報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「宴会」

2019-06-29 19:12:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日20:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 市街地内のとある居酒屋]

 稲生がここで思い知らされたのは、如何に自分が酒が弱いかということ。
 それもあるのだが、やはり人種が違うと体の内部構造も違うのではないかと疑わざるを得ない現象を目の当たりにしたのだ。

 マリア:「飲み放題プランにしたのは正解だったと思う」
 稲生:「想定はしていたんですが、先生方の飲みっぷりはそれ以上ですね」
 マリア:「あー、ついていけない。勇太、膝枕して〜」
 稲生:「し、幸せです!」

 勇太がするのではなく、される側。
 ご想像の通り、稲生達は座敷の席にいる。
 一応、個室っぽい造りになっているのだが……。

 ルーシー:「勇太、私も〜」
 マリア:「ルーシーはダメ!」
 イリーナ:「あらあら。勇太君モテモテねぇ」
 ベイカー:「うんうん。『仲良き事は美しき哉』、ちゃんと一門の綱領が守れているじゃないの」

 生魚が全体的にダメなマリアに対し、ルーシーは平気でパクパク食べている。
 もっとも、マリアの場合は人間時代に受けた迫害によるトラウマの1つである。

 店員:「お待たせしました。こちら、締めの御飯になります」
 稲生:「はい」

 稲生は白飯を受け取ると、それを鍋の中に入れた。
 因みに刺身の盛り合わせとかもセットで付いた宴会プランで、メインは鍋である。

 稲生:「締めは雑炊です。すいません、僕が『締めは雑炊派』なもので……」

 雲羽:「そして、私の趣向でもある」
 多摩:「オマエの趣向か!」

 イリーナ:「いいんだよ。これも美味しそうねぇ。あ、ワインお代わりしていいかい?」
 ベイカー:「私ももう一杯」
 ルーシー:「先生、飲み過ぎですよぉ」

 それでも殆ど顔が赤くならない師匠2人であった。
 弟子3人のうち2人が酔い潰れかかっているというのに。

[同日21:23.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 JRあおば通駅]

 仙台駅と同じ地区内にある、あおば通駅。
 JR仙石(せんせき)線専用の駅であり、仙台市地下鉄との乗換駅でもある。
 1面2線のホームに停車している電車に乗り込んだ。
 日曜日夜の電車なので、車内は空いている。

〔「21時23分発、仙石線下り、各駅停車の東塩釜行きです。終点の東塩釜まで各駅に停車致します。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 あおば通駅から陸前原ノ町駅までは地下区間を進む仙石線。
 このトンネルの名前を仙台トンネルという。
 仙台市地下鉄も含めれば、地下を走る鉄道線は3つあることになる。

〔まもなく1番線から、電車が発車致します。ご注意ください〕

 シンプルな自動放送の後でオリジナルの発車メロディが流れる。
 昔から仙台駅で使用されていたものだが、今ではこのあおば通駅でしか使用されていない。
 自動放送がシンプルになったのは、仙石東北ラインが開通してから。
 快速が廃止になり、各駅停車しか運転されなくなったことから、誤乗防止の為の放送は必要無いと判断されたか。

〔「ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 最後尾の車両に乗っている為に、車掌の笛の音がよく聞こえて来る。
 首都圏ではもう車掌が笛を吹くことはなくなったが、仙台支社管内ではまだよく使われている。
 半自動ドアなので、最初から開いているドア、閉まっているドアとバラバラだ。
 上野駅みたいに停車中は半自動ドアであっても、発車1分前には自動ドアに戻し、全扉開ということはしない。
 ドアチャイムは、首都圏のJR電車内で時折聞こえて来る運行情報のチャイムとほぼ同じ。
 205系ならではのエアの音がして、景気よくドアが閉まる。
 これもいずれはインドネシアのジャカルタに売られる運命なのだろうか。

〔「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。21時23分発、仙石線下り、各駅停車の東塩釜行きです。まもなく仙台、仙台です。お出口は、右側です」〕

 発車するとポイントを渡る関係でそんなに加速はしない。
 だが、同じ地区内にあるだけに、駅間距離はとても短い。
 その距離、たったの500メートル。
 これはJR山手線(京浜東北線)の日暮里〜西日暮里に相当する。
 上野〜御徒町の600メートルよりも短い。
 西日暮里駅も東京メトロ千代田線との乗り換えの為に造られた駅だそうだが、あおば通駅もまた地下鉄との乗り換えの為に造られた駅なのである。

 仙台駅で停車すると、さすがにここからはドカドカと一気に乗客が増える。
 で、壮大な発車メロディはあおば通に譲っていることもあり、仙台駅の仙石線ホームだけはシンプルな発車ベルである。

〔10番線から、電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ここでも車掌の笛の音が地下ホームによく響く。
 さすがにここでは全車両のドアが開いたらしく、ここだけ首都圏の駅のようだ。
 というより、車内の内装が山手線(または埼京線)時代とそんなに変わらない(吊り革がおにぎり型になったくらい。103系の廃車発生品の流用)。
 だからまるで、埼京線かりんかい線を走っているかのような錯覚に陥るのだ。

