【前編】 より続きます
さて、甘口以外の
ベルジュラックワイン を紹介しましょう。
Bergerac Sec 2010 Chateau les Eyssards
(輸入元:株式会社稲葉、参考上代:1,400円)
表示が単なる“Bergerac”なので、
辛口白ワインだとわかります。
ソーヴィニヨン・ブランとセミヨンのブレンドで、ソーヴィニヨンの風味がよく表現された、フレッシュで心地よい酸となめらかで豊かな果実味が楽しめるワインです。
小飼さんのお勧めマリアージュは、
川魚などを使ったテリーヌを軽めのソースで、白身魚やタコ、イカ、天ぷらを塩で、クラゲの中華風酢の物など。
辛口白ワイン には、
モンラヴェル・セック もあります。
ワインの画像を撮り忘れてましたが、
Montravel Sec 2002 Chateau Masburel が試飲に出されました(輸入元:株式会社コートー・コーポレーション、参考上代:2,800円)。
新樽で発酵させ、熟成にも新樽を使っています。香りは甘いですが、飲むと甘くありません。香りには熟成香が現れ、味わいにも熟成による凝縮感があり、濃密です。果実のボリュームがありますが、年数を重ねたまろみがあり、余韻の長いワインです。
小飼さんのお勧めマリアージュは、
エビチリ、酢豚、オイスターソースを使ったとろみのある餡をかけた料理、ホタテなどの海の幸のカレーソース、ニンニクのきいたカエルの足、氷見ブリ、シマアジ、生サバ、子持ち昆布など。
赤ワイン は、以下の2アイテムを比較試飲しました。
Bergerac Rouge 2009 Chateau Cap Blanc (輸入元:合同酒精、同1,200円)
Cotes de Bergerac Rouge 2005 Chateau Lady Masburel (輸入元:ボンヌールジャポン、同2,900円)
ベルジュラックの方は、カベルネ・フラン主体に、メルロとカベルネ・ソーヴィニヨン、
コート・ド・ベルジュラックもカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロのブレンドですが、カベルネ・ソーヴィニヨンが多目のようです。
ベルジュラックは濃いガーネットの色調で、タンニンが若々しく、酸が少々ザラつく感じがあるミディアムタイプ。食事と一緒に気軽に楽しめると思います。
コート・ド・ベルジュラックは黒っぽい濃厚な外観で、アロマも濃密です。タンニンがよく溶け込み、なめらかなテクスチュアが楽しめるフルボディタイプ。
小飼さんのお勧めマリアージュは、
ベルジュラックは、マグレの鴨やガチョウのグリル、しゃぶしゃぶ、焼鳥、燻した鴨肉を使った中華など。このワインは
家庭料理にも向くタイプとのこと。
コート・ド・ベルジュラックは、牛肉や鴨肉にペリゴールのトリュフソースをかけたもの、鉄板焼き、すき焼、レバーの焼鳥をタレで、ウナギの蒲焼の山椒風味、チンジャオロースなどと。
シャラン鴨の胸肉の炭火焼 ―Cotes de Bergerac Rouge 2005 にオススメ
「2005年はベルジュラックの当たり年」 と、小飼さんの談。
たしかに、このCotes de Bergerac Rouge 2005 は、フレーバーが複雑で余韻も長く、素晴らしくいい状態に熟成したワインでした。このレベル&ヴィンテージのワインをボルドーで探すとなると、価格が格段に上がってしまうでしょう。
エントリーレベルのものは1,000円台前半から楽しめ、飲み頃の上級ワインでもアンダー3,000円、甘口ワインも2,000円前後と、
ベルジュラック地域のワインは本当にコストパフォーマンスがいいと思います。
しかも、
辛口白ワインから、ロゼ、赤、甘口白ワインまで揃い、ベルジュラック地域のワインだけで食事の最初から最後まで通せてしまう
多彩さも魅力です。なんたって、この地は
美味なる食材の宝庫ですから、
美食に合わせるベルジュラックワインが素晴らしくないわけがありません。
