2013年10月27日(日)15:00~
日本青年館にて(公演期間:10月25日~30日)
宝塚星組3番手、真風涼帆主演、
ミュージカル
『日のあたる方(ほう)へ ―私という名の他者―』
~スティーヴンソン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」より~
脚本・演出/木村 信司
を観て参りました。
[解 説]
ロバート・ルイス・スティーヴンソンが1886年に出版した小説「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」は、善と悪、二つの人格を主題としており、「ジキルとハイド」という言葉は現代でも二重人格の代名詞として使われます。これまで数多くの映像化、舞台化がなされた題材ですが、原作において、人格の裏側に潜む極悪人であるハイド氏を、本公演では心の奥底に秘められたトラウマと捉え、精神に疾患を抱える女性マリアをヒロインに、彼女の病気を治すため自ら治療薬の被験者となるジキルと、その隠された過去を描き、宝塚歌劇ならではの深遠な愛を込めた現代的、かつ幻想的な「ジキルとハイド」の物語をお届けします。(公式HPより)
ジキルとハイド・・・と言えば、人間の善悪の2面性を見せる作品、ということ。
これは役者にとっては美味しい、挑戦しがいのある本格的なストレートプレイが要求される、ということ。
ミュージカル仕立て、ということで、ドラマチックな歌唱力も必要でしょうし・・・
新公主演ほぼ独占でバウ主演経験もすでに積み、他組ならば2番手格にいてもおかしくない経験値と風格ある下級生、真風氏。
とはいえ、圧倒的なベテランTOP柚希礼音、個性派の人気2番手紅ゆずるに続いているものの、実力派で人気面でも追い上げてきた礼真琴の存在もあり、おっとりとした性格ゆえ、どこか控え目な印象のあった彼女に奮起を促すための企画?
この時期、柚希氏センターに紅、礼をはじめとする男役陣を中心にした「REON2」
娘役TOP夢咲ねねちゃんと専科のお二人&2番手?娘役早乙女わかば嬢でのバウ公演「第2章」
そして、3番手男役真風涼帆主演の東上つきバウ「日のあたる方へ」
3分割された、このグループの配役をみてみますと・・・
ジキル/イデー(精神科医・教授27歳) : 真風 涼帆
マリア(患者、市長の長女29歳) : 妃海 風
*~*~*
市長 : 一樹 千尋
ソニア(ジキルの養母): 万里 柚美
エドアルド(ジキルの養父): 美稀 千種
エリス(ファビオの妻): 毬乃 ゆい
ジェラルド(12年前の事件を追う刑事): 美城 れん
サンドラ(精神科医): 白妙 なつ
ブルーノ(ジキルの親友、経済学者・コメンテーター): 天寿 光希
ジュリア(ジキルのGF、市長の次女): 音波 みのり
ファビオ(警察署長): 輝咲 玲央
ペドロ(警察部長、ジェラルドの上司): 瀬稀 ゆりと
ジョアン(ジキルの親友、精神科医): 十碧 れいや
ダニエル(ジキルの執事): 漣 レイラ
歌ウマ・演技に定評のある上級生で固めてきていますね。
売り出し中若手バウ公演では、このところ、ポスターのVISUAL演出が素晴らしく、観劇意欲をそそる力作が続いていますが、今回は敢えて?のこのやる気がないとまで思えてしまうそっけないポスター・・・^^;
そのバリエーションである画像も
このコストのかかってなさそう感(笑)に、真風氏へのハードルの高さ、そして獅子の我が子敢えて千尋の谷に突き落とす星組敏腕(と言われる)プロデューサーの意向を感じるのはうがち過ぎというものでしょうか?
いいよ、別に観に来なくても・・・と言わんばかりの画像ですし、演出が、出来不出来の波があると定評のある?キムシンこと木村信司センセイゆえ、ちょっとした賭けではあったのですが、作品のテーマと配役への興味があり、観ることに。
結果・・・
非常に「良いキムシン」でした!
