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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

シュツットガルト・バレエ 「オネーギン」 ④

2008-12-24 03:23:15 | BALLET


月日は流れ・・・。
グレーミン公爵家の舞踏会で幕が開きます。
重厚な群舞。
男性が皆、もみ上げに髭を蓄えたこしらえにしているのですが、平均身長が高く立派な体格と相まって大人っぽくてとても良いです。こういうこしらえがしっくりくるあたり、このバレエ団の特色のひとつですね。

月日が流れ・・・ているはずなのですが、変わらぬ印象のオネーギンが招かれています。
黒い衣装、若々しくでもどこかニヒルな風情はあのときのまま。

公爵夫妻のお出まし・・・。
2人の愛のPDD.
年齢差のあるカップルですが今やタチアナはもうあの内気な少女ではありません。
聡明さはそのまま、教養と気品を身につけた輝かんばかりの美しい女ざかりの公爵夫人です。
そんな彼女を大切に扱うグレーミン公爵は威風堂々たるロマンスグレー。
招待客はそんな2人を憧れのカップルとして賞賛し惚れ惚れと眺めています。
そんな中、隠れるでもなく呆然とタチアナを見つめるオネーギン。
なんてステキな女性なんだ。
ただ魂を抜かれたように見入っています。

その日の夜、所要で旅支度の公爵。
胸騒ぎか、行かないで欲しいと懇願するタチアナ。
優しく抱きしめ、しかし礼儀正しく手にキスをして家を後にする公爵。

タチアナの部屋で、彼女はオネーギンからの手紙を読みます。
一瞬見せる表情に彼女の心にまだ初恋の痛みと甘さが残っていることがはっきりと現れていて美しい。



そこに駆け込むオネーギン。拒もうとするタチアナの一歩前に膝まづいて回り込んでは懇願する。
スッと後に流した足先がキレイです。
拒んでも拒んでもすがるオネーギン。
ついに自ら手を差し伸べてしまうタチアナ。
圧巻のPDDです。
この振付はすごい・・・。踊りとしての際立ちかたからすると、やっぱりルグリ・ガラでのモニク・ルディエールとルグリのPDDが忘れられず残像がチラつきますが、アイシュバルトとバランキエヴィッチは2人の息遣いが聴こえるような踊り。揺れる想いが切ない。
リフトの連続。まるで鏡のPDDのように愛の絶頂を表すような激しさ。
でもそれは成就ではなく絶望。
すがるオネーギンの髪をなでそうになる手をつと止めて、机に駆け寄り、手紙を手にするタチアナ。

ゆっくりと手紙を破り捨て、オネーギンに手で出て行って!と示します。
そんな・・・。
驚愕した表情を隠せないままに来たときと同じように走り去る彼。

一人残されたタチアナは舞台中央でこぶしを握り、うつむいた顔を静かに上げます。
万感の思い。


・・・素晴らしい全幕でした。




シュツットガルト・バレエ 「オネーギン」 ③

2008-12-24 02:24:24 | BALLET
一方、オネーギンは片隅のテーブルでカードに興じていますがちょっとイラついています。
そこに眼に入ったのがタチアナの妹のオリガ。
彼女を誘って踊りの輪に加わりますが今までのイライラのうっぷんをはらすようにいささかはしゃぎすぎ。
エリザベス・メイソンのオリガは風の星座系。爽やかで楽しいことが好き。
男の人の誘いには深刻にならずに軽やかに応じます。
婚約者のレンスキーが心配そうに見守る中、彼を挑発するように楽しげにオネーギンの相手を務めます。
もういいだろう、充分楽しんだだろう、と微笑みながら手を差し伸べるレンスキーの方に一端戻ると見せかけてまたオネーギンと踊り続ける・・・。
彼女は悪気はないのです。彼が見守ってくれている中でのおふざけなので安心しきっているのでしょう。
レンスキーのザイツェフは微笑みながらも何度も何度も差し伸べた手を無視されて、段々焦燥感が高まります。見た目かわいい彼が泣き出しそうになるくらいヤキモキしている様は見ていてカワイそうになるくらい。
一方オネーギンは、悪いことをしているという自覚はあるのかもしれませんが、あえて親友を裏切る行為をやめることができません。ちょっと悪魔的な衝動に突き動かされている感じ。
公爵と慎ましやかに踊っていたタチアナが事の成り行きに気付いてオリガをたしなめようとしますが時すでに遅し。

