ついに6年の長い任期を全うして、”ちえねね”として親しまれた柚希礼音、夢咲ねねの星組TOPコンビがご卒業されましたね。
先に新人公演感想をUPしてから、かなり経ちますが、3月27日の初日から5月10日の千秋楽まで、最後は六本木のライブ中継でしたが、新人公演を入れて8回観劇することが出来ました。
柚希さんのTOP時代の星組公演は就任直後の全ツ「再会」を除いてすべて、とりわけ「ハプスブルクの宝剣」「ボレロ」で当時2番手だった凰稀さんにハマってからは全作品を(凰稀さんが宙に組替になったあとも)かなりの回数リピート観劇していたため、親しみ深く、ヅカ友に星組ファンが多かったこともあって常にタカラヅカの中核をなしている存在のように思っていただけに、居なくなってしまうということが想像できなくて・・・。
とはいえ、この卒業システムが100年続く宝塚の秘訣。
観納めと思って赴いた初回の感想は・・・。
ショーについては別記事にしますが、「うたかたの恋」「激情」といった往年の名作を残された柴田先生の久方ぶりの新作書き下ろし!というふれこみで大人の恋を色濃く描く・・というこの作品。
ミュージカル・プレイ
『黒豹(くろひょう)の如(ごと)く』
作/柴田 侑宏
演出・振付/謝 珠栄
柚希礼音のために書き下ろされたオリジナル・ミュージカル。
第一次大戦後のスペインを舞台に、かつての恋人が再会したことから、ある事件に巻き込まれ、思わぬ運命の渦に巻き込まれていく。
大戦中、「黒豹」の綽名を持つ硬派の海軍大佐アントニオ・デ・オダリス伯爵と、カテリーナは恋仲であった。しかし大戦後、バルセロナで再会した二人の境遇は変わっていた。カテリーナは父侯爵の窮地を救うためラミレス侯爵と結婚。その夫は大戦中に病死し未亡人となっている。一方、アントニオはスペイン艦隊参謀として忙しい勤務に追われていた。
大戦後の収まりきらないヨーロッパ情勢の中で、ある種の資本家たちが画策し、その達成のためにアントニオの戦闘力を味方に引き入れようとする……。 (公式HPより)
これぞ退団公演作品!でしょうか。
主人公の見せ場(カッコいい海賊姿のプロローグ、カッコいい軍服姿、ヒロインとの恋愛、悪役との立ち回り、最後のファンへのたっぷりと見せるお別れ場面)はきちんと盛り込まれており、時代背景も・・・と言いたいところですが、ストーリーの前提には相当ムリがあるような^^;。
両大戦間のスペイン。黒幕アラルコン公爵(2番手・紅ゆずる)は二つの野望を持っていた。一つは新興勢力(ナチスドイツとムッソリーニ政権下のイタリアか)へスペイン軍将校を斡旋すること、もうひとつは陰で手を回して毒殺したラミレス公爵の美しき未亡人カテリーナ(ヒロイン・夢咲ねね)を我がものにすること。目下の目標は伝説の海賊、国民的英雄のソルになぞって「黒豹」とあだ名されるやり手の参謀アントニオ(柚希礼音)。2人はお互い思い合っているものの、カテリーナは夫の死がアントニオとの再婚を目指して彼女が手掛けたのではというアラルコン発の噂に悩まされている。
・・・で、一度話をもちかけて剣もほろろに断られたアラルコンが仕掛けたのは、アントニオにはカテリーナの身の危険をたてに呼び出すこと、カテリーナにはアントニオに関することで・・と呼び出したうえでのセクハラ・・・ってどう考えても勝算がない企てをカディスで決着だ!と息まくアラルコンがただの偏執狂に見える、というのが第一の問題。
マドリッドで暮らすカテリーナとバルセロナ勤務のアントニオは舞踏会で再会し、遠距離恋愛を再開。
アラルコンの暗躍に暗いムードが漂うが、2人の距離は思い出と共に一気に近づく。
