[14:00.市内のテレビスタジオ 敷島孝夫、鏡音リン、MEIKO、KAITO]
「あっ、やっと来た」
「プロデューサー、遅いわよ!」
「ゴメンゴメン!途中で渋滞にハマっちゃって……。すぐに用意してくれ」
ビー!
「!?」
敷島の持っているタブレットが警報を鳴らした。
「! リン、お前……!?」
タブレットには、こう書いてあった。
『警報:鏡音リン 種別:機器異常 内容:水式冷却異常、空気式冷却異常 ……』
「リン!大丈夫!?」
リンがガクッと膝をついた。
口をパクパクさせているが、熱が排出される様子が無い。
「こ、これはマズい。キャンセルを……」
しかし、リンは敷島の服を掴んだ。そして、首を横に振る。
「大丈夫だよ。リン、歌えるよ」
「いや、ダメだろ!警報出てるし、お前……」
その時、スタッフが中に入ってきた。
「すいません、出演者の皆さん、リハーサルしたいと思いますので、スタジオまでお越しください」
「は、はい!」
「ちょっと!どうするの!?」
「取りあえず、リハはMEIKOとKAITOだけで頼む」
「プロデューサー!?」
「あくまで、リンも共演しているという設定は崩さないように」
「は、はい」
「……どうなっても知らないからね。行こう」
「ああ」
2人の成人ボーカロイドは控え室を出て行った。
「排熱できないのか?」
「う、うん。何度もやってるんだけど……」
「ファンは?」
「ファンが壊れてるわけじゃないみたい……。でも……とにかく、リンがいくら指令を送っても動いてくれないの……」
「水冷もか?」
「ラジエーターはちゃんと入ってるのに……」
敷島は冷蔵庫からペットボトルの水を1本出し、冷凍庫から氷の入った袋を出した。
ボーカロイドは精密機械の塊であるからして、熱は大敵だ。だから仕事を1回こなすごとに、人間以上の冷却は欠かせない。
「ふう……」
氷の入った袋を頭に当てると、ジュウと水蒸気が立った。
「このままだとオーバーヒートを起こして、完全に故障する。ある程度、体を冷やしたら電源を切るんだ。それで、急いで研究所に戻ろう。所長も講演会が終わる頃だろうから、ちょうど……」
すると、リンは首を横に振った。
「ヤダ……。リン、歌う……歌いたい……」
「ダメだ!冷却系統が全部故障してる状態で歌ったらどうなるか分かってるだろ!息を止めて歌うようなものだぞ!」
「リンは人間じゃないから……」
「いや、そういうことじゃなくてだな!」
「リンね……レンと一緒に仕事がしたかったの……」
「えっ?」
「でも……今、そんなこと言うのは、ただのワガママだと思うんだ……。今は……レンの方がずっとリンの先を行ってるし……そんなリンが言ったって……。リンが負けてるの……レンより、仕事が少ないってのもあると思うし……」
「それはリンが悪いんじゃない。俺のプロデュースが悪かったんだ。とにかく、今はダメだ!」
「『歌えないボーカロイドはただのガラクタ』」
「!?」
「ルカ姉ちゃんが言ってた言葉……」
「いや、お前の場合は故障さえ直せばまた歌えるから。そんなこと言うなよ!」
その時、またスタッフが入ってきた。
「あ、すいません。プロダクションの方……」
「あ、はい?」
「ディレクターがお呼びです。ちょっとよろしいでしょうか?」
「あ、はい。今行きます。いいか、リン。体が冷えたら、電源切れよ?」
「…………」
敷島が出て行くと、リンは……。
[同時刻 財団仙台事務所 鏡音レン、初音ミク、巡音ルカ、赤月奈津子]
「レン、今日は何だかダンスの動きが遅かったわよ」
赤月がレンに注意した。
「ご、ゴメン」
「リンのことが気になるんだよね?」
ミクはレンの顔を覗き込んだ。
「ま、まさか!そんなこと無いよ!ボクとリンは徹底抗戦中なんだから!」
レンはそう嘯いた。
「赤月先生、ちょっといいですか?」
財団職員に呼び止められる。
「あ、はい。何でしょう?」
「本部からの通達がありまして、来月の……」
「ああ、それなら大学の研究室とも相談しまして……」
少し長い立ち話になりそうだ。
その時、レンにリンからのホットラインが届いた。それは、ここにいるミクやルカも傍受できた。
