fromイーハトーヴ ーー児童文学(筆名おおぎやなぎちか)&俳句(俳号北柳あぶみ)

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百寿記念・辻りん『百歳句集』 文學の森

2017年11月12日 | 本の紹介
          

 りんさんは、数年前、『薔薇一輪』という初句集を上梓された。そのときすでに九十歳をとうに過ぎていたが、その句のすばらしさに、皆をうならせた。若い時から、「河」で、角川源義さんに師事され、こつこつと俳句をなさっていたが、句集を出すという華々しいことはされていなかった。
 画家であるご主人と、三人の娘さんとのご家庭を第一にされていたのだと思う。
 
 その娘さんの一人が、辻桃子さん。りんさんが家に先生を招いて句会をするとき、人数が足らず、娘である桃子先生にも俳句を作らせ、そこに加えた。桃子先生は、それから俳句を始めたのだから、りんさんは、名実ともに俳人辻桃子の生みの親である。

 何度かお会いしたことがあるが、かくしゃくとしてらして、素晴らしい! 
 百歳となり、なおお元気で、施設では、最年長でありながら誰よりもしゃんとされているというのも、うなずける。


 菊人形イチローの手の生々し
 余生とて青野に風の吹いてをり
 木下闇その濃き方はさけて行く
 生きることしんどくないかなめくぢり
 暖房車このほのめきは恋に似て
 足指の鶏のやうなる更衣
 亡き人のつぎつぎ出て春の夢
 ひとり居は自由で寂し梅の雨
 冬のベンチ忘れたやうに人が居り
 人の世もとどのつまりは牡丹散る
 春立つやなにくそと押す車椅子
 一年もいや一日も夢や冬
 一片の塵も混じえず桜散る
 大きすぎて淋しきものやおでん鍋

 
 いやあ、瑞々しい。老いを見つめる写生の目が鋭く、潔い。何より、詩として確立している。
 りんさんの年齢まで、私はまだまだ。りんさんのように、しなやかに、強く、生きていきたい。