物思わしげなカテリーナを心配した親友モニカ(娘役ホープ綺崎愛理)は婚約者でアントニオの側近であるラファエル(3番手真風涼帆)に相談。アントニオを補佐する立場のときには落ち付いたまじめな人物に見えるラファエルが、なぜか漠然とした不安を訴えるモニカに「わかった!皆を集めよう!」と短絡的な思いつきを実行する。頼りになる若者・・という風情でかわいこちゃんを従えてのデュエットという見せ場を作るため、とわかっていても釈然としない場面(問題その2)。
アントニオの部下の3人衆(壱城・天寿・礼)の婚約者(音波)を含むモニカの友人たちもカディスのカルナバルに遊びに行くことになっていて、物語はカルナバルの熱気と共に、否応なしに盛り上がる。
一方、カテリーナセクハラ場面を目撃し、自分の地位が危ないと感じたアラルコンの愛人アルヴィラ(次期TOP娘役・妃海風)は、軍に所属しながらアラルコンの手先としても働く 自分に想いを寄せるゴンザ―ロ(十碧れいや)を使ってカテリーナ殺害を目論む。呼び出した先の岬の高台。そこにアラルコンとアントニオが集結する。
ゴンザ―ロが排された後はアラルコンがカテリーナを狙う・・・その時に登場したのはアントニオの同期の将校セバスチャン。彼はアラルコンの経営するクラブに足しげく通って密談にも参加しており、どちらの味方かわからない。
が、いきなり鞭?を振るってアラルコンの銃を叩き落とし(なぜ鞭?)、情勢は一転。
緊迫した場面で轟く銃声・・・それはアルヴィラがアラルコンに向けて発砲したもの。彼女がとどめをさしたのだった・・・。
兵器の横流しを秘密裡に調査していたセバスチャンとの誤解も解け、カディスから直接モロッコへ一人新たなる任務に向かうアントニオ。カテリーナ、セバスチャンの母で女性陣皆の友人でもある上流階級御用達の洋装店を営むクラべス夫人(星組組長・万里柚美)、アントニオの叔父(前組長・英馬なおき)、そして居並ぶ部下たちにも見送られ、360度ゆるやかに回転する台の上から、客席にたっぷりと別れを告げる。
・・・・というのが全貌。
さよなら作品ということで、主人公の見せ場を作り、フィクサーである黒幕2番手、若さと誠実さを示す3番手、若手スターにも役を作り、娘役にはマドリッドのクラブでのショーで、若手組子にはカルナバルの熱気が爆発する歌と踊りでミュージカルとしての見せ場も作り、障害を乗り越えての大人の愛をTOPコンビで表現し・・・と目指すところは明確でそれぞれの場面の演出もステキで音楽も美しい。セリフも品が良く、さすが柴田先生・・と思うのですが、いかんせん、物語を動かす動機が弱い。
アラルコンの企ては、金銭的に困窮しているわけでもなく他の寝返った将校のように現体制に不満を持っているわけでもなく名誉ある職務に誇りを持つアントニオに対しては無効であり、カテリーナへの嫌がらせも夫である公爵を手に掛けた事実をもみ消すだけの人脈があるとしてもやりすぎ。下手すると国家に対する裏切り行為として告訴されかねない。
一方、すでに障壁である夫の存在がなくなった未亡人カテリーナと、彼女を想って一人身を貫いたアントニオとの恋愛は今や順風満帆。
裏の世界で暗躍して成功を収めるアラルコンはそれなりに知略家であるはずなのに、どうあがいても勝ち目のない戦いを挑む動機が、カテリーナへの執着もただの征服欲で真の愛情はなく、アントニオに軽く断られたプライドの傷も、元から予測できたことと思うと納得がいかない。
同期、組長、元組長との絡みは退団作品だということで、納得。
公爵の愛人に成りあがったアルヴィラが、彼の心が離れることで失うものの大きさを考えると、軽く「これまでだ」と切ろうとするアラルコンが彼女の手にかかる・・という流れもドラマチックで納得。
ゴンザ―ロの軍での立場の軽さに対する諦念とアラルコンから声がかかったことで高揚する気分、同じ上昇志向を持つ美しいアルヴィラに惹かれる恋心も納得。
・・・と脇は固められているのに芯になる部分が弱すぎるのがなんとも・・・。勿体ない。
でも、退団作品が非のうちどころのない傑作だとファンが成仏できないから敢えて、わかっての所業(!?)かも?まさか??
