うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

カズコの介護 あつい醜態

2024年07月29日 | カズコさんの事

酷い暑さが到来してからというもの、

カズコの寝起きが非常に悪い。

 

おはようございます。

毎朝毎朝、実家へ着くなり、カズコは

「わしは、もう出ていくでな。こんなとこにはおれんわ。

お前みたいな頭のおかしいもんとおったら、えらい目こくわ。」

と、ベッドに腕枕で横になった状態で宣言する。

重大宣言のわりに、ポーズが余裕綽々だ。

だったら、まず起きろ!

そう言ってやりたいが、私はカズコをスルーっと受け流し、

そそくさとカズコの朝食の準備をする。

「冷たい麺とあったかい麺、どっち食べる?

とりあえず食べよう?出て行く前に、まず腹ごしらえせんと。」

カズコは、どんなにごねていても、麺なら食べる。

そして、「美味しいね、美味しいよね?」と言って、

無理やりにでも、「これ、いっちゃん美味い」と言わせる頃には、

カズコはすっかり宣言を忘れて笑顔になる。

カズコの朝の不機嫌は、空腹とそれに伴う低血糖に暑さが加わって、

脳がバグっている状態なのだろう。

私は、そう理解している。

しているが、この暑さに、私も時々イラっとしてしまう。

 

昨日は、苛立ちが抑えきれなかった。

「お前なんて捨てたるでな。」

そのカズコの言葉に、鬼太郎の妖怪アンテナみたいに、

私のアンテナが激しく揺れた。

「貴女は昔から、そうやって私を虐めて脅して育ててきたんだよ。」

そう言うと、カズコは

「そりゃお前が、悪いことしたからやろうが。」

と言って、私から目を逸らした。

ああ、覚えてるな。

まだ、昔への後ろめたさをカズコは覚えている。

そう感じた私は、ついキレてしまった。

「私は悪い事なんてしてない。

ただ意地汚く貴女の腹にしがみついてだっけ?

そうやって無理やり生まれてきたのが、悪かったって言うの?

いつも、そう言ってたもんね。

だったら殺せばよかったの。中途半端なことせずに、

どうして殺さなかったの?要らなかったんでしょう?

なら、殺してよ。ほら、今やりなさい!」

そう凄むと、カズコが震えた。

「もういや!わしが死んだらええんやろ?こんなとこ嫌や。」

まるで、駄々っ子みたいになった。

それを見て、私は我に返った。

まともな喧嘩は、さすがにもう難しくなっているボケ具合だ。

「よっしゃ、忘れようね。大丈夫、もう少ししたら忘れられるよ。」

カズコは、このやり取りなんてすぐに忘れる。

3分あれば充分だ。

実際、味噌煮込むうどんが出来上がった頃には、

カズコと私は、

「あっつ!あっつ!」と笑い合ってうどんを食べていた。

 

昔のことも、きっといつか忘れる。

カズコが全部忘れたら、私もすっかり忘れられる気がする。

ああ、認知症バンザイ。

 

そんな昨日も、あの子のことは忘れない。

「マアコ、ご飯だよ。マアコ」

 

貴女は美しいわね。

私の現実は、実に醜い。

目も当てられない醜い自分が、ぶっ倒される美しさよ!

なんか頑張れる気がする~ありがと、マアコ。


甘い朝と、暑い夜

2024年06月28日 | カズコさんの事

今日は一日中、雨だ。

 

おはようございます。

そうなると、かずこが気にかかる。

 

ここ最近、かずこさんは食欲があまり無い様子だ。

雨降りは、特に影響を受ける。

そんな時は、とにかく、かずこが好きそうな物をいくつか作っておく。

「食べられる時に、食べるんだよ?」

と言っても、かずこさんは、もう自分では選択ができない。

こんなに並べられると、困惑してしまう。

選ぶというのは、脳の高等な機能なのだと、かずこを見て気付く。

当然、冷蔵庫の中から、物色することも出来ない。

だから、私のいる朝と晩、いかに栄養を摂らせるかが大事だ。

とはいえ、会社員の朝は忙しい。

「食べたない」とごねるかずこに苛立つ。

だが、そんな時は、

「はい、あーん」

と、口の中に放り込んでやるに限る。

まるで、子猫に餌付けする要領だが、

急いでいる時にこそ、時短できる方法だ。

実に微笑ましい光景に見えるが、かずこはすかさず、

「あっま!」

と言うではないか。

味覚は、まだまだ絶好調だ。ちっくしょーめ!

