手癖が悪い子どもだった。
『坊ちゃん』の完璧過ぎる冒頭「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」をパクッて「親譲りの手癖の悪さで子供の時から万引きばかりしている」と書きたいところだが、いやいや、とーちゃんもかーちゃんも真面目を絵に描いたようなひとであり、ねーちゃんも優秀、頭とこころのネジがひとつ抜けて生まれたのは自分だけ、、、なのである。
そんなヤツが後年、窃盗を取り締まる私服保安員をやることになるとは皮肉な世の中というか。
いや、そうもいえないのかもしれない。
カジノなどによるイカサマを見破るのは、元イカサマ師というじゃないか。
それと同じこと―と自分に都合よく解釈し、話を進めることにする。
男の子は多少、悪いことを経験したほうがいい・・・なんて理解ある成長論? を説く大人も居るけれど、それだって限度がある。
学校帰りに「ほぼ毎日」「なんらかを万引き」するイカレポンチが自分の子どもだったとしたら、そんなこともいえなくなるんじゃないか。
だってそれが、約3年間くらい続いたのだもの。
缶ジュース1本だったとしても、300日だとして900本くらい盗んでいたことになるのだから。
ところで、なぜ万引きっていうの?
いろんな説があるが、自分は「商品を間引いて盗む」の「間引き」説を支持したい。つまり「万」は当て字である。
ことばに罪はないはずだが、「万引き」という響きの軽さが罪悪感を植えつけない、ゆえに少年少女は「気軽にモノを盗る」なんていう批評がある。
「窃盗」と呼べと。
まぁ気持ちは分かるけど、なんだか「万引き」が可哀想でもある。
自画自賛するが、私服保安員としての自分は、ひじょうに成績がよかった。
窃盗犯とそうでないものを見分けるセンスがあったようで、これは結局のところ、かつて自分がそうであったことから「彼ら彼女らの動き・表情」にピンとくるところがある、、、ということなのだろう。
そういう意味では、ワルガキでよかったなぁ、、、なんてね。
さて先日―。
これは窃盗でも特殊なケースだが、電車のなかでスリ現場を目撃した。
馬鹿な男子の発想だと自分でも思うけれど、自分にはヒーロー願望がある。
べつにスーパーマンやバットマンに憧れているわけではないが、ホームから転落した女性を助けるとか、強盗を捕まえるとか、通り魔を取り押さえるとか。
「フリーライターの牧野光永さん」とかいって、笑顔のピース写真が新聞に載ればいいと思っている。
馬鹿だけど、それ自体は悪いことじゃないっしょ?
だから常にアンテナを張り巡らしているのだが、そのときは単に、被害者の女性があまりにも脚美人だったから、見惚れていただけだったんだ。
山手線。
彼女は座席に座って寝ていた。
ミニスカート、その美しいフトモモの上にハンドバッグを置いてパンチラをガード? している感じ。
そんな感じだからハンドバッグを盗られたらすぐに気づきそうだが、新宿駅に到着したとき、二人組のクソガキがそれを「そっと」取ってホームに降りても、まったく無反応だったのである。
あぁ、完全に寝入っちゃっているなと。
そこで自分は彼女の手を引き、ホームへ降りる。
「待っててください。取り返してきますんで」という自分のことばで、彼女はようやくスリに遭ったことに気づいたようだ。
走る走る。
たぶん、ここ10年でいちばん走ったと思う。
彼らはおそらくトイレに駆け込んだはず。
トイレで金目のものを抜いて、ハンドバック自体はそこに置きっ放しにするだろう。
トイレ・・・トイレはどこだ!?
しかし新宿駅は広過ぎる。
ふだんチャリに乗っているものだから、新宿駅に明るくない自分なのだった!!
探しに探して5分、やっとトイレに辿り着いた。
ただ、この時間経過がよかったのか、クソガキ2人組がトイレから出てくるところに「偶然」出くわしたのである。
もう満面の笑みで彼らを出迎えた? よ。
なんだこいつら、高校生じゃねぇか。
身長の低いほうのベルトを掴み、問答無用でさっきのホームまで連れて行く。
(ここ重要! もうひとりは180cmくらいあったからね!!)
「財布だけ確認してみてください」
「あ! 抜かれてる!!」
ほらね。
警察に突き出してやりたいが、こっちも仕事がある。
「いま返してくれたら、きょうは勘弁してやる」というと、唇ガタガタ震わせながら素直に返してくれたのだった。
彼女は26歳の看護師だという。
夜勤明けで疲れていたのかな。
ふぅ、いいことをすると気持ちがいいねぇ。
正義感なんかない。
ただヒーロー願望が強いのと、女子にモテたいだけである。
もうひとつ付け加えるとするならば、過去の悪さに対する自分なりの罪滅ぼしかもしれないよね~。
そんなわけで今回の初体験シリーズは、「私服保安員として、最初に捕まえた窃盗犯」でいってみよう。
自分が私服保安員―分かり易くいうと、万引きGメン―になったのは、29歳の夏だった・・・。
つづく。
※窃盗と映画といえば、『トレインスポッティング』(96)、、、って、この映画の冒頭(トップ画像)は、なぜ追われているのか定かではないが、たぶんなにかを盗んで追われているのだと思う。
この映画の素晴らしさは、冒頭で主人公が馬鹿にしていた「普遍的な幸福」に、彼自身が歩み寄っていくラストにある。
というわけで、ラストシーンを。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
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明日のコラムは・・・
『初体験 リッジモント・ハイ(76)』
『坊ちゃん』の完璧過ぎる冒頭「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている」をパクッて「親譲りの手癖の悪さで子供の時から万引きばかりしている」と書きたいところだが、いやいや、とーちゃんもかーちゃんも真面目を絵に描いたようなひとであり、ねーちゃんも優秀、頭とこころのネジがひとつ抜けて生まれたのは自分だけ、、、なのである。
そんなヤツが後年、窃盗を取り締まる私服保安員をやることになるとは皮肉な世の中というか。
いや、そうもいえないのかもしれない。
カジノなどによるイカサマを見破るのは、元イカサマ師というじゃないか。
それと同じこと―と自分に都合よく解釈し、話を進めることにする。
男の子は多少、悪いことを経験したほうがいい・・・なんて理解ある成長論? を説く大人も居るけれど、それだって限度がある。
学校帰りに「ほぼ毎日」「なんらかを万引き」するイカレポンチが自分の子どもだったとしたら、そんなこともいえなくなるんじゃないか。
だってそれが、約3年間くらい続いたのだもの。
缶ジュース1本だったとしても、300日だとして900本くらい盗んでいたことになるのだから。
ところで、なぜ万引きっていうの?