市長一家とジキルの両親との隠された過去、警察長官のゆがんだ忠誠心、定年前の刑事の粘り強い探究心、ジキルの新薬完成と患者に対する思い入れ、ジキルとマリア過去の出会いなどが織りなすタぺストリ―。
色々と突っ込みどころはなくはありませんでしたが、登場人物の過去と謎が次第に明かされていくプロットとジキルが新薬を自らに投与することで生まれる別人格との演じ分け、マリアとの運命の出会いと2人の距離感の変化など、興味を惹きつけつつ、時折挿入されるシュールな場面(サンバ幻想)などが良いアクセントとなって、息をも継がせぬ展開と、暗いテーマを明るいエンディングに持ち込んだ力技に、感動しました。
*出演者個々への感想です。*盛大にネタばれしています
■ジキル/イデー(精神科医・教授27歳) : 真風 涼帆
基本穏やかな、人々に慕われるエリート医師。
優しい養父母の愛を受けてすくすくと成長。2人の親友は彼に夢中。患者の美人な妹も彼に夢中。
そんな人々の期待と愛情を裏切らない、謙虚で思いやり深い青年。
それが、患者を救うために考案した新薬を自らに投与することで、自ら封印した過去と憎悪に満ちた別人格を呼び出してしまう・・・。
という設定で、呼び出された別人格と平素の彼が見え隠れし、その感覚が錯綜する様を演じると言う難易度の高い役を演じきったこと。しかもそのそれぞれの人格が非常に魅力的に表現されたこと・・・が全てです。
往年のスター春野寿美礼さんを彷彿とさせる長身面長のクラシカルな「タカラヅカスター男役」そのものの容姿と175cmの長身でありながら、普段は下級生然としたおっとりさ加減で、今一つ前に出ようとする欲が観えなかった彼女、「イデ―」という、ロミジュリの「死」に匹敵する全くの別次元に存在する悪の象徴のような役を得て、現実から解き放たれた、大きな異界じみた存在感を発揮。
表情だけでなく、公開実験で、自ら準備した拘束具を引きちぎって、周囲の警備員?4~5人をなぎ倒して客席に降り、駆け抜けていく、一連の動作の迫力は、「タカラヅカ・アクション・スター史」(というものがあるとすれば)に残る出来栄え。
常夏?の南米ブラジルを舞台にしながら、なぜかイデ―は冬のNYで買ったというクローゼット奥深くにしまいこまれた黒い毛皮のコートを着用。ソフト帽を目深にかぶってコートを羽織ったその姿が、「不滅の棘」で白いコートで見せた春野寿美礼さんの姿をフラッシュバックさせていやがうえにも大物スター感を盛り立てていました^^
2幕で人格が入れ換わる期間が短くなり、ジキルでいながらイデ―の行動を傍らで観察する状態に変化していく・・といった複雑なプロットを演技(と照明)で細かに表現するあたりはもう、マカゼワールドに巻き込まれ息をひそめて見守るばかり・・・といった感じ。
課題だった歌も本人比とはいえ、上達。
フィナーレのデュエットダンスも、クラシカルな正統派2枚目の黒と金の衣装でこれまた堂々とした出来映えでした。
■マリア(患者、市長の長女29歳) : 妃海 風
轟理事の相手役として堂々バウヒロイン、と言いますか、ミュージカル女優としての実力を発揮した初ヒロイン作から2作目。
所謂、ヒロイン役としては異色な、精神を病んだ患者役。
抽象的な歌詞の歌を歌う異次元の世界に住む浮遊感、白いドレスで17歳の夏の浜辺での出会いと初恋の思い出フラッシュバックシーン、薬で5歳の自分に戻った幼子としての場面、そして、27歳の若い女性として社会性のある行動を取るに至るまで、様々な顔を演じ分ける必要がある難役。
実力派娘役の抜擢に応えた前作同様、透明感ある歌声、しっかりとした演技力。可愛らしく庇護欲を誘う5歳の演技を白眉とし、全ての場面を的確に演じていました。
可愛らしい丸顔と大きな瞳、朗らかで健康的な個性が 暗くなりがちなストーリーに明るさをもたらしているのも彼女の功積。
ただ、フィナーレのデュエットダンスが、真風氏の個性に合わせたアダルトなものであったため、黒に金のゴージャスな大人びたドレスを着た風ちゃんはちょっと良さを発揮できず、お似合いとは行かなかったのがなんとも残念。
CUTEでかわいらしい雰囲気はお手の物なのですが、お顔もお鼻も丸くて、うっとりとした耽美的な表情が決まらないお顔立ちなのですよね・・・^^;
