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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

MET 「ラ・ボエーム」2011年東京初日

2011-06-10 05:11:14 | OPERA
6月8日(水)19:00から、
メトロポリタン・オペラの2011Japan Tour、東京初日公演を観に、NHKホールへ行って参りました。

プッチーニ「ラ・ボエーム」
全4幕

指揮: ファビオ:ルイジ
演出・美術: フランコ・ゼフィレッリ
衣装: ピーター・J・ホール
照明: ギル・ウェクスラー
舞台監督: J.ナイテン・スミット

マルチェッロ: マリウシュ・クヴィエチェン
ロドルフォ: ピョートル・ぺチャワ
コッリ―ネ: ジョン・レリエ
ショナ―ル: エドワード・パークス
べノワ: ポール・プリシュカ
ミミ: バルバラ・フリットリ
パルピニョ―ル: ダニエル・クラーク・スミス
アルチンドロ: ポ-ル・プリシュカ
ムゼッタ: スザンナ・フィリップス
巡査部長: ジェイソン・ヘンドリックス
税関の役人: リチャード・ピアソン

児童合唱: TOKYO FM少年合唱団

上演時間(約3時間) 
第1幕40分(転換5分) 第2幕20分 (休憩25分) 第3幕25分 (休憩25分) 第4幕30分

今回のMETは震災&原発事故の影響が直前になって現れ=出演者の怒涛のキャンセル、どうなることかとハラハラしましたが、多分大変な努力と調整の結果として、この日の舞台、ミミ役のアンナ・ネトレプコのキャンセルを、「ドン・カルロ」のヒロイン エリザべッタ役のバルバラ・フリットリを持ってくることによって、このプロダクションの呼びものであるスターの格を落とすことなく調整できた、という力技。
開演前に異例のMET総裁の挨拶が。
震災のお見舞いと、出演者変更のお詫びと、こんなときにこそ芸術で心を癒してほしいという使命を帯びて今回の公演に臨んだ・・・という内容。

わたくしは、この「ラ・ボエーム」、ご多分にもれず、①アンナ・ネトレプコを観たい、というモチベーションがまずあっての観賞でしたが、他に②「ラ・ボエーム」というオペラ自体が好きだから③ゼフィレッリの演出なら、その世界に存分に浸れるであろうという信頼感 も理由で。

結果としては、とてもよい舞台で、もう、一幕のロドルフォとミミの自己紹介アリアでもう、涙ボロボロ・・・
フリットリのミミ、持ち役だけあって 透明感のある声、繊細な表現の出来る彼女の歌唱に役柄が合っていて、本当に美しくも悲しいミミでした。
くせのない正統派美人の彼女、ネトレプコよりもミミらしいミミかも。
とはいえ、お針子というよりは王妃様のほうがお似合いな感じですが・・・^^;
ネトレプコは同じ美人でも、華やかな妖艶系なのでムゼッタのほうが似合いそうですものね^^;

詩人ロドルフォのぺチャワ、わたくしはこの人、初見でしたが、伸びやかな良く通る声のテノールで、大変聴いていて心地よい。演技も上手い。
親友である画家のマルチェッロのクヴィエチェンとは、事前のインタビューでポーランド系どうしなので気持ちが通じる、舞台が楽しみ、と言っていた通り、とても芝居の間や掛け合いの呼吸が良くて、さすが、でした。

マルチェッロの恋人、派手で気の強い、でも心根の優しいイイ女ムゼッタのスザンナ・フィリップス、若いアメリカ人ですが、活き活きと演技も可愛らしくて役にあっていたと思いますもうひと癖あってもいいかな?若いので今後に期待。

哲学者コッリ―ネ、ジョン・レリエは背が高くがっしりとしたハンサムですが、バスのアリア、脇役では唯一のソロ曲「古い外套よ」を、深い慈愛と地の底から響くような本当に低い声で歌い上げて圧巻。

最初と最後の、パリの屋根裏部屋での貧しさの中、希望を持った若者たちの青春群像、第2幕の舞台の上下にぎっしり人を詰めたクリスマスの夜の喧噪、第3幕、病を知り、別れ話を切り出すミミとロドルフォのしっとりとした小雪のちらつく公園の場面の美しさ・・・
ゼフィレッリの演出はやはり、安心して観られますね。



プッチーニのオペラは、「トゥーランドット」しかり「蝶々夫人」しかり、その旋律の美しさで破綻した物語をうやむやにしてしまう(笑)きらいがありますが、この「ラ・ボエーム」は誰しもが胸に秘めた、若き日の思い出、戻らぬ青春の輝きとその意味=貧しいながらも夢を持った青年たちの、ミミを失うことで知る、青春の終わり(哲学者コッリ―ネは人一倍そのことを知っていて、だからこそ最後のアリアが胸に迫るのです)をテーマにしており、普通の若者の恋に 普通の言葉と何よりも美しい旋律で寄り添う画期的な日常性とともに、非常にオリジナリティのある傑作として、いつの日にも心に直球で入ってくる名作だと思います。

この日の観客は、この状況で来てくれてありがとう・・・的な要素があって前のめったのか、ネトレプコ目当てのミ―ハ―さん(わたくしもそうですが^^;)が多かったのか、スコアを知らない(?)人が多く、曲が終わっていないのにフライング拍手をする場面が目につき、ちょっとハラハラしましたが、出演者は手ごたえを感じたのかカーテンコールでの表情は皆さま晴れやか^^。
特にスザンナ・フィリップスがひとりずつのカーテンコール時に、大きな拍手をもらって、掃けるときにカーテンの陰に入るや否や小さくガッツポーズを取っていたのが微笑ましかったです

最後に、健康上の理由でキャンセルになったジェームス・レヴァインの代わりに指揮者を務めたファビオ・ルイジの正確で緻密な解釈には、さすがの安定感を感じました。オケも特に後半は良かったです




フィレンツェ歌劇場「トスカ」 ②

2011-03-19 17:26:10 | OPERA
2011年3月13日(日)
フィレンツェ歌劇場来日公演「トスカ」

東日本大地震の翌々日。
津波と大きな揺れによる被害が北日本を中心に未曾有の爪痕を残した・・・とはいえ、これから復興に向けて頑張ろう、という空気があったとき。
海外からの支援の申し入れも相次ぎ、大きな喪失感とともに、上を向いて浮上しなくては・・・というかすかな希望が見えていた、そんな日常を取り戻そうとしている関東の日曜日。
寒さに震えながら来ないタクシーを待ち、慣れない道を歩いた金曜の夜の混乱が嘘のように、ごくごく普通に神奈川県民ホールにたどりつき、その窓からは穏やかな青い海と港の風景が一望にでき、シャンパン片手に、いつも通りの休日が過ぎようとしていました

その後、なんですよね。原発の損傷が報じられどんどん事態が悪化していったのは・・・。
よって、14日の「運命の力」は東京文化会館で上演されたものの、15日の段階ではもう中止が決定。
本当に幻のような公演でした。13日は。

原発問題も、まだ解決というには至っていませんが緊急避難の可能性を含む危機的状況はとりあえず脱したのかと。
節電体制は続くものの、焦っても被災地以外の住民は、正しい組織の募金に応じ、不便をかこつことがあったとしても、それは理解して協力する。今は、国の財政支出が増大することを踏まえて、個人、企業ともに税金を納めることのできる体力を維持するべく、社会活動を通常通り行う、というのがコンセンサスかと。
いやいや、もっと長期に渡って活動は控えて喪に服すべきだ、という意見も目にしますが。
それぞれの立場での温度差もあるかと思いますし、実感できる何かをしたいと焦る気持ちもわかりますし。。。

ただ、こんなときだからこそ、むやみな批判に時を過ごすのではなく、前を向く力を積極的に取り込んでいきたい、と思うのでした。というわけで、13日の公演の感想、OUTPUTしてみたいと思います




幕が開く前に、マエストロ、ズ―ビン・メータ氏から異例の挨拶が。
わかりやすい英語で、今回の地震について、その災害を乗り越えてこの舞台が開催されたことについてのお礼と、北日本で被災された方々のことを思って演奏する、という心のこもったものでした。

今回の演出は、ヨーロッパ発には珍しく?、舞台も衣装も非常に正統派のクラシック。
オペラ初心者にも、作品世界を理解しやすく、という配慮だそうですが、カヴァラドッシのマルコ・ベルディ、トスカのアディーナ・ニテスク、スカルピアのルッジェーロ・ライモンディともに容姿と声質に恵まれていて、本当に楽しめる舞台でした。

ベルディ、ニテスクは、ともに初見ですが、ベルディのポイントポイントで良く響く声が心地よい。
ニテスクは東欧系のソフトな容姿のブルネット。触れなば落ちん柔肌の美女・・・で、鉄火なトスカとはまた違った魅力を発していましたが、一番の聴かせどころの「歌に生き恋に生き」のタメがやや不足していたせいか軽く感じられたのが惜しまれます。



スカルピアのライモンディは・・・
いや、今回は彼を目当てに行ったも同然ですので、語りますが(笑)、やはりその存在感は素晴らしい!
前回のフィレンツェ歌劇場来日公演は5年前で、そのときは軽妙に人生の哀歓を表現したファルスタッフで。
相変わらず素敵ですねvとサイン会で思わず申し上げたらこんなお腹なのに?と詰め物を入れたお腹のゼスチャーで笑わせてくださった彼ですが、10年前のボローニャ歌劇場来日公演での同役を彷彿とさせる舞台姿に涙・・・。
あの「TOSCA」ははっきり言って、男前のホセ・ク―ラのカヴァラドッシを凌駕するカッコよさでしたものね・・・。
モノトーンの大階段の真ん中で黒い宮廷服で歌い上げる「テ・デウム」に鳥肌が立ったこと、今でも忘れられません・・・。

で、今回の「行け、トスカ Va Tosca」と「テ・デウム Te Deum」
嫉妬を焚きつけ、思わず彼の別荘へと浮気の現場を押さえに走るトスカを部下に追わせ、自分はカヴァラドッシがかくまう反逆者アンジェロッティの首と、トスカとの2つの獲物が落ちてくるのを待つばかり・・・という、暗い欲望と、そのスカルピアの背後で進む、ローマ教会の赤白金のミサの荘厳な豪奢さがコントラストを見せて見事な2幕の終わり。
ただ、やっぱり・・・というか、声量は落ちましたね;;。
1941年生まれの彼には、オーケストラと合唱を乗り越えて力で押すのはさすがに難しいのかもしれません。

その分 増したのが表現力。スカルピアの独唱って、女を口説く愛の言葉もギターの演奏も知らない自分だが、その場限りの快楽があればいい、という実は不器用な男の独白。一幕、三幕で、カヴァラドッシが甘い言葉で存分にトスカへの愛を語るので、その対比がまた響きます。カヴァラドッシの命と一瞬の慰めを賭けたトスカとの駆け引き。真っ赤な宮廷服で、トスカを口説くスカルピアの紳士的な外見と秘められたエゴイストな欲望・・・が細やかに表現されてドキドキしました。

3幕の初めの羊飼いの歌。
これはクレジットされていませんでしたが、どうやら東京児童合唱団のメンバーが歌ったらしく、最後のカーテンコールに、フィレンツェ側のキャストに引っ張られたのか、にこやかに手を引かれて登場させられていらっしゃいました。
ソプラノが歌うこともある役なので、チャンスを活かして良いパフォーマンスが出来て良かった。最後まで名前が出なかったのはまだ学生さんだからでしょうか。将来、そういえば、という歌手に育ってくださると楽しみなのですけど^^

オケは、メータ氏の音の輪郭を浮き上がらせるような指揮に導かれ、メリハリの利いた華やかな演奏で、プッチーニならではのメロディーの美しさを堪能できました。

短い滞在で地震に遭遇され、スタッフ、楽団員の皆さまのショックも小さくなかったとは思いますが、そのショックを乗り越えて素晴らしくプロフェッショナルな演奏と空間を作り上げたフィレンツェ歌劇場の皆さまには感謝の念が絶えません。
また、次の公演も実現することを祈っています。


フィレンツェ歌劇場「トスカ」 ①

2011-03-15 01:50:11 | OPERA
未曾有の大災害となった東日本大震災。
皆さま、御無事でいらっしゃいましたでしょうか?

わたくしも、11日の金曜日は出社、帰宅に苦労はしたものの、翌日も仕事に出かけ、後々に明らかになる被害の全貌のあまりの規模に、愕然としている・・・そんな今日この頃です。

日曜日に来日公演初日を迎える、フィレンツェ歌劇場2011年日本公演。
そのような状況下で、12日までは開催が危ぶまれていましたが、直前に会場の安全確認も出来たとの告知で、3月13日、穏やかな日曜日の午後、港を望む横浜は神奈川県民ホールに行って参りました。

その後、続いての公演はどのような状況にあるのかしら?と
NBSのサイトを覗いてみましたら・・・
14日(月)の「運命の力」初日は予定通り、東京文化会館にて上演されたそうですが、原発事故の関係で不安要素が高まり、フィレンツェ市長の命により、帰国命令が発動、16日以降オペラ2演目「トスカ」2日、「運命の力」3日、特別公演「レクイエム」の計6公演が中止になったとのこと。

危険度と状況判断の兼ね合いの難しさ、ですが。
楽しみにしていらした方は残念ですが、このところの原発関係のニュースを観ていると不安要素が大きすぎるのは理解できます。

今となっては幻のような一瞬・・・あの音楽の宝箱のような公演については、下に当日のCAST表を、内容と感想は別記事にまとめて、お伝えしたいと思います。

ジャコモ・プッチーニ作曲
「トスカ」全3幕

2011年3月13日(日)15:00開演 / 神奈川県民ホール

フローリア・トスカ:アディーナ・ニテスク
Floria Tosca Adina Nitescu

マリオ・カヴァラドッシ:マルコ・ベルティ
Mario Cavaradossi Marco Berti

スカルピア男爵:ルッジェーロ・ライモンディ
Il Barone Scarpia Ruggero Raimondi

チェーザレ・アンジェロッティ:アレッサンドロ・グエルツォーニ
Cesare Angelotti Alessandro Guerzoni

堂守:ファビオ・プレヴィアーティ
Il Sagrestano Fabio Previati

スポレッタ:マリオ・ボロニェージ
Spoletta Mario Bolognesi

シャルローネ:フランチェスコ・ヴェルナ
Sciarrone Francesco Verna

看守:ヴィート・ルチアーノ・ロベルティ
Un carceriere Vito Luciano Roberti


指揮:ズービン・メータ
Maestro concertatore e direttore Zubin Mehta

演出:マリオ・ポンティッジャ
Regia Mario Pontiggia


演出助手:アゴスティーノ・タボーガ
Ripresa da Agostino Taboga

演出助手(アシスタント):アンジェリカ・デットーリ
Regista assistente Angelica Dettori

美術・衣裳 フランチェスコ・ジート
Scene e Costumi Francesco Zito

照明 ジャンニ・パオロ・ミレンダ
Luci Gianni Paolo Mirenda

合唱指揮 ピエロ・モンティ
Maestro del Coro Piero Monti

舞台技術監督 イタロ・グラッシ
Direttore dell'allestimento Italo Grassi

フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団/フィレンツェ五月音楽祭合唱団
Orchestra e Coro del Maggio Musicale Fiorentino

