2011年9月29日
NHKホールでの バイエルン国立歌劇場東京公演。
「ローエングリン」
演出はリチャード・ジョーンズ。
始まる前から後ろ姿のオーバーオール?姿の人が、図面を引いている模様・・・
舞台には煉瓦で土台が組まれています。
この「家」がブラバント王国建設のメタファーとなっていて、
1幕の間、皆で煉瓦を運んでは積み重ね、なんと休憩時間にも作業が続き終幕では家として
完成している・・・という構図。
エルザ姫も、結婚式の白いドレス姿になるまではこのオーバーオールに三つ編みヘアーの
田舎の子供みたいな姿ですし、白鳥の騎士もブルーのシャツを裾出しで着ていて一緒に
家の建設に軽作業で参加しているし・・・。
ドイツ系の歌劇場では主流派の、現代版の衣装、簡素なセットでのモダン演出。
まぁ、今堂々と王子様として白鳥の張りぼてボートに乗って現れるのも厳しいかとは思うので、
これはこれでありかもしれません。
それにしても、合唱の国民たちが、みな、ボトムスは男性チノパンかスラックス、女性はグレーのプリーツスカートなどの普段着に揃いの青いTシャツとはどこまで衣装代がかかっていないのか!と。
・・・ここまで徹底されるといっそ清々しいですけれどもね^^;
【第1幕】
舞台上にはすでにエミリー・マギーが。
延々と後ろ姿で製図し続けています・・・。
いきなり、ケント・ナガノが現れて序曲演奏。
あれ、これってもっと美しいワクワクするような曲ではなかったかしら?
ちょっと思っていた曲とはテンポが違うのか、なんとなく入り込めない演奏でした。
舞台の上では、家(=国?)の建設に携わる人々。
事務職らしいかっちりした服装の、テルラムント率いるホワイトカラー、
オーバーオールを着たエルザ側に立つブルーのラフな服のひとがブルーカラーという位置づけか。
行方不明の弟、父公亡き後のブラバントの後継ぎの殺害の嫌疑をかけられているのは姉娘エルザ。
追求するのは、番頭役であったテルラムント伯爵。
彼はエルザに求婚して拒絶の憂き目に合った過去を持ち、今は魔術を使える家柄の良いオルトルートを妻としています。
裁判をつかさどるのは国王フリードリヒ。
彼は、徴兵に協力してもらえるブラバント公国の行方に関心を持っている模様。
テルラムントは、武勲をあげていて、一定の信頼を国民からも得ている人物なので、
頼りなげなエルザには不利な状況。
エルザがかけられようとしているのは火あぶりの刑。
着々と準備が進められている中、彼女のために動く騎士はいないのか?との呼び掛けに応えてきたのは
エルザが夢で見たと歌った騎士。
・・・。上手から、白鳥を小脇に抱えてとことこ歩いて
白鳥の労をねぎらい、オルトルートの前で一瞬視線を合わせて対決の構図。
まさにこのオペラの善悪の象徴が一瞬火花を散らす瞬間ですね。
エルザに問う騎士。
わたしが誰で、どこから来たのか問うてはなりません。その誓いをあなたは守れますか?
守ります。ではあなたを愛し、あなたのために闘いましょう。
明らかに強そうなニキーチンですが(彼は、刺青をたくさん入れていますね^^;これは素で入っているものだと思いますが敢えて消していませんでした)ほとんど不動でポーズをとる穏やかな巨漢ボータに向うと、勝手に剣から火花が出て、取り落してしまいます。
勝負あり。
命は預かろう、ということで訳の分らぬままに追放の憂き目にあうテルラムント。
ニキーチンは声質はキレイだと思いますが声量がやや足りないか。
妻の尻に敷かれる男(え?)の役なので、違和感ありませんでしたが^^;
【第2幕】
騎士は自然に人々の輪に入り、テーブルにニスを塗ったり溶け込んでいます。
家の建設が再開されました。
前景の上手の椅子にはその様子を眺めて次の手を考えるオルトルート。
マイヤー様はショートカットで、地味な色の襟もとが深いシャープなワンピース姿。
突出した知性を感じさせるキャリア女性的な趣でカッコいい。
短絡的なテルラムントはピストル自殺を図るが、オルトルートに止められます。
舞台を前後に仕切る壁が降りてきて、2人の部屋の情景に。
魔女であるオルトルートは、騎士の勝利が魔術によるものだと喝破。
名を秘すのは魔術が溶けてしまうのを防ぐ意味。
エルザに禁断の問いを発せさせましょう。
建設途中の家から出てきたエルザにオルトルートが近づきます。
「不幸な女(ひと)」と呼びかけるエルザ。
その高慢さに内心の苛立ちを押さえつつ取りいるオルトルート。
エルザのエミリー・マギーは無難に歌いこなしていて演技もしていますが、声に心が繊細に反映されるところまでは行っていないかも。
オルトルートの表と裏の顔を使い分ける達者さはマイヤーが上手ですね。
(設定もそうなので違和感ありませんが^^;)
朝が来て、家は完成間近。
人々が家の中を整え、結婚式の準備をします。
奥の部屋は寝室。
手前の部屋にテーブルと十字架がおかれ、教会も兼ねて、ここで式が執り行われます。
白い婚礼衣装のエルザが登場。
つき従うのはダークグリーンのドレスのオルトルート。
天井から屋根が降りてきて家は完成。
なんとソーラーパネル付(ドイツらしくて笑えました^^)。
オルトルートが言葉巧みにエルザを追いこみ、騎士への疑念を植え付けます。
騎士と国王が登場。
ベランダにテルラムント。
なぜこの男が!
