報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「クイズマジックアカデミー?」

2019-10-31 19:08:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月26日16:15.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ北西部 アルカディア学園]

 エレーナは妹弟子のリリアンヌを連れて、師匠ポーリンと会談を行った。
 そしてその足で、リリアンヌが中等教育を受けているアルカディア学園に足を運んだ。
 ここは魔道士だけは全寮制の中高一貫校である。
 エレーナの知り合いが教員として何人か潜り込んでいるので、会いに向かったのだが……。

 エレーナ:「警備の為、行く途中途中に魔法の鍵が掛かっているとあいつは言っていたけども……」
 リリアンヌ:「フフフ……ただの鍵ではないです」
 エレーナ:「それくらいは想定内だ。『ガーゴイルにいくら渡せば開けてもらえるか計算せよ』的なものを想定していたんだけど、これは想定外だったな……」

 まず職員室に行く為のドアを開けるのに、クイズに答えなければならない。
 エレーナに出題されたのはこちら。

『デデン♪ ポテンヒットさん原作の“ケンショーレンジャー”シリーズ。ケンショーグリーンは横田理事、それでは現在のケンショーブルーこと、サトー様の現在の役職は?』

 エレーナ:「これ、出題相手間違えてねーか?隊長か何かだろ、どうせ?」

 ピンポンピンポーン♪
 ガチャ。

 リリアンヌ:「フフフ……正解したらチャイムが鳴って、自動でドアが開きます」
 エレーナ:「半開きかよ。まあ、自分で開け閉めすりゃいいだけの話だけどな」

 廊下が続く。

 リリアンヌ:「職員室はあの部屋です。その前にちょっとトイレ……」
 エレーナ:「おー、行ってこい。……いや、私も行こう」

 しかし、トイレのドアにも鍵が掛かっていて……。

『デデン♪ 「事の一念三千」について説明しなさい』

 エレーナ:「知るか!てかぜってー出題相手間違えてんだろ!!」
 リリアンヌ:「フフフ……きっとカントクも答えられません……」

 雲羽:「ギクッ!」( ゚Д゚)

 エレーナ:「パスだ、パス!……って、パスしたらペナルティとかは無いんだろうな?」
 リリアンヌ:「パスのペナルティはありませんが、間違ったらあります」
 エレーナ:「マジか」

『デデン♪ 大石寺境内に現存している創価学会寄進の建造物、総一坊・総ニ坊と大講堂、あと1つは?』

 エレーナ:「稲生氏への問題だろ、これは?!ちょっと待て!稲生氏に連絡してみる!」

 ブブーッ!
 ガコン!(天井に穴が開く)
 ガーン!(ブリキのタライが落ちて来て、エレーナの頭に直撃)

 エレーナ:「くっ……くかっ……!これ……なかなか答えられなくて、漏らすヤツとか出て来るだろ!」
 リリアンヌ:「そういう時は答えられる人を連れて来ます。……てか、先輩、早く答えてくれないと、私が漏れそうです……」
 エレーナ:「くそっ!ここはクイズマジックアカデミーか!別の意味で!」

『デデン♪ 雲羽三部作の中で、原作が1番古い作品は何でしょう?』

 エレーナ:「は?この作品じゃねーの?」

 ブブーッ!
 ブシューッ!(今度はガスが噴射し、エレーナとリリアンヌを包む)

 エレーナ:「ゲホッ、ゲホッ!何だこれ!?……あっ!」

 突然エレーナにやってくる強い尿意。

 エレーナ:「しまった!催尿ガス!」
 リリアンヌ:「ほ……本当に漏れそう……!」

 リリアンヌはスカートの上から股間を押さえてモジモジし始めた。

『デデン♪ 雲羽三部作の主人公達が一同に会した“最終電車”。舞台となったJR線は何?』

 エレーナ:「あー、これは簡単だぜ。稲生氏から聞いた。埼京線だ、埼京線」

 ピンポンピンポーン♪
 ガチャ。

 エレーナ:「開いた!行くぞ、リリィ!」
 リリアンヌ:「フヒッ!はいっ!」

 2人の魔女はようやくトイレに入ることに成功した。
 一瞬、まさか個室に入るのにもクイズを受けなければならないのだろうかと思ったが、さすがにそんなことはなかった。

 エレーナ:「危ねぇ、危ねぇ。私まで漏らすところだったぜ……。おーい、リリィ!間に合ったか?」
 リリアンヌ:「ちょ、ちょっとフライング……」
 エレーナ:「なに!?」
 リリアンヌ:「だ、大丈夫です。ナプキンが……」
 エレーナ:「そ、そうか。(そういやこいつ、『今日は少し多い』とか言ってたな……)それにしても、何ちゅう学校だ。まさか、寮の方もか?」
 リリアンヌ:「はい、そうです」
 エレーナ:「マジかよ……」

