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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

バンクーバー・オリンピック 女子フリーを振り返って

2010-02-27 00:55:05 | Sports
バンクーバー・オリンピック、連日の熱戦!
特にフィギュア・スケートファンにとっては寝る間も惜しい一週間だったのではないでしょうか?

男子のフリー、アイスダンス、女子ショート・プログラム、とそれぞれにコメントしたきことは山ほどあるのですが^^ゞ
今日、一日リアルタイムでフォローした女子シングル・フリーの結果をふまえて感想など・・・

1位 金 姸児 150.06点
パーフェクト演技、音楽に乗った軽やかでしなやかな表現・・・確かに素晴らしかったです!
ただ、ここまで総合得点を跳ね上げる必要があったのかは疑問。
この得点だと真央ちゃんが仮にパーフェクトな演技をしたとしても追いつけないことになってしまいますよね??
ガーシュウィンの曲想を活かしきった振付は、バレエで言うとバランシンっぽい感じ?
グランプリシリーズのときにはそれほどにも思わなかったけれども、カナダの観客を前にして、オーサー・コーチの戦略がやっとわかりました・・・カナダ好みの選曲だったのね・・まさにVancouverOlympicを照準に合わせたプログラムだったのか~と今更のように感心。

2位 浅田 真央 131.72点
仕上がるのに時間がかかった難易度の高いプログラムをよくぞここまで・・・。
最初に3Aを2つ決めて、タラソワコーチが意図したプログラム全体の重みを一気に作り上げた真央ちゃんはお見事。
コンビネーションでの3フリップのターンオーバーと3トゥーループが氷上での躓きでシングルになったのが残念です。
ライバル、キム・ヨナちゃんを凌駕することができなかった・・・しかもあの点差!!
屈辱でしょうね・・・;;
ただ、なかなか仕上がらなかった今シーズンの調子を考えるとここまでやりとげたことの素晴らしさに感動。
それこそ、次につながる銀メダル、第2位だったと思います

3位 ジョアニー・ロシェット 131.28点
地元の期待を一身に背負い、なおかつ・・お母様のご冥福を祈ります。
もともと実力のある大人の女性らしい表現力がある選手。
彼女の心のこもった演技で、3位、良いのではないでしょうか?
「サムソンとデリラ」の曲想にあったビジューの効いたターコイズブルーの衣装と金髪に上品に溶け込む金色のヘアアクセサリーが上品で素敵でした

4位 ラウラ・レピスト 126.61点
キーラ・コルピとともにフィンランド2大美人。この人は小作りな顔立ちと大人っぽい落ち着きが魅力で、雰囲気があって好きな選手の一人です・・・がちょっと技の難易度からすると得点しすぎ?パーソナル・ベスト更新で良かったですね
「アディオス・ノニーノ」
ゆったりとした情感あふれるメロディーが彼女に似合っていました

5位 未来 長洲  126.39点
Brava!16歳でこの完成度!
アメリカ代表第2位で滑り込んできたOlympic,マークされていない気楽さ?からのびのびと演じきったカルメン、とてもチャーミングでした!
この1~2年で急激に身長が伸びたけれども、通常身体の変化にジャンプのバランスを崩す選手が多い中、順調に乗り切ったというのが納得の、均整のとれた肢体は欧米的ともアジア的とも言い難い一種の理想形。どのポーズも絵になるのが素晴らしい・・・で、目元が明治時代の風刺画の東洋人のように細いのですが、笑うとそれがとってもCUTEになる、不思議な魅力のある選手。これからが楽しみです

6位 安藤 美姫 124.10点
とてもキレイにまとめてきたのは素晴らしいのですが、新調した五輪仕様の衣装もヘアメイクも、グランプリシリーズの時よりも抑えめ??
今までのエキゾチックな魅力全開!な感じがなんだか大人しくなってしまって残念に思いました・・・
特に、クレオパトラを忠実に再現しようとしたのかダウンヘアにしたのは小顔な彼女にはちょっと重たくて損したかなぁと。
まとめ髪でゴージャスなヘアドレスを飾った従来バージョンのほうが良かったのに~(個人的な好みですが

