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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

第三夜 ルグリガラ全幕特別プロ「白鳥の湖」 ④

2007-08-31 03:48:03 | BALLET
第4幕



ルグリが後悔の念に苛まれながら、湖にオデットを探しにやってきます。
この舞台への登場の仕方は第2幕同様、走りこんでくるわけですが、その走り来る姿で王子の気持ちが手に取るようにわかります。
後悔の念、贖罪の心、はやる気持ち。
2幕の登場時にも走って登場しましたが、そこでは狩への期待と溢れる若さが気品をまとっていたのに対し、4幕での出は悲痛です。
どの一瞬を切り取っても、只のパとして存在するものはなく、全てがジークフリート王子の心情が踊りに現れ出たものとして存在する濃密さはルグリならでは。
ロットバルトの登場、戦い、白鳥たちの加勢もあっての王子の勝利。

ロットのステファン・ビュヨンはテクニック的に万全とはまだ言えませんが、白い紗がかかったようなきれいな肌に薄く形の良い唇のラインがマスクの下から覗く様は、老練なベテランが大人の魅力でみせるロットとはまた違った、美しい悪魔振り。この3日でヤン・サイズの代役で突然振られたこの重要な役を、彼なりに消化してきたのではないかと思います。

ドロテのオデットは幕を重ねるごとにこの世のものならぬたおやかさ、儚さを増し憂いを湛えて、彼女がこの作品世界に心から入りこんでいることが見て取れます。
王子の勝利で人間に戻ったのね、と腕を確認する様も、ミリアムが王子が近づいて来るのに自分の確認に忙しい?と見せてしまったように感じられたのに対して、ドロテの解けた魔法を喜ぶシーンはより自然。ルグリ王子にスッと寄り添いともに朝日を受けて輝くラストまで、自然な流れの中で見せてくれました。

ガラのモダン作品でのアクセントを効かせた踊りとはまた違った彼女なりの役への丁寧なアプローチとオデットの美しさとは?と突き詰めた役作りが感じられ、将来の古典作品の真ん中を踊るために必要なものが彼女の中にしっかりと存在している頼もしささえ感じさせ・・・。
ドロテの白鳥は今始まったばかり。そしてこれからも見ていきたいと思ったことでした。

カーテンコールはいつまでも続くかと思われるほど。
この日の「白鳥の湖」の素晴らしさに対する拍手、ドロテの期待以上の出来映えと今後への期待をこめた拍手、ステファンへの突然の代役をこなして魅惑の片鱗を見せはじめた役作りに対するねぎらいと励ましの拍手、そしてルグリへの、この日の古典作品の王子かくあるべし、という完成形を見せてくれたことへの感動と、この長かった(そし怪我人続出、などアクシデントにも見舞われた)酷暑の日本での全国ツアーを無事に終えられた座長への労いと感謝、そしてそして、どんなエトワールにも見受けられる日によっての好不調の波がルグリにおいては存在しないかのような抜群の安定感に対する畏敬の念と賞賛の拍手・・・。

これだけの気持ちをこめたいと思って観客は拍手をし、舞台の上のダンサーもそれを感じ取ってくれたことと思います。

8月前半、この日で幸せなバレエの夏は終わりました。
終演後(お疲れでしょうに)開いてくださった主役どころ3人のサイン会。
ルグリ先生の達成感を感じさせる笑顔でのMerciを胸に、次の公演をすでに心待ちにしているわたくしです・・・。



第三夜 ルグリガラ特別全幕「白鳥の湖」 ③

2007-08-25 08:20:20 | BALLET
第三幕

司会者: 野辺誠治
チャルダッシュ(第1ソリスト): 乾友子、大嶋正樹
(第2ソリスト): 森志織、福田ゆかり、高橋竜太、氷室友
ナポリ(ソリスト): 高村順子、松下裕次
マズルカ(ソリスト): 田中結子、坂井直子、中島周、横内国弘
花嫁候補たち: 前川美智子、西村真由美、浜野香織、佐伯知香、高木綾、吉川留衣
スペイン: 井脇幸江、奈良春夏、後藤晴雄、平野玲