 

おっと、そろそろ時間だ。

寝苦しい日が続いていますが、

皆さん、体調には気を付けましょう!

特に、猫の居る夜には、気を付けましょう!!

「あっつ!」

でも退かせない嬉しいけど暑くて眠れない、ちっくしょー!


たまには、夜に 

2024年06月05日 | カズコさんの事

昔々のことだ。

かずこの実家に、家族で泊まりに行った日のこと。

 

こんばんは。

年に一度程度しか帰省しなかった訳だから、

幼い私にとっては、3~4度目の慣れない他人の家としか感じなかった。

古い長屋造りのカズコの実家は、

家中、祖父手作りのかぶら寿司の匂いが充満していた。

子供の私にとっては、あの独特な匂いは食欲をそそる匂いでは無かった。

大人たちは、それをつまみに酒を酌み交わし、

私と姉は、ひたすら黙って座っているだけだった。

祖父も祖母も、私達子供らに頻繁に話しかけることもせず、

ただ静かに、かずこやその姉妹のかしましい会話を聞いていた。

 

なんにもない田舎だ。

辺りを見渡せば田んぼ、遠くへ目を移せば山に囲まれていた。

夜になれば、外から虫の音やカエルの鳴き声が響く。

大人たちの笑い声と外の音が混じり合い、

私はまるでトランス状態のようになり、無の境地で座っていた。

はっと我に返った頃、

大人たちは、すっかり酔いつぶれて雑魚寝状態だった。

これこそまさに、トランス後の成れの果てのような有様だ。

その隅に、祖母が布団を敷いて、私達に寝るよう促した。

 

明かりが消えた慣れない部屋は、

摺りガラス越しの月明かりに青く照らされている。

それでもなお、かぶら寿司の匂いが鼻を刺し、虫の音とカエルの鳴き声は一層勢いを増す。

とても眠れる状態じゃない。

私は、そこら中に転がる大人を慎重に跨ぎながら、

おもむろに七輪が置かれた一角を目指した。

「あの座布団でなら眠れるかもしれない。」

祖母が、火の気のない七輪の縁を

肘掛け代わりにして座っていた、へたった座布団だ。

そして実際、私は座布団に座ってみた。

その時、背後から引き戸の擦れる音がした。

ビクっと、そのまま身を硬くしていると、誰かの声が聞こえた。

「眠れんのか?」

その声は、引き戸の擦れる音に似ていた。

恐る恐る振り返ると、そこには祖母が立っていた。

私は、素直に「うん」と頷けなかった。

無断で座布団に座ったことを後ろめたく感じ、

黙ったまま、更に身を硬くした。

祖母は、私の様子を伺おうともせず、音もなく真横に座り、

「ほれ、こっちおいで。」

と言って、私を自身の膝へ抱き寄せた。

まるで赤ん坊を抱くように膝の上に抱え、

私の背中をポンポンと軽く叩きながら、

「よーし、よーし」

と、かすれた声で、ずっと唱え続ける。

大音量だった虫の音やカエルの声は、

祖母の体に耳を塞がれたせいで遮られ、

その代わりに、ポンポンと叩く振動と祖母の声が、

私の体を溶かすように、じんわりと浸透していった。

 

あれから、私は眠ったのだろうか。

それは、不思議と覚えていない。

私の一生で、たった一度の思い出だ。

この思い出は、長い間、私を苦しめ続けた。

私の母親は、あんな事してくれない。

手を繋いで歩いたことさえ無かった。

カズコは、幼い私に触れられることさえ拒絶した。

「お前は堕ろすつもりやった。

なのに、意地汚くわしの腹にしがみついて

生まれてきよったんや。」

そう言ったカズコの目は、

本当に意地汚いものを見る目だった。

だから私は、ずっと私という存在を恥じてきた。

何をしていても後ろめたさが付き纏う。

この思考が、どうやっても消えない。

それなのに、あのたった一度の夜が恋しくて、

私は諦めきれず生きて来てしまった。

あの心地良さを知らずにいたら、

私はこんなに苦しまずに済んだんだ。

 

あれは呪いか・・・

なんの呪いだ?

