報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「同窓会の始まり」

2016-07-31 21:07:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月22日11:44.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 西武バス上落合八丁目バス停]

 稲生は白いワイシャツにスーツのズボンを履いて、同窓会の会場に向かった。
 家の近くのバス停で、まずは大宮駅に向かう。
 高校生だった頃は1時間に1本くらいあったバスも、今では1日3便という免許維持路線になってしまった。
 そんなバスがやってくる。
 中型のノンステップバスが当たり前になっているが、高校生の頃は中型のツーステップバスもよく走っていたし、大型のワンステップバスもいてバラエティに富んでいた。
 バスに乗り込んで、中扉の後ろに座る。
 車内は本数に相応しいほどのガラ空きぶりだった。

〔次は日赤入口、日赤入口。……〕

 妖狐の威吹が護衛として付いていた頃は、1番後ろの席に座っていたものだ。
 彼は稲生の霊力があまりにも強いが為に、現代でも潜む他の妖怪達に狙われないようにという理由で護衛に学校まで付いてきていた。
 もちろんその理由は本当だろう。
 だが他の理由が大きいと感じていたし、後に威吹は白状している。
 他の妖怪に“獲物”を横取りされない為の防衛と、いつ稲生が心変わりして威吹の所から逃げ出すかと心配が故の監視が実際のところだったと。
 今はその盟約は解除されている。
 妖狐族の掟で、“獲物”の二重盟約は禁止されているからだ。
 最初に盟約を交わした巫女のさくらが生きており、つまりはその盟約が未だ有効であったことが判明した為、稲生との盟約は強制解除となった。
 それでも友人関係は続いており、時折手紙のやり取りをしていたり、稲生が魔界に行く機会があったら、今の威吹の住まいを訪問したりしている。
 高校時代の半数以上は顕正会活動に費やされてしまった為、他の楽しい思い出は、専ら学校生活よりも威吹との思い出が大きかった。
 それでも残りの3分の1、つまり3年生になってからは顕正会も脱会し(実際は化石化)、法華講に入るまでの間の短い無宗教生活を送っている。

[同日13:30.東京都台東区 学校法人東京中央学園上野高校]

 現役生達の終業式が終わる頃、同窓生達は校内の学食に集まって、そこで立食形式の同窓会が行われる。
「よぉっ!ユタじゃないか!」
「えっ!?」
 稲生を『ユタ』と呼ぶ者は限られている。
 多くは妖怪達がそう呼ぶのだが、人間の中にもそう呼ぶ者が一部いる。
 稲生が振り向くと、そこにいたのは、
「大河内君!」
 短く刈った金髪に両耳ピアス、そして薄いサングラスに派手にスーツを着ていたのは大河内と呼ばれた男。
「覚えててたかー」
「忘れるわけが無いよ」
 稲生は大河内と握手を交わした。
 大河内は今はバンドユニットを組んで、ロックを中心としたライブ活動を行っている。
 高校時代から既にそういったことをやっていたものだから、言ってみれば不良……ヤンキーに近かったかもしれない。
 しかし今ではプロデビューして、ライブハウスなどでよく歌っているということだから、そこそこ売れているのかもしれない。
 まだテレビとかで見たことは無いし、タワレコなどでCDが発売されているというのも見たことは無い。
 大河内と稲生、全く性質の違う2人が友人同士になった経緯は……追々語るとしよう。
「イブキは来てねーのか?」
「だって威吹は、そもそもうちの卒業生でもないし」
「ハハハッ!似たようなもんだろ。イケメンが通ってるっつー噂が立って、イブキの入り待ちなんかあったくらいだったろ?」
「あー、そういうこともあったねぇ……」
 威吹の顔立ちは美しい。
 女性と間違えるくらい。
 威吹としては、稲生を学校まで送ってからどこかで時間を潰すはずだったのだが、何故か女子生徒に取り囲まれる事態になった。
 “獲物”以外の人間には興味の無かった威吹にとっては、とても煩わしいことであったという。
「今、威吹は結婚して魔界にいるよ」
「なにっ!?……そうか。そうかそうか」
 大河内はポンポンと稲生の肩を叩いた。
「なに?」
「オトコにもフられてしもたからっちゅうて、落ち込む必要は無いけんね」
「大河内君、お国言葉出てる。ってか、フられたわけじゃないし。今でも友達だし。しかも、『も』って何?『も』って?」