月や雪のようにファニーでCUTEな持ち味でTOPを努めている娘役さんもいることですし、彼女に合った相手役に望まれると今後ヒロインとして路線に乗る可能性はゼロではないと思います。
■ジュリア(ジキルのGF、市長の次女): 音波 みのり
一方、年下の下級生ヒロインを支える妹役の上級生はるこちゃん(音波)。夢乃さん、紅さん、涼さんなどの2番手3番手のバウ作品でのヒロイン役の経験も積んできた、すでにベテランの域に達し、ますます美しく華やかな娘役さん。
ちょっと白羽ゆりさんのような華があり、演技も良く、きれいなまろやかな発声で安心して観ていられる娘役さんですが、お歌が得意でないせいで、近年海外ミュ―ジカルなどの上演が増えて歌の比重が強まっている風潮に乗れずにいるのかしら、と歯がゆく思えて・・・。
ジュリアは本当にジキルに惹かれていて、それをまっすぐに表に出している素直な娘。
最後全てを知って、姉のために身を引く形になりましたが、プッチ柄の華やいだドレス姿で登場する冒頭から、つねに巻髪をふりながら、南米の美女、というムードで場を盛り立て、演ずれば心のある良い女。
娘役として本当に良い仕事をしてくれました。
小柄ながら、立体的なBODYラインのトランジスターグラマーで、舞台姿もきれい。
目を引く美女で、このままチャンスがないと勿体ないなと思います。
■ブルーノ(ジキルの親友、経済学者・コメンテーター): 天寿 光希
真風さんよりも一つ上の学年の実力派スターのみっきー(天寿)。
3人の親友の中で、どこかおっとりとした精神科医役の2人に対して、滑舌も良く、世間に期待される風にふるまう賢い男。そんな自分を客観視する複眼的な思考も持てる頭の良さ、そしてジキルに対しては献身的な友情を捧げ、頼まれたことは素早く完璧にこなしてくれる、良き友。
大柄な2人が、真風氏はグレーや黒、十碧れいやくんは落ち着いたベージュや温かみのある茶系のスーツを着用しているそばで、チェックのシャツにグリーンのスーツで、如何にも派手なTV業界に身を置いている、という記号を演じて。
最後、マリアとジキルを残して皆で袖に掃けていくところ、さりげなくジュリアの手をとるブルーノに、予感と展開をほのめかす、みっきーの(演出かもしれませんが)芝居心と同期愛を感じました^^
■ジョアン(ジキルの親友、精神科医): 十碧 れいや
花組に異動してから新公主演独占&バウ主演と飛ぶ鳥を落とす勢いの芹香斗亜さんとは同期で長く二個イチで使われてきた十碧れいやくん。真風氏と星組で新公主役を分け合ってきた劇団押しの麻央祐希ちゃんの一つ上の学年で、スターに挟まれて、今一つ目立ちませんが、175cmのスラリとした容姿で実はスター性のあるヒトだと思います。
ロミジュリの新公の「死」で個性あふれる役作りにもチャレンジ精神を見せ、これからもしかすると化けるかも?というポテンシャルと魅力を秘めた十碧れいやくん。
今回のバウ作品での主要な役づきは大いなるチャンスですが、普段の良いヒトキャラが前面に出てしまい、いえ、それが演出指示なのかもしれませんが、彼女自身のアピールとしては少し弱かったかな?と。
ただ、同じ身長で一つ学年が上の真風氏をセンターに、お顔立ちの傾向が似ている天寿さんとの3人で並んだバランスは絶妙。
精神科医仲間で、若くして教授に上り詰めた真風氏を羨みねたむそぶりも見せず、盲目的に協力していますが、特定の患者に個人的な思い入れから力を入れたり、自らを新薬実験の被験者としたりする真風氏ジキルの暴走を諌める見識が欲しい・・・というのは望みすぎかしら?(これは十碧さんに、というより木村センセイへの注文ですね^^;)
■ジェラルド(12年前の事件を追う刑事): 美城 れん
前から上手いヒトだとは認識されていましたが、「ジャン・ルイ・ファージョン」での、冷静に時代を客観視できる知性と常識力を持った見識ある市井の弁護士役で注目され、「ロミオとジュリエット」では情溢れる理想の乳母としてブレイク。
専科入り間近?と思われる星の名物役者 美城れんさん。