 トイレを済ませた後で職員室に行く。
 で、そのドアを開ける際にも開錠の出題があったのだが……。

『デデン♪ 雲羽三部作、唯一の受賞作品は?』

 エレーナ:「学内コンクール最優秀賞の“私立探偵 愛原学”だな」

 ピンポンピンポーン♪

 ハンソン:「やあやあ、よく来てくれたねぇ、エレーナ」
 エレーナ:「ここはクイズマジックアカデミーか!」
 ハンソン:「常に頭を回転させ、咄嗟の閃きを養う目的もあるのよ」
 エレーナ:「必要か、それ?」
 ハンソン:「この世界ではね。やっぱり戦士達から見れば、魔道士は頭の回転の早さも売りなのよ」
 エレーナ:「こっちの世界じゃ、カネの計算が上手けりゃだいたい上手く行く」
 ハンソン:「エレーナらしいわね」
 リリアンヌ:「ハンソン先生、こんにちは……」
 ハンソン:「リリィがエレーナを連れて来たのね?」
 エレーナ:「いや、魔界に連れて来たのは私の方だぜ。ポーリン先生に呼び出されたからな?」
 ハンソン:「またお説教?」
 エレーナ:「うっせ!」
 ハンソン:「ま、ちょっと応接室で話しましょう」
 エレーナ:「リリィの評価についても聞いておきたいな」
 ハンソン:「それは心配無いんだけどね」

 因みにその部屋から出る場合においては、クイズの出題は無い。
 また、教職員にあっては権限のある部屋に出入りする時、カードキーを使用するのでクイズに回答する必要は無い。

『デデン♪ 雲羽三部作の中で、1番古い作品を挙げよ』

 エレーナ:「これの解答が分からなかったんだが?」
 ハンソン:「これは“アンドロイドマスター”シリーズね。何でも作者が10代の時、テレ朝の“メタルヒーロー”シリーズやゲームの“ロックマン”シリーズに感化されて書いたものが始まりとか……」
 エレーナ:「マジかよ、全然似てねーぞ!」

 応接室に通される。

 ハンソン:「コーヒーでいい?」
 エレーナ:「魔王城じゃ紅茶出されたから、よろしくだぜ」

 師匠と説教込みの会談とは違い、こちらは終始和やかに会話が弾んだという。
 尚、アルカディア学園に勤務している魔道士達は、ダンテを囲む会には参加しないそうだ。
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“魔女エレーナの日常” 「アルカディアメトロ1号線」

2019-10-31 15:18:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間10月26日15:00.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ 魔王城新館3F応接室エリア]

 ポーリン:「良いな?商売にばかり精を出していないで、修行も怠ってはならぬぞ?」
 エレーナ:「はい」
 ポーリン:「本来なら、エレーナにもこちらの仕事を手伝ってもらいたいところなのだから」
 エレーナ:「人間界における監視役、精一杯頑張ります……」

 最後は殆ど説教で終わったポーリン組の師弟会談。

 エレーナ:「はーあ。やっと終わったぜ……」
 リリアンヌ:「ポーリン先生、怖いです……」
 エレーナ:「まあ、あれが本来の大魔道師だからな。あれじゃ確かに、ディズニーの世界じゃ悪役にされるのも当然……」

 ガチャと突然、応接室のドアが開く。

 ポーリン:「何か言ったか?」
 エレーナ:「ぴっ!?ななな、何でもありません!」
 ポーリン:「人間界で商売に精を出すのもいいが、その口の悪さは何とかしなよ?」
 エレーナ:「す、すいません!育ちが悪かったもんでぇ……。気をつけまーす」
 ポーリン:「なら良い」

 バタンと再びドアが閉まる。

 エレーナ:「危ねぇ、危ねぇ。いいか、リリィ?こうやって心臓に悪い現れ方をするのも、大魔道師の特徴だぜ。よく覚えておくんだぜ?」
 リリアンヌ:「は、はい!」

 エレーナはローブの中から加熱式タバコを取り出して、それを口に運んだ。

 ガチャ!