 そんな同窓会も終わりに近づいた頃、大河内がこんなことを言った。
「なあ、ユタ。アレのことは覚えてるか?」
「なに?」
 大河内は稲生を学食の外に連れ出した。
 そして、そこの窓から見えるある物を見ながら言う。
 窓の外には、何故か近代的な造りの校舎には不釣合いなほどに古めかしい木造建築物があった。
「アレや、アレ。旧校舎が取り壊されてしまうからってんで、学校にまつわる七不思議の発表をしようって新聞部から持ち掛けられたやろ?あれのことや」
「ああ!」
 稲生や大河内が2年生だった頃、木造の旧校舎が夏休み中に取り壊されることが決定した。
 色々と怖い噂のあるこの学校、七不思議どころの騒ぎじゃないほどの数の怪談話があった。
 そこで当時の新聞部が、その中でも飛びっきり怖い話を納涼企画として特集をしようということになった。
 しかし当時の担当者がまだ1年生だということもあり、その話に詳しい7人が集まって、その新聞部員に語ってあげるという形式で行われた。
 稲生は顕正会活動にまつわる話を語り部としてした記憶がある。
 稲生が入学する前にも顕正会員が校内で下種活動をしており、当時も問題になったという話だ。
 どういうわけだかその顕正会員に怨嫉した生徒や教師に、次々と不幸が起きたという話だったが、思いっ切りドン引きされた。
 怖い話の候補は他にもあったのだが、それを話さずにはいられなかったのだ。
「結局7人目が来なくて、新聞には『諸事情により、6話分のみ掲載致します』ってなってたよね?」
「そうだな。それでな、あの集まりをもう1度やろうという話があるんだ」
「ええっ?!」
「要はもう1つの同窓会だな。あの時の語り部連中がもう1度集まって、あの時話せなかった別の怖い話をしてみようってヤツだ。な?どや?出るやろ?」

 1:出る
 2:出ない
 3:考えさせてほしい

「……出るよ」
「そうこなくっちゃな!実はあの時の新聞部員……えー、何て言ったけん?坂……坂……何やったっか……」
「坂下君?」
「そう!坂下や!あいつもあの時と同じように、司会進行役で来てくれるって話だぞ!」
「そうなんだ」
「ん?何か、乗り気じゃなさそうだな?」
「あ、いや、その……」
「まあ、オマエも怖がりやったもんな。あの時もオマエ、随分と震えちょったけんね。まあ、心配せんでも、いざとなったらイブキが……って、今はおらんか。ま、とにかく、もう心配は無いってことはオマエも知ってるだろ?魔界の穴はもう塞いだんだからさ」
「う、うん……まあね」
 どうして大河内がそんなことを知っているのか。
 もちろん大河内もまた霊感が強い人間であり、しかもそれを力として攻撃できる技も併せ持っていた為、稲生や威吹などと組んで魔界の穴を塞いだことがある。
 それからパタリと校内における怪奇現象は全て無くなってしまった。
 七不思議どころでは済まない東京中央学園のミステリーも、全ては魔界の穴のせいであると、今の稲生なら全て信じることができる。
 だから本来は、七不思議の企画をまた行っても何の危険も無いはずなのだが、稲生にとってはイリーナ達の言葉で、とても不安だったのである。

 だが、何故か不思議と逃げる気もまた起きなかったのだ。
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“大魔道師の弟子” 「とりま、東京へ」

2016-07-30 21:32:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月21日09:15.天候:晴 白馬八方バスターミナル→アルピコ交通バス車内]

 平日の夏、2人の魔道師の姿は村内のバスターミナルにあった。
 冬は雪深いところでスキー客の姿が多く見られるところだが、夏場はそれと比べれば静かなもので、休日には登山客が訪れるくらいだ。

