<第一幕>
ロシアの田舎貴族の二人姉妹、読書好きの夢想家タチアナと社交的でコケティッシュな妹オリガ。
タチアナの誕生日の舞踏会のための準備に余念のない母と妹。少し離れたところで本の世界に没頭している姉。
ほっそりとした吉岡さんが、優しく内気なタチアナにぴったり。
産休後本格復帰の小出さんは明るく可愛らしい妹役。黒髪の静かな地顔ではノーブルでちょっと妖艶な持ち味のある長瀬くんが、ウェーブ茶髪の鬘で微笑みをたたえて登場すると、意外とロマンチックな詩人レンスキーにはまっています。
レンスキーとオリガのPDDでは、ちょっとサポートが難しかったのか、リフトの高さが不十分だったり、手で支えてのフェッテのタイミングが一瞬ずれてヒヤリとさせられたり・・・という部分もあり、改めてこの作品の振付の難しさを感じました。
友人たちの登場。群舞です。まず女子たち、そして男子たち。男子たち登場時のジャンプが高い!
これは!と思ってみると群舞といえども、松下さん氷室さん宮本さんら、実力派のソリスト揃い。これはクォリティ高いでしょう^^
そして、舞台前面を男性のサポートで女性が高さのあるジャンプをキープしながら走り抜けていくシーンの迫力。
小気味良いリズム、高い位置でジャンプがタイミングよく揃って、そしてスピーディに駆け抜けていく躍動感に思わず客席から沸き起こる拍手。
レンスキーの友人として登場の高岸さんのオネーギンは一人黒い衣装で目立つだけでなく、その背の高さと際立つ風貌が全く他の人々とは異なるエキゾチシズムさえ漂わせて、タチアナが一目で恋に落ちてしまったのが良くわかります。
惹かれながらも、彼の視線を感じると恥ずかしさと本来の内気さで眼を伏せてしまうタチアナ。庭園を散策しましょうと腕を差し伸べたものの、そんな彼女にすぐに飽きて興味を失うオネーギン、ともに的確な演技です。
夜、タチアナは寝室で彼を思って眠れず、恋文を書き始めます。
この寝室がステキ!さすがはユルゲン・ローゼの装置。落ち着いたベージュを基調にしたレースが何層にもアシンメトリーに重なり合う様がとてもキレイ。こうして品の良い衣装と装置の中にあると、いつもちょっとだけ海外のバレエ団と比べて見劣りしてしまう感じがあったのは、ダンサーのせいではなくてあの稚拙な装置と原色と子供っぽいパステルの衣装のせいだったのだなぁと改めて衣装の功罪を思います。
鏡を観ていると映った自分の肩越しに彼の姿が・・・そして鏡から出てタチアナと踊るオネーギン。
これはタチアナの願望・・・ここで彼女の秘められた情熱的な性格と少女から女性への心の変化が現れるドラマティックなPDD・・・となるのですが、うーん。
踊れています。振り付け通りに難しくアクロバティックなリフトもポーズも決める辺りはさすが高岸さん。
ただ・・・ところどころ、あまりにアスレティックというか、勢いをつけないとできない動きのその勢いがそのまま見えてしまう部分がこのロマンティックな夢のシーンとしてはトゥーマッチ、というか。ダイナミックな吉岡さんの長い脚がジャンプしながら旋回する様はその恵まれた肢体に感心するとともに、これをやりすぎと見せないコントロールを行うためにどれほどの筋力が要求されるのか・・・。今まで見てきたルグリとバランキエヴィッチのヒロイン、アイシュヴァルト、そしてルディエールの凄さを改めて思い知らされました。
<第2幕>
舞踏会当日。乳母に言いつけて渡したあの恋文が気になるタチアナ。
田舎の招待客を軽く無視して、カードを弄ぶ尊大なオネーギン。
若者、お年寄り入り乱れてのダンスの合間にオネーギンがタチアナになにか言いたげなそぶり。
心ときめかせ、でも彼の様子に不安も感じるタチアナ。手紙をつきかえされて驚き、いえ、おさめてください、と精一杯押しとどめようとする彼女に苛立って破った手紙を後ろから手に押しつけて去るオネーギン。
あまりのことに茫然とし、憔悴。心ここにあらずのタチアナ、でもこの日の主役の彼女はお客の相手をしなくてはなりません。グレーミン公爵を紹介されて踊る彼女。
オネーギンはふと思いついて友人であるレンスキーの婚約者、オリガをダンスに誘います。
最初は笑いながら、じきに泣きそうになり懇願モードのレンスキーをからかうようにかわすオネーギンとこの新種の遊びにすっかり乗って笑い興じる悪気はないオリガ。
ついに辛抱ならずオネーギンに決闘を申し込むレンスキー。皆それぞれに演技力のあるメンバーゆえ、この展開には説得力があります。難を言えば、いかにも線の細い長瀬くんと実際にはスリムですが舞台では偉丈夫に見える高岸さんとではすでに勝負がついているように見えすぎてしまう点でしょうか。
