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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

シムキンくんの「ドン・キホーテ」

2010-08-25 04:50:40 | BALLET
8月22日の日曜日、五反田のゆうぽうとホールにて、
前回のバレフェスで台風の目となった、ダニール・シムキンくんをゲストに迎えた、東京バレエ団の
「ドン・キホーテ」を観て参りました。

「ドン・キホーテ」

◆主な配役◆

キトリ/ドゥルシネア姫:小出領子
バジル:ダニール・シムキン
ドン・キホーテ:森川茉央
サンチョ・パンサ:高橋竜太
ガマーシュ:平野玲
メルセデス:井脇幸江
エスパーダ:後藤晴雄
ロレンツォ:永田雄大

【第1幕】
2人のキトリの友人:西村真由美‐佐伯知香
闘牛士:松下裕次、長瀬直義、宮本祐宜、梅澤紘貴、 柄本弾、安田峻介、柄本武尊、岡崎隼也
若いジプシーの娘:高木綾
ドリアードの女王:奈良春夏
3人のドリアード:吉川留衣、渡辺理恵、川島麻実子
4人のドリアード:森志織、村上美香、岸本夏未、阪井麻美
キューピッド:河合眞里

【第2幕】
ヴァリエーション1:佐伯知香
ヴァリエーション2:乾友子

協力:東京バレエ学校
指揮:ヴァレリー・オブジャニコフ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

◆タイムテーブル◆
第1幕 15:00 - 16:15
休憩 25分
第2幕 16:40 - 17:30

昨年、夏以来、バレエ・ファンの記憶にしっかと刻まれたCUTEな超絶技巧ダンサー、ダニール・シムキンくんを迎えての全幕。

シムキンくんの超絶技巧をナチュラルに見せるキレイに伸びたつま先と優雅な動きにただの技巧派ではないクラシックの確かな基礎と芝居心を感じ、小出さんの落ち着いた、でもかわいらしいキトリとともに見応えのあるセンターでした。

・・・が、なんといってもそこは東バ。
主役を囲む方たちが濃くて、充実していて・・・^^
メルセデスの井脇さん、出、からしてパッと華があって美しい~
気合の入った後藤さんともども、大人の魅力満載で、小柄な主役ペアと好対照、4人の並びがとてもバランス良くてキレイでした。
酒場のシーンでのメルセデスの存在感いかんで、この場面の厚みが変わってくるのですが、きれいに沿ったお背中と余裕の微笑み、エスカミリオとのちょっとした視線の絡ませ方などにも観客の眼を惹きつける魅力がいっぱいでした。
贅沢を言えば、エスカミリオはゆったりとした後藤さんよりもキレキレにポーズを決めてくれそうな木村さんとの並びのほうが、井脇さんのカッコよい姐御感が増したのでは・・・とも思うのですが。
でも、ジプシーの野営地で実は奥さまである小出さんとシムキンくんを前に、色々な意味で負けられない!!と渾身のソロを踊り切る後藤さんのお姿には手に汗を握りました^^;
視線、と言えば、シムキンくんと小出さんも恋人どうしらしく、常に相手に視線を絡めていてお芝居的にも良い感じ。

他に目立っていたのは小芝居を超えて濃芝居ムンムンの平野さんのガマーシュ。
常に挙動不審な態度で動いているし、やたらとセンターに絡んでくる存在感MAXのガマーシュですが、最後、酒場のシーンでバジルに挑戦して一踊りした後、シムキンくんの超絶技巧に・・・参った、と負けを認めるところがツボ。

キトリの友人、佐伯さん、西村さんはともにお気に入りのダンサーで嬉しかったのですが、後半のヴァリで西村さんの代わりに乾さん・・になっていたのでびっくり。
当日会場で渡された配役表には組み合わせは日替わりなれど、2人のセットは変わらないはずだったので・・・。
乾さん自体は、芯の通った端正さとスマートな雰囲気が好みのダンサーでヴァリも良かったのですが、西村さんがどこか不調なのではなければよいのですが。
群舞の方に入られてその場にいらしたので、大きなけがとかではなさそうなのでひとまず安心。

若いジプシーの娘、この役は吉岡さんと井脇さんの専門、だったのですが、高木さんが入ってきましたか!
高木さんはおっとりとした雰囲気の美人さんでロシアバレエ系のしっかりとしたテクニックと優雅な雰囲気が売り、だと思っていたのですが、意外とこういうスパニッシュでエキセントリックな感じが合いますね。
吉岡さんや井脇さんにはない、ちょっと土臭いジプシー女っぽさすらも漂わせてくれたのは思いがけない味でした。
あ、なぜかわかりました。お顔立ちがちょっとフラメンコダンサーの小松原庸子さんに似ていらっしゃるのだわ!