 ポーリン:「あとタバコもいい加減にせい」
 エレーナ:「プッ!」(←口にくわえたタバコを吹き出す)

[同日15:30.天候:曇 魔界高速電鉄(アルカディアメトロ)1番街駅・地下鉄ホーム]

 エレーナ:「本当に魔界にいる間は油断できねぇなぁ……」
 リリアンヌ:「……あ、あの、先輩」
 エレーナ:「何だ?」
 リリアンヌ:「ほ、ホテルに帰るんじゃないですか?」
 エレーナ:「せっかく来たんだぜ。ちょっとオマエの学校に寄らせてもらうぜ」

 2人の魔女は魔界高速電鉄が運営する地下鉄のホームで電車を待っていた。
 人間界の新しい地下鉄と違い、駅構内は薄暗く、あんまり良い雰囲気とは言えない。
 高架鉄道とは同じ鉄道会社なのだが、まるで違う鉄道会社が運営しているかのように、全く雰囲気が違うのである。

 リリアンヌ:「は、はい……」
 エレーナ:「それとも、上のトラムで行った方が良かったか?」
 リリアンヌ:「いえっ、地下世界こそ我がパラダーイス……フフフフフ……」

 そこへ何の接近放送も無く、トンネルの向こうから強風と轟音、そしてやかましい警笛の音が近づいて来た。
 入線してきた電車は、開業当時の地下鉄銀座線の1000形に酷似している。
 ホームドアも無く、電車が停車すると魔族の運転士が起立して乗降ドアを開け、乗務員室ドアも開ける。
 地下鉄銀座線時代との大きな違いは、運転室横に取り付けられたサイドミラーなど。
 地上の高架鉄道はツーマン運転だが、地下鉄は基本的にワンマン運転だからだ。
 だからワンマン対応の改造がされている。
 ホームに発車ブザー(旧・営団地下鉄のあれ)が鳴り響くと、運転士はホームの方を見もせず、横のドアスイッチを操作した。
 そして、乗務員室のドアを閉めると、そのままハンドル操作。
 安全最優先もヘッタクレも無い運行だが、外国の、それも旧ソ連系の地下鉄は大体みんなこんな感じ(平壌地下鉄ですら、駅員が一応監視しているというのに)。
 釣り掛け駆動のモーターを響かせて駅を発車した。
 車内は電球の明かりが灯っているが、現在の地下鉄電車から見れば薄暗い。

〔この電車は1号線、デビル・ピーターズ・バーグ行きです。次は33番街、33番街です。中央線各駅停車、軌道線3系統及び33系統はお乗り換えです〕

 この1号線は東京でいうところの丸ノ内線に相当し、33番街は御茶ノ水に相当するようだ。
 ワンマン仕様の為、放送も自動放送が導入され、乗降ドアの上にもLED式の案内表示器が後付けされている。
 電車は6両編成だが、電車の構造上、車内から隣の車両へは行けない。
 これは欧米の地下鉄ではむしろ当たり前なくらい。
 乗務員も魔族が多ければ、利用者も魔族が多い。
 人型のモンスターが多く乗っている。
 オークとかゴブリンとか……。
 運転士は子供のように見えるが、小鬼と呼ばれる、大人になっても小さい鬼である。
 でもちゃんと制服を着て制帽を浅く被っている。
 深く被ると角が引っ掛かるからである。
 電車は時折トンネルの中で警笛を鳴らす。
 これはトンネルの中をモンスターが歩いているからである。
 別に作業員というわけではなく、要はならず者のモンスターである。
 ファンタジー系RPGの洞窟ダンジョンのようなものだ。
 電車に襲い掛かる者は滅多にいないが、さすがにそのまま轢き殺すわけにもいかない。
 しかし、そいつらの為に減速してやる必要も無いということで、取りあえず警笛はよく鳴らすということだ。
 日本の鉄道の『線路内人立入り』の概念が無い鉄道である。

[同日16:00.天候:曇 アルカディアシティ内・アルカディア学園]

 リリアンヌが寮に入って学園生活をしている学校に着いた。
 別にここはホグワーツ魔法学校のような所ではなく、普通に勉強を教えるアカデミーである。
 何でこのようなものができたかというと、新規入門者がそれまでの人間としての生活が悲惨である者が多く、満足な教育を受けていない者が散見されるからである。
 元々あった学校に、ダンテ一門が自分達の門弟の教育を行わせたのが始まりである。
 リリアンヌも初等教育を終えたか否かといった程度だったので、今はここで中等部として教育を受けている。
 エレーナの場合は必要無い(使用している体のおかげ)。
 稲生は大学既卒、マリアも高卒相当なので、やはり必要無い。