〔「9時15分発、中央道回りのバスタ新宿行きです」〕

 『Highland Express』と車体に書かれた地元の高速バスがやってくる。
 荷物室に大きな荷物を預けると、2人はバスに乗り込んだ。
「3Aと3Bです。……ここですね」
 バスは4列シートタイプであった。
「いいんですか?僕の家に泊まってもいいのに……」
「いや、いいんだ。今回は特に、魔道師の拠点の所にいた方がいい」
 この2人が同行動するのは、新宿まで。
 稲生はそこからJRに乗り換えて、実家の埼玉へ向かうし、マリアは地下鉄に乗り換えてエレーナの所へ向かう。
「そうなんですか」
 そんなことを話しているうちに、バスが出発した。

〔「本日もアルピコ交通をご利用頂き、ありがとうございます。9時15分発、“中央高速バス”、バスタ新宿行きです。次は、白馬町に止まります。白馬町、白馬五竜、信濃大町駅前、安曇野松川、安曇野穂高、安曇野スイス村までお客様をお迎え致します。お客様の下車停留所は、中央道八王子、中央道日野、中央道府中、中央道深大寺、中央道三鷹、終点バスタ新宿の順です。……」〕

「……僕が危険なのは本当なんですか?」
「本当だよ。師匠があれだけ言ってるんだから間違いない。だけど、師匠の話だと、かなり時間的にギリギリになってから危険みたいだな……」
「そうなんですか?」
「死神ってのは本気になれば、かなり前から狙う。しかも、予告付きでね。だけど今のところ、ユウタには何の予告も無いし、今現在狙われてる形跡も無い」
「何か変な夢でも見るのかと思いましたが、そんなこと無かったですねぇ……」
「そういうものだろう。だからユウタ、行かないという選択肢はまだ使えるということだ」
「そうですねぇ……。マリアさんは、その死神に何か心当たりは無いんですか?」
「死神に知り合いはいないなぁ……。強いて言うなら、冥界鉄道の乗務員がいるだろう?」
「ええ」
「あれだって広義の死神みたいなものだ。死んだヤツの魂を列車に乗せるんだから」
「なるほどねぇ……。じゃあ、まかり間違って冥鉄列車に乗ってしまうってことですか?」
「学校から出てるのか?」
「あ、いや、そう言うことでは……」
「じゃあ、それは無い。冥鉄も人間界じゃ、おとなしく線路の上を走ってるよ」
「そうですよね」
 尚、冥鉄にはバス部門もあり、怪談話の中に出て来る幽霊バスは、大抵この冥鉄バス。
「いきなり鎌を振るってくるヤツもいるから、とにかく気をつけて」
「は、はい」

[同日15:00.天候:晴 東京都新宿区・バスタ新宿→新宿駅]

 話が終わると、マリアはローブのフードを被って眠ってしまった。
 昼食は途中の休憩箇所で買って食べた。
 つまり最初の休憩箇所で食べ物を買って、次の休憩箇所でゴミなどは処分するというもの。
 乗り物で移動する時は魔道書を読んでいたマリアだったが、マスターになってからはそんなことも無くなった。
 乗り物にまで魔道書に持ち込む必要が無くなったのかもしれない。
「広いなぁ……」
 集約されたバスタ新宿の中を、荷物を手にして進む。
「マリアさん、安心してください。都営地下鉄の乗り場まで、一緒に行きましょう」
「ああ、ありがとう」
 大勢の利用者が行き交うバスタ新宿と新宿駅。
 鉄ヲタの稲生でも迷いそうな所でもある為、ましてや外国人のマリアには難しい所だろう。

 マリアが乗るのは都営新宿線。
 新宿駅は京王電鉄が管理している新線新宿駅とイコールである。
「乗り場まで分かれば大丈夫だから」
 と、改札口の前で稲生と別れた。
「5番線から乗ってください」
「分かった」
 マリアは改札口を通ると、更に地下へと下りて行った。