個々に所感を・・・
■アントニオ・デ・オダリス伯爵: 柚希 礼音
男役集大成のステキな軍人。低く、ちょっとハスキ―な声で語られるカテリーナへの「こいつめ・・・ッ」「もう、君を離さない!」の情熱。 女を教えてやろうかと・・との叔父貴への「なぁにを言っているんですか!・・バカバカしい!」の爽やかさ。カテリーナの長いスカーフを使ったダンス、女性と海の神秘を歌った英馬さんとのデュエットでの「神秘のヴェールに」と張り上げる声が好き。あとここでの椅子にかけたまま長い脚を流して組み替えて、のダンスがカッコいい。
役としては、軍の花形の座を空軍に譲りつつある海軍の役割・現状に焦燥感を覚えつつも職務に忠実で部下の尊敬を集めるイイ男。で文句なし。
■カテリーナ・デ・ラミレス :夢咲 ねね
少女の頃から美女の誉れ高く・・の口上に納得。美少女時代の面影のあるほっそりとした容姿でこの時代のローウエストのドレスから一歩間違うとオバサン・・なプリントワンピまで、難易度の高い衣装を着こなすスキルはねねちゃんならでは。それにしても前が短く後ろが長いシルエットを多用しすぎ。ドレスでは効果的だけれどもデイタイムのスーツには違和感。特にラストのお見送り場面のアイボリーのスーツ。
登場即恋人との再会で思い入れたっぷりのダンス・・となるのですが一気に感情を盛り上げてしっとりと場面作りが出来ているのは流石。
恋人にも敬語、のきれいな日本語セリフをしっとりと聴かせてTOP娘役就任初年の「激情」カルメンの棒セリフから隔世の感。ラストの「聞き分けが良すぎて・・・さみしい?つまんない?」 のところは素のねねちゃんが出ているようなCUTEさでした^^
退団から3日目の「サンセット大通り」制作発表に出演者としてご登場。ショートボブがかわいい。
亜蘭けいさん主演のホリプロミュージカルで共演ですね。今後の女優さんとしてのご活躍も楽しみです。
■ビクトル・デ・アラルコン: 紅 ゆずる
マドリッド一の名門貴族、という設定が何度も出てきますが、貴族的なノーブルさ、よりはネットリとした偏執狂的な時折キレるセリフ回しで安定の悪役時のベニ―節。
自分が世界を動かしている、仕切っているという感覚を楽しみ、大物黒豹の拒絶にあって更に面白い、勝って見せよう・・・(どこのラインハルト様?)と思っているに違いないラスボス。
・・・設定だと思うのですが、ちょっと粘着質のヘンな人に見えてしまう。
まだ新公の麻央くんの方が、他人とは違う育ちのノーブルな出自故の無自覚な傲慢さが彼の落とし穴だったのかと納得できる流れがあったような・・・。
紅さんのアラルコンはちょっと脚本からイメージするところよりも神経質に思えました。アルヴィラに腹を立てるところ、「家も財産も召使も3台の車も・・欲しいものはなんでもくれてやったのに!」の件、
「召使も、3台の車」も?とこの数をカウントするあたりに小さい感じを受けてしまったり。(脚本のせいかも?)
この役、まさこさんじゃ駄目だったのかしら?その方がハマりそうなのに・・・。
で、2番手紅さんを親友セバスチャン設定じゃダメだったの?とちょっともやもや。
あの最後一人壁ドンの「もっともっと・・」の大ナンバーがあったから?ここは見せ場でしたね^^
あと、カテリーナ、アルヴィラ、イレ―ネ、など女性とのやり取りのときの絡みつくような感じは紅さん独特の個性で良いなと思いました。・・・うーん、そうするとやはりアラルコンは紅さんなのかしら?
■ラファエル・デ・ビスタシオ: 真風 涼帆
アントニオの側近。若くてまじめな将校。時折人物紹介のナレーションも担当。
一番の見せ場である、婚約者綺崎愛理ちゃんをともなってのカディスに行こう!のナンバーがスター然とした姿も含め、設定自体に大いに感じる疑問を「まぁいいか」と思わせるだけの説得力があるのが流石。
気が早いのですが、早く朝夏さんとの並びや、宙2番手娘役伶美うららちゃんとの並びを観てみたいです。
大人っぽくてゴージャスな並びになりそう・・・^^
■セバスチャン・デ・ディアス:十輝 いりす
今回のスペイン海軍の軍服、光沢のあるデニムっぽいブルーグレーなのですが、これがとてもお似合い。
アラルコン公爵がオーナーのクラブ「ケルベロス」から出てきたところをアントニオの部下カワイイ3バカトリオに絡まれるときにお召しのロングコートが本当にお似合い。
