杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

洗いに始まり洗いに終わる

2010-03-11 17:02:14 | 吟醸王国しずおか

 10日は『吟醸王国しずおか』の撮影で、「喜久醉」の蔵元・青島酒造に。この日、大吟醸の最後の上槽があり、搾り終わった後の酒袋を洗う様子を撮影しました。

 

Dsc_0025  酒袋を洗う作業って、わざわざ撮影するほど大事なの?と思われるかもしれませんが、静岡吟醸ではこれがキーポイント。・・・というよりも、口に入れるものを製造するメーカーならば、道具の手入れって基本中の基本ですよね。

 

 

 静岡の吟醸造りは、再三お話しているように、最初の米洗いから、最後の袋洗いまで、すべてにおいて完璧を追求しています。

 軟水をベースとした、軽くてすっきりとした飲み口と、繊細でデリケートな味わいを大切にするだけに、よけいなものをとことん排除する。酒袋も、フツウに洗っただけでは、放っておけば、匂いやクセが染みついてしまいます。フツウの洗い方じゃなくて、袋だって、とことん洗わなきゃならないのです。「洗いに始まり、洗いに終わる」が静岡吟醸の流儀なんですね。

 

 

 袋の洗濯といっても、洗剤や漂白剤は使いません。すすぎが不十分だと、匂いが残ってしまうからです。とにかく水だけで、10日から2週間ぐらい、毎Dsc_0031 日毎日洗う。「袋の底の縫い目を噛んでみて、うちの水の味しかしなくなったらOK」だそうです。

 蔵元杜氏の青島孝さんはこの家で生まれ育ち、我が家の水の味は他の誰よりも解るはずですから、袋が「うちの水」と同じになるまで、とことん洗うわけです。人任せにはできない作業ですね・・・。

 

 

 洗米作業のときも実感しましたが、湧水を、道具の洗浄にも無尽蔵に使えるって、本当に貴重で贅沢なことだなぁと思います。

 

 日本は水に恵まれた国で、全国各地に名水どころが点在し、酒どころは水がいいというのが定説ですが、水質は良くても水量が安定しない、水温に差があるといったところも少なくないようです。

 かつて青島酒造の杜氏を務めていた南部杜氏(岩手県)の富山初雄さんも「こんなに水に恵まれた土地はない」と感心していたのを覚えています。確かに、酒造りでは仕込み、洗米、道具の手入れと、とことん水を使うのですから無理もありません。

 

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 高校卒業後は家を離れ、東京の大学を出てニューヨークで金融の仕事に就いていた青島さんですが、「自分の故郷が、そういう豊かさを誇れるかけがえのない地域だと気付いたからこそ、戻ってきたんです」と語る彼の実感は、なるほど、この豊かな水流を眺めているだけで伝わってくるようです。

 

 

 水の価値や、袋洗いの大切さ。・・・目立たないところにも心を尽くす職人の姿は美しい、と改めて思います。『吟醸王国しずおか』も、そういう姿勢を大事に撮って残したい、と思っています。