Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

<最終回>『初体験 リッジモント・ハイ「再録」(3)』

2018-10-07 00:10:00 | コラム
「おはつ」アルバイトの話、最終回。

「―はい、『清流』です」

受話器から聞こえてくるこの声だけで、支配人・新名さんであることが分かった。

「すいません、『眠る男』の上映時間を知りたいのですけれど」
「申し訳ありません、『眠る男』は既に上映終了しています」
「あ、そうなんですか」
「はい」
「・・・入りは、、、どうでしたか」
「そうですねぇ、“そこそこ”といったところでしょうか」
「そうですか、ありがとうございました」


結局、自分を名乗ることをせずに電話を切ってしまった。

デートの誘いじゃあるまいし、なにをそんなに緊張しているんだか。
『眠る男』は話すきっかけに過ぎず、ほんとうは、
東京でちゃんと映画の勉強を続けている―という報告と、
タランティーノ元気ですね、もちろんデビューまで知らなかったアンちゃんだけれども、レンタルビデオ店で働きながらシナリオを書き続けた日々・・・って、感慨深くないですか―という質問をしたかったのに。

『眠る男』(96…トップ画像)は、役所広司が主演した群馬県出資の観光PRとはいえない? ちょっと哲学の入った映画である。

ハリウッドがなにかを記念する作品にテレンス・マリックを起用するようなもので、群馬出身だからと小栗康平に制作依頼してしまうところが、なんとも渋い県ではある。

小栗は疑いようもない名匠ではあるが、そういう類の? 映画は向かない。
群馬県民であれば500円で鑑賞出来たということもあり、入りは上々。しかしほとんどの観客はタイトルのごとく「眠って」しまったというのだから、ちょっと質の悪い冗談になってしまった。
いい映画、なのだけれどもね。


この電話の2年後―場末の映画館『清流』は潰れてしまう。
自分はこの話を「ねーちゃんからの手紙」で知ったが、「ひょっとしたら建て替えるのかも、、、」という甘い期待を少しだけ抱いていた。

が、

それから2年を経て、隣の太田市にシネマ・コンプレックスがオープンする。
これを聞いて、あぁ、もうないな・・・と思った。

ほぼ同じ時期に・・・
自分が専門学校を卒業して働き始めた映画館『多摩カリヨンシアター』も閉館。
ついでにいえば、多摩地域で唯一営業していた「ドライブ・イン・シアター」も業績不振により閉鎖。
この90年代末~2000年代はじめこそ、映画業界の変革期であったのだ。


自分の給料は、夏休みでもせいぜい13万円前後。
しかし、その程度の給料でさえ「牧野、申し訳ない。今月は苦しくて、一気には出せない。二ヶ月に分けても構わないか?」といってきた新名さんの恥ずかしそうな顔が忘れられない。

このアルバイト先で「社会に出て、役立つこと」を教えてもらったわけではないけれど、
商売の厳しさと、映画界の裏側を「軽く」覗き見ることは出来た。
だからこそ電話で、感謝のヒトコトくらいはいうべきだったよなぁ、、、とイマサラながらに思うのであった。


一般には人気の高い『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)は、
じつは映画マニアのあいだでは「ベタ過ぎる」という理由から、好きな映画として挙げると馬鹿にされる傾向にあったりする。

そんな阿呆な! と思うが、実際にそうなんだ。
しかし、たとえベタと馬鹿にされようが、同じような経験をしてきた自分にとっては宝物のような映画である。

町・街の映画館の危機―いま、それが都心のミニシアター業界を襲っている。

みなさん、映画館に行きましょう。
映画の日でも女性サービスデーでもいいから、とにかく行ってください。


「おはつ」アルバイトの話、おしまい。


※映画のなかで登場した、印象的な映画館のシーン。

『ケープ・フィアー』より、葉巻をくわえながら大袈裟に笑う悪人デ・ニーロ。
このライターが、ほしくてたまらない。
かかっている映画もまた、スコセッシらしくてよろしい。



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明日のコラムは・・・

『『<新連載>『拝啓、〇〇様』(1)』』
コメント (2)
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