7位 鈴木 明子 120.42点
ジャンプでの取りこぼしはありましたが、SP11位からここまで取り返した勢いと表現力は素晴らしい!
「ウエストサイド・ストーリー」のマリアになりきって勝ち取った価値ある入賞(総合8位)、おめでとうございます!!
それにしても3人枠ぎりぎりまで送り込んだ3選手が男女それぞれ全員入賞ってスゴイことですよね

8位 レイチェル・フラット 117.85点
NYタイムスによるとスタンフォード大学からはすでに合格通知が来ているそうですね!
ちょっと元気いっぱいの見た目で損しているかも・・ですが、ジャンプも見せ方も上手く、さすがは全米チャンピオン。
もっと得点が伸びても良かったと思う選手です。ジャンプでちょっと意外な減点があり、可哀そう・・・・

9位 Ksenia Makarova 112.69点
ロシア代表。まだ若いだけあって荒削り。・・であることがマイナスにならない「ウォリアーズ」なプログラムは戦略としてはマル。ダイナミズムが魅力。スピードとジャンプの高さで迫力があります。
このまま洗練されていけばソチでもまたお目にかかれるかも?

10位 アリョーナ・レオノワ 110.32点
ロシア代表。元気いっぱいの親しみやすい笑顔でNHK杯、ロシア杯でアイドル的人気者になった彼女。
あの時の「シカゴ」をだぶらせて観ると別人のような緊張っぷり。
ノリノリだったステップも全て慎重に慎重に・・で終わるとあぁ転ばなくて良かった・・・的な安堵の表情。
もっと出来る子なのに・・・という感じです。ソチに期待(笑)

あと気になったのは、ヨーロッパのアイドル、トリノの恋人、金髪長身美形と3拍子揃ったイタリアのカロリーナ・コストナーのジャンプの絶不調振り・・・。可哀そうでした・・・。ちょっとウエイトが重い感じにお見受けしたので、諸々の調整がうまくいかなかったのかしら・・・。もともと好不調の波のある選手ですが、気になります。

逆の意味で気になったのはフィンランドのキーラ・コルピ。
この人は金髪美人でしかも衣装とヘアアクセのセンスがとても良いので、観ているだけでも楽しい
SPの若草色のドレスに黄色いシンプルで大ぶりのバレッタもさわやかで良かったのですが、フリーの紺を基調に赤を隠し味に入れたちょっとCAっぽいやはりシンプルな衣装は彼女の美貌を引きたてていてとても良かったと思います。
あとは演技の難易度をあげてくれれば・・・今回の得点もパーソナル・べストでしたし、手ごたえを感じたのではないでしょうか?これからも期待しています






NHK放送 「バレエ・リュス・プログラム」パリ・オペラ座

2010-02-19 02:55:15 | BALLET
オリンピックに沸く最中ではありますが、
忘れてはならないTV番組が・・・。



2月19日(金)22:30~24:45
「パリ・オペラ座バレエ『バレエ・リュス・プログラム』」

2009年12月にパリ・オペラ座で行われた「バレエ・リュス・プログラム」全4作品を、いち早くお届け。代表作でもある「ばらの精」「牧神の午後」「三角帽子」「ペトルーシカ」を通して、バレエ・リュスの魅力に浸っていただく。

<演目>

バレエ「ばらの精」
 振付:ミハイル・フォーキン
 音楽:ウェーバー作曲/ベルリオーズ編曲
 美術:レオン・バクスト
 主演:マチアス・エイマン、イザベル・シアラヴォラ