〔「本日も仙石線をご利用頂きまして、ありがとうございます。各駅停車の東塩釜行きです。次は榴ヶ岡、榴ヶ岡です。……」〕

 マリア:「飲み過ぎた……。絶対二日酔いになる……」
 稲生:「こんなこともあろうかと、またソルマック買っときましたから」
 マリア:「さすがは勇太。……ちょっとルーシー」
 ルーシー:「なに?」
 マリア:「あんまり勇太に寄り掛からないでっ。勇太が二日酔いの薬、用意してくれたみたいだから」
 ルーシー:「さすがはマリアンナの後輩」
 イリーナ:(両手に花)
 ベイカー:(両手に花)

 因みにあおば通駅発車の21時23分は、東京発新大阪行きの“のぞみ”号、最終列車の時間でもある。

[同日21:40.天候:晴 仙台市宮城野区福室 JR陸前高砂駅]

〔「まもなく陸前高砂、陸前高砂です。お出口は、左側です」〕

 稲生:「ここで降りますよ」

 電車は郊外に向かう度に空いていった。
 平日はどうかは不明だが、日曜日の今日はもう車内はガラガラである。

 稲生:「ほら、マリアさん、頑張って」

 稲生はマリアの手を取って席を立たせた。

 ルーシー:「先生達は往々にしてお酒が強いから、無理について行くと痛い目に遭うって分かるわよ」
 稲生:「僕はビールと低アルコールのカクテルがせいぜいです」

 陸前高砂駅は2面2線の相対式ホーム。
 駅舎が上り線側にある為、跨線橋を渡らなければならない(顕正会本部の最寄り駅、大宮公園駅と同じ構造だと思って頂ければ良い)。

 イリーナ:「おや?今日は月がとてもきれいね」
 ベイカー:「昔を思い出すねぇ……」
 イリーナ:「ベイカーさんの昔は、私でも分かりません」
 ベイカー:「若いコはいいねぇ……」
 稲生:(先生で若いの!?)
 マリア:(ベイカー先生は師匠の何百歳年上なんだろう?)

 驚きを隠しつつ、自動改札口を出る。

 ベイカー:「おや?ルーシーも買ったのね?」
 ルーシー:「はい。あの2人を見ていて、私も欲しくなりました」
 ベイカー:「イギリスじゃ使えないのよ?」
 ルーシー:「記念品としてでも、です」
 ベイカー:「なるほどね」
 稲生:「それじゃタクシーに乗り換えます。人数が5人なので、2台に分乗して行きます。僕が行き先を伝えておくので、イリーナ組とベイカー組で分けて乗るという形でいいですか?」
 イリーナ:「それが自然だろうね」
 ベイカー:「私達は後から行くから、先導よろしく」
 稲生:「分かりました」

 幸い同じタクシー会社が2台、タクシー乗り場に止まっていたので、稲生は後ろのタクシーに行き先を伝えるだけで良かった。
 イリーナとマリアはリアシートに座り、稲生は助手席に座った。

 稲生:「それじゃ、お願いします」
 運転手:「はい。後ろの車の方と同じですね?」
 稲生:「そうです」
 運転手:「分かりました」

 タクシーは駅前ロータリーを出た。
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“大魔道師の弟子” 「師匠達と合流」

2019-06-27 18:32:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日17:51.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 地下鉄仙台駅→JR仙台駅]

 電車が市街地に向かう度、車内は混んでくる。
 やはり2つの地下鉄が交差する駅での乗り降りは多い。

〔仙台、仙台。出入り口付近の方は、開くドアにご注意ください。日蓮正宗仏眼寺へは南北線へお乗り換えになり、愛宕橋でお降りください〕

 稲生:「ここで降りますよ」
 マリア:「ほら、ルーシー。もうちょっとだから頑張って」
 ルーシー:「うん……」

 ドアチャイムが4回鳴ってドアが開いた。

〔仙台、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 マリア:「勇太、帰りのルートなんだけど、この地下鉄以外のルートって無い?」
 稲生:「あるにはありますよ」

 電車を降りながらマリアが稲生に聞いた。

 稲生:「仙石線回りで帰るルートです。ただ、路線バスには乗れないので、最寄り駅からタクシーに乗ることになると思います」
 マリア:「それは問題無い」
 稲生:「ただ、その仙石線も市街地付近は地下を走ってるんですよ」
 マリア:「マジか……」
 稲生:「もちろん途中から地上には出ますけどね」