 エレーナ:「ちわっ!エレーナっス」
 教員:「あら、エレーナ!?久しぶり〜!」

 尚、教員の一部にダンテ一門から派遣されている者もいる。
 教育能力に長けている者もいるので。
 で、その中にはこのようにエレーナとの知り合いもいると。

 リリアンヌ:(むしろエレーナ先輩のお知り合いの先生に会いに来ただけじゃ……?)
 教員:「ホウキで飛んで来なかったの?」
 エレーナ:「かったるくってー、あんな霧ん中飛べねーぜ。地下鉄で来たぜ。うちのリリィの担任に挨拶に来たんだけど、いるかい?」
 教員:「ハンソンね。多分今、職員室にいると思うわ」
 エレーナ:「リリィの姉弟子として、挨拶くらいしておこうと思ってな」
 リリアンヌ:「はい……」
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“魔女エレーナの日常” 「ポーリン組も準備を始める」

2019-10-29 21:07:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間10月26日13:00.天候:濃霧 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ 魔王城新館]

 受付嬢:「こんにちは。どなたに御用ですか?」
 エレーナ:「ダンテ流魔法道ポーリン組のエレーナです。宮廷魔導師のポーリン先生と御約束があって参りました。妹弟子のリリアンヌも一緒です」
 受付嬢:「かしこまりました。少々お待ちください」

 魔王城新館のロビーはとても広い。
 大企業の本社ビルのロビーもかくやといったほどだ。
 どちらかというと、ホテルのロビーに近いかもしれない。
 しかし魔王城のそれは広さだけであり、とても落ち着いた雰囲気とは言えない。
 何故ならホールは薄暗く、城の上には時計台が突き出ているのだが、その下の振り子の部分が規則正しく、コーンコーンと響いているからだ。
 振り子の錘(おもり)だけで直径何メートルもあり、当然ながら柄の部分も何十メートルとある。
 東京の新宿NSビルのホールには、ギネスにも載っている大型の振り子時計があるのだが、それが柱時計に見えてしまうくらいだ。
 しかしその時計の精度は高性能であり、市民に時を告げる役割は大きいものとなっている。
 このホールでは、かつて旧政府軍と新政府軍の最終決戦が行われた場所で有名だ。
 今でも大時計の振り子の前には、そのことを伝えるモニュメントが設置されている。
 新政府軍の勝利で終わったことが書かれている。

 リリィ:「こ、ここ、ここに来るのは、ひ、ひひ久しぶりです……」

 リリィは緊張しているのか、治りかけた吃音症をぶり返してしまっていた。
 因みに受付嬢は、褐色の肌をした魔族である。
 その容姿は美しいもので、恐らく人間の男をそれで魅了して誑かせた後、取って喰うタイプの魔族だろう。
 同じ女の、しかもさっさと正体を見抜いている魔女のエレーナには何の興味も示さなかったようだが。

 受付嬢:「お待たせしました。それでは、新館北側の応接室999号室へお越しくださいとのことです」
 エレーナ:「ありがとう」

 エレーナはリリアンヌを伴って、言われた部屋に向かった。

 リリィ:「ご、ごごゴーレム……」
 エレーナ:「今はもうほとんど作動しない、ただの石像だな。本科教育で習っただろ?あれの動かし方」
 リリィ:「は、はい……」

 またしばらく進むと……。

 リリアンヌ:「が、ががガーゴイル……」
 エレーナ:「本当は外に設置しておく物なのに、中に置くとは……。トイレの警備でもさせてんのか?」

 魔王城においては、トイレの入口に石像が設置されていることが多々ある。
 チップトイレを兼ねている為、石像に小銭を入れてやらないとドアが開かない。
 無理やりこじ開けようとすると、石像が動いて【お察しください】。
 ガーゴイルやマンティコアなどの動物系だと口の中、先ほどのゴーレムのような人型だと手を差し出しているので、それに渡してやると良い。

 リリアンヌ:「トイレの警備しているの、あれ……」
 エレーナ:「あ、何だありゃ?」

 エレーナが訝し気な顔をしたのは、トイレの入口にいたのはクリスタル製のお地蔵さんで、しかもサングラスを掛けていた。
 手を差し出しているので、やはりチップが欲しいようだ。