キューピッドの河合さんは、シルヴィアのときの全身小花模様の山羊さんが可愛かったのですが、キューピッドとしてはやっぱり唯一無二の高村順子さんの域にたどりつくのは難しそう・・・。
いや、河合さんが悪いのではなく、高村さんのキューピッドが特別なのですが・・・


ドンキはクラシックの全幕の中でも、技巧と元気な溌剌感で見せる部分が多いので比較的小柄なダンサーでも主役を張れるのですが、やっぱりちょっとジャンプしただけでも場をさらえる長身ダンサーのダイナミック感はないので、やたらと回転技が多くなり、それ単体では素晴らしいのですが全幕それで押し切られるとなんというかちょこまかとして・・・ウヴァーロフとか高岸さんとかの大きな演技やホセ・カレーニョのエレガントな味のあるフェッテとか色々と思いだしてしまいました。

あと、自殺したふりをして結婚の許可を得て、ちゃっかり蘇る・・・の流れが、周りの小芝居が過ぎたのか本人の表現がちょっと走ってはしょった感じになったせいか、若干分かりづらかったのが気にかかりました。
天才とはいえ、まだまだ少年(?)これからの課題もあり・・・頑張って欲しいです






ニコラ・ル・リッシュの「ボレロ」 ③

2010-08-18 11:06:46 | BALLET
本日のメイン・イベント。
「ボレロ」

赤い台のセンターに立つニコラ。
音楽(録音)が始まると、暗闇の中、手、だけにスポットが当たります。
ス――ッと伸びた指、空気をスッと軽やかに裂いて滑る動き。
正確に刻まれる膝と下半身が刻むリズム。
端正な、完璧にコントロールされたそのリズムに引き込まれていると、だんだんとライトが全体に当たって、
黒い足首までのパンツ姿のニコラのむき出しになった上半身が現れます。
うーん。大きい・・・。
永遠の青年・・・どこかナチュラルなどこにでもいそうな、(でもどこにもいない)青年らしい風貌と若々しい量感のある引き締まった体躯がプロフェッショナルなダンサーとして洗練されていながらも、生身の人間を感じさせるのが彼の魅力でもあり、持ち味でもあります。
その白い大きな身体が、踊りが進み、音楽が高まるにつれて中心部からほんのりと赤みが増してくるあたりにあぁ、ニコラだなぁ、と。
かといって、破綻していくほどに自分をたたきつけていく、というわけではなく、充分に余裕を持ってコントロールしきっていながらにして、しっかりと熱い、という。
彼らしい、本当に魅力的なボレロ、でした。

センターで踊る”メロディー”と周囲を囲む”リズム”の呼応する様が、この「ボレロ」のもう一つの見どころでもあるのですが、ほっそりとした東バダンサーの中にあって、ニコラは一人、異様な大きさでもって君臨する王様、でしたね。
ただ、例えばシルヴィー・ギエムのようなシャーマン的な要素はあまりなく、最後まで神がかったり、天と交信(笑)することはなく、明らかにこの集団を率いるリーダーとして、場を熱し、盛りたてていく・・・という感じに見受けました。

彼を囲む”リズム”隊、ものすごい目力で、しっかとニコラを見据えて離さない平野さん、抜群の身体能力によるキレの良い動きで場を引き締める松下さん。
この二人がまず始動して、脇を支え、そこに長瀬さん、宮本さんが加わり・・・。
最後、ニコラに正面から向き合い、客席に後ろ姿を見せるセンターポジションに位置していたのは高橋さん。
ニコラを見ながら、彼の後姿もセットでフォローしてしまいました^^

