ブルゴーニュのルイ・ジャド社が毎年この時期に開催しているバレルテイスティングが、昨日都内で行なわれましたので、参加してきました。
バレルテイスティングとは、瓶詰される前の樽に入った段階のサンプルをテイスティングすることです。
今回は、昨年11月に選んだ樽から抜いたものだそうです。
同じワインでも樽がいくつかありますが、テイスティングをして選んだひとつの樽から抜いていますので、後日ビン詰めされて発売される商品とは違います。
それでも、この段階でテイスティングをすることで、そのワインの将来の姿を予測することができるというわけです。
今回テイスティングしたのは、ブルゴーニュの2018年ヴィンテージで、サンプルは23ありました。
ルイ・ジャド社アジア担当輸出マネージャー アメリー・サンテュックさん
まずは、アメリーさんが、ブルゴーニュの現状、2018年ヴィンテージ、2019ヴィンテージについて説明してくれました。
現在のブルゴーニュの最大の問題は、地球温暖化です。
元々冷涼な気候で、ブドウが熟すのが難しかったブルゴーニュでは、温暖化の傾向はプラスに働くものでした。
しかし、温暖化は勢いを増し、ゲリラ豪雨、洪水、春の遅霜、雹、酷暑etc...といった異常気象をもたらすようになりました。
2019年は、春の2回の遅霜(4/4と4/14)で、50%が被害を受けました。
本来なら、芽吹き、開花とゆっくり進むはずのブドウの成長ですが、温暖化でブドウの生育サイクルが早まり、芽が吹いて花房が付いたところに霜が降りると、ダメになってしまうのです。
2010年代のブルゴーニュは、気象のせいで収穫量が激減し、価格高騰の原因となっていましたが、久しぶりにまともな量を収穫できたのが2018年でした。
ですが、それが続かず、2019年の収量は、1haあたり35hlと少なく、平年の50%減となってしまいました。
すでに、昨年11月に行なわれたオスピスドボーヌの競売会では、ひと樽平均+22%の価格上昇だったとか。
価格上昇以外にも、アメリカの関税引き上げ問題、イギリスのEU離脱、そして新型コロナウイルスと、課題は山積みだといいます。
ルイ・ジャド社に限っていえば、2019年は過去最高の売り上げを更新し、新しい醸造所が増えて7カ所になったことで、収穫から醸造の過程の適切な分配ができるようになったそうです。
さて、本題の2018年ヴィンテージですが、
冬は雨が多かったものの、4月から8月は日照に恵まれ、開花も良い状態で、ブドウが色づくまでの期間(ヴェレゾン)も長く、非常に良い収穫を迎えることができました。
ただ、南の地区は乾燥に苦しんだところもありました。
というのも、コート・ドールの土壌は石灰質で、水はけが良く、かつ保水性がありますが、南部は花崗岩質土壌であるため、保水性は低く、乾燥に弱いからです。
問題はもうひとつあります。北のシャブリから南のプイイ=フュイッセまで、ほぼ同時に収穫期(8月29日、30日~)を迎えてしまったことです。
ということは、収穫の人手の確保や、醸造所のやりくりが大変だった、ということです。
それをクリアできた生産者は、2018年の恩恵を受けました。
ルイ・ジャド社の場合は、8/31のシャブリから始まり、、16日間で収穫を終えました。
ブドウは健全で、ほぼ選果をしなくてもいいくらいの良い状態だったそうで、白の収穫量は55hl/ha、赤の収穫量は45hl/haだったとのこと。
2018年の白ワインは、マロラティック発酵は40%くらいに抑えて、フレッシュさをキープしました。
成熟感があり、まろやかだけれど緊張感もキープしたワインになったと、アメリーさん。
2018年の赤ワインは、フルーティーで、アロマのパレットが豊かだけれど、フローラル感はやや少なめ。味わいは濃縮して、ジューシーとのこと。
テイスティングで確認してみると…
白はシャブリがとても良い出来だと思いました。
Chablis 1er Cru Montée de Tonnerre 2018 Louis Jadot
果実味と、酸と、ミネラル感のバランスがとてもよく、今から心地よく飲めます。
価格(輸入元希望小売価格:6,600円、税抜)を考えると、これはお買い得だと思います。
アメリーさんも、2018年のシャブリは、厚みがあり、クリーミーで、ミネラル感もある、典型とは違うけれど良いシャブリ、と言っていました。