 エレーナ:「……何の趣味で作られたお地蔵さんだ?」
 リリアンヌ:「オジゾーザン?」
 エレーナ:「日本では守り神の1つみたいなものだが、稲生氏の前で言うと嫌な顔をするから黙ってておけよ?」
 リリアンヌ:「フヒッ!?ブッディストの敵?」
 エレーナ:「いや、多くは味方なんだが、稲生氏の宗派だけ別」
 リリアンヌ:「???」
 エレーナ:「でも気をつけろよ?稲生氏みたいに魔力の強いヤツだから許されるけど、東アジア魔道団のヤツが酔っ払ってションベン引っ掛けたら大変な目に遭ったらしいから」
 リリアンヌ:「フヒッ!?わ、私達の敵の!?」
 エレーナ:「どこぞの反日コリアン魔女がやったらしいんだが……」
 リリアンヌ:「しかも魔女?!」

 そんな話をしているうちに、ようやく案内された部屋に到着する。
 中に入ると、古風な洋館にあるような重厚の造りの応接室が広がっていた。

 ポーリン:「遅いぞ、2人とも」
 エレーナ:「も、申し訳ありません!」
 リリアンヌ:「も、ももも、申し……」
 ポーリン:「まあ、良い。そこに掛けなさい」
 エレーナ:「はい、失礼します!」
 リリアンヌ:「し、しし、失礼します!」

 ポーリンは老婆の姿をしていた。
 イリーナと違って、若返りの魔法は必要な時にしか使わない。

 ポーリン:「今度のダンテ先生の御来日については聞いている通りだ。イギリスのロンドンを発ち、成田空港へ降り立たれる」
 エレーナ:「となると、アテンド役は……」
 ポーリン:「ベイカー組と決まった。ベイカー組は先だって弟子を2人日本で失ったので、弟子はルーシー・ロックウェル1人だけである」
 エレーナ:「やっぱりそうなりますか」
 ポーリン:「1期生の中では年長クラスのベイカーともあろう者が、油断して弟子を2人失ったことは大きい。私自身は弟子もろとも謹慎処分にすべきと進言したのだが、却下されてしまった」
 エレーナ:「さすが大師匠様の御心は広いですね」
 ポーリン:「先生は『挽回の機会を与える』とのこと。しかし、その広い御心に甘えてはなりませんよ?」
 エレーナ:「はい!」
 リリアンヌ:「は、はい!」
 ポーリン:「日本国内におけるアテンドはイリーナ組が行う。しかも、まだ見習弟子のユウタ・イノウにだ」
 エレーナ:「稲生氏は日本人ですし、しかも趣味が趣味なだけにベストチョイスではあるかと……」
 ポーリン:「ダンテ先生直々の推薦ですから、そこに関して邪魔はしてなりません。しかしエレーナ」
 エレーナ:「な、何でしょう?」
 ポーリン:「あなたも日本を拠点としている以上、ダンテ先生に対してアピールすべき点があるはずです。ユウタ・イノウは所詮日本人。日本人の視点でしか日本という国を見られない。しかし、あなたは違います。在日ウクライナ人として、違う視点で見ることができるはず。イリーナ組に負けてはなりませんよ?イリーナに負けるようなことがあっては、ならないのです……!」
 エレーナ:「分かりました」

 表向きにはイリーナとポーリンのケンカは収束したことになっている。
 ダンテが介入して直々に和解命令が来た以上、それを無視してケンカを続けたら、正直破門まで行ってしまうかもしれない。
 あれ?日蓮正宗でそんなことあったような?
 しかし、心中においてはやはり仲直りしたとは言えないポーリンなのだった。

 エレーナ:(キャシー先輩が独立した理由、何となく分かるような気がする……。負けるわけにはいかないっつってもなー、稲生氏のことだからもうとっくにプラン立ててるだろうし……。全く)

 とはいえストリートチルドレンだった自分を拾って、ここまで育ててくれた恩はあるので、無碍にもできない。

 エレーナ:(さて、どうしたもんか……)
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“大魔道師の弟子” 「JR大糸線」

2019-10-28 15:07:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月26日12:21.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 1日に数本しか無い路線バスに乗り、村の中心部にあるJRの駅までやってくる。
 そしてその足で駅構内に入るが、Suicaではなく、キップを買って中に入る。
 JR大糸線は未だSuicaのエリアではないからだ。
 本線ホームたる1番線には2両編成の電車が停車していて、『ワンマン』の表示がされていた。

