昨日(24日)夜は、シズオカ文化クラブ定例会で、静岡市葵区鷹匠の歴史散策と、劇団「伽藍博物堂」座長・佐藤剛史さんの一人芝居鑑賞を楽しみました。
鷹匠一帯は、今は、静岡の代官山などと言われているようですが、その昔は、今川氏の人質だった竹千代時代の徳川家康が住んでいた町。旧鷹匠会館あたりにお屋敷があったそうです。
静岡鉄道の線路沿いにある『華陽院』は、家康の母方の祖母・源応院と、家康の娘で7歳で夭折した市姫の墓があります。
源応院は、生母と生き別れ、8歳から19歳まで駿府で人質生活を送った竹千代=家康を親身に養育した人。1560年、桶狭間の戦いの年、家康が19歳で今川義元上洛の先陣を務めて高天神城(現・掛川市大東)にいたときに駿府で亡くなり、訃報を知って嘆き悲しんだ家康は、自分の代わりに三河松の苗木を墓の傍らに植えるように指示したとか。この松は昭和15年の静岡大火で焼枯し、現在の松は昭和23年、徳川家正氏が植え直したものです。
源応院の墓より、市姫の墓のほうが立派なので、取り違えて本に紹介した作家もいたそうです。19歳で今川配下に在った当時の家康が建てられる墓は、この大きさが精一杯だったのでしょう。晩年の大御所時代に建てた市姫の墓が、それよりはるかに立派なのは、まさに家康の立身出世を物語っています。
昨年、映像作品『朝鮮通信使』の撮影で対馬の宗氏の菩提寺を訪ねたとき、家康の意を汲んで日朝外交の修復に努めた宗義智の墓が、他の墓に比べ、思いのほか小さかったのが印象的でした。今の私たちは、歴代宗氏の墓を俯瞰的に眺め、大きいだの小さいだのと勝手なことを言いますが、考えてみれば、墓を建立した当時の宗氏の置かれた立場や、当時の義智への評価がどんなものだったのか、墓の形状から想像できるわけです。歴史というものは、複眼で見なければいけないという鉄則を思い出しました。
東京にある新井白石の墓も、本当に小さく、目立たなくて、ビックリしました。強引な幕政改革を推し進め、道半ばにして失脚した白石に比べ、対馬の外交官として終生活躍したライバル・雨森芳洲の墓はすごく立派でした。
脚本では、当初、白石のことを、悪役のように書いたのですが、仲尾宏先生の助言をもとに史料を読み直し、白石の功績や、朝鮮通信使には詩人として高く評価されていたことを盛り込みました。桜が散りかかった夕暮れ時に撮影した白石の墓の情景は、思いのほか美しく、作品の中でいくつか撮った墓石の中でもひときわ心に残っています。
伽藍博物堂の舞台は、以前から好きでたびたび観に行っていましたが、この日の佐藤剛史さんの時事ネタパフォーマンスは絶品でした。とくに、富士山静岡空港に対抗して“富士山山梨空港”を造ろうとする山梨県の架空の市の市長さんを主人公にした一人芝居は、空港関係者が観たら、笑えないかもしれないブラックジョークのテンコ盛り。でもブラックジョークの対象になること自体、大したもの。空港が、それだけゆるぎない存在になりつつあるということでしょう。
開港を契機に、静岡への観光客誘致を目指して関係業者があれこれ動き出しているようですが、秀吉が壊した日本と朝鮮半島の関係を修復し、韓国では人気の高い徳川家康のことを、静岡は、もっとしっかりアピールすべきだと思います。華陽院のような名跡の存在も、本来であればもっと知られて然るべきでしょう。住宅街にある鉄筋造りの建物で、サインらしいサインもなく、外からはそのような名所旧跡だなんて、まったくうかがい知れません。
先日、静岡伊勢丹で開催された九州物産展で、これも『朝鮮通信使』の撮影で訪れた佐賀県呼子のイカめし業者さんと話が弾んだとき、「せっかく静岡に来たので、家康ゆかりの名所旧跡を回りたいんだけど、案内が少ないですね」と言われてしまいました。
帰宅後、メールをチェックしたら、3月のシズオカ文化クラブ定例会で『朝鮮通信使』を視聴してくださった静岡歴史愛好会の長田和也会長から、静岡市中央公民館「アイセル歴史講座」の6月例会で、『朝鮮通信使』の鑑賞会を開きたいという申し出が。この作品が、市民の中に少しずつでも浸透されることを何より願っていた私としては、最高に嬉しいオファーでした。しかも、歴史に関心のある方々に観ていただき、批評してくださるというのは、作り手の一人としても、大変ありがたいことです。
開催日は6月16日(月)の午後。詳細は後日、改めてお知らせします。
なお、過去ブログでもご紹介したとおり、『朝鮮通信使』の山本起也監督が、06年の作品『ツヒノスミカ』で、スペイン国際ドキュメンタリー最優秀監督賞を受賞し、このほど、凱旋記念上映会が開催されることになりました。
開催日は6月20日(金)。静岡市民文化会館中ホールにて、『ツヒノスミカ』は午前1回、午後1回、夜1回の計3回上映(前売りチケット500円)。『朝鮮通信使』は午後1回、無料上映します。詳細はこちらをご覧ください。
前売りチケットは、私のほうでも手配しますので、ご希望の方は、プロフィールのメールアドレスまでご一報ください。