白ワインの瓶詰は2月以降ということで、まさにこれから瓶詰が始まります。
白ワインでは、サヴィニー・レ・ボーヌ クロ・デ・ゲットと、ボーヌ・プルミエ・クリュ グレーヴ ル・クロ・ブランも良かったです。
サヴィニー~は、ふっくらとした果実味と酸のバランスがよく(同価格:6,000円)、
ボーヌ~は、やさしくしなやかなボディが良かったです(同価格:10,000円)。
コルトン・シャルルマーニュ グラン・クリュは当然素晴らしく、やはり価格だけのことはある(同価格:30,000円)と思いました。
しかし、コスパを考えると、2018年のブルゴーニュの白ワインは、今のところシャブリ地区が私のイチオシです。
白ワインは、ルイ・ジャド社がプイイ・フュイッセに所有する「ドメーヌ J.A. フェレ」もあります。
2018年のプイイ・フュイッセは、過去2番目くらいに暑い年だったそうです。
ただし、雨の降り方は場所によって違い、北は雨が多く、南は花崗岩土壌のため保水されず、水不足になり、そのため、ブドウの育ち方も場所によってかなり違いました。
そこで、18haの畑を3週間かけて丁寧に収穫するという細かい対応を取りました。
(ルイ・ジャド社の畑は200ha以上を16日間で収穫完了)
赤ワインの方は、お手頃価格帯では、サヴィニー・レ・ボーヌ・プルミエ・クリュ ラ・ドミノードが良かったです。果実味がふっくらとして、タンニンに丸みがあり、とても口当たりのいいワインだと思います。価格は6500円。
ルイ・ジャドといったら…の、ボーヌ・プルミエ・クリュ クロ・デ・ズルシュール モノポールも、さすがに良かったです。
ピノ・ノワールらしさをすべて備え、複雑味もあり、今この段階で満足度が高い仕上がりになっています(同価格:12,000円)。
シャンボール・ミュジニー レ・ドラゼ も非常にコスパが良いと思いました(同価格:10,000円)。
繊細な口当たりで、キメ細かく、果実味も酸味もジューシーです。線が細いですが、簡単には折れないしなやかさもありました。
さすが!と唸ったのは、ジュヴレイ・シャンベルタン プルミエ・クリュ クロ・サンジャック。
緻密でカッチリした骨格ですが、キメ細かさ、しなやかさがあるので、ゴツい感じはありません。これはパーフェクト!といいたくなるほど素晴らしい!え?クロ・サンジャックって、プルミエ・クリュでしたっけ?(同価格:28,000円)
ルイ・ジャド社がボージョレ地区に所有する「シャトー・デ・ジャック」の赤ワインもよくできています。
2018年のボージョレは、土壌が花崗岩質だけに、乾燥に悩んだ年となりました。
その中で、モルゴンは少し残る土地柄だそうで、そのために救われたそうです。
収穫は通常は黒ブドウからスタートするところ、2018年は白ブドウから始まり、この逆転はコート・ドールも同様だったとのこと。
イレギュラーな2018年ですが、ボージョレの収穫量は充分あり、濃縮度があり、ジューシーで、こなれやすく、おいしいワインになったとのこと。
実際に試飲してみると、アメリーさんの言った通りでした。
例年ならカッチリしているモルゴン コート・デ・ピィが丸い!果実とタンニンの厚みがあり、タンニンがとてもなめらかな、濃密なワインです。
ムーラン・ナ・ヴァン クロ・ド・ロシュグレの方が、モルゴンよりもカッチリ凝縮していますが、こちらのタンニンも丸く、キメが細かいです。
どちらも丸みを帯び、素晴らしいフルボディに仕上がっています。
輸入元希望小売価格は、どちらも5,000円(税抜)。
2018年のクリュ・ボージョレは、コストパフォーマンス抜群ですね。
ルイ・ジャド1社だけのバレル・テイスティングではありますが、収穫量も充分で、天候の恩恵も受けた2018年のブルゴーニュワインのアウトラインを掴めたのでは、と思っています。
2018年は、早くから楽しめる人懐っこさがあり、格上のワインはさすがの品格を備え、長期熟成もしっかりできそうです。
これはリリースが楽しみです。
2018年のブルゴーニュワインについては、3月に現地で1週間の大試飲会があり、私も取材に行く予定です。
多くのアペラシオンの、多くの生産者の2018年ヴィンテージを試飲できますので、またここでリポートしたいと思っています。
※ルイ・ジャド社 輸入元:日本リカー