 それは地下鉄も同じこと。
 東京メトロでさえ郊外に出ると、地上に出る事が多々ある。

 荒井駅と打って変わって仙台駅の東西線ホームは地下深くにある為、地上に出るまでが大変だ。

 稲生:「やっと地上だ」
 マリア:「地下鉄から新幹線へのアクセスはあまり良くない?」
 稲生:「鉄道会社が違いますからねぇ……」

 地下鉄の駅を出ると、今度はJRの駅構内に入る。
 新幹線ホームは高架上にあるので、またもやエスカレーターを昇って行くことになる。

 稲生:「え、ホームまで行くんですか?」
 マリア:「ルーシーが新幹線見たいんだってさ」
 ルーシー:「せ、先生を直にお迎えする為よ。あなた達はしないの?」
 稲生:「うちの先生は神出鬼没なものですからねぇ……」
 ルーシー:「どこの組も、1期生達は皆そうだから」

 ダンテの直弟子達のことを便宜上、1期生と呼ぶ。
 もちろん全員が同期というわけではなく、その中でも入った時期や年齢によって先輩後輩の差はある。
 齢1000年以上を生きるイリーナだが、それでも1期生達の中ではヒヨっ子なのだそうだ。
 ベイカーの方がイリーナより先に入門しているし、実年齢も上なのでイリーナも一歩引いている。
 ましてやまだ一度も体を交換したことの無いこの3人は、いかに下っ端であるかということ。

 稲生:「じゃあ、入場券買って来ます」
 マリア:「Suicaでは入れない?」
 稲生:「ICカードは入場券の代わりにはなれないんです」
 マリア:「そうなのか」
 ルーシー:「私もここでSuica、記念に買おうかな」
 稲生:「もしもルーシーさんがまた来日してくれるなら、その時の方がいいかもしれませんよ?」
 ルーシー:「どうして?」

 稲生は新幹線改札口のある3階に移動すると、そこの“みどりの窓口”に寄ってみた。

 稲生:「今年の9月から、訪日外国人向けに『Welcome Suica』って売るみたいです」

 デポジットを取らない為、記念に持ち替える際、その払い戻しをする必要が無い。
 但し、チャージした分の払い戻しは不可。

 ルーシー:「分かったわ。今度来た時にはそれを買う。今は勇太やマリアンナの持っているヤツが欲しい」
 稲生:「マジですか」
 ルーシー:「マリアンナはその『Welcome Suica』は買わないの?」
 マリア:「いや、私はルーシーみたいな観光ビザ入国じゃなく、永住者だから」

 マリアは自分のパスポートに貼られた永住者のシールを見せた。
 多分これはイリーナが裏から手を回したものであろうが、因みにイリーナに関しては稲生はパスポートを見たことがない。
 持っているとしたら当然ロシアのパスポートになるだろうが、そもそも齢1000年も生きている彼女に国籍が必要なのかというのはある。
 頼めば教えてくれるだろうが、いつも忘れてしまっている。
 マリアを永住者にさせたのは、イリーナとしては“魔の者”との戦いが長期化することを既に予知していたことに他ならない。
 普通の観光ビザや就労ビザの間に対処できるものではないということだろう。
 そしてそれは当たっている。

 マリア:「今更必要無いよ。白馬村じゃそもそも使えないし」
 ルーシー:「……そうか」
 稲生:「首都圏に行けば向こうの私鉄が出しているPasmoとかあるけどね」

 因みに稲生はそれも持っている。
 学生時代は自宅から大宮駅まで地元の路線バスに乗っており、それ用に購入したものだ(一時期、通学定期でバスに乗っていた)。

 ルーシー:「私はここで買うわ」
 稲生:「了解です」

 尚、仙台駅から鈍行乗り継いで首都圏エリアに行き、そこでSuicaで改札口を出ることはできないので注意。

 みどりの窓口に行き、ルーシーは有人窓口でSuicaを購入した。
 稲生はその間、3人分の入場券を買って来る。
 因みにPasmoには興味を示さなかったもよう。
 新幹線以外の鉄道には興味が無い上、地下鉄にはトラウマがあるからだろう。

 ルーシー:「私もチャージした方がいい?」
 稲生:「そりゃもう。先生達と合流した後、JRに乗りますから」
 マリア:「師匠達はそんなもの持ってないから、師匠達の分のキップも買っといた方がいいと思うよ?」
 稲生:「それもそうですね。まあ、それはあおば通駅で買います」
 マリア:「?」
 稲生:「いや、僕が予約した店、駅の向こう側にあるんですよ」
 マリア:「いい店かもしれないけど、あんまり年寄り達を歩かせちゃダメだぞ」
 稲生:「分かってます」

[同日18:17.天候:晴 JR仙台駅・新幹線ホーム]

〔12番線に、“はやぶさ”63号、新青森行きが10両編成で到着致します。この電車は途中、盛岡、二戸、八戸、終点新青森の順に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車です。尚、全車両指定席です。まもなく12番線に、“はやぶさ”63号、新青森行きが参ります。黄色いブロックまで、お下がりください〕

 東海道新幹線と違い、東北新幹線は自動放送で英語放送も流れる。
 やはりここも、イギリス人達の耳にはアメリカ英語に聞こえるという。
 もっとも、意味はちゃんと通じている。
 そこは同じ英語圏。

 稲生:(先生方はやっぱりグリーン車か。すると、帰りもそうなるかな)