もう忘れたい。

 

ところが最近、また不意に、あの夜を思い出した。

それは、興奮して取り乱すカズコの背中を撫ぜていた時だった。

私は、カズコに問いかけた。

「カズコさんのお母さんは、

どんな人だった?」

すると、怒りに強張っていたカズコの顔が緩んだ。

「ええ親やったで。

それはそれは優しい親やった。

わしは、どえらい可愛がられたんや。」

カズコは昔から、事あるごとに

在所へ帰りたいと嘆いて酔い潰れていた。

何がそんなに苦しかったのか、

カズコの心の内は私には分からない。

けれどボケてからのカズコは、両親の思い出話をする時、

まるで子供みたいな顔をするようになった。

さっきまで怒り狂っていたくせに、

両親へ思いを馳せる無邪気なカズコの姿を見ていたら、

私の体が溶けるようにじんわり温かくなっていく。

それは、あの夜感じた感覚と似ていた。

そのまま、しばらくカズコの背中を撫ぜていたら、

カズコの記憶に残る母親の姿と、

私の体に残る祖母の感触が、

「繋がった。」

そんな感覚にとらわれた。

 

あれは呪いなんかじゃない。

あれは、この瞬間のために祖母が掛けた祈りだ。

どんなに苦しくても生きてきたカズコと、

どんなに自分を恨んでも生き続けた私への祈りが、

今この瞬間、成就した。

私には、そう思えた。

 

ああ、これでいいのか。

私は、私で良かったんだ。

 

そう納得した時、私の心の中の、

長い間どうしても消せなかった自分への後ろめたさが、

消えていた。

 

さて、我が家は、あやの憂鬱が続いていた。

あや「のんちゃんの次はこいつだわ!」

 

あや「なに?何の用なの?まったくもう!」

 

あや「静かにジーッと見てられると戸惑うわ!」

そそ、どうしていいか、戸惑うよね〜。

 

あや「もう付き合ってらんない」

ほら、あやさん隠れちゃったぞ。

 

おたまは、何か言いなさいよ。

おたま「おばちゃんのスパッツの柄、なんか凄まじい。」

うっせーうっせー。


かずこの家出

2024年05月03日 | カズコさんの事

なんだかんだ、

この連休もかずこさんは絶好調だ。

 

おはようございます。

大いに怒り、大いに笑っている。

デイサービスへ行けば、チップを配りまくっているものだから、

帰宅する頃には、いつも財布がすっからかんだ。

当然、スタッフさんは後でこそっと返して下さる訳だが、

なら財布を持たせなければ、財布に札を入れておかなければと思うが、

それは難しい。

かずこさんは、潤沢な資金を財布に入れて持たせなければ、

ごねてごねて、デイサービスさえ行きたがらなくなるからだ。

そりゃ誰だって、一文無しで遊びになんて、行きたくないだろう。

そこで、私は考えた。

これだ。

実物は、本物より一回り小さいし、触り心地も少し違う。

だけど、これだけを財布に入れておけば、

これが案外、バレないのだ。

 

「これからは、チップはそのまま、貰ってやってください。

こっちとら、100万円の札束を用意してるから大丈夫です。

無くなったら、また800円で100万円買えるしぃ。」

そうスタッフに伝えると、

「それは、ちょっと楽しみです~。」

と、荷が下りた様子だった。

こうして、かずこさんは、さらに気前が良くなるのであった。

時々、私にも

「今日は、小遣いやる。」

と言って、そういう時だけは、なぜか100円玉をくれる。

こっちは本物の100円だけれど、

なんだろう、この複雑な気持ちは?!

 

そんな時、私はふと思う。

かずこさんって、実は全部分かっちゃってるんじゃないか?と。

そしてすぐさま、その思いを撤回する。

それは私の願望でしかない。

かずこさんのアルツハイマーは、ますます進行している。

家出する時の出で立ちも、トンチンカンが絶賛亢進中だ。

家出の理由は、よくわからない。

とにかく、激怒している。

「わし、もう出てくでな。

お前らみたいなバカばっかりと居れん!」

そう言って、家出したが、

半袖に、冬用のパジャマのズボンを履き、真冬用のベストを羽織った。

いつものお財布ポシェットと、緑のファイル。

なぜか、緑のファイルだ。

「かーずこさん、それ何入ってるの?」

と後ろを歩きながら問いかけると、

「わしの全財産に決まっとるやろうが。

お前はダメだ。バカばっかりだ。付いて来るな!」

と激怒している。

全財産と言ったファイルの中身は、10年以上前のレシートや、

ブラシや体温計だ。

ちなみに、被ったお洒落ウィッグも前後逆さまだ。

さらに、ズボンの中はノーパンだ。

「ねえ、かずこさん?パンツ履いとる?」

怒り狂ったかずこへ、斜めから突っ込んでいく。

「履いとるやろが。これが見えんのか?お前はバカだバカ!」

怒り続行中だ。

「いや違う違う。ズボンの中、パンツ履いとる?」

「ん?」

ほら、足が止まった。

「かずこさん、とりあえずパンツ買いに行く?

