杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

地酒とポテチに共通するもの

2010-03-26 11:41:39 | 地酒

 24日(水)はJA静岡経済連情報誌『スマイル』で、遠州夢倶楽部オリジナルの三方原男爵ポテトチップスを取材しました。

 遠州夢倶楽部というのは、Dsc_0013 県西部地区の酒販店40店が「酒屋から脱却して、商店になろう」との意思で集まり、新規商品開発に取り組んでいるネットワークグループ。

 酒販店が酒を見限って、他の商品で勝負するというのは、地酒ファンの身からするとなんとも哀しい話ですが、今、地方の個人酒販店が置かれた経営環境の厳しさを考えたら、「何でもいいから、スーパーや量販店にはない差別化できる商品で、なんとか生き残ってくれ~!」と手放しで応援したいところ。

 

 

 『スマイル』では、今回、じゃがいも特集の一環で、ブランド化されつつある人気の三方原男爵をポテチにして話題を集める夢倶楽部さんの取り組みを紹介することになりました。発起人の鈴代商店さんは、旧細江町にある酒の卸問屋さんで、酒以外にも調味料や加工食品等の品ぞろえに定評があります。

 

 JAの情報誌でポテチの取材に来たのが、酒オタクみたいなライターだったことに、最初は担当者も社長さんも面喰らってましたが、こちらが個人酒販店の状況に理解のある人間だと判ると、取材もスムーズに進み、いいお話がたくさん聞けました。

 

 

 実際に販売店で撮影をお願いしたところ、鈴代の担当者が案内してくれたのDsc_0016 は、酒の会でもよくお会いする『酒のバオオ』さん。

 バオオさんは静岡の酒をしっかり売っている優良地酒専門店ですが、「ポテトチップスやレトルトカレーを目的に来て、あぁ、こんな地酒もあるんだ、って知ってもらえたら、底辺拡大になりますよね」と、食品類の品ぞろえにもちゃんと力を入れています。

 酒が売れないから食品を・・・じゃなくて、食品をきっかけに酒の良さを知ってもらうという努力。これこそプロの酒販店なんだと心強く頼もしく感じました!

 

 

 鈴代の鈴木彰社長は、見た目どおり?の親分的な社長さんで、地域の酒販店と共存共栄していく腹がドン!と据わった方。

 地元Dsc_0005の人は、三方原の男爵いもが、ブランドになるほど人気になっているとはピンと来てなくて、じゃがいもは、近所の農家からタダでおすそわけしてもらうもの、もらいものにしては味はいいなぁと思う程度だったそうですが、酒販店仲間の会合で、いろいろなアイディアを出し合っている中で、はずみで「ポテチでも作るか」ということに。社長自ら、じゃがいも農家を回ってトラックに詰め、ポテトチップス加工の松浦食品(吉田町)まで運んだそうです。

 

 

 三方原男爵の収穫時期は、6~7月の2カ月余り。土壌の良さから、でんぷん質の多い、質の高い男爵いもに育ちます。

 

 ただし加工はむずかしい。というのも、でんぷん質の多いじゃがいもは、フライにすると焦げ目がつきやすくなります。収穫した後、すぐに加工せず貯蔵しておくと、でんぷんが糖に変わり、ますます焦げやすくなる。加えて、デコボコのある男爵は、ツルッとしたメークインの比べて病気になりやすいデリケートさも持っています。

 大手メーカーでは、男爵を高温で茹で上げ、大型連続フライヤーで切って揚げて・・・とオートメーション化しています。高温で火を通すと、芋本来の風味がなくなってしまいますが、表面に焦げ目のない、白くてきれいなチップスに仕上がるそうです。風味がなくなった分はいろ~んな味付けで工夫し、楽しんでもらうというのが、大手の戦略なんですね。

 

 Dsc_0096 一方、鈴木社長が依頼した松浦食品の松浦義広社長は、これがまた、いぶし銀のような職人さん。松浦食品は『芋まつば』や『かりんとう』で有名ですが、ポテトチップスも昭和43年ころから作っています。

 実は我が家では父が榛原地域に出張するたびにお土産に買って帰ってきてくれて、私は小学生のころから、松浦さんの、焦げ目つきのお芋の味がしっかりしたポテトチップスを食べていました。

 

 今回初めて、子どもの頃の憧れポテチ生誕の地を訪ね、松浦社長にお会いできて大感激! ポテチ造りの現場では、想像していたとおり、古くて年季の入った丸釜で、1回ずつ丁寧に揚げていました。

 

 「ポテトチップスの美味しさは、原料の芋で100%決まる」と松浦社長は言いますが、低温で丁寧に茹でて、職人さんが茹であがりをしっかりチェックして、釜まで手運びして、揚がり具合もちゃんと目視して…と、人の目がすみDsc_0089ずみまで行き届いている。…いい原料を活かすには、ちゃんと加工する人の手が貴重なんだと改めて実感しました。

 

 工場内で面白かったのは、このキケンサインの絵。すごい迫力ある絵だなぁ~!と思わず写真をバシバシ撮ってしまいました(笑)。人の手を必要としない、オートメーション化された大Dsc_0053手の工場では目にできない絵なんでしょうねぇ・・・。

 

 

 

 

 

 三方原ポテトチップスは、三方原男爵の収穫時期のみの販売。(この、限定販売というのが却ってイイみたいですね)。最初は、1袋300円以上するポテチが売れるかどうか不安だったそうですが、夢倶楽部会員店では1店舗当たり、想定外の売上を続々記録し、限定販売の話題性も手伝って、6~7月のシーズンは売れ切れ続出。「作れば売れるのはわかっているが、いもを無理に長期保存して三方原男爵の持ち味を無くしてまで作るのはナンセンス」との考えで、収穫時期限定にこだわっているそうです。

 「いかに売り上げを伸ばすか、ではなく、いかにうまいポテチを作るか、がテーマです」と、鈴木社長も松浦社長もきっぱり明言します。・・・なんだか静岡の心ある蔵元さんと話をしているみたいで、清々しい気持ちになりました。

 

 ちなみに、それ以外の時期は、国産じゃがいもを使った浜名湖ののり塩チップスがお目見えします。24日に写真撮影したのも、三方原男爵ではなくて、国産の男爵いもを使った浜名湖のりしおチップスの製造現場でした。

 

 遠州夢倶楽部のポテトチップスの販売は、夢倶楽部加盟店の限定ですが、地元のこだわり食材が充実する静岡伊勢丹、スーパーあおきにも置いてあります。松浦食品の工場直営店なら年中無休で買えますので、ぜひチェックしてみてください!