ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

大同大の西堀教授は名古屋地域の伝統工芸を受け継ぐロボットシステムを開発中です

2011年06月23日 | 汗をかく実務者
 名古屋市南区にある大同大学工学部の西堀賢司教授は、伝統工芸の「鳴海染め」を現在に受け継ぐために、絞り作業をこなすロボットを中核に据えた自動化システムを開発中です。

 江戸時代から現在の名古屋市緑区には「有松・鳴海絞り」という綿などの絞り染めが発達し、明治時代には絞り染めした浴衣などの日本で一番出荷した地域だったそうです。本来の鳴海絞りは布の一部をつまんで尖ったような形状の部分に糸をかたく巻き付けて、染色工程で染料がしみ込まないようにしています。染色作業後に、巻き付けた糸をほぐすと、染まっていない絞り染め模様ができあがる仕掛けです。

 現在、「有松・鳴海絞り」は伝統工芸に指定されています。しかし「現在は絞り作業を担う職人の高年齢化が大きな課題になっている」と、鳴海絞りの家業を受け継ぐ老舗の社長が説明します。職人は70歳代から80歳代が多く、職人を希望する若い方はほとんどいないそうです。

 こうした近くの地域の悩みを解決するために、大同大でロボット開発を研究してきた西堀教授は、伝統工芸である「鳴海絞り」という染め物の絞り作業を小型垂直多関節型ロボットを利用する自動化システムによって代替するメドをつけました。伝統工芸では職人の手作業による一連の絞り作業を、ロボットの上下運動によって樹脂製のキャップを綿などの布に取り付ける作業によって代替する一連のシステムを開発したのです。

 外径が約6ミリメートルの小さなキャップ形状のものの中に、布の一部を押し込み、柔軟性に富んだエラストマー(ゴムとお考えください)製のキャップが中に押し込まれた布を加圧します。この加圧力によって、染色工程で染料がキャップの中に入り込まず、染まらない模様ができます。



 実は、ロボットによって布の一部をキャップ内に押し込む作業が予想以上に難しい作業です。



 円柱状の穴を開けた固定具の中にキャップを配置し、その上に布を置き、布の上から細長い棒形状のニードルを垂直に押し込むことで、キャップ内に布を押し込みます。

 ニードルを上側に引き上げると、ニードルの先に布がキャップに押し込まれた状態で取り出されます。この状態のキャップを、別のサブロボットのハンドがキャップと布の一体品を二ードルから取り外します。



 このサブロボットは西堀教授の研究室の試作品です。2台のロボットが協調作業をすることで、キャップを被せる作業全体を自動化することに成功しています。

 次の課題は、自動化された鳴海絞りをどんな布製品に適用し、優れたデザインを施して、売れる製品をつくりことです。例えば、ネクタイなどを試作しています。開発したロボットによる代替技術を生かす商品開発はなかなかの難問のようです。近所の大学の教員が、地域の悩みを解決する動きはこれからは重要になります。地域のイノベーション創出の課題は数多くなると思います。大学が地域の課題解決に応えられるかが問われています。