アメリカ合衆国の関税(tariffまたはduty)とは:
トランプ次期大統領が「美しい」と絶賛される関税はアメリカには2種類があり、その内容を簡単に説明してみようと思う。
それらは反ダンピング関税(Antidumping duty)と相殺関税(Countervailing duty)に分かれている。因みに、トランプ氏が使われたtariffはやや硬い言葉であり「関税率表」をも意味し、dutyの方が一般的にimport dutyのように「関税」を表す時に使われている。
反ダンピング関税は文字通りに「他国が安値で輸出してくる製品に関税をかけて、自国の産業を保護する目的」で賦課される。相殺関税は「その製品の輸出に際して政府が物品税を免除するとか輸出助成金を交付して援助するような不公正な取引に対して賦課する」関税である。
何れの場合にも、不当な廉売によって損害を被った産業界乃至は企業が、先ず商務省(Department of Commerce, DOC)に事情(窮状?)を訴えて関税の賦課を申請するのだ。そこでDOCが綿密に調査した上で、必要であると判断すれば国際貿易委員会(International Trade Commission, ITC)で審議して決定する。
これは当該産業/企業からの申請に始まる時間を要する複雑な手続きであって、一朝一夕にその国からの不当な安値の輸入品に関税がかけられる性質ではない。言わば例外的に、トランプ前大統領が頻発された大統領令(Executive order)によって課される事もあると理解しておいても良いのかも知れない。だが、それとても、いきなり何の具体的な根拠もなく賦課されるような簡単な手続きではない。
特に、相殺関税のような案件では、その輸出国で実際に免税等々何が行われたのかを慎重に調査する必要があり、簡単に結論を導き出せるとは限らないのだ。関税は私の担当範囲外の事だが、知る限りの前例に「中国がアメリカ向けの印刷用紙の輸出では助成金等の補助をしたと言われ、調査の結果で高率の反ダンピングと相殺関税が科された件」があった。
ここまでで言いたかった事は「トランプ次期大統領が『美しい』と言われたtariffを、中国やその他の国からの輸入品に賦課するのであれば、上述のようなDOCへの申請に始まってITCでの決定という順序を踏まねばならないのである。マスコミはトランプ氏の関税政策を報じるのであれば、この複雑な手続きと共に、大統領令の例外的な発動もあるとまでも解説しておいて欲しかった。
私は未だに「トランプ次期大統領は関税をかける事によって、輸出国がその税金をアメリカ合衆国に納付するという負担がかかると認識しておられるのでは」と疑っている。言うまでもない事で、輸入関税をかければその製品の国内での販売価格は上昇するので、折角下火になりかけたインフレーションが再燃する危機性があり、必ずしも「美しい」とは限らないと思っているのだ。
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