杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

下請の姿勢

2008-04-15 17:52:53 | ニュービジネス協議会

 昨日(14日)は(社)静岡県ニュービジネス協議会の特別セミナーで、中小企業の経営戦略について、東京理科大学大学院教授の松島茂先生の講演を取材しました。

 

 

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 経営学を学んだ方にとっては耳なじみの、トヨタ自動車のサプライヤーシステム。私のような素人には、数百社にも及ぶ下請工場を使いこなし、“カンバンシステム”を確立したトヨタは、合理化経営の鏡に思えましたが、松島先生の史観的なお話をうかがって少しイメージが変わりました。

 先生のお話を要約すると、

 

 

 

 

 

◆GMやフォードから50年遅れて自動車産業に参入したトヨタには、GMやフォードのように、自社内一貫生産システムを築く時間も体力もなかった。

◆フォードは自前で製鉄工場まで持つ巨人企業。しかしトヨタは3万点にも及ぶ自動車部品の多くを外注せざるを得なかった。部品を他社から買うというやり方は、GMやフォードが捨てたやり方だった。

◆当初、トヨタに部品を納入する会社は、自動車部品を作るのは初めてという板金屋、金属プレス屋、サラリーマンなどで、創業者はいずれも20~30代の若者。まともな部品屋じゃないだけに、トヨタは必死に指導し、部品会社を育てた。

◆市場が変化し、多様な車種が求められる時代になり、GM、フォードの自社内一貫生産ではフレキシブルに対応できなくなった。

◆トヨタは異業種メーカーからもゲストエンジニアを積極的に招き、開発段階から他社のノウハウを活用していたので、スピーディーに対応できた。米国車がモデルチェンジに5年かかるところを2年でこなした。

◆知的所有権の権利意識が強く、ノウハウをクローズする企業が多いアメリカに比べ、もともと日本の企業は『知恵を出し合う』『情報を共有する』ことに抵抗は少ない。トヨタが部品A社と新しい部品を開発したら、A社は発売後3ヶ月間はトヨタ専売とし、以降は他の自動車メーカーにも売る。A社の業績が上がれば、その量産効果はトヨタにも還元される、という太っ腹な考え。

◆その代わり、トヨタはつねに他社より先の新しい開発に取り組み続けなければならない。トヨタカローラが大ヒットしたとき、月産1万台を達成するよう命じられた従業員200人の上郷工場で、1年後、目標を達成。本社から「もう1万台作れ、従業員はあと何人必要か?」と聞かれ、「200人」と答えた製造部長は、クビを言い渡されたという。つまり、「同じやり方で留まるな、足踏みするな」がトヨタの考え。

◆「目に見える商品の形状、性能は、いつかは他社に真似され、追いつかれる。目に見えないビジネスのシステムで勝負した」のがトヨタの勝因。

◆それを実現するには、まず、取引先や下請工場とどういう関係性を築くか、どこまで外注にまかせるかを見極めること。トヨタは最初に、パートナーを決めて、しっかりとした関係性を構築する。同じ部品を世界中で価格競争させ、かき集める日産ゴーン社長のやり方とは対照的。

 

 

 

 

 

 部品工場と共存共栄で歩んできたトヨタが、彼らを下請扱いせず、大切なパートナーとして関係性を構築してきたという話は、私自身、下請業務で身を立てているだけに、心に染み入りました。

 

 

 

 

 

  ちょっと自慢話になっちゃいますが、実はこのセミナーが始まる前、数年来、請負ってきたある編集業務の打ち合わせがありました。クライアントは、発注先の印刷会社を今年度から変えることになり、その印刷会社の下請だった私も、本来ならば切られることに。ところが、クライアントから、「鈴木さんの仕事ぶりは余人をもって代えがたい」と言われ、「直接うち(クライアント)と契約してください。そうすればこの先また印刷業者が変わっても鈴木さんに頼めるから」と申し出ていただいたのです。

 こんなケースは初めてだったので、どうしたらいいのか戸惑いましたが、切られた印刷会社の担当者も、電話で「正直いえばタブーなケースですが、先方の強い希望なので、引き続き請けてあげてください」と言ってくれました。

 

 

 

  印刷費は価格競争のターゲットになるし、デザインも真似しようと思えば真似されるでしょう。でもコンテンツの中身は違います。雑誌の編集なら、どうやって情報を集め、テーマを決め、どんな切り口で紹介するかはエディターやライターの資質次第。年月をかけて築き上げた人間関係や情報網が、いざというとき、モノを言うのです。「それをどうやって作ったのですか?」と、そのクライアントから聞かれ、「酒ですよ」と即答した私(苦笑)。

 

 

  世界のトヨタとは比ぶべくもない話ですが、“パートナーを大切に”“足踏みしない”ことをモットーに走り続けるトヨタの姿勢は、私レベルの下請業者でも、大いに刺激になりました。下請を大事にしてくれるクライアントといかに関係性をつなげ、期待に応え続けていけるか、またそういうクライアントと出会えるか否かが、自分のライター生命を左右するともいえるでしょう。