 しばらくして東京方向から、真っ白なヘッドライトを輝かせてE5系“はやぶさ”が下り本線ホームに入線してきた。

〔仙台、仙台です。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 ここで降りる乗客は多く、ぞろぞろと降りて来る。
 そしてその中にイリーナとベイカーの姿があった。
 ローブを羽織って、手に魔法の杖を持っているのですぐに分かる。
 こういう目立つ格好で過激な教会に見つかったりはしないかと冷や冷やするが、2人とも表の世界でも顔が知られているだけに、あえて隠す必要は無いのだろう。

 イリーナ:「出迎えご苦労さん」
 稲生:「お疲れさまです、先生!」

 本来、目上の者には片膝をつく挨拶をすることになっているのだが、稲生はやっぱり日本人式の最敬礼の御辞儀をしてしまっている。
 もっとも、イリーナはそれを注意しない。
 右手を軽く挙げるだけだ。

 イリーナ:「早速、御馳走に預かろうかねぃ。私もベイカーさんもお腹が空いたわ」
 稲生:「はい!向こうの繁華街の方に一席設けてありますので、そこで」
 イリーナ:「さすがね。ベイカーさん、うちには日本人の弟子が1人いるから、日本国内は彼に任せておけば大丈夫よ」
 ベイカー:「それは助かるねぇ」

 イリーナが魔法で30代くらいの見た目を維持しているのに対し、ベイカーは50歳前後の姿になっていた。
 普段はどのくらいの年齢の姿を保つのか、その為にはどのくらい魔力を消費するのか、使用している体や本人の考えによりけりなので、そこは全く統一されていない。
 魔界に拠点を置き、エレーナやリリアンヌの師匠を務めるポーリンは普段、実年齢通りの老婆の姿をしているくらいだ。
 『弟子が若い娘なら、師匠は年寄りで当たり前。何を年齢詐称する必要がある?』という考えによるもの。

 稲生:「それでは参りましょう」
 イリーナ:「あ、ちょっと待った」
 稲生:「はい?」
 イリーナ:「明日にはまた勇太君のお家にお邪魔させて頂くことになるから、今のうちに帰りの新幹線も予約しておきましょう。明日、この町で少し遊んでから帰るでしょ?夜の新幹線にしといて」
 稲生:「はい」
 イリーナ:「夜の新幹線なら何時でも、どんな列車でもいいから」
 稲生:「分かりました」
 イリーナ:「あ、でも私とベイカーさんはファーストクラス……」
 ベイカー:「さっきグランクラスと言ってたわよ?」
 イリーナ:「……は、予約しなくていいから」
 稲生:「かしこまりました」

 最上級の席は総師範たるダンテの席とされ、いかに大魔道師と言えども、弟子の身分でそのような席に座るわけにはいかないという考えだ。
 但し、そのダンテに付き人として乗る場合は例外である。
 だから航空機でも、彼女らは絶対にファーストクラスには乗らない。
 ビジネスクラスに乗るのである。
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“大魔道師の弟子” 「再び市街地へ」

2019-06-26 18:54:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日16:30.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区福室 大江戸温泉物語・女湯

 ルーシー:「こういうのがあったとは……。ネットの情報だけじゃ分からないもんだねぇ……」

 露天風呂に入るマリアとルーシー。

 マリア:「私の体の傷痕を勇太が気遣ってくれて、『それなら温泉です!』と、こういう所に連れて行ってくれたのが始まりなんだ」
 ルーシー:「なるほど。これなら傷痕も治りそうなものだ」

 その温泉の成分にもよる。

 マリア:「師匠がね、『それだけじゃなく、精神の傷も治さないとダメ』と言ってたんだ。逆に、精神の傷を治してからでないといくら温泉に浸かっても意味が無いみたい」
 ルーシー:「ゼルダもロザリーも死んじゃって、一体どうすれば……」
 マリア:「(師匠が言うには、『女の悦びを知ること』なんて言ってたけど、多分今のルーシーじゃ……)大丈夫、きっと何とかなるって。また新しい後輩が入ってくればいいのよ」
 ルーシー:「それがいつになるか分からないから……」
 マリア:「まあまあ。それじゃ、そろそろ上がろうかな」
 ルーシー:「待って。まだ100まで数えてない」
 マリア:「えー?うるさいなー」

 100まで数えた2人。
 白い肌が温浴効果によって赤くなっている。

 ルーシー:「せっかくゆっくりしたと思うのに、パジャマじゃなく、また普通の服を着ないとダメって面倒くさいね」
 マリア:「しょうがない。師匠達を迎えに行かなきゃいけないんだから。ていうか、またあの地下鉄に乗ることになると思うけど大丈夫?」
 ルーシー:「えっと……。先生をお迎えに行く為だから、負けていられない」
 マリア:「そう。せめて帰りは別のルートを使えないか、勇太に聞いてみるよ」