姉妹の懇願を振り切って決闘に臨むレンスキー。オネーギンの冷静な射撃が詩人の生命を奪います。
オネーギンをじっと見つめるタチアナ。今まで恥じらいと憧れゆえに彼を正視できなかった彼女が初めて彼の冷たく空虚な本質を見据える場面です。
<第3幕>
やはり舞台はリアルタイムで進化するものなのか・・・。
この最終幕は最初から最後まで素晴らしかったです。
E.O. エフゲニー・オネーギンのイニシャルの縫いとりのある紗幕の向こうに、グレーミン家の舞踏会に呼ばれた賓客たちが勢ぞろい。白に近いグレイッシュなピンク、ベージュ、パールグレーの夜会服の女性は真ん中わけにして耳を隠した淑女らしいアップヘアで、男性は醒めたライトネイビーの上着の軍服で。
高木さんや吉川さんら、女性陣も豪華。男性も、高身長グループを前面に配して、シュツットガルトバレエ団で観たときと遜色ない並びに見えます。
オネーギンも呼ばれており、グレーミン公爵と挨拶をかわします。
この二人、特に老けメイクをして歳月の流れを表している風はありません。
その変化はタチアナの登場で観客に伝わります。
肩を出した赤いドレスで登場した吉岡さん。耳隠しのアップヘアなので、彼女の可愛らしいちょっと前を向いたお耳が隠れて一層大人っぽい印象。
柄本武尊さんはこのところ大人の役が多いように思いますが、立派な大人の男性らしい体格と上品な雰囲気がピッタリ。
優しく若い妻に微笑みかけながら、あでやかに上品に場を魅了する妻を見事にエスコートする公爵。
二人のPDDは美しくてもううっとり・・・。舞台の上でもお客の紳士淑女たちがうっとりとうち眺める中、華麗に踊る二人ですが、その二人の後ろであまりのタチアナの美しさに驚き動揺する高岸オネーギン。
思わず踊るタチアナの後ろ姿に向かって手をのばさずにはいられないのに、彼女が自分の方向に向いて踊ると踵を返して顔を伏せてしまう・・・そう、一幕でのオネーギンに憧れる内気なタチアナの逆を行っているのですね。
それにしてもじっとしていない高岸さん・・・う~ん、ここにきて、演技の大きな彼の個性が炸裂していますが、それもまた感慨深く面白いところ。
自室でオネーギンからの恋文を前に動揺するタチアナのもと、公爵が外出を告げます。
しばらく留守にするよ。あなた・・・行かないで!愛しい人、行かなくてはならないのだよ。妻を優しく抱きしめて、手にキスをして落ち着いて出ていく夫を見送って落ち着かない気分のタチアナ。
じきにオネーギンが走りこんできます。
タチアナ、僕は・・!いいえ、言わないで。すがってはふりきり、ふりきってはすがる・・・
大きなダイナミックなリフトと回転の連続で二人の波打つ心の襞を描く超絶技巧のPDDですが、初役とは思えないほどの完成度で、ドラマに集中させてくれました。
もうこれ以上彼の情熱を抑えきれない!というところまで、高まった瞬間、タチアナはやっとの思いで机上の手紙に手を伸ばし、彼に突き付けます。
たじろぐオネーギンの手に破ったその紙を押しつけてきっぱりと告げる彼女。
行ってください。さあ。
絶望の中、走り去る彼。
あぁ・・・・・万感の思いのタチアナ、ゆっくりと手で顔を覆います・・・・。
夢見る少女から、大人の女性としての思いまで、見事に見せてくれました。
吉岡さんのタチアナ、とても良かったと思います。
カーテンコールでは、指導のため、来日されていたシュツットガルトのお二人、芸術監督であるリード・アンダーソンさんとジェーン・ボーンさんが登場され、満場の喝采を受けていました。
この作品、細やかな演技ができる東京バレエ団に合っていると思います。
あとはコンビネーションにもっとスムースさが生まれればもっと進化する余地もありますので、是非これからバレエ団で大事に練り上げていって欲しいですね
ロシアの田舎貴族の二人姉妹、読書好きの夢想家タチアナと社交的でコケティッシュな妹オリガ。
タチアナの誕生日の舞踏会のための準備に余念のない母と妹。少し離れたところで本の世界に没頭している姉。
ほっそりとした吉岡さんが、優しく内気なタチアナにぴったり。
産休後本格復帰の小出さんは明るく可愛らしい妹役。黒髪の静かな地顔ではノーブルでちょっと妖艶な持ち味のある長瀬くんが、ウェーブ茶髪の鬘で微笑みをたたえて登場すると、意外とロマンチックな詩人レンスキーにはまっています。
レンスキーとオリガのPDDでは、ちょっとサポートが難しかったのか、リフトの高さが不十分だったり、手で支えてのフェッテのタイミングが一瞬ずれてヒヤリとさせられたり・・・という部分もあり、改めてこの作品の振付の難しさを感じました。
友人たちの登場。群舞です。まず女子たち、そして男子たち。男子たち登場時のジャンプが高い!