[同日16:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 エレーナが住み込みで働いているホテルに到着する。
 元々ドヤ街にあったホテルなだけに、その規模はこぢんまりとしたものだ。
 しかし設備はちゃんとしたビジネスホテルであり、今ではバックパッカーからの利用も多いという。
「こんにちは」
「やあ、いらっしゃい」
 フロントにはホテルのオーナーが立っていた。
「ダンテ一門のマリアンナです」
「はい、マリアンナさん。お待ちしておりましたよ。こちらのシートにご記入を」
 マリアはペンを取ると、英語で自分の名前と所属を書いた。
 このホテルは『協力者』になっており、魔道師にあっては所属と名前を書くだけで良い。
 マリアのように定住地が決まっている者は、そこの連絡先も記入する必要があるが。
「エレーナはいますか?」
「エレーナは“宅急便”の仕事で今日は忙しいみたいですよ。まあ、夜には終わるみたいですから」
「そうですか」
 こぢんまりとしたロビーの片隅には、アップライトピアノが置かれている。
 自動で演奏を奏でているが、マリアには何の曲だか分からない。
 ただ、そのピアノからも魔力を感じたので、見た目は自動演奏機能付きのピアノのようであるが、実際はそうでないのだろう。
「では、5階の501号室です」
「ありがとう」
 マリアはルームキーを受け取ると、エレベーターへ向かった。
 ホテルと併設されるような形で、レストランがある。
 出入口から通りに面したものと、このホテルのロビーから出入りできるものと2つある。
 名前も“マジックスター”というから、ここも魔女絡みであろう。
 エレーナがここを拠点にしてから、魔道師達がよく利用するようになったという。
(夕食はここかな……)
 まだ準備中のレストランだが、デザートの部分に『目玉の飴玉』なんて不思議な文言があったことは内緒だ。
(取りあえずは、稲生が同窓会に出るまでは安全だということだな)
 マリアはエレベーターに乗ってそう思った。

 願わくば、直前でもイリーナの予知夢の内容が変わることだが、とても確率は低いだろう。
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“大魔道師の弟子” 「予知夢」

2016-07-29 22:41:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月2日09:00.天候:雨 マリアの屋敷]

 イリーナはヨーロッパでの仕事を終え、再びマリアの屋敷に寝泊まりしていた。
 そこでイリーナは予知夢を見た。
 イリーナの予知夢は、未来の出来事を写した静止画が何枚も出て来るというもの。
 それが鮮明であればあるほど、当たる確率が高い。
 イリーナは表向きは占い師として活動しているが、そういった夢占いも自分の技術の1つである。
 もし政治的な何かが起こるという予知夢であれば、当事者の政治家に売り込みに行ったり、経済的な何かであれば経済界の要人に売り込みに行く。
 そうすることで、莫大な報酬を得ているのである。
 そういう大きな夢から、弟子に関する予知夢など小さなものまで千差万別であった。
 で、今回見た夢というのが……。
 イリーナは上半身だけ起こすと、ベッド脇のスタンドに置いた手帳にその内容を記載した。
 ロシア語であるが、それを日本語訳するとこうなる。

『どこかの日本の学校らしき場所』
『稲生を含めた7人が何やらミーティングのようなものをしている』
『頭を金髪に染め、薄い色のサングラスにピアスを着けた若い男が何か喋っている』
『黒い服を着た死神が暗闇の木造建築物の中にいる』
『マリアンナと対峙する死神』
『ローブのフードを目深に被った魔女。手にはバスケットを下げている?誰だか不明』
『同じくローブを着てフードを被った魔女の後ろ姿。水晶球の前に座っている?誰だか不明』

「稲生君と関係が?」
 イリーナは首を傾げた。
 この時点では、どのような接点があるか分からなかった。

[7月10日04:23.天候:曇 マリアの屋敷]

 今度はマリアが予知夢を見た。
 その予知夢の中に、稲生がいた。
「……!」
 マリアは以前、師匠のイリーナから、予知夢と思われた夢を見て目が覚めたら、すぐにその内容を箇条書きでいいから書き出すようにと言われていた。
 マリアが見た夢はこれ。