今回は日系人?な名字(タナカ)を与えられ、定年間近で過去の迷宮入り殺人事件を洗い直そうという決意を持った骨太なヒラ刑事を。年の功で上司も転がす、社会人キャリアを発揮するあたりや、しつこすぎる探究心が「この男うざい!」と観客に思わせてしまうピーター・フォーク オマージュ?も含め、遊び心も余裕もある、名脇役。
■市長: 一樹 千尋
「ロミジュリ」ではキャピュレット父。
権力ある年配男性の役がピッタリの頼りになる専科さん。
今回も、娘に泣かれ、部下は暴走と悩みが尽きず、目の下のクマが一層お似合いな役どころ。
首を絞められる場面があり、その体制で、なぞ解きの会話がなされる、という謎演出のせいで、苦しみ続けながらも断末魔に至ることを許されず、セリフを邪魔するうめき声も上げられない、という窮地に。
そんな無茶ぶりに応えて苦悶の表情バリエーションを繰り出して場を繋ぐ力量にさすが、専科さんと感心しました^^;
■ファビオ(警察署長): 輝咲 玲央
ペドロ(警察部長、ジェラルドの上司): 瀬稀 ゆりと
真風君の同期お二人。
自分のストーリーに恩人を巻き込んで暴走するファビオ、美味しい役どころ。
ペドロは長いものに巻かれる男。
お2人とも好演でしたが、おひげの位置が違えどもちょっと見た目が似ていて、1幕では混乱してしまいました^^;
■ダニエル(ジキルの執事): 漣 レイラ
漣さんの「執事」といえば、「メイちゃんの執事」でのダダ洩れる色気であのヒトそんな下級生なの??と星ファンの話題を誘ったヤサぐれ無精ひげの’根津ちん’を思い出しますが、今回は超の付く出来たヒト。
パジャマ姿で狸寝入りのつもりが知らず知らずにうちにうたたね・・・のジキルにそっと毛布をかける優しさに癒されます^^
■~サンバ幻想~
もはや、役ではありませんが、リオのカーニバル観光に出かけた先で、本作の構想を練った木村センセイのインスピレーションにより、舞台はブラジルに・・・。よって、親友どおしの真剣な会話のバックに、ダルマ(レオタード)に羽のヘッドドレスのカーニバル仕様の若手男役が背後で踊る・・・というシュールな図が幻想的な作品を印象付けています。
なんともいえない謎設定ですが、同じく若手男役のパステルスーツの群舞シーンで、黒塗りのおかげでイケ面度が2割増しになっていることに気づいたので良しとしました(え?)
日本青年館にて(公演期間:10月25日~30日)
宝塚星組3番手、真風涼帆主演、
ミュージカル
『日のあたる方(ほう)へ ―私という名の他者―』
~スティーヴンソン作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」より~
脚本・演出/木村 信司
を観て参りました。
[解 説]
ロバート・ルイス・スティーヴンソンが1886年に出版した小説「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」は、善と悪、二つの人格を主題としており、「ジキルとハイド」という言葉は現代でも二重人格の代名詞として使われます。これまで数多くの映像化、舞台化がなされた題材ですが、原作において、人格の裏側に潜む極悪人であるハイド氏を、本公演では心の奥底に秘められたトラウマと捉え、精神に疾患を抱える女性マリアをヒロインに、彼女の病気を治すため自ら治療薬の被験者となるジキルと、その隠された過去を描き、宝塚歌劇ならではの深遠な愛を込めた現代的、かつ幻想的な「ジキルとハイド」の物語をお届けします。(公式HPより)
ジキルとハイド・・・と言えば、人間の善悪の2面性を見せる作品、ということ。
これは役者にとっては美味しい、挑戦しがいのある本格的なストレートプレイが要求される、ということ。
ミュージカル仕立て、ということで、ドラマチックな歌唱力も必要でしょうし・・・
新公主演ほぼ独占でバウ主演経験もすでに積み、他組ならば2番手格にいてもおかしくない経験値と風格ある下級生、真風氏。
とはいえ、圧倒的なベテランTOP柚希礼音、個性派の人気2番手紅ゆずるに続いているものの、実力派で人気面でも追い上げてきた礼真琴の存在もあり、おっとりとした性格ゆえ、どこか控え目な印象のあった彼女に奮起を促すための企画?