チャルダッシュの大嶋さんは顔のラインの似た乾さんとの相性も良く、今日は音に乗って快調にキレのよい踊りをきれいに見せてくれます。
各国の踊りは、ナポリ高村さんの相手役がマチアスくんでない分、ダイナミズムにはやや欠けますが、可愛らしくまとまり、マズルカは変わらず中島さんが丁寧な踊りを見せてくれ、ほぼ16日とキャストも変わらず。

花嫁候補はソリストが若干変わっているのと、やはり小出さんがいないとやや小粒な感じに・・・。
などというよりも、この場面は堂々たる風格に細やかな演技のルグリ先生の王子が見所。

さぁ、この舞踏会で各国の姫から花嫁を選ぶのですよ、となったときにマチューはあまり気乗りがしない様子で臨みましたが、ルグリ先生はより具体的に心の葛藤を随所で見せます。
王子としての勤めで、プロトコル遵守。一通りゲストの姫の踊りは見ますし、輪の中心となって踊りはしますが、心は常にオデットのもとに・・・。時折右手の人差し指と中指・・・誓いを立てたその指を密かに確認している王子にとって、この場は苦痛でしかありません。
礼を持ってお断り・・・嘆く母娘。
ロットバルト率いるスペインチーム、そしてドロテのオディールの登場。
待ってました!

自信たっぷりの精気溢れるオディールは、余裕綽々で王子を誘惑。
単発で出てきた16日と違って、前幕でのオデットで見せた優雅さをそのまま引きずって馥郁と漂わせながらの悪女ゆえ、もう、キレイで目が離せません。このオディールなら、慎重誠実なルグリ王子がだまされても致し方ないかも・・と説得力のあるオディール。
マント捌きにも馴れてきて、美しい顔だちと静かな存在感で独自の悪魔ロットバルトの完成に近づきつつあるステファン・ビュヨンと企みの目線を交わすときのみ、煌くような瞬きを見せますが、王子とのアダージョなどはむしろゆったりと視線を上から漂わせて優雅で怖い魅惑の黒鳥。
テクニック的には、アクロバティックにというよりは万全を期して、安全策をとってキッチリと決めてきました。

王子は・・・。気品を失うことなく、でもオディールに夢中。その心の高ぶりが全て踊りで表現されているのが凄い。一つ一つのパがキレイに音楽に合っていてしかもどの場面を切り取っても美しい舞台写真のスチールが出来る完成度の高さ。
早い動きでしっかりと打たれたカブリオールの美しさ、高い位置でのトゥールザンレールからアラベスクに降りる場面のダイナミズム・・・。どこにも破綻がないのに、王子のオディールに対する強い思いが音楽と完璧にシンクロした踊りではっきりと表されていて素晴らしい。
ロットバルトに促されて誓ってしまった王子へ、悪魔の一群から高笑い。
あぁ、これでこの幕も終わりか・・・終わらないで~と思わず思ってしまったわたくしです。

サポートに一日の長があるのか、ルグリとドロテの並びはとても綺麗。
伸ばした指先、脚の5番ポジションに至るまで常にピタッとそろえた二人。
眼福の一幕でした・・・。




第三夜 ルグリガラ特別全幕プロ「白鳥の湖」 ②

2007-08-23 04:56:14 | BALLET
第二幕

4羽の白鳥: 佐伯知香、森志織、福田ゆかり、阪井麻美
3羽の白鳥: 西村真由美、高木綾、奈良春夏

オデット登場。ドロテのオデットは白鳥でありながら、一人の若い女性のよう。
神秘の世界に佇む精霊というよりは、もっとリアルな感触。
王子の姿を認めて怯える様も、大きな眼を更に大きく広げてビックリ眼でこわごわと・・・。
王子が近づきそっと羽をたたんで後から抱きしめようとすると、始めのうちはハッと驚いて羽を広げて腕から逃れる様も、かなり人見知りのオデット。ギエムの繊細な神経の白鳥に似ていて、より血の通った女性らしいバージョン、という印象です。

