バレンタインシーズンが終わり、
スーパーの店内は、ひな祭りの歌が流れている。
おはようございます。
『あかりをつけましょ、ぼんぼりに~
おはなをあげましょ、桃の花~』
最近、この歌が、一日中耳にへばりついて離れなかった。
気付けば、小声で歌ってしまっているじゃないか。
ひな祭りなんて、やったこともないくせに、
まるで3月3日を待ちわび浮かれているみたいだが、
私が待ちわびていたのは、3月3日じゃない。
私のエックスデーは、2月19日。
月曜日だと踏んでいた。
その月曜日、私は出社するなり、
応接間の窓辺にある胡蝶蘭の鉢に目をやり、
私は一言、「咲いた」とだけ言葉にした。
「咲いたぁぁ」ではなく、極めて冷静な「咲いた」だ。
私は、これまでずっと、膨らんでいく蕾を静かに見て来た。
今回は咲くかもしれないなんて、社内の誰にも言わなかった。
いくつもの萎んだ蕾を見てきたから、
この期に及んで、いたずらに期待を振り撒きたくなかった。
でも咲いた。ついに咲いたのだ。
それでも、私は普段と同じように行動をした。
まず神棚に水を供え、社内を掃除する。
けれど、この日ばかりは気を付けなければ、
小躍りしてしまいそうで、
誰にも、心を見透かされないように、
私はいつもより神妙な面持ちで、床を掃いて回った。
いつもより時間を掛けて、いつもより丁寧に。
でも、どうしたって、ひな祭りの歌が脳内に流れていた。
私は、浮かれていた。
咲いたね。
他にも、いくつか蕾が付いているが、
「全部咲くかもしれない!」なんて、言わないのだ。
静かに静かに、微かな鼻歌を聞かせてやろう。
チャー坊とたれ蔵にも、届く程度の微かな鼻歌。
えっ、なんですって?
君が、咲く様を再現してくれるんですって?
おたま「こうむぎゅーっと力入れてからに」
うん
おたま「いったん、ぱっと開くように見せかけて」
うん
おたま「よいしょっとしてからに」
うん
おたま「で、なんだったっけ?」
知らん!
あらら、貴方も床でやってたの?
あや「あたしは、いずれ枯れてゆく様をね」
お見事!!