繁盛している高級注文服オ―ナ―の息子だけあって衣装が着映える178cmの長身と渋いおじさまが似合う美貌を見るにつけ、柚希さんの同期としての支えで宙から異動されてきただけに同時退団か!と心配していたのを残ることを選んでくださってありがとう!と。
新体制でも、宙で長くご縁のあった北翔さんの支えになってくれそうなまさこさん(十輝)。そういえば、宙からかいちゃん(七海ひろき)も異動してきて元宙トライアングルですね。
母(万里柚美組長)にも優しい良い息子。お誕生日が移動日の母のためにお花屋さんに駅で花束を渡させる演出と言い、到着駅での出迎えを知らせる手紙をそこにいれておく手回しの良さと言い、まさに理想の息子^^
・・・しかし・・・なぜ鞭?(そこに戻る)
■アルヴィラ: 妃海 風
アラルコン公爵のオフィシャルな愛人。経営するナイトクラブのナンバーワンショースター。
公爵からは家や召使いや3台の(笑)車など望み通りに与えられているお気に入り。
元は貧しい家の出でハングリー精神と美貌だけでここまできた、という設定。自分に心を寄せる若い男も手玉にとって上手く使う所謂毒婦。やろうと思えばとことん色濃く役作りが出来る役どころを次期TOP娘役と発表されているこの公演で、妃海風ちゃんがどう作ってくるか・・・が注目ポイントでしたが、毒々しくならない程度に色っぽく、上手くバランスを取ってきましたね。
ラストのアラルコン倒れる・・・から誰の銃撃で?・・え、アルヴィラ!?となったところで、東京公演初日あけてすぐの頃は、茫然自失状態で警官に連行される・・という感じだったのが、だんだんと銃殺後のアラルコンへの執着が増して、手を伸ばして未練を表現したり、最後はその場でうずくまっての絞り出すような嗚咽に。
犯罪者としてしょっ引かれてサクサク姿を消してしまうより、ラスト近くの濃い演技の方が、収まりが良い感じがしました。
あと、公演が進むにつれて、どんどん美しくなられましたね。TOP娘役としての今後のご活躍にも期待します。
■ゴンザーロ: 十碧 れいや
ほとんど役らしい役がない中で一人みっちりと背景が描きこまれた際立って美味しい役どころ。
昨年「アルカサル」で麻央侑希とダブルとは言え、バウ主演を果たした路線男役として演じ甲斐のある影のある男をふられたポコちゃん(十碧)。恵まれた容姿で繊細に色付けをし、エリートであるアントニオ―ラファエルラインとは違った、名もなき下級士官としての厭世感を漂わせることに成功しているかと。上司受けは良さそうだけれど、兵士としては不良。盲目的に忠誠を誓うにはちょっとだけ頭が良すぎる青年。アラルコンに使われる中でチャンスを伺い、アルヴィラに似たものどおしの匂いを感じて惹かれるものの、いいように使われてしまう、という最後は残念な顛末になりましたが、彼は今後も持ち前のニヒルな存在感と要領の良さでこのスペインの動乱を生き抜いていくのだろうなと。
甲板掃除の場面、歌ウマな同期の夏樹れいちゃんとの場面からのタバコをくわえるシーンが見せ場ですね。
千秋楽、独特の緊張感の中で、最後の最後セリフをかんでしまったのは痛恨ですが、今後、北翔―紅―礼の123に対し組替で来る七海、十碧、麻央の長身3名がどう絡んでくるかが今後の星組の楽しみの一つかと。
超実力派下級生礼真琴に抜かれはしましたが、星の生え抜き路線として着々と実力をつけてきている十碧氏にも今後期待したいです^^
■フリオ: 麻央 侑希
そのダブル主演の片割れである麻央くんは・・・。アラルコン公爵のボディガード。ほぼ唯一のセリフのある場面がカテリーナを見失って叱責される場面であると言うしどころのない役ではありますが・・・。新公の長として、2番手紅さんのアラルコン役に全力投球という本舞台の役付きなのかも。その分新人公演のアラルコン役は良かったです。
■マルセリーノ・フェデリコ: 礼 真琴
新体制での3番手と目される花の95期首席。新公では柚希さんの男役集大成である役どころを演じて、彼女もまた、男役度を急激に上げてきました。ここ、本公演では、星組においては小柄なスターというくくりで壱城、天寿ラインに加わり、元気でちょっと単純な愛すべきトリオの一番下っぱ。でありながら、音波みのりちゃんフロリンダというカワイイ婚約者もいて故郷の祭りに先輩たちを誘うという美味しい設定。