 雲羽百三:「はい、OK!」
 多摩準急:「次は『稲生勇太と合流し、鶴巻バス停から宮城交通に乗るシーン』行こう!」
 ケンショーグリーン:「ハァハァ……!か、カントク……!わ、私の登場シーンは無いのですか!?」
 雲羽:「あぁ?」
 グリーン:「私のエロカッコ良さは、きっとこの作品に華を……嗚呼」
 多摩:「女湯のシーンに出てぇだけだろが」
 雲羽:「トチロ〜さんから出演禁止令出たんだからしょうがないだろ」
 多摩:「オマエはブルーと同じく、あそこのパチ屋にでも行ってろ」
 AD:「それじゃあ、次のシーン行きまーす!」
 グリーン:「嗚呼!そんな御無体な……!」
 雲羽:「どっか行け早く!“慧妙”のアポ無し折伏隊呼ぶぞ」
 多摩:「そこは報恩坊じゃねーのかよw」

[同日17:13.天候:晴 同地区 ミヤコーバス鶴巻バス停]

 雲羽:「それじゃ行こう」
 AD:「本番いきまーす!5、4、3、2……」

 🎬カチン!

 稲生:「そろそろバスが来ます。また地下鉄に乗る予定ですけど、大丈夫ですか?」
 ルーシー:「トラウマに立ち向かうのもまた修行……」
 マリア:「もう魔道士なんだから、テロくらいじゃ死なないよ。今は師匠の庇護下にあるしね」

 その代わり、受けた傷は体に残ってしまう。
 エレーナがマフィアと戦った時に受けた銃弾の痕とか。
 その為、マリアが人間時代に受けた暴行の痕が消えたことに対し、門内各所から注目を受けたというわけだ。
 それで実際来日したのが、ルーシー達だった。
 実質的には、ほとんど日本観光になってしまっているが。

 稲生:「あのバスだ」

 往路とは違い、別のバス会社のバスがやってきた。
 もっとも、オレンジ色のLED表示機には『荒井駅』と書いてある。
 仙台市営バスは大型車であるが、ミヤコーバスは中型のワンステップバスがやってきた。

〔「荒井駅行きです」〕

 バスに乗り込むと車内には5〜6人ほどの乗客が乗っていた。
 1番後ろの席に並んで座る。
 このミヤコーバス荒井多賀城線は土休日しか運転しない路線バスで、アウトレット仙台港や松島水族館から移転したうみの杜水族館を経由して来た為、その辺りの乗客だろう。
 鶴巻バス停から乗ったのは稲生達だけであった。

〔「発車します。ご注意ください」〕

 バスが走り出す。
 冬ならもう真っ暗という時間帯だが、この時期は6月の夏至に向けてまだまだ外は明るい。

〔次は岡田西町、岡田西町でございます〕

 稲生:「先生が仰るには直接ホテルに行くのではなく、仙台駅周辺で夕食を取りたいということでした」
 マリア:「師匠の奢りか。日本のセレブから相当せしめたかな?」
 ルーシー:「そういうこと言わないの」
 マリア:「店選びは勇太の仕事だよ?」
 稲生:「分かってますよ。日本食レストランをメインに選びました」
 マリア:「まあ、そうなるかな」
 ルーシー:「日本に来てまでローストビーフを食べたいとは思わないでしょ?」
 マリア:「そりゃそうよ。勇太だって、イギリスに行って寿司を食べたいとは思わないでしょ?」
 稲生:「あー、確かに。むしろローストビーフ食べたいです」
 マリア:「そういうものよ」
 稲生:「てか、ロンドンに寿司屋あるんですか?」
 マリア:「あるよ」
 ルーシー:「あるよ」

 探せばあるだろう、そりゃあ……。

[同日17:30.天候:晴 仙台市若林区荒井 仙台市地下鉄荒井駅]

〔本日もミヤコーバスをご利用くださいまして、ありがとうございました。次は終点、荒井駅、荒井駅でございます。……〕

 西日が車内に差し込む頃、バスは荒井駅前に到着した。

 

 稲生:「日曜日だから夕方のラッシュは無いですね。だからバスも地下鉄も空いてる」
 マリア:「混んでるよりはマシだね」

 バスを降りた乗客達は殆どが荒井駅の構内に入って行った。
 もちろん、稲生達もそうする。

 マリア:「大丈夫、ルーシー?」
 ルーシー:「ええ。何とか」

 既に出発ホームに停車している電車。
 まだ各車両には数えるほどの乗客しか乗っていない。

 

 

〔お知らせ致します。この電車は、八木山動物公園行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕
〔「17時37分発、仙台方面、八木山動物公園行きです。まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 始発駅で空いていたので、青い座席に並んで座る。
 ルーシーは片手でマリアの手を掴み、もう片手は座席脇の手すりを掴んでいた。
 因みに最後尾に乗っているのだが、それは1番テロに遭いにくい車両だからだ。
 2005年に起きたロンドンの地下鉄テロでも、爆破されたのは先頭車やそこから2両目である。
 日本の地下鉄サリン事件でも、最後尾は直接やられることはなかった。
 もっとも、この東西線はたったの4両編成なので、あまり変わらないかもしれない。
 え?東京メトロの支線は3両編成だって?
 支線はそもそもテロの対象にはならない(利用者が少なく、被害が大きくならない為。オウムやイスラム過激派でさえ、支線は眼中に無かった)。