「う……」
「ほら、かわいいお姉ちゃんが呼んでるわよ」
ルカはニッと笑った。
「そうよ。早く仲直りしなって」
ミクも笑みを浮かべた。
レンはヘッドホン形の右耳を押さえた。
「……な、何だよ?ボク達は今、徹底抗戦中でしょ?」
{「レン……SOS……」}
「!?」
[1時間後。市内のテレビ局]
「幸か不幸かと言うべきか……」
敷島は控え室の椅子に深く座っていた。
ディレクターによると、急に番組の構成が変わってしまい、ボーカロイド達の出番はトリになってしまったそうだ。
そこへ、
「お疲れ様です。陣中見舞いに来ましたよ」
赤月がやってきた。
「おおっ、赤月先生!」
「まあ、レンがどうしても来たいって言ってたんですけどね」
「ほお……。やっと仲直りする気になったか」
「今、どんな状態なんですか?」
「ああ。番組の途中でゲストとして登場する予定だったんですけど、急に構成が変わって、トリ出演ですって」
「その方が目立っていいじゃないですか」
「まあ、そうですけどね」
「あの……!」
その時、レンが言った。
「お願いです。ほんの少しだけでいいんで、リンと2人きりにしてもらえませんか?」
「え?」
「いいけど、出演まであと15分しか無いぞ?」
「分かってます。10分だけでいいんです」
「ちゃんと10分以内に仲直りするのよ?」
「はい」
リン・レンを除く、他のメンバー達は控え室を出て行った。
[10分後。テレビ局の控え室]
「すいませーん!そろそろスタンバイお願いしまーす!」
スタッフが呼びに来た。
「あ、はい!おい、リン・レン。そろそろ……」
敷島は控え室に入った。
そこには衣装を着たリンと、私服姿のレンがいた……。
「そろそろ出番だぞ!」
「はーい!」
「あれ?なっちゃんは?」
「急に研究所から呼び出しが来て、急いで行っちゃったよ。とにかく、早くスタンバイしてくれ」
「はーい」
「じゃ、行ってきます!」
リンはMEIKOやKAITOと一緒に、スタジオのセット裏に向かった。
[スタジオ]
「さあ、最後に特別なゲストを紹介しちゃいましょお!只今、絶好調!人気上昇中のボーカロイド!MEIKO、KAITO、鏡音レンの3人です!どうぞ!」
観客の歓声と共にスタジオに飛び出す3人。
「ボーカロイドの皆さんの新曲と共に、今日はお別れです。早速歌ってもらいましょう!」
歌が始まる。
「凄いねー」
リンがアドリブで、バック宙をやって更に観客席を沸かした。
「リンって、バック宙できたっけ?」
ルカが首を傾げた。
「レンはできるけど……」
[夕方の南里研究所]
「あー、リンや。すぐに修理を始めるから、奥へ来い」
南里が手の骨をパキポキ鳴らしながら言った。
「あっ、ドクター。それ、レンですよ」
ルカがレンを連れて行こうとする南里をたしなめた。
「バカモン。ワシの目は節穴ではない。そうだな?リンや」
「ご、ゴメンなさい……」
「えーっ!?」
他のボーカロイド達は『リン』を見た。
「ご、ゴメン……」
頭部の取り外しができるのは、レンだけである。それなのに、『リン』が頭部を取り外した。
「ボク、レンです」
「ええーっ!?」
「それじゃ、さっきのテレビ……」
「まあ、そんなことだろうとは思ってたけどな……」
敷島は溜め息をついた。
「リンとレン、入れ替わってたんだな?」
「はい」
「うん」
「全く。いつも驚かされるわよ」
MEIKOは呆れたように肩を竦めた。
「し、しかし、確か、入れ替わりは禁止だと赤月博士が……」
KAITOがハッとしたように言った。
「もう!管理が混乱するから、勝手に入れ替わるなって何度言ったら分かるのよ!!」
「まあまあ、赤月君。説教は修理が終わってからにしてくれ。どうも今回は、ただの故障ではなさそうじゃからの」
「ただの故障じゃない?」
すると赤月は咳払いをした。
「どうもね、リンはどこかでウィルスに感染したみたいなのよ」
「ウィルス!?」
「完全に新型のウィルスなんだけど、どうも出所はウィリーみたいね」
「またあいつか!」
[現在 財団仙台支部事務所 敷島孝夫&アリス・フォレスト]
