「季節風」同人高田由紀子さんのデビュー作です。中学年向け
数年前、この作品が「季節風」に掲載されたとき、完成度高いなあ。と思ったものでした。そうしたら、やはりちゃんと編集者さんの目にとまり、出版になった。さすがです。
舞台は佐渡。高田さんは、佐渡のご出身とのこと。しかも、実際にお寺がご実家で、そのお寺を継いだ弟さんがモデルなのだそうです。
お寺が舞台の児童文学って、そういえば「一休さん」くらいしか、ないかも。
とても新鮮でした。
ゆうすけは、夏休みに「お坊さんになるための勉強会」に出たため、丸刈りになりました。きっと本当にそういう会があるのでしょうね。でも、そこをぐっとがまんして書かず、あえて二学期の話にまとめたところ、なるほどと思いました。(私だったら、そこから書いてしまいそう)
席替えでは窓際の一番後ろになれて喜んだものの、となりには雪女というあだなの美雪。美雪は去年おとうさんを事故で亡くしてから、口数がうんと少なくなっているのでした。ゆうすけは、そんな美雪が気になってしかたがありません。
お寺の仕事をぶつぶつ言いながら手伝うゆうすけの姿がいい。そのお手伝いが、とても具体的だし、お父さんが仏飯をさげて、おにぎりを握ってくれるシーンなど。お寺で育った方だからこそ書けるというもの。
きっとゆうすけのように葛藤しながら、お寺を継いできたのであろう、おじいちゃん、おとうさん。そして、暖かく見守ってくれる檀家の方達。
お寺って、子供にとってはお葬式をする場所、お墓参りをする場所としてあんがい身近なのに、キリスト教のように、お坊さんが檀家の方に道を説くということがありません。でも、生きている人と死んだ人を結んでいる場所がお寺なんだなあと、改めて思いました。
ゆうすけは、漫画家になりたいという夢を持っています。これからもその夢を追ってほしい。そして、漫画が描けるお坊さんになってほしい。そして、たくさんの生きている人と亡くなられた人を結びつけてほしい。
さらりと読める分量なので、多くの子供たちに親しんでもらえる本だと思います。
高田さん、改めておめでとうございました!!
佐渡が舞台の物語、もっともっと読みたいです。
(佐渡、行きたい~。私は秋田市で、日本海に親しんで育ったので、日本海にぽっかりと浮かんでいる佐渡はとても親近感があるのです。でも、考えてみると、行ったことがない)
お祝い会の準備も進んでいます。
ところで、本の中身とは関係ないけれど、タイトルの『まんぷく寺でまってます』。視覚的に「ま」の字が3つ。その中にある「寺」という漢字もどことなく「ま」に似ていてまるまっていて、やさしい感じがしました。たまたまなのか、意図されたのかわかりませんが、好き。