最後まで一体感が崩れず、カーテンコールでも、気さくに左右の平野さん、松下さんと肩を組むニコラ。
この日が3日間の公演の千秋楽、ということもあってか、スタンディングオベーションの興奮がようやくおさまり、幕が下りたあと、幕のあちら側から男組の(という感じでしたので^^;)歓声が聞こえてきました。
ニコラ兄貴と仲間たち公演(笑)
お人柄どおりの踊りで、とてもよかったです。

「ボレロ」は、踊り手の内面全てが出ますね。
ベジャールがメロディーを踊ることを許したダンサーを振りかえると、男性はどこか伸びやかな青年らしさのある人。
(ゆえに、硬質なルグリや内に向かう芸風が魅力のジル・ロマンは望んでも許可されず)
女性はちょっと巫女的な要素のある大柄なタイプ?(エリザベット・ロス、シルヴィー・ギエム、上野水香ちゃん・・・あ、男性ですが、シャーマン的、ということならジョルジュ・ドン、そして首藤さんもこのカテゴリー?)

今回、祭典会員よりも、アッサンブレ会員の先行予約が優先される、と聞き、シムキンくんのドン・キホーテも同様、ということでしたので、思い切って(そのために・笑)アッサンブレの会員に申し込みましたが、その甲斐あっての5列目センター。
ゆうぽうとは今回オーケストラ・ボックスがなかったので、実際にはその前に4列あったのですが、平面の4列の後の傾斜の入った5列目でしたので、センターでもとても見やすく、堪能できました。




ニコラ・ル・リッシュの「ボレロ」 ②

2010-08-18 10:30:58 | インポート
*編集画面の調子が悪いので、新規に記事を立てました。

まずは、「ギリシャの踊り」から・・・

東京バレエ団恒例の、夏のヨーロッパツアーの成果でしょうか。
潮騒の音をバックに、白い少し裾の広がったパンツ姿の男性と黒い背中が開いてフロントはボートネックの黒のレオタード姿の女性の群舞が静かに始動。
うっすらと日焼けした団員もいますが、最初から目を奪われたのが、男性ダンサーの充実。
「ギリシアの踊り」と言えば、この作品が踊りたくて東バに入団したようなものです、とかつて語ってくれたプリンシパルに就任まもなく若くして退団してしまわれた中島周さんの端正で伸びやかな音楽性豊かな踊りがまだ記憶に新しいので、正直、後藤さんがソロか・・・・という時点でテンションが下降気味だったのですが(ゴメンナサイ、後藤さん!)いやいやどうして、目を惹く男性ダンサーが舞台上に揃い踏み・・・で、楽しく観ることが出来ました。

まず、宮本さんと長瀬君の並びが新鮮。
ほっそりとしなやかな身体の線の美しさとどこか耽美的な雰囲気のある長瀬君と、かっちりとした造型で、着実な踊りを見せながらもどこかで失速しがちだった宮本さんが、この踊りでは、その緊張感を解くことなく、きれいに踊り切っていることに感心。

平野さんと高村さんのPDDは、東バ一の役者魂?(笑)を持つ平野さんと、すでにベテランの域に達しながらもキュートな役作りに定評のある高村さん、踊りの質や身体バランスがスゴク合う、というわけではないのですが、二人とも表情豊かであるというところに共通点が^^?

ハサピコお二人は華やかさと安定感でさすがはベテランプリンシパルの輝き。
木村さんと美香さんって、昔から、高岸さん斎藤さんペアの2番手どころで主役を務めていらしたベテランですが、あるときを境に大きく芸風がかわったように思います。
木村さんは、もともとテクニックに優れていて、端正でシュアな踊りに定評があったものの、どこか物堅い感じがつきまとっていましたが、どこかで殻を破られたようで、いい意味でのけれん味が出てきて、本当に観ごたえのあるダンサーです。
細身の若手が多い中、引き締まって陰影のある上半身にきれいについた筋肉は大人の存在感(?)を示してさすが、です。
吉岡さんは、その美貌、透明感は時に侵食されることなく不動なれど、エレガンスだけでない、何か個性的なものを、振付家、演出家の求めに応じて引きだして見せることのできる不思議な個性の持ち主。
今回は、長い手脚をきれいに見せた難しい技巧的なリフトをきれいに決めてくれました。

