抱きしめたくなるほど愛おしい物語です。
『ぼくとあいつのラストラン』(ポプラ社)で椋鳩十賞を受賞された佐々木ひとみさんの満を持しての2作目。
町のくらしは人が主役だけど、
黒森はそうじゃない。
天気とか、季節のめぐりとか、
古くからのしきたりとか、祭とか、
人は、いろいろなことに
心をくばりながらくらしている。
--何十年も、何百年も昔から。
大昔からとぎれることなく続いている。
目には見えない流れのなかに、
今、この黒森はある。
冒頭にあるこの詩のような一説に(一部抜粋するつもりが半分くらい書いてしまいました)、まず心を奪われました。ぐっと鷲づかみされたような感じ。ここに紹介するにあたり、文章をつなげてみたけれど、やっぱり違う。このゆったりとした行間が必要な言葉の連なりです。縦書きにできないのが、残念でなりません。これが縦書きになっていて、その下には黒森の全景がイラストで描かれているのです。でもこれは、プロローグ、すばらしいのは本編です。
この黒森に住むおじいちゃんちで、鳥追い祭りを手伝うことになった歩(あゆむ)。そこで歩は、ドラゴンと出会います。歩のおじいちゃんは、一度はすたれた鳥追い祭りを復活させました。鳥追い祭りの意味は、鳥を追い払うのではなく、収穫の時期に、鳥を追い払うくらいの豊作でありますようにという願いの祭りです。そしてドラゴンとは……。
ネタバレ禁止なので、これ以上は書きません。ここは佐々木さんの故郷です。故郷をこよなく愛する佐々木さんの熱い思いが生み出した物語です。
一年の始まりである小正月には、新しい年を厳粛に迎えた後、神様がもどられ、人がこれから農作業をし、暮らしていくためのいろいろな行事があります。どんど焼き(左義長、塞の神)、繭玉、成る木責め。このような行事が日本中にあることを、私も俳句をやるようになって学びました。神様と自然に守られているこの日本人の心をなくさないようにしていきたいです。
私にとっては、物語を書く上で、大事なことを、たくさん感じることのできる一冊でもありました。ひとみさん、おめでとうございます。そしてありがとうございました。