この時期、柚希氏センターに紅、礼をはじめとする男役陣を中心にした「REON2」
娘役TOP夢咲ねねちゃんと専科のお二人&2番手?娘役早乙女わかば嬢でのバウ公演「第2章」
そして、3番手男役真風涼帆主演の東上つきバウ「日のあたる方へ」
3分割された、このグループの配役をみてみますと・・・
ジキル/イデー(精神科医・教授27歳) : 真風 涼帆
マリア(患者、市長の長女29歳) : 妃海 風
*~*~*
市長 : 一樹 千尋
ソニア(ジキルの養母): 万里 柚美
エドアルド(ジキルの養父): 美稀 千種
エリス(ファビオの妻): 毬乃 ゆい
ジェラルド(12年前の事件を追う刑事): 美城 れん
サンドラ(精神科医): 白妙 なつ
ブルーノ(ジキルの親友、経済学者・コメンテーター): 天寿 光希
ジュリア(ジキルのGF、市長の次女): 音波 みのり
ファビオ(警察署長): 輝咲 玲央
ペドロ(警察部長、ジェラルドの上司): 瀬稀 ゆりと
ジョアン(ジキルの親友、精神科医): 十碧 れいや
ダニエル(ジキルの執事): 漣 レイラ
歌ウマ・演技に定評のある上級生で固めてきていますね。
売り出し中若手バウ公演では、このところ、ポスターのVISUAL演出が素晴らしく、観劇意欲をそそる力作が続いていますが、今回は敢えて?のこのやる気がないとまで思えてしまうそっけないポスター・・・^^;
そのバリエーションである画像も
このコストのかかってなさそう感(笑)に、真風氏へのハードルの高さ、そして獅子の我が子敢えて千尋の谷に突き落とす星組敏腕(と言われる)プロデューサーの意向を感じるのはうがち過ぎというものでしょうか?
いいよ、別に観に来なくても・・・と言わんばかりの画像ですし、演出が、出来不出来の波があると定評のある?キムシンこと木村信司センセイゆえ、ちょっとした賭けではあったのですが、作品のテーマと配役への興味があり、観ることに。
結果・・・
非常に「良いキムシン」でした!
市長一家とジキルの両親との隠された過去、警察長官のゆがんだ忠誠心、定年前の刑事の粘り強い探究心、ジキルの新薬完成と患者に対する思い入れ、ジキルとマリア過去の出会いなどが織りなすタぺストリ―。
色々と突っ込みどころはなくはありませんでしたが、登場人物の過去と謎が次第に明かされていくプロットとジキルが新薬を自らに投与することで生まれる別人格との演じ分け、マリアとの運命の出会いと2人の距離感の変化など、興味を惹きつけつつ、時折挿入されるシュールな場面(サンバ幻想)などが良いアクセントとなって、息をも継がせぬ展開と、暗いテーマを明るいエンディングに持ち込んだ力技に、感動しました。
*出演者個々への感想です。*盛大にネタばれしています
■ジキル/イデー(精神科医・教授27歳) : 真風 涼帆
基本穏やかな、人々に慕われるエリート医師。
優しい養父母の愛を受けてすくすくと成長。2人の親友は彼に夢中。患者の美人な妹も彼に夢中。
そんな人々の期待と愛情を裏切らない、謙虚で思いやり深い青年。
それが、患者を救うために考案した新薬を自らに投与することで、自ら封印した過去と憎悪に満ちた別人格を呼び出してしまう・・・。
という設定で、呼び出された別人格と平素の彼が見え隠れし、その感覚が錯綜する様を演じると言う難易度の高い役を演じきったこと。しかもそのそれぞれの人格が非常に魅力的に表現されたこと・・・が全てです。
往年のスター春野寿美礼さんを彷彿とさせる長身面長のクラシカルな「タカラヅカスター男役」そのものの容姿と175cmの長身でありながら、普段は下級生然としたおっとりさ加減で、今一つ前に出ようとする欲が観えなかった彼女、「イデ―」という、ロミジュリの「死」に匹敵する全くの別次元に存在する悪の象徴のような役を得て、現実から解き放たれた、大きな異界じみた存在感を発揮。
表情だけでなく、公開実験で、自ら準備した拘束具を引きちぎって、周囲の警備員?4~5人をなぎ倒して客席に降り、駆け抜けていく、一連の動作の迫力は、「タカラヅカ・アクション・スター史」(というものがあるとすれば)に残る出来栄え。