〔「またあいつか!」〕
「ボーカロイド達に搭載したカメラの映像を編集して、1つのドキュメンタリーにしてるわけね。グッド・アイディアだわ」
「そうだろ?その後、レンにも感染してさ。一応、感染はそこで食い止めたけど……」
「じー様が頭抱えていたわ。思ったほど強い症状が出ない上に、感染力も強くできなかったから、こいつは失敗作だって。じー様の想定内だったら、とっくに南里研究所のロボット達は全部廃棄物になっていたはずよ」
「そうか。でも結局、リンがどこで感染したのか分からなかったんだ」
「バージョン2.0とか来なかった?」
「ああ。この映像の前か。エミリーが秒殺したけど。何で今更あんな旧式を送り込んできたのか、首を傾げていたんだけどね」
「マルチタイプには、感染しても発症しないように設定していたの。だから、あの時点でエミリーは感染したけど、発症しなかったわけね。で、発症しないと本人も知らないから、その後で最初に接触したのがリンだったんじゃない?」
「あー……そうかも」
「感染力が弱いから、その後で鏡音レンにも感染したんだろうけど、そこでストップしたわけね」
「じゃあ、今のエミリーは!?」
「何年もずっと同じメモリー使ってるの?」
「あっ……」
「じゃあ、大丈夫」
「そうだったのか……」
「フフン♪もう今度からはアタシがいるから心配無いよ」
「そうか。そうだな……」
「兄ちゃん、ちわーっ!」
「お疲れさまですー」
そこへリンとレンがやってきた。
「おう、お前達。どうした?」
「近くまで来たので、寄っちゃいました」
「そうか」
アリスはリンとレンに冷凍倉庫に閉じ込められたという因縁があるが、今は何とか和解している。何より、
「あの……右手の動きが左手に比べて鈍くなっちゃって……」
レンが恐る恐るといった感じてが言うと、アリスは、
「OK.じゃあ、ちょっと見せて」
ウィリーから自慢の後継者として世に出ただけのことはあり、腕前は財団所属の研究者の中で、既にトップを争うまでになっていた。
エミリーの整備だけのつもりが、ボカロの整備の仕事まで来るようになったという。
「あっ、やっと来た」
「プロデューサー、遅いわよ!」
「ゴメンゴメン!途中で渋滞にハマっちゃって……。すぐに用意してくれ」
ビー!
「!?」
敷島の持っているタブレットが警報を鳴らした。
「! リン、お前……!?」
タブレットには、こう書いてあった。
『警報:鏡音リン 種別:機器異常 内容:水式冷却異常、空気式冷却異常 ……』
「リン!大丈夫!?」
リンがガクッと膝をついた。
口をパクパクさせているが、熱が排出される様子が無い。
「こ、これはマズい。キャンセルを……」
しかし、リンは敷島の服を掴んだ。そして、首を横に振る。
「大丈夫だよ。リン、歌えるよ」
「いや、ダメだろ!警報出てるし、お前……」
その時、スタッフが中に入ってきた。
「すいません、出演者の皆さん、リハーサルしたいと思いますので、スタジオまでお越しください」
「は、はい!」
「ちょっと!どうするの!?」
「取りあえず、リハはMEIKOとKAITOだけで頼む」
「プロデューサー!?」
「あくまで、リンも共演しているという設定は崩さないように」
「は、はい」
「……どうなっても知らないからね。行こう」
「ああ」
2人の成人ボーカロイドは控え室を出て行った。
「排熱できないのか?」
「う、うん。何度もやってるんだけど……」
「ファンは?」
「ファンが壊れてるわけじゃないみたい……。でも……とにかく、リンがいくら指令を送っても動いてくれないの……」
「水冷もか?」
「ラジエーターはちゃんと入ってるのに……」
敷島は冷蔵庫からペットボトルの水を1本出し、冷凍庫から氷の入った袋を出した。
ボーカロイドは精密機械の塊であるからして、熱は大敵だ。だから仕事を1回こなすごとに、人間以上の冷却は欠かせない。
「ふう……」
氷の入った袋を頭に当てると、ジュウと水蒸気が立った。
「このままだとオーバーヒートを起こして、完全に故障する。ある程度、体を冷やしたら電源を切るんだ。それで、急いで研究所に戻ろう。所長も講演会が終わる頃だろうから、ちょうど……」
