枯れた苗もたちどころに生き返らせる薬』を」
 愛原「ええ。それを日本アンブレラが狙っていたんでしょう?特に、白井伝三郎が」
 斉藤「詳しい話はまだ言えませんが、特異菌とあの薬を使えば、偽者が造れることが分かりました。元々は特異菌だったので、それで那覇市内では化け物になってしまったのです。だからまあ、結果的には実験は失敗だったのでしょうが……。途中までは成功だったということで」
 愛原「斉藤さんは今、何をされておられるのですか?」
 斉藤「“青いアンブレラ”への援助ですよ。今、本当にバイオテロに立ち向かえる正義感と軍事力を持った組織は“青いアンブレラ”しかいない」
 愛原「しかし、BSAAの欧州本部が、バイオテロ鎮圧にBOWの兵士を投入していたことが批判の的になったじゃないですか。それと同じ事をするんですか?」
 斉藤「しませんよ」
 愛原「えっ?」
 斉藤「だから、あくまでも実験です。仮に成功したところで、バイオテロ鎮圧には使いませんよ?」
 愛原「じゃあ、何の為の実験で?」
 斉藤「それはまだ秘密なので話せません。が、けしてバイオテロに使うわけではないとお約束はできます」
 リサ「それで、本物のエレンはどこに?」
 斉藤「それも言えない。『証人保護プログラム』って知ってるかな?」
 リサ「ん?」
 愛原「政府の庇護下にあるということですか?」
 斉藤「私がこんなことをしているせいで、“コネクション”から狙われていましてね。“青いアンブレラ”と行動している間は安全なのですが、日本国内においては彼らも非合法組織なので、そういうわけには参りません。“コネクション”はバイオテロ組織とされていますが、内実はマフィアのようなものです。バイオテロ組織的マフィア……あるいは、マフィア的バイオテロ組織というべきか……。とにかく、敵対者にあってはその家族までも攻撃対象とするという恐ろしい組織なのです」
 愛原「今の日本政府は頼りないですからなぁ……。ん?もしかして、ロシアというのは……」

 斉藤元社長は微笑みを浮かべるだけで、特に答えるわけでもなかった。
 この分では元社長の奥さん、つまり絵恋の母親も生きているだろう。
 この母娘にいる場所はモスクワではない。
 ウクライナとの戦争で、モスクワも安全地帯とは言えなくなっているからだ。
 となると……ウラジオストクか。
 日本から最も近いヨーロッパとも言われている。
 ウラジオストクもロシアである以上、戦争の危機が無いとは言えないが、とはいえ、ウクライナとの戦争の戦闘地域になっているわけではない。
 それに、日本に最も近いのだから、いざとなったら日本に帰ればいいということだ。
 コネクションは、ロシアでは活動できない?
 そんなことがあるのか?

 斉藤「愛原さんの想像にお任せします」
 リサ「エレンはロシアにいるってこと?」
 斉藤「想像にお任せします」

 するとそこへ、執事がやってきた。

 執事「お話し中、失礼致します。斉藤様、迎えの車が到着してございますが?」
 斉藤「ああ、今行く」
 愛原「迎えの車?」
 斉藤「言ったでしょう?話が終わったら、私は消えます。ここは空き部屋になるので、良かったらここを使って頂いても構いませんよ?」
 愛原「いえ、そういうわけには……。見送らせてください」
 斉藤「しょうがないですね」

 私達は部屋から出て階段を下り、正面玄関に向かった。

 愛原「うわっ、凄い雨風!」
 斉藤「素晴らしい。この風雨なら、BSAAのヘリは飛べませんな!」

 どうやら向こうの山の上で活動していた雷雲がここまで来たらしい。
 強い風と雷を伴ったゲリラ豪雨だ。
 しかも、迎えの車というのが、あのタクシーだった。
 群馬原町駅から私とリサを、ここまで乗せてくれたタクシー。

 斉藤「それでは愛原さん、機会があればまた会いましょう。オーナーにも宜しく」

 斉藤元社長はタクシーに乗ってペンションをあとにした。
 タクシーが見えなくなるまで見送っていたが、目の前で雷光と雷鳴がして我に返った。

 リサ「先生、早く中に入ろう!」
 愛原「あ、ああ!」

 私達は建物の中に入った。

 執事「愛原様。御主人様は食事の後片付けがありますので、それが終わり次第、お会いになるとのことです。しばらくお待ち願います」
 愛原「結構ですよ。私も、その間、連絡する所があります」

 私はそう言うと、ロビーの片隅にあるアンティーク型の公衆電話に駆け寄った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする