私はまるで、
石ころになったみたいな気がした。
おはようございます。
昨日は、ベランダに椅子を引っ張り出して、
母の髪を切ってやった。
「母さん、髪を切ろう」
そう伝えても、母はきょとんとするばかりだ。
髪を切るという事の意味さえ、母には、もう理解できない様子だ。
昔は、えらくお洒落だったくせに、
今は自分で髪を束ねることさえ、ままならない。
放っておくと、まるで落ち武者だ。
私は、その落ち武者の髪を落とすある種の儀式のように、
仰々しく腰を沈めて切り始めた。
次々と地べたに落ちる白髪の束に、母は、
「ほほぉ」
と珍しそうに声をあげた。
勢いだけで切り続けた挙句、私は
「よし!」
と声を掛けた。
仕上がりはガタガタで酷いものだ。
けれど、外へ向かって座る母とその背後に立つ私は、
どこを見るでもなく、けらけら笑った。
通りの道を行き交う人のことなんてお構いなしで、
私達は、いつまでもけらけらと笑いが止まらなかった。
母がどうして笑っていたのかは、分からない。
私も、何がそんなにおかしかったのか、自分でも分からない。
蹴飛ばされた石ころが転がるみたいに、私達は笑っていた。
それが、実に心地よかった。
昨日は、晴れでもなく、重苦しい曇りでもなく、
寒い訳でも、暖かい訳でもない日だった。
全てが曖昧で、石ころみたいに気楽だったからかもしれない。
いやほんとは、落ち武者に見えていた母の後ろ姿が、
一転、おかっぱ童子になったのが面白かったせいかもしれないな。
あやさん?
あなたも、もうお婆さんになったのよね?
あや「あやは、いつまでも、あやだかんね~」
そうね、いつまでも、ド転婆だもんね。
あや「おばおばおばちゃ~ん」
うんうん・・・うるさいわ~