
月日は流れ・・・。
グレーミン公爵家の舞踏会で幕が開きます。
重厚な群舞。
男性が皆、もみ上げに髭を蓄えたこしらえにしているのですが、平均身長が高く立派な体格と相まって大人っぽくてとても良いです。こういうこしらえがしっくりくるあたり、このバレエ団の特色のひとつですね。
月日が流れ・・・ているはずなのですが、変わらぬ印象のオネーギンが招かれています。
黒い衣装、若々しくでもどこかニヒルな風情はあのときのまま。
公爵夫妻のお出まし・・・。
2人の愛のPDD.
年齢差のあるカップルですが今やタチアナはもうあの内気な少女ではありません。
聡明さはそのまま、教養と気品を身につけた輝かんばかりの美しい女ざかりの公爵夫人です。
そんな彼女を大切に扱うグレーミン公爵は威風堂々たるロマンスグレー。
招待客はそんな2人を憧れのカップルとして賞賛し惚れ惚れと眺めています。
そんな中、隠れるでもなく呆然とタチアナを見つめるオネーギン。
なんてステキな女性なんだ。
ただ魂を抜かれたように見入っています。
その日の夜、所要で旅支度の公爵。
胸騒ぎか、行かないで欲しいと懇願するタチアナ。
優しく抱きしめ、しかし礼儀正しく手にキスをして家を後にする公爵。
タチアナの部屋で、彼女はオネーギンからの手紙を読みます。
一瞬見せる表情に彼女の心にまだ初恋の痛みと甘さが残っていることがはっきりと現れていて美しい。

そこに駆け込むオネーギン。拒もうとするタチアナの一歩前に膝まづいて回り込んでは懇願する。
スッと後に流した足先がキレイです。
拒んでも拒んでもすがるオネーギン。
ついに自ら手を差し伸べてしまうタチアナ。
圧巻のPDDです。
この振付はすごい・・・。踊りとしての際立ちかたからすると、やっぱりルグリ・ガラでのモニク・ルディエールとルグリのPDDが忘れられず残像がチラつきますが、アイシュバルトとバランキエヴィッチは2人の息遣いが聴こえるような踊り。揺れる想いが切ない。
リフトの連続。まるで鏡のPDDのように愛の絶頂を表すような激しさ。
でもそれは成就ではなく絶望。
すがるオネーギンの髪をなでそうになる手をつと止めて、机に駆け寄り、手紙を手にするタチアナ。
ゆっくりと手紙を破り捨て、オネーギンに手で出て行って!と示します。
そんな・・・。
驚愕した表情を隠せないままに来たときと同じように走り去る彼。
一人残されたタチアナは舞台中央でこぶしを握り、うつむいた顔を静かに上げます。
万感の思い。
・・・素晴らしい全幕でした。