〔2番線から、八木山動物公園行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 発車サイン音が鳴り、車両のドアとホームドアが閉まる。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 利用者の少ない駅で駆け込み乗車は無く、電車はすぐに走り出した。

〔次は六丁の目、六丁の目、サンピア仙台前でございます〕
〔The next stop is Rokuchonome station.〕
〔本日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございます。お客様にお願い致します。……〕

 稲生:「先生達、新幹線で来るみたいですね」
 マリア:「そりゃそうでしょ」
 稲生:「それも“はやぶさ”だ。さすが狙い所が違いますね」
 マリア:「勇太の影響かもな」
 稲生:「ええっ?」
 ルーシー:(“はやぶさ”……?)
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“大魔道師の弟子” 「ルーシーの過去」

2019-06-26 14:00:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日15:30.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区福室 ホテルキャッスルイン仙台]

 マリア:「ちょっ……!ルーシー!?何してんの!?」

 ルーシーが稲生に背中を向けてTシャツを脱ぎ捨てたのと、マリアがトイレから出て来たのは同時だった。
 しかしお構いなしに、今度はブラジャーも取る。
 だが、その時点で普通の女性とは大きな違和感があった。
 それは全身にタトゥーが入っていること。
 最初は変わったタトゥーだなと思った稲生だが、実はそうではないことに気づいた。
 それは火傷の痕。
 それも、全てが十字架の形をしていた。

 ルーシー:「これが私のトラウマ。前はさすがに見せられないけど、前にも同じようにある」
 稲生:( ゚д゚)
 マリア:「いいの?勇太に見せちゃって……」
 ルーシー:「ここまで来たら、もういいでしょ」
 稲生:「な……何ですか、それは?」
 マリア:「ほら、早く服着て」

 マリアはルーシーにブラジャーとTシャツを渡した。
 ルーシーをそれを着けながら話す。

 ルーシー:「私が小さい時から強い魔力を持っていて、それが制御できずに暴走させていたという話はしたでしょ?」
 稲生:「ええ、まあ……」

 稲生の場合は霊力。
 暴走させることはなかったが、常人には見えない幽霊や妖怪の類が見えたせいでそれらから襲撃されることは多々あった。
 極めつけは威吹の封印を解いたことだ。
 江戸時代の巫女が掛けた封印を、ただの中学生だった稲生が触っただけで解けるほどに霊力が強かったのである。
 ルーシーと明暗が分かれたのはその辺り。
 威吹も最初は稲生の霊力を目当てに近づいたものの、結果的には他の妖怪からの攻撃をブロックする役割をしてくれた。
 しかし、ルーシーの前にはそのような者は現れなかった。

 ルーシー:「何度も教会からは悪魔祓いの勧告を受けて、それを何度もやったんだけど結局ダメで……」
 稲生:「ま、そりゃそうでしょうね。あんな外道で何ができますか」

 日蓮大聖人の仏法のみ、力を制限することができる。
 しかし間違ったものは却って暴走を引き起こす。
 顕正会の仏法が正にそうだった。
 妖怪側(威吹を含む)から見れば、株価の急上昇並みに美味しい現象であったが、上げられる方はたまったものじゃないと。
 日蓮正宗に入ってからは安定化したが、威吹にとっては『(´・ω・`)ショボーン』であった。

 ルーシー:「ついには過激な教会に魔女として捕まって、『お前は悪魔の子だ!』と言われて、焼けた十字架を何度も押し付けられたの」
 稲生:「うわ……!これだから外道って怖いんですよね」
 マリア:「正に教会の方が悪魔の所業だ」

 稲生はあくまで『伝統仏教以外の宗教』という意味で外道と言っていたのだが、マリアとしては世間一般的な意味合いの外道(人の道を外れた)という意味で言っている。

 ルーシー:「その神父からは、『必ずや周囲に呪いをもたらすこととなるだろう。一生、地下室から出てはならぬ!』と言われた。けど、私は出た」
 稲生:「ああ、出ていいですよ。何の権限があってそんなこと言ってるんですかね!」
 マリア:「日本人には分からないと思うけど、地域によっては教会の力は絶対的な所があるよ。勇太の所だって、寺の住職の言葉は絶対だろ?」
 稲生:「ま、まあそうですね。(でもそれを過信した結果が、正信会……)」
 ルーシー:「でも出たら、大変なことになったの」
 稲生:「それは、いつの話ですか?」
 ルーシー:「2005年頃……」
 稲生:「ロンドンの地下鉄とバスがいくつも爆弾テロを受けた年ですね。ルーシーさんは、それに巻き込まれたんですね」
 マリア:「何だって!?」