これは!と思ってみると群舞といえども、松下さん氷室さん宮本さんら、実力派のソリスト揃い。これはクォリティ高いでしょう^^
そして、舞台前面を男性のサポートで女性が高さのあるジャンプをキープしながら走り抜けていくシーンの迫力。
小気味良いリズム、高い位置でジャンプがタイミングよく揃って、そしてスピーディに駆け抜けていく躍動感に思わず客席から沸き起こる拍手。
レンスキーの友人として登場の高岸さんのオネーギンは一人黒い衣装で目立つだけでなく、その背の高さと際立つ風貌が全く他の人々とは異なるエキゾチシズムさえ漂わせて、タチアナが一目で恋に落ちてしまったのが良くわかります。
惹かれながらも、彼の視線を感じると恥ずかしさと本来の内気さで眼を伏せてしまうタチアナ。庭園を散策しましょうと腕を差し伸べたものの、そんな彼女にすぐに飽きて興味を失うオネーギン、ともに的確な演技です。
夜、タチアナは寝室で彼を思って眠れず、恋文を書き始めます。
この寝室がステキ!さすがはユルゲン・ローゼの装置。落ち着いたベージュを基調にしたレースが何層にもアシンメトリーに重なり合う様がとてもキレイ。こうして品の良い衣装と装置の中にあると、いつもちょっとだけ海外のバレエ団と比べて見劣りしてしまう感じがあったのは、ダンサーのせいではなくてあの稚拙な装置と原色と子供っぽいパステルの衣装のせいだったのだなぁと改めて衣装の功罪を思います。
鏡を観ていると映った自分の肩越しに彼の姿が・・・そして鏡から出てタチアナと踊るオネーギン。
これはタチアナの願望・・・ここで彼女の秘められた情熱的な性格と少女から女性への心の変化が現れるドラマティックなPDD・・・となるのですが、うーん。
踊れています。振り付け通りに難しくアクロバティックなリフトもポーズも決める辺りはさすが高岸さん。
ただ・・・ところどころ、あまりにアスレティックというか、勢いをつけないとできない動きのその勢いがそのまま見えてしまう部分がこのロマンティックな夢のシーンとしてはトゥーマッチ、というか。ダイナミックな吉岡さんの長い脚がジャンプしながら旋回する様はその恵まれた肢体に感心するとともに、これをやりすぎと見せないコントロールを行うためにどれほどの筋力が要求されるのか・・・。今まで見てきたルグリとバランキエヴィッチのヒロイン、アイシュヴァルト、そしてルディエールの凄さを改めて思い知らされました。
<第2幕>
舞踏会当日。乳母に言いつけて渡したあの恋文が気になるタチアナ。
田舎の招待客を軽く無視して、カードを弄ぶ尊大なオネーギン。
若者、お年寄り入り乱れてのダンスの合間にオネーギンがタチアナになにか言いたげなそぶり。
心ときめかせ、でも彼の様子に不安も感じるタチアナ。手紙をつきかえされて驚き、いえ、おさめてください、と精一杯押しとどめようとする彼女に苛立って破った手紙を後ろから手に押しつけて去るオネーギン。
あまりのことに茫然とし、憔悴。心ここにあらずのタチアナ、でもこの日の主役の彼女はお客の相手をしなくてはなりません。グレーミン公爵を紹介されて踊る彼女。
オネーギンはふと思いついて友人であるレンスキーの婚約者、オリガをダンスに誘います。
最初は笑いながら、じきに泣きそうになり懇願モードのレンスキーをからかうようにかわすオネーギンとこの新種の遊びにすっかり乗って笑い興じる悪気はないオリガ。
ついに辛抱ならずオネーギンに決闘を申し込むレンスキー。皆それぞれに演技力のあるメンバーゆえ、この展開には説得力があります。難を言えば、いかにも線の細い長瀬くんと実際にはスリムですが舞台では偉丈夫に見える高岸さんとではすでに勝負がついているように見えすぎてしまう点でしょうか。