児童合唱:東京少年少女合唱隊 The Little Singers of Tokyo


◆上演時間◆

第1幕 15:00 - 15:50
休憩 25分
第2幕 16:15 -16:55
休憩 25分
第2幕 17:20 -17:50



ロイヤル・オペラ「椿姫」 9/16 ③

2010-09-19 11:15:39 | OPERA
第2幕 第2場 フローラの夜会にて



第2幕第2場

色彩設計の美しい印象的な舞台。
スパニッシュがドレスコードの夜会。
センターに大きな丸テーブル。占い女のジプシーたち、そして闘牛士たちが6人口でこのテーブルの上で
パフォーマンスをするのが効果的。
赤と黒、そしてテーブルのグリーンが鮮やか。

別れたらしいよ、あの二人。
噂のヴィオレッタはパトロンのドゥフォール男爵とよりを戻しての出席。
アルフレードは黒燕尾での登場です。

並みいる正装の紳士たちの中にあって、一際映える長身。
ヴィオレッタは、ドレスコードに合わせて赤と黒のドレスの淑女たちの中にあってひとり黒のドレス。
ひっそりとその場に存在しつつもアルフレードの刺すような眼差しが彼女を執拗に追いかけます。

ゲストダンサーたちで盛り上がった後、テーブルを囲んでのカードゲーム。
やけを起こしたように大胆に賭け、なぜか勝ち続けるアルフレード。

食事のために皆が席を立ったところで、二人きりに。
心変わりを責めたてつつ、声高に皆を呼びつけ、衆目の中であろうことか、
賭けで手にしたチップをヴィオレッタに投げつけるアルフレード。。。
なんという無作法さ!無慈悲さ!衆人の非難を一身に受け止めることになるアルフレード。
ヴィオレッタはあまりのことに息も絶え絶え。

ここまで比較的内にこもった演技だったヴァレンティ、一気にはじけ、そして声にも感情が宿るようになり、グッと良くなりました。
いつの間にかテーブルを伝って前方に出てきたのは父ジェルモン。
婦人を侮辱するお前はもはやわたしの息子ではない!
打ちのめされ、茫然と後悔するアルフレード。
自分だけが真実を知っている・・・それを伝えるべきだろうか・・・問いかけるようにヴィオレッタに向き合う父ジェルモン。
ヴィオレッタは顔をそむけて拒否します。
くずおれた彼女の腕をとり、下手奥にエスコートする父ジェルモン。
上手手前ではヴィオレッタの保護者として決闘を申し込もうとする男爵とアルフレードがフリーズ。
それぞれの思いが交錯するクライマックス、パッパーノの指揮は的確にその到達点に向けて疾走させます。
お見事!


第3幕



ヴィオレッタの部屋。
簡素なベッドが2つ。小さなテーブルには薬瓶が並び、枕には吐血の跡が痛々しい。
白い夜着をはおったヴィオレッタをアンニ―ナが甲斐甲斐しく世話をしていますが、どうもおもわしくない様子。
ブラインドで構成されたような壁面から、白々とした光が射し込みます。

医者の問診のために起き出すヴィオレッタ。

父ジェルモンからの手紙を読みます。
外国に旅立ったアルフレードに真実を告げました。あなたのもとに向かいます。

その言葉を心の支えに待っていたのでしょうが、容態の変化に焦る心から、その手紙を投げつけて叫びます。
「遅いわ!」
絶望と嘆き。悪化する容態。

そこにアルフレード登場。
ドラマチックな再会。
ここからほとばしるような感情が二人を突き動かし、素晴らしいラストへと息をもつがせぬ展開に。

彼が帰ってきた!元気が出たから外出したいわ。
着替えを用意させるも、身体は自由になりません。
激しい絶望の表現。
アルフレードはヴィオレッタを抱き上げて、そっとベッドに横たえます。

医者を呼んできたアンニ―ナ。
そこに父ジェルモンも到着します。

衰弱したヴィオレッタを前にした父ジェルモンの後悔。
こわばった表情で佇み、自分が引き裂いた恋人たちの末路を苦悶の表情を眼に浮かべて見守ることになります。

アルフレードを呼びよせて、自分の肖像画の入ったロケットを渡すヴィオレッタ。
いつかあなたもまた恋をして・・・その方とあなたの二人をわたしは天から見守っています。
死期を悟ったヴィオレッタの健気なことば。

そして、突然の「E strano・・・(不思議だわ)」から始まる最後の歌唱が素晴らしかった!

