新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

「もしトラ」を考える

2024-01-16 07:33:22 | コラム
もしトランプ氏が再選されれば:

これを池上某氏が今年のキーワード(って何の事だろう、チャンとした日本語で言ってくれ)に「もしトラ」を上げたと報じられているようだ。トランプ氏が再び選ばれる危険性はかなり高いと危惧している。もし、そうなったらアメリカはどうなってしまうのか、世界がどう変わるかという大問題かも。

元の同僚などは「もしもそうなったとしても、アメリカの民主主義は生き残る」と悲壮な観測をしていた。既に何度も述べてきた事で「アメリカの知識階級や高等教育を受けた層の人たちの間には、トランプ氏支持者は殆ど見当たらない」のだ。

トランプ氏を支持する人たちというか階層は、彼自身が述べていたように労働者階級(working classと表現していた)等を中心にした企業社会には属していない低所得層に入る人たちである。今やそのような嘗ての少数民族の人たちが、アメリカの3億3千万超の人口の50%に迫っているので、彼らの支持を確保する事が5%にも満たないと推定される知識階級を狙うよりは賢明なのは間違いないところだ。トランプ氏は従来からここに狙いを定めていたようだ。

アメリカの社会がそのように構成されている事を、間接的にではあるが説明している記事をPresident誌の24年2月2日号に発見した。それは63頁の「教育費(年間)はどれだけかかるか?」と題された表である。我が国の大学の場合には国立で授業料等全てを含んで約65万円強、私立の文系で約122万円、私立の理系で160万円となっていた。年収の平均が400万円とか言われている我が国で考えれば、決して少額ではない。

だが、アメリカではどうなっているかと言うと、私の在職中の1990年代でもIvy League等の有名私立大学では授業料(tuitionまたはtuition fee)だけでも5万ドルで寮費その他を合算すると年間に10万ドル(当時の為替で1,000万円)かかると言われていた。因みに、州立大学でも授業料だけで1.5~2万ドルと聞いていたが、これでも年間の学費は5万ドル近くには達するそうだった。

我が事業部でも、副社長兼事業部長と嘗て事業部長の次の地位にいたマネージャーも息子と娘2人をIvy Leagueかそれに準じる私立大学に同時に進学させていた。これだと1990年代でも2年間は2人分で2,000万円の教育費がかかる。彼らはそれを何と言う事もなく負担できているのだ。2人で通算8年間に幾らかかるか試算してみれば解る。参考までに、そういう富裕族でも、ビジネススクールの学費は自己負担にしている場合が多い。

強調しておきたい点は年間で1人当たり10万ドルもかかる私立大学に複数の子弟を送り込める家庭は、一体年間どれ程の収入があるのかという事。即ち、私立大学に4年間とその後の大学院までの6年間も送り込む為には最低でも60万ドルを余裕で出せる収入がある家庭に限定されるのだ。そういう高収入の家がアメリカ全体の10%は占めていないと推定している。

そういう富裕層の中でも優秀な子弟がMBA等を取得して、大手企業の幹部候補生として入社していくのだ。そういう支配階層の者たちに大学等の教授も含めても、今日までに聞いた限りでは、トランプ氏を支持してはいないのだ。だが、彼らはトランプ氏の盤石の支持層である者たちの数と比べれば、比較にもならない程度の極少数派である。故に、トランプ氏は彼らが何を言おうと歯牙にもかけていないようなのだ。

余談であるが、物皆上がるアメリカでは既に一部の有名私立大学の授業料が7万ドルに達していたと聞いている。優れた大学は益々経済的にも「狭き門」と化しているのだ。また、財政破綻してしまったカリフォルニア州では、我が国でも広く知れ渡っている州立のUCLA(カリフォルニア大学・ロサンジェルス校)などは、授業料が私立大学並みに引き上げられたという。なお、州立大学は州の公立である以上、州外からの留学生の授業料は割り増しになる由だ。

高等教育を経済的な事情で受けられなかった人たちが、その不満をいくらかでも気分良く解消してくれるトランプ氏の支持に回ったかどうかまでは知らない。だが、彼らが富裕層とアッパーミドル等に支持される政治家を選んでいないと言えると思って見てきた。私は偶々職責上、労働組合員たちと話し合う機会を何度も得ていたので、嘗てカーラヒルズ大使が指摘された識字率の低さや初等教育すら受けられていなかった者たちがいる事も知り得た。

アメリカという国にはそのような我が国では想像も出来ないような、自国語も満足に理解出来ておらず、字も読めない多くの人たちが生産の現場を担当しているとは考えられないだろう。トランプ氏が当選の為だけに彼らの支持獲得を目指したのか、彼らの待遇を改善しようと目論んだかなどは解らない。だが、アメリカという国の多様な現実を直接に見た事もないままに「もしトラ」などと言うのは如何なものだろう。