皆の前で、問いを発するテルラムント。
その男の名前を聞きたい。
その男に応える義務はない。わたしに問えるのはエルザだけだ。
でも、そのエルザは、出会いの場面ですでに問うことを放棄させられています。
それぞれが心の内を歌う重唱。
はっきりと聞こえてくるのはボータとマイヤー。
テルラムントに詰め寄られながら、エルザは結婚誓約書にサインをします。
ローエングリンはチェックマーク。
その手もとが、舞台天井近く中央の丸いお知らせマーク(朝が来たら鶏
とか)に映し出される趣向。
ここで、あの有名な結婚行進曲が鳴り響きます。
この曲って微妙ですよね・・・。しごく当然のように結婚式に使われていますけれど、このオペラの文脈の中では、秘密があるがために直後に破綻する絆の流れが見えているだけに、末永くの幸せを願う結婚式にふさわしいのかどうか・・^^;
それを言うなら、椿姫の乾杯の歌が披露宴などで歌われるのも微妙ですが^^;
それはさておき、無事に式を見届けた人々が手を振りながら掃けていき、ようやく2人きりになるエルザと騎士。
【第3幕】
さて、ここからが聴きどころ!
ふたりきりだね。甘い二重唱。
あなたの名を呼びたいわ、愛しい人。
信頼があるのだから、光の国から来たのだと信じてほしいと諭すローエングリン。
あなたがどこから来たのかがわからないわたしは、いつあなたがそこに戻らないともわからない心配に常に苛まれるのです。
自分だけには打ち明けてほしいと懇願をはぐらかされて、エルザは止まらなくなります。
約束しただろうと言われても、そもそも真の愛は相互理解なくしては生まれないもの。
もともとの縛りが無理だった、ということなのですが・・・。
遂には、白鳥が彼を連れ戻しに来る妄想が始まり、2人の甘い初夜は幻となるという場面までの心理戦。
そこに隙をついて騎士を倒そうと機をうかがっていたテルラムントが駆け込み、そして倒されます。
・・・沈黙。エルザ退場。
寝台に傍らのベビーベッドを載せてガソリンを撒き、火をつけるローエングリン。
幕が降り、幕前で憤慨した様子で剣を突き立て去っていくローエングリン。
ここで、パイプオルガンの辺りに、出現したトランペット隊が・・・。
金管BRAVI!
素晴らしい演奏でした。
彼らは王の伝令が何かを伝えるたびにも登場するのですが、伝令と揃いの衣装が可愛い^^
再び、広場に集う人々。
英雄が現れるのを待っています。
テルラムント以上の勇者ゆえ、さぞ頼りになる騎士団を取りまとめてくれるであろう。
国王も期待を持って、待ちます。
そこに思いがけない、騎士の告発。
エルザが誓いを破りました。
テルラムントの屍が引き出されます。
ここから、名と出自を明かす騎士、ローエングリンの独唱が延々と・・・
ボータ、素晴らしい。
これぞワーグナー、これぞ聖杯の騎士。
栄光に満ち溢れた聖なるモンサルヴァ―ト。
白鳥が迎えに来た。
別れの時だ。エルザに指輪を渡して去る騎士。
行ってしまえと毒づくオルトルート。手先は鉄砲となって命を落とすも、本当の巨悪は残るのですね。
コワいわ・・・。
ローエングリンは白鳥を抱えて現れ、一度はけて、今度は男の子を連れてきます。
弟です。正当な領主が戻ってきました。
凍りつく人々を残して、ローエングリンは去ります。
残された人々は互いに銃を向けあい、アナウンスの映像には向かい合った銃の絵が。。。
え、これってまた殺戮の場に?それとも集団自殺?
演出の意図は今一つ不明なれど、ボータの絶頂期の歌唱を聴けたこと、マイヤーの必ずしもBESTコンディションとはいえなかった声ではありつつ、それを凌駕する存在感と演技力でとにかく満足。
善悪両巨頭?の歌唱が全てを牽引して見せ切ったこの日の「ローエングリン」でした。