全体を通して印象に残ったのは、高橋竜太さん。
踊りに、振り、だけではない空気感や作品のスピリットを繊細にひとつひとつの動きに込めている感じと、長身ではないのですが細くて長い手足に華があり自然と目が行きます。
女性では、乾さん。もともとクールビューティで、着実な安定感のある踊りの彼女ですが、今回、皆と同じ衣装でも、どこか大人の女性らしいエレガントな雰囲気が漂って、今までよりも一層ムーブメントが洗練されていたように感じました。
今回、長いヨーロッパ・ツアーのあと、ということで、団員にも色々と経験や感じることがあって、それぞれ進化していらっしゃるのだろうな・・・と頼もしくさえ思えました^^

最後、また潮騒をバックに群舞で終わるところまで、ニコラの「ボレロ」のおまけか何かのようにあまり期待しないで観ていたのに、すっかり満足してしまいました^^
夏・太陽・風。。。って素晴らしい。
外の猛暑で、もう夏は結構・・という気分だったのが一新(笑)



休憩をはさんで「ドン・ジョバン二」

その場にはいない幻のドン・ジョバン二を思って、女性ダンサーたちが思い思いのソロを次々に繰り出します。
ヴァリ2の佐伯さんの伸びやかさ、4の西村さんのしなやかさはもとより、あまり好みではなかった(失礼!)奈良さんのスッキリした踊りのラインの爽快さが印象的でした。
ヴァリ6では翌週シムキンくんとの「ドン・キホーテ」で主役を務める小出さんが登場。
相変わらず手首から先のフォルムが美術工芸品のように美しい・・・。
ヴァリ3でお茶目な高村さんと艶やかな井脇さんが、お互い関係なく(笑)それぞれマイペースで(そういう振り、なんですが)踊っているのがステキ。
女性陣は全員揃いの短いフレアスカートつきのピンクのレオタード姿なのですが、時々、白いロマンティックチュチュのシルフィードが横切ります(笑)
これは完璧バレリーナ体型・お顔立ちの吉川留衣ちゃん。
ルグリ先生の公開レッスンでもシルフィードを指導され、ルグリ先生に舞台の上手から下手まで流れるようなリフト移動で本当の妖精のようだった彼女。
そのうち、本公演で、シルフィードの主役を観てみたいバレリーナさんでもあります。
リラックスしたムードの可愛らしくて楽しい演目。



ニコラ・ル・リッシュの「ボレロ」 ①

2010-08-15 22:21:22 | BALLET
久しぶりの更新です。
実はここしばらく、宝塚星組にまつわる活動が色々と・・・
後日、ゆっくりと振り返ってみたいと思いますが、とりあえず、今日のところはパリ・オペラ座エトワール、
ニコラ・ル・リッシュの日本初「ボレロ」の感想など・・・

2010年8月15日(日)3:00pm  ゆうぽうとホール

2010年欧州ツアー帰朝報告公演
東京バレエ団<ベジャール・ガラ> 
「ギリシャの踊り」「ドン・ジョヴァンニ」「ボレロ」

振付:モーリス・ベジャール

◆主な配役◆

「ギリシャの踊り」 音楽:ミキス・テオドラキス

I.イントロダクション 
II.パ・ド・ドゥ(二人の若者):長瀬直義-宮本祐宜
III.娘たちの踊り 
IV.若者の踊り 
V.パ・ド・ドゥ:高村順子-平野玲
VI.ハサピコ:吉岡美佳-木村和夫
VII.テーマとヴァリエーション 
ソロ:後藤晴雄
パ・ド・セット: 西村真由美、乾友子、佐伯知香、奈良春夏、森志織、吉川留衣、河合眞里
VIII.フィナーレ: 全員


「ドン・ジョヴァンニ」 音楽:フレデリック・ショパン (モーツァルトの主題による)

ヴァリエーション 1:森志織、村上美香、岸本夏未
ヴァリエーション 2:佐伯知香
ヴァリエーション 3:井脇幸江、高村順子
ヴァリエーション 4:西村真由美
ヴァリエーション 5:奈良春夏
ヴァリエーション 6:小出領子
シルフィード:吉川留衣