バレエ「牧神の午後」
 振付:ワツラフ・ニジンスキー
 音楽:クロード・ドビュッシー
 美術:レオン・バクスト
 主演:ニコラ・ル・リッシュ、エミリー・コゼット

バレエ「三角帽子」
 振付:レオニード・マシーン
 音楽:マヌエル・デ・ファリャ
 美術:パブロ・ピカソ
 主演:ジョゼ・マルティネズ、マリ・アニエス・ジロ

バレエ「ペトルーシカ」
 振付:ミハイル・フォーキン
 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
 美術:アレクサンドル・ブノワ
 主演:バンジャマン・ペッシュ、クレールマリ・オスタ、ヤン・ブリダール、ステファン・ファヴォラン

<出演> パリ・オペラ座バレエ団
<指揮>ヴェロ・パーン
<管弦楽>パリ・オペラ座管弦楽団
<収録>2009年12月 パリ・オペラ座 ガルニエ宮

配役的には全てがBESTとは思いませんが(!?)、演目的にはいずれも興味深いもの
フィギュア男子フリーの録画を観るのに必死でうっかりしないようにしなくては・・・(笑)


バンクーバー・オリンピック 男子シングルSPを終えて

2010-02-19 02:05:50 | Sports
VancouverOlympic,すでに佳境・・・
わたくしは男子シングルSPの日にオリンピック休暇(って普通の年次休暇ですが・・・^^;)取得の勢い。
連日ハラハラドキドキ、楽しいです

フィギュアスケート男子、精鋭揃いで、10人くらいにメダルをあげなくては気が済まない(?)くらい、今充実していますよね。

五輪に照準を合わせて復活のトリノ王者プルシェンコ。
彼がグランプリシリーズにデビューした時を観たわたくしにとって、あの16歳(だったかな?)の若さで軽々と4回転を飛び、「黒い瞳」の曲に合わせてバラを咥えて登場、飄々とした演技で沸かせた演技力、ビールマンスピンを楽々こなした柳のような柔軟性ある長い手足。おかっぱで金髪のスナフキンのような個性的な風貌に強い印象を受け・・・
それ以来、目の離せない選手です。
昔から演技力と技術力を兼ね備えた彼にとっては今のどちらかに偏った選手は歯がゆく見えてしまうのでしょうか?
憎らしいほど余裕の態度でTOPに居座っていますが、彼を揺るがす現役はさて?

そんな彼に挑戦できるステージにたっている高橋くんには、本当に期待が持てますよね。
今回のフリーのフェリーニの「道」をテーマにしたプログラムは構成もいいですし、楽しみです
SP後のインタビューでも、フリーでは思いがけず高い位置に設置された観客席に合わせて目線も上に持っていきたいと言っていましたし、ライバルに惑わされず、観客を魅了できる自分の演技を、と胎の座った感じでしたし。

2位につけたライサチェク。
一際目立つ長身で、決まるとその一挙手一投足がドラマ性を孕む存在感。
SPの「火の鳥」はお見事、の一言
堂々としているのに、演技終盤から感きわまった表情でグッときました。
4回転を回避すると明言している彼にとっては、演技の総合的な完成度がそのまま得点につながるだけにミスなく決めてほしいです。

織田君の4位は健闘ですよね~
抜群のジャンプの安定感が武器ですが、フリーでは彼の個性にあった「チャップリン」の演目ですし、演技もいつもよりもさらに思い切って表現してくれるといいなと思います。

そして5位のランビエール!
トリノの銀をバンクーバーの金に!という心意気?
4回転が飛べるのに、トリプルアクセルが苦手で、SPでもダブルアクセルであら??という感じでしたから
ジャンプではちょっとライバルに水をあけられてしまうかも・・ですが、その他の演技力、丁寧な表現力、素晴らしいステップと他には真似のできない独創的で美しいスピン・・・総合力では是非エキシビションでみたい選手ですので、健闘を祈るばかりです。
SPの「ウィリアム・テル」、あの曲想が変わって、これからステップに入るぞ、というところ、もうカッコよくて・・・(キャー)
・・・・あ、すみません^^;