常夏?の南米ブラジルを舞台にしながら、なぜかイデ―は冬のNYで買ったというクローゼット奥深くにしまいこまれた黒い毛皮のコートを着用。ソフト帽を目深にかぶってコートを羽織ったその姿が、「不滅の棘」で白いコートで見せた春野寿美礼さんの姿をフラッシュバックさせていやがうえにも大物スター感を盛り立てていました^^
2幕で人格が入れ換わる期間が短くなり、ジキルでいながらイデ―の行動を傍らで観察する状態に変化していく・・といった複雑なプロットを演技(と照明)で細かに表現するあたりはもう、マカゼワールドに巻き込まれ息をひそめて見守るばかり・・・といった感じ。
課題だった歌も本人比とはいえ、上達。
フィナーレのデュエットダンスも、クラシカルな正統派2枚目の黒と金の衣装でこれまた堂々とした出来映えでした。
■マリア(患者、市長の長女29歳) : 妃海 風
轟理事の相手役として堂々バウヒロイン、と言いますか、ミュージカル女優としての実力を発揮した初ヒロイン作から2作目。
所謂、ヒロイン役としては異色な、精神を病んだ患者役。
抽象的な歌詞の歌を歌う異次元の世界に住む浮遊感、白いドレスで17歳の夏の浜辺での出会いと初恋の思い出フラッシュバックシーン、薬で5歳の自分に戻った幼子としての場面、そして、27歳の若い女性として社会性のある行動を取るに至るまで、様々な顔を演じ分ける必要がある難役。
実力派娘役の抜擢に応えた前作同様、透明感ある歌声、しっかりとした演技力。可愛らしく庇護欲を誘う5歳の演技を白眉とし、全ての場面を的確に演じていました。
可愛らしい丸顔と大きな瞳、朗らかで健康的な個性が 暗くなりがちなストーリーに明るさをもたらしているのも彼女の功積。
ただ、フィナーレのデュエットダンスが、真風氏の個性に合わせたアダルトなものであったため、黒に金のゴージャスな大人びたドレスを着た風ちゃんはちょっと良さを発揮できず、お似合いとは行かなかったのがなんとも残念。
CUTEでかわいらしい雰囲気はお手の物なのですが、お顔もお鼻も丸くて、うっとりとした耽美的な表情が決まらないお顔立ちなのですよね・・・^^;
月や雪のようにファニーでCUTEな持ち味でTOPを努めている娘役さんもいることですし、彼女に合った相手役に望まれると今後ヒロインとして路線に乗る可能性はゼロではないと思います。
■ジュリア(ジキルのGF、市長の次女): 音波 みのり
一方、年下の下級生ヒロインを支える妹役の上級生はるこちゃん(音波)。夢乃さん、紅さん、涼さんなどの2番手3番手のバウ作品でのヒロイン役の経験も積んできた、すでにベテランの域に達し、ますます美しく華やかな娘役さん。
ちょっと白羽ゆりさんのような華があり、演技も良く、きれいなまろやかな発声で安心して観ていられる娘役さんですが、お歌が得意でないせいで、近年海外ミュ―ジカルなどの上演が増えて歌の比重が強まっている風潮に乗れずにいるのかしら、と歯がゆく思えて・・・。
ジュリアは本当にジキルに惹かれていて、それをまっすぐに表に出している素直な娘。
最後全てを知って、姉のために身を引く形になりましたが、プッチ柄の華やいだドレス姿で登場する冒頭から、つねに巻髪をふりながら、南米の美女、というムードで場を盛り立て、演ずれば心のある良い女。
娘役として本当に良い仕事をしてくれました。
小柄ながら、立体的なBODYラインのトランジスターグラマーで、舞台姿もきれい。
目を引く美女で、このままチャンスがないと勿体ないなと思います。
■ブルーノ(ジキルの親友、経済学者・コメンテーター): 天寿 光希
真風さんよりも一つ上の学年の実力派スターのみっきー(天寿)。
3人の親友の中で、どこかおっとりとした精神科医役の2人に対して、滑舌も良く、世間に期待される風にふるまう賢い男。そんな自分を客観視する複眼的な思考も持てる頭の良さ、そしてジキルに対しては献身的な友情を捧げ、頼まれたことは素早く完璧にこなしてくれる、良き友。
大柄な2人が、真風氏はグレーや黒、十碧れいやくんは落ち着いたベージュや温かみのある茶系のスーツを着用しているそばで、チェックのシャツにグリーンのスーツで、如何にも派手なTV業界に身を置いている、という記号を演じて。