「ボレロ」 音楽:モーリス・ラヴェル

ニコラ・ル・リッシュ

平野玲、松下裕次、長瀬直義、宮本祐宜

※音楽は特別録音によるテープを使用します。


◆上演時間◆

「ギリシャの踊り」 15:00 - 15:40
【休憩】 15分
「ドン・ジョヴァンニ」 15:55 - 16:15
【休憩】 15分
「ボレロ」 16:30 - 16:50


「エトワール・ガラ」Aプロ 8/1

2010-08-02 02:57:22 | BALLET
「エトワール・ガラ」Aプロ、公演最終日に行って参りました。
2010年8月1日(日)14:00~16:40

「エトワール・ガラ」らしい洒落た演目で固めた第一部が65分、20分の休憩をはさんで、今回の目玉企画、ラコット氏書き下ろしの新作、「三銃士」が75分、という構成。

いやぁなんだか、この「三銃士」がなんとも言えない作品で・・・(汗)
素晴らしい超絶技巧を難なくこなす超一流ダンサーがその技と演技力を、紙芝居的なレトロな展開の中で繰り広げていく・・・という感じでしょうか。
ついこの間、NHKの人形劇で三谷幸喜版が放映されたあのデュマの「三銃士」
日本でいえば「忠臣蔵」か「桃太郎」か、というくらい、親しまれ、知られた題材ゆえ、皆実に楽しそうにイキイキと演じているのがなんとも楽しい。キャスティングが絶妙で、面白いと言えば本当に面白かった、デス^^;

<第一部>

■1)「シルヴィア」第1幕より
振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.ドリーブ
シルヴィア・アッツォーニ  アレクサンドル・リアブコ

シルヴィアとアミンタの出会いの場面です。
下手に丸いシルエットの紫の木、上手に三日月、背景にはグリーンのグラデーションがキレイな照明です。
生成りの薄手コットン?のオーバーオール姿のアミンタ登場。音楽は例のドリーブでオリジナル通り。
シルヴィア登場!
黒のインとショーツの上に、ピッタリしたベージュの革の胴着とつけて、背中に届く金髪をダウンスタイルにしたアッツォー二、たおやかで抒情的・・・という彼女のイメージを覆す、凛々しいシルヴィア。うーん、本当に引き出しの多いダンサーだわ。
アミンタは木の陰で彼女を見つめています。
水浴のために髪を束ねるシルヴィアが後ずさりすると背後に回ったアミンタにぶつかります。
二人の出会い。
登場シーンではイキイキと生命力溢れる若者、というリアブコ、ここではあこがれの彼女を前におずおずと恋する眼差しを向ける様にグッときます。シルヴィアは、強い眼差しを向け、二人の間に何かが起こります。
二人のパ・ド・ドゥ。
うーん、ノイマイヤーダンサーのノイマイヤー作品ってどうしてこんなに雄弁なのでしょうか。
初っ端からノックダウンです・・・

■2)ローラン・プティの「カルメン」よりパ・ド・ドゥ
振付:R.プティ 音楽:G.ビゼー
エレオノラ・アバニャート  マチュー・ガニオ

もともとイザベル・シアラヴォラが踊るはずだったのが、エレオノラに変更。
良かったですよ、彼女のカルメンはイキイキと健康的な笑顔の溌剌としたカルメン。あのコルセット衣装も似合っていましたし、魅力的。
マチューもとても美しいホセで、エレオノラをリフトするときにもちょっとウッとはずみをつけていなかった、とは言えませんが、それが見苦しくなるほどでもなく、頑張っていました。

うーん、でも何かが違うんですよね。美しい若者二人、ではありますが、なんだか幸せなカップルで、そこにファム・ファタールと魅入られてしまった若者の切迫感のようなものが今一つ。
この作品については繰り返し観たフェリとイレールの映像がデフォルトになってしまっているのと、シアラヴォラで観たときの彼女の発光するような紗がかかったみたいな美貌と白い肌の妖艶さをついカルメン役に期待してしまう、という観る側の問題があり、つい厳しめの目線になってしまうのでした^^;