にもかかわらず、ベルジュラックは控えめで、ボルドーの陰に隠れているのが残念です。
これは、歴史的背景の影響もあるでしょう。
ベルジュラックは2000年にわたるブドウ栽培の歴史がある産地です。古来より、できたワインを船で運ぶため(消費地での販売、輸出)、ワイン産地は川の傍であることが重要でした。
ジロンド川の河口に近いボルドーは、ローマ時代は商業中心地として始まり、13世紀頃になっても、ブドウ畑も一部はあったものの、どちらかというと港町と色が濃かったようです。
中世の時代、アキテーヌ地方がイングランド領になったこともあり(アキテーヌ公国の公女が結婚したアンジュー伯が後にイングランド王になったため)、アキテーヌ盆地のワインがイングランドに送られていましたが、この時、ボルドーの町の人々は、自分たちに有利な特権を行使したのです。
ジロンド川の上流は、ドルドーニュ川とガロンヌ川です。当事、これらの上流でつくられたワイン(ハイ・カントリー・ワイン)はボルドーでつくられたワインよりも品質がよく、強いものでした。ベルジュラックのワインも、ジロンド川の河口までのワイン流通の権利を得、輸出を行なっていました。
この頃のワインは新しいものほど味がよく、好まれ、3カ月を過ぎると劣化が始まり、1年経つと酸化し、価格は半値に下がるか捨てられていました。
そこで、ボルドーが行なったのは、質のよい上流のワインを12月1日までボルドーに持ち込ませないことでした。ボルドー地域以外のワインは12月1日まで一切売ることができず、また、積み替えや貯蔵などにもさまざまな制約があったため、ベルジュラックをはじめ、上流地のワインは、ボルドーの陰に隠れざるを得なかったわけです。
ということは、ベルジュラックワインは、かつてボルドーの人々がその品質の良さに脅威を感じていたワイン、といっていいのかも?
ベルジュラックワイン委員会のアルノー・イスナール氏
上で紹介した Montravel Sec 2002 Chateau Masburel はイスナール氏のワイナリーのものでした。
イスナール氏からの情報としては、以下のものがありました。
・ここ5年ほどの間に、黒品種のプティ・ヴェルドが植え始められ、徐々に増えている
・オーガニック栽培が全体の10%ほどになり、その多くがビオの認証を受けている
湿気が少なく暖かい土地柄なので、ビオに移行しやすい。
認証は受けていないが、ビオに近いつくりのものも増えている。
ベルジュラック というと、私たちが最初に思い浮かべるのは、大きな鼻を持つ
“シラノ・ド・ベルジュラック” の物語でしょうか?
シラノは実在した人物ですが、物語の中で描かれている姿と実際の人物とは少し違っているようです。実在のシラノ・ド・ベルジュラックはパリで生まれ、幼少時にはパリ近郊の祖父の領地で育ちました。その領地の中にベルジュラックという名前の場所がありました。亡くなったのもパリ近郊です。
ドルドーニュ県のベルジュラックとは関係なさそうなのに、ドルドーニュのベルジュラックの町に シラノ・ド・ベルジュラックの銅像があり、観光名所となっています。不思議ですよね?
ベルジュラックからもっと奥に行くと、壁画で有名な
ラスコー洞窟や、プルメイサックの鍾乳洞などがあります。また、ガロ・ロマン時代の村のモザイク、要塞都市だったモンパジェ、ベイナックやモンバジャックのシャトーなどがあり、歴史的遺産の宝庫です。
ベルジュラックの町をはじめ、ベルジュラック地域は古い町が多く、どこかミステリアスで素敵です。
私はまだサン・テミリオンまでしか行ったことがありませんが、ベルジュラックのことを知るにつれ、どんどん惹かれています。ぜひ近いうちにベルジュラックを訪問し、美食とベルジュラックワインのマリアージュを楽しんでみたいものです。
最後に・・・ベルジュラックワインの魅力と、食との素晴らしいマリアージュを教えてくださいました
故・小飼一至さんに、心より感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。