すると、リンは首を横に振った。
「ヤダ……。リン、歌う……歌いたい……」
「ダメだ!冷却系統が全部故障してる状態で歌ったらどうなるか分かってるだろ!息を止めて歌うようなものだぞ!」
「リンは人間じゃないから……」
「いや、そういうことじゃなくてだな!」
「リンね……レンと一緒に仕事がしたかったの……」
「えっ?」
「でも……今、そんなこと言うのは、ただのワガママだと思うんだ……。今は……レンの方がずっとリンの先を行ってるし……そんなリンが言ったって……。リンが負けてるの……レンより、仕事が少ないってのもあると思うし……」
「それはリンが悪いんじゃない。俺のプロデュースが悪かったんだ。とにかく、今はダメだ!」
「『歌えないボーカロイドはただのガラクタ』」
「!?」
「ルカ姉ちゃんが言ってた言葉……」
「いや、お前の場合は故障さえ直せばまた歌えるから。そんなこと言うなよ!」
その時、またスタッフが入ってきた。
「あ、すいません。プロダクションの方……」
「あ、はい?」
「ディレクターがお呼びです。ちょっとよろしいでしょうか?」
「あ、はい。今行きます。いいか、リン。体が冷えたら、電源切れよ?」
「…………」
敷島が出て行くと、リンは……。
[同時刻 財団仙台事務所 鏡音レン、初音ミク、巡音ルカ、赤月奈津子]
「レン、今日は何だかダンスの動きが遅かったわよ」
赤月がレンに注意した。
「ご、ゴメン」
「リンのことが気になるんだよね?」
ミクはレンの顔を覗き込んだ。
「ま、まさか!そんなこと無いよ!ボクとリンは徹底抗戦中なんだから!」
レンはそう嘯いた。
「赤月先生、ちょっといいですか?」
財団職員に呼び止められる。
「あ、はい。何でしょう?」
「本部からの通達がありまして、来月の……」
「ああ、それなら大学の研究室とも相談しまして……」
少し長い立ち話になりそうだ。
その時、レンにリンからのホットラインが届いた。それは、ここにいるミクやルカも傍受できた。
「う……」
「ほら、かわいいお姉ちゃんが呼んでるわよ」
ルカはニッと笑った。
「そうよ。早く仲直りしなって」
ミクも笑みを浮かべた。
レンはヘッドホン形の右耳を押さえた。
「……な、何だよ?ボク達は今、徹底抗戦中でしょ?」
{「レン……SOS……」}
「!?」
[1時間後。市内のテレビ局]
「幸か不幸かと言うべきか……」
敷島は控え室の椅子に深く座っていた。
ディレクターによると、急に番組の構成が変わってしまい、ボーカロイド達の出番はトリになってしまったそうだ。
そこへ、
「お疲れ様です。陣中見舞いに来ましたよ」
赤月がやってきた。
「おおっ、赤月先生!」
「まあ、レンがどうしても来たいって言ってたんですけどね」
「ほお……。やっと仲直りする気になったか」
「今、どんな状態なんですか?」
「ああ。番組の途中でゲストとして登場する予定だったんですけど、急に構成が変わって、トリ出演ですって」
「その方が目立っていいじゃないですか」
「まあ、そうですけどね」
「あの……!」
その時、レンが言った。
「お願いです。ほんの少しだけでいいんで、リンと2人きりにしてもらえませんか?」
「え?」
「いいけど、出演まであと15分しか無いぞ?」
「分かってます。10分だけでいいんです」
「ちゃんと10分以内に仲直りするのよ?」
「はい」
リン・レンを除く、他のメンバー達は控え室を出て行った。
[10分後。テレビ局の控え室]
「すいませーん!そろそろスタンバイお願いしまーす!」
スタッフが呼びに来た。
「あ、はい!おい、リン・レン。そろそろ……」
敷島は控え室に入った。
そこには衣装を着たリンと、私服姿のレンがいた……。
「そろそろ出番だぞ!」
「はーい!」
「あれ?なっちゃんは?」
「急に研究所から呼び出しが来て、急いで行っちゃったよ。とにかく、早くスタンバイしてくれ」
「はーい」
「じゃ、行ってきます!」
リンはMEIKOやKAITOと一緒に、スタジオのセット裏に向かった。
[スタジオ]