背が高く手脚が長いので、ゆっくりと腕を動かしてのマイムは悲しみに満ち、ここはミリアムのやや忙しない王女の物語よりも、オデットらしかったかも。

ルグリは、そんなオデットの美しさと悲劇的な運命に心動かされ、彼女が運命の変転を語り、永遠の愛を誓う男性が現れたら・・・との語りで、手をとり、自分がその愛を誓いましょう、と言うところまで、オデットの心を少しずつ溶かしていくに相応しい包容力と誠実なサポートを見せて実に美しい・・・。

身長でいうと、ミリアムとドロテはかなり差がありと思われるのにそれぞれにピッタリとシルエットを重ねて、指の先、足の角度まできれいに揃っていてどの場面も一幅の画のよう・・。
これはやはりクラシックの基本のパに忠実に丁寧に踊っているからでしょう。

東バの4羽・3羽の白鳥は16日と同じ。この日もピタッと決めてきました。
3羽の西村さんはもともとちょっと色っぽさのある美人さんですが、今回身体をかなり絞っていた模様。とてもキレイになってビックリ。群舞も白鳥のフォーメーションがピタッと決まって美しい一幕を作り上げていました。


 


第三夜 ルグリガラ特別全幕プロ「白鳥の湖」 ①

2007-08-22 11:27:28 | BALLET
8月18日(土)15:00開演。

最終日です。
長い長い日本公演、ルグリ先生にとって日本で最後の座長公演「ルグリと輝ける仲間たち」。
 
地方公演、東京でのAプロ4日間、Bプロ3日間、そして「白鳥の湖」3日間(内、一日はルグリ先生はオフでしたが)、全力疾走で全くブレのないクォリティの演技を見せてくださり、その昔、完璧だけれども、それが冷たさにつながるようであまり心惹かれない・・・などと思っていたのが嘘のよう。
今はかつてと変わらぬ完璧さ、ながらも、深い作品理解と、ゆるぎないテクニックから来るゆとりが生む自然な感情表現が彼の舞台を輝かしいものにしていることを、今更ながら感じます。

彼の舞台、それはすなわち、同じ時代を駆け抜けてきたルディエール、イレールといった大アーティストとの競演では凄みさえ感じさせるバレエ芸術の求道者であり、また、ミリアム、ドロテといった若手との舞台では、ノーブルでエレガントなサポートで彼女たちの可能性を大きく引き上げ、作品世界の真ん中に誘いそこで演ずるということを直に体験させている、師としての彼の懐の深さ。

今回、モニク、ローランといった、なかなか観ることの叶わなくなった元エトワールとの魂のこもった珠玉の短篇とともに、クラシックバレエ界の最高峰、全幕での「白鳥の湖」をルグリが踊る、ということがどれほど貴重な機会であるか・・・。
多くのレパートリーを持ち、コンテンポラリーを意欲的に発表している今のパリ、オペラ座において、ルグリが残されたエトワールとしての期間に再び「白鳥の湖」を踊ることは叶わないでしょう。
しかも、今日は最もエトワールに近い位置にいる、若手注目株ドロテ・ジルベールの初の「白鳥の湖」全幕の主演。
二つの意味でバレエ史上に残る公演となるでしょうし、この感動を呼び起こした話題のルグリガラの締め、ということもあり、仕事を半休して通いなれた五反田ゆうぽうとに到着したときには、もう、立見席も完売状態でした。

前から2列目、指揮者ソトニコフさんの横顔を間近に見られる席。
今日はルグリ先生とドロテを肉眼でしかと見届ける所存です。

全幕

オデット/オディール: ドロテ・ジルベール
ジークフリート王子: マニュエル・ルグリ
王妃: 加茂律子
悪魔ロットバルト: ステファン・ビュヨン
道化: 松下祐次

