うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

蕾と猫

2023年12月13日 | ほくろたれ蔵の事

こんな季節に、

胡蝶蘭が花芽を伸ばしている。

 

おはようございます。

会社で世話をしている3鉢の胡蝶蘭のうちで、

一度も花芽を伸ばしたことのない鉢だ。

弊社のお祝い事で頂いたのは9年前だったろうか。

あれ以来、3株をそれぞれの鉢に分けて世話を続けている。

そのうちの2鉢は何度か花を咲かせて来た。

とはいえ、一度も花を咲かせない鉢を残念に思ったことは無い。

花芽を出す2鉢は、それはそれで手が掛かるし、

咲くか咲かないかと、気を揉む。

その点、咲かない鉢は、

「いいんだよ。あなたは今のままでいい。

葉っぱが活き活きとしていて、それもいいじゃない?」

控えめだけど、葉っぱは2鉢よりもうんと美しくって、

私は、それで充分だと思っていたのに、

ついに、今、花芽を伸ばしている。

 

胡蝶蘭の花芽が伸びる正しい時期は、6月だ。

夏の花だ。

冬の間は休眠をする。

だからきっと、咲かないだろう。

小さな蕾は、きっと咲けない。

本来ならば、その花芽の茎を切ってやった方がいい。

無駄に体力を使わせるより、花芽を切って休めてやった方がいいのだ。

けれど、私は日々伸びていく茎を切ることが出来ない。

「だってもう、小さな蕾が付いているじゃないか。」

それを見つめていたら、自分の目に涙が浮かぶのを感じた。

その時、どういう訳か、たれ蔵が重なって見えた。

 

4年前の5月、

この手に乗せた小さな子猫は、キンキンに冷えていた。

初動を間違えれば、すぎさま死んでしまう危うさだった。

そのせいか、たれ蔵はしばらく下痢に悩まされた。

下痢をするたび、ピーピー泣いて甘え、

おねしょもよくする子だったから、その際もべそかいて甘えた。

「甘ったれのたれ蔵ちゃん。」

ほくろと名付けたはずが、いつしか、そう呼んでいた。

 

そんな甘ったれのたれ蔵が、独りで達者にトイレで用を足した時、

あの時を私は、はっきりと覚えている。

「たれちゃん、偉いねぇ。ひとりで出来たねぇ。」

私が大げさに褒めてやると、たれ蔵は

「なにが?」

といった風に不思議そうな顔で、私を見上げた。

ああ、手放す時がきたのか・・・

記念すべき時に、じわりと湧き出た涙の成分は、

嬉しさより不安の方が濃かった。

「これからは、いろんなことを自分で頑張らんといかんのよ、たれちゃん?」

それが、とても不安で心配で、そして淋しかった。

 

何の因果か、たれ蔵の最後も、下痢に悩まされた。

そう、下痢に始まり、下痢で終わった。

「もう手放してやらなければいけない。」

やせ細りゴツゴツした骨ばった、たれ蔵の尻を拭きながら、

私は何度もそうつぶやいていた。

逝く前日、尻を拭きながら、またそう呟こうとしたのに、

たれ蔵が小さな声で、

「ぴー」と泣くものだから、

「甘ったれのたれ蔵ちゃん」と呼び掛けてしまった。

その時に、じわりと湧いた涙は、どういう訳か、

悲しみの成分よりも、安らぎの成分の方が遥かに濃かった。

「たれちゃんは、もう頑張らなくっていいんだよ。」

それが、何よりも安らいだのだ。

 

私は、健気に伸ばす花芽にも、

「頑張らなくってもいいんだよ。」

と、ひっそり声を掛け、だけど茎は切らずに見守ろうと決心をした。