このところ、仕事は1日おきぐらいのペースにし、“感性の充電”に励んでいます。昨日(10日)は朝8時32分発のひかりに乗って東京へ。実はこの日、磯自慢の杜氏・多田信男さんが、酒造りを終えて半年ぶりに故郷の岩手県北上に帰る日で、『吟醸王国しずおか』で同行撮影をお願いしていたのですが、多田さんのご親戚が東京の病院に入院され、急遽、そのお見舞いに行かれることになったため、撮影を遠慮したのです。他の仕事も入れていなかったため、一日オフになり、東京国立博物館に国宝薬師寺展を観に行くことに。
朝、新幹線のホームに着いたら、なんと、多田さんとバッタリ。偶然、同じ新幹線の同じ車両で指定を取っていたのです。いやぁ、やっぱり、多田さんとはただならぬ因縁で結ばれちゃったのかなぁと大げさに驚きながらも、東京までの1時間、多田さんと“濃密”な時間を過ごすことが出来ました。ビデオカメラを持っていたら録画したかったお話ばかりで、実に惜しかったです・・・。
午前中、ポレポレ東中野で自主映画制作の旗手といわれる高林陽一監督の『涯てへの旅』を観た後、上野の国立博物館へ。仏像ファンなら知らぬモノはいない、日本が誇る彫像芸術の最高峰である日光・月光菩薩像が、360度の角度で間近に拝見できる初めての機会。先日放送されたTBS系『情熱大陸』で、この菩薩像にどのようなライティングをするのか、国立博物館初のお抱え照明デザイナーが“格闘”する様子を観ただけに、ワクワクしながら会場に入りました。
2像を前にしたとたん、その場から動けなくなりました。完璧な美、という言葉が実在するなら、こういうものを指すのではないかと思えるほど。角度によってさまざまなお顔に見えるのは、ライティングの妙技の成せる業かもしれませんが、1300年前の彫刻家や工人たちの美意識が、多様で複雑な価値観を持つ現代人の心を、かくも深く打つことの不可思議さに言葉もありません。
2年前、雑誌『あかい奈良34号』で、自分が一番好きな東大寺法華堂(三月堂)の日光・月光菩薩のことを「国の至宝である彫像を、天平の香りを残す御堂で自由に拝観できる幸せを思う」と書いたことがあります。草稿で、この文の冒頭に「博物館に展示される仏様とは違い・・・」という一文を付けたところ、監修をしてくださった奈良国立博物館の西山厚先生に、「博物館展示にはそれなりのよさもあるんですよ。明るい照明の下、すぐ目の前で、360度、好きな角度から、じっくり観ることができる。薄暗い御堂の中では気づかない表情やディティールを発見することもできるんです」と指摘され、削除したのでした。今回の薬師寺展は、まったく西山先生のご指摘どおり!でした。
この日は、東京に引っ越したばかりのフォトグラファー多々良栄里さんを誘いました。「仏像を観るのは修学旅行以来」という栄里さんでしたが、「年齢を重ねることでこんなに見方が変わるなんて」と、いたく感激したよう。私よりも時間をかけて見入っていました。
その後、栄里さんと一緒に有楽町イトシアの丸井地下1階の『ヴィノスやまざき』で國香大吟醸を入手し、銀座マツヤの地下食料品売り場でつまみを揃えて、地下鉄有楽町線沿線にある栄里さんの新居へ移動。有楽町のど真ん中で國香が買えるなんて、ホント、幸せな時代になりました!。
以前、東京のあるグルメ雑誌に静岡のブレイクしそうな銘柄を推薦してくれ、と頼まれ、國香と小夜衣を推薦したことがあります。編集部では実際に市販酒を購入し、酒の評論家の先生方に試飲コメントをもらうという趣向でした。小夜衣はその編集部が御用達にする小売店で扱っていなかったため蔵元から取り寄せ、國香はヴィノスやまざきの静岡本店から取り寄せたらしいのですが、評論家から高得点を得て紙面に載ったのは小夜衣だけでした。編集部の人に聞いたところ、國香は酒が老ねていたとか。私は真っ先に、店頭での保管状態が気になり、やまざきに確認しましたが、現場を離れていた山崎社長(当時)には理由が解らずじまい。いずれにしても、私は、國香が正当に評価されなかったことが残念でたまらず、東京の目立つところで、國香が堂々と売られる日を心から待ちわびていたのです。
おそらく搾ってから1年あまり経つ國香大吟醸は、ほのかに口中に広がる上質な吟醸香、きれいでまるい口当たり、ストンときれる後味のさばけのよさ…どれをとっても“完璧な美”と思える酒でした。あまりアルコールが得意ではない栄里さんも「なにこれ、すごい、すっごいうま~い」と目を見張ります。「これこそが、きれいでまるい静岡酵母の酒。よく覚えといて!」と私も興奮してしまいました。
栄里さんは、3年前に藤枝のおばあちゃん劇団ほのおの活動を追ったフォトエッセイ集『ほのお~大石さきと愉快な仲間たち』を上梓しています。県の文化政策関連の審議委員も務め、私の『吟醸王国しずおか』制作に、有益なアドバイスをたくさんしてくれました。栄里さんが10年前、喜久酔の前杜氏・富山初雄さんの最後の酒造りを撮ってくれた写真も、映画の中で日の目を見るチャンスが来そうです。彼女の過去の作品はホームページでも堪能できますのでぜひご一読を。
ほろよい加減で最終のこだまに乗って、帰宅後は風呂にも入らずそのまま寝てしまい、重~い頭と眼で目が醒め、シャワーを浴びなおして朝刊を広げたら、『大自在』に映画制作のことが! しかも静岡酵母開発者である河村傳兵衛先生の「柿酢」の話題と一緒に。・・・なんとも恐れ多いこと、と青くなってしまいました。
その後、おつきあいのある広告会社の社長さんから「よかったねぇ、あのスペースは広告料で言えば150万以上の価値があるんだよ」と激励のお電話。仕掛け人の川村美智さんや取り上げてくださった榛葉隆行さんに「紹介しがいがあった」と思っていただけるよう、頑張るしかない・・・と気を引き締めました。
4月11日静岡新聞朝刊1面『大自在』、未読の方はぜひご覧くださいね!
*吟醸王国しずおか映像製作委員会 会員募集
吟醸王国と謳われる質の高い静岡の酒造りをハイビジョンカメラで映像化し、後世に伝えるプロジェクト。応援してくれる個人・団体を募集しています。会員には、作品完成後、会費に応じた枚数のDVDを進呈。また会費に応じて特典DVD、あるいはご本人出演のオリジナル特典DVDを制作・進呈します。
問合せ・申込みはプロフィール欄の鈴木真弓メールアドレスまでご一報ください。