6位につけたジョニー・ウィアーくん、中性的な美しさで独自の世界観を紡ぎだす彼ですが、意外とジャンプも(4回転は無理ですが)安定した技術があるので、他の選手に思いがけない失点が重なるとグッとメダル圏内に入る可能性も?
華のある選手、今回のフリーは最終グループ、大トリのプルシェンコの前、という滑走順ですので、緊迫した勝負の世界で一服の涼風となってくれることを・・勝手に期待しています

意外だったのは、フランスのブライアン・ジュベール・・・
演技力というよりも、純粋アスリート系の4回転ジャンパー。
甘いマスクゆえの華もあり、どこまで4回転でプルシェンコに肉薄するか・・と見られていたのにまさかのジャンプ失敗。
16位とは彼の実力からするとあり得ない結果。
メダル争い、からどこまで気持ちを切り替えられるかが気遣われますが、フリーでは挽回して次につなげてほしいです。

あと残念だったのはアメリカのジェレミー・アボット。
彼のピートルズナンバーのプログラム、独得の世界観があって、好きなプログラムなのですが、冒頭のジャンプが成功せず・・・。グランプリシリーズのときも波がありましたから、あぁ~という感じでしたが。
コーチの佐藤有香さんがおキレイで・・・。現役を引退した後、解説を経て、こういう若い可愛い男の子の指導って(コラ)キャリアとしてとても良いですよね(コラコラ)

カザフスタンの若手選手など、ノーチェックながら、良い演技を見せてくれた選手もいましたし、明日のフリー楽しみです!!


「マニュエル・ルグリの新しき世界」Bプロ・感想 ③

2010-02-11 19:59:11 | インポート
【第2部】

■「マリー・アントワネット」
アニエス・ルテステュ パトリック・ド・バナ
振付: パトリック・ド・バナ
音楽: アントニオ・ヴィヴァルディ

アニエスのためにド・バナが振りつけたこの作品を観てルグリが自分のためのソロを、と依頼したというだけあって、アニエスの持ち味にぴったりの魅力的な作品。

まず衣装にびっくり。
二人とも白いオーガンジーで宮廷衣装をアレンジしたブラウスを着ているが、下半身はショーツのみ。
アニエスはデコルテからウエストにかけてリボンが並びフリルのある7分袖、ぺプラムのついたブラウスと少し襟足を残して結いあげた金髪がとてもお似合い。
ド・バナさんも、襟元にシャボのようなフリルがあしらわれたノースリーブのシャツの上に燕尾のような軽い一重のジャケット風の上着を羽織って登場。
これまたお似合い。
二人とも伸びやかな筋肉の乗った長く美しい脚を持っているので、この衣装は妙に肉感的でちょっとエロティックなのですが、端正な音楽とエレガントなアニエスの存在感で卑俗に陥らないギリギリの線をキープ。

作品は3部に分かれていて、ヴィヴァルディのスタバート・マーテルに合わせて展開します。
最初は無邪気なマリーと従者?次は大人になったマリーが王と心を通わせる親密な場面、そして壁にぶつかり周囲の変化に戸惑い悩む二人。
ド・バナの存在はルイ16世、ということですが、マリーを見守る影のようでもあり、彼女の運命を導く存在とも見えたり複眼的な見方を許す解釈の幅広さを感じました。
最後は。。。断頭台を暗示して。
ド・バナさんの振り付けは精神性を打ち出しながらもいい意味で程よくわかりやすく見せ方も上手い。
キリアンのように圧倒させる世界観、という感じはないのですが、今後も注目していきたい振付家、と思いました。

■「ハロ」
ヘレナ・マーティン
振付: ヘレナ・マーティン
音楽: アラ・マリキアン、ホセ・ルイス・モントン



アントニオ・ガデス、ホアキン・コルテス、といった一流どころと共演してきた本格派フラメンコダンサーです。
パトリック・ド・バナが主催するナファス・ダンス・カンパニーのゲストアーティスト・振付家という縁とルグリの希望で参加。