■3)「天井桟敷の人々」よりスカルラッティ・パ・ド・ドゥ
振付:J.マルティネス 音楽:D.スカルラッティ
ドロテ・ジルベール  ジョシュア・オファルト

無音で始まり、無音で終わる構成。始まりのアダージョがスローモーションで踊られるのですが、感心したのは、会場が静まり返って音一つしなかったこと。
それはラストの無音部分も同じく、で、先走った拍手もなく、この日の観客はコアなバレエファンが多いのね、と嬉しくなりました^^;
アニエス・ルテステュによる衣装がステキ。男性の上着と女性のベアトップのチュチュが、白黒映画のフィルムを重ね合わせたような素材になっていて、でもシルエットは可愛らしくて。
ジョシュアのクリーンな踊りが、ドロテの持つ生来の華やかさからノーブルな品格を引き出していてとても新鮮。
ドロテの相手役として、今まで若手ではマチューやマチアスを観てきましたが、ジョシュアとのコンビネーションが一番しっくりくるかも・・・今後を期待させる二人の並び、でした。

■4)「フェリーツェへの手紙」≪世界初演≫
振付:J.ブベニチェク 音楽:H.I.F.フォン・ビーバー
バロック・バイオリン:寺神戸亮
イリ・ブベニチェク

「フラジル・ベッセル」とはまた異なるアプローチ。非常に演劇的です。
上手の机で次々と手紙を書いては闇からスッと出てくる手(リアブコです)に渡している男。ある時、赤い紙を受け取る。
500通の手紙を書いた、というフランツ・カフカとその婚約者フェリーツェの悲恋をテーマにした作品。
赤い紙は彼女からの手紙?我を忘れて舞い上がる彼。
下手に寝台と印刷物で埋め尽くされた壁。それを確認してトランクを手に旅立とうとしたり、これはふたりの間に流れる時間を表現しているのか。
ラスト近くで受け取った赤い手紙からハラハラと赤い砕片が落ちて・・・
とてもナラティブ。抽象的な関係性を表現した「フラジル・ヴェッセル」とはまた違ったアプローチ。
アンジェイ・ワイダの映画を見ているような感触あり。どことなく東欧的な一人芝居、でした。

■5)「人魚姫」第1幕より
振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.アウアーバッハ
シルヴィア・アッツォーニ  アレクサンドル・リアブコ

実はハンブルグ・バレエの全幕公演を見ていないので初見なのです。公演当時、衝撃をもって迎えられた話題作ゆえ、部分でも楽しみにしていました。
アッツォー二は当時も絶賛されていましたが、リアブコは日本ではこの作品お初だそう。
海底に沈んだ王子を人魚姫が見つけて助けるシーン。
紺のラインと胸元の金のエンブレムが入ったシンプルなグレーのレトロ水着の王子。
人魚姫は大きく後方で三つ編みを巻きつけたアップスタイルの金髪に、白塗りで青い血管?を浮き出させたちょっとグロテスクなメイク。タックを取ってブルーグリーンのグラデーションになったビスチェに狂言の衣装のような長く裾を引きずったターコイズブルーの袴?姿。
神秘的な音楽に、二人の海底にいることがわかる独得の動き。
普通は人間を食べてしまう肉食の人魚が王子を好きになってしまう。二人の踊りは王子にとっては夢の中の出来事・・・
この後、お話通り、陸に上がる人魚姫は、この海底にいたときのままのグロテスクな存在として、脚を得る・・・という設定。
心身ともに切ない痛みの権化のような人魚姫、という難役を演じきるシルヴィアが凄い・・・
彼女にとっては踊りという領域において不可能と言う言葉は存在しないのかも。
リアブコの王子も素晴らしい。

■6)ローラン・プティの「アルルの女」よりパ・ド・ドゥ
振付:R.プティ 音楽:G.ビゼー
エレオノラ・アバニャート  バンジャマン・ペッシュ

フルヴァージョンで、観ることができたのが嬉しい。
・・・のですが、あのファランドールでどんどんフレデリが熱を帯び狂気にとらわれていくところ・・・の表現が、うーん、バンジャマンはとても頑張っていたのですが、つい映像のルグリ先生を思い出してしまうと今一つ。
エレオノラは情感もあって素晴らしかったです。
観客の反応はとてもとても良かったので、わたくしの感想はバンジャマンに対して厳しすぎるのかもしれません。
なんだかリアブコの端正な中に多くを込める密度の濃いパのあとでバンジャマンを見るとどうにも雑に見えてしまって・・・^^;
どうも今回、パリ・オペエトワールに厳しい目になってしまうのはなぜでしょう?