 稲生:「良かった。間に合った間に合った」
 マリア:「結構ギリギリだったね。ワープを使わなかったら、乗り遅れてたよ」
 稲生:「そうですね」

 電車に乗り込み、空いているロングシートに座った。
 観光地を走るからか、ボックスシートも導入されているのだが、千鳥配置になっており、結局はロングシート主体と言っても良い。
 稲生達を最後の乗客とすると、運転士が立ち上がって乗務員室ドアの窓から顔を出すと、ドアスイッチを操作した。
 そして、ドアが閉まったのを確認すると、また運転席に座る。
 ガチャッとハンドルを操作する音が静かな車内に聞こえて来た。
 今度はインバータのモーター音。
 ゆっくり走り出すと、ポイントを渡る為に電車が揺れる。
 走り出した時の揺れとポイントの揺れで、マリアの体重が稲生の肩に一瞬のしかかった。
 もちろん、稲生にとっては御褒美である。

〔この電車は大糸線上り、信濃大町、穂高方面、各駅停車の松本行き、ワンマンカーです。【中略】次は、飯森です〕

 稲生:「大糸線に乗るのは久しぶりですね」
 マリア:「勇太の最近のルートは、バスで長野駅に出ることが多い」
 稲生:「そっちの方が楽だからですよ。やっぱり新幹線を使った方が速くて楽です」
 マリア:「まあね」
 稲生:「安く行こうとすれば、バスタ新宿行きの高速バスになりますしね。先生が御一緒で予算が使えるのであれば、新幹線に乗った方がいいです」
 マリア:「うん」

 しかし何故か長野ルートを使いたがる稲生。
 白馬なら大糸線の北の終点、糸魚川まで行っても北陸新幹線には乗れる。
 しかし、何故か稲生はそのルートを使いたがらない。
 恐らく、南小谷駅でJRが分岐する為、強制的に乗り換えをさせられることとなり、それが煩わしいのだろう。
 一人旅やマリアとの二人旅ならまだ何とかなるが、新幹線ルートを使えるイリーナと一緒の場合、そうもいかない。
 その為、今では大糸線を使うのは大町市に用があるか、松本市に用がある時くらいしか利用しなくなってしまった。
 今日は前者である。
 やはり『村』よりは『市』の方が揃っている。

 稲生:「昔は211系も走っていましたが、今は無いですね。あの、ロングシートだけしか無い旧型の……」

 現在はその車両、信濃大町駅から南でしか運転されていない。
 ワンマン非対応の為。
 まだ稲生が入門する前、普通の人間としてマリアと会っていた時、乗った大糸線電車は211系だった。
 あれから何年経ったのか……。
 魔道士の怖い所は、自分の見た目が全く変わらない為、周囲の時間の経過が時々分からなくなることである。
 魔道士が未だに魔法だけで生活するのではなく、こうして時間で動くものを利用するのは、そういった時間の感覚を取り戻す為でもあるのだろうか。

 マリア:「イギリスでは、あんまり無いな。こういう横向きのシート。地下鉄とかなら当たり前だけど……」

 ヨーロッパの近郊列車はクロスシート車が基本。
 ロングシート車は地下鉄や路面電車くらいのもの。
 それらでさえクロスシート車も存在するくらいである。

 稲生:「未だに背中合わせのクロスシートとかは慣れないですね。たまに魔界高速電鉄にいたりしますけど……」

 種々雑多の電車が走る魔界高速電鉄。
 地下鉄においてもそれは顕著で、開業当時の地下鉄銀座線1000形に酷似した電車と、ニューヨーク地下鉄の旧型電車が一緒に走っているような線区も存在する。