 ルーシーは小さく頷いた。

 ルーシー:「地下鉄で働いていた父を頼って、そこへ向かったの。そしたら……」
 マリア:「テロに巻き込まれたか……」
 ルーシー:「あの神父の言う通りになってしまった……。私が我慢して地下室にいれば、あんなことには……」
 稲生:「いやいや、あれはイスラム過激派のテロでしょう?これだから外道はダメなんですよ」
 マリア:「“魔の者”が神に成り済まして、カルトに陥ったヤツを唆してテロをさせることもある。多分それだろう」
 稲生:「僕、仏教で良かった。仏様は夢に現れることはないからなぁ……」
 マリア:「ルーシーのダディはそれで?」

 ルーシーは小さく頷いた。
 しかしルーシー自身も瀕死の重傷を負い、生死の境をさ迷ったのだが、気がついたら同じロンドンの西、イングランドの片田舎にいた。
 ルーシーを拾ったのが、今の師匠ベイカーだった。

 稲生:「マリアさんと言い、この門流は新弟子入門として死を潜り抜けさせるんですね」
 マリア:「そうすることで、『人間としての人生を終え、魔道士としての人生を始める』という儀式の代わりなんだ。私の時もそうだった」

 もちろん、本当に死を体験するわけではない。
 マリアの場合は飛び降り自殺を図るわけだが、地面に激突する寸前、イリーナに魔法で阻止された。
 当然そこでイリーナが魔法を使わなければ間違いなく死んでいただろう。
 そうすることで、『人間としての人生を終えた』ということにしたわけである。
 ルーシーの場合、病院に運ばれる前にベイカーが魔法で召喚したらしい。
 つまり、病院で治療を受けなければ『人間としての人生を終えた』ということにしたわけだ。

 稲生:「ルーシーさんが地下室や地下鉄にトラウマがあるのはそれだったんですね」

 エレーナやリリィにはそれが無いし、特に後者は暗くてジメジメした所が好きなのでむしろパラダイスなのだが、ルーシーはそれではパラダイスとは絶対に言えないだろう。

 稲生:「僕の場合はそれが無かったですね。それで『新卒採用』なんて言われるんだ」
 マリア:「いや、勇太だってあったよ」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「魔王城決戦の直前、勇太、地獄界に行って戻って来れなかったじゃない!最後はバァルの爺さんが特別に戻してくれたけどさ」
 稲生:「あっ……!」
 マリア:「師匠的にはあれだよ、きっと」

 魔王城決戦では、日本やイギリスのような立憲君主制を掲げる新政府軍と、北朝鮮のような絶対王制(え?北朝鮮は違う?いやいや、実質的にそうだろ)を掲げる旧政府軍の最後の決戦の場になった(大統領制を求める声は無かった)。
 最終的には新政府軍が勝利するわけだが、旧政府(魔界帝国アルカディア)側のリーダーだった大魔王バァルが稲生を地獄界から戻し、自身は大師匠ダンテと共に冥界へと向かった。

 稲生:「あー、なるほど!」
 ルーシー:「実際に地獄まで逝った勇太が1番凄いんじゃないの!?」
 マリア:「今度、勇太に『新卒採用』なんて言いやがったヤツにはそう言ってやる」
 ルーシー:「う、うん。その方がいいよ」

 実は最初、ルーシーも稲生にそう言おうとしていたらしい。
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“大魔道師の弟子” 「目的地に到着」

2019-06-26 10:25:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月19日15:04.天候:晴 宮城県仙台市宮城野区福室 鶴巻バス停→ホテルキャッスルイン仙台]

〔「鶴巻です」〕

 稲生達を乗せた市営バスが県道23号線沿いにあるバス停に停車する。
 片側3車線で、頭上には仙台東部道路という高速道路も通っているような幹線道路である。
 地元では『産業道路』と呼ばれ、日曜日であっても大型トラックの姿が見えないことはない。
 埼玉県さいたま市にも同じ名前の県道が通っているが、規模は【お察しください】。
 恐らく、意味合いが仙台とは違うのだろう。
 ここまで来ると、もう乗客は稲生達しかいない。

 稲生:「あそこですよ、目的地」

 バスを降りた稲生は、目的地を指さして言った。

 マリア:「前来た時と同じだな」
 ルーシー:「もう少し派手に飾ればカジノみたいね」
 稲生:「ま、実際似たようなものなんですが」

 稲生は咳払いして答えた。

 稲生:「それじゃあ行きましょう」

 バス停から歩いて5分くらい歩くと、コロナワールド仙台の敷地内に入る。
 日曜日なので駐車場は満車に近い。

 ルーシー:「ショッピングモールがこの中にある?」
 稲生:「いや、無いですね。あるのは目的の温泉とレストラン、ゲームセンターにパチンコ……あ、作者がパチンコ屋に入ってった。あとはボウリング場があるくらいです」
 ルーシー:「なるほど……」
 稲生:「ホテルは向こうです。先にチェックインして荷物置いて行きましょうよ」
 ルーシー:「そうする」
 マリア:「どうした、ルーシー?」
 ルーシー:「いや……。ヨハネスブルグのショッピングモールみたいなものかなと思ったんだけど、違うみたいね」
 マリア:「南アフリカは行ったんだ」
 ルーシー:「うん」