ワインカラーのシンプルなフラメンコドレスに身を包み、ベージュ地に色とりどりの花の刺繍が施された大判のマントンを身に巻きつけて登場するのですが、フラメンコ・ギターの爪弾きのような抒情的な曲に乗せて、大胆かつ自在にそのマントンを操る彼女。
時として炎のように、命をもったかのように翻るシルクのショールとフリンジの軌跡が金色の光のように浮かび上がり幻想的な雰囲気を醸し出します。
「・・・女性が手に持つショールは懐かしくて愛しいものの輝きを残しているのです・・・」とはプログラムに載せた彼女自身の言葉。
バレエ公演にフラメンコ?という違和感もなく、GALA公演にはこういう趣向も良いものだなぁと堪能しました。

■「ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ」
上野水香 高岸直樹
振付: マニュエル・ルグリ
音楽: ガエターノ・ドニゼッティ
衣装: セシル・クリスティ

2007年、マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールによって初演。
ルグリ・ガラでマチューに初演を見事に務めたことを労ったら輝くような笑顔を返されたことを思い出しました

今は振付には興味がないときっぱりと語るルグリですから、この作品は貴重。
卓越した踊り手によるものらしく、脚技など細部に至るまで超絶技巧が散りばめられた作品。

アルルカンのような、黒地に赤・黄・緑をステンドグラスのように散りばめた独得の衣装も相まって、誰にでも似合う、こなせる作品ではない、という印象ですが、ドロテ以上に長く雄弁な脚を持つ上野さんと、マチューのように明るいキャラクターの黒髪の美形である高岸さんには良く似合っていました。
もともと、これはデヴィッド・ホールバーグが水香ちゃんと踊る予定だったのが、フォーゲルの故障で玉突き的に変更があって、練習パートナーを務めていた高岸さんが急遽ご登場となった次第。
ベテランの域に達した高岸さんはそれでも特に最終日には意地を見せて(?)見事にソロもこなしていらしたし、水香ちゃんも高岸さんだと安心感もあってか連日良いパフォーマンスを見せてくれたと思います。

■「失われた時を求めて」 "モレルとサン・ルー"
ギヨーム・コテ デヴィッド・ホールバーグ
振付: ローラン・プティ
音楽: ガブリエル・フォーレ

これは今回のGALAの白眉というか、嬉しいサプライズでした・・・
ギヨーム・コテ、素晴らしいダンサーです。
チャイコパだけではわからなかった彼の資質、国際的なスターであるというのも納得の存在感が登場時から感じられました。

長編小説、プルーストの「失われた時を求めて」をバレエ大作に仕立てたプティは、第1部を「プルーストの天国のイメージ」第2部を「プルーストの地獄のイメージ」で構成したそうですが、今回演じられたのは第2部の、「モレルとサン・ルーのパ・ド・ドゥ」(または「天使たちの闘い」)
貴族サン・ルーをヴァイオリニストのモレルが誘惑するシーン。
容姿からして美しい悪魔そのもののデヴィッドがモレル役にぴったり。
髪の色は金髪の貴族を黒髪の悪魔が・・・というイメージからすると逆なのですが、パーソナリティ的にはこれはしっくりきている感じ。
肌色のユニタード姿の二人の緊張感あふれるデュエットも素晴らしかったのですが、登場時のサン・ルーのソロ、これだけでコテのロマンチックで繊細な内面表現の巧みさと抑制の効いた踊りから滲む抒情が見てとれて、とても良かったと思います。