『電車で移動する稲生』
『立食パーティーで談笑する人々。微かに稲生の姿もある』
『会議室のような場所に移動する稲生ら数名の男女』
『立ち上がって自己紹介する若い男』
『夜の学校らしき場所』
『鉄筋コンクリートの建物から木造の建物に移動する稲生ら数名』

「……ユウタに何かあるのか?」
 マリアは首を傾げた。
(先月の師匠の予知夢といい、私も一緒に行った方がいいかもしれない)
 と、考えた。

[同日08:02.天候:雨 マリアの屋敷]

 今日はイリーナも屋敷にいる。
 3人で朝食を囲っていた。
 稲生は今ではイリーナから与えられた魔道書を読み、それで簡単な魔法の習熟訓練を行っている。
 それはあくまでも簡単なもので、最初は知識から積むというのがダンテ流である。
「あの、ユウタ」
 マリアが切り出した。
「何ですか?」
「今月行く同窓会なんだけど、私も一緒に行ってはダメかな?」
「えっ、何でですか?」
 稲生は目を丸くした。
「あっと……その……。ほら、前に稲生の大学を見学させてもらったことがあっただろう?今度は高校を見てみたくなった」
「まあ、大学は開かれた場所ですからね。うーん……」
 稲生は何故か腕組みをして考え込んでしまった。
「ダメなのか?」
「ダメってわけじゃないんですけどぉ……。僕の高校はちょっと変わったところがあって、あまり部外者の立ち入りを喜ばないんですよ」
「そうなのか……」
 すると紅茶をズズズと啜ったイリーナがこう言った。
「マリア、ついでにお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「取りあえず、東京まではユウタ君に付いていってあげてくれない?」
「師匠?」
「後でエレーナに連絡しておくけど、ポーリンに頼んでおいた薬がもうすぐ出来上がりそうなの。本当はエレーナにここまで持って来てもらうつもりだったけど、あなたが東京にいるエレーナの所に取りに行ってもいいわけだからね。ついでに稲生君と一緒に行ってきて」
「わ、分かりました!」
 マリアは大きく頷いた。
「それじゃ、マリアさんの分のバスのチケットも買ってきませんと」
「あー、そうだね。後でバス代あげるから買ってきて」
「分かりました」

[7月17日18:00.天候:曇 マリアの屋敷]

 またまた外国から戻ってきたイリーナと共に、夕食を囲む稲生達。
 マリアの屋敷の大食堂は、1度に10数名が囲めるほどの大きなテーブルを備えている。
 尚、上座に当たる部分においてさえ、イリーナがそこに座ることはない。
 上座のすぐ隣の席に陣取るのみ。
 これはイリーナがけしてダンテ一門の中では最上位にいるわけではないことを意味しており、また、そういった最上位の者達の突然の訪問にも対応できるようにする為だった。
 夕食の後で食後のコーヒーや紅茶のタイミングになった時、イリーナが深刻な顔をして稲生に言った。
「稲生君。あなたに選択肢を与えるわ。どちらか選んで」
「は?」
「同窓会に本当に行くか行かないか決めて」