いろんな説があるが、自分は「商品を間引いて盗む」の「間引き」説を支持したい。つまり「万」は当て字である。
ことばに罪はないはずだが、「万引き」という響きの軽さが罪悪感を植えつけない、ゆえに少年少女は「気軽にモノを盗る」なんていう批評がある。
「窃盗」と呼べと。
まぁ気持ちは分かるけど、なんだか「万引き」が可哀想でもある。
自画自賛するが、私服保安員としての自分は、ひじょうに成績がよかった。
窃盗犯とそうでないものを見分けるセンスがあったようで、これは結局のところ、かつて自分がそうであったことから「彼ら彼女らの動き・表情」にピンとくるところがある、、、ということなのだろう。
そういう意味では、ワルガキでよかったなぁ、、、なんてね。
さて先日―。
これは窃盗でも特殊なケースだが、電車のなかでスリ現場を目撃した。
馬鹿な男子の発想だと自分でも思うけれど、自分にはヒーロー願望がある。
べつにスーパーマンやバットマンに憧れているわけではないが、ホームから転落した女性を助けるとか、強盗を捕まえるとか、通り魔を取り押さえるとか。
「フリーライターの牧野光永さん」とかいって、笑顔のピース写真が新聞に載ればいいと思っている。
馬鹿だけど、それ自体は悪いことじゃないっしょ?
だから常にアンテナを張り巡らしているのだが、そのときは単に、被害者の女性があまりにも脚美人だったから、見惚れていただけだったんだ。
山手線。
彼女は座席に座って寝ていた。
ミニスカート、その美しいフトモモの上にハンドバッグを置いてパンチラをガード? している感じ。
そんな感じだからハンドバッグを盗られたらすぐに気づきそうだが、新宿駅に到着したとき、二人組のクソガキがそれを「そっと」取ってホームに降りても、まったく無反応だったのである。
あぁ、完全に寝入っちゃっているなと。
そこで自分は彼女の手を引き、ホームへ降りる。
「待っててください。取り返してきますんで」という自分のことばで、彼女はようやくスリに遭ったことに気づいたようだ。
走る走る。
たぶん、ここ10年でいちばん走ったと思う。
彼らはおそらくトイレに駆け込んだはず。
トイレで金目のものを抜いて、ハンドバック自体はそこに置きっ放しにするだろう。
トイレ・・・トイレはどこだ!?
しかし新宿駅は広過ぎる。
ふだんチャリに乗っているものだから、新宿駅に明るくない自分なのだった!!
探しに探して5分、やっとトイレに辿り着いた。
ただ、この時間経過がよかったのか、クソガキ2人組がトイレから出てくるところに「偶然」出くわしたのである。
もう満面の笑みで彼らを出迎えた? よ。
なんだこいつら、高校生じゃねぇか。
身長の低いほうのベルトを掴み、問答無用でさっきのホームまで連れて行く。
(ここ重要! もうひとりは180cmくらいあったからね!!)
「財布だけ確認してみてください」
「あ! 抜かれてる!!」
ほらね。
警察に突き出してやりたいが、こっちも仕事がある。
「いま返してくれたら、きょうは勘弁してやる」というと、唇ガタガタ震わせながら素直に返してくれたのだった。
彼女は26歳の看護師だという。
夜勤明けで疲れていたのかな。
ふぅ、いいことをすると気持ちがいいねぇ。
正義感なんかない。
ただヒーロー願望が強いのと、女子にモテたいだけである。
もうひとつ付け加えるとするならば、過去の悪さに対する自分なりの罪滅ぼしかもしれないよね~。
そんなわけで今回の初体験シリーズは、「私服保安員として、最初に捕まえた窃盗犯」でいってみよう。
自分が私服保安員―分かり易くいうと、万引きGメン―になったのは、29歳の夏だった・・・。
つづく。
※窃盗と映画といえば、『トレインスポッティング』(96)、、、って、この映画の冒頭(トップ画像)は、なぜ追われているのか定かではないが、たぶんなにかを盗んで追われているのだと思う。
この映画の素晴らしさは、冒頭で主人公が馬鹿にしていた「普遍的な幸福」に、彼自身が歩み寄っていくラストにある。
というわけで、ラストシーンを。
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