3人での歌い継ぎの場面、琴ちゃんパートにくると、突如この曲、こんなにメロディアスできれいなフレーズなんだ・・と気づかされるという礼真琴マジック。踊りのキレも抜群で、トリオ扱いでも埋もれないのが流石。
一応、埋もれないように(笑)途中から髪色を赤毛にしたのも効果的で似合ってました^^
■アロンソ・デ・バンデラス侯爵 :英真 なおき
■イレーネ・クラベス :万里 柚美
■ソニア: 音花 ゆり
■ベルドラン/セブンシーズ: 鶴美 舞夕
■マリオ・フェルネスト: 壱城 あずさ
■マルコス・ファビオ: 天寿 光希
■フロリンダ:音波 みのり
■テレサ: 妃白 ゆあ
■カミーロ/セブンシーズ: 夏樹 れい 天路 そら
■セブンシーズ: 紫 りら
■セブンシーズ: 音咲 いつき
■モニカ: 綺咲 愛里
■セブンシーズ: 紫藤 りゅう
■セブンシーズ: 天華 えま
■セブンシーズ 真彩 希帆
先に新人公演感想をUPしてから、かなり経ちますが、3月27日の初日から5月10日の千秋楽まで、最後は六本木のライブ中継でしたが、新人公演を入れて8回観劇することが出来ました。
柚希さんのTOP時代の星組公演は就任直後の全ツ「再会」を除いてすべて、とりわけ「ハプスブルクの宝剣」「ボレロ」で当時2番手だった凰稀さんにハマってからは全作品を(凰稀さんが宙に組替になったあとも)かなりの回数リピート観劇していたため、親しみ深く、ヅカ友に星組ファンが多かったこともあって常にタカラヅカの中核をなしている存在のように思っていただけに、居なくなってしまうということが想像できなくて・・・。
とはいえ、この卒業システムが100年続く宝塚の秘訣。
観納めと思って赴いた初回の感想は・・・。
ショーについては別記事にしますが、「うたかたの恋」「激情」といった往年の名作を残された柴田先生の久方ぶりの新作書き下ろし!というふれこみで大人の恋を色濃く描く・・というこの作品。
ミュージカル・プレイ
『黒豹(くろひょう)の如(ごと)く』
作/柴田 侑宏
演出・振付/謝 珠栄
柚希礼音のために書き下ろされたオリジナル・ミュージカル。
第一次大戦後のスペインを舞台に、かつての恋人が再会したことから、ある事件に巻き込まれ、思わぬ運命の渦に巻き込まれていく。
大戦中、「黒豹」の綽名を持つ硬派の海軍大佐アントニオ・デ・オダリス伯爵と、カテリーナは恋仲であった。しかし大戦後、バルセロナで再会した二人の境遇は変わっていた。カテリーナは父侯爵の窮地を救うためラミレス侯爵と結婚。その夫は大戦中に病死し未亡人となっている。一方、アントニオはスペイン艦隊参謀として忙しい勤務に追われていた。
大戦後の収まりきらないヨーロッパ情勢の中で、ある種の資本家たちが画策し、その達成のためにアントニオの戦闘力を味方に引き入れようとする……。 (公式HPより)
これぞ退団公演作品!でしょうか。
主人公の見せ場(カッコいい海賊姿のプロローグ、カッコいい軍服姿、ヒロインとの恋愛、悪役との立ち回り、最後のファンへのたっぷりと見せるお別れ場面)はきちんと盛り込まれており、時代背景も・・・と言いたいところですが、ストーリーの前提には相当ムリがあるような^^;。
両大戦間のスペイン。黒幕アラルコン公爵(2番手・紅ゆずる)は二つの野望を持っていた。一つは新興勢力(ナチスドイツとムッソリーニ政権下のイタリアか)へスペイン軍将校を斡旋すること、もうひとつは陰で手を回して毒殺したラミレス公爵の美しき未亡人カテリーナ(ヒロイン・夢咲ねね)を我がものにすること。目下の目標は伝説の海賊、国民的英雄のソルになぞって「黒豹」とあだ名されるやり手の参謀アントニオ(柚希礼音)。2人はお互い思い合っているものの、カテリーナは夫の死がアントニオとの再婚を目指して彼女が手掛けたのではというアラルコン発の噂に悩まされている。
・・・で、一度話をもちかけて剣もほろろに断られたアラルコンが仕掛けたのは、アントニオにはカテリーナの身の危険をたてに呼び出すこと、カテリーナにはアントニオに関することで・・と呼び出したうえでのセクハラ・・・ってどう考えても勝算がない企てをカディスで決着だ!と息まくアラルコンがただの偏執狂に見える、というのが第一の問題。