レンスキーは心ならずもオネーギンに決闘を申し込むこととなり、オネーギンは一度は驚き翻意を促そうとしますが、一途なレンスキーの様子に諦め、これを冷たく受諾します。

ここに至るまでの描写、4者4様、非常に説得力のある演技で観るものをハラハラさせながらも惹きこみます。
特にオリガとレンスキーの状況、こういうことってあるよなぁ・・・と妙に実感してしまいました。

決闘前に苦悩するレンスキーのソロがあるのですが、このザイツェフが良かった!
彼は眠りのアリババのときも思ったのですが、とても上半身がしなやかでタメの効くタイプ。
なので、ブリッジをするように後ろに反る場面なども独特の粘りがあるんです。
理想とする世界の調和を破られて破滅に突き進まざるを得ない詩人の魂の悲痛な叫びを丁寧に演じていて印象的でした。
姉妹と別れを告げる場面で、オリガにキスしてタチアナの訴えるような眼を受け止めようとしてフッとそらすのですが、それも受け止めたら自分の決意が鈍りそうだと抑えた感情が痛々しくて、この一連のシーン、こぶしを握り締めて見入ってしまいました・・・。

一方のオネーギン。クールなバランキエヴィッチ。
この人が決闘前にピルエットを繰り返すソロを踊るシーンがあるのですが、そのピルエットの早いこと!
「眠り」のときはエレガントな王子ながら、この人特有の男っぽい重量感も垣間見せていたのですが、オネーギンでの彼はどこまでもシャープで研ぎ澄まされた印象。
ジャンプも高くて着地も軽い。
レンスキーを撃ち、マントを再び羽織って、悲嘆にくれる姉妹と一瞬向き合う。
そのときアイシュバルトのタチアナは眼に哀しみを讃えて真っ直ぐにオネーギンを見据えます。
それまで、親友に対する悔恨の情よりもレンスキーを撃つはめになったわが身の運命のいたずらを「ハッなんということだ」、とでも言いたげに寧ろ疎ましく思っていたであろう彼の心ですら、多少なりとも動かされ、自分が何をしたのかわかったのではないでしょうか・・・。



この写真は公演後のものから。
左から公爵のレイリー、タチアナのアイシュバルト、バランキエヴィッチ、ザイツェフ、オリガのメイソンです。
脇が脇を越えた存在感で役を生きていて、とても濃密な舞台にしてくれていました・・・。




近況報告~ボリショイ祭り

2008-12-09 05:00:22 | BALLET
シュツットガルトの圧倒的な感動に浸っている間に今年最後の大物、BOLSHOI BALLETが来日。
すでに「ドン・キホーテ」で華やかに開幕、「白鳥の湖」を経て、明日は最大の見もの、フィーリンとアレクサンドロワのGOLDENペアによる、ショスタコーヴィチの音楽にのせたコミックバレエ、芸術監督アレクセイ・ラトマンスキーの出世作、「明るい小川」です。
これが観たかった!!
なかなか観劇レポートが追いつきませんが、早くボリショイレポにたどり着きたいものです・・・



シュツットガルト・バレエ 「オネーギン」 ②

2008-12-03 05:38:36 | BALLET
このプロダクションは同じマリア・アイシュヴァルトのタチアーナで、前回のシュツットガルト・バレエの来日公演でも観ています。
2005年、オネーギン役はこの役を踊りたいと切望していたOPERA座バレエ団のマニュエル・ルグリ。
完璧なオネーギン、に拮抗する深い感情表現のアイシュヴァルトの2人のドラマ、という印象が強かった前回に比べて、今回ゲスト抜き、生え抜きの団員のみで構成されたCASTで観ると更に周囲の脇役の演技の絡みも含めて、重層的に物語が紡ぎあげられていることがわかります。
ルグリのスターオーラに只々見入っていた前回に比べて細部にわたってこのバレエ作品が如何にドラマとしてよく出来ているか・・・と感心しきり。

