働く過剰 大人のための若者読本NTT出版このアイテムの詳細を見る |
著者である玄田有史氏は、本書末尾で「実のところニートそのものは、若者のなかの数パーセントを占める、ほんの一部の人々が直面する問題にすぎない。しかしながらニートは、自分のやりたいこと探しの迷路にはまり込んでしまっていることや、他人との対人関係を築くことに大きな困難を抱えているなど、それは多くの若者に共通する『生きづらさ』を体現した存在である。」(273ページより)
といううように述べている。
つまり、ニート問題の核心はそこに今を生きる若者の不安な気持ちが濃縮還元されているということである。
つまり、ニートという問題自体は多くの若者にとって実現するようなことではないにしても、その問題を考えることは若者がいかなる状況におかれているかということを考えるときに非常に参考になるということだ。
著者は冒頭において、ニートという問題を論じる前に今若者が於かれている状況として、
市場が創り出した即戦力思考、個性重視、自己実現の幻想、コミュニケーション能力重視、過剰労働などにより翻弄されており、その背後に階層問題も絡んでいるというように指摘している。
以下順を追って、これらの問題を概観していこう。
Ⅰ働く若者に起こっていること より
1章 即戦力という幻想
まず、日本においては、バブル経済の崩壊後、金融不況が起こり、1997年以降雇用情勢が深刻化してきた。そのことにより、それまでは新卒採用に対して企業側は学生に「無地のキャンパス」(6ページ)であることを望んだ。採用後にそれぞれの企業が育ていこうということがあったためだ。それが不況になり、大学を出ても何も学んでいないとはけしからん、即戦力とまではいかないまでも何らかのスキルは身につけておくべきだ。というような考えが出てきた。
このことにより、若者はもとより、大学側は、それぞれの学生において個性的であることを求められるようになりだす。
個のような流れの中で、皆が皆、自己研鑽に励めるわけではない。
このあたりが、著者は、学校から、就職というそれまでのレールに軋みが生じてきたターニングポイントであったと見ているようだ。
そのような流れの中で、「働く人の主体的な能力開発の取り組みを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的とする雇用保険の給付制度」を売り文句とした教育訓練給付制度も始まりだしたり、はたまた成果主義の導入、グローバル競争の激化、それによる長時間労働の激化などが起こりだす。(10ページ参照)
バブル崩壊後の人減らしにより、しわ寄せは、現在30代の若手に及んでいくこととなる。これは、後に述べるニート問題とも絡んでくることだ。
2章:データで見る働く若者の実情
ここでは筆者は、何も今を生きる若者は、価値観が多様化した結果として正社員志向が弱まったり、独立心が強まったりしたわけではなく、むしろその逆が真実だということを調査に基づいたデータを例示し示している。
このことにより、
正社員としての就業の機会は減るが、それを望む若者(a)正社員となれ、それにしがみつこうとする若者(b)しかしながら、過酷な長時間労働により労働市場からあぶれ若年無業者と化す者(c)正社員という立場にありつけず、より安定したいすを求めさまよう若者(d)というような実態を炙り出している。
3章:長時間労働と本当の弊害
ここでは、満足感が一番高い労働時間は、週40~44時間という短めのもので、労働時間が長くなるほど、能力を主体的に開発していく時間がなくなる。そのことが著者は弊害であるというように論じている。
ここでの議論は、前章との関連で見ると、安定はしたいが、あまり長時間労働はしたくないという若者のの意識への実感値と近い解が導き出せるように感じる。
4章:仕事に希望は必要か
(以下ニート、若者の負の縮図②に続く)