マドリッドで暮らすカテリーナとバルセロナ勤務のアントニオは舞踏会で再会し、遠距離恋愛を再開。
アラルコンの暗躍に暗いムードが漂うが、2人の距離は思い出と共に一気に近づく。
物思わしげなカテリーナを心配した親友モニカ(娘役ホープ綺崎愛理)は婚約者でアントニオの側近であるラファエル(3番手真風涼帆)に相談。アントニオを補佐する立場のときには落ち付いたまじめな人物に見えるラファエルが、なぜか漠然とした不安を訴えるモニカに「わかった!皆を集めよう!」と短絡的な思いつきを実行する。頼りになる若者・・という風情でかわいこちゃんを従えてのデュエットという見せ場を作るため、とわかっていても釈然としない場面(問題その2)。
アントニオの部下の3人衆(壱城・天寿・礼)の婚約者(音波)を含むモニカの友人たちもカディスのカルナバルに遊びに行くことになっていて、物語はカルナバルの熱気と共に、否応なしに盛り上がる。
一方、カテリーナセクハラ場面を目撃し、自分の地位が危ないと感じたアラルコンの愛人アルヴィラ(次期TOP娘役・妃海風)は、軍に所属しながらアラルコンの手先としても働く 自分に想いを寄せるゴンザ―ロ(十碧れいや)を使ってカテリーナ殺害を目論む。呼び出した先の岬の高台。そこにアラルコンとアントニオが集結する。
ゴンザ―ロが排された後はアラルコンがカテリーナを狙う・・・その時に登場したのはアントニオの同期の将校セバスチャン。彼はアラルコンの経営するクラブに足しげく通って密談にも参加しており、どちらの味方かわからない。
が、いきなり鞭?を振るってアラルコンの銃を叩き落とし(なぜ鞭?)、情勢は一転。
緊迫した場面で轟く銃声・・・それはアルヴィラがアラルコンに向けて発砲したもの。彼女がとどめをさしたのだった・・・。
兵器の横流しを秘密裡に調査していたセバスチャンとの誤解も解け、カディスから直接モロッコへ一人新たなる任務に向かうアントニオ。カテリーナ、セバスチャンの母で女性陣皆の友人でもある上流階級御用達の洋装店を営むクラべス夫人(星組組長・万里柚美)、アントニオの叔父(前組長・英馬なおき)、そして居並ぶ部下たちにも見送られ、360度ゆるやかに回転する台の上から、客席にたっぷりと別れを告げる。
・・・・というのが全貌。
さよなら作品ということで、主人公の見せ場を作り、フィクサーである黒幕2番手、若さと誠実さを示す3番手、若手スターにも役を作り、娘役にはマドリッドのクラブでのショーで、若手組子にはカルナバルの熱気が爆発する歌と踊りでミュージカルとしての見せ場も作り、障害を乗り越えての大人の愛をTOPコンビで表現し・・・と目指すところは明確でそれぞれの場面の演出もステキで音楽も美しい。セリフも品が良く、さすが柴田先生・・と思うのですが、いかんせん、物語を動かす動機が弱い。
アラルコンの企ては、金銭的に困窮しているわけでもなく他の寝返った将校のように現体制に不満を持っているわけでもなく名誉ある職務に誇りを持つアントニオに対しては無効であり、カテリーナへの嫌がらせも夫である公爵を手に掛けた事実をもみ消すだけの人脈があるとしてもやりすぎ。下手すると国家に対する裏切り行為として告訴されかねない。
一方、すでに障壁である夫の存在がなくなった未亡人カテリーナと、彼女を想って一人身を貫いたアントニオとの恋愛は今や順風満帆。
裏の世界で暗躍して成功を収めるアラルコンはそれなりに知略家であるはずなのに、どうあがいても勝ち目のない戦いを挑む動機が、カテリーナへの執着もただの征服欲で真の愛情はなく、アントニオに軽く断られたプライドの傷も、元から予測できたことと思うと納得がいかない。
同期、組長、元組長との絡みは退団作品だということで、納得。
公爵の愛人に成りあがったアルヴィラが、彼の心が離れることで失うものの大きさを考えると、軽く「これまでだ」と切ろうとするアラルコンが彼女の手にかかる・・という流れもドラマチックで納得。
ゴンザ―ロの軍での立場の軽さに対する諦念とアラルコンから声がかかったことで高揚する気分、同じ上昇志向を持つ美しいアルヴィラに惹かれる恋心も納得。
・・・と脇は固められているのに芯になる部分が弱すぎるのがなんとも・・・。勿体ない。
でも、退団作品が非のうちどころのない傑作だとファンが成仏できないから敢えて、わかっての所業(!?)かも?まさか??