最後の力が湧きあがり、「わたし、生きるのよ!」と叫んで立ちあがり、両手を広げて舞台をぐるりと駆け巡り、
アルフレードの腕に身を投げて絶命。

歌唱、演技、演奏・・・全てがピタリと噛み合った見事な幕切れ。

哀れで涙を誘う・・・というよりは、どこか全てを出し切ったカタルシスに心地よく身を委ねる自分がいました。
BRAVI !!



ロイヤル・オペラ「椿姫」 9/16 ②

2010-09-18 00:37:34 | OPERA
ロイヤル・オペラ日本公演2010
ヴェルディ「椿姫」 
2010年9月16日(木)東京公演初日(日本公演初日は12日、神奈川県民ホール)
NHKホールにて

第一幕



パリの高級娼婦ヴィオレッタのサロンでの夜会。
幕が開くと、夜会服の男女がわっとなだれ込んでくる。
円形にしつらえられた、艶のあるブラウンの温かみのある色調の部屋。
奥に続きの間が見え、センターに巨大なシャンパンクーラーが。

髪に星型の煌めく髪飾りをたくさん散りばめたブルネットの美女。
30代の美人ソプラノ、アルバニア出身のヤルモネラ・ヤオはほっそりとした美人。
白いドレスで、ちょっとハプスブルクのエリザベートの肖像画か、ヴィスコンティの「夏の嵐」のアリダ・ヴァリか、というこしらえ。
ちょっとフリーダ・カーロを彷彿とさせる真っすぐな眉と生真面目な表情通り、一幕の享楽的なシーンでは
本領を発揮しきれていない観あり。
きっちりと歌ってはいますが、カリスマティックな輝かしさは残念ながらあまり感じられません。
アリアの最後の高音部もあえてオクターブ上げないで地道に歌い切り、慎重運転。
初日降板の話を聞いているので、こちらも無理しないでね、と見守りモード。

田舎貴族の若者、アルフレードとの出会い。
テノール歌手には珍しい、190cmのスラリとした長身に黒髪のハンサム、ジェームス・ヴァレンティ33歳。
ヴィオレッタに一目惚れ。
周囲から頭一つ抜きんでて高いので、ヴィオレッタの姿を認めてフリーズし、そのまま目を離せなくなってしまった様子が手に取るように見えるのがドラマ的にGOODです。
声も出ていて優等生的な歌唱。
ただ、テノールならではの輝かしさ、響きの豊かさは特に感じられず、歌はどちらかといえば凡庸な印象。

真剣にくどく彼をを最初はあしらい、気まぐれから薔薇を渡して、この花が枯れたらまた会いましょう、と恋の手管のヴィオレッタ。
そんな都会の恋の作法を知らない純真な彼が、恐ろしく真剣にいつ?と迫るのに気押されては、では明日、と応えてしまう彼女。病を隠して華やかにふるまうものの、心に不安を抱えています。
真っすぐな若者の求愛に、ゲームではなくて応えてみたいと思ったのも、短い人生を思ったからでしょうか。

この場面で良かったのはガストン子爵のパク・ジミン。軽やかな歌唱で演技も的確。


第2幕 第1場



さぁ、待ってました!の第2幕。
パパ・ジェルモンのキ―ンリサイドが見どころ聴きどころ!

ヴィオレッタが用意したカントリーハウス。
醒めたパステルカラーの室内は中央に長テーブルが。
比較的奥行きの浅い、簡素で横長の部屋のしつらえですが、奥の扉から更に奥に部屋と入口がある気配。

狩りから帰ったアルフレード。
この3カ月のヴィオレッタとの田舎の生活の幸せを歌います。
ヴィオレッタの小間使い、アンニ―ナがパリから戻ってきます。
どうしてパリに?
田舎暮らしの生計を立てるため、ヴィオレッタの言いつけで家財を処分してきたというアンニ―ナ。
費用の工面を女性にさせていたとは!と驚き怒るアルフレード。パリに行って買い戻してくるよ!