 マリア:「もっとも、私も人間だった頃はイングランドの片田舎に住んでいたわけだけど……」
 稲生:「その時住んでいた家、今でもあります?」
 マリア:「……あると思う。でも、恐らく未だに空き家か、或いはもう誰か人手に渡っているんじゃないかな」
 稲生:「どうしてそう思うんですか?」
 マリア:「私が死ぬ前から、両親は離婚寸前だったからだよ。日本には『子は鎹(かすがい)』っていう諺があるらしいね?私もそのパターンだったことを考えると、私が(人間としては)死んだことで、離婚したと思うよ」
 稲生:「そうですか……」
 マリア:「だから、勇太のご両親があんなに仲がいいのがとても羨ましい」
 稲生:「そこは威吹のおかげなんですよ」
 マリア:「イブキの?」
 稲生:「威吹が来る前はうちも貧乏で、両親も不仲でしたよ。今から思えば信じられないくらい。威吹が幸運をもたらしてくれたんですよ」
 マリア:「妖狐は、ヨーロッパでは『金銭欲・物欲の悪魔』マモンの眷属とされている。そのせいかな?」
 稲生:「稲荷大明神が日本におけるそのような存在であったとするならば、十分に納得行きますね。魔の通力だったみたいで、確かにお金には困らなくなり、それが原因で不仲だった両親の仲も修復しましたが、僕自身は悪い妖怪に狙われるようになりましたから」
 マリア:「そうか」
 稲生:「でも、残念です」
 マリア:「何が?」
 稲生:「僕もマリアさんの御両親に挨拶したかったのに」
 マリア:「どうせ私は、イギリスじゃ死んだことになっているから、別にいいよ」
 稲生:「本当にそうですか?」
 マリア:「何が?」
 稲生:「だってマリアさん、パスポート持ってるでしょ?」
 マリア:「これは師匠のツテで……」
 稲生:「永住者の資格も取られた」
 マリア:「だからこれも師匠が……」
 稲生:「マリアさんの『死体』が見つかっていないのに、死亡扱いですか?」
 マリア:「日本だって、行方不明者が何年も見つからなかったら、死亡扱いされるんだろう?」
 稲生:「北朝鮮に拉致された、ということでもなければ……」
 マリア:「さすがに私はそんなことは無さそうだなぁ……」

[同日12:59.天候:晴 長野県大町市 JR信濃大町駅]

〔まもなく信濃大町、信濃大町です。信濃大町では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。……〕

 白馬駅からおよそ30分ほど電車に揺られ、稲生達は大町市に入った。

 稲生:「みどりの窓口は白馬駅にもあるからいいんですが、他にも必要なものがありますからね」
 マリア:「買い物だったら付き合うよ。もうここまで来たけど」
 稲生:「どうもどうも」

 ドアが開いて電車を降りる。
 改札口は跨線橋を渡らないといけないので、2人で手を繋いで昇って行った。
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“大魔道師の弟子” 「魔女達の舞踏会、前日譚」 2

2019-10-27 12:21:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月26日10:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 イリーナ:「それで、ダンテ先生のお迎えの用意は進んでいるのかしら?」
 稲生:「はい。既に会場は押さえました」
 イリーナ:「御苦労様」
 稲生:「しかし、気になる点が1つあります」
 イリーナ:「なに?」
 稲生:「11月下旬にローマ法王が来日することです。『法王来日前に魔女狩り』が行われる可能性も……」
 イリーナ:「公式には法王以下、魔女狩りは本来否定されているものなんだけど、それは『普通の人間を気に入らないからといって魔女狩りと称して私刑に処すことは禁止』という意味だからね。アタシら本物は別」
 稲生:「で、では……?」
 イリーナ:「勇太君達のところの宗派の人達は、教皇の来日を歓迎するのかしら?」
 稲生:「そりゃしないでしょう。謗法のトップなんですから」
 イリーナ:「それなら心配無さそうね」
 稲生:「少し前までは“慧妙”のアポ無し折伏隊が、他の宗教団体に突撃して行って色々とトラブル……もとい、折伏をしてたくらいで……。確か、その中にキリスト教会も入っていたかと」
 イリーナ:「上出来上出来」
 稲生:「あの、都合良くうちのお寺の人達は先生方の警備はしてくれませんよ?」
 イリーナ:「なーんだ」
 マリア:(横着しやがって、この……)
 稲生:「ローマ法王は広島や長崎に行くようですので、僕達は北の方に行こうかと」
 イリーナ:「それはいいアイディアね」
 稲生:「ルーシーには新幹線以外の電車も体験してもらいます」
 マリア:「ほお?……でも、アナスタシア組が文句言って来そうですね」
 イリーナ:「ナスっちも先生ベッタリのコだから、先生のいらっしゃる前では黙っているはずよ」
 稲生:「なるほど。しかし、凄いですね。『ダンテ先生を囲む会』に全員が参加するわけではないでしょうに、それでも電車1両分は貸切ですよ」
 イリーナ:「そういうものよ。ちゃんとファーストクラスを貸し切ってくれた?」
 稲生:「ええ。といってもグリーン車ですが」
 マリア:「十分でしょう」
 稲生:「それにしてもさすが大師匠様ですね。予算が結構あります」
 イリーナ:「磁力よ。ダンテ先生ほどの御方になれば、お金なんて土石流の如く押し寄せて来るのよ」
 マリア:「どんな例えですか。それにしても勇太のプランを見せてもらいましたが、今回も大師匠様は商業便で来られるんですね。大師匠様ほどの御方なら、世界中どこでもルゥ・ラで一っ飛びのはずですが?」
 イリーナ:「ダンテ先生の教えの1つに、『魔法とは必要不可欠の時に使うものである』というのがあるの」
 マリア:「今回はそのうちに入らないんですか?」
 イリーナ:「多分、マイルが溜まってるんじゃない?ファーストクラス、タダ同然で予約できたとか仰ってたから」
 稲生:「大魔王と御同輩の方なのに、急に人間臭いことを仰いますね」
 マリア:「ローマ法王もファーストクラスか?」
 稲生:「いや、専用機か何かで来るんじゃないんですかね?その辺は僕も分かりませんが……。もしも仮に日如上人猊下様が遠方に出られる際、飛行機をご利用になるとなった場合、ファーストクラスになると思いますよ。日蓮正宗に専用機なんてありませんから」