最後、マリアとジキルを残して皆で袖に掃けていくところ、さりげなくジュリアの手をとるブルーノに、予感と展開をほのめかす、みっきーの(演出かもしれませんが)芝居心と同期愛を感じました^^
■ジョアン(ジキルの親友、精神科医): 十碧 れいや
花組に異動してから新公主演独占&バウ主演と飛ぶ鳥を落とす勢いの芹香斗亜さんとは同期で長く二個イチで使われてきた十碧れいやくん。真風氏と星組で新公主役を分け合ってきた劇団押しの麻央祐希ちゃんの一つ上の学年で、スターに挟まれて、今一つ目立ちませんが、175cmのスラリとした容姿で実はスター性のあるヒトだと思います。
ロミジュリの新公の「死」で個性あふれる役作りにもチャレンジ精神を見せ、これからもしかすると化けるかも?というポテンシャルと魅力を秘めた十碧れいやくん。
今回のバウ作品での主要な役づきは大いなるチャンスですが、普段の良いヒトキャラが前面に出てしまい、いえ、それが演出指示なのかもしれませんが、彼女自身のアピールとしては少し弱かったかな?と。
ただ、同じ身長で一つ学年が上の真風氏をセンターに、お顔立ちの傾向が似ている天寿さんとの3人で並んだバランスは絶妙。
精神科医仲間で、若くして教授に上り詰めた真風氏を羨みねたむそぶりも見せず、盲目的に協力していますが、特定の患者に個人的な思い入れから力を入れたり、自らを新薬実験の被験者としたりする真風氏ジキルの暴走を諌める見識が欲しい・・・というのは望みすぎかしら?(これは十碧さんに、というより木村センセイへの注文ですね^^;)
■ジェラルド(12年前の事件を追う刑事): 美城 れん
前から上手いヒトだとは認識されていましたが、「ジャン・ルイ・ファージョン」での、冷静に時代を客観視できる知性と常識力を持った見識ある市井の弁護士役で注目され、「ロミオとジュリエット」では情溢れる理想の乳母としてブレイク。
専科入り間近?と思われる星の名物役者 美城れんさん。
今回は日系人?な名字(タナカ)を与えられ、定年間近で過去の迷宮入り殺人事件を洗い直そうという決意を持った骨太なヒラ刑事を。年の功で上司も転がす、社会人キャリアを発揮するあたりや、しつこすぎる探究心が「この男うざい!」と観客に思わせてしまうピーター・フォーク オマージュ?も含め、遊び心も余裕もある、名脇役。
■市長: 一樹 千尋
「ロミジュリ」ではキャピュレット父。
権力ある年配男性の役がピッタリの頼りになる専科さん。
今回も、娘に泣かれ、部下は暴走と悩みが尽きず、目の下のクマが一層お似合いな役どころ。
首を絞められる場面があり、その体制で、なぞ解きの会話がなされる、という謎演出のせいで、苦しみ続けながらも断末魔に至ることを許されず、セリフを邪魔するうめき声も上げられない、という窮地に。
そんな無茶ぶりに応えて苦悶の表情バリエーションを繰り出して場を繋ぐ力量にさすが、専科さんと感心しました^^;
■ファビオ(警察署長): 輝咲 玲央
ペドロ(警察部長、ジェラルドの上司): 瀬稀 ゆりと
真風君の同期お二人。
自分のストーリーに恩人を巻き込んで暴走するファビオ、美味しい役どころ。
ペドロは長いものに巻かれる男。
お2人とも好演でしたが、おひげの位置が違えどもちょっと見た目が似ていて、1幕では混乱してしまいました^^;
■ダニエル(ジキルの執事): 漣 レイラ
漣さんの「執事」といえば、「メイちゃんの執事」でのダダ洩れる色気であのヒトそんな下級生なの??と星ファンの話題を誘ったヤサぐれ無精ひげの’根津ちん’を思い出しますが、今回は超の付く出来たヒト。
パジャマ姿で狸寝入りのつもりが知らず知らずにうちにうたたね・・・のジキルにそっと毛布をかける優しさに癒されます^^
■~サンバ幻想~
もはや、役ではありませんが、リオのカーニバル観光に出かけた先で、本作の構想を練った木村センセイのインスピレーションにより、舞台はブラジルに・・・。よって、親友どおしの真剣な会話のバックに、ダルマ(レオタード)に羽のヘッドドレスのカーニバル仕様の若手男役が背後で踊る・・・というシュールな図が幻想的な作品を印象付けています。
なんともいえない謎設定ですが、同じく若手男役のパステルスーツの群舞シーンで、黒塗りのおかげでイケ面度が2割増しになっていることに気づいたので良しとしました(え?)