ヴィオレッタ登場。アルフレード様はパリに向かわれましたと聞かされて。

そこに登場したのが!
お待ちかねのジョルジョ・ジェルモンです!
シルクハットを脱いでそこにはずした手袋を入れ、ステッキを持ち、3つ揃いのスーツはライトブラウン。上襟が茶色のベルベットのチェスターコート。アスコットタイはワインカラー。メガネをかけていますが途中でかけたり外したり。あ、ハンカチーフもふところから出して顔を押さえたり、結構小道具を総動員。演技が細かく忙しいです(笑)
「高慢と偏見」を絵に描いたような(笑)佇まい、口調。
息子をたぶらかした悪い女にモノ申してやる!との強い意志がにじみ出るへの字に結ばれた薄い唇。
感じ悪く自己紹介。
アルフレードの父です。あなたが誘惑した男の。

アルフレードの妹の縁談に差し支えるので、と息子との別れ話を切り出します。
では一時的に別々に・・・。
ヴィオレッタの身を切るような譲歩にもジェルモン父は納得しません。
きっぱりと別れるようにと、説得に入ります。

女性の容色は年齢ととも衰え、男心は移ろいやすい。
天から祝福された関係ではないから、神のご加護もありません。

鬼のようにたたみかけるパパ・ジェルモン。
優しいヴィオレッタはついに折れます。

わかりました。でも彼になんと?
愛してないと言ってください。
彼は信じませんわ。
あなたが立ち去ればいい!
彼は追いかけてきますわ。

イラつくジェルモン、ヴィオレッタをねめつけて、ではどうすれば?!

ヴィオレッタはここで、ジェルモンに懇願します。
勇気を出すために力を。「娘として抱擁してください」

娼婦と見下した相手の意外な行動に、固まるジェルモン。
ヴィオレッタの懇願を冷たく無視します。
「私は見返りに何をすれば?」

絶望に駆られたヴィオレッタ。「死にます」
「死んではいけません」
彼女の顔に手を伸ばすジェルモン父をスッと避けるヴィオレッタ。
帽子を手袋を回収し、いとまごいを告げる父。

ふ~。第一ラウンド終了です。
いやはや、がっぷり4つに組んだ心理戦。見応えがありました。

早速手紙をしたためるヴィオレッタ。
アルフレードが戻ってきて、手紙を書いているヴィオレッタに後ろから目隠し。
驚いたヴィオレッタ、手紙を持って逃げようとします。
見せて。ダメよ。ごめん、父が来るらしくて。

ヴィオレッタはアンニ―ナを連れてこの家を出ていきます。

小さな娘を連れた男が入ってきて、二人が出ていったことをアルフレードに伝えます。
ヴィオレッタからの手紙はその小さな娘がキチンとお辞儀をして、アルフレードに手渡します。
可愛らしい演出。

嫌な予感に動揺する彼。 この手紙は・・!
そこに入ってきたのがキーンリーサイド。いやがうえにも高まる緊張。

動揺する息子が歯がゆい父。
「プロヴァンスの海と土地」
息子に故郷を思い起こさせ、一緒に帰ろうと諭すバリトンの名曲。
一小節ごとにたくさんの感情がこもり、決して大げさに歌い上げることはないのですが、
心にしみる素晴らしい歌唱です。会場からも大きな拍手。
・・が、歌いながらも、息子の手紙を奪い、脚をステッキで打ちすえる演技が!
これは演出の指示?サイモン独自の演技?

真っ向から対立する父と子。
ヴィオレッタの心変わりで頭がいっぱい、父の言葉は完全スル―状態のアルフレード。
復讐に行くぞ!と出て行ってしまいます。

何だと!固まるジェルモンパパ。 で、ひとまず暗転。