姉妹の懇願を振り切って決闘に臨むレンスキー。オネーギンの冷静な射撃が詩人の生命を奪います。
オネーギンをじっと見つめるタチアナ。今まで恥じらいと憧れゆえに彼を正視できなかった彼女が初めて彼の冷たく空虚な本質を見据える場面です。
<第3幕>
やはり舞台はリアルタイムで進化するものなのか・・・。
この最終幕は最初から最後まで素晴らしかったです。
E.O. エフゲニー・オネーギンのイニシャルの縫いとりのある紗幕の向こうに、グレーミン家の舞踏会に呼ばれた賓客たちが勢ぞろい。白に近いグレイッシュなピンク、ベージュ、パールグレーの夜会服の女性は真ん中わけにして耳を隠した淑女らしいアップヘアで、男性は醒めたライトネイビーの上着の軍服で。
高木さんや吉川さんら、女性陣も豪華。男性も、高身長グループを前面に配して、シュツットガルトバレエ団で観たときと遜色ない並びに見えます。
オネーギンも呼ばれており、グレーミン公爵と挨拶をかわします。
この二人、特に老けメイクをして歳月の流れを表している風はありません。
その変化はタチアナの登場で観客に伝わります。
肩を出した赤いドレスで登場した吉岡さん。耳隠しのアップヘアなので、彼女の可愛らしいちょっと前を向いたお耳が隠れて一層大人っぽい印象。
柄本武尊さんはこのところ大人の役が多いように思いますが、立派な大人の男性らしい体格と上品な雰囲気がピッタリ。
優しく若い妻に微笑みかけながら、あでやかに上品に場を魅了する妻を見事にエスコートする公爵。
二人のPDDは美しくてもううっとり・・・。舞台の上でもお客の紳士淑女たちがうっとりとうち眺める中、華麗に踊る二人ですが、その二人の後ろであまりのタチアナの美しさに驚き動揺する高岸オネーギン。
思わず踊るタチアナの後ろ姿に向かって手をのばさずにはいられないのに、彼女が自分の方向に向いて踊ると踵を返して顔を伏せてしまう・・・そう、一幕でのオネーギンに憧れる内気なタチアナの逆を行っているのですね。
それにしてもじっとしていない高岸さん・・・う~ん、ここにきて、演技の大きな彼の個性が炸裂していますが、それもまた感慨深く面白いところ。
自室でオネーギンからの恋文を前に動揺するタチアナのもと、公爵が外出を告げます。
しばらく留守にするよ。あなた・・・行かないで!愛しい人、行かなくてはならないのだよ。妻を優しく抱きしめて、手にキスをして落ち着いて出ていく夫を見送って落ち着かない気分のタチアナ。
じきにオネーギンが走りこんできます。
タチアナ、僕は・・!いいえ、言わないで。すがってはふりきり、ふりきってはすがる・・・
大きなダイナミックなリフトと回転の連続で二人の波打つ心の襞を描く超絶技巧のPDDですが、初役とは思えないほどの完成度で、ドラマに集中させてくれました。
もうこれ以上彼の情熱を抑えきれない!というところまで、高まった瞬間、タチアナはやっとの思いで机上の手紙に手を伸ばし、彼に突き付けます。
たじろぐオネーギンの手に破ったその紙を押しつけてきっぱりと告げる彼女。
行ってください。さあ。
絶望の中、走り去る彼。
あぁ・・・・・万感の思いのタチアナ、ゆっくりと手で顔を覆います・・・・。
夢見る少女から、大人の女性としての思いまで、見事に見せてくれました。
吉岡さんのタチアナ、とても良かったと思います。
カーテンコールでは、指導のため、来日されていたシュツットガルトのお二人、芸術監督であるリード・アンダーソンさんとジェーン・ボーンさんが登場され、満場の喝采を受けていました。
この作品、細やかな演技ができる東京バレエ団に合っていると思います。
あとはコンビネーションにもっとスムースさが生まれればもっと進化する余地もありますので、是非これからバレエ団で大事に練り上げていって欲しいですね