第一幕

家庭教師; 野辺誠治
パ・ド・トロワ: 小出領子、長谷川智佳子、古川和則
ワルツ(ソリスト): 西村真由美、乾友子、高木綾、奈良春夏、田中結子、前川美智子

ガラのときのマチアスの印象が強すぎる道化は、東バの松下さんもなかなかの好演。
ルグリ先生が王子として登場してからは、驚くべき吸引力で、宮廷中の皆が、常に王子を見、王子に微笑みかけ、王子を誘う。観客の眼も勿論釘付け。
ルグリ王子は極々自然に道化をあしらい、トロワの自分がエスコートすべき女性=小出さんに実にノーブルに接します。
小出さんもそれに応えての好演で、ちょっとしたパートを踊るだけでもまるでパ・ド・ドゥの小品のような薫り高さ。頑張ってはいたけれども古川ー長谷川ペアとは大差が。。。

そしてソロでは・・・高いジャンプ、高速のフェッテ、かなり力の入っている演技でその若々しさと勢いには長丁場の公演最終日であるということはカケラも感じさせず、それでいて着地一つ一つ、表情至るまで、どこまでも落ち着いたノーブルな王子そのもの。
クラシックバレエの王子のソロとしては、これ以上のものはないのでは・・・。
ルグリの到達した地点に眩暈を起こしそうになりながら、二幕、白鳥のドロテ登場に期待が高まります。




 



ルグリ特別全幕プロ「白鳥の湖」第一夜 ④

2007-08-19 11:41:29 | BALLET
第四幕

キャストは第二幕と同じ。
夜の湖。
白鳥たちの踊り。悲しみのオデット登場。ロットバルトの支配。

白鳥たちが去り、王子が走って現れます。
王子のソロ。これが見たかった・・・。
高いジャンプ、舞台を小さく見せる渾身のグランジュテ。
高速のシェネ。回転の軸がぶれず、感情がこもっているのに形は乱れず・・・。
かくあるべし、の古典の王子ソロ。
この域に達するのにはどれほどの才能・経験・精進が必要なのだろうか・・・と今日の出演者たちを思い浮かべながら、圧倒的なルグリのソロに酔いしれました。

ロットバルト登場。王子とロットが対角線上でグランジュテしながら擦れ違い、オデットを巡って対立する2人の力と力のぶつかり合いを迫力たっぷりに表現します。オデットを連れ去ろうとリフトするロット。そのオデットの手を離さずに王子が追いかけ、そのままパ・ド・トロワに。

このヌレエフ版を使っていますね。
ロットバルトの存在感が大きく、オデットを巡る善悪の2人の魅力的な男性の対立、という構図で、自身才能横溢するダンサーとして見せ場を増やし、男性ダンサーの魅力をアピールする改訂を行ってきたヌレエフならではの発想で、面白い。

戦いの中、ロットの羽を折る、王子。苦しみ、羽を押さえながら袖に消えるロットバルト。
最後は東バ版の愛の勝利シーン。
羽が腕に戻ったわ・・・と確認して喜ぶ王女。白鳥たちも戻ってきます。
湖に夜明けが訪れ、王子とオデットの愛が実り、幕。

これが当初の予定通り、若きエトワールエルヴェ・モローが出演して、エルヴェ、マチュー、ルグリ先生の3王子揃い踏みとなったらいかに眩い舞台となったことだろうと思うと残念な気がしなくもありませんし、本当の通し上演に比べてテンションの高さを出すのが難しいのも理解できますが、この趣向はこの趣向で楽しめるものでした。

こうなったら全幕が観たい・・・との願望は2日後の土曜日に満たされるという幸せ。
あと一つを残すばかりのルグリガラ。
チケットケースが一杯だった8月初めから思うとあっという間で濃い日々でしたが。
土曜日が終われば夏が終わります。