 1:同窓会に行く。
 2:同窓会に行かない。
 3:どういう意味なのかと質問する。

「それはどういう意味なのでしょうか?」
「わざわざこんな質問するくらいなんだから分からない?同窓会に行くことで、あなたの身に危険が迫っているのよ?」
「な、何故ですか!?」
「それは分からない。だけど最悪、あなたは死神に取り殺されることになっている」
「は!?え!?」
「魔道師が死神に殺されるなんて、赤っ恥もいい所だわ。魔道師として最良の方法は、正に予知夢を活用してその事態を回避することよ」
「だけど、もし死神に狙われたとしたなら、ここに残っても同じことなんじゃないですか?」
「死神にもいくつかのパターンがあるからね。罠を仕掛けておいて、そこに掛かった者を殺して魂を奪い取るなんてヤツもいるのよ」
「ええ……?」
「分かった。行くなとは言わないわ。だけどね、あなたは向こうに行った後、何か会議のようなものに参加することになるみたい」
「そうなんですか?」
「もしそこで、魔女に関することを話すヤツがいたら気をつけなさい」
「魔女のことを話すヤツ?」
「私の予知夢はね、どこまで展開が進んだら後戻りができないかが分かるようになっているの。もし会議の中で、魔女について話すヤツが来たらすぐに逃げなさい。いや、待って。マリアに連絡して来てもらった方がいいわね」
「師匠、こんなことを言うのも何ですが、私は死神と戦ったことがありません。“魔の者”とは違うんですか?」
「違うっぽいねー。ま、とにかくそういうことだから。行かない方がいいけど、行くなとも言わない。あれだけユウタ君、楽しみにしてたもんね」
「ええ、まあ……」
「人間時代の思い出は大切に、なんて言った私がそれを否定しちゃダメだよね。とにかく、気をつけなさい」
「分かりました」

 因みに、出発前日のことである。
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“大魔道師の弟子” 『同窓会であった怖い話』編 導入部

2016-07-28 21:13:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月15日10:30.天候:晴 長野県北部某山中 マリアの屋敷]

 それは春からまもなく夏になろうとしていた時のこと……。
 稲生は屋敷に届いた郵便物の整理をしていた。
 そんなもの屋敷のメイド人形の仕事ではないかと思われるだろうが、メイド人形がいなければ、本来は弟子の役目である。
 やはりズバ抜けて、イリーナ宛の手紙が多い。
 尚、宛先にはどのように書かれているのか、本当に郵便物が日本郵政によって届くのかどうかは不明である。
「ん?」
 そんな中、稲生宛の手紙が届いているのに気づいた。
 それは往復はがき。
「ふーん……」
 それは稲生が卒業した高校、東京中央学園上野高校の同窓会のお知らせだった。
 卒業してからまだ5〜6年ほどしか経っていないが、早くも第1回目の同窓会が行われるようである。
 開催日を見ると、それは7月下旬。
 ちょうど現役生達が夏休みに入る頃である。
 そういえば確かに、終業式の後で卒業生達が同窓会に訪れていたような気がする。
 その日に行われる理由としては、終業式ならば先生達も全員集まっているからだろうということらしい。
「なるほどねぇ……」
 稲生的には顕正会の勧誘に没頭してしまったり、その過程で初恋の人を事故で失ったりと散々な高校時代だったが、顕正会活動から実質離れた3年生からの1年間はまあまあだったと思っている。
 因みに日蓮正宗正証寺へは、大学入学後すぐの御受誡である。

 稲生はマリア宛の手紙を持って行った。
「マリアさん宛の手紙です」
「ありがとう。そこに置いといて」
「はい」
 稲生は指定された机の上にマリアの手紙を置いた。
「マリアさんもマスター(1人前)になってから、手紙の数が増えましたね。『仕事』の依頼ですか?」
「……ではないな。1人前になったことで、より師匠と近しい立場になったってことで、むしろ師匠への取り次ぎ依頼が多くなったってことだよ。……ま、ある意味仕事と言えば仕事か……」
 マリアは自嘲気味に笑った。
 だがすぐに無表情に戻って、
「用向きはそれだけ?」
「あ、はい。……あ、いえ、その……」
「? 何だ?用があるなら早く言って」
 マリアは首を傾げた。
「実は僕にも手紙が届いてまして……」
「それで?……ん?まさか、まだ見習なのに『仕事』の依頼が来たのか?」
「あ、いや!そういうわけじゃありません!」
「はっきり言って!」
「えっと……ですね……あっ!」
 するとマリアの自信作のメイド人形、ミカエラは人形形態でいたのだが、その姿のまま稲生の後ろに回り、パッと稲生が後ろに隠していた往復はがきを奪い取った。
「あっ、ちょっと待って!」
 そしてそれを主人であるマリアの所へ持って行く。
「ただのハガキじゃないか。これが一体……」
 マリアはその中を読んでしまった。
「ドウソウカイ?何だこれは?ケンショー会の親戚か?」
「違います!……僕の卒業した高校の卒業生が集まって……まあ、パーティーをしようという話です」
「いいじゃないか。何で隠す必要がある?」
「いやあ……。僕、まだ見習で、まだまだ修行しないといけないのに、こういう所に行ってる場合じゃないだろうと思いまして」
「まあ、アナスタシア組やポーリン組だったら、妥当な考えだろうな。だけど、うちの師匠はそんなことでいちいち目くじら立てる人じゃないと思うぞ?」
「そうですか?まずはその前に、マリアさんに相談しようと思いまして……」
「どういうパーティーなのかは知らないが、ユウタが行きたいんだったらいいと思う。ハイスクールのOB達が集まって、ただパーティーをするだけなんだろう?」
「そうです」
「それなら別に、私はいいと思う」
「そうですか。良かった……」
「まあ、確かに一応、師匠にも聞いておいた方がいいかもな」
「先生、次はいつ頃来るでしょうか?」
「噂をすれば何とやらってヤツで、今日中に来るんじゃない?」
「そんな簡単に……」

