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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

EONNAGATA ギエムの現在

2011-11-21 04:15:59 | BALLET
2001年11月20日(日)15:00

ゆうぽうとホールにて、シルヴィ・ギエムの1か月に渡るJapan Tourの最終演目、
「EONNAGATA エオンナガタ」
の最終日の公演を観てきました。



2009年2月、サドラーズ・ウェルズで初演。

ギエムが、カナダ・ケベック州に本拠地を置く、マルチな演出家・才人であるロベール・ルパ―ジュに
「いっしょに作品を作りましょう」と声をかけたところ、
以前から温めていた、18世紀の謎めいた騎士エオンを題材にしたいとルパ―ジュが提案。
「聖なる怪物たち」などで共演したサドラーズの振付家・ダンサーであるラッセル・マリファントと3人で
作り上げた作品で、出演者もこの3人。



女性と見まごう美青年シュバリエ・デオン。
ルイ15世に重用され、ロシアでは女装して宮廷に入り、女帝エカテリーナの近くで諜報活動を行い、
イギリスに渡っては軍事条約締結のため奔走する外交官として活躍。

しかし戸籍上の女性という2面性ゆえに、不自由なかせをはめられ、
心ならずもLONDONでの亡命生活を送ることとなり、フランス革命の嵐を乗り切るも、
見せもの小屋での女剣士としてのパフォーマンスで糊口をしのぎ、孤独の中、83歳で数奇な人生を終える。

ギエムが歌い、長尺な台詞を語ります。

オスカル様のような、両性具有の存在、シュバリエ・デオン。
クラシックとコンテンポラリーの両方に軸足をおき、ダンスの新しい地平を切り開くギエムの素顔と
性を超えてその知性と剣の技と美しさで時代を暗躍した騎士エオンの共通項がルパ―ジュのイマジネーションを刺激したのでしょう。
扇やキモノのような羽織物を使って女性性の優雅さと、コルセットのような枠組みだけのスカートで檻に入れられた女性の不自由さを表現するとともに、殺陣のような剣さばきを見せたり・・と見どころ満載。



時としてマネキン人形のように、時としてフェンシングの稽古着のように見える、ラインの入ったレオタードで
その謎に満ちた性を検分されるの場面など、ギエムには珍しく、エロティックな香りがあり、これはルパ―ジュの持ち味なのだろうなと思ったり。
アイデア豊富な才人らしく、棒を使って馬を表現したり(背筋を伸ばしてまたがるギエムの上半身だけで乗馬と認識できる)、テーブルの表面の鏡を使って、人物の表情をWで見せたり、演出上のテクニックが時としてあざといほどでありながらも、ギエムの本来持つ、生真面目で硬質な持ち味が響きあって、不思議な調和を見せた舞台でした。

3人の共通項として日本文化に造詣が深いというところから、
巨大な日本人形が登場したり(見返り美人のように上体をひねることでキモノにドレープが入る様が美しい)、ギエムとマリファントで男女の両性を持つエオンの苦悩を2人羽織で見せたり、モチーフとして使われた和の要素がキッチュすれすれのところできちんと必然性を持つエキゾチックなアクセントとなっていて面白い。



プログラムの中で、ルパ―ジュが語る3人のコラボレーションの様子で面白かったのが、
演劇出身でスト―リ―や大道具といった具体性を掘り下げるルパージュと、
コンテンポラリー・ダンス出身で抽象化と本能的な感覚で作品作りをするマリファントの違いと
両者を知るギエムの橋渡し。
さすが才女、そして縦横に手を広げた彼女のダンスシーンについての造詣の深さと豊富な経験が活かされている稽古場を想像し、改めて、舞踏界における彼女の存在の大きさを認識しました。



舞台上の役割も、老境のエオンを演じるルパ―ジュの深みのある表情、マリファントのしなやかで粘りのあるムーブメントの力強い流麗さもさることながら、互いに初挑戦?な、ルパージュのダンス(演劇的で味わい深い)、マリファントの台詞と歌(意外にも?美声)と、表現上もお互いの領域を共有していて、さぞ楽しかったであろう創作の現場を彷彿とさせたことでした^^


照明デザイン: マイケル・ハルス
衣装デザイン:アレクサンダー・マックイーン
サウンド・デザイン: ジャン=セバスティアン・コテ

この3人の仕事も見事。

とりわけ、アレクサンダー・マックイーンの衣装は雄弁で、エオン=ギエムが女装を強いられ、脱がざるをえなくなる士官服風のショートジャケットの装飾とラインの美しさは、それ一枚で、ギエムをリアル・オスカル様(笑)に見せるに足る完成度でした。
今更ながら惜しい才能だったと思います。。。