■「三人姉妹」
シルヴィ・ギエム マニュエル・ルグリ
振付: ケネス・マクミラン
音楽: P..I. チャイコフスキー



チェーホフの戯曲「三人姉妹」より。
モスクワ行きに憧れる3人姉妹の長女、さえない田舎教師の夫との生活に倦んでいるマーシャと、モスクワから来たヴェルシーニン中佐の明日のない道ならぬ恋と別れのワンシーン。
ヴェルシーニンは原作ですと43歳、という設定ですから、今のルグリは付け髭やメイクなしで素で演じられる年齢。
ギエムも今だ踊りは完璧で容姿も美しいのですが、お顔に表情によっては法令線がうっすら浮かぶなど少し年齢を重ねていらっしゃる部分も見てとれるところがとても物語とシンクロしてなんともいえない感興を呼び起こされました。
中年にさしかかっての燃え上がる恋、ならではの二人の切実さが、ダイナミックな跳躍や切れ味の鋭いルグリの動き、柔らかなパウダーピンクのワンピースをはためかせるギエムの長い脚から伝わってきてひりつくようなドラマ性を感じさせてくれました。
激しい恋心とその絶望、走りこんでギエムの足元に倒れこみ、片足を流して彼女の膝に顔をうずめる男の髪に手をやり天を仰ぐギエム=マーシャの表情が胸に迫ります。
登場時に帽子を飛ばし、マントをサッと舞台袖方向に脱ぎ捨てたルグリ、愛のデュエットののち、下手に走り去りますが残されたギエムはそのマントに臥して肩を震わせます・・・
オネーギンの最終幕もそうですが、ルグリは不実なのか誠実なのか、一途なのに女を幸せにできない男の造型が実に上手いですね!
ギエムも2003年に「3つの物語」シリーズで来日公演を行ったときに、演技もできるのよ!的な舞台を見せてくれたときからグッと深みが増して、実に雄弁な心に残るマーシャを見せてくれました。

会場が熱狂に沸く中、フィナーレ。
上野・高岸ペア、オグデン・コテ、フォーゲル、マーティン、ルテステュ・バナ、デュポン・ホールバーグ、と歓声に迎えられて最後はギエム・ルグリ。
とりわけ楽日はNBSお得意の「SAYONARA」の大きな幕とともに大量のトリコロールカラーのメタリックテープが落ちてきて会場の拍手も鳴りやまず、大変な盛り上がりでした。
それにしても、本当に充実した密度の濃い大人の公演で素晴らしかった。
ルグリ先生は、秋からはウィーンの芸監として忙しくなられるとは思いますが、ダンサーとしてのキャリアを終えるというおつもりはないようですので、是非また日本でプロデューサーとして腕をふるい、そしてその時その時のダンサーとしてのチャレンジも続けていただきたいと思います。

「SAYONARA」の幕に小さく「a bientot」と書かれていたのですよね・・・
期待しています、NBSさん!


「マニュエル・ルグリの新しき世界」Bプロ・感想 ②

2010-02-11 15:16:14 | インポート
では、個々の演目について・・・

【第1部】

■「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」
ヘザー・オグデン ギヨーム・コテ
振付: ジョージ・バランシン
音楽: P.I.チャイコフスキー

GALAのオープニングによく用いられる、パウダーブルーの衣装の男性とパウダーピンクのハイウエストの短めの薄物のドレスの女性が踊るさわやかな演目。
テクニック的には難易度の高いものが散りばめられているので今までバレフェスなどで見てきたのを思い起こしても、ルグリ先生、マラーホフ、ボッレ、コレーラなど錚々たる面々。

ナショナル・バレエ・オブ・カナダからの若い二人、よく北米系のフィギュアスケーターにいるような感じのフレッシュな金髪美人ヘザー、やわらかい表情が印象的なギヨームとともに、とてもこういう演目に似合う雰囲気。