「さあ、最後に特別なゲストを紹介しちゃいましょお!只今、絶好調!人気上昇中のボーカロイド!MEIKO、KAITO、鏡音レンの3人です!どうぞ!」
観客の歓声と共にスタジオに飛び出す3人。
「ボーカロイドの皆さんの新曲と共に、今日はお別れです。早速歌ってもらいましょう!」
歌が始まる。
「凄いねー」
リンがアドリブで、バック宙をやって更に観客席を沸かした。
「リンって、バック宙できたっけ?」
ルカが首を傾げた。
「レンはできるけど……」
[夕方の南里研究所]
「あー、リンや。すぐに修理を始めるから、奥へ来い」
南里が手の骨をパキポキ鳴らしながら言った。
「あっ、ドクター。それ、レンですよ」
ルカがレンを連れて行こうとする南里をたしなめた。
「バカモン。ワシの目は節穴ではない。そうだな?リンや」
「ご、ゴメンなさい……」
「えーっ!?」
他のボーカロイド達は『リン』を見た。
「ご、ゴメン……」
頭部の取り外しができるのは、レンだけである。それなのに、『リン』が頭部を取り外した。
「ボク、レンです」
「ええーっ!?」
「それじゃ、さっきのテレビ……」
「まあ、そんなことだろうとは思ってたけどな……」
敷島は溜め息をついた。
「リンとレン、入れ替わってたんだな?」
「はい」
「うん」
「全く。いつも驚かされるわよ」
MEIKOは呆れたように肩を竦めた。
「し、しかし、確か、入れ替わりは禁止だと赤月博士が……」
KAITOがハッとしたように言った。
「もう!管理が混乱するから、勝手に入れ替わるなって何度言ったら分かるのよ!!」
「まあまあ、赤月君。説教は修理が終わってからにしてくれ。どうも今回は、ただの故障ではなさそうじゃからの」
「ただの故障じゃない?」
すると赤月は咳払いをした。
「どうもね、リンはどこかでウィルスに感染したみたいなのよ」
「ウィルス!?」
「完全に新型のウィルスなんだけど、どうも出所はウィリーみたいね」
「またあいつか!」
[現在 財団仙台支部事務所 敷島孝夫&アリス・フォレスト]
〔「またあいつか!」〕
「ボーカロイド達に搭載したカメラの映像を編集して、1つのドキュメンタリーにしてるわけね。グッド・アイディアだわ」
「そうだろ?その後、レンにも感染してさ。一応、感染はそこで食い止めたけど……」
「じー様が頭抱えていたわ。思ったほど強い症状が出ない上に、感染力も強くできなかったから、こいつは失敗作だって。じー様の想定内だったら、とっくに南里研究所のロボット達は全部廃棄物になっていたはずよ」
「そうか。でも結局、リンがどこで感染したのか分からなかったんだ」
「バージョン2.0とか来なかった?」
「ああ。この映像の前か。エミリーが秒殺したけど。何で今更あんな旧式を送り込んできたのか、首を傾げていたんだけどね」
「マルチタイプには、感染しても発症しないように設定していたの。だから、あの時点でエミリーは感染したけど、発症しなかったわけね。で、発症しないと本人も知らないから、その後で最初に接触したのがリンだったんじゃない?」
「あー……そうかも」
「感染力が弱いから、その後で鏡音レンにも感染したんだろうけど、そこでストップしたわけね」
「じゃあ、今のエミリーは!?」
「何年もずっと同じメモリー使ってるの?」
「あっ……」
「じゃあ、大丈夫」
「そうだったのか……」
「フフン♪もう今度からはアタシがいるから心配無いよ」
「そうか。そうだな……」
「兄ちゃん、ちわーっ!」
「お疲れさまですー」
そこへリンとレンがやってきた。
「おう、お前達。どうした?」
「近くまで来たので、寄っちゃいました」
「そうか」
アリスはリンとレンに冷凍倉庫に閉じ込められたという因縁があるが、今は何とか和解している。何より、
「あの……右手の動きが左手に比べて鈍くなっちゃって……」
レンが恐る恐るといった感じてが言うと、アリスは、
「OK.じゃあ、ちょっと見せて」
ウィリーから自慢の後継者として世に出ただけのことはあり、腕前は財団所属の研究者の中で、既にトップを争うまでになっていた。
エミリーの整備だけのつもりが、ボカロの整備の仕事まで来るようになったという。