個々に所感を・・・
■アントニオ・デ・オダリス伯爵: 柚希 礼音
男役集大成のステキな軍人。低く、ちょっとハスキ―な声で語られるカテリーナへの「こいつめ・・・ッ」「もう、君を離さない!」の情熱。 女を教えてやろうかと・・との叔父貴への「なぁにを言っているんですか!・・バカバカしい!」の爽やかさ。カテリーナの長いスカーフを使ったダンス、女性と海の神秘を歌った英馬さんとのデュエットでの「神秘のヴェールに」と張り上げる声が好き。あとここでの椅子にかけたまま長い脚を流して組み替えて、のダンスがカッコいい。
役としては、軍の花形の座を空軍に譲りつつある海軍の役割・現状に焦燥感を覚えつつも職務に忠実で部下の尊敬を集めるイイ男。で文句なし。
■カテリーナ・デ・ラミレス :夢咲 ねね
少女の頃から美女の誉れ高く・・の口上に納得。美少女時代の面影のあるほっそりとした容姿でこの時代のローウエストのドレスから一歩間違うとオバサン・・なプリントワンピまで、難易度の高い衣装を着こなすスキルはねねちゃんならでは。それにしても前が短く後ろが長いシルエットを多用しすぎ。ドレスでは効果的だけれどもデイタイムのスーツには違和感。特にラストのお見送り場面のアイボリーのスーツ。
登場即恋人との再会で思い入れたっぷりのダンス・・となるのですが一気に感情を盛り上げてしっとりと場面作りが出来ているのは流石。
恋人にも敬語、のきれいな日本語セリフをしっとりと聴かせてTOP娘役就任初年の「激情」カルメンの棒セリフから隔世の感。ラストの「聞き分けが良すぎて・・・さみしい?つまんない?」 のところは素のねねちゃんが出ているようなCUTEさでした^^
退団から3日目の「サンセット大通り」制作発表に出演者としてご登場。ショートボブがかわいい。
亜蘭けいさん主演のホリプロミュージカルで共演ですね。今後の女優さんとしてのご活躍も楽しみです。
■ビクトル・デ・アラルコン: 紅 ゆずる
マドリッド一の名門貴族、という設定が何度も出てきますが、貴族的なノーブルさ、よりはネットリとした偏執狂的な時折キレるセリフ回しで安定の悪役時のベニ―節。
自分が世界を動かしている、仕切っているという感覚を楽しみ、大物黒豹の拒絶にあって更に面白い、勝って見せよう・・・(どこのラインハルト様?)と思っているに違いないラスボス。
・・・設定だと思うのですが、ちょっと粘着質のヘンな人に見えてしまう。
まだ新公の麻央くんの方が、他人とは違う育ちのノーブルな出自故の無自覚な傲慢さが彼の落とし穴だったのかと納得できる流れがあったような・・・。
紅さんのアラルコンはちょっと脚本からイメージするところよりも神経質に思えました。アルヴィラに腹を立てるところ、「家も財産も召使も3台の車も・・欲しいものはなんでもくれてやったのに!」の件、
「召使も、3台の車」も?とこの数をカウントするあたりに小さい感じを受けてしまったり。(脚本のせいかも?)
この役、まさこさんじゃ駄目だったのかしら?その方がハマりそうなのに・・・。
で、2番手紅さんを親友セバスチャン設定じゃダメだったの?とちょっともやもや。
あの最後一人壁ドンの「もっともっと・・」の大ナンバーがあったから?ここは見せ場でしたね^^
あと、カテリーナ、アルヴィラ、イレ―ネ、など女性とのやり取りのときの絡みつくような感じは紅さん独特の個性で良いなと思いました。・・・うーん、そうするとやはりアラルコンは紅さんなのかしら?
■ラファエル・デ・ビスタシオ: 真風 涼帆
アントニオの側近。若くてまじめな将校。時折人物紹介のナレーションも担当。
一番の見せ場である、婚約者綺崎愛理ちゃんをともなってのカディスに行こう!のナンバーがスター然とした姿も含め、設定自体に大いに感じる疑問を「まぁいいか」と思わせるだけの説得力があるのが流石。
気が早いのですが、早く朝夏さんとの並びや、宙2番手娘役伶美うららちゃんとの並びを観てみたいです。
大人っぽくてゴージャスな並びになりそう・・・^^
■セバスチャン・デ・ディアス:十輝 いりす
今回のスペイン海軍の軍服、光沢のあるデニムっぽいブルーグレーなのですが、これがとてもお似合い。
アラルコン公爵がオーナーのクラブ「ケルベロス」から出てきたところをアントニオの部下カワイイ3バカトリオに絡まれるときにお召しのロングコートが本当にお似合い。
繁盛している高級注文服オ―ナ―の息子だけあって衣装が着映える178cmの長身と渋いおじさまが似合う美貌を見るにつけ、柚希さんの同期としての支えで宙から異動されてきただけに同時退団か!と心配していたのを残ることを選んでくださってありがとう!と。
新体制でも、宙で長くご縁のあった北翔さんの支えになってくれそうなまさこさん(十輝)。そういえば、宙からかいちゃん(七海ひろき)も異動してきて元宙トライアングルですね。
