Sylvie Guillem Japan Tour 2011 HOPE JAPAN Bプロ
2011年10月30日(日)15:00
東京文化会館
作品ごとの感想を・・・
■「春の祭典」
言うまでもない、ベジャールの出世作。
ストラヴィンスキーの音楽を完璧に視覚化した作品は、初演のパリで話題沸騰。
今観ても、古びた感じはせず、野生動物のようなダンサーたちの研ぎ澄まされた動きと気配に圧倒されます。
生贄の長瀬さんと吉岡さんの組み合わせは初めて見るかも。
東京バレエ団のレパートリー作品としてもとても頻繁に上演されるので、色々なダンサーの配役で観ていますが、それだけに、冒頭で動き出す群れの一頭の小笠原さんの動きに、あぁ、昔、ここに大嶋さんがいたなぁ・・などと過去の配役を思い出したりして。
2人のリーダーに長身の若手、 柄本弾さんと森川茉央さんが配役されていて、ここもちょっと世代交代。
柄本さんは、今回Aプロでも使われていましたし、見違えるほど踊りが引き締まってすでにこういう役どころに違和感なくおさまっている感じがしましたがこのポジションの森川さんは新鮮。
じっくり見たことがなかった人ですが、身体のラインがスッと直線的でキレイなヒトですね。
ソフトなラインの弾くんとは好対照です。4人の若い娘が高村順子、西村真由美、佐伯知香、吉川留衣という並びが嬉しい・・。男性はともかく、日本人女性ダンサーの容姿は本当に向上したなぁとしみじみ思いました。
吉岡さんの生贄はしなやかに運命に身を委ねる感じ。
長瀬さんはちょっと中性的なしなやかさと品の良い色気があるダンサーで、この役にも良く合っていると思いました。
カーテンコールで吉岡さんをエスコートする姿が思いがけずエレガントで好印象。
■「リアレイ」
ウィリアム・フォーサイスの新作!初演がギエムとニコラ・ル・リッシュ!
いや~期待が高まります。
今回のギエムのパートナーはマッシモ・ムッル。
ニコラとの方が、男女としてのバランスは良いのかもしれませんが、ムッルの細くてしなるような体型が、女性としては細身ながらマッチョなギエムと鏡のように呼応し、共鳴して、フォーサイス独得の広がりのあるシャープなオフバランスを強調して視覚化していたと思います。
丈が短くて首と肩がピッタリとしたTシャツにグレーの細身のストレッチパンツという飾り気のない衣装ながら、ダンサーとして洗練の極みにある2人の身体的な美しさに圧倒されました。
ただ・・照明はあそこまで落とす必要があったのでしょうか?
幕間で、「眠ってしまった・・」「だめ、どうしても」などという声がロビーでたくさん聞こえて来てしまい・・・それも無理のないと思われる音楽(ノイズ入りの現代音楽)と照明(終始暗く、オペラで表情を、と思っても見えないレベル)だったので・・・;;
■「パーフェクト・コンセプション」
バレエの詩人、イリ・キリアンが東バのために振付た作品。
初演を見ているのですが、その初演メンバーの井脇幸江さんらは29日(土)の方で出演されたようで・・。
田中結子、川島麻実子、松下裕次、宮本祐宜というフレッシュなメンバーでの上演です。
真ん中に穴の開いている四角くフラットなクッションのようなものが脚を通せばチュチュになり、落とすと小道具に・・・というアイデアを使い、バッハを中心にアレンジした音楽と戯れるように展開する・・・
という流れですが、ちょっと求心力に欠けたかな?
この作品もまた、照明落としすぎだと思いました;;
■「アジュー」(Bye)
マッツ・エックがギエムの要請でLONDONでの震災義援公演6000miles awayとこのツアーのために振付たソロ作品。
今回の公演の白眉!でした。
センターやや上手寄りに、等身大の鏡のような、扉のような大きさのスクリーンがあり、そこに映し出されるギエムの右半分の顔。
不安そうに瞬きをし、そのまま後ろに下がり、小さくなったと思うとまた近づき、ドアに密着します。その脇や上から手や半身を出すのですが、スクリーンに映し出される白黒画像とぴったりなので、まるで、スクリーンが透明な何かのように思える趣向。
舞台に出てきた彼女は、素顔に後ろで三つ編みにしたラフなまとめ髪。
レトロなプリントのあずき色のサテンシャツ、からし色の膝丈フレアースカート、ローズ色の靴下、オリーブカーキのカーディガンを羽織り、良く見るとmiumiu調のお洒落な感じではありますが、意味するところは「等身大の女性」であると観てとれます。
エック独得の、つたない動き、敢えて、美しさを排除するような腰を練り上げるようなムーブメントで彼女の不安、おぼつかなさが表現されますが、そのうちに、内面の変化が表れて、カーディガンを脱ぎ捨て、靴下を脱ぎ、舞台センターだけに円形にあたったスポットライトの中で、どんどん解放されたダンスに身を委ねるギエム。
自由自在に即興的に踊っているような印象を受けますが、オペラで観たときの研ぎ澄まされた動きのシャープネス、裸足で踊っているとは信じられない跳躍・・・それらのテクニックが完全に作品の内部に溶け込んで、そこに1人の女性と彼女の人生がある、という印象だけを残す圧倒的な舞台。
やがて、スクリーンの向こうに1人の男性が現れます。
彼らの間には何かがあったのかもしれない。
そして、たくさんの人々が老若男女、様々な姿で向こう側に現れ・・・
彼女もそちらに行きます。
あからさまにストーリー仕立てになっているわけではありませんが、コンテンポラリーの中では比較的ストレートなメッセージ性の強い作品で、強く心に残りました。
何度も繰り返されるカーテンコール。
拍手に応えるギエムの晴れやかな、そして温かい笑顔。
スタンディングオベーション。
歴史に残るアーティストはたくさんいますが、
80年?の人生の中で、そのパフォーマンスを同時代人として目にすることのできる人はそんなにはいないものでしょう。
シルヴィ・ギエムという稀有なダンサーと同時代を生き、彼女のキャリアの多くを毎年のように眼にし、追うことの出来る巡り合わせを幸せと思った時間でした。