ですが、出だしのPDDで特に7日はまだ慣れていなかったのか後方にアティテュードでジャンプを繰り返すときに後脚が下がり気味になってしまったり、フィッシュのポーズをとるときに勢いよく飛び込んだ後一瞬ひやりとさせたり・・・
テクニシャンが踊るとなんということもなく流れる部分でドキドキさせられ、この演目って難しかったのね・・・(笑)と改めて実感させられる瞬間も。
ただ、二人ともソロのパートでは眼が覚めるような豪快な開脚ジャンプ、安定感のあるピルエットなど実力のあるところをしっかりみせてくれました。
この二人も、7日、8日、9日、とだんだんにPDDも安定してきて、何よりもさわやかな笑顔を絶やさず、のびのびと踊っていたのが良かったですね
カーテンコールでしきりと彼が彼女の手にキスをしていたのも微笑ましかったです。

■「モペイ」
フリーデマン・フォーゲル
振付: マルコ・ゲッケ
音楽: C.P.E.バッハ



いや~、良かったです!!
バッハのアップテンポの曲に合わせて黒タイツ、上半身をあらわにしたフォーゲルくんが後ろ姿のまま上手から現れ、舞台中央で痙攣したり脇腹を掻くようにしたり、身体の表面を指でなぞったり・・・と不思議な振付なのですがなぜか曲にはとても合っていて弾むようなリズムとハーモニーを奏でていて楽しい。
しばらくセンターで踊ってそのまま平行移動で上手に、下手に移動してはまたセンターに現れるのですが、全体の60%は後ろ姿、という人を食った構成。
このところクラシックの王子もきれいに踊れる成長ぶりを印象付けてきたフリーデマンですが、やっぱりこういうちょっとユーモアを秘めた現代作品がことのほか似合う!ということ、そして身体のラインがとても美しいことを再発見させてくれました。
背中を向けていても、肩甲骨がきれいに浮き出て、シュッと逆三角形に整ったラインが雄弁で・・・。
前髪を下ろしてちょっとラフに仕上げた金髪とあえて無表情を装った端正で甘めの顔立ちが作品のオフビートな味わいにマッチしていました。

あぁ・・返す返すもAプロに遅れて「クリアチュア」を見逃したのが悔やまれる・・・・

「クリアチュア」で肩を痛めたとかで、オレリーと踊るはずだった「アザー・ダンス」を外れたのですよね・・・。
オレリーとイキイキと視線を交わす彼も観てみたかったとは思いますが、何にしても無理はよくありませんから。
それにしても1作品だけでもしっかりと、存在感と個性を印象付けてくれました!


■「スリンガーランド」
アニエス・ルテステュ パトリック・ド・バナ
振付: ウィリアム・フォーサイス
音楽: ギャビン・フライアーズ

バレフェスでアニエスがジョゼと踊っていたのが記憶に新しいのですが、同じ長身でもド・バナさんとの並びはまたちょっと違った趣。
円盤のような小さなチュチュのついた全身アイボリーレースの総タイツのアニエス。
保温下着のような??全身ベージュのレースの総タイツのパトリック。
大人っぽい味わいの長身の二人が踊ると、この地味で難しい衣装が気にならず、”男女の生命感あふれるPDDではなくて時間との戦いを意味しているのだ・・・”というプロダクションノートがうなづけます。
フォーサイスがバランシンのように抽象的な音楽の視覚化にトライした実験作・・・といった感じ。

ギリギリのバランスから断続的につながる速いテンポのムーブメントはフォーサイスの舞踊言語ではあるのですが、それをあくまでなめらかに破たんなく踊りきるアニエスの音楽性とバランスキープが素晴らしい。
特に最終日にはあまりに音楽と踊りが溶け合っているので、その世界に巻き込まれて心と視覚を委ねているうちに意識がなくなっていくような不思議な感覚に陥りました。(決して退屈、とかということではなく)