今回の配役はかなりイメージにぴったりで一人ひとりの存在感に説得力がありました。

出のシーンで、舞踏会のためのドレスを吟味している妹と母、乳母?を背に寝そべって読書に没頭しているマリア・アイシュバルト、タチアナは、しかし自分の世界に閉じこもって夢ばかり観ているフワフワした女の子、ではありません。
ちょっと内気で、でもとても人にはやさしく振舞う柔らかな物腰からは、自分の内面をとても大切にしているけれども他人への愛情もしっかりとはぐくんでいける豊かな感情を持った聡明な少女、がそこにいます。
幕が進むにつれ、成長して大人の女性になっていくタチアナ、その女性としての大きなドラマの中心になるにふさわしいポテンシャルを始めから感じさせます。



鏡を覗くとその中に将来の恋人が見えるのよ、と少女たち。
タチアナが鏡の前に座ると後に男性が!
妹オリガの婚約者レンスキーが連れてきた、都会から遊びに来た友人、オネーギン。
柔らかで穏やかなベージュ・アイボリー基調のパステルカラーの衣装に身を包んだ登場人物の中、一人スマートな黒のスーツを着こなしたオネーギンは全てに退屈しきったニヒルな知識人。
三つ編みを長く垂らした10代の少女にはなんの感興も催さないでしょう。
礼儀上散歩に誘って、彼女が手にした本を開けると一瞬哄笑を見せます。
ロマンス小説はくだらないものとしか彼には見えていません。



その夜、タチアナは自室で彼を想います。
眠れない夜。つのる恋心。
等身大の鏡に自身を映す彼女のその姿(同じ衣装のバレリーナが鏡の演技をします)の向こうにオネーギンが!
タチアナの夢の中、鏡の中から現れた彼との愛のPDD.
高まる音楽、回転しながらのリフトの連続が高揚感を表す素晴らしい振付。
ここでのタチアナは、内気な少女から恋する女性に変貌を遂げ、内なる情熱を踊りに込めて、魅惑的な女性としてのポテンシャルの高さを発揮。
美しい愛の成就・・・彼は鏡の中に消え、幻想に力を得た彼女は熱烈な恋文を書き始め乳母に託します。



そしてタチアナの誕生日、田舎貴族が集い、舞踏会が開かれます。
手紙を読んでくれたかしら?
期待に顔を輝かせているタチアナと対照的な、無関心なオネーギンの様子。
彼はこの舞踏会を田舎じみたものとはなから馬鹿にしているので年長者が挨拶しても完全にスルーしてしまいます。
一応礼儀にのっとって、人目のないところで手紙を返そうとするオネーギン。
いいえ、それは差し上げたものですから・・・と受け取らないタチアナ。
えぇい察しの悪い娘だ、とばかり彼女の背後に回り、肩越しに破り捨てた手紙を彼女の手に押し込むオネーギン。
これほど残酷なラブレターの返答はないのではないでしょうか。

彼女に思いを寄せる遠縁のグレーミン公爵。
見る目のある大人の男性。彼はタチアナの聡明な美しさ、内に秘めた情感に気付いているのでしょう。
「眠り」で白塗りのカラボスを鮮やかに演じたジェイソン・レイリーがここではロマンスグレーの渋い男性として華を添えます。
この人は背が高くて筋肉のつきかたがとてもきれいな大人っぽい体型をしていて、とても舞台で映えますね。






シュツットガルト・バレエ団「オネーギン」 ①

2008-12-01 03:50:50 | BALLET
11月30日、15:00から、東京文化会館で「オネーギン」を観て参りました。
これは今回のシュツットガルト・バレエ団の東京公演の楽日にあたります。

一言で言って、夢のような舞台でした。
素晴らしい美術、美しく役柄に合った配役、見ごたえのある振付・・・
主要ダンサーはおしなべて踊りが美しく、演技にもそれぞれの解釈の深さが現れていて惹きこまれました。

まずは本日のCASTから・・・

Stuttgart Ballet  ”ONEGIN”
2008年11月30日(日)15:00 東京文化会館

振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー
編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ

オネーギン:フィリップ・バランキエヴィッチ
レンスキー:アレクサンドル・ザイツェフ
ラーリナ夫人:メリンダ・ウィサム
タチヤーナ:マリア・アイシュヴァルト
オリガ:エリザベス・メイソン
乳母:ルドミラ・ボガード
グレーミン公爵:ジェイソン・レイリー

指揮:ジェームズ・タグル
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団