[同日15:00.天候:晴 同場所]

「やほー♪お茶の時間に合わせて来たよ〜♪」
「……簡単に来た」
「ほらね?」
「んー?もしかして、先生の噂してたのかなぁ?」
 イリーナは目を細めたまま、着ていた紺色のローブを脱いだ。
 その下は薄紫色のドレスコートになっている。
「ユウタが師匠に相談したいことがあるらしいですよ」
 と、マリアが言った。
「なぁに?マリア以外に好きな人できちゃった?」
「!!!」
 次の瞬間、マリアのコメカミにビキッと怒筋が立った。
 イリーナと稲生、双方を睨みつける。
「なワケないじゃないですか!何言ってるんですか、先生!」
「……だよねー!ユウタ君に限って、そんなこと無いもんねー」
「当たり前ですよ!」
「というわけで、一件落着ぅ。お茶ちょうだい」
「…………」
 マリアはまだ険しい顔をしながらも、無言でメイド人形達に合図した。
「あ、先生宛の手紙が沢山届いてまして、先生のお部屋に入れておきました」
 と、稲生。
「あー、いつも済まないねぇ。私にとっては、ほとんどダイレクトメールみたいものだから要らないんだけどねぇ……」
「ええっ?」
 そんなことを喋っていると、今度は人間形態になったミカエラが紅茶を持って来た。
 緑色の長い髪をツインテールにしている為、稲生からは『初音ミク』と呼ばれ、それとよく似た人形だから、『ミク人形』とも呼ばれる。
「……それで、ユウタ君は何を相談したいの?」
「あ、はい。実は午前中、こういうハガキが届きまして……」
 ユウタは往復ハガキを差し出した。
「おー!同窓会か〜!いいねぇ!」
「でも僕は修行中の身ですので、そういう所にホイホイ行くのはどうかと思いまして……」
「大丈夫だよ。ユウタ君は普段から真面目にやってるし、素質もある。同窓会に行ったくらいで修行が遅れるほどヤワじゃないってことは、スカウトした私が1番よく知ってるよ」
「……ということは!?」
「人間時代の思い出は大切にね」
「ありがとうございます!」

 稲生は喜んで往復ハガキの返信用の部分にある『出席』に丸を付け、早速同窓会の事務局宛てに送ったのだった。
 ……と、この日はこれで終わったのだが、同窓会が近づくにつれ、段々とイリーナ組の間に不穏な空気が流れて来た。
 それは……。
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本日の雑感 0727

2016-07-27 22:47:00 | 日記
 沖修羅河童氏が追い詰められている。
 自己愛性人格障害者が四方八方手詰まり状態になった場合、どのような行動に出るのか、とても見ものである。
 自らの手で人生を終わらせるようなことは、間違っても無いだろう。
 そこは他人の人生を食い物にすることを生き甲斐にしている人種だ。
 私は“自己愛ウィルス”感染防止の為、観戦に専念するつもりでいる。
 もっとも、御指名あらば顔を出すことはあるかもしれない。