しまむら行こうか?おっしゃれなパンツ買ってからぁ、

あっ、冷たいアイスコーヒーも飲みたいよねぇ。」

元来、女という生き物は、ショッピングとカフェが好きだ。

「まあ、それくらいなら・・・(ごにょごにょ)」

小さな声で、ごにょごにょと「行ってもええけど」と言った。

こうなれば、かずこの脳内は怒りから喜びへと転がっていく。

怒りのテンションは喜びのテンションとほぼ同じなのだ。

例えば、

猫を撫ぜると、初めはゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいるのに、

一転咬みついてくる時がある。

喜びのテンションのまま、脳内が混乱して怒りや攻撃のテンションに

すり替わった瞬間だ。

かずこは猫と似ている。

というか、哺乳類の脳内は、そんなに違わない気がする。

人は、雑念の中からその場に相応しい一つを選択して表現しているに過ぎない。

脳内は目まぐるしく様々な考え感情が次から次へと湧き上がっているものだ。

「大好きーっ」と言葉にした瞬間、

「いや待てよ?そうでもないかも?」っと疑念が湧いても、

「そうでもないかも」の部分は、空気を読んで言わないだけだ。

認知症の人は、湧いた雑念を素直に全て表してしまうのではないだろうか。

どれを選ぶかの司令塔がぶっ壊れた状態と考えれば、

かずこの妄想も謎の怒りも、未知との遭遇という訳じゃない。

 

「私だって、頭ん中、めちゃくちゃよ。

この川にあんたを突き落としたろかっとも思ってるんだからさ。」

「やりたきゃ、やればええぞ。わし死んでやってもええ!」

かずこは、歩くのをすっかり諦めた様子で、川沿いのブロックに

腰を下ろした。

太陽が傾きかけ、川はその淡い光を写している。

「ああ、なんか、この景色いいね。

ねえ、かずこさん?ねえ、見て。」

私は、じばらく川を眺め、心を落ち着かせた。

そして、さぁそろそろ、ドラマチックな景色で幕引きしようと思いきや、

かずこは川など見向きもせず、

散歩中の男前に、とびっきりの笑顔で挨拶していた。

「ちょっと、かずこさん?」

「お前、小汚い川見て、何が面白いんや?」

そう言って、振り返ったかずこの笑顔は、とびっきりのお転婆娘のようだった。

 

やっぱりこの人、全て分かってるんじゃないか?


花弁と亡霊

2024年04月12日 | カズコさんの事

春の嵐は、

遠くから桜の花弁を運んで来た。

 

おはようございます。

強風から逃げるように足早に社内へ向かう途中、

水溜まりに、小さな花弁が3枚落ちているのを見つけた。

私の勤める会社の近くには、桜の木は見当たらない。

「ああ、川沿いに桜の木があったはずだ。

あんな遠くから、風に飛ばされてきたのか。」

せっかく花が咲いたというのに、風は何を怒っているのやら。

私は、私の髪をもぐしゃぐしゃにする風が憎らしくなって、

見えぬ風を睨んでやろうと目を見開いた。

すると、小さな花弁が、

荒れ狂う風をからかうように、ひらりひらりと舞っているじゃないか。

春の花は、なんとしたたかなのだろう。

 

実家のかずこも、春の嵐だ。

芽時枯れ時は、精神的に不安定になる。

特に認知症を患う人は影響を受けやすい。

爽やかな朝だというのに、起き抜けに、

「お前も、ジジィも、ぶち殺したらぁ。」

と叫びながらトイレへ歩いて行く。

「もう、目がいっちゃってるな。」

さて、今日はどう乗り切るか、あれこれ考えながら仏壇に火を灯す。

 

トイレから戻って来たかずこは、

仏壇に手を合わせる私の背中に罵声の矢を放ち続ける。

「お前もたいがいや。頭がおかしいわ。

こんなバカとなんて、とてもじゃないが一緒におれんわ。

頭おかしい。はよ死ね!」

私は自身を鎮めるために、ひたすら手を合わせ続けながら、

頭の中では、

この合わせた手で、かずこの脳天を思いっきりチョップする妄想が止まらない。

(ああ、殴り飛ばしてぇ。おお神よ、殴り飛ばしてぇわ!)