母(万里柚美組長)にも優しい良い息子。お誕生日が移動日の母のためにお花屋さんに駅で花束を渡させる演出と言い、到着駅での出迎えを知らせる手紙をそこにいれておく手回しの良さと言い、まさに理想の息子^^
・・・しかし・・・なぜ鞭?(そこに戻る)
■アルヴィラ: 妃海 風
アラルコン公爵のオフィシャルな愛人。経営するナイトクラブのナンバーワンショースター。
公爵からは家や召使いや3台の(笑)車など望み通りに与えられているお気に入り。
元は貧しい家の出でハングリー精神と美貌だけでここまできた、という設定。自分に心を寄せる若い男も手玉にとって上手く使う所謂毒婦。やろうと思えばとことん色濃く役作りが出来る役どころを次期TOP娘役と発表されているこの公演で、妃海風ちゃんがどう作ってくるか・・・が注目ポイントでしたが、毒々しくならない程度に色っぽく、上手くバランスを取ってきましたね。
ラストのアラルコン倒れる・・・から誰の銃撃で?・・え、アルヴィラ!?となったところで、東京公演初日あけてすぐの頃は、茫然自失状態で警官に連行される・・という感じだったのが、だんだんと銃殺後のアラルコンへの執着が増して、手を伸ばして未練を表現したり、最後はその場でうずくまっての絞り出すような嗚咽に。
犯罪者としてしょっ引かれてサクサク姿を消してしまうより、ラスト近くの濃い演技の方が、収まりが良い感じがしました。
あと、公演が進むにつれて、どんどん美しくなられましたね。TOP娘役としての今後のご活躍にも期待します。
■ゴンザーロ: 十碧 れいや
ほとんど役らしい役がない中で一人みっちりと背景が描きこまれた際立って美味しい役どころ。
昨年「アルカサル」で麻央侑希とダブルとは言え、バウ主演を果たした路線男役として演じ甲斐のある影のある男をふられたポコちゃん(十碧)。恵まれた容姿で繊細に色付けをし、エリートであるアントニオ―ラファエルラインとは違った、名もなき下級士官としての厭世感を漂わせることに成功しているかと。上司受けは良さそうだけれど、兵士としては不良。盲目的に忠誠を誓うにはちょっとだけ頭が良すぎる青年。アラルコンに使われる中でチャンスを伺い、アルヴィラに似たものどおしの匂いを感じて惹かれるものの、いいように使われてしまう、という最後は残念な顛末になりましたが、彼は今後も持ち前のニヒルな存在感と要領の良さでこのスペインの動乱を生き抜いていくのだろうなと。
甲板掃除の場面、歌ウマな同期の夏樹れいちゃんとの場面からのタバコをくわえるシーンが見せ場ですね。
千秋楽、独特の緊張感の中で、最後の最後セリフをかんでしまったのは痛恨ですが、今後、北翔―紅―礼の123に対し組替で来る七海、十碧、麻央の長身3名がどう絡んでくるかが今後の星組の楽しみの一つかと。
超実力派下級生礼真琴に抜かれはしましたが、星の生え抜き路線として着々と実力をつけてきている十碧氏にも今後期待したいです^^
■フリオ: 麻央 侑希
そのダブル主演の片割れである麻央くんは・・・。アラルコン公爵のボディガード。ほぼ唯一のセリフのある場面がカテリーナを見失って叱責される場面であると言うしどころのない役ではありますが・・・。新公の長として、2番手紅さんのアラルコン役に全力投球という本舞台の役付きなのかも。その分新人公演のアラルコン役は良かったです。
■マルセリーノ・フェデリコ: 礼 真琴
新体制での3番手と目される花の95期首席。新公では柚希さんの男役集大成である役どころを演じて、彼女もまた、男役度を急激に上げてきました。ここ、本公演では、星組においては小柄なスターというくくりで壱城、天寿ラインに加わり、元気でちょっと単純な愛すべきトリオの一番下っぱ。でありながら、音波みのりちゃんフロリンダというカワイイ婚約者もいて故郷の祭りに先輩たちを誘うという美味しい設定。
3人での歌い継ぎの場面、琴ちゃんパートにくると、突如この曲、こんなにメロディアスできれいなフレーズなんだ・・と気づかされるという礼真琴マジック。踊りのキレも抜群で、トリオ扱いでも埋もれないのが流石。
一応、埋もれないように(笑)途中から髪色を赤毛にしたのも効果的で似合ってました^^
■アロンソ・デ・バンデラス侯爵 :英真 なおき
■イレーネ・クラベス :万里 柚美
■ソニア: 音花 ゆり
■ベルドラン/セブンシーズ: 鶴美 舞夕
■マリオ・フェルネスト: 壱城 あずさ
■マルコス・ファビオ: 天寿 光希
■フロリンダ:音波 みのり
■テレサ: 妃白 ゆあ
■カミーロ/セブンシーズ: 夏樹 れい 天路 そら
■セブンシーズ: 紫 りら
■セブンシーズ: 音咲 いつき
■モニカ: 綺咲 愛里
■セブンシーズ: 紫藤 りゅう
■セブンシーズ: 天華 えま
■セブンシーズ 真彩 希帆