 イギリス人魔道士の中に、歴史の勉強と称して大英帝国時代の植民地巡りが行われているらしい。
 なので、アフリカにはよく行く。
 香港やインドなどは敵対組織(東アジア魔道団など)が押さえており、危険なので行かない。

 ルーシー:「次はケニアに連れて行ってもらう予定」
 マリア:「……うちの師匠はロシア人だから行かないだろうなぁ」
 ルーシー:「サハリンとかエトロフ島とか……あっ」
 稲生:「あ?何だって!?」(日本語でツッコむ)
 マリア:「マズいことに、新弟子が日本人だから尚更行けないの」
 ルーシー:「……了解」

 ホテルに入る。

 ルーシー:「おっ、エレーナのホテルより広くてきれい」
 マリア:「そりゃそうでしょw」
 稲生:「じゃあ、チェックインしてきます」
 マリア:「あっ、ちょっと待って。師匠からだ」

 マリアはローブの中から水晶球を出した。

 稲生:(あのローブのポケットは魔法的な意味で『四次元ポケット』なんだろうなぁ……)
 マリア:「……えっ、夕方ですか?……分かりました。じゃあ、勇太に伝えておきます。……はい」

 マリアは水晶球の通信を切った。

 マリア:「師匠とベイカー先生、今夕合流したいって」
 稲生:「えっ、東京で?」
 マリア:「いや、この町で。だから、迎えに来て欲しいらしい」
 稲生:「分かりました。じゃあ、そうしましょう。まだ、温泉に入れる時間はありそうですね」
 マリア:「それは大丈夫。で、師匠とベイカー先生の部屋も確保して欲しいらしいんだけど、部屋空いてるかな?」
 稲生:「ツインでいいんですよね?ちょっと聞いてみましょう」
 マリア:「よろしく。上手く行けば、勇太の宿泊代も出してくれるかもよ?」
 稲生:「既に父親から出してもらってるんですけど……」

 そう言いつつ、稲生はフロントに向かった。
 チェックインの前にツインが1つ空いているかどうかだが、さすがに日曜日に宿泊して月曜日に出発する客はあまりいないせいか、それはいとも簡単に確保できた。
 あまりの呆気無さに拍子抜けしたほどだ。
 気を取り直して、今度は自分達のチェックインの手続きをする。

 稲生:「それじゃ、これが鍵です。行きましょう」

 エレベーターで客室フロアに向かう。

 稲生:「温泉は部屋にあるタオルを持って行くだけでいいみたいです。フロントに立ち寄れば、宿泊者専用出入口のカードキーがもらえるようですね」
 マリア:「なるほど。分かった」

 客室フロアで一旦別れ。
 稲生はシングルルームのエリアへ……。

 ルーシー:「ん?勇太とマリアンナが一緒の部屋じゃなかったの?」
 稲生:「え?」
 マリア:「えっ!?……いや、違うよ」
 稲生:「もちろん、ルーシーさんとマリアさんでツインですけど……」
 ルーシー:「あ、そう。もうセ【ぴー】したんだったら、遠慮しなくていいのに……」
 マリア:「さすがに師匠も後で来るのに、それは無いだろう」
 ルーシー:「ふーん……」
 稲生:「まだ先生には報告してないんです」
 ルーシー:「いや、大魔道師相手なら、もうとっくにバレてると思うよ?イリーナ先生のことだから、恐らく目を細めておられるだろうけど、今の今まで何のお咎めも無いんでしょ?だったら大丈夫だと思うな」
 稲生:「ベイカー先生も来られますから……」
 ルーシー:「まあ、それもそうか」
 マリア:「ルーシーの所も厳しいのかい?」
 ルーシー:「真面目にやっていれば何も問題無いよ。マリアンナの所がユル過ぎるだけ」
 マリア:「いや、それは分かるけどさ……」

 取りあえず当初の予定通り、稲生がシングルに泊まることにした。

 稲生:(あー、ビックリした。多分、マリアさんがルーシーさんに喋ったな。ガールズトークはこれだから怖い)

 部屋に入って荷物を置く。

 稲生:「えーと……バスタオルとフェイスタオル。これだけ持って行けばいいのか」

 さすがに寝巻で向かうのは反則か。
 準備をすると、今度はマリア達の部屋に向かった。

 稲生:「稲生です。準備はどうですか?」

 ドアを開けたのはルーシーだった。

 ルーシー:「私は大丈夫。入って」
 稲生:「はい」

 ルーシーは白いTシャツにナイロンの黒いショートパンツに着替えていた。

 ルーシー:「マリアンナは今、トイレに行ってる。その間にちょっと見て欲しいものがあるんだけど?」
 稲生:「あ、はい。何ですか?」

 するとルーシーは稲生に背中を向けると、いきなりTシャツを脱ぎ始めた。

 稲生:「ちょちょっ……!?」
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