 

さすがに、手を合わせ続けるのも飽きてきて、

私は意を決して、くるりとかずこへ振り返った。

かずこは、目の周りが紅潮しており、髪はぼさぼさの落ち武者の亡霊みたいだ。

私の脳内は引き続き、チョップしてからキックして突き飛ばす妄想に進んだ。

「お前みたいなもん、半殺しにしたらぁ。」

と、かずこは私を睨んでいる。

私の妄想は、ついにチョップしてキックして突き飛ばした後の

かずこの状態にまで辿り着いた。

落ち武者の亡霊は、いとも簡単に突き飛ばされ、

独りでは立ち上がることも出来ず、ただ驚いた顔で私を見上げている。

「無理だ・・・。」

私は小さな声で呟いた。

「母さん、何をそんなに怒っとるん?」

我に返った私は、妄想の罪滅ぼしをするような気持ちで、

かずこにぴったりくっついて座り、かずこの背中を撫ぜた。

 

私ら母娘は、そもそも、そんなガラじゃない。

優しく励まして背中を撫ぜるような場面は、

テレビドラマに出てくる家族でしか知らない。

母親の背中を撫ぜるなんて、ハッキリ言って恥かしい。

ところが、かずこが認知症になって以来、

私は、歯の浮くような台詞や、

欧米のホームドラマばりの行動を取るようになった。

ボケたかずこには、分かりやすい言動でないと伝わらないからだ。

妄想に苦しみ亡霊と化したかずこの心を振るわせるには、

短くてキャッチーな名台詞と欧米のボディーランゲージなのだ。

コツは、女優になり切り、恥かしがらずにやるのみだ。

だから、父や我が家のおじさんには出来ない。

普通に「ごめんなさい」と言うのさえ憚る。

そんなガラじゃないんだ、私は。

けれど、そんな私でも、一度は言ってみたい言葉が幾つかある。

例えば、「おっしょはん、堪忍しておくれやす」だ。

何のドラマで聴いた台詞か覚えていないが、

我が人生で、この台詞が言える機会は、なかなかやって来ないだろう。

がしかし、

「ぼくは死にましぇん。貴方が好きだから」

これは、ボケた人には使いやすい台詞だ。

今度また、かずこが「死ね!」と言ったら、

耳に髪を掛けながら言ってみようと企んでいる。

 

かずこは、背中を撫ぜられながらも、まだ意味不明なことを話し続ける。

ただ少しずつ、言葉や内容が穏やかになっていくのを感じた。

「死ね!」とはもう言わない。

「わしは、はよ死にたい。」と言う。

私はかずこの背中のみならず頭も撫ぜ続ける。

落ち武者の亡霊は怒りの矢を放った後の顛末かのように

やるせなく萎んでいく。

私は、その肩を抱き寄せ、

最終的には抱きしめて撫ぜくり回していた。

もはや、ホステスに絡む酔っ払いみたいだ。

その時、かずこはようやく、ため息のように言葉を吐き出した。

「苦しいんや」

「うん、苦しいんだね。私も一緒に戦うから。」

その言葉をきっかけに、

私は、かずこのぼさぼさだった髪をちょんまげに整え直した。

 

やれやれと思ったが、心には棘が残る。

私は、まるで嘘つきだ。

一緒に戦うなんて言いながら、そのちょっと前まで、

かずこをチョップしてキックしてやりたいと思ってたくせに。

私は大ウソつきの偽善者だ。

その棘がチクリと刺さる。

そんな時、春の嵐に舞う花弁を見て、

狂風に遊ぶ花弁のようにしたたけであれと思い直した。

 

そんな我が家では、

最近、白湯がブームの白湯男子がいる!

おたま「やっぱり朝イチは白湯だ」

最近、巷でも白湯男子ってのが流行ってるらしいわね。

 

おたま「美容にもいいらしい」

美容ねぇ・・・

 

あやさん?

あや「ふん、朝はどんぶり飯かっくらってなんぼってもんよ!」

マインドが、どんどん、うんこに似て来たな?!

 

※皆様のブログを読み逃げが続いており、申し訳ありません。