とりあえず第一部終了。三銃士はまた明日!
はい、お待ちかね(^^?)「三銃士」です。

■「三銃士」全一幕≪世界初演≫(振付・衣装・舞台装置:P.ラコット、音楽:M.ルグラン)
ミレディー(謎の女):  マリ=アニエス・ジロ、
リシュリュー(枢機卿):  バンジャマン・ペッシュ
コンスタンス(侍女): エフゲーニヤ・オブラスツォーワ
ダルタニアン:  マチアス・エイマン
アンヌ王妃:  ドロテ・ジルベール
ルイ13世(国王):  マチュー・ガニオ
三銃士 アトス:   イリ・ブベニチェク
      ポルトス: アレクサンドル・リアブコ
      アラミス:  ジョシュア・オファルト
枢機卿銃士:  キャスパー・ヘス、鈴木彰紀、平牧仁、大石治人、三好祐輝、野口俊丞
街の女:  オステアー紗良

冒頭、三銃士揃い踏み、のご登場。
がっちりした勇者男っぽいアトスがイリ、衣装は赤黒白の上着と羽飾りのついた帽子に白タイツ。
銃士とダルタニアンは皆、衣装は基本同じ構成で、色の組み合わせが異なります。
知的な2枚目アラミスはオファルトでブラウンと白。
陽気な酒豪でムードメーカー、ポルトスはリアブコでダークグリーンと白。
サーシャはアラミスのほうがイメージですが・・・まぁ、芸域の幅広さを買われたのでしょう(笑)
楽しそうに登場の踊りを踊って、馬ではけます。

ダルタニアン登場。グレー地に赤と黒のアップリケの衣装。
故郷の家からパリを目指すのですが、バックに田園風景の映像が流れる中、舞台中央でサイドを見せて足を大きく回す振り。走っている、という表現ですがなんだかユーモラス。
下手から質素なお部屋一式が船のように流れてきます。そこにいるのは赤いアップリケがフォークロアっぽい、白いドレスの可愛いコンスタンス。ダルタニアンは恋に落ち、コンスタンスは彼にハンカチーフを渡します。

パリに到着。背景が都会?な写真に変わっているのでそれとわかりますがなんとも紙芝居的な場面転換。
あえてのこういうレトロな演出なのでしょうか(笑)
ダルタニアンと三銃士の出会い。
ダルタニアンが銃士の仕草を真似ていると、それぞれひとりずつからなぜか怒りを買ってしまう展開となり、決闘だ!とばかりに手袋を投げられてしまいます。いきなり決闘。ダル、ピンチ。
そこに突然現れる怪しい団体。銃士の天敵?枢機卿側の刺客です。
おい、おまえも仲間だ、一緒に戦え。うーん、選りすぐりのダンサーたちのチャンバラシーン、なかなか観られるものではありません^^
ダルタニアンがつかまって、投獄の憂き目に・・・。

枢機卿暗殺を狙って?潜んでいる謎の女。
潜んでいるわりには、フューシャピンクのアクセントとラインストーンが艶やかな黒いロングドレスが目立ちますが(笑)
ミレディーはジロ姐さん。舞台の上ではミステリアスな運命の女の存在感がバッチリの彼女にはピッタリ。
枢機卿はペッシュ。コンプレックスと野心の塊のくえない奴、という複雑な役どころに彼はピッタリ。
ミレディは枢機卿のために働かされることになり、手紙?を預かります。

ダルタニアンの処刑の場。首吊台の向こうに三角帽子の死刑執行人が3人・・帽子をとったらなんと!
三銃士!