 さて、おかげさまで“私立探偵 愛原学”が完結したわけだが、最初にご説明した通り、元々は高校時代に書いた『おもしろ探偵物語』的な内容がオリジナルである。
 特別読切として御紹介させて頂いた(もっとも、少しリメイクさせて頂いたが)最初の作品が、正にそれである。
 主人公の愛原学がバイオハザード発生中の地方都市で、ガンサバイバーやるなんて話は全く考えだにしなかった。
 そもそも(勝手に押し掛け)助手の高橋正義でさえ、今の私のアイディアで登場させた後付けなのだ。
 生真面目なんだけど、天然ってキャラは私も好きだ。
 “Gynoid Multitype Cindy”のエミリーもそうだし(但し、ストーリーが進むにつれて、彼女も“学習”しているのか天然ぶりは少なくなっている)、“大魔道師の弟子”のポーリン先生もそうかな。
 ま、それだけイジりやすいキャラってことだ。

 いおなずんさんから指摘を受けたことのある、仮面の少女(トイレの花子さんとかリサ・トレヴァーの異名を持った少女)のパンチラシーンについて解説させて頂こう。
 本物のリサ・トレヴァーを見たことのある人は知っているが、本物は何十年もの間、得体の知れないウィルス実験体として14歳のままで成長を止められ、洋館内やその地下空間を彷徨っている。
 全くの人間扱いはされておらず、着ている服もボロボロである。
 何度かプレイしていくうち、私はジルを操作しながらふと、
「あの服の下には、下着を着けているのだろうか?」
 なんてロクでもないことを考えた。
 そういう想像の元にできたのが、仮面の少女である。
 彼女もまた本物のリサ・トレヴァーほどでないにしろ、長年研究所に監禁され、ウィルス投与の実験体にされた。
 日本のアンブレラはアメリカほど酷ではなく、一応貴重な被験者としてそれなりに大事にされていたという設定がある。
 彼女が着ていたというセーラー服のようなデザインの服は比較的きれいなものであり、愛原にチラッと見せた白いショーツも、それなりに大事にされていたという設定を読者の皆様にお伝えする為であった。
 つまり、大事にされていたからこそ、それなりにきれいな服を与えられていた。
 その為、仮面の少女は研究所からの脱走を企てることは無かったというのは単純であろう。
 もしかしたら、何度かは脱走を試みたかもしれない。
 しかし、本物のリサが本気で脱走しようとしていたのに対し、日本のリサは積極的に脱走しようとしていた描写が無いのは何故?という疑問の答えのつもりだった。
 タイラントは日本のリサに対し、まるでホディガードのような態度を取っていたが、実はこれも研究所側の織り込み済みだったのかもしれない。
 同じ化け物からもちやほやされることで、心理的に脱走や暴走、反抗の意思を起こさせない狙いがあったのだろう。
 そんなタイラントも自我や知性を持ち、そんなきっかけを与えてくれたリサを、報恩として爆発する研究所から脱出させることに協力的だった……というのは考え過ぎか。
 アメリカでは勧善懲悪が徹底しているせいか、化け物は化け物であり、それ以上でも以下でもないわけだが、日本では、本当に化け物達は化け物であったのか?という考えがある。
 ここではタイラントとリサ・トレヴァーにしてみたというだけだ。

 高橋正義という名前は、高校時代の同級生から拝借した。
 もっとも、愛原学もだが、名前だけ拝借したのであって、実際の人物像は全く違う。
 高野芽衣子はボーカロイドのMEIKOがモデルなので、名前を特定の個人から拝借したわけではない。

 次回からは“大魔道師の弟子”を再開したいと思う。
 “Gynoid Multitype Cindy”も伏線を回収しきれていないまま途中で止まっている感があるのだが、アイディアがまとまるまで、もう少々お待ち頂きたい。
 元々あれは一話完結とか、二話完結で終わる短編的なものを考えていたのに、アメリカまで行く長編にしたもんだから、ちょっとまあ【お察しください】。
 ま、所詮は素人が書いているものなので……てへてへw
コメント (7)
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