■「アザー・ダンス」
オレリー・デュポン デヴィッド・ホールバーグ
振付: ジェローム・ロビンス
音楽: フレデリック・ショパン



これは衣装が異なるのですが、オレリーはこんな感じ。
透けるグレーのストライプの地紋のサテンのドレスに同素材のヘアターバンをした軽やかでフェミニンな姿が素敵でした。
ショパンの曲に合わせて耳の後ろに手をやるマズルカっぽいポーズも決まっていましたがなんといってもパートナーに向ける弾むようなキラメキを見せる、誘いこむような視線・・・
こんな表情を向けられて応えない男性はいないでしょう・・・。
でも、7日のデヴィッドは余裕がなくて固かったですねxxx
それでなくても完璧な金髪ブルーアイズの美貌でありつつクールな三白眼にひと匙の禍々しさを秘めた彼。
ブルーグレーのスウェードのブーツにベストとブラウスでちょっと東欧っぽさを感じさせる衣装は似合うのですが、自由でのびやかな女神のようなオレリーとはちょっと息が合っていない感じ。
それが!
8日には別人のように、オレリーの視線を受け止めて微笑みかけ、心なしかマズルカポーズも決まってきて・・・。
急ごしらえのペアならではの日を追うごとに深まる関係性、特にデヴィッドの変化は感動的でした。

それにしても本当に美しい作品。
特に後半の頭上に高々と女性を掲げたリフトでオレリーがまるで寝椅子に横たわって葡萄をつまむローマの貴婦人のようにのびやかにリラックスしていてその直後さっとお姫様だっこ状態に体勢を変える瞬間がスリリングで好きなのですが、その安定感もさすがの二人でした。

惜しむらくはピアノが・・・。
生ピアノだったのですが、ピアニストがバレフェスのときと同じ方で・・・。
スローパートは良いのですが、どうも和音でアップテンポになると崩壊する傾向があるようなxxx
なので、男性のソロの場面は悲惨でTTあの音に合わせてあれだけ踊ったデヴィッドには頭が下がります。

オレリーの魅惑的な表情、溢れるフェミニティに大人の女性の麗しさを感じ、フェリの再来かと思いました。
来月のオペラ座来日公演のチケットがNBSから今日届いたのですが、彼女の「ジゼル」今から待ち遠しくてなりません・・・

■「優しい嘘」
シルヴィ・ギエム マニュエル・ルグリ
振付: イリ・キリアン
音楽: クラウディオ・モンテヴェルディ、カルロ・ジェズアルド、グレゴリオ聖歌



1999年初演時には、デルフィーヌ・ムッサンとニコラ・ル・リッシュ、ファニー・ガイダとマニュエル・ルグリという二組のカップルのための小品として演じられ、過去に2度シルヴィーとニコラがバレフェスで披露してくれた衝撃作。
15年ぶりに組む二人は、それぞれの時を経て、全く違う方向に進みながらもその達した高みのレヴェルは恐ろしいほど揃っている、という奇跡のような舞台を見せてくれました。
ともに40代半ばという年齢を超越した踊り手としての完璧に制御されたムーブメント。
とりわけゆっくりと二人がバランスを動かしていく場面のスローモーションでビデオを見ているようなコマ刻みの正確な動き、スリークで流れるようなルグリのパート、もはやクラシックバレエとは別の舞踊言語でその屹立したつま先で空間をシャープに切り取るギエムの長く強靭な脚・・・
ドリアンのようなツノツノのついた表面加工が面白い紫のビスチェに黒いショーツ、透ける足首までのタイツのギエムとトランスペアレントのぴったりとした半そでクルーネックのTシャツ型のTOPSに黒いパンツのルグリ。
この衣装も神秘的でドラマチックな音楽も大好きなこの作品にこの二人の稀有なコラボレーション。
ニコラとギエムだと完全にニコラが黒子に徹して暗闇の中、浮かび上がるシルヴィーの脚・・という感じなのに対して、ルグリはギエムと拮抗して違う物語を紡いでいるので本当に二人から眼が離せない。
いつまでも観ていたい!という気持ちが頂点に達したときに終わるんですよね・・・

というわけで、2日連続、この直後、ロビーに走って翌日のチケットをあわてて購入したわたくしでした