救出成功、祝いの宴。
さてと、余興だ、とばかり、一人ずつ、超絶技巧を散りばめた短いソロを披露します。
目の覚めるようなリアブコのピルエット。
マチアスの異常な高さのジャンプ。
オファルトのきれきれのジャンプ。
他の3人は想定内でしたが、オファルトっていつのまにこんなレベルのダンサーに??
全てのパに無駄がなく、絶妙にコントロールされていて動きが洗練されていて素晴らしい。
軽い余興のシーンなのに、これはもう、丁々発止のテクニックお披露目合戦。
イリが素でノリノリでした(笑)

さて、宮廷では・・・。
若くて美貌のルイ13世。黒白の洗練されたコスチュームにはフリルの襟と白いマントも完備されていて、マチューの麗しさを存分に堪能できます^^
国王は野心家の枢機卿と対立。
アンヌ王妃はドロテ。国王と同じイメージの華麗な黒白のコスチュームに身を包み、横恋慕する枢機卿と国王の間で苦しむパ・ド・トロワでの彼女の表情が美しい・・・。
ドロテって変顔も辞さない優秀なコメディエンヌの一面もありますが、基本とっても華やかな美人なので、憂いの表情もまた良し。
王妃も実権も奪おうとする枢機卿に対抗すべく、懐刀である三銃士の到着を待つルイ13世。

その三銃士は野営の準備をしています。
そこにやってきたのは男装に身をやつした王妃の侍女、コンスタンス。
白いカフスと襟が黒いピッタリとしたベルベットの胴着に映えて可愛らしいオブラスツォーワ。
再会を喜ぶ若い二人。そこに3人が絡んでのさまざまなフォーメーションでの踊り。
ここはオブラスツォーワに宛書きしたせいか、クラシックの眠りの森の美女の求婚者たちとの踊りのよう。
キスをしようとする二人を3人が同時に大きな羽飾りのついた帽子で隠してあげる、などの演出も微笑ましい。
では、休みましょう。
マントを敷いて、ダルタニアンはコンスタンスと、三銃士はそれぞれ、休むことにします。

ミレディが怪しく登場。黒いロングドレスに赤と黒の刺繍の入ったフラメンコで使うマントンを肩にかけて走り込み、ジプシーの踊りを激しく踊って、そして去っていきます・・・マントンを残して。
気配を察したダルタニアンが皆を起こします。誰かがここに来た様子。
立ち去らなくては。
三銃士はコンスタンスの護衛を。ダルタニアンは彼らとはぐれてしまいます。
ミレディのたくらみが当たり、ダルを拉致。
3人のダンサー?が布をかぶって馬となり、ミレディーがその背にダルを載せて、自分はその馬に乗って連れていく・・・というつもり。実際にはダルは目を閉じて、馬の背に片手を置いて寄り添い、一緒にトコトコ歩いていきます(笑)

ミレディーの隠れ家。
真っ赤なドレスのミレディーがダルタニアンを誘惑。見事に陥落。
そこに枢機卿に拉致されたコンスタンスが登場。
毒殺されて息絶えるコンスタンス。三銃士は帽子を取ってその死を悼みます。

そして銃士たちは今度はミレディに反撃。
これまでのことを白状させてあの手紙も回収。ミレディは息を引き取ります。

王宮では、しつこい枢機卿に手を焼く王妃。王も困惑。
三銃士参上!ダルも一緒です。
これをご覧ください。証拠の手紙です。
リシュリュー枢機卿の謀反を証明することが出来、その功を認められて、
ダルタニアンも晴れて銃士の仲間入り。
さぁて、これからは四銃士だ!
4人で上手から順に肩を組んでいき、最後に一番下手のオファルトが隣を見ると誰もいない・・という可愛いギャグも。
頭上からハラハラと舞うコンフェッティ。
これは連日の演出なのか最終日ゆえのスペシャルか。
ハッピーエンド。

構成にはまだまだ工夫の余地がありそうですが、親しみ深い絵巻物を超豪華なキャストで!
という好企画。ラコット氏に依頼することも含めてのマリ=アニエスの提案だったそうですが、さすが。
皆が楽しんで演じているのが伝わる作品でした。

最後のカーテンコールは延々と続く、(そして全てのダンサーに差がつくことなく、盛大に贈られていました)拍手の合間を縫って、「三銃士」のメイキング写真を背景にスライドショー&シャンソンのBGMで披露。
お疲れさまでした!

「三銃士」参加メンバー以外は、第一部の演目の衣装・メイクのままのカーテンコールでしたので、アッツォー二はポルトスなリアブコと手に手をとって人魚姫・・・という不思議な現象が起こりましたが、改めて、今回の白眉はこの二人であったことだなぁと思ったことでした