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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

ルグリ先生の「ジゼル」 ③

2008-09-24 04:07:22 | BALLET
第2幕。
漆黒のベルベットのマントに白百合・・・。
マラーホフのそれがややロマンティックで耽美的な印象だったのに対し、ルグリの出はまた違った、貴族的な佇まいに深い内省を感じさせます。



数分前ヒラリオンが墓参りに来たときに出た人魂は姿を現さず、ウィリーの仲間に叙せられたジゼルがそっとその姿を現します。
フワリとその小出さんを空気のようにリフトするルグリ。
小出さんの 一幕の村娘とは打って変わったしっとりと大人びた、でも現世感のないウィリは深い絶望の中にあるアルブレヒトの心が映し出した空蝉か、それとも霊か・・・
舞台はすでに夜の墓場、生身の人間が立ち入る領域ではありません。

木村さんのヒラリオンが下手奥から上手手前の女王ミルタまで、にズラリと並ぶウィリの前に突き出されます。
踊らされる木村さんの演技がスゴイ。
美しい脚のラインが描くジャンプのきれいなこと。でも表情は怯え、すがり、あくまで苦しげ。
ミルタに命乞いするも、高木さんミルタはどこか淋しげなお顔立ちながら、冷酷に拒絶。
(高木さんと言えば、東バ若手ソリスト衆の中でも、品の良いおおらかさを感じさせる優しいお顔立ちのイメージがあったのですが、この公演ではミルタの役作りのため(?)、少しウエイトを落とされたのかお化粧法を変えたのか、シェーディングが施されたかのように頬がそげて面変わりされているように感じてちょっと驚きました。)
散々踊らされた後一番末席に位置する2人のウィリが両側から腕をつかんで一回転させ、沼に突き落とすダメ押しつき。
愛するジゼルを悼んでそっとお参りに来たヒラリオンには申し訳ないのですが、どんどんエスカレートする死の舞踏のテンポの良さ、音楽の高揚感に、キチッと揃ったウィリ軍団、で妙にワクワクしてしまいました。

次の獲物は・・・アルブレヒトが。
一人では踊らせないわ。ジゼルが間に入り、折々にミルタへの命乞いをしながら、アルブレヒトと踊ります。
ルグリの端正な姿を小出さんの小柄な身体が十字架の形で盾になってミルタの視線から守る場面、小出さんからなんともいえない慈愛と慈悲を希う心が広がり出て、一幕で少し緊張されていた感じがこのときはすっかり解き放たれたよう。

PDDの後はジゼル、そしてアルブレヒトのヴァリ。
ローザンヌなどのコンクールでここだけ踊られることも多いこの有名なヴァリエーション、平素過剰なことをしないルグリがオッと驚くほど脚を高く上げ、大きく踊ります。
でも音楽から逸脱することなく、でも自身の限界を超えた踊りをしている、と思わせるこれは、やはり超自然の力で踊らされている、という設定に対する答えなのか・・・
圧巻でした。

続くブリゼ、マラーホフの空中浮遊(?!)に対してさて、と身を乗り出すと??
振りを変えてきたのか、ルグリは走ってミルタに命乞い、を繰り返します。
その後の踊りはさすがの演技力でわたくしは気がつかなかったのですが、注意深く見ていた友人によると右足だけでジャンプをしていたそう・・・

朝の鐘。去っていくウィリたち。
ジゼルの墓の前、再び捧げた白百合を手にするアルブレヒトに、墓に消え行く寸前そっと小さな白い花を手渡すジゼル。
ハラハラと百合を落としながら、その花を夢を見るように眺めてそっと手にしながら、ルグリは墓に突っ伏してはおらず、舞台中央に膝で立ちながらそっとその花を掲げて胸に当て、朝日が当る顔を上げて・・・という、アルブレヒトの一夜の冒険(?)が静かな死と愛による再生で幕を閉じようとする瞬間、涙が一筋だけ流れました。



マラーホフの時は一幕から折りに触れて泣けて仕方がなかったのですが、この時はラストだけ・・・
どちらが深い、ということではないのですが、我ながら不思議です。

熱心な拍手が続く何度にもわたるカーテンコール、ルグリ先生は笑顔で応え、小出さんの初役成功を讃えて、何の異変も感じさせず。
楽屋口でも特に足取りが重いということもなく、待たせてあるタクシーに向かいながら取り巻くファンのためにサインをし、次には10月5日、Trevisoでお会いしましょう、と声をお掛けすると、ちょっと驚きつつ満面の笑顔で応えてくださったのですが。

