りんさんは、数年前、『薔薇一輪』という初句集を上梓された。そのときすでに九十歳をとうに過ぎていたが、その句のすばらしさに、皆をうならせた。若い時から、「河」で、角川源義さんに師事され、こつこつと俳句をなさっていたが、句集を出すという華々しいことはされていなかった。
画家であるご主人と、三人の娘さんとのご家庭を第一にされていたのだと思う。
その娘さんの一人が、辻桃子さん。りんさんが家に先生を招いて句会をするとき、人数が足らず、娘である桃子先生にも俳句を作らせ、そこに加えた。桃子先生は、それから俳句を始めたのだから、りんさんは、名実ともに俳人辻桃子の生みの親である。
何度かお会いしたことがあるが、かくしゃくとしてらして、素晴らしい!
百歳となり、なおお元気で、施設では、最年長でありながら誰よりもしゃんとされているというのも、うなずける。
菊人形イチローの手の生々し
余生とて青野に風の吹いてをり
木下闇その濃き方はさけて行く
生きることしんどくないかなめくぢり
暖房車このほのめきは恋に似て
足指の鶏のやうなる更衣
亡き人のつぎつぎ出て春の夢
ひとり居は自由で寂し梅の雨
冬のベンチ忘れたやうに人が居り
人の世もとどのつまりは牡丹散る
春立つやなにくそと押す車椅子
一年もいや一日も夢や冬
一片の塵も混じえず桜散る
大きすぎて淋しきものやおでん鍋
いやあ、瑞々しい。老いを見つめる写生の目が鋭く、潔い。何より、詩として確立している。
りんさんの年齢まで、私はまだまだ。りんさんのように、しなやかに、強く、生きていきたい。