高学年以上
『川床にえくぼが三つ』で小学館児童出版文化賞を受賞されたにしがきさんの最新作です。
読み始めてすぐ、山に登りたいと思いました。
少し読み進めて、山に登っておいてよかったと思いました。
私の登山経験は乏しく、片手で済む程度かな。(高尾や御岳山は入っていません。登山したという意識を持てるのは、秋田の山と、岩手の県境)
高校の時(何十年前だって)、大学のとき、子どもが小さいとき(これは秋田市郊外の小さな山)。その時の記憶が、この本を読んでいて蘇るのです。空気、ワタスゲの群生、雲海、苦しさ。人工的なものが何ひとつない空間。
元気な時に、山登りをする。この経験は貴重だと、改めて思いました。それには、一人では無理。経験を積んだ同行者が必要です。
さて、物語では……。
主人公のユウタは、人が苦手で友だちがいません。
夏休み、おじさんの別荘に誘われてついていったところ、それは電気もない山小屋でした。
大学の先生であるおじさんを慕う山男達とそこで過ごす数日間がユウタを変える!
と、あらすじを言えばこんな簡単なこと。でも、あらすじって、物語の魅力を伝えきれるものではないなとつくづく思います。
読んでいると、こっちも山にいるような心持ちになる。これは、にしがきさんの描写力です。描写力があるって、こういうことだなと思います。
ユウタが持つある弱点が、この山では弱点ではなく、ありがたがられることだったことをまじえたエピソードでは、こっちも息が苦しくなりました。
小学館のサイトを見たら、冒頭の試し読みができるようです。
にしがきさんの描写力と物語力をぜひ味わってください。
「季節風」の書評で私はこの作品を取り上げることになっています。
もう一度読んで、頑張ろう。