 専用車は存在します。
 セレブな御信徒さん、ロールスロイスの御供養早よ!

 マリア:「大師匠様に専用機は無いんですね」
 イリーナ:「だから必要無いって。専用機を使うってなるくらいなら、ルゥ・ラ使うから」
 マリア:「あ、なるほど」
 イリーナ:「商業便を使うのは溜まったマイルを解放するのと、そこまで急ぎじゃないからでしょう」

 と、その時、イリーナの水晶球が光った。

 イリーナ:「あ、着信あったわ。ダンテ先生から」
 稲生:「大師匠様からのお言葉が!?」
 イリーナ:「えーと……。『冥界カントリークラブなう』ですって」
 稲生:「水晶球でTwitter!?」

 水晶球には闇に包まれたゴルフコースを大魔王バァルと回るダンテが映っていた。
 キャディは背中にコウモリの翼が生えた魔族か何かであろう。

 イリーナ:「年に2回はバァルの爺さんと一緒にお茶飲みに行くからね。おかげでこの世界は悪魔に攻め込まれず、平和なのよ」
 稲生:「その割には台風が直撃して大変なことになりましたが?」
 イリーナ:「ちょっと待って……。あー、『制御盤壊れました。修理中です』って、バァルの爺さんが困ってるわ」
 稲生:「大魔王はFacebook!?」
 マリア:「『しばらく天災関係は無制御状態なんで、皆さん頑張ってください』って、何て無責任な爺さんだ」
 イリーナ:「ホントよねぇ。本来ならゴルフなんてやってる場合じゃないのに……」
 稲生:「あ、あの、接待先にゴルフ場とか入れた方が良かったですか?僕、ゴルフのことはさっぱり知らないもんで……」
 イリーナ:「別にいいわよ。これだって、バァルの爺さんとの接待ゴルフみたいなものだから」
 マリア:「大魔王の趣味がゴルフなんて、ブッ飛んでますね」
 イリーナ:「ホントよねぇ。どこで興味を持ったのやら……」

[同日12:00.天候:晴 マリアの屋敷西側1F・大食堂]

 イリーナ:「もう一度、街まで行くの?」
 稲生:「はい。『ダンテ先生を囲む会』のプランは概ね出来上がりましたが、今度は僕達の移動手段を確保しないと行けませんので」
 イリーナ:「なるほどね。分かったわ。私のカードを貸してあげるから、それも勇太君に任せるわ」
 稲生:「はい」

 因みに稲生の外出申請を許可したイリーナであったが、住み込みの見習弟子が外出するには脱走防止の為の目付け役を最低1人付けなくてはならないという掟がある。
 見習弟子の仕事の1つに師匠のお使いがあるが、これとて稲生にはマリアの使役人形が1つ付くくらいだ。
 今回はどうするのかというと……。
 マリアがうずうずして、チラッチラッとイリーナを見る。

 イリーナ:「それではダニエラを連れて行きなさい。護衛としても十分だから」( ̄▽ ̄)
 マリア:Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン
 イリーナ:「……というのは冗談で、マリア、一緒について行ってあげなさい」
 マリア:「Yes,sir!」(^_^)/
 稲生:「行きはバスがあるからいいんですが、帰りはもうバスが無いので……」
 マリア:「大丈夫!私が迎えを用意しよう!」
 稲生:「た、助かります」
コメント
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