26(土)~27日(日)は京都。京都通の静岡新聞編集局の平野斗紀子さんと一緒に、26日午前中は宇治の平等院に藤を、午後は、映像作品『朝鮮通信使』のロケでお世話になった高麗美術館の開館20周年記念特別展「愉快なクリム―朝鮮民画」を観に行きました。
平等院の藤は、樹木医塚本こなみさんが育樹指導をされているので、楽しみに行きましたが、満開には今ひとつといった状態。こなみさんが手がけたあしかがフラワーパークの世界一の藤に比べたら、やっぱり物足りないかな…。もちろん、平等院の藤は、藤原家のシンボルとしての存在感があり、国宝の鳳凰堂をバックに風に舞う長い房の一群は、一般の公園や庭園では見られない優雅な姿。この時期、一度は目に焼き付けておきたい風情です。
高麗美術館の特別展「愉快なクリム―朝鮮民画」は、学芸員の片山真理子さんに、昨年の秋口から「静岡市立芹沢銈介美術館の所蔵品もお借りするんですよ」と聞いていたので、待ちに待った展覧会。片山さんの解説記事によると、〈クリム〉とは朝鮮語で絵や図を表す言葉で、〈民画〉とはご承知のとおり、大正末期から昭和初期にかけて柳宗悦らが提唱した民藝運動から生まれた造語。朝鮮国には、日本の狩野派や琳派のような流派はなく、宮廷画員がいわゆる唯一の“正統派”。クリムは、民衆から生まれ、民衆のために描かれた民画で、儒教精神を表した文字デザイン図、門扉に飾った動物の画、先祖を供養するための廟堂図などが発達しました。ほとんどが、名もない絵師が村から村へと移っては生活に必要な絵を描き残し、古くなって破れたものを描き直しては立ち去ったそうです。
柳宗悦の同人だった芹沢銈介は、文房具を描いたクリムを見て「朝鮮画の静物は、思わず体を撃たれる驚きだった。不思議な驚くべき画境である。有難き欣びです」と激賞したとか。今回、静岡の美術館でも観たことがなかった芹沢コレクションのクリムを初めて観て、漢字一文字を絵のように大胆にデフォルメする朝鮮の名もなき絵師たちのセンスに、本当に脱帽!でした。
芹沢コレクションの中に、かすれた書体と、虎、馬、魚、亀の絵を組み合わせたユニークな〈飛白体文字図〉があります。この文字図の画法を体験するワークショップに参加し、実際に平筆を使って、文字のところどころに花や蝶を描く“花文字”で、「福」の字を描いてみました。
指導をしてくださった朝鮮民画の継承者・李青山先生の実技には、最初、20名あまりの参加者も目がテン!状態でした。筆は、素材をあれこれ探して先生が行き着いたというフェルト帽の生地。いったん水を染み込ませ、中央部分だけスポンジで水分を切り、両端に墨汁をつけて描くのですが、筆の持ち方、水や墨汁の染み込ませ方を覚えるだけでいっぱいいっぱい。
それでも、こういう画法があって、漢字をこんなふうに楽しく表現できるなんて、驚きの発見でした。見慣れた「福」の字が、人によってさまざまなカタチに表現され、習字の筆文字で見比べるのとは違う、その人らしい幸福感が伝わってくるようです。
この日、偶然にも、静岡県立美術館学芸員の福士雄也さんが参加されていました。聞けば、来年初春、富士山静岡空港開港記念として県立美術館でも朝鮮美術展を開催する予定で、高麗美術館の所蔵品がいくつか出展されるそうです。クリムのワークショップもぜひやりたい、と、視察に来られたのでした。
昨年の『朝鮮通信使』撮影、今年の芹沢コレクション出展、そして来年は県立美術館への貸し出しと、高麗美術館が3年連続して静岡と縁続きになるなんて、不思議な感動を覚えます。『朝鮮通信使』で描こうとした、民衆と通信使の“誠信の交わり”が、400年経た今、まさに再現されつつある、と実感します。(右写真=右から片山真理子さん、平野斗紀子さん、福士雄也さん、李青山先生、鈴木真弓)
高麗美術館の『愉快なクリム―朝鮮民画』は、5月25日(日)まで開催中。5月17日(土)には焼き物絵付け体験ワークショップ、18日(日)には花文字体験ワークショップがありますので、興味のある方はぜひご参加を! 問合せはこちらまで。