翌日の大阪公演、一幕を素晴らしい貴公子ぶりで勤めて、2幕をキャンセル。
2幕は上野水香さんとのペアでこのジゼルウィーク中、アルブレヒトを一日だけ務めた東バの高岸直樹さんが立派にその穴を埋め、公演自体は滞りなく行われたそうですが、NBSのHPによると左太ももを痛めてしまわれたそう。
8月上旬のエトワール・ガラ、ハンブルグでの教え、連日のジゼル公演に加え、今回特別企画で舞台を終えた後、「スーパー・バレエ・レッスン」と称した東バ若手3人への1時間半の教えの公開、となかなかのハードスケジュールが続き、さすがの鉄人ルグリ先生といえどもお疲れだったのかもしれません。
ご無理はしていただきたくありませんが、早いご回復を心よりお祈りいたします。



ルグリ先生の「ジゼル」 ②

2008-09-20 04:15:23 | BALLET
16日、楽日のジゼル。
東京文化会館4列目センターブロックという、会員席の中でもかなり好位置での鑑賞・・・。
追加公演の先行予約、頑張って良かった
後の席に歌舞伎好きのお友達をバレエ界に引きずり込もうと目論んでいるらしき男の子がいて、始まる前とか幕間に一生懸命解説をしているのが面白かったのですが、それはさておき。

小出さんのジゼルは2回目のこの日、第一幕はラブラブモードの純愛マラーホフとの時よりも、手練手管の恋の駆け引き慣れした風情のアロガントな貴公子ルグリの手の中でやや物堅い感じ。
パートナーによって印象が変わるのは当然ですが、いつもの柔らかで音楽にのった流麗な踊りの印象からすると、少し緊張しているのかあるいは慎重になっているのかも・・・・と思わないでもありませんでしたが、勿論そつなく小鳥のようなジゼルを表現して。



ルグリ先生のアルブレヒトは衣装も明るい茶系にお袖だけトリコロールの色が入ったオペラ座バージョン。
ジゼルにはとことん甘くスマートに接するが、従者やジゼルの母には思いがけず冷たい顔も見せる落差が。
ドアをノックしてすぐに姿を隠し、ジゼルがウキウキと飛び出して彼を探しまわるサマをみて楽しみ、背後からフッと耳元に息を吹きかけたり、ベンチにスカートをふわりと広げて座るジゼルを促して半分場所を開けさせて掛けるや否やすぐに腰に腕を回して引き寄せようとしたり、家に帰るジゼルの腕を取ってエスコートしながらドアの前で一瞬腕をとって引き寄せたり・・・のフレンチな恋愛作法が、ジゼルならずともこんな貴公子にそうされたら陥落せざると得ないでしょう、と思わせるのがさすが。
村人に囲まれてのパ・ド・ドゥではここからそんなにとばして大丈夫ですか?と思うほど脚を高くあげて大きな踊りを見せるルグリ。いつもより短髪のヘアスタイルがローマの将軍のような男らしさとスポーティな若々しさを見せていて今なら「スパルタクス」のクラッススなんかも似合いそう・・・と勝手な妄想が頭をよぎる。
40をとうに超えたエトワールとは到底思えないほど演技には若さが漲っています。

ヒラリオンの木村さんはこの役を極めているだけに、演技が細やか。
登場してジゼルの家の戸をノックしようとしてそっと自分のその手を押さえ、いやいや今日はこのまま帰ろう。狩りの獲物を入り口のポーチにそっと置き、帽子にかざった白いマーガレットを捧げようとして、また逡巡、さりげなく窓辺のプランターの花に紛れ込ませる辺り、控えめな愛情表現が却って押さえた想いの熱さを感じさせる。(ちなみに初日の後藤ヒラリオンは獲物をドア脇のフックに掛け、帽子のお花に音をたててキッスしてからその獲物の飾りにして家に向かって投げキッスをして意気揚々と去る、という陽性のヒラリオンでした)
パ・ド・ユィット、ペザントの踊りは、この日は若手が中心。その中では西村さんの踊りが抜きん出てキレイ。
つい彼女だけを観てしまいます。



狩猟を楽しむ貴族の一行。
バチルド姫の井脇さんが踊りがない役どころなのに存在感と演技力で、観ているとつい台詞をアテレコしたくなります。高雅で美しい姫ですが、どこか包容力のある性格。
アルブレヒトの父である公爵が姫をとても大切にしている感じから、きっと近隣でも名君主として名を馳せている父領主と公爵は親友どおしで姫はそのお嬢さん、という関係。で、是非にと請われてお嫁入りの運びになっているのかも・・・などと妄想が(笑)

このメンバーが絡む、一幕の最後、コトが露見してジゼルが壊れる狂乱の場はそれぞれの濃い存在感が炸裂。
はい、観ていて忙しかったです(笑)
公爵と姫はジゼル家で一休み、他の貴族と従者は一時解散、集合は角笛で、という一時、広場にまた村の若人が集いジゼルとアルブレヒトが楽しく踊っている最中、2人の間にアルブレヒトが隠していた剣の柄を振り下ろすヒラリオン。
伯爵様失礼を、と仰々しく挨拶。
何をするのと驚くジゼルに憤るアルブレヒト。
角笛を吹くヒラリオン。

貴族に囲まれ、お前はこんななりでどうしたのだ?といぶかる公爵にいや、ちょっとした余興ですよと余裕で応え、あら、いらしたのね、と嫣然と微笑むバチルド姫の手を取って何事もなかったかのようにとっさに振舞うアルブレヒト。
突然の展開に我を忘れ、私の彼に何をするの!と2人の間に割ってはいるジゼルに、先ほどわたくし婚約しているとお話したでしょう、彼が婚約者なのよとバチルド姫。
そんな・・・!
あまりのことに心が壊れていくジゼル。
全てを見て取り、あなた何をなさったのかおわかり?とジッとアルブレヒトを非難のまなざしで見つめ、一歩も引かない姫。
花占いの様子を思い出して再現するジゼルに涙する村人たち。
突如、剣をつかんだり右往左往するジゼルに抱きとめようとするアルブレヒトとヒラリオン。
でももうジゼルの目には誰も見えてはおらず、彼らに駆け寄りつつもその腕をすりぬけ、虚空を見つめます。
その視線の先を追って同じようにうろたえるアルブレヒト。
すりぬけられた我が腕をジッとみて凍りつくヒラリオン。
姫をこの愁嘆場に巻きこむまいとそっと肩を抱いて背を向けさせる公爵・・・。
普通、狂乱のジゼル一人に視線が集中するシーンですが、この日は結構忙しかったです(笑)



ルグリ先生の「ジゼル」 ①

2008-09-17 01:58:53 | BALLET
9月16日、再びゆうぽうとに。
今日は小出さんの相手役、貴公子アルブレヒトはマニュエル・ルグリ。
ParisOpera座のエトワールの中でもテクニックとノ-ブルな役どころの演技力は随一。
円熟のアルブレヒトが期待できます。
それにしてもNBS、「貴公子対決」とは企画上手すぎます・・・

この日の配役は・・・

―主な配役―
ジゼル: 小出領子
アルブレヒト: マニュエル・ルグリ
ヒラリオン: 木村和夫

―第1幕―
バチルド姫: 井脇幸江
公爵: 後藤晴雄
ウィルフリード: 野辺誠治
ジゼルの母: 橘静子
ベザントの踊り(パ・ド・ユイット): 西村真由美 - 横内国弘、乾友子 - 宮本祐宜
阪井麻美 - 梅澤紘貴、河合眞里 - 小笠原亮
ジゼルの友人(パ・ド・シス): 高木綾、奈良春夏、田中結子、
吉川留衣、矢島まい、渡辺理恵

―第2幕―
ミルタ: 高木綾
ドゥ・ウィリ: 奈良春夏、田中結子

指揮: アレクサンドル・ソトニコフ
演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

-タイムテーブル-

第1幕 19:00 - 19:55  休憩20分 第2幕 20:15 - 21:10




小出さん初役「ジゼル」 ③

2008-09-16 05:10:25 | BALLET
2幕はミルタの井脇さんのパドブレがこの場がウィリの世界であると知らせます。
厳しく直線的で硬質な動きで表現されることの多いウィリの女王ミルタですが、井脇さんのミルタはしなやかな上体、優美な指先の表情で、威厳と品格を醸し出しながらもなんともエレガント。

ミルタに仕えるドゥ・ウィリの西村さんと乾さんも同様に柔らかさと品格を持つバレリーナなので、腕や上体の角度に至るまで見事に揃ったコールドの美しさも相まってこの世のものならぬ世界、が何の破綻もなくそこに息づいている、と思わせる様は見事。



場面は夜の墓場。ジゼルの墓前へ現れるヒラリオン。
鬼火に驚き立ち去る。
次にアルブレヒトがミッドナイトブルーのマントに身を包み、白百合の大きな花束を抱えて現れる・・・。
この場面の耽美的な美しさはマラーホフならでは。
悔恨に苛まれるアルブレヒトの目の前にウィリとなったジゼルが現れ、誘う。

婚礼前に死んだ娘がなる亡霊、それがウィリ。
墓所に訪れる男性を躍らせて死に至らせることを使命とする彼女たちがヒラリオンを捕らえる。
見事なジャンプを繰り返しつつも命乞いをする彼を容赦なく躍らせ沼に突き落とすウィリ。
優雅なウィリだけにコワイ・・・・。

そしてアルブレヒトも・・・。
ミルタの前、音楽を先取りするような高速のブリゼで何度も舞台を横切るのですが悲痛な表情とは裏腹にそのパは軽やかで床上数センチをキープして浮遊しているかのよう・・。
さすがマラーホフ。
昨年は怪我、その前数年はウィーン、そしてベルリンと芸術監督の激務のせいか、心なしか衰えとまではいかないがお疲れでは?と思えたことの多かった彼の舞台でしたが久し振りに万全充実の舞台を見ることが出来たような気が。

もう息も絶え絶えで許しを請うてもミルタの拒絶。
そのアルブレヒトの前、自らを十字架の形にして彼をかばう小出さんジゼル。
ミルタに対して強く懇願するというよりもアルブレヒトへの愛が彼を守るという決意となって自然と行動してしまった・・・という静かなる母性。
2幕の小出さんのジゼルは愛らしい丸顔でありながら、どこかオトナな昔の日本女性ってこんな感じだったのでは・・と思わせる控えめな芯の強さと優しさに、肉体を超えた精神性を色濃く打ち出した、出色のジゼル。
足音もなくたっぷりとしたアダージョで踊ることができる、というこの2人にオケ(ソトニコフ氏)のピッタリと合わせて、思わず息を呑みながら凝視。

やがて朝が来てウィリたちが去り、ジゼルも自らの墓で白い花を一輪手渡してアルブレヒトの前から姿を消します。
墓前に供えた百合の花束を抱えそしてハラハラと取り落とし、ジゼルからの白い花を手に、崩れ落ちるアルブレヒト・・・・。



舞台の上でのドラマ、という枠を超えて、劇場全体がこの「ジゼル」の時間を生きる稀有な体験をしました。
全幕ものでもここまで入り込めるのは稀なこと。
カーテンコールで大きな拍手を受けて、温かく微笑む井脇さん、落ち着いた小出さん、そして未だアルブレヒトから戻って来れないでいるマラーホフの、3人三様の表情が印象的でした。



小出さん初役「ジゼル」 ②

2008-09-14 13:29:37 | BALLET
配役表を見て、あぁ初日にして良かった!と思いました。
ソリストクラスが勢ぞろい。ジゼルの友人、パ・ド・ユィットに至るまで見所が多く、いつもは木村さんが定番な恋敵ヒラリオンを小出さんの実生活でのパートナーである後藤さんが演じるのも珍しく興味深い。
そしてミルタは大本命の井脇さんで、ドゥ・ウィリはお気に入りの西村さんと乾さん。

さて。序曲からソトニコフさんの注意深い指揮棒に応える東京シティフィルも心なしか音が滑らかなような・・・・

という期待がことごとく当った舞台でした。

マラーホフの出、からしてハッとさせるものが。
黒いマントに身を包みジゼルの家の前に忍んで来た貴公子アルブレヒト。
腰の剣をはずし、鄙の装いに身をやつしている・・・という設定でこの衣装は村人風のものではあるはずが、白いブラウスにチャコールのベスト。グレーのタイツで、やや簡素ながらも都会的。
久し振りに変に固めず(笑)サラサラの金髪がまぶしいマラーホフにはよく似合う。
マントを取って身体のラインが露わになった瞬間、あぁなんてきれいなダンサーなのだろう・・・と心から思った登場シーン。

ジゼルの家の前に現れるもう一人は彼女に片思いの森番ヒラリオン。
東バでは木村さんが濃い演技と端正な踊りで演ずるのが定番の役どころですが、今回は後藤さん。
に、似合う・・・!
長身で欧米人のような立体感のあるプロポーションながらカールしたくしゃくしゃヘアと白塗りが今ひとつ似合わないお顔立ちの後藤さんが茶色の毛皮やスウェードづかいに髭のワイルドな姿で颯爽と現れた瞬間。これだわ!と膝を打ちました。
今日の獲物の山鳥を小さな花を添えてそっとジゼルの家の扉脇に残して大きく投げキッスをする明るいオーラ全開の後藤ヒラリオンからは村一番の好青年、という言葉が自然に・・・。
木村さんは踊りも端正、ノーブルな持ち味が、いつも森番、というには・・・と引っかかるものと感じていたのでなんだかスッキリ(笑)

アルブレヒトは領主の息子。見初めた村の美少女ジゼルとの逢瀬を身分を隠して時折楽しんでいる・・・というお話。従者は諌めますが意に介さず、ジゼルを呼び出します。
ジゼルにとっては初恋。花占いで悪い結果を予想して気を落とす彼女から花を受け取りそっと一枚ちぎってほら良く見てご覧と微笑みかけるアルブレヒト。
殿様の戯れの恋にしてはあまりに優しく甘いマラーホフの役作り。
小出さんのジゼルは心臓が弱い・・・という設定もあり、愛らしく可憐ではありながら、どこかひそやかなはかなさを感じさせ、交わす視線もどこかいじらしい控えめな感じがあります。
小柄で均整のとれたスタイルに小づくりなお顔立ちの小出さんにはそんなジゼルがぴったり。
初役のはずですが、後藤さんをお稽古の相手として万全の準備を重ねてきたというだけあってジゼルがすっかりと身についているという印象です。

2人の様子を物陰から伺っていたヒラリオンがジゼルに愛を訴えるがアルブレヒトに追い返される。
もみ合った際にふといつもは挿している腰の剣を抜こうとする仕草と上段から構える態度に村人ならざるものを感じ怪しむヒラリオン。



秋のぶどう狩りの若者が集まって広場で踊り、その中で踊るジゼル。
音楽性豊かな小出さんのジゼルのバリエーションは柔らかなポアントとコントロールが素晴らしい。
パ・ド・ユィットで目を惹いたのは、アクセントとなるポーズの決まり方や美しさに風格さえ感じさせるさすがプリンシパル・・の中島周さん、初役の井脇さん似の美人でコールドの頃から目を惹いていた吉川留衣さんを巧みなサポートで大きく踊らせる平野玲さん。
平野さんは吉川さんと組むのは初めて、とおっしゃっていましたが、手足が長くて爽やかな雰囲気を持つ二人の並びはわたくし好み。今後も見る機会が増えるといいな、と思ったペアでした。
乾さん-長瀬さんの初役ペアも注目しているので・・・今後伸びるのでは?と期待。

ジゼルの友人にも西村さんを筆頭に高木さん奈良さん田中さん・・・とこのところソリストとして活躍の若手女性陣が配されて華やか。
西村さんはジゼルに対してとりわけ感情豊かな演技で接していてアームスの柔らかさと共に目を惹きました。

心臓が弱いジゼルが つと踊りの輪から離れ、アルブレヒトが優しく気遣いますが、家から出てきた母親ベルタがジゼルを家に入れてしまいます。
貴族の狩りを楽しむ一行の到着を告げる角笛に驚き姿を隠すアルブレヒト。
ヒラリオンはある確信を持って小屋の中を探し剣を発見。

アルブレヒトの父、クーランド公爵、婚約者バチルド姫らはジゼル家に飲み物の接待を依頼。
美しいバチルド姫にそっと近づき無邪気に衣装にふれてしまうジゼル。
その純粋さに感じた姫がジゼルに自分のネックレスをかけてやり、打ち解けて自分が婚約中であることを話しつつジゼルの家の中で休息。

再び広場に若者たちが戻り、アルブレヒトも姿を現す。
そこでヒラリオンによる暴露。この剣が証拠だ。
ヒラリオンが吹く角笛で貴族が登場。
村人の姿のアルブレヒトは父に挨拶、婚約者の手をとる。混乱するジゼルにほら、婚約者がいるっていったでしょわたくし、と指輪を示す姫。
裏切りを知ったジゼルはショックのあまり、花占いの仕草をしたり現実と夢の区別がつかなくなり皆の中心で彷徨い壊れていく。
この「狂乱の場」はバレリーナにとってひとつの演技力の見せ所。
哀れを誘うか激しい感情の揺れを強調するか・・・・髪の乱しかた一つとっても個性の出るところ。
小出さんジゼルはアルブレヒトにもヒラリオンにも届かないどこか遠くに行ってしまったという静かな哀しみによる締め付けられるような思いが息の根を止めた・・・という一幕ジゼルの演技全体のトーンを崩さない、控えめともとれる演技でこの場を表現。
悲痛のあまりヒラリオンに突っかかるアルブレヒトを気遣う従者、殺すなら殺せ!と堂々胸を差し出すヒラリオン、目で非難するバチルド姫、姫を気遣いその場を去らせる公爵・・・それぞれが自分の時間を舞台上ではっきりと生きている東バの脇にあってはジゼルが突出しない